説明

ポリアミドイミド樹脂ワニス及び絶縁電線

【課題】絶縁皮膜に対する従来の要請を満たすとともに、耐加工性、特に耐プレス加工性に優れ、近年の要請にも対応可能な絶縁皮膜を形成することができるポリアミドイミド樹脂ワニス、及び、前記ポリアミドイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有し、近年の要請にも対応可能な耐プレス加工性を有する絶縁電線を提供する。
【解決手段】ジイソシアネート成分と酸成分との縮合物を含有するポリアミドイミド樹脂ワニスであって、前記酸成分が、下記一般式(1)
【化1】


[但し、n=2〜4]
で表される化合物を5〜50モル%含むことを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニス、及び、前記ポリアミドイミド樹脂ワニスを、塗布、焼き付けして形成された絶縁層を有する絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の絶縁皮膜の形成に用いられるポリアミドイミド樹脂ワニス、及びこのポリアミドイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電気機器に用いられる絶縁電線において、導体(導線)を被覆する絶縁皮膜には、優れた絶縁性、導体に対する優れた密着性、高い耐熱性等が求められる。又、各種電気機器の高出力化、小型化や省電力化への要請に伴い、絶縁電線に対するより高度な加工が求められており、より高度の耐加工性や機械的強度が求められるようになっている。
【0003】
そこで、絶縁皮膜を形成する樹脂として、前記の要請を満たすための樹脂が種々提案されており、又、絶縁皮膜を多層構造として、種々の要請を同時に満たす方法も検討されている。例えば、特開平7−73743号公報(特許文献1)、特開平7−73744号公報(特許文献2)、特開平7−73745号公報(特許文献3)には、下層及び/又は上層が、下記一般式(2):
【0004】
【化1】

〔式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。m、nは、同一又は異なって、1〜4の数を示す。〕で表される芳香族ジイソシアネート化合物を含有するジイソシアネート成分と、酸成分とを原料とするポリアミドイミド系塗料の、塗布、焼付けにより形成されている3層構造の絶縁皮膜が開示されており、この下層及び/又は上層と、耐加工性に優れた樹脂の層との組合せにより、密着性及び耐加工性に優れる絶縁皮膜を得ることができる。
【特許文献1】特開平7−73743号公報
【特許文献2】特開平7−73744号公報
【特許文献3】特開平7−73745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし近年、絶縁皮膜の耐加工性に対する要請はさらに高度なものとなり、例えば、モーターの出力を向上するために、絶縁電線をコア上に強引に詰め込むような巻回がされるようになり、絶縁電線をプレスして変形した場合でも優れた絶縁性を保つことができるとの性質(以下、耐プレス加工性と言う。)が従来にも増して求められるようになった。しかし、従来の絶縁皮膜では充分にこの要請を満たすことは困難であり、そこで、耐加工性や機械的強度、特に耐プレス加工性がより優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、絶縁皮膜に対する従来の要請を満たすとともに、耐加工性、特に耐プレス加工性に優れ、近年の要請にも対応可能な絶縁皮膜を形成することができるポリアミドイミド樹脂ワニスを提供することをその課題とする。また、本発明は、前記ポリアミドイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有し、近年の要請にも対応可能な耐プレス加工性を有する絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ジイソシアネート成分と酸成分との縮合物を含有するポリアミドイミド樹脂ワニスであって、前記酸成分が、下記一般式(1)
【0008】
【化2】

[但し、n=2〜4]
で表される化合物を含むことを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニスを、塗布、焼き付けすることにより、耐プレス加工性に優れた絶縁皮膜が形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、その請求項1として、
ジイソシアネート成分と酸成分との縮合物を含有するポリアミドイミド樹脂ワニスであって、前記酸成分が、前記式(1)で表される化合物を5〜50モル%含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニスを提供する。
【0010】
前記酸成分は、カルボキシル基を3個有する多価カルボン酸又はその無水物を主体とするものである。その具体例としては、トリメリット酸(ETM)、トリメリット酸無水物(TMA)、トリメリット酸クロライド(TMAC)、又は、トリメリット酸の誘導体である三塩基酸等を挙げることができる。その中でも、入手のしやすさやコスト等の点で、下記式(3)で表されるトリメリット酸無水物(TMA)が、好適に使用される。
【0011】
【化3】

【0012】
酸成分中には、テトラカルボン酸無水物や二塩基酸、例えば、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、テレフタル酸、イソフタル酸、スルホテレフタル酸、ジクエン酸、2,5−チオフェンジカルボン酸、4,5−フェナントレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、フタルジイミドジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、アジピン酸等を、一部添加することもできる。
【0013】
本願発明は、この酸成分が、前記式(1)で表される化合物を、5〜50モル%含有することを特徴とする。前記式(1)で表される化合物の内でも、トリメリット酸エチレングリコール縮合物(以下TMEGと言う。)[式(1)において、n=2の化合物]が、入手のしやすさ等の点より好適に使用される(請求項2)。
【0014】
酸成分中の、前記式(1)で表される化合物の含有量が5モル%未満であると、絶縁破壊電圧の高い皮膜を得ることができず、充分な耐プレス加工性が得られない。一方、50モル%を超えると、絶縁皮膜としての耐熱性が不十分になり、充分な耐軟化温度を保持できない。
【0015】
好ましくは、前記式(1)で表される化合物の含有量は、酸成分中の10〜30モル%である(請求項3)。含有量をこの範囲とすることにより、機械的強度に優れ、充分な耐軟化温度を有するとともに、特に、絶縁破壊電圧が高く、優れた耐プレス加工性を有する絶縁皮膜を形成するポリアミドイミド樹脂ワニスが得られる。
【0016】
ジイソシアネート成分としては、例えば、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート等を挙げることができ、
又、前記式(2)で表される芳香族ジイソシアネート化合物、具体的には、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等を挙げることができる。これらは単独で、あるいは2種以上混合して使用される。その中でも、入手のしやすさやコスト等の点で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(以下、「MDI」という)が、好適に使用される。
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスは、略化学量論量の前記ジイソシアネート成分と前記酸成分とを、適当な有機溶媒中で縮合させることにより得ることができる。縮合反応の条件は、従来のポリアミドイミド系塗料の製造の場合と同様の条件を採用できる。
【0018】
より詳細には、ジイソシアネート成分を、略等モル量の酸成分とともに、適当な有機溶媒中で0〜180℃の温度で、1〜24時間反応させると、ジイソシアネート成分と酸成分との縮合物であるポリアミドイミドが、有機溶媒中に溶解又は分散したポリアミドイミド樹脂ワニスを得ることができる。この有機溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、クレゾール、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0019】
得られたポリアミドイミド樹脂ワニスには、必要に応じて、顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0020】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスを、絶縁電線を構成する導体上(導体上に形成された他の樹脂層上も含む)に塗布し、焼き付けすることにより、耐プレス加工性に優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線を得ることができる。本発明は、この絶縁電線も提供する。即ち、導体と、導体を被覆する絶縁皮膜よりなる絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスを、塗布、焼き付けして形成した絶縁層を有することを特徴とする絶縁電線である(請求項4)。
【0021】
塗布、焼付けの条件は、通常のポリアミドイミド樹脂ワニスを導体上に塗布、焼付けして絶縁層を形成する場合の条件と同様である。絶縁皮膜の厚さは、絶縁電線に求められる物性の程度や、導体の径等を考慮して決定される。
【0022】
導体としては、銅や銅合金の線がその代表例として挙げられるが、銀等の他の金属の線も導体に含まれる。導体の径やその断面形状は特に限定されない。
【0023】
本願発明の絶縁電線の絶縁皮膜は、本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスを、塗布、焼き付けして形成した絶縁層のみからなるもの(単層コート)でもよいが、この絶縁層とともに、この絶縁層の上層及び/又は下層として他の樹脂層を有していてもよい。例えば、この絶縁層と導体との間、即ち最内層(下地層、以下、この下地層を第1層といい、前記のポリアミドイミド樹脂ワニスより形成される絶縁層を第2層という。)に、高密着層を有し、2層コートの絶縁電線とすることにより、優れた密着性を有する絶縁皮膜を得ることができる(請求項5)。又、前記式(2)で表される芳香族ジイソシアネート化合物をその10〜80モル%含有するジイソシアネート成分と、酸性分との縮合物であるポリアミドイミドの樹脂膜からなる下地層を形成した2層コートの絶縁皮膜は、優れた耐プレス加工性とともに優れた密着性を有するので好ましい。
【0024】
ここで用いられる式(2)で表される芳香族ジイソシアネート化合物としては、入手のしやすさやコスト等の点で、下記式(4)で表される3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート(以下、「TODI」と言う。)が、好適に使用される。
【0025】
【化4】

【0026】
又、第1層を形成させる前記のポリアミドイミドは、前記本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスの場合と同じ方法で得ることができる。係る2層コートの絶縁電線は、まず、第1層を形成するポリアミドイミドを塗布、焼き付けした後、第1層の上に、前記本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けすることにより得ることができる。
【0027】
又、絶縁皮膜の最外層(以下、第3層という)に、絶縁皮膜の表面に潤滑性を付与するための表面潤滑層を設けてもよい。例えば、前記の2層コートの絶縁電線の表面に、第3層として表面潤滑層を設けて3層コートの絶縁電線としてもよい(請求項6)。表面潤滑層としては、流動パラフィン、固形パラフィンといったパラフィン類の塗膜も使用できるが、耐久性等を考慮すると、カルナバワックス、ミツロウ、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の各種ワックス、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の潤滑剤をバインダー樹脂で結着した表面潤滑層がより好ましい。
【0028】
又、必要に応じて第2層の外側に難燃層等を適宜設けてもよい。絶縁皮膜の最外層を構成する絶縁層(第3層)が、難燃層であるとともに、潤滑剤を含有し、表面潤滑層を兼ねることも可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスは、耐加工性、特に耐プレス加工性に優れた絶縁皮膜を形成することができる。従って、例えばモーターのコイルに使用する場合、絶縁電線をコア上に強引に詰め込むような巻回がされた場合でも、絶縁性の低下等が生じ難い。従って、より小型、軽量で性能の良いモーターの製造を可能とし、近年の要請にも対応可能な絶縁電線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき、実施例により説明するが、本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
〈TMEG含有ポリアミドイミド樹脂ワニスの合成〉
【0031】
(合成例1)
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けた四つ口フラスコ中に、NMP(N−メチル−2−ピロリドン溶媒、三菱化学(株)製)438.24gを仕込み、さらに、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA(トリメリット酸無水物、三菱瓦斯化学(株)製)106.46g、ETM(トリメリット酸、三菱瓦斯化学(株)製)3.60g、TMEG12.34g、MDI(メチレンジイソシネート、三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートPH)150.50gを仕込み、撹拌しながら80℃で反応を開始した。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.922:0.029:0.05:1.000あり、(TMA+ETM):TMEG=0.95:0.05となる。反応開始後、約4時間かけて徐々に系の温度を150℃まで昇温した。その後、150℃を保ってさらに反応させて、所定の粘度(3000〜5000cps)に達したら、室温まで冷却する。その後、NMP153.98gとキシレン(大伸化学(株)製)187.82gとの混合溶媒で希釈して、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニス(ポリアミドイミド系塗料)を得た。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−05とする。
【0032】
(合成例2)
原料の使用量をそれぞれ、TMA96.12g、ETM3.25g、TMEG26.45g、MDI145.21gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.776:0.024:0.10:0.90であり、(TMA+ETM):TMEG=0.89:0.11となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−10とする。
【0033】
(合成例3)
原料の使用量をそれぞれ、TMA89.91g、ETM3.04g、TMEG34.93g、MDI142.04gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.825:0.026:0.15:1.00であり、(TMA+ETM):TMEG=0.85:0.15となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−15とする。
【0034】
(合成例4)
原料の使用量をそれぞれ、TMA82.31g、ETM2.78g、TMEG45.30g、MDI138.16gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.776:0.024:0.20:1.00であり、(TMA+ETM):TMEG=0.80:0.20となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−20とする。
【0035】
(合成例5)
原料の使用量をそれぞれ、TMA68.29g、ETM2.31g、TMEG64.44g、MDI131.01gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.679:0.021:0.30:1.00であり、(TMA+ETM):TMEG=0.70:0.30となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−30とする。
【0036】
(合成例6)
原料の使用量をそれぞれ、TMA55.65g、ETM1.88g、TMEG81.68g、MDI124.56gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.582:0.018:0.40:1.00であり、(TMA+ETM):TMEG=0.60:0.40となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−40とする。
【0037】
(合成例7)
原料の使用量をそれぞれ、TMA44.20g、ETM1.50g、TMEG97.31g、MDI118.71gとしたこと以外は合成例1と同様にして、不揮発分23%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このときの、各材料の当量比は、TMA:ETM:TMEG:MDI=0.485:0.015:0.50:1.00であり、(TMA+ETM):TMEG=0.50:0.50となる。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−50とする。
【0038】
(合成例8)(従来汎用のポリアミドイミド樹脂ワニス)
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA108.6g、MDI141.5gを投入した。次いで、NMP637.0gを入れ、撹拌器で撹拌しながら80℃で3時間加熱した。さらに、約3時間かけて系の温度を140℃まで昇温した後、140℃で1時間加熱した。1時間経過した段階で加熱を止め、放冷して、不揮発分25%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−Aとする。
【0039】
(合成例9)(高伸びポリアミドイミド樹脂ワニス)
原料の使用量をそれぞれ、TMA97.7g、BTDA(3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、デグサ製)16.6g、MDI41.5gとしたこと以外は合成例8と同様にして、不揮発分25%のポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−Bとする。
【0040】
(合成例10)(高密着ポリアミドイミド樹脂ワニス)
原料の使用量をそれぞれ、TMA108.6g、TODI29.9g(TODIの全イソシアネート中に占める割合:20モル%)、MDI113.1gとしたこと以外は合成例8と同様にして、ポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。このポリアミドイミド樹脂ワニスを、以下PAI−Cとする。
【実施例】
【0041】
〈単層コート絶縁電線の作製〉
直径1.0mmの銅線表面に、表1及び表2の皮膜種の欄に示すポリアミドイミド樹脂ワニスを常法によって塗布、焼付けして、単層コート絶縁電線を得た。得られた各絶縁電線の寸法(仕上直径、導体直径、皮膜厚さ)を、表1及び表2に示す。
【0042】
得られた各絶縁電線について、以下の各試験を行った。
【0043】
(鞘抜け引張試験)
絶縁電線から銅線をエッチングにより除去し、残った絶縁皮膜(長さ6cm)を、引張試験機を用いて、所定の条件(チャック間隔2cm、引張速度10mm/分)で引張試験を行い、下記の項目につき測定した(n=5)。測定結果を、表1及び表2に示す。
破断伸び : 破断時の皮膜の伸び。
抗張力 : 破断時の(引っ張り加重)/(皮膜断面積)。
引張弾性率 : 引張試験時のS−Sカーブ
(引っ張り荷重vs.伸びのグラフにおける曲線)の最大傾き。
破断エネルギー: S−Sカーブが描く図形の面積。
【0044】
(耐軟化温度の測定)
作製した絶縁電線の2本を互いに直交するように重ね合わせ、その交点に所定の荷重(0.8kg)をかけた状態で昇温し、2本の絶縁電線が短絡したときの温度を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0045】
耐プレス加工性を示すために、以下に示す絶縁破壊電圧BDV、及びGBDVを測定した。
(絶縁破壊電圧BDVの測定)
作製した絶縁電線を、プレス機((株)東洋精機製作所製)により、所定のプレス圧下率でプレスして、プレス電線を得た。プレス圧下率は、プレス後の電線の径(導体+絶縁皮膜)をM、プレス前の電線の径をNとしたとき、((N−M)/N)×100で求められる。
【0046】
その後、絶縁電線のプレス部分にアルミ箔約50mmを巻き付け、JIS C3003 11に準拠して、アルミ箔と導体間に電圧を印加し、電圧を徐々に上昇させて、絶縁破壊が起こる電圧BDV(絶縁破壊電圧)を測定し、10個のサンプルの数値を平均して絶縁破壊電圧を求めた。測定結果を、残率(プレス圧下率0%のときのBDVに対する比率)と併せて表1及び表2に示す。
【0047】
(2個撚り線プレス後絶縁破壊電圧GBDVの測定)
作製した絶縁電線により二個撚り線を作製(120mmの長さで、18個の撚り数)し、所定のプレス圧下率となるように、撚り線部をプレスする。このとき、前記M、Nは、撚り線としての厚さである。
【0048】
その後、2個撚り線サンプルの撚った部分を、グリセリン:飽和食塩水=17:3の混合溶液に浸し、2個撚り線サンプルの一端と溶液との間に交流電力を印加する。電圧を1V/secの速さで上げていき、絶縁破壊が起こり、短絡したときの電圧GBDVを測定し、10個のサンプルの数値を平均して絶縁破壊電圧を求めた。測定結果を、残率(プレス圧下率0%のときのGBDVに対する比率)と併せて表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1、2に示すように、TMEG含有量が、10〜30モル%の範囲で、BDV、GBDVが高く、耐プレス加工性に優れることが分かる。一方、耐軟化性温度は、TMEG含有量の増加と共に低くなり、耐熱性が低下する傾向があるが、TMEG含有量が30モル%以下の範囲では、充分実用的な耐軟化性温度が得られている。従って、TMEG含有量が10〜30モル%の範囲で、耐プレス加工性と耐軟化性温度のバランスがとれたより好ましい絶縁皮膜が得られることが分かる。
【0052】
〈3層コート絶縁電線の作製〉
直径1.0mmの銅線(導体)表面に、表3の皮膜種の第1層に示すポリアミドイミド樹脂ワニスを常法によって塗布、焼付けして、表3に示す膜厚の第1層を形成した。その上に、表3の皮膜種の第2層に示すポリアミドイミド樹脂ワニスを常法によって塗布、焼付けして、表3に示す膜厚の第2層を形成した。さらに場合により、表3の皮膜種の第3層に示すポリアミドイミド樹脂ワニスを常法によって塗布、焼付けして、表3に示す膜厚の第3層を形成し、3層コートの絶縁電線を得た。なお、表3において、PAI−Dは、PAI−Aにポリエチレンワックス1.5重量%を添加したポリアミドイミド樹脂ワニスである。得られた各絶縁電線の仕上直径、導体直径、及び絶縁皮膜の厚さを、表3に併せて示す。
【0053】
得られた各絶縁電線について、同様に、鞘抜け引張試験、耐軟化温度の測定、平均絶縁破壊電圧の測定を行った。測定結果を、表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
TMEG含有量が、10〜50モル%の範囲で、BDV、GBDVが高く、耐プレス加工性に優れることが分かる。一方、耐軟化性温度は、TMEG含有量の増加と共に低くなり、耐熱性が低下する傾向があるが、TMEG含有量が50モル%以下の範囲では、充分実用的な耐軟化性温度が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイソシアネート成分と酸成分との縮合物を含有するポリアミドイミド樹脂ワニスであって、前記酸成分が、下記一般式(1)
【化1】


[但し、n=2〜4]
で表される化合物を5〜50モル%含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂ワニス。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、トリメリット酸エチレングリコール縮合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂ワニス。
【請求項3】
前記酸成分が、前記式(1)で表される化合物を、10〜30モル%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリアミドイミド樹脂ワニス。
【請求項4】
導体と、前記導体を被覆する絶縁皮膜よりなる絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂ワニスを、塗布、焼き付けして形成した絶縁層を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁被膜が、その最内層に高密着層を有することを特徴とする請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記絶縁皮膜が、その最外層に、表面潤滑層を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2008−234866(P2008−234866A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68871(P2007−68871)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】