説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】機械物性や低反り性に加え、ウェルド特性が改良され、さらに成形時のバリ抑制効果を高めたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂30〜80質量部、およびBET比表面積が0.1mm/g以上であり長径/短径の比が1.5〜10である偏平ガラス繊維20〜70質量部の合計100質量部に対し、1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物0.05〜4.0質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性が高く、ウェルド強度に優れるポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の事務機・電子機器の小型化にともない、ハウジング、シャーシの薄肉化が進んでいる。従来から、樹脂組成物の物性の向上のためには、ガラス繊維を配合し補強することが行われてきた。しかしながらガラス繊維は樹脂の流れ方向に配向する性質があり、得られる成形体の強度、寸法変化に異方性が生じ反りの原因になっていた。これを改善するために、タルクやマイカ等の板状のフィラーを配合し、異方性を緩和するという方法がある。このような方法によると、反りを抑制することはできるが引張強度、曲げ弾性率の低下を起こし問題があった。
【0003】
特許文献1、2には、得られる成形体の引張強度、曲げ弾性率を向上させ、反り低減効果の高いポリアミド樹脂組成物の開示がある。このような組成物においては、用いるガラス繊維として偏平断面を有するガラス繊維を含有させ、従来の引張強度、曲げ弾性率を維持しながら反り抑制効果を高めているが、特に薄肉成形体において、ウェルド特性が低下し実用上問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−219026号公報
【特許文献2】特開2007−302866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、引張強度、曲げ弾性率や低反り性に加え、ウェルド特性が改良され、さらに成形時のバリ抑制効果を高めたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、偏平断面を有するガラス繊維を含有するポリアミド樹脂に特定の有機化合物を配合することにより前記課題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0008】
(1) ポリアミド樹脂30〜80質量部、およびBET比表面積が0.1mm/g以上であり長径/短径の比が1.5〜10である偏平ガラス繊維20〜70質量部の合計100質量部に対し、1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物0.05〜4.0質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物。
(2) 1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物が、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、スチレン/無水マレイン酸共重合体から選ばれる1種以上の有機化合物であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3) ポリアミド樹脂がナイロン6、ナイロン66、ナイロン11から選ばれる1種以上のポリアミドであることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物。
(4) 偏平ガラス繊維が、ひょうたん型、まゆ型、長円形、楕円型、矩型のいずれかの異形断面形状を有する偏平ガラス繊維であることを特徴とする(1)〜(3)のポリアミド樹脂組成物。
(5) 偏平ガラス繊維が、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤から選ばれる1種以上のカップリング剤で表面処理された偏平ガラス繊維であることを特徴とする(1)〜(4)のポリアミド樹脂組成物。
(6) (1)〜(5)のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張強度、曲げ弾性率や低反り性に加え、ウェルド特性が改良され、さらに成形時のバリ抑制効果を高めたポリアミド樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリアミド樹脂とは主鎖中にアミド結合を有する重合体であり、例えば、ポリε-カプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリドデカナミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体、あるいは、これらの混合物などである。好ましいポリアミド樹脂はナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12,ナイロン6Tが挙げられ、最も好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11である。
【0011】
本発明で用いるポリアミド樹脂の分子量(相対粘度)は、ウベローデ型粘度計を使用し、96質量%硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が1.5〜4.0であることが好ましく、1.8〜3.5であることがさらに好ましい。相対粘度が1.8〜3.5であると、適度な樹脂の流動を確保でき、また、金型への樹脂の転写が優れ、外観の良化した成形品が得られる。相対粘度が1.5未満のものは成形品の機械物性に劣る傾向にある。相対粘度が大きくなればなるほど、流動性が悪くなり、金型内に樹脂が充満するまでの時間が長くなる、また金型転写性が低下する等の問題が生じ、さらには成形品の優れた外観が得られにくくなる。相対粘度が4.0を越える場合、成形性が著しく低下する傾向にある。
【0012】
本発明で用いる偏平ガラス繊維は、定容法を用いて窒素吸着により測定されるBET比表面積が0.1mm/g以上であることが必要であり、0.125mm/g以上であることが好ましく、0.15mm/g以上であることがより好ましい。0.1mm/g未満であると機械的強度、難燃性が不足する傾向がある。また、得られる成形体が薄肉の成形体である場合、顕著に反りが発生する傾向がある。実使用においては、成形体が雰囲気中の水分を吸収し、さらに反りの程度は悪いものとなる。偏平ガラス繊維の断面形状としては、長円型、楕円型、長方形、矩形またはこれらの類似形などで、中心点を通過する最大長で定義される長径、中心点を通過する最小長で定義される短径を有する形状であれば特にそれらの形状に限定されるものではない。
【0013】
偏平ガラス繊維の長径/短径の比が1.5〜10、好ましくは2.0〜6.0のものが使用される。このような長径/短径の比である偏平ガラス繊維を用いることで、ガラス繊維を含有するポリアミド樹脂組成物に特有の反りを低減することができる。長径/短径比が1.5未満であると機械的強度の向上効果が乏しく、長径/短径比が10を超えるものはガラス繊維自体の製造が困難である。
【0014】
偏平ガラス繊維は、平均長さは1〜15mm、好ましくは2〜10mmであることが好ましい。ここで平均長さとは、偏平ガラス繊維を顕微鏡観察し、マイクロスケールを基準として測定した20個の平均をいう。繊維の平均長さが、15mmより長いと樹脂成形時に樹脂の流動が悪くなり、作業性が悪くなり、また、1mmより短いと十分な機械的強度を確保できなくなる。
【0015】
偏平ガラス繊維は公知の方法で製造されるものでよく、Eガラスのような一般的な組成の繊維が用いられるが、繊維状にできるものであればどのような組成でも使用可能で特に限定されるものではない。また、ガラス繊維は、長繊維タイプのロービング、短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバー等から選択して用いることができる。ガラス繊維はエポキシ、アミノシラン等のシランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。
【0016】
ガラス繊維としては偏平ガラス繊維のほかに、偏平ガラス繊維による、機械的強度、難燃性の向上、反りの低減効果を損ねない範囲で、断面が丸型のガラス繊維を併用してもよい。
【0017】
ポリアミド樹脂と偏平ガラス繊維の配合は、ポリアミド樹脂/偏平ガラス繊維=30/70〜80/20(質量比)であることが必要であり、好ましくは35/65〜75/25(質量比)、より好ましくは40/60〜70/30(質量比)である。偏平ガラス繊維の配合が20質量%未満であると得られる成形体の反りが大きくなる傾向があり、70質量%を超えると流動特性が悪くなり、溶融混練時のストランドの引取りができなくなり、ポリアミド樹脂組成物の製造が困難である。
【0018】
1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物(以下、「特定有機化合物」ということがある)としては、トリメチロールプロパン(モノ、ジ、トリ)グリシジルエーテル、好ましくはトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、例えばトリメチロルプロパン(ジまたはトリ)グリシジルエーテル、より好ましくはトリメチロールプロパン(トリ)グリシジルエーテル、あるいはポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル化合物、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルシアヌレートのようなエポキシ基を有する化合物、スチレン/無水マレイン酸共重合体のような酸無水物基をペンダントとしてもつ化合物が好適に利用できる。
【0019】
特定有機化合物の配合は、ポリアミド樹脂と偏平ガラス繊維の合計100質量部に対して、0.05〜4.0質量部であることが必要であり、好ましくは0.1〜3.0質量部であり、より好ましくは0.15〜3.5質量部である。特定有機化合物の配合が0.05質量部未満であるとポリアミド樹脂組成物のウェルド特性の向上が不十分となる傾向があり、4.0質量部を超えるとポリアミド樹脂組成物の流動性が低下し、成形加工性が悪化し、機械物性を低下させる傾向があるため好ましくない。
【0020】
ここで、ウェルドとは、特に樹脂を射出成形する際の特有な現象であり、金型内で溶融樹脂の流れが合流して融着した部分に細い線が発生する不良である。成形品に中空部などを形成するために、金型にピンやコアなどを設けると、その部分を溶融樹脂が回り込んだ後に再び合流してウェルドラインが発生しやすい。また、ゲートを2個以上設ける必要がある場合には,ウェルドラインの発生は避けられない。
【0021】
このウェルドは、融着不良によって、外観を損なったり、機械的特性が著しく低下するなどの恐れがある。これらの不良を改善するには、(1)溶融樹脂および金型温度を高くする、(2)射出圧力および射出速度を上げる、ゲートの位置、数、大きさなどを変える、などの工夫が必要である。
【0022】
比表面積0.1mm/g以上の偏平ガラス繊維を用いることは、通常、ポリアミド樹脂との溶融混練で用いるような比表面積0.1mm/g未満のガラス繊維に比べ、成形時の流動性が低下し、射出圧が高めの成形となりバリが発生しやすくなるが、特定有機化合物を添加することで、金型面の隙間に樹脂が入り込みを低下させバリ発生を抑制できるため、ウェルド強度の向上とともに成形性を顕著に向上することができる。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物の相対粘度は、96質量%硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が1.8〜4.5の範囲であることが好ましく、2.0〜4.5の範囲であることがさらに好ましい。相対粘度が1.8より小さい場合には、ウェルド強度に劣るものとなるため好ましくない。また、4.5を越える場合においては、ポリアミド樹脂組成物の溶融時の流動性が極端に低下し、成形性に支障をきたす傾向にあるので好ましくない。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂組成物は必要に応じてその他の無機充填剤を充填し補強効果を高めることができる。 それら無機充填剤としては、シリカ、ガラスの微粉末、カオリン、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナなどの各種粉末が挙げられる。さらに、その他添加剤として、帯電防止剤、着色剤、滑剤、離型剤、核剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤等を添加することもできる。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、溶融混練法を最も好ましく用いることができる。溶融混練法の例としては、二軸押出機を用いて、最も上流側に位置するフィード孔(トップフィード)より、所定量のポリアミド樹脂を供給し、当該ポリアミド樹脂が溶融状態に到達した時点で、液注孔より液注計を用い所定量の有機化合物を供給する。さらに、偏平ガラス繊維を所定量サイドフィードより供給し、押出機下流側先端に取り付けられた紡孔でストランド状に成形した後、冷却しペレット状に切断することで得られる。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法は、射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダー成形等の各種成形法を用いることができるが、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて薄肉の成形品を得るためには、射出成形法を好適に用いることができる。
【0027】
射出成形法を用いて成形する場合、射出成形機のシリンダー温度は、ポリアミド樹脂組成物を可塑化するために(融点+20℃)〜(融点+70℃)に設定することが好ましく、樹脂の流動と樹脂の劣化をバランスさせるためには、(融点+30℃)〜(融点+60℃)がより好ましい。
【0028】
金型温度は、ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度よりもやや高めに設定することが好ましい。シリンダーで加熱、可塑化された樹脂が射出され、金型内に充填、冷却される際、樹脂の急激な冷却、結晶化の進行を抑制し、金型の転写が良くなるため外観が改良され、また、成形品の結晶化を抑制して、得られる成形品の寸法精度が高まる。
【0029】
さらに、金型温度をポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度よりもやや高めに設定することは、成形品にウェルドラインが入るのを抑制するのにも役立つ。金型の転写同様に、樹脂の冷却を遅くすることで、樹脂の流動を十分に確保し、樹脂の流動先端の樹脂温度の低下を抑制し、ウェルド部の樹脂の接合をより効果的に行うことが出来る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた原料および物性測定方法は次の通りである。
【0031】
1.原料
(A) ポリアミド樹脂
・ ポリアミド(A−1):ナイロン6(ユニチカ社製A1030BRL 相対粘度2.6)
・ ポリアミド(A−2):ナイロン6(ユニチカ社製A1030BRT 相対粘度3.4)
・ ポリアミド(A−3):ナイロン66(ユニチカ社製A125 相対粘度2.8)
・ ポリアミド(A−4):ナイロン11(アルケマ社製BMNO TLD 相対粘度1.8)
【0032】
(B) ガラス繊維
・ ガラス繊維(B−1):長円形型断面を有する偏平ガラス繊維(日東紡社製 CSG3J−820S;比表面積0.14mm/g、繊維長3mm、長短径比4、シラン系表面処理有)
・ ガラス繊維(B−2):長円形型断面を有する偏平ガラス繊維(日東紡社製 CSG3PA820S;比表面積0.09mm/g、繊維長3mm、長短径比4、シラン系表面処理有)
・ ガラス繊維(B−3):円形断面を有するガラス繊維(旭ファイバーグラス社製 03JAFT692;比表面積0.15mm/g、繊維長3mm、平均繊維径10μm)
【0033】
(C) 有機化合物
・ 有機化合物(C−1):トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(1分子中に2個以上のグリシジル基を有する化合物;阪本薬品社製SR−TMP)
・ 有機化合物(C−2):スチレン/無水マレイン酸共重合体(1分子中に2個以上の酸無水物基を有する化合物;Herucules社製)
・ 有機化合物(C−3):ポリグリセリンポリグリシジルエーテル(1分子中に2個以上のグリシジル基を有する化合物;阪本薬品社製SR−4GL)
・ 有機化合物(C−4):トリグリシジルイソシアヌレート(1分子中に3個のグリシジル基を有する化合物;日産化学社製TEPIC)
・ 有機化合物(C−5):ブチルグリシジルエーテル (1分子中に1個のグリシジル基を有する化合物;阪本薬品工業社製 BGE−C)
【0034】
2.測定方法
(1) ポリアミド樹脂およびポリアミド樹脂組成物の相対粘度
96質量%硫酸中に、ポリアミド樹脂の乾燥ペレットの濃度が1g/dlになるように溶解させ、G−3ガラスフィルターによりポリアミド成分以外を濾別した後測定に供した。測定はウベローデ型粘度計を用い、25℃で行った。ポリアミド樹脂組成物についてもガラス繊維分を補正した後、同様に測定した。
【0035】
(2) ガラス繊維の比表面積
全自動ガス吸着装置を用い、ガラス繊維束0.2gをセット後、窒素ガスを用いて相対圧力0〜1の間で吸着、脱離曲線を測定した。この測定結果よりBET多点法により解析して、ガラス繊維束の比表面積を測定した。
【0036】
(3) 曲げ弾性率
長さ150mm、幅10mm、厚さ3mmの試験片を1点ゲートで射出成形し、ASTM D790に準拠して23℃で測定した。曲げ弾性率は、応力に対するたわみの程度を示す尺度であり、その値が高い程好ましく、薄肉成形品とした場合の外力に対する変形を抑制する観点から、8GPa以上、好ましくは9GPa以上が要求される。
【0037】
(4) ウェルド部の曲げ弾性率
長さ150mm、幅10mm、厚さ3mmの試験片を両端からの2点ゲートで射出成形し、中央部にできたウェルド部に対し、(2)曲げ弾性率同様に、ASTM D790に準拠して23℃で測定した。なお、試験片を作成するにあたり、射出成形機のシリンダー温度は、ポリアミド11の場合、250℃、ポリアミド6の場合、270℃、ポリアミド66の場合、290℃で、金型温度は、ポリアミド11の場合、80℃、ポリアミド6の場合、80℃、ポリアミド66の場合、100℃、それぞれ冷却時間は1分で行った。ウェルドラインは、試験片の丁度中央に、試験片を横断するように線状に入るが、外観的に異常のあるものは、試験に供さず、除外した。ウェルド部の曲げ弾性率は、特に、ウェルド部の応力に対するたわみの程度を示す尺度である。ウェルド部の曲げ弾性率が、十分高くないと、成形品として実用に供した場合、繰り返しの応力負荷によって、ウェルド部から破断に至ることがある。外観的な問題のみならず、ウェルド部の曲げ弾性率は十分高いことが望まれる。
【0038】
次式により(2)曲げ弾性率と、(3)ウェルド部の曲げ弾性率の比をとり、曲げ弾性率比とした。
曲げ弾性率比=(ウェルド部の曲げ弾性率)/(曲げ弾性率)
曲げ弾性率比は0.7以上が好ましく、0.75以上であることがより好ましい。
【0039】
(5) 反り量
射出成形機のシリンダー温度は、ポリアミド11の場合、250℃、ポリアミド6の場合、270℃、ポリアミド66の場合、290℃で、金型温度はポリアミド11の場合、80℃、ポリアミド6の場合、80℃、ポリアミド66の場合、100℃、それぞれ冷却時間1分に設定し、直径100mm、厚み1.6mmtの円板をサイドゲート(1点)により射出成形した。金型より取り出した成形品は、直ぐにデシケーターに入れ、室温(23℃)までの冷却とともに、絶乾状態を維持するよう、デシケーター中で24時間状態調湿を行った。24時間後、デシケーターより成形品を取り出し、水平盤の上に成形品を静置させ、以下の4点の水平盤からの距離を測定し、その測定値から反り量を算出した。
【0040】
基準点a,b:水平盤に接地している2点
反り点c,d:反りが大きい2点
反り量計算式 反り量(mm)=|(c+d)/2−(a+b)/2|
【0041】
上記方法により求められる反り量は、小さいほど好ましく、実用的には、1.0mm以下であればよい。
【0042】
また、上記方法で求めた試験片を用いて、50℃水中に48時間浸漬後、表面の水分を拭き取り、デシケーター内で室温まで冷却後、反り量を測定した。実用的には1.0mm以下であればよい。
【0043】
(6) 成形品のバリ量
50mm×90mm×2mmの平板成形板をナイロン6はシリンダー温度270℃、金型温度80℃、ナイロン66はシリンダー温度290℃、金型温度100℃、ナイロン11はシリンダー温度250℃、金型温度80℃で、射出圧は100MPa〜150MPaの範囲で任意に決定し、東芝機械社製EC-100を用いて成形し、キーエンス社製VHX-500の光学顕微鏡を用いて、ゲートと反対側の50mmの直線部分の最大バリ量を測定した。200μm以下を合格とした。
【0044】
実施例1
ポリアミド樹脂(A−1)70質量部をクボタ製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給した。押出機のバレル温度設定は、230℃〜270℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/hとして溶融混練を行い、ポリアミド樹脂が十分に溶融したところで、液注口より、有機化合物(C−1)を0.5質量部注入し十分に混練した。その後サイドフィーダーよりガラス繊維(B−1)を30質量部供給しさらに混練を行った。最後にダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
【0045】
次いで射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃条件下、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い各種評価試験を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2〜12および比較例1〜11
表1、2に示す成分比率にした他は、実施例1と同様にして試験片を作成し、各種評価試験を行った。その結果を表1、2に示す。なお、押出機のバレル温度設定はポリアミド11の場合、210℃〜250℃、ポリアミド6の場合、230℃〜270℃、ポリアミド66の場合250℃〜290℃とした。また、射出形成機のシリンダー温度は、ポリアミド11の場合、250℃、ポリアミド6の場合、270℃、ポリアミド66の場合、290℃、金型温度がポリアミド11の場合、80℃、ポリアミド6の場合、80℃、ポリアミド66の場合、100℃とした。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例1〜12は、本発明の要件を満たすため、曲げ弾性率や低反り性、ウェルド特性に優れ、バリ抑制効果の高いポリアミド樹脂組成物が得られた。
【0050】
比較例1は、偏平ガラス繊維の配合量が少なかったため、反り量が大きかった。
【0051】
比較例2は、偏平ガラス繊維の配合量が多かったため、溶融混練時に流動性が悪くストランドの引き取りが出来なかったため、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得られなかった。
【0052】
比較例3は、配合する有機化合物が所定量以下であったため、ウェルド部の曲げ弾性率が低く、曲げ弾性率比が低く、また成形時のバリ量も多かった。
【0053】
比較例4は、配合する有機化合物が所定量以上であったため、流動性が悪く、ポリアミド樹脂組成物のペレットが得られなかった。
【0054】
比較例5は、有機化合物を全く配合しなかったため、ウェルド部の曲げ弾性率が低く、曲げ弾性率比が低く、成形時のバリ量も多かった。
【0055】
比較例6〜9は、本発明で規定するガラス繊維以外のガラス繊維を使用したため、反り量が大きかった。
【0056】
比較例10、11は、本発明で規定する有機化合物を使用しなかったため、曲げ弾性率比が低く、また反り量も大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の反り量の評価における成形品の斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
a,b,c,d:測定部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂30〜80質量部、およびBET比表面積が0.1mm/g以上であり長径/短径の比が1.5〜10である偏平ガラス繊維20〜70質量部の合計100質量部に対し、1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物0.05〜4.0質量部を含有してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
1分子中に2個以上のグリシジル基または酸無水物基を有する有機化合物が、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、スチレン/無水マレイン酸共重合体から選ばれる1種以上の有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂がナイロン6、ナイロン66、ナイロン11から選ばれる1種以上のポリアミドであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
偏平ガラス繊維が、ひょうたん型、まゆ型、長円形、楕円型、矩型のいずれかの異形断面形状を有する偏平ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
偏平ガラス繊維が、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤から選ばれる1種以上のカップリング剤で表面処理された偏平ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。











【図1】
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【公開番号】特開2012−214560(P2012−214560A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79350(P2011−79350)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】