説明

ポリアミド組成物およびそれからなるポリアミド成形体

【課題】 本発明は、成形時のフィルター背圧上昇や異物発生が少なく、乾燥時や成形する際の熱安定性に良好で、かつ、リサイクル品混合使用時にも色調が悪くならず、ゲル状物などの異物の発生が少なく、成形時の生産性に優れたポリアミド組成物およびそれからなるポリアミドシート状物並びにポリアミド延伸フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 部分芳香族ポリアミド100重量部と脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部とから主としてなるポリアミド組成物であって、前記部分芳香族ポリアミド中の前記部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量(PC)が10ppm以上、リン原子含有量(P4)が150ppm以下であることを特徴とするポリアミド組成物。
(ただし、P4は、前記部分芳香族ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸添加後、構造分析した場合、ピロリン酸構造として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、シ−トなどの成形体、飲料用ボトルをはじめとする中空成形容器、エンジニアリングプラスチックス材などの素材として好適に用いられるポリアミド組成物及びそれからなるポリアミドシート状物並びにポリアミド延伸フィルムに関するものである。特に、成形時のフィルター背圧上昇や異物発生が少なく、それらを乾燥する際や成形する際の熱安定性に良好で、成形時の生産性に優れたポリアミド組成物およびそれからなるポリアミドシート状物並びにポリアミド延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは物理的、機械的特性に優れていることから中空成形容器、フィルム、シート包装材料、エンジニアリングプラスチックス、繊維などの用途に幅広く使用されている。ナイロン6、ナイロン66などの脂肪族ポリアミドが代表例であるが、これらの他に、パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を原料として用い、吸水性の低減や弾性率の向上などを実現したポリアミドも多数知られている。
【0003】
ポリアミドは、ポリエステル等よりも熱に対して比較的不安定であり、熱劣化や熱酸化劣化によりゲル化や黄変等を起こすことがある。
【0004】
ポリアミドの熱劣化を抑える方法として、ポリアミド中にホスホン酸化合物もしくは亜リン酸化合物およびアルカリ金属を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ポリアミドの熱劣化を抑える方法として、ポリアミド中に(a)ホスフィン酸化合物、亜ホスホン酸化合物、ホスホン酸化合物又は亜リン酸化合物と(b)アルカリ金属と(c)フェニレンジアミン及び/又はその誘導体とを配合する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ポリアミドの融点以下でかつ酸素の存在しない系での熱劣化を防止する方法として、ピロ亜燐酸塩、有機ホスフィン酸のアミド化合物、亜リン酸のモノもしくはジエステルのバリウム塩、オルトリン酸のモノもしくはジエステルの銅塩などを添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3、4,5,6参照)。
また、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミドのゲル化物の発生防止対策として滑剤、有機リン系安定剤、ヒンダードフェノール類化合物、ヒンダードアミン類化合物から選ばれた少なくとも1種類以上を0.0005〜0.5重量部添加して検討している(例えば、特許文献7参照)。
【0006】
また、主としてテレフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなるポリアミドを次亜リン酸塩の存在下に重合する方法(例えば、特許文献8参照)、アジピン酸、テレフタル酸およびイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンを次亜リン酸塩の存在下に重合する方法(例えば、特許文献9参照)が開示されている。
【0007】
これらの技術は、ポリアミドのゲル化の防止には効果があるものの満足の行くものではなく、ポリアミド組成物の成形時のフィルター背圧上昇に影響する詰まり物の減少は何ら解決されておらず、さらに乾燥条件、成形時の温度、溶融時間などの成形条件によっては着色やゲル化の発生およびこれに起因する異物の発生、成形体の外観異常、あるいは透明性悪化が生じ、解決が望まれている。
【特許文献1】特開昭49−45960号公報
【特許文献2】特開昭49−53945号公報
【特許文献3】特開昭45−11836号公報
【特許文献4】特開昭45−35667号公報
【特許文献5】特開昭45−12986号公報
【特許文献6】特開昭46−38351号公報
【特許文献7】特開2001−164109号公報
【特許文献8】特開平5−43681号公報
【特許文献9】特開平3−126725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の技術の有する問題点を解決し、成形時のフィルター背圧上昇や異物発生が少なく、乾燥時や成形する際の熱安定性に良好で、かつ、リサイクル品混合使用時にも色調が悪くならず、ゲル状物などの異物の発生が少なく、成形時の生産性に優れたポリアミド組成物およびそれからなるポリアミドシート状物並びにポリアミド延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明のポリアミド組成物は、部分芳香族ポリアミド100重量部と脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部とから主としてなるポリアミド組成物であって、前記部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量(PC)が10ppm以上、リン原子含有量(P4)が150ppm以下であることを特徴とするポリアミド組成物である。
(ただし、P4は、前記部分芳香族ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸添加後、構造分析した場合、下記構造式(式1)で表されるピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量である。)
【0010】
【化1】

【0011】
本発明に係る部分芳香族ポリアミド中のリン原子含有量(P4)は、より好ましくは130ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、もっとも好ましくは50ppm以下である。P4の含有量が150ppmを超える場合は、ポリアミド組成物の成形工程のフィルターの異物詰りが激しくなり、フィルター交換頻度が多くなり生産性が低下したり、また得られた成形体中の異物発生量が多くなり問題である。また、下限値は5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上である。5ppm未満に抑えるためには、原料調合工程から重合工程、乾燥工程などにおける雰囲気中の酸素濃度を低減させるために莫大な設備費をようするなど現実的ではない。
【0012】
この場合において、下記の式(1)で求められるリン原子含有量(Px)が、100ppm以下であることができる。
Px=PC−(P1+P2+P3+P4) (1)
(式中、PCは部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量、P1、P2、P3、P4は、それぞれ、部分芳香族ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸添加後、構造分析した場合、次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、ピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量を示す(単位はppm)。
なお、部分芳香族ポリアミド中の残存リン原子含有量PC、P1、P2、P3およびP4の測定には、後記するリン化合物の構造分析31P−NMR法を用いた。また、Px、PC、P1、P2、P3およびP4は、部分芳香族ポリアミドの重量に対する含有量である。
【0013】
上記式(1)で求められるリン原子含有量(Px)は、より好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは60ppm以下、もっとも好ましくは50ppm以下である。リン原子含有量(Px)が100ppmを超える場合は、ポリアミド組成物の成形工程のフィルターの異物詰りが激しくなり、フィルター交換頻度が多くなり生産性が低下したり、また得られた成形体中の異物発生量が多くなり問題である。また、下限値は1ppm以上、さらに好ましくは5ppm以上である。1ppm未満に抑えるためには、原料調合工程から重合工程、乾燥工程などにおける雰囲気中の酸素濃度を低減させるためにさらに莫大な設備費を要するなど現実的ではない。
【0014】
部分芳香族ポリアミド中の構造式(式1)で表されるピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(P4)が150ppm以下であり、かつ、前記式(1)で求められるリン原子含有量(Px)が100ppm以下の場合は、フルター詰まり低減に対して、より一層効果的であり、このようなポリアミド組成物は長時間連続成形に最適なポリアミドである。
【0015】
部分芳香族ポリアミド中に存在する、前記のピロリン酸として検出されるリン化合物、あるいは、これと前記の測定溶媒に溶解しないリン化合物(リン原子含有量がPxとして表されるリン化合物)とがフィルターに詰まる原因物質になると考えられる。
【0016】
この場合において、部分芳香族ポリアミドがメタキシリレンジアミンとアジピン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に50モル%以上含有するポリアミドであり、脂肪族ポリアミドがナイロン6であることができる。
【0017】
この場合において、前記ポリアミド組成物からのポリアミド成形体の回収品を含有することができる。
【0018】
この場合において、水分含有量が、200〜2000ppmであることができる。
【0019】
この場合において、前記のポリアミド組成物を溶融成形してなる層を少なくとも一層有するポリアミド成形体とすることができる。
【0020】
この場合において、前記の本発明のポリアミド成形体は、シート状物あるいはこれを少なくとも一方向に延伸してなる延伸フィルムであることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリアミド組成物は、成形時のフィルター背圧上昇や異物発生が少なく、乾燥時や成形時の熱安定性及び熱酸化安定性が良好であるため、色調に優れており、かつ成形工程で着色し難く、またゲル状物などの異物の発生が少ないので、シート状物、延伸フィルムなどの成形体、エンジニアリングプラスチックス材などの素材として好適に用いられ、これらの成形体を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(部分芳香族ポリアミド)
本発明のポリアミド組成物に用いられる部分芳香族ポリアミドは、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミド又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミドのいずれかを分子鎖中に50モル%以上、好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含有するポリアミドである。
【0023】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドが、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミドの場合は、かかるポリアミドを構成する芳香族ジアミン成分としては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラ−ビス(2−アミノエチル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0024】
また、かかるポリアミドを構成する脂肪族ジアミン成分としては、炭素数2〜12の脂肪族ジアミンあるいはその機能的誘導体である。脂肪族ジアミンは直鎖状の脂肪族ジアミンであっても分岐を有する鎖状の脂肪族ジアミンであってもよい。このような直鎖状の脂肪族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0025】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミドの場合は、かかるポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニ−ル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸及びその機能的誘導体等が挙げられる。
【0026】
また、かかるポリアミドを構成する脂肪族ジカルボン酸成分としては、直鎖状の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、さらに炭素数4〜12のアルキレン基を有する直鎖状脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。このような直鎖状脂肪族ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ウンデカジオン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸及びこれらの機能的誘導体などを挙げることができる。
【0027】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成するジアミン成分として、上記のような芳香族ジアミンや脂肪族ジアミン以外に脂環族ジアミンを使用することもできる。脂環族ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミンが挙げられる。
【0028】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸成分として、上記のような芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸以外に脂環族ジカルボン酸を使用することもできる。脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等も共重合成分として使用できる。とりわけ、ε−カプロラクタムの使用が望ましい。
【0030】
また、共重合成分として、少なくとも一つの末端アミノ基、もしくは末端カルボキシル基を有する分子量が2000〜20000のポリエーテル、又は前記末端アミノ基を有するポリエーテルの有機カルボン酸塩、又は前記末端カルボキシル基を有するポリエーテルのアミノ塩を用いることもできる。具体的な例としては、ビス(アミノプロピル)ポリ(エチレンオキシド)(分子量が2000〜20000のポリエチレングリコール)が挙げられる。
【0031】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましい例としては、メタキシリレンジアミン、もしくはメタキシリレンジアミンと全量の30%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含有するメタキシリレン基含有ポリアミドである。
【0032】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドは、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3塩基以上の多価カルボン酸から誘導される構成単位を実質的に線状である範囲内で含有していてもよい。
【0033】
これらポリアミドの例としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスペラミド等のような単独重合体、及びメタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピペラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ω―アミノカプロン酸共重合体等が挙げられる。
【0034】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸又はイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含有するポリアミドである。
【0035】
これらポリアミドの例としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンイソフタルアミド、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸共重合体等が挙げられる。
【0036】
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸又はイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸以外に、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等を共重合成分として使用して得た、脂肪族ジアミンとテレフタル酸又はイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含有するポリアミドである。
【0037】
これらポリアミドの例としては、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸/ε−カプロラクタム共重合体等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドは、基本的には従来公知の、水共存下での溶融重縮合法あるいは水不存在下の溶融重縮合法や、これらの溶融重縮合法で得られたポリアミドをさらに固相重合する方法などによって製造することができる。溶融重縮合反応は1段階で行っても良いし、また多段階に分けて行っても良い。これらは回分式反応装置から構成されていてもよいし、また連続式反応装置から構成されていてもよい。また溶融重縮合工程と固相重合工程は連続的に運転してもよいし、分割して運転してもよい。
【0039】
以下に、キシリレン基含有ポリアミド(Ny−MXD6)を例にして、本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましい回分式製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。
【0040】
即ち、例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との塩、熱分解抑制剤としてアルカリ金属原子を含有するアルカリ金属含有化合物及びリン化合物の水溶液を加圧下および常圧下に加熱し、水および重縮合反応で生ずる水を除去しながら溶融状態で重縮合させる方法により得ることが出来る。
【0041】
この際、メタキシリレンジアミンを貯蔵するタンクおよびアジピン酸を貯蔵するタンクは、別々に、窒素ガス雰囲気とし、これら窒素ガス雰囲気中の酸素濃度を20ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは16ppm、最も好ましくは15ppmとすることが好ましい。貯蔵タンク内の窒素ガス雰囲気中の酸素含有量が20ppmを超える場合は、得られたポリアミド中に残存するピロリン酸由来のリン原子含有量(P4)、あるいは、式(1)から求められるリン原子含有量(Px)が多くなり、成形時のフィルター詰まりの原因となり問題となる。また、得られた部分芳香族ポリアミドの熱安定性も劣ることとなる。また、貯蔵タンク内の雰囲気の酸素濃度を抑える方法としては、タンク内に窒素などの不活性ガスを流入させて、空気を窒素ガスに置換し、その後に窒素ガスなどの不活性ガスを流しておく方法が好ましい。また、各原料中の酸素含有量を減らす方法としては、缶底部より不活性ガスをバブリングするのが好ましい。使用される不活性ガスとしては、酸素含有量が12ppm以下の窒素ガス、より好ましくは1ppm以下の窒素ガスを使用することが好まれる。
【0042】
また、前記原料と各種添加剤と水とを混ぜ合わせ、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との塩を調整する工程においても、窒素ガス雰囲気中の酸素濃度を20ppm以下、さらに好ましくは18ppm以下、より好ましくは16ppm、最も好ましくは15ppmとすることが好ましい。更に酸素濃度を下げる方法として、前記の塩水溶液中に不活性ガス、例えば、窒素ガスを使用し、バブリングする方法が挙げられる。この工程においても、酸素含有量が20ppmを超えると、得られた部分芳香族ポリアミド中に残存するピロリン酸由来のリン原子含有量(P4)、あるいは、式(1)から求められるリン原子含有量(Px)が多くなり、成形時のフィルター詰まりの原因となり問題となる。また、得られた部分芳香族ポリアミドの熱安定性も劣ることとなる。
【0043】
また、前記の塩を調整する際の温度としては、熱酸化劣化による着色を抑えるためや副反応や添加剤の熱酸化劣化反応を抑えるために、140℃以下が好ましく、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下、最も好ましくは110℃以下である。また、下限については、前記塩の固化が起こらない温度することが好ましく、30℃以上、より好ましくは40℃以上である。
【0044】
次いで、前記の調製された塩水溶液を重合缶に移送し重縮合するが、塩水溶液中の水を蒸発させる際に未反応物質の飛散を防ぐためや系内への酸素の混入を防ぐために、缶内に圧力を0.5〜1.5MPa掛けながら、徐々に昇温させて、留出する水を系外に除き、缶内温度を230℃にした。この時の反応時間は、好ましくは1〜7時間であり、より好ましくは2〜6時間、更に好ましくは3〜5時間である。急激な温度上昇は添加剤の高分子量化やポリマーの副反応を進める一因ともなり、後工程におけるゲル化等の樹脂の熱安定性低下の原因となるため、好ましくはない。その後、缶内圧を30〜90分かけて、徐々に放圧し、常圧に戻した。更に温度を上昇させ、常圧で攪拌し、重合反応を進めた。重合温度は好ましくは280℃以下、より好ましくは270℃以下、更に好ましくは265℃以下、最も好ましくは260℃以下である。重合温度が280℃を超えるような高温であると、添加剤の高分子量化やポリマーの熱酸化反応や副反応をより進行させることなり、好ましくない。下限はポリマー融点を基準にし、固化しない範囲の温度が好ましい。重合時間については、短いほど好ましいが、好ましくは1.5時間以内、より好ましくは1.3時間以内、更に好ましくは1.0時間以内である。なお、重合時間とは常圧での重縮合反応の時間のことである。
【0045】
目標粘度に達した時点で攪拌を停止させ、放置し、ポリマー中の気泡を取り除いた。脱泡時間としては、好ましくは30分以内であり、より好ましくは20分以内であり、更に好ましくは10分以内である。また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドの融点が250℃未満の場合は、脱泡時の溶融ポリマー温度は、255℃以下、好ましくは253℃以下、さらに好ましくは250℃以下に維持することが重要である。また、部分芳香族ポリアミドの融点が250℃以上の場合は、脱泡時の溶融ポリマー温度は、その融点より15℃高い温度以下で、好ましくは融点より13℃高い温度以下で、さらに好ましくは融点より10℃高い温度以下で維持することが重要である。このような条件を外れる場合は、部分芳香族ポリアミドの熱劣化が進み、かつフィルター詰まり原因となるピロリン酸構造のリン化合物などの含有量が多くなるので、好ましくない。
次いで、反応缶下部の取り出し口より溶融樹脂を取り出し、冷却固化させてストランドカッターなどのチップカッターにより樹脂チップを得た。この際、キャスティングに要する時間が長いと、取り出し口での熱酸化劣化の影響を大きく受けたり、缶内などの樹脂が熱劣化を受け、ゲル化物が生成したり着色したりし、またフィルタ−詰まり原因物質が増加するため好ましくない。また、キャスティング時間が短くすぎると、取り出し口より出たストランド状のポリマー温度が高くなりすぎるため、樹脂や添加剤の熱酸化劣化を受けやすくなり、ポリマーの熱安定性の低下の一因となりうる。よって、キャスティング時間は、回分式反応缶の場合、好ましくは10〜100分であり、より好ましくは15〜80分、さらに好ましくは15〜60分である。本発明に係る部分芳香族ポリアミドの融点が250℃未満の場合は、キャスティング中の反応釜内及び反応釜〜キャスティングダイス間の溶融ポリマー温度は、255℃以下、好ましくは253℃以下、さらに好ましくは250℃以下に維持することが重要である。また、部分芳香族ポリアミドの融点が250℃以上の場合は、キャスティング中の反応釜内及び反応釜〜キャスティングダイス間の溶融ポリマー温度は、その融点より15℃高い温度以下、好ましくは融点より13℃高い温度以下、さらに好ましくは融点より10℃高い温度以下で維持することが重要である。溶融ポリマー温度が前記温度条件を外れるとフィルタ−詰まり原因となるピロリン酸構造のリン化合物などの含有量が増加するため好ましくない。また、ストランド状ポリマー温度は好ましくは20〜70℃、より好ましくは30〜65℃の範囲である。その他の方法として、取り出し口でのポリマーの熱酸化劣化を防ぐ方法としては、不活性ガスを吹き掛ける方法が挙げられる。
なお、ここで部分芳香族ポリアミドの融点は、示差走査熱量計DSC−50((株)島津製作所製)を用いて前記ポリアミドチップからの結晶化乾燥した試料10mgについて室温から20℃/分で昇温しながら測定した。
【0046】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドのゲル化時間は、3時間以上、好ましくは5時間以上、さらに好ましくは7時間以上であることが好ましい。ゲル化時間が3時間未満の部分芳香族ポリアミドを用いる場合は、長時間の連続成形において溶融成形機内において次第にゲル化が起こり、溶融体の溶融粘度が上昇して行き、背圧上昇が非常に早くなるためフィルター交換周期が非常に短くなり、生産性および経済性の低下を来たすことになり問題である。また、このようなポリアミド組成物からの成形体は、ゲル化物による着色した異物状物を含み、また色も悪くなる。特に、延伸成形して得た延伸フィルムや二軸延伸中空成形体では、ゲル状物の存在する個所は正常に延伸されずに肉厚となって、厚み斑の原因となり、商品価値のない成形体が多く発生し、歩留まりを悪くする場合があり、最悪の場合は商品価値のない成形体しか得られないことがある。
【0047】
ゲル化時間は理想的には無限大であるが、500時間以下、さらには200時間以下、特には100時間以下であることが好ましい。ゲル化時間が500時間以上の部分芳香族ポリアミドを製造しようとする際には、高度に精製した原料を用いる、劣化防止剤を大量に必要とする、重合温度を低く保つ必要がある等の生産性に問題が起こることがある。
【0048】
また、本発明のゲル化時間が3時間以上のポリアミドは、例えば、次のようにして製造することが可能である。すなわち、一例として、前記ポリアミドのアミノ末端基とカルボキシル末端基のモル比を等モルから若干ずらすことが挙げられる。カルボキシル末端基量が過剰になるように原料を添加して製造する場合、ポリアミドのアミノ末端基量(当量/トン)/カルボキシル末端基量(当量/トン)の比は、0.9800〜0.9990であり、好ましくは0.9850〜0.9980、より好ましくは0.9900〜0.9975の範囲に管理することで可能である。また、アミノ末端基量が過剰になるように原料を添加して製造する場合、アミノ末端基量(当量/トン)/カルボキシル末端基量(当量/トン)の比は、1.0010〜1.0200であり、好ましくは1.0020〜1.0150、より好ましくは、1.040〜1.0025の範囲に管理することで可能である。アミノ末端基量(当量/トン)/カルボキシル末端基量(当量/トン)の比が1に近いとゲル化時間が3時間未満となり、フィルターの背圧上昇が非常に激しくなり好ましくない。
【0049】
前記部分芳香族ポリアミド製造時にリン化合物およびアルカリ金属化合物を添加することが好ましいが、部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量(PC)とアルカリ金属原子含有量(M)は、下記式(2)、(3)の範囲を満たすことが好ましい。なお、リン化合物、アルカリ金属とも製造時に系外に飛散することはほとんどないので、下記式(2)、(3)は、得られたポリアミド中の含有量と共に、ポリアミドの製造時の添加量としても望ましい範囲である。
【0050】
10≦PC<400ppm (2)
1.2<(M/PC)モル比<7 (3)
【0051】
全残存リン原子含有量(PC)に関して、下限はより好ましくは15ppm、さらに好ましくは20ppm以上である。上限としては好ましくは370ppm、さらに好ましくは350ppm以下である。また、M/PCモル比に関しても、下限はより好ましくは1.3、さらに好ましくは1.5以上である。全残存リン原子含有量(PC)が10ppmより小さい場合は、ポリマーの色調を悪化させ、また熱安定性に劣り、好ましくはない。また、逆に全残存リン原子含有量(PC)が400ppm以上になると、添加剤にかかる原料費が多くなり、コストアップの一因となったり、溶融成形時のフィルターの異物詰りが大きくなり、後工程での生産性の低下が懸念される。また、M/PCモル比が1.2以下であると、粘度上昇が激しく、ゲル化物の混入が多くなる危険性がある。また、逆にM/PCモル比が7以上であると、反応速度が非常に遅く、生産性の低下が否めない。
【0052】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドの製造時に用いられるリン原子を含有する化合物としては、下記化学式(A−1)〜(A−4)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
(ただし、式(A−1)、(A−2)、(A−3)及び(A−4)において、R〜Rは水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基またはアリールアルキル基、X〜Xは水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アリールアルキル基またはアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは各式中のX〜XとR〜Rのうちそれぞれ1個は互いに連結して環構造を形成してもよい)
【0058】
化学式(A−1)で表されるホスフィン酸化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル、
【0059】
【化6】

【0060】
または
【0061】
【化7】

【0062】
の化合物およびこれらの加水分解物、ならびに上記ホスフィン酸化合物の縮合物などがある。
これらの中でも、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸マグネシウムの使用が好ましい。
【0063】
化学式(A−2)で表されるホスホン酸化合物としてはホスホン酸、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸リチウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸マグネシウム、ホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウムなどがある。
【0064】
化学式(A−3)で表される亜ホスホン酸化合物としては、亜ホスホン酸、亜ホスホン酸ナトリウム、亜ホスホン酸リチウム、亜ホスホン酸カリウム、亜ホスホン酸マグネシウム、亜ホスホン酸カルシウム、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチルなどがある。
【0065】
化学式(A−4)で表される亜リン酸化合物としては、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸などがある。
【0066】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドの製造の際には、下記化学式(B)で表されるアルカリ金属含有化合物を添加する。
【0067】
Z−OR(B)
【0068】
(ただし、Zはアルカリ金属、Rは水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、−C(O)CHまたは−C(O)OZ’、(Z’は水素、アルカリ金属))
【0069】
化学式(B)で表されるアルカリ化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、炭酸ナトリウムなどが挙げられるが、とりわけ、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムを使用するのが好ましい。但し、いずれもこれらの化合物に限定されるものではない。
【0070】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドに前記リン化合物や前記アルカリ金属含有化合物を配合するには、部分芳香族ポリアミドの重合前の原料、重合中にこれらを添加するかあるいは前記重合体に溶融混合してもよい。
【0071】
また、これらの化合物は同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。
【0072】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドの相対粘度は、1.5〜4.0、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.7〜2.5の範囲である。相対粘度が1.5以下では分子量が小さすぎて、本発明のポリアミド組成物からなるフィルムなどの成形体の機械的性質に劣ることがある。逆に相対粘度が4.0以上では、重合に長時間を要し、ポリマーの劣化、ゲル化や好ましくない着色の原因となる場合があるだけでなく、生産性が低下しコストアップ要因となることがある。
【0073】
また、部分芳香族ポリアミドの末端アミノ基濃度と末端カルボキシル基濃度に対する比は、(末端アミノ末端基濃度/末端カルボキシル基濃度)で0.1〜10の範囲が好ましい。0.2〜7の範囲がより好ましい。0.3〜4の範囲が更に好ましい。0.1未満もしくは10よい大きい場合の部分芳香族ポリアミドを得ようとすると、重縮合に時間がかかり経済性に問題があり、また、10を超える場合は、耐熱性が悪くなって着色が激しくなり問題である。
【0074】
(脂肪族ポリアミド)
本発明のポリアミド組成物に用いられる脂肪族ポリアミドとしては、εーカプロラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類からの開環重合により得られるポリアミド、ω-アミノヘプタン酸、ωーアミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類の重縮合により得られるポリアミド、ジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩の重縮合により得られるポリアミド、更には、上記記載の各種ラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩とを適宜混合したものを共重縮合して得られるポリアミド共重合体が挙げられる。ジアミンの具体例としてはエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、1,3ービスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン等が挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0075】
また、ポリアミド系ブロック共重合体も本発明のポリアミド組成物の構成成分として用いることが好ましい。前記の脂肪族ポリアミドと共に使用することも可能である。ポリアミド系ブロック共重合体は、ポリアミド成分によって構成されるハードセグメントとポリオキシアルキレングリコール成分によって構成されるソフトセグメントからなるポリアミド系ブロック共重合体であり、ハードセグメントのポリアミド成分は、ε―カプロラクタム、ω−アミノ脂肪酸カルボン酸、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸よりなる群から選択され、具体的には、ε−カプロラクタムの如きラクタム、アミノヘプタン酸の如き脂肪族ジアミン、アジピン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸を例示することができる。また、上記ポリアミド系ブロック共重合体のソフトセグメントを構成するポリオキシアルキレングリコールは、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシ−1,2−プロピレングリコール等が挙げられる。
【0076】
ポリアミド系ブロック共重合体の融点はポリアミド成分によって構成されるハードセグメントとポリオキシアルキレングリコール成分によって構成されるソフトセグメントの種類と比率によって決められるが、通常は、120℃から180℃の範囲のものが使用される。
【0077】
具体的には、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン46及びこれらの共重合体、混合物などの脂肪族ポリアミドが挙げられる。好ましい脂肪族ポリアミドは、ナイロン6及びナイロン66及びナイロン12である。
【0078】
本発明で使用される脂肪族ポリアミドは、公知の方法で製造される。例えば、ラクタムを水溶媒の存在下に加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら重合させる方法により製造される。また、ジアミンとジカルボン酸からなるナイロン塩を水溶媒の存在下に加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら重合させる方法により製造される。更に、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて常圧下で重縮合する方法によっても製造される。いずれも溶融重合後、更に固相重合により高分子量化した重合体も使用可能である。
【0079】
本発明で使用される脂肪族ポリアミドの相対粘度は、1.7〜5.5、好ましくは1.9〜5.0の範囲にあることが好ましい。相対粘度が1.7未満の場合は、脂肪族ポリアミドの分子量が低く、フィルム等の成形品とした場合必要な機械的強度を示さず、また、溶融粘度が低いために成形の際不都合を生じる。相対粘度が5.5を超える場合は、脂肪族ポリアミドの溶融粘度が高く、成形の際成形機に負担がかかりすぎ混合が難かしいため好ましくない。
【0080】
また、脂肪族ポリアミドの末端アミノ基濃度と末端カルボキシル基濃度に対する比(末端アミノ末端基濃度/末端カルボキシル基濃度)で0.1〜10の範囲が好ましい。0.2〜7の範囲がより好ましい。0.3〜4の範囲が更に好ましい。0.1未満もしくは10より大きい場合の部分芳香族ポリアミドを得ようとすると、重縮合に時間がかかり経済性に問題がある。
【0081】
また、本発明に係る脂肪族ポリアミドや部分芳香族ポリアミドのチップの形状は、シリンダ−型、角型、球状又は扁平な板状等のいずれでもよい。その平均粒径は通常1.0〜5mm、好ましくは1.2〜4.5mm、さらに好ましくは1.5〜4.0mmの範囲である。例えば、シリンダ−型の場合は、長さは1.0〜4mm、径は1.0〜4mm程度であるのが実用的である。球状粒子の場合は、最大粒子径が平均粒子径の1.1〜2.0倍、最小粒子径が平均粒子径の0.7倍以上であるのが実用的である。また、チップの重量は3〜50mg/個の範囲が実用的である。
【0082】
(ポリアミド組成物)
本発明のポリアミド組成物を構成する部分芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合割合は、前記部分芳香族ポリアミド100重量部に対して前記脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部、好ましくは1.0〜70重量部、さらに好ましくは2.0〜50重量部であることが好ましい。(部分芳香族ポリアミド100重量部に対して脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部とは、換算すると、部分芳香族ポリアミド/脂肪族ポリアミド=99.5/0.5〜50/50(重量部比)となる。)
【0083】
部分芳香族ポリアミド100重量部に対して脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部の範囲とすることで、ポリアミド組成物は酸素ガスバリヤ性や耐熱性に優れ、耐屈曲疲労性も満足できるレベルであり、このポリアミド組成物からなるシートや延伸フィルムも酸素ガスバリヤ性や耐熱性に優れ、強度も強いものとなる。
【0084】
また、本発明のポリアミド組成物は、部分芳香族ポリアミドがメタキシリレンジアミンとアジピン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に50モル%以上含有するポリアミドであり、脂肪族ポリアミドがナイロン6であることを特徴とするポリアミド組成物である。
【0085】
また、本発明のポリアミド組成物は、ポリアミド組成物からのポリアミド成形体の回収品を含有することができ、その含有量は部分芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとからなる混合物に対して30重量%以下、好ましくは25重量%以下である。
回収品の含有量が、30重量%を超えると、ポリアミドシート状物並びにポリアミド延伸フィルムの色相が悪くなり問題となったり、また、ゲル化物等の混入により、品位の低下が見られる。
【0086】
ここで、本発明のポリアミド組成物を構成するポリアミド成形体の回収品は、ポリアミド組成物を射出成形機や押出成形機などの溶融成形機によって加熱溶融後に成形体やシート状物などの形態にしたあと、製品として出荷せずに回収し、再度、バージン原料のポリアミド組成物と共に混合して成形に供するポリアミド成形体のことであり、「回収品」と呼ぶことがある。回収品は、具体的には、製品、未延伸シートのような中間製品、製品規格不合格品、成形時に発生するランナーなどのバリや延伸フィルム製膜時に発生する耳部等である。これらの回収品は、切断、粉砕、溶融押出し、または圧縮成形などの方法により1〜10mm程度の大きさにすることが必要であり、バージン原料の大きさにほぼ匹敵するサイズが好ましい。また、ここで、ポリアミド成形体とは、本発明のポリアミド組成物から得られるポリアミドシート状物やポリアミド延伸フィルムのことである。
【0087】
また、本発明のポリアミド組成物の水分含有量は、好ましくは250〜1800ppm、より好ましくは300〜1500ppmであることが好ましい。水分含有量が300未満の場合は、溶融時の溶融粘度が大幅に増加し、成形時の流動性が低下する為に得られたポリアミド成形体の透明性や表面の平滑性などが悪くなり問題である。また、2000ppmを超える場合は、溶融粘度の低下が激しくなり、得られたポリアミド成形体の透明性や機械的特性の悪化をまねく。
【0088】
ポリアミド組成物の水分含有量は、吸湿したポリアミド組成物を乾燥する際に定期的に乾燥装置から取り出した試料の水分を測定して上記の水分含有量範囲になるように乾燥を終了する方法や吸湿したポリアミド組成物を200ppm以下に乾燥後、水分を補給して吸湿させ上記の水分含有量範囲になるように調湿する方法などによって管理できる。
【0089】
本発明のポリアミド組成物は、従来公知の方法により部分芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミド、あるいは、これにポリアミド成形体の回収品を混合して得ることができる。例えば、部分芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドチップとをタンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等でドライブレンドしたもの、さらにドライブレンドした混合物を一軸押出機、二軸押出機、ニーダー等で1回以上溶融混合したもの、さらには必要に応じて溶融混合物を高真空下又は不活性ガス雰囲気下で固相重合したものなどが挙げられる。
【0090】
また、本発明のポリアミド組成物は、部分芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの溶融混合体を成形加工した形状であることもできる。成形加工した状態とは、ストランド状やチップ状、シリンダー状に限らず、シート状、フィルム状及びこれらの粉砕物であっても良く、特にその形状を限定するものではない。
【0091】
本発明のポリアミド組成物には、必要に応じて、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、酸素捕獲剤、ブロッキング防止剤、安定剤、染料、顔料、シリカ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、アルミナ、ゼオライトなど無機質微粒子等の各種添加剤や、アクリル系、ポリスチレン系等の高分子系有機滑剤、変性ポリオレフィン、アイオノマー樹脂、エラストマー等の熱可塑性樹脂、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム等の繊維またはフィラー類等を添加することができる。
【0092】
本発明のポリアミド組成物は、ドライブレンド品、または予め押出機等により溶融混合後ペレット化されたメルトブレンド品を原料として射出成形法、押出成形法、ブロー成形法等の各種の成形技術によって、目的とする最終成形体に成形できる。
【0093】
ポリアミド成形体としては、自動車部品、機械機器部品、シート、フィルム(単層、多層)、紙との積層体、ブローボトル等が、また2次加工品としてトレイ、パウチ等が挙げられる。また、本発明のポリアミド組成物は、積層成形体や積層フィルム等の複合成形体においてフィルム状や塗膜状の形態をした一構成層としても用いることが出来る。
【0094】
部分芳香族ポリアミド、中でも特にNy−MXD6を主成分とするニ軸配向ポリアミドフイルムは、優秀な酸素ガスバリヤ性を保有し、透明性、印刷性、加熱処理時の寸法安定性等にすぐれていることから、各種、含水食品、レトルト食品、ペースト状食品、畜肉・水産食品等の各種の食品の包装材料として広く実用化されている。先述の部分芳香族ポリアミドの熱劣化は、熱劣化による着色で透明性が悪化し、最終製袋品の色目不良、外観不良となる。また熱劣化によるゲル化に起因する異物、フイッシュアイの発生は印刷時のインク抜け、異物混入等の外観不良、更に、製袋品への2次加工時の接着剤の塗布ムラによる接着性不良、製袋性不良となる。ポリアミド原料の熱安定性の改良は上記問題点の解決に大きく寄与する。
【実施例】
【0095】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定させるものではない。なお、本明細書中における主な特性値の測定法を以下に説明する。
(1)ポリアミドの相対粘度(RV)
試料0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、この溶液10mlをオストワルド粘度管にて20℃で測定、下式より求めた。
RV=t/t
(但し、t:溶媒の落下秒数 t :試料溶液の落下秒数)
【0096】
(2)ポリアミド中のリン化合物の構造分析(31P−NMR法)
試料340〜350mgを重ベンゼン/1,1,1,3,3,3―ヘキサフロロイソプロパノール=1/1(vol比)混合溶媒2.5mlに室温で溶解させ、トリ(t−ブチルフェニール)リン酸(以下、TBPPAと略称)をPとして樹脂に対して約100ppm添加し、室温でさらにトリフロロ酢酸を0.1ml加え、30分後にフーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER社製AVANCE500)にてポリアミド中のリン化合物の構造分析(31P−NMR法)を行った。なお、31P共鳴周波数は202.5MHz、検出パルスのフリップ角は45°、データ取り込み時間 1.5秒、遅延時間 1.0秒、積算回数 1000〜20000回、測定温度は室温、プロトン完全デカップリングの条件で分析を行った。
【0097】
得られたNMRチャートより、各リン化合物のピーク積分値を算出し、以下のようにして下記の式(F)〜(I)より、P1:ポリアミド中の次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(ppm)、P2:ポリアミド中の亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(ppm)、P3:ポリアミド中のリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(ppm)、P4:ポリアミド中のピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(ppm)を計算した。
【0098】
先ず、TBPPAに対応するリン化合物のPピーク積分値を100ppmとし、15ppm〜−15ppmの領域に観察される、ポリアミド中の各リン化合物に対応するPピーク積分値の合計である全Pピーク積分値PNを算出する。
【0099】
次に、NMRスペクトルに観察される全てのリン化合物のPピーク相対値(Ps)を下記式Aから求める。
【0100】
Pピーク相対値(Ps)=PN/PC ・・・・(式A)
【0101】
(PNはポリアミドの全Pピーク積分値(ppm)、PCはポリアミド中の全残存P含有量(ppm)である。ここで、ポリアミド中の全残存P含有量PCは下記(3)の分析方法により求める。Pピーク相対値が1より大きい場合は、Pピーク相対値=1とする。)
【0102】
次に、ポリアミド中の次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン化合物の割合(P1r)、亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン化合物の割合(P2r)、リン酸として検出されるリン化合物由来のリン化合物の割合(P3r)およびピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン化合物の割合(P4r)を下記式B、C、D、Eから求める。
【0103】
P1r=Ps×(次亜リン酸由来のリン化合物のPピーク積分値XP1)/PN・・・(式B)
P2r=Ps×(亜リン酸由来のリン化合物のPピーク積分値XP2)/PN ・・・(式C)
P3r=Ps×(リン酸由来のリン化合物のPピーク積分値XP3)/PN ・・・(式D)
P4r=Ps×(ピロリン酸由来のリン化合物のPピーク積分値XP4)/PN・・・(式E)
【0104】
次に、下記の式により、ポリアミド中に残存する次亜リン酸由来のリン原子含有量(P1)、ポリアミド中に残存する亜リン酸由来のリン原子含有量(P2)、ポリアミド中に残存するリン酸由来のリン原子含有量(P3)およびポリアミド中に残存するピロリン酸由来のリン原子含有量(P4)を求める。
【0105】
ポリアミド中の、次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(P1)=PC×P1r
・・・・(式F)
ポリアミド中の、亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(P2) =PC×P2r
・・・・(式G)
ポリアミド中の、リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(P3) =PC×P3r
・・・・(式H)
ポリアミド中の、ピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量(P4)=PC×P4r
・・・・(式I)
【0106】
ここで、P1に対応するのは次亜リン酸(下記(化8))であり、この構造に起因するピークは9〜12ppmの範囲に、P2に対応するのは亜リン酸(下記(化9))であり、この構造に起因するピークは4〜7ppmの範囲に、P3に対応するのはリン酸(下記(化10))であり、この構造に起因するピークは0〜2ppmの範囲に、P4に対応するのはピロリン酸(下記(化11))であり、この構造に起因するピークは−12〜−10ppmの範囲に見られた。
【0107】
【化8】

【0108】
【化9】

【0109】
【化10】

【0110】
【化11】

【0111】
次いで、下記式(1)によりリン原子含有量(Px)を求めた。
【0112】
Px=PC−(P1+P2+P3+P4) (1)
【0113】
(式中、PCはポリアミド中の全残存リン原子含有量、P1、P2、P3、P4はそれぞれ、ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸処理後、構造分析した場合、次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、ピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量を示す。単位はppm)
【0114】
図1にPのNMRスペクトルを示す。
【0115】
(3)ポリアミド中の全残存リン原子含有量(PC)
試料を炭酸ソーダ共存下において乾式灰化分解するか、硫酸・硝酸・加塩素酸系または硫酸・加酸化水素水系において湿式分解し、リンを正リン酸とした。次いで、1mol/L硫酸溶液中においてモリブデン酸塩を反応させて、リンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生ずるヘテロポリ青の830nmの吸光度を吸光光度計(島津製作所社製、UV−150−02)で測定して比色定量した。
【0116】
(4)ポリアミドのNa含有量(Na)の分析
試料を白金ルツボにて、灰化分解し、6mol/L塩酸を加えて蒸発乾固した。1.2mol/L塩酸で溶解し、その溶液を原子吸光(島津製作所社製、AA−640−12)で定量した。
(5)ポリアミドチップおよび成形体のカラーb値((Co−b))
カラーメーター(日本電色社製、Model 1001DP)を使用し、カラーb値を測定した。
【0117】
(6)ポリアミドの水分含有量(三菱化学製のカールフィシャー 微量水分測定装置CA−100型と水分気化装置VA−100にて測定)
三菱化学製の水分気化装置VA−100を、予め乾燥筒2本(シリカゲルと五酸化リンを充填)に乾燥した、窒素ガスを流速250ml/分で流しながら、加熱炉を180℃に加熱して、試料ボードを加熱炉に入れ、加熱炉と試料ボードから得られた乾燥窒素が無水になっていることを、微量水分測定装置CA−100で確認した後、試料 3gを乾燥しておいた専用サンプル容器に精秤し、速やかに、サンプルを試料ボードに入れる。サンプルから気化した水分は、乾燥窒素によって、微量水分測定装置CA−100型に運ばれカールフィシャー滴定され、水分率が求められる。
【0118】
(7)背圧上昇試験
水分率を300ppmに調湿したポリアミドを一軸押出機(ヒーター設定温度285℃、平均滞留時間10分)を使用し、溶解させ、GPを使用し、3〜6g/minで一定量押出した。ポリマー中の異物を濾過径20μmのフィルターで濾過し、GPの二次側の圧力を経時的に記録した。4hr流した後のその圧力差を下記式にあてはめ、背圧上昇係数(K*)を求めた。
【0119】
K*=[ΔP(MPa)/T(hr)]/[Q(kg/hr)/S(cm)] (4)
式(4)において、
△P(MPa) :GP二次圧の4hr後の圧力−初期圧
T(hr) :ポリアミドをフィルターに濾過した時間 (4hr)
Q(kg/hr) :ポリアミドの吐出量 (3〜6g/min)
S(cm) :フィルターの濾過面積 (1.538cm
(8)ゲル化時間
内容量約20mlの枝付き試験管に100℃で24時間減圧乾燥したポリアミド樹脂3gを入れ、減圧窒素置換を3回行なった後、30ml/分の窒素ガスを流しながら、260℃恒温のオイルバス中に浸漬して加熱し、0.5時間ないし1時間毎にサンプリングした。
【0120】
加熱処理した試料0.25gを96%硫酸25mlに室温で16時間溶解し、ガラスろ過器(1Gるつぼ形ガラスろ過器、ポアサイズ160〜250μm、柴田科学社製)で溶液をろ過し、ガラスフィルター上で不溶分を視認するまでに要した加熱処理時間をゲル化時間とした。
【0121】
(9)ポリアミド延伸フィルムの製膜および特性
水分含有量を特定の値に調整したポリアミド組成物を、押出機によりTダイスから265℃の温度で30m/minの速度となるように溶融押し出しし、30℃に冷却させた金属ロール上に、直流高電圧の印荷により静電気的に密着させて冷却固化し、厚さ200μmの実質的に未配向のシートを得た。
このシートを約1mmの大きさにカットしたものを回収品とし、実施例10および比較例3において用いた。
このシートを縦方向に延伸温度97℃で2.00倍に第一延伸した後、75℃に保持して、引き続き、縦方向に延伸温度75℃で1.90倍に第二延伸を行い、さらに、このシートを連続的にテンターに導き、110℃で4.0倍に横延伸し、210℃で熱固定および6.1%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して巻き取り、ロール状の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。なお、縦延伸におけるフィルム温度(延伸温度)は、ミノルタ(株)製放射温度計IR−004を用いて測定した。また、横延伸における延伸温度は、テンター内に設置された熱電対によって測定した。
得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの色相、異物、製膜性を評価した。それらの特性の評価結果を表2に示す。
【0122】
(背圧上昇)
フィルターの背圧上昇は400メッシュのフィルターの二次側の圧力を確認し、8時間後の状態を次のように評価した。
◎ : ほとんどなし
○ : 背圧上昇はあるが製膜を中断する必要が無い
× : 激しい
【0123】
(フィルムの色相)
前記の延伸フィルムロールの端面の色相を肉眼で観察し次のように評価した。
◎ : 溶融前のチップの色相とあまり変わらない
○ : 溶融前のチップの色相より少し黄色いが実用上は問題ない
× : 溶融前のチップの色より黄色〜褐色に着色している
××: 溶融前のチップの色よりかなり褐色に着色している
【0124】
(フィルムの異物)
この延伸フイルム1m2の面積を10枚分について肉眼により異物を観察し、次のように評価した。
◎ : 異物なし
○ : 異物ほとんど無し
× : 異物あり
【0125】
(製膜性)
前記の第一延伸工程や第二延伸工程での製膜性を次のように評価した。
○ :第一延伸工程と第二延伸工程ともに製膜性良好
△ :第一延伸工程の製膜性良好で第二製膜工程の製膜性不良
× :両工程共に製膜性不良
【0126】
(実施例及び比較例に使用したメタキシリレン基含有ポリアミド(Ny−MXD6))
(Ny−MXD6(A))
攪拌機、分縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を備えた調整缶に精秤したメタキシリレンジアミンおよびアジピン酸および水を所定量加え、窒素ガスにより加圧、放圧の操作を5回繰り返し、窒素置換を行い、雰囲気窒素中の酸素含有量9ppm以下とした。その時の内温は80℃とした。更に、添加剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)や次亜リン酸ナトリウム(NaHPO・HO)を加え、攪拌して均一な塩水溶液とした。この際も、雰囲気窒素中の酸素含有量9ppm以下に維持した。
【0127】
この溶液を攪拌機、分縮機、温度計、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えた反応缶に移送し、缶内温度190℃、缶内圧1.0MPaとして、徐々に昇温させて留出する水を系外に除き、缶内温度を230℃にした。この時までの反応時間は5時間であった。その後、缶内圧を60分かけて、徐々に放圧し、常圧に戻した。更に温度を255℃まで上昇させ、常圧で20分攪拌し、所定の粘度まで到達させ、反応を終了した。その後、10分間放置し、ポリマー中の気泡を取り除き、反応缶下部より溶融樹脂を押出し、冷水で冷却固化しながらキャスティングを行った。キャスティング時間は約50分間であり、その際の反応缶内及び反応缶〜ダイスまでの間のポリマー温度は約250℃に維持した。また冷却固化した樹脂温度は50℃であった。融点は237℃であった。
【0128】
なお、アミノ末端基量(当量/トン)/カルボキシル末端基量(当量/トン)の比は0.9900、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の2.7倍モルになるようにした。前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。結果を表1に示す。
【0129】
(Ny−MXD6(B))
重合時間を延長する以外はNy−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の2.7倍モルになるようにした。結果を表1に示す。
【0130】
(Ny−MXD6(C))
重合時間を延長し、添加剤の使用量を変える以外はNy−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の1.6倍モルになるようにした。
結果を表1に示す。
【0131】
(Ny−MXD6(D))
添加剤の使用量を変える以外は、Ny−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の4.0倍モルになるようにした。結果を表1に示す。
【0132】
(Ny−MXD6(E))
添加剤の使用量を変える以外は、Ny−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の3.5倍モルになるようにした。表1に特性を示す。
【0133】
(Ny−MXD6(F))
添加剤の使用量を変える以外は、Ny−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の2.7倍モルになるようにした。表1に特性を示す。
【0134】
(Ny−MXD6/MXDI(G))
原料としてメタキシリレンジアミン、アジピン酸およびイソフタル酸を表1に記載した組成に対応するように調整すること以外はNy−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。融点は234℃であった。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の2.7倍モルになるようにした。表1に特性を示す。
【0135】
(Ny−MXD6/MXD・CHDA(H))
原料としてメタキシリレンジアミン、アジピン酸およびシクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)を表1に記載した組成に対応するように調整すること以外はNy−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。
但し、融点が250℃なので、脱泡時のポリマー温度及びキャスティング時の反応缶内及び反応缶〜ダイスまでの間のポリマー温度は約260℃に維持した。
なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の2.7倍モルになるようにした。表1に特性を示す。
【0136】
(Ny−MXD6(I))
Ny−MXD6(A)の場合と同様の反応装置を用い、添加剤の使用量を変え、原料塩調整缶では窒素ガス置換を行わず雰囲気中の酸素濃度が約100ppmのままで反応缶に移送し、缶内温度190℃、缶内圧1.0MPaとして、徐々に昇温させて留出する水を系外に除いた。ここまでの缶内温度、反応時間はNy―MXD6(A)とほぼ同一条件とした。その後、缶内圧を60分かけて、徐々に放圧し、常圧に戻した。さらに温度を285℃まで上昇させ、常圧で2時間10分攪拌し、所定の粘度まで到達させ、反応を終了した。265℃で70分間放置し、ポリマー中の気泡を取り除いた後、反応缶下部より溶融樹脂を押出し、Ny−MXD6(A)と同様にしてキャスティングを行った。キャスティング時間は110分間であり、その際の反応缶内及び反応缶〜ダイスまでの間のポリマー温度は約265℃に維持した。
なお、アミノ末端基量(当量/トン)/カルボキシル末端基量(当量/トン)の比を1.0とし、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の1.9倍モルになるようにした。前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。結果を表1に示す。
【0137】
(Ny−MXD6(J))
上記のリン原子含有化合物、およびアルカリ化合物は添加せずに、Ny−MXD6(A)と同様の重合方法により得たものである。前記(5)、(7)および(8)の方法で評価を実施した。結果を表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
(実施例及び比較例に使用したポリカプラミド(Ny6))
100リットルの回分式重合釜を用い、ε−カプロラクタムの開環重合によって得たナイロン6をポリアミド系樹脂として使用した。当該ナイロン6のチップは、回分式重合釜を用いて熱水で抽出処理しモノマーとオリゴマーの含有量を1重量%にまで低減した後、水分率が0.1重量%となるまで乾燥して使用した。原料ナイロン6および延伸フィルムの相対粘度は、96%濃硫酸溶液を用いた20℃の測定値で約2.8であった。また、使用した表面突起形成用微粒子(0.45重量%)は、細孔容積1.6cc/g、平均粒子径1.8μmのシリカ微粒子(富士シリシア化学社製 サイリシア350)で、ナイロン6の原料となるε−カプロラクタムの水溶液中に高速撹拌機で分散して重合釜に仕込み、重合工程でナイロン6内に分散させた。
【0140】
(実施例1)
表2に記載のポリアミド組成物を用いて、前記(9)の方法で評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性、色相、異物及および背圧上昇共に問題なかった。
【0141】
(実施例2〜14)
実施例1と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性、色相、異物および背圧上昇共に問題なかった。
【0142】
(比較例1)
実施例1と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性、色相は問題なかったが、異物および背圧上昇は問題であった。
【0143】
(比較例2)
実施例1と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性および背圧上昇は問題なかったが、色相、異物共に問題であった。
【0144】
(比較例3)
実施例1と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性、色相は問題なかったが、異物および背圧上昇は問題であった。
【0145】
(比較例4)
実施例1と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。製膜性および背圧上昇は問題なかったが、色相、異物共に問題であった。
【0146】
(比較例5)
水分量を変更する以外は実施例3と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。色相、異物および背圧上昇は問題なかったが、製膜性は悪く問題であった。
【0147】
(比較例6)
水分量を変更する以外は実施例3と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。色相、異物および背圧上昇は問題なかったが、製膜性は悪く問題であった。
【0148】
(比較例7)
水分量を変更する以外は実施例3と同様にして、表2のポリアミド組成物について評価を実施した。結果を表2に示す。色相、異物および背圧上昇は問題なかったが、製膜性は悪く問題であった。
【0149】
【表2】

【0150】
以上、本発明のポリアミド組成物について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のポリアミド組成物は、成形時のフィルター背圧上昇や異物発生が少なく、乾燥時や成形時の熱安定性及び熱酸化安定性が良好であるため、色調に優れており、かつ成形工程で着色し難く、またゲル状物などの異物の発生が少ないので、シート状物、延伸フィルムなどの成形体、エンジニアリングプラスチックス材などの素材として好適に用いられ、これらの成形体を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】代表的な例の31P−NMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分芳香族ポリアミド100重量部と脂肪族ポリアミド0.5〜100重量部とから主としてなるポリアミド組成物であって、前記部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量(PC)が10ppm以上、リン原子含有量(P4)が150ppm以下であることを特徴とするポリアミド組成物。
(ただし、P4は、前記部分芳香族ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸添加後、構造分析した場合、下記構造式(式1)で表されるピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量である。)
【化1】

【請求項2】
部分芳香族ポリアミド中の式(1)で求められるリン原子含有量(Px)が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド組成物。
Px=PC−(P1+P2+P3+P4) (1)
(式中、PCは部分芳香族ポリアミド中の全残存リン原子含有量、P1、P2、P3、P4はそれぞれ、部分芳香族ポリアミドを31P−NMR測定溶媒に溶解してトリフロロ酢酸添加後、構造分析した場合、次亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、亜リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、リン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量、ピロリン酸として検出されるリン化合物由来のリン原子含有量を示す。単位はppm)
【請求項3】
部分芳香族ポリアミドがメタキシリレンジアミンとアジピン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に50モル%以上含有するポリアミドであり、脂肪族ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド組成物からのポリアミド成形体の回収品を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
水分含有量が、200〜2000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド組成物を溶融成形してなる層を少なくとも一層有することを特徴とするポリアミド成形体。
【請求項7】
請求項6に記載のポリアミド成形体が、シート状物あるいはこれを少なくとも一方向に延伸してなる延伸フィルムであることを特徴とするポリアミド成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2008−208249(P2008−208249A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47334(P2007−47334)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】