説明

ポリアリレート樹脂フィルムおよび気体分離膜

【課題】炭酸ガスの選択分離性と耐熱性に優れたポリアリレート樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される二価フェノールを10モル%以上含有するポリアリレート樹脂からなるフィルム、およびそのフィルムからなる気体分離膜。


(式中、Rは水素原子または炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスの選択分離性と耐熱性に優れたポリアリレート樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が問題となっており、温室効果ガスがその一因とされている。温室効果ガスの中でも、大気への放出が最も多い炭酸ガスは、その排出量の削減が強く求められている。排出量を削減するためには、排出量全体を減らすことや、排出ガスから炭酸ガスを選択的に回収することが考えられるが、産業活動を抑えることなくおこなうには、後者の方が好ましい。そのため、排出ガスから、炭酸ガスとその他の気体、特に空気中で最も多く含まれる窒素ガスとを分離する気体分離膜が盛んに開発されている。気体分離膜としては、セラミック、カーボン、ゼオライト等の無機系材料が知られているが、一方で、高分子気体分離膜は透過性や加工性に優れるため、注目されている。
【0003】
排出ガスが高温であることを考慮すると、高分子気体分離膜としては耐熱性が高いことが好ましい。例えば、特許文献1〜3には、炭酸ガスの選択分離性が比較的高いポリカーボネート系の気体分離膜が開示されている。しかしながら、これらのポリカーボネート系気体分離膜は、耐熱性が不十分であった。
【0004】
また、非特許文献1、2には、2−ヒドロ−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジンまたは2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジンと、テレフタル酸またはイソフタル酸からなるポリアリレート樹脂が開示されている。しかしながら、これらのポリアリレート樹脂をフィルムにすることや、さらにそのフィルムを高分子気体膜として用いることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48−64199号公報
【特許文献2】特開平10−99666号公報
【特許文献3】特開2002−239357号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Polymer Chemistry Edition、(1981)Vol.19、pp.2659−2670
【非特許文献2】Journal of Polymer Science、2(A)、pp437−459(1964)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、炭酸ガスの選択分離性と耐熱性に優れたポリアリレート樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究をおこなった結果、特定の二価フェノール骨格を有するポリアリレート樹脂を用いれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)一般式(1)で示される二価フェノールを10モル%以上含有する二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分からなるポリアリレート樹脂からなるフィルム。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭化水素基を表す。)
(2)芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸を含有する(1)記載のフィルム。
(3)(1)または(2)記載のフィルムからなる気体分離膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭酸ガスの選択分離性と耐熱性に優れたポリアリレート樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアリレート樹脂は、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から構成される。
【0012】
二価フェノール成分としては、一般式(1)で示される化合物を含有している必要がある。一般式(1)で示される化合物を含有していない場合、耐熱性が低下するので好ましくない。一般式(1)で示される化合物のRは、水素原子または炭化水素基を表す。炭化水素基としては、フェニル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、中でも、耐熱性の観点から、フェニル基が好ましい。なお、一般式(1)の芳香環上の水素原子は、ハロゲン原子や炭化水素基等によって置換されていてもよい。一般式(1)で示される化合物は嵩高い構造を有するため、ポリマー主鎖の熱運動を抑制し、ポリマー中に多くのミクロボイドを作り出すことができる。ミクロボイドを通過する炭酸ガスと窒素ガスの速度が異なるため、両者を分離することができる。また、嵩高い構造を有するため溶剤溶解性が高く、さらに、芳香環を多く有するためガラス転移温度が高い。一般式(1)で示される化合物としては、2−ヒドロ−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2−エチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、非特許文献1に記載されている方法にしたがって合成することができる。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(1)で示される化合物の含有量は、全二価フェノール成分に対して、10モル%以上とすることが必要で、20モル%以上とすることが好ましく、40モル%以上とすることが、耐熱性および気体選択性の観点より好ましい。一般式(1)で示される化合物の含有量が10%未満の場合、耐熱性や炭酸ガスの選択分離性が低くなるので好ましくない。
【0015】
二価フェノール成分を構成する他の二価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔ビスフェノールAP〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕等が挙げられる。
【0016】
なお、二価フェノール成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の水酸基を2つ有する化合物を含有してもよい。
【0017】
中でも、耐熱性、溶剤溶解性および炭酸ガス選択分離性に優れている点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔ビスフェノールAP〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸ビス(p−カルボキシフェニル)アルカン、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、溶剤溶解性が高くなり流延法でフィルムを作製しやすくなるので、テレフタル酸とイソフタル酸を併用することが好ましい。
【0019】
テレフタル酸とイソフタル酸を併用する場合、両者の含有比率は10/90〜90/10(モル比)とすることが好ましく、25/75〜75/25(モル比)とすることがより好ましく、35/65〜65/35(モル比)とすることがさらに好ましい。
【0020】
なお、芳香族ジカルボン酸成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸を含有してもよい。
【0021】
ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度は0.5を超え1.5以下であることが好ましい。インヘレント粘度は、末端封止剤の添加量等によって制御することができる。インヘレント粘度が0.5以下の場合、流延法において基材からフィルムを剥離する際、割れが生じる場合があったり、Tダイ法において、フィルム状に押出せなかったりする場合がある。一方、インヘレント粘度が1.5を超える場合、流延法において、溶液粘度が高くなりフィルムが形成されなかったり、Tダイ法において、フィルムの押出が困難になったりする場合がある。
【0022】
ポリアリレート樹脂の末端酸価は、50モル/トン以下であることが好ましく、20モル/トン以下であることがより好ましい。末端酸価を50モル/トン以下とすることで、溶剤溶解性が向上し、流延法でフィルムを作製することができる。一般に末端酸価が大きくなるほど、溶剤溶解性は悪くなる。
【0023】
ポリアリレート樹脂を製造する方法としては、界面重合法、溶液重合法等が挙げられる。界面重合法は溶液重合法と比較すると、反応が速いため、酸ハライドの加水分解を抑えることができ、結果として高分子量のポリマーを得ることができる。
【0024】
界面重合法としては、二価カルボン酸ハライドを水と相溶しない有機溶媒に溶解させた溶液(有機相)を、二価フェノール、末端封止剤、酸化防止剤および重合触媒を含むアルカリ水溶液(水相)に混合し、50℃以下の温度で1〜8時間撹拌しながら重合反応をおこなう方法が挙げられる。
【0025】
有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せずポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、製造上使用しやすいことから、塩化メチレンが好ましい。
【0026】
水相に用いるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0027】
末端封止剤としては、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール、一価カルボン酸等が挙げられる。一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニル−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられ、一価酸クロライドとしては、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等が挙げられ、一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられ、一価カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸等が挙げられる。これらの中でも、反応性と熱安定性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。
【0028】
酸化防止剤としては、ハイドロサルファイトナトリウム、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、トコフェノール、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられ、速やかに水溶することからハイドロサルファイトナトリウムが好ましい。
【0029】
重合触媒としては、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド等の第四級アンモニウム塩や、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド等の第四級ホスホニウム塩が挙げられる。中でも、高分子量で低末端酸価のポリマーを得ることができる点で、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0030】
本発明のフィルムは、ポリアリレート樹脂を流延法やTダイ法により加工することにより得ることができる。流延法とは、樹脂を有機溶剤に溶解した後、その樹脂溶液を基材に塗布し、乾燥した後、基材から剥離してフィルムを作製する方法である。一方、Tダイ法とは、乾燥した樹脂を押出機に投入し、溶融樹脂をTダイから冷却ロールに押出し、捲き取る方法である。熱分解による色調低下が生じないことから、流延法でフィルムを作製することが好ましい。
【0031】
流延法に用いられる有機溶剤としては、クロロホルムや塩化メチレンが挙げられ、基材としては、PETフィルム、ポリイミドフィルム、ガラス等が挙げられる。乾燥方法は特に限定されないが、効率よく有機溶媒を除去するためには加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は樹脂の物性や塗布基板の組み合わせにより適宜選択される。経済性を考慮した場合、乾燥温度は40〜150℃とすることが好ましく、40〜100℃とすることがより好ましく、乾燥時間は1〜30分とすることが好ましく、3〜15分とすることがより好ましい。なお、必要に応じて、室温で自然乾燥してもよい。塗布方法は特に限定されないが、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、はけ塗りやスプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法を用いることができる。
【0032】
Tダイ法において、その条件は特に限定されないが、樹脂の溶融温度としては、(ガラス転移温度+100℃)以下の温度範囲が好ましく、また、冷却ロールの温度としては、40〜90℃の温度範囲が好ましい。冷却ロールにフィルムを密着させる方法としては、静電印加法やエアーナイフ法等、公知の方法を用いることができる。
【0033】
工業的に生産するには、フィルムの引張強度は45MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましい。
また、本発明のフィルムにおいては、二価フェノール成分として一般式(1)の化合物が10モル%以上含有されているため、弾性率が高くなる。具体的には、1950MPa以上とすることができる。
【0034】
本発明のフィルムは、後述する窒素ガスの透過係数に対する炭酸ガスの透過係数の比(以下、「炭酸ガス選択分離係数」と略称する場合がある。)が高いため、炭酸ガスの選択分離性に優れている。炭酸ガスの分離膜として工業的に使用するためには、炭酸ガス選択分離係数が31.0以上であればよい。
【0035】
本発明のフィルムは引張強度が高く、炭酸ガスの選択分離性や耐熱性に優れるため、各種分離膜として用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
1.評価項目
(1)インヘレント粘度
ポリアリレート樹脂をフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(6/4(質量比))に溶解し、濃度1g/dlの試料溶液を作製した。続いて、ウベローデ型粘度計を用い、30℃の温度にて試料溶液および溶媒の落下時間を測定し、以下の式を用いてインヘレント粘度を求めた。
インヘレント粘度=ln[(試料溶液の落下時間/溶媒のみの落下時間)/樹脂濃度(g/dl)]
【0038】
(2)末端酸価
ポリアリレート樹脂150mgを、ベンジルアルコール5mlに加温して溶解し、冷却後、クロロホルム10mlと混合した。フェノールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定した。その滴定した値を用いてポリアリレート樹脂1トン中に含まれる当量数を計算し、末端酸価とした。
【0039】
(3)ガラス転移温度
ポリアリレート樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をガラス転移温度とした。
【0040】
(4)溶剤溶解性
クロロホルムに、ポリアリレート樹脂を溶質濃度が15質量%となるように混合し、25℃において1日間攪拌した。攪拌後、溶解して無色透明溶液が得られた場合は、25℃において7日間静置し、このとき溶液が無色透明であった場合は、さらに同じ温度条件で24時間静置した。経時的な溶液状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:攪拌直後に無色透明溶液が得られ、7日間静置後も無色透明であった。
○:攪拌直後に無色透明溶液が得られ、1日間静置後は無色透明であったが、48時間静置後には白濁していた。
△:攪拌直後に無色透明溶液が得られたが、1日間静置後には白濁していた。
×:溶解しなかった。
【0041】
(5)引張強度、引張弾性率
厚み100μmのフィルムを、JIS K−2318に準拠して、インテスコ社製引張圧縮試験機を用い、破断点での引張強度と引張弾性率を測定した。
【0042】
(6)全光線透過率
厚み50μmのフィルムを、日本電色工業社製濁度計NDH2000を用い、波長350nmにおける全光線透過率を測定した。実用上、85%以上が好ましい。
【0043】
(7)炭酸ガス透過係数、窒素ガス透過係数、炭酸ガス選択分離係数
厚み40μmのフィルムを、柳本製作所社製ガス透過係数測定装置GTR−10を用い、25℃における炭酸ガスと窒素ガスの透過係数を測定した。
また、炭酸ガス透過係数を窒素ガス透過係数で除した値を炭酸ガス選択分離係数とした。
【0044】
2.原料
2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジンの合成
Dean Stark装置を備えた反応容器に、フェノールフタレイン31.8質量部、アニリン65質量部および濃塩酸20.5質量部を供給した後、160℃に加熱し水分を揮発させた。その後、温度は変更せずに15時間反応させた後、反応混合物を塩酸400質量部の入った反応容器に流し込み、沈殿物を生成させた。沈殿物を濾過により回収し、活性炭含有の水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた後、30分間攪拌し、濾過により活性炭を除去し、濾過物を得た。その後、さらに1回、同様の活性炭処理をおこなった。得られた濾過物に中和のため濃塩酸を添加して沈殿物を生成させ、濾過後、粗成生物を払いだした。粗生成物100質量部とメタノール400質量部を混合し、加熱して1時間還流した後、濾過により2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジンを得た。
【0045】
実施例1
攪拌装置を備えた反応容器中に、2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン74.0質量部、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール0.85質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム22.9質量部、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.41質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.37質量部を仕込み、水1750質量部に溶解した(水相)。これとは別に、塩化メチレン1000質量部に、テレフタル酸クロライド(以下、TPCと略称する。)19.76質量部と、イソフタル酸クロライド(以下、IPCと略称する。)19.76質量部を溶解した(有機相)(TPC:IPC=50:50(モル比))。水相をあらかじめ攪拌しておき、有機相を水相中に強攪拌下で添加し、15℃で4時間、界面重合法で重合をおこなった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、塩化メチレン500質量部、純水2000質量部と酢酸2質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。その後、有機相を純水で10回洗浄し、有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿させたポリマーを濾過し、乾燥し、ポリアリレート樹脂を得た。
得られたポリアリレート樹脂を、クロロホルムに、15質量%の濃度になるように溶解させ、クロロホルム溶液を得た。得られたクロロホルム溶液を、ガラス板上に流延塗布し、減圧下、120℃で、24時間乾燥し、所定の厚みになるようにフィルムを作製した。
【0046】
実施例2〜9、12、比較例1〜3
表1に示すように用いるモノマーを変更する以外は、実施例1と同様にポリアリレート樹脂を重合し、フィルムを得た。
【0047】
実施例10、11、13
表1に示すようにモノマーを変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレート樹脂を得た後、これを330℃で溶融し、Tダイより50℃に設定した冷却ロール上に押出し、フィルムを作製した。
【0048】
表1に、樹脂組成、樹脂特性およびフィルム特性を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1〜13のフィルムは、炭酸ガス分離性や耐熱性に優れていた。
【0051】
比較例1、2のフィルムは、一般式(1)で示される二価フェノールを含有していないポリアリレート樹脂を用いたため、炭酸ガス選択分離係数が低かった。
比較例3のフィルムは、一般式(1)で示される二価フェノールの含有量が低いポリアリレート樹脂を用いたため、耐熱性が低く、炭酸ガス選択分離係数が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される二価フェノールを10モル%以上含有する二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分からなるポリアリレート樹脂からなるフィルム。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭化水素基を表す。)
【請求項2】
芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸を含有する請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
請求項1または2記載のフィルムからなる気体分離膜。

【公開番号】特開2012−223714(P2012−223714A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94115(P2011−94115)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】