説明

ポリアリーレンサルフォン微粒子、その製造法および分散液

【課題】塗料、接着、ポリマーアロイの分野で高く望まれている、耐熱性の高い、粒径50μm以下である新規なポリマー微粒子およびその分散液を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、方芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。)で示される構造単位を50質量%以上有し、かつ平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルフォン微粒子および平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルファイド微粒子を酸化剤の存在下で酸化させることにより、酸化させることを特徴とする上記ポリアリーレンサルフォン微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルフォン微粒子、その製造法および分散液に関するものである。詳しくは、接着剤、塗料、印刷インク中の分散剤、医療用担体、磁気記録媒体、化粧品の基材、プラスチックの改質剤、クロマトグラフィー担体、層間絶縁膜用材料等の各種材料の添加剤として有用であり、特に分散性、耐熱性、耐溶剤性に優れ且つ溶剤中への分散が容易なポリアリーレンサルフォン微粒子、その製造法および分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の高い樹脂微粒子は、塗料分野、接着材料分野、ポリマーコンパウンド分野などにおいて、樹脂の柔軟性という特性を持った耐熱性添加剤としての需要が非常に高いが、下記に述べる技術的制約から、現在その入手は極めて困難である。
【0003】
この際、耐熱性とは高温条件下において、形状の変化を起こさないことが必要であり、微粒子が変形するガラス転移温度や融点などが300℃以上であることが好ましい。
【0004】
一般に、樹脂微粒子を材質別に大別すると、ビニル系モノマーなどを重合をさせた微粒子、重縮合系の微粒子などが挙げられる。
【0005】
前者の場合、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)などの微粒子が挙げられるが、耐熱性で特に必要とされる、ガラス転移温度が十分でない。
【0006】
一般に耐熱性の高い、即ちガラス転移温度や融点の高い材質としては、重縮合系の微粒子が挙げられ、具体的にはポリアリーレンサルファイド、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル等の樹脂が挙げられる。
【0007】
近年、これらの微粒子を得る方法として、下記に示すいくつかの手法が提案されている(特許文献1〜5)。
【0008】
特許文献1には、結晶性ポリエステルを微粒子化するために、相分離用溶媒中で加熱、溶解し、冷却晶析する微粒子製造方法が開示されているが、融点は、300℃以下であり、十分な耐熱性をもっているとはいえない。
【0009】
特許文献2は、酸クロライドとジアミンを原料として、重合を進行させながらポリアミド酸微粒子及びポリアミド微粒子を製造する方法が開示されているが、重縮合を行いながらの微粒子の作成方法は、反応をさせる工程が必要であること、高価な薬品を用いるなど課題があり、産業上有利な方法ではない。
【0010】
特許文献3、4の方法では、結晶性ポリエステル樹脂有機溶媒中に高温で溶解し、引き続き冷却し、機械的な粉砕を行うことにより微粒子を製造する方法であるが、特殊な共重合組成をもつポリエステルにを用いており、非常に高価なものであることから、実用性が高いとはいい難い。
【0011】
特許文献5には、ポリアリーレンサルファイドに類似した構造を持つ樹脂粉末を用いたスラリー組成物に関する発明が記載されている。このポリアリーレンサルファイドに類似した構造をもつ樹脂粉末として10〜400メッシュ(32〜1700μm)のものを用い得ることが記載されているが、これらの微粒子の融点は、300℃以下であり、実用上満足行くものでない。
【特許文献1】特開平8−176310号公報
【特許文献2】特開平11−140181号公報
【特許文献3】特開2005−15589号公報
【特許文献4】特開2005−84407号公報
【特許文献5】特開平5−98158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、これまでの耐熱性樹脂微粒子は、その耐熱性が必ずしも十分でなく、より耐熱性の高い樹脂製微粒子の開発が広範に求められていた。
【0013】
本発明は、これまでにない温度範囲、特に300℃を越える温度域においても形状を保持する耐熱性を有するポリアリーレンサルフォン微粒子、その製造法および分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、融点が300℃を超え、耐熱性に非常に優れ、且つ溶剤、特に水への分散性が良いポリアリーレンサルフォン微粒子およびその簡便な入手方法を見出した。即ち、本発明は、
(一)一般式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。)で示される構造単位を50質量%以上有し、かつ平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルフォン微粒子、
(二)ポリアリーレンサルフォンが、ポリ(フェニレンサルフォン)であることを特徴とする(一)記載のポリアリーレンサルフォン微粒子、
(三)平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルファイド微粒子を出発基質とし、これを酸化剤の存在下、酸化させることを特徴とするポリアリーレンサルフォンの製造法、
(四)酸化剤が、無機過酸化物および/または有機過酸化物であることを特徴とする(三)記載のポリアリーレンサルフォン微粒子の製造法、
(五)酸化剤が、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸のうち少なくともひとつから選ばれる酸化剤であることを特徴とする(四)記載のポリアリーレンサルフォン微粒子の製造方法、
(六)(一)または(二)記載のポリアリーレンサルフォン微粒子、または(三)から(五)記載の製造方法で得られたポリアリーレンサルフォン微粒子を界面活性剤を含有する水に分散させた分散液、
(七)(一)または(二)記載のポリアリーレンサルフォン微粒子、または(三)から(五)記載の製造方法で得られたポリアリーレンサルフォン微粒子を有機溶媒に分散させた分散液、である。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いれば、これまでに課題であった、300℃を越える温度域での使用が可能であり、好ましい態様においては350℃以上の高温下においても使用が可能であり、これまで耐熱性が要求される分野で実用上入手困難であった高耐熱性樹脂微粒子を簡便に合成することができ、広く産業上非常に有用な材料となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明におけるポリアリーレンサルフォンとは、下記一般式(1)
【0019】
【化2】

【0020】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0021】
置換基Rを具体的に例示するならば、水素原子、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素などであり、好ましくは、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、さらに好ましいのは、水素、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基であり、より好ましいのは、水素、メチル基である。
【0022】
本発明におけるポリアリーレンサルフォンを具体的に例示するならば、ポリ−o−フェニレンサルフォン、ポリ−m−フェニレンサルフォン、ポリ−p−フェニレンサルフォン、ポリ−o−トリレンサルフォン、ポリ−m−トリレンサルフォン、ポリ−p−トリレンサルフォン、ポリ−o−クロロフェニレンサルフォン、ポリ−m−クロロフェニレンサルフォン、ポリ−p−クロロフェニレンサルフォン、ポリ−o−フルオロフェニレンサルフォン、ポリ−m−フルロロフェニレンサルフォン、ポリ−p−フルオロフェニレンサルフォンなどが挙げられ、中でも好ましいのは、ポリ−m−フェニレンサルフォン、ポリ−p−フェニレンサルフォン、ポリ−p−トリレンサルフォンであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンサルフォンである。
【0023】
一般式(1)に示す繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである限り、下記の式(2)から(4)
【0024】
【化3】

【0025】
(Ar’は、芳香族基を示す。)
等で表される少量の分岐結合または架橋結合を含むこともできる。
【0026】
本発明におけるポリアリーレンサルファイドとは、下記一般式(5)
【0027】
【化4】

【0028】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位を50質量%以上有する、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0029】
置換基Rは、具体的に例示するならば、水素原子、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素などであり、好ましくは、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、さらに好ましいのは、水素、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基であり、より好ましいのは水素、メチル基である。
【0030】
上記ポリアリーレンサルファイドを具体的に例示するならば、ポリ−o−フェニレンサルファイド、ポリ−m−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−o−トリレンサルファイド、ポリ−m−トリレンサルファイド、ポリ−p−トリレンサルファイド、ポリ−o−クロロフェニレンサルファイド、ポリ−m−クロロフェニレンサルファイド、ポリ−p−クロロフェニレンサルファイド、ポリ−o−フルオロフェニレンサルファイド、ポリ−m−フルロロフェニレンサルファイド、ポリ−p−フルオロフェニレンサルファイドなどが挙げられ、中でも好ましいのは、ポリ−m−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−トリレンサルファイドであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンサルファイドである。
【0031】
一般式(5)に示す繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである限り、下記の式(6)から(8)
【0032】
【化5】

【0033】
(Ar’は、芳香族基を示す。)
等で表される少量の分岐結合または架橋結合を含むこともできる。
【0034】
本発明でいう平均粒径とは、いわゆるミー(Mie)の散乱・回折理論に基づくレーザー回折式粒度分布計で測定される平均粒径のことをいう。具体的には、レーザーの回折結果をミーの理論により解析した粒度の対数の算術平均をとり、それから算出される平均粒径のことを指す。
【0035】
本発明における、ポリアリーレンサルフォン微粒子を得るための概略を下記に示す。
(1)ポリアリーレンサルファイドを作る。
(2)ポリアリーレンサルファイドの微粒子を作る。
(3)ポリアリーレンサルファイド微粒子を酸化する。
【0036】
以下に、上記概略に沿い、ポリアリーレンサルフォン微粒子の作り方を詳細に示す。
【0037】
ポリアリーレンサルファイドは、公知の方法により合成することができるし、市販されているものを用いることもできる。合成する場合を例示するならば、ハロゲン芳香族化合物とアルカリ金属硫化物をN−アルキルアミド溶媒中で重合する方法などが挙げられ、より具体的に例示するならば、特公昭45−3368号公報に記載された、得られる比較的低分子量の小さいポリフェニレンサルファイドおよびこれを酸素雰囲気下において加熱あるいは過酸化物等の架橋剤を添加して、加熱することにより高重合度化する方法がある。また特公昭52−12240号公報に記載された製造方法により本質的に線状で高分子量のポリアリーレンサルファイドが好ましく用いられる。
【0038】
この際、ポリアリーレンサルファイドの分子量は、粒子の形状を保つ範囲であればよく、特に限定されるものではないが、その下限としては、好ましくは重量平均分子量で5,000以上であり、より好ましくは、10,000以上である。上限については、入手可能な範囲である分子量の範囲であり、通常100,000以下である。
【0039】
引き続き、ポリアリーレンサルファイドの微粒子を作る。このポリアリーレンサルファイド微粒子は、いかなる方法で入手してもよいが、ポリアリーレンサルファイドの微粒子の作り方としては、たとえば、ポリアリーレンサルファイドを耐圧容器などに、N−メチルピロリドン、o−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンなどの溶媒を加え、加熱下で溶解し、冷却しながら析出させることにより得ることもできる。
【0040】
上記の方法で、粒径50μm以下のポリアリーレンサルファイドの微粒子を得るために、加熱温度を230℃以上、好ましくは280℃以上で実施する。上限については、ポリアリーレンサルファイドの微粒子の形状、物性が損なわれない範囲であれば特に制限はないが、通常、400℃以下で行われ、なかでも350℃以下であることが好ましい。
【0041】
この方法で製造する場合には、粒径10μm以下の微粒子を製造することも可能である。
【0042】
また、この際ポリアリーレンサルファイドを溶解する濃度としては、0.01質量%〜20質量%、より好ましくは、0.01質量%〜10質量%、さらに好ましくは、0.5質量%〜5質量%の範囲である。
【0043】
また、従来公知の方法で入手するならば、特開平10−273594号公報に記載された方法で入手することができる。具体的には、(1)ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド(a)に他の1種類以上の熱可塑性ポリマー(b)(例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン)を加えて溶融混練し、ポリアリーレンサルファイド(a)が所望の粒径を有する分散相(島)、他のポリマー(b)がマトリックス(海)となる様な海島構造を持った樹脂組成物を得、(2)該樹脂組成物を、ポリアリーレンサルファイド(a)は溶解せず、他ポリマー(b)が溶解するような溶媒(c)及び条件にて洗浄する。(3)ポリアリーレンサルファイド(a)と溶媒の混合物より、該溶媒(c)を除去し、ポリアリーレンサルファイド微粒子を得る方法である。
【0044】
なお、本発明における、ポリアリーレンサルファイド微粒子とは、ポリアリーレンサルファイドを基材とする微粒子であり、平均粒径50μm以下、好ましくは25μm以下、さらに好ましくは10μm以下の粉状体であり、その形状は、真球状、楕円球状、扁平状、岩状、金平糖状、不定形等いずれの形態でもかまわない。
【0045】
これまで、示したポリアリーレンサルファイドおよびポリアリーレンサルファイド微粒子の製造法は、一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
引き続き、ポリアリーレンサルフォン微粒子を作る。
【0046】
ポリアリーレンサルフォンを作るためには、上記のようにして得られたポリアリーレンサルファイド微粒子を酸化剤の存在下、酸化させることにより得ることができる。
まず、ポリアリーレンサルファイド微粒子を反応容器に入れ、酸化反応に必要な液体を入れる。
【0047】
本反応に使用される液体は、酸化剤を含む液状溶媒で、出発基質の形態を保持できるものであれば任意に用いることができる。その液状溶媒は、一般有機溶媒の単独・混合溶媒のいずれでもよく、またそれに水が含まれていても、あるいは水単独の溶媒でも構わない。液状溶媒の具体例としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、酢酸、トリフルオロ酢酸、ピリジンなどが挙げられ、中でも好ましいのは、水、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、酢酸、トリフルオロ酢酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸である。
【0048】
本反応に使用される酸化剤としては、無機過酸化物、有機過酸化物のいずれの過酸を用いてもよいし、その混合物であってもよい。過酸は、上記液状溶媒に均一に溶解するのが好ましく、また過酸化水素と酸の混合物から形成される平衡過酸であっても構わない。
【0049】
過酸の具体例としては、過酸化水素、過酸化尿素、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩等の無機過酸化物、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などの有機過酸化物が挙げられ、中でも好ましいのは、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸であり、さらに好ましいのは過酢酸、トリフルオロ過酢酸である。これらは1種または2種以上で用いることができる。
また、過酸の濃度は工業的製法における安全性管理の上で重要で、本酸化反応系では液体中の過酸濃度が10質量%以下であることが好ましく、中でも3〜10質量%が好ましい。この範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に影響を受けやすくなり、特に20〜40質量%の高濃度過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため、注意を要する。
本酸化処理は、使用される液体の沸点以下の温度で行われる。沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり、煩雑な設備となったり、また安全面からも好ましくない。具体的な反応温度は、0℃から80℃の間、中でも室温付近から60℃の間が好ましい。この範囲の温度において良好な反応結果を与える。
【0050】
また、必要に応じて、添加剤を加えることもできる。本反応を加速させるために、無機鉱酸を加えてもより。この際の無機鉱酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸のなかから少なくともひとつ以上選ばれるものであり、好ましくは、硫酸である。
【0051】
また、本酸化処理を行うには、混合液を攪拌しても、しなくても良いが、攪拌を行った方が均一に反応が進むため、攪拌した方が好ましい。
【0052】
本反応は、上記の温度まで上昇させた後、混合液をしばらくの時間維持することにより反応を完結させる。この際の時間とは、10分から10時間の範囲であり、好ましくは10分から6時間、より好ましくは20分から2時間の範囲である。
【0053】
この範囲で実施すれば、所望の反応が完結する。
【0054】
反応が終了した後に、反応液からポリアリーレンサルフォン微粒子を回収する。
【0055】
この際、回収する方法としては、従来公知の固液分離を行い、必要に応じて乾燥を行うことにより回収できる。具体的に例示するならば、濾過、遠心分離、遠心濾過、スプレードライ、デカンテーションなどが挙げられる。
【0056】
以上のようにして、ポリアリーレンサルフォン微粒子を得る。
【0057】
次にポリアリーレンサルフォン微粒子分散液について記載する。
【0058】
得られたポリアリーレンサルフォン微粒子を分散媒に分散させることにより、ポリアリーレンサルフォン微粒子分散液を得ることを基本とする。
【0059】
この際、分散媒となりうるものとして例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、1−クロロナフタレン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチルピロリジノン等の極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒および水の中から少なくとも一種から選ばれる溶媒を例示できるが、環境面、安全面から水が最も好ましい。
【0060】
この際、水への分散性を向上させるために、界面活性剤の添加を行ってもよい。
【0061】
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン系界面活性剤が挙げられ、アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、モノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸エステル硫酸エステルナトリウム、脂肪案アルキロースアミド硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アミドスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0062】
カチオン系界面活性剤としては、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルピリジニウムなどが挙げられる。
【0063】
両性イオン界面活性剤としては、アルキルアミノカルボン酸塩、カルボキシベタイン、アルキルベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどが挙げられる。
【0064】
非イオン系界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸トリエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、イソプロパノールアミド、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアミンなどが挙げられる。
【0065】
なお、ここでいうアルキルとは、例示するならば炭素数2から30までの直鎖型飽和炭化水素基、直鎖型不飽和炭化水素基または分岐型飽和炭化水素基、分岐型不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0066】
これらの界面活性剤の添加量は、分散媒100質量部に対し、通常0.01質量部〜100質量部の濃度となる範囲であり、好ましくは0.5質量部〜20質量部の範囲であり、より好ましくは1質量部〜10質量部の範囲である。この範囲の量で界面活性剤を用いることにより、非常に効率よくポリアリーレンサルフォン微粒子を分散媒のなかに均一に分散させることができる。
【0067】
またポリアリーレンサルフォン微粒子は、分散媒100質量部に対して、界面活性剤を添加する場合には分散媒と界面活性剤の合計量100質量部に対して0.1質量部〜50質量部の範囲であることが好ましい。
【0068】
十分に分散させるために、上記で得られた分散液を、加熱、超音波照射、レーザー照射、マイクロ波照射などの物理的エネルギーの供給を行ってもよい。
【0069】
このようにして得られたポリアリーレンサルフォン微粒子分散液においても、場合によっては沈殿物を含む場合もある。その際には、沈殿部と分散部を分離して利用してもよい。分散液のみを得る場合には、沈殿部と分散部の分離を行えばよく、そのためには、デカンテーション、ろ過などを行えば良い。また、より粒径の細かいものまで必要な場合には、遠心分離などを行い、粒径の大きなものを完全に沈降させ、デカンテーションやろ過を行い、沈殿部分を除去すればよい。
【0070】
このようにして得られたポリアリーレンサルフォン微粒子およびポリアリーレンサルフォン分散液は、塗料、接着、ポリマーコンパウンドの分野において有用なものである。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。なお、ここで用いている試薬類のメーカーグレードは、いずれも1級レベルに相当するものである。
【0072】
また、物性測定を行うために、下記に機器を用いた。
【0073】
<示差熱走査型熱量計:DSC>
機種名:セイコーインスツルメント ロボットDSCを用い、下記の温度プログラムで測定を行った。
測定温度プログラム条件: 30℃→(20℃/min)→350℃。
【0074】
<示差熱重量測定計:TGA>
機種名:セイコーインスツルメント TG/DTA 200を用い、下記の温度プログラムで測定を行った。
測定温度プログラム条件: 50℃→(20℃/min)→650℃。
【0075】
<粒度分布測定>
回折式粒度分布計(島津製作所製 SALD−2100)を用い、その粒子の平均粒径の測定を行った。
【0076】
(参考例1) PPS微粒子作成法
50ccの耐圧容器内に、ポリフェニレンサルファイド(東レ株式会社製、グレード名M3910、平均粒径50μm)100mg、溶媒としてN−メチルピロリジノン(関東化学社製)10gを加え、窒素下に密閉後、320℃まで上昇させた。320℃まで上昇したことを確認した後に、30分間攪拌しながらその状態を維持した後に、耐圧容器を氷水で冷却した。
【0077】
室温付近まで冷却した後に、耐圧容器から混合液を取り出し、5C濾紙を用いて吸引濾過することによりポリアリーレンサルファイド微粒子を得た。この微粒子をレーザー回折式粒度分布計(島津製作所製 SALD−2100、分散媒:TirotonX-100(アルドリッチ社製) 0.5質量%水溶液)にて測定を行ない、ミーの理論により解析した粒度の対数の算術平均をとり、平均粒径を算出したところ、平均粒径7.26μmであることがわかった。
【0078】
さらに、ろ液を6000rpmの速度で遠心分離し、デカンテーションを行うことにより、より微細な粒子を回収した。
【0079】
この微粒子の平均粒径を同様に測定したところ、平均粒径は1.6μmであり、上記微粒子よりもさらに粒径の細かい微粒子を得ることができた。本発明により、微細化したポリフェニレンサルファイド微粒子が得られることが分かった。
【0080】
(実施例1)
酢酸 (関東化学社製)にて9質量%に調整した過酢酸溶液20.0g(三菱ガス化学社製)を反応容器に投入し、60℃で攪拌した。次に参考例1で得られた、ポリ−p−フェニレンサルファイド(PPS)微粒子70.6mg(平均粒径 7.26μm)をその反応溶液に浸漬させて60℃、3時間反応させた。得られた混合液を吸引ろ過を行った。60℃、真空下にて12時間乾燥をおこなったところ、91.6mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)微粒子を得た。本微粒子を示差走査熱量計(DSC)にて測定を行ったところ、PPSの融点(285℃)が消失し、不融化した微粒子であり、高耐熱微粒子であることがわかった。
【0081】
また、本微粒子に関し、熱重量測定を行ったところ、5%減量温度は、450℃であった。
【0082】
(実施例2)微粒子耐熱性評価
300℃における耐熱性の評価を行うために、ホットプレート上に微粒子を置き、その性状変化を顕微鏡にて観察を行った。
【0083】
なお、総合評価とは高温状態での分解および形状安定性について総合的に評価したものであり、その基準は、○:300℃における分解挙動がなく、目視での形状が安定しているもの、×:300℃で分解挙動を示す、もしくは黙視での形状が安定せず、溶融または溶融開始しているものとした。
【0084】
【表1】

【0085】
以上の結果から、本発明における微粒子の耐熱性が高いことが示せた。
【0086】
(実施例2)
実施例1にて得られたポリ−p−フェニレンスルホキシド微粒子50mg を5%ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテル(商品名;TritonX-100 アルドリッチ社製水溶液50gに加え、超音波照射を2分行い、攪拌を行った。その結果、良好な分散液が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明で得られたポリアリーレンサルフォン微粒子は、微細でかつ粒径の細かい微粒子であり、耐熱性、耐薬品性に優れることから、微粒子単独としてもまた微粒子の分散液としても、特に接着剤、塗料、印刷インク中の分散剤、医療用担体、磁気記録媒体、化粧品の基材、プラスチックの改質剤、クロマトグラフィー担体、相関絶縁膜用材料等の用途に幅広く用いることができる。
【0088】
また、本発明の製法は、工業的に容易に入手可能な試薬を用い、簡便な手法でかつ効率良く、工業的に優れた手法でポリアリーレンサルファイド微粒子を得る製造法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表す。)で示される構造単位を50質量%以上有し、かつ平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルフォン微粒子。
【請求項2】
ポリアリーレンサルフォンが、ポリ(フェニレンサルフォン)であることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンサルフォン微粒子。
【請求項3】
平均粒径が50μm以下のポリアリーレンサルファイド微粒子を出発基質とし、これを酸化剤の存在下、酸化させることを特徴とするポリアリーレンサルフォン微粒子の製造法。
【請求項4】
酸化剤が、無機過酸化物および/または有機過酸化物であることを特徴とする請求項3記載のポリアリーレンサルフォン微粒子の製造法。
【請求項5】
酸化剤が、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸のうち少なくともひとつから選ばれる酸化剤であることを特徴とする請求項4記載のポリアリーレンサルフォン微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のポリアリーレンサルフォン微粒子、または請求項3〜5のいずれか記載の製造方法で得られたポリアリーレンサルフォン微粒子を界面活性剤を含有する水に分散させた分散液。
【請求項7】
請求項1または2記載のポリアリーレンサルフォン微粒子、または請求項3〜5のいずれか記載の製造方法で得られたポリアリーレンサルフォン微粒子を有機溶媒に分散させた分散液。

【公開番号】特開2007−177155(P2007−177155A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379472(P2005−379472)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】