説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法

【課題】加工時に発生するガスが少なく、かつ耐衝撃特性等の機械的特性に優れた高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒中でジハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを重合反応させた後のポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを、(I)重合溶媒と同じ有機溶媒中で攪拌処理した後、固液分離する工程、次いで(II)水洗した後、固液分離する工程、次いで(III)水と無機酸および/又は有機酸を加え、スラリーのpHを6〜8として処理した後、固液分離する工程を含むポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂から加工時に発生するガスが少なく、かつ耐衝撃特性等の機械的特性に優れた高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の中でもポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、高剛性、成形加工性に優れ、かつ、難燃性、耐薬品性、寸法安定性、電気特性に優れた性能を有するため高機能、高性能のエンジニアリングプラスチックとして注目されている。また近年は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を脱イオン処理し、エポキシ基やシリル基を有するエラストマ−やカップリング剤と反応させて改質し、機械的特性、特に耐衝撃性、耐ヒートサイクル性が必要な自動車部品、電気電子部品、水廻り部品用途としても幅広く使用され、その需要は急速に拡大している。
【0003】
一方、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一般に射出成形時に発生するガスによって金型内に付着した物質によって金型メンテナンス頻度が増加する問題、またプロジェクター、プロジェクションTVなど高温で使用されている部品においては、使用時にポリアリーレンスルフィド樹脂から発生するガスによってレンズを曇らせてしまうなどの問題がある。特に脱イオン処理のため酸洗浄されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述のように機械特性に優れる反面、ポリマー末端がカルボキシル基や水酸基やチオール基となるため分解し易く、押出時や成形時に加熱した際に発生するガスが増えるという欠点を有していた。このため、これまでに脱イオン処理や酸洗浄処理の方法が種々提案されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1、2、3には、有機溶媒と無機酸または有機酸を加え、固液分離した後、pH7〜9にして処理する方法が開示されているが、重合後の系はアルカリ性であるため多くの酸薬剤が必要となる上、溶媒による有機性不純物の除去と脱イオン処理が区分されていないため効率が悪いという問題がある。更に処理後の有機溶媒中には酸が混入し、また多量の塩も水分と共に混入するため、蒸留回収の前処理として中和や分離などの工程が必要となり高コストであり好ましくない。
【0005】
特許文献4には、酸処理後と有機溶媒処理を組み合わせる記載があるが、酸処理後のpHは7未満とされている。pHを7未満まで脱イオン処理した場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂末端の脱イオン処理が進み過ぎ、上述のように耐熱性が低下するため返ってガスが発生し易くなり好ましくない。また、ポリマー中に酸が残存することにより押出や成形時のための加熱溶融時に分解が促進されガスが発生し易くなるという欠点がある。
【0006】
特許文献5、6には、脱イオン処理方法として、酸水溶液処理、熱水処理、有機溶媒洗浄の中から選ばれた少なくとも一つの方法が開示されている。ここに挙げられるそれぞれの洗浄は、溶媒洗浄では主に有機イオン性不純物の除去、酸処理では主にポリマー末端の脱イオン化、熱水洗浄では主に無機イオン性不純物の除去が行われるため、任意に選んだ場合には低ガス性と機械特性改質のための末端反応性とのバランスが良いポリアリーレンスルフィド樹脂が得られない場合があり、好ましくない。また、特許文献6にはナトリウム含有量を500ppm以下としたポリアリーレンスルフィド樹脂が開示されているが脱イオン処理が進み過ぎており好ましくない。
【0007】
特許文献7にはアセトン/水混合溶媒中で測定したpHが5.5〜8.8となるような洗浄方法。特許文献8にはアセトン/水混合溶媒中で測定したpHが7〜12となる洗浄方法、具体的には洗浄工程の最初の段階で親水性有機溶媒処理、最終洗浄段階で水または水と親水性有機溶媒との混合液からなる洗浄液を用いて洗浄しかつ洗浄後のpHが8.0〜11.0の範囲となるように洗浄条件を制御する洗浄方法が開示されている。しかしながら、上述のように水洗浄や脱イオン処理と有機溶媒洗浄とは目的が異なるため同じ工程で実施すると効率が悪い。また、洗浄後のpHが8.0〜11.0では系がアルカリとなり、脱イオン処理が十分進まずナトリウム含有量が高く機械的特性改質のための反応性が確保できないという問題がある。更にはアセトンなど重合溶媒と異なる有機溶媒を使用した場合、回収する溶媒種が増えるため回収工程が複雑化し好ましくない。
【特許文献1】特開2000−2393831号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2000−136246号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平8―198965号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−293934号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平4−236264号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平6−49356号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平11−209617号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2005−225931号公報(特許請求の範囲、一般記載)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂から加工時に発生するガスを低減させ、かつ耐衝撃特性等の機械的特性に優れた高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを洗浄する際、有機溶媒処理にて十分に有機不純物を除去し、次いで水洗し、次いで少量の酸を添加して適当なpHにコントロールしつつ脱イオン化処理することにより、耐熱性と反応性のバランスに優れるポリマー末端構造とすることが可能となり、低ガス性と耐衝撃性などの機械特性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂が得られることを見出し本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
1.有機溶媒中でジハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを重合反応させた後のポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを、
(I)重合溶媒と同じ有機溶媒中で攪拌処理した後、固液分離する工程、次いで
(II)水洗した後、固液分離する工程、次いで
(III)水と無機酸および/又は有機酸を加え、スラリーのpHを6〜8として処理した後、固液分離する工程
を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
2.工程(III)の処理温度が70℃〜95℃である1.記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
3.工程(III)に使用する酸が酢酸であることを特徴とする1.または2.記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
4.1.〜3.の何れかに記載の製造方法により得られるナトリウム含有量500ppm〜1000ppmのポリアリーレンスルフィド樹脂。
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、加工時に発生するガスを低減させ、耐衝撃特性、ヒートサイクル特性などの機械特性とのバランスに優れた高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法の提供が可能となる。またシンプルな洗浄工程、溶媒回収工程とすることが可能となり、安価で安定なポリアリーレンスルフィド樹脂製造工程を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法について説明する。
【0013】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂とは、下記式で表される繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたは、
【0014】
【化1】

【0015】
上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり、1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の下記繰り返し単位とからなる共重合体である。
【0016】
【化2】

【0017】
[アルカリ金属硫化物]
本発明で用いるアルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウムおよび硫化セシウムなどが挙げられ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0018】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カ
リウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウムおよび水硫化セシウムなどが挙げら
れ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水
硫化物は、水和物または水性混合物、水溶液として、あるいは無水物の形で用い
ることができる。
【0019】
硫黄源の添加時期には特に制限は無く、後述する前工程、重合工程いずれの段階でも系内に導入可能であるが、重合工程の前までに導入するのが最も好ましい。
【0020】
[ジハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるジハロゲン化芳香族化合物の具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1,4−ジクロロナフタレン、1,5−ジクロロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、および4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどが挙げられ、これらのなかでもp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、および4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどが好ましく用いられ、特にp−ジクロロベンゼンが更に好ましく用いられる。なお、異なる2種類以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることももちろん可能であり、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物の併用も可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0021】
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のポリアリーレンスルフィド樹脂を得る点から、硫黄成分1モルに対して0.1から3.0モル、好ましくは0.5から2.0モル、更に好ましくは0.9から1.2モルの範囲である。
【0022】
ジハロゲン化芳香族化合物の添加時期には特に制限はないが、重合工程の前までに系内に導入することが好ましい。
【0023】
[重合溶媒]
本発明においては、重合溶媒として有機極性溶媒を用いるが、この有機極性溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,
N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン
およびテトラメチレンスルホキシドなどが挙げられ、なかでもN−メチル−2−
ピロリドンが好ましく用いられる。
【0024】
有機極性溶媒の使用量は、反応系の有機極性溶媒量が、硫黄成分1モルに対して0.8から10モル、好ましくは2から8モル、より好ましくは3から7モルの範囲である。有機極性溶媒量が上記の範囲未満では、好ましくない反応が起こりやすくなり、上記の範囲を越えると、重合度が上がりにくくなる。
【0025】
有機極性溶媒の添加時期には特に制限はないが、重合工程の前までに系内に導入することが好ましい。
【0026】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制することができる。重合安定剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、及びアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属塩を併用することも可能である。なかでも、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物が好ましい。
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムおよび水酸化マグネシウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0027】
重合安定剤の導入時期については特に制限はないが、重合工程の前までに系内に導入することが好ましい。 このアルカリ金属塩の使用量としては、硫黄成分1モルに対して1.00モルから2.00モル、好ましくは1.005モルから1.5モル、更に好ましくは1.01モルから1.20モルの範囲が好ましい。
【0028】
[重合助剤]
本発明においては、必要に応じて重合助剤を用いることができる。ここで、重合助剤とは、得られるポリマー粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。
【0029】
このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独または2種以上を同時に用いることができる。なかでも有機カルボン酸塩や水が好ましく用いられる。
【0030】
有機カルボン酸塩の具体例としては、式R(COOM)(式中Rは炭素数1から20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。)により表される化合物が挙げられる。より具体には、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウムおよびp−トルイル酸ナトリウムなどが挙げられる。有機カルボン酸塩は、有機極性溶媒中で有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩よりなる群から選ばれる1種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して、反応させることにより形成させてもよい。有機カルボン酸塩は1種または2種以上を同時に用いることができる。なかでも酢酸リチウムおよび/または酢酸ナトリウムが好ましく用いられ、安価で入手しやすいことから酢酸ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0031】
水は有機金属カルボン酸塩水和物または水溶液、アルカリ金属硫化物の水和物または水溶液、およびアルカリ金属水硫化物の水溶液として反応系内に存在するもの、あるいは反応系内に直接添加するもののいずれか一方でも両方でもよい。
【0032】
重合助剤を系内に導入する時期については特に制限はなく、前工程、重合工程のいずれの段階であっても系内に導入することが可能である。
【0033】
この重合助剤の使用量としては、好ましくは硫黄成分1モルに対して0.01モルから20モルであり、より好ましくは硫黄成分1モルに対して0.04モルから15モルであり、更に好ましくは硫黄成分1モルに対して0.07モルから15モルである。0.01モルよりも少ないとポリマー粘度を増大の効果を得ることができず、20モルよりも多いと重合速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0034】
[前工程]
重合工程の前に、完全混合型反応器に硫黄源、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒、必要に応じてアルカリ金属塩および重合助剤を加え、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、常温から220℃の範囲で脱水反応を行い、反応系内の水分量の調節を行ってもよい。ここでの完全混合型反応器とは、オートクレーブが挙げられる。
【0035】
ここでいう反応系の水分量とは、原料仕込み時に水溶液および水和物として反応系内に導入した水分量から、反応系外に除去された水分量を差し引いた量である。この量に特に制限はないが、特に仕込みの硫黄成分1モルに対して、好ましくは0から2.0モルの範囲であることが、重合速度、副生成物抑制の点から好ましい。
【0036】
[重合工程]
重合温度は、特に規定はないが、好ましくは210℃〜300℃であり、より好ましくは220℃から290℃であり、更に好ましくは225℃から285℃である。210℃よりも重合温度が低いと重合が不十分となり、目的のポリアリーレンスルフィド樹脂を得ることができず、300℃よりも重合温度が高いと分解が発生し、好ましくない。
【0037】
重合時間は、他の反応条件によって広く変化するため特に規定はないが、一般には、0.01〜10時間、好ましくは0.2〜7時間、さらに好ましくは0.5〜5時間の範囲内である。重合時間が0.01よりも短いと重合度が上がらず、10時間よりも長いと生産性が悪くなり好ましくない。
【0038】
そして、この重合は一般に、窒素のような不活性雰囲気下で行われるのが好ましい。
【0039】
この時の重合時間は、他の反応条件によって広く変化するため特に規定はないが、一般には、各反応器において、0.01〜10時間、好ましくは0.1〜7時間、さらに好ましくは0.5〜5時間の範囲内である。重合時間が0.01よりも短いと重合度が上がらず、10時間よりも長いと生産性が悪く好ましくない。
【0040】
[回収方法]
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。
【0041】
フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法である。
【0042】
但し、本発明の回収法はどちらかに限定されるものではなく、本発明の要件を満たす方法であれば、どちらの回収方法でも良い。しかし、性能を鑑みた場合、フラッシュ法で回収された固形物は、ポリマーと共に副生成物を大量に含むため、有機溶媒洗浄工程での除去量多く不利であり、一方、クエンチ法は重合反応終了後の重合溶媒を含むスラリーに同一の溶媒を追加添加して有機溶媒処理を実施できるため本発明の回収法として好ましい。
[工程(I)有機溶媒処理] 本発明では、上記何れかの方法で回収されたポリアリーレンスルフィドを含むスラリーに有機溶媒を添加し攪拌処理した後固液分離する。これは重合時に副成しガス発生の要因となるオリゴマー、有機不純物、イオン性有機不純物を有機溶媒に溶解して除去するために実施する。この処理は更に後工程での脱イオン処理を容易ならしめるため、重合反応終了後のスラリーを水洗する前に適用し、また十分な除去効果を得るために攪拌処理した後に固液分離を行う。この工程は必要に応じて2回以上繰り返しても良いが、あまり多く繰り返すと処理工程が複雑となるため好ましくなく、4回以下が好ましく適用され、より好ましくは1回以上2回以下が適用される。
【0043】
使用する有機溶媒は上述の重合溶媒と同様の溶媒を使用する。異なる溶媒を使用した場合、その溶媒の回収工程も必要となり設備が複雑化するため好ましくない。中でも、N−メチル−2−ピロリドンは、有機不純物、有機イオン性不純物の溶解性が良く好ましく用いられる。
【0044】
有機溶媒の量はスラリー中に含有するポリマー重量に対して2倍〜10倍であり、より好ましくは3倍〜6倍である。この量が少な過ぎると不純物除去効果が小さく、多過ぎると溶媒回収コストが高くなり好ましくない。
【0045】
有機溶媒処理温度は70℃以上150℃以下が好ましく使用される。温度が低すぎると処理効率が低下し、温度が高すぎると溶媒の蒸気圧が上昇するため好ましくない。攪拌滞留時間は5分以上60分以下が好ましく使用される。時間が短すぎると処理効率が低下し、時間が長すぎると設備の規模が大きくなり過ぎるため好ましくない。
【0046】
[工程(II)水洗浄]
次に、上記で得られたポリマーに水を加え攪拌処理を行い水洗した後、固液分離する。この時のポリマーと水の割合は、水が多い方が好ましいが、通常、浴比3以上が選択される。本発明では洗浄を効率良く行うためするため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0047】
[工程(III)酸処理]
次に、上記で得られたポリマーに水と酸を加え攪拌することよって脱イオン化処理後、固液分離を行う。本発明の酸処理に用いる酸は、ポリマーを分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸などの無機酸、炭酸およびプロピル酸などの有機酸が挙げられ、これらを組み合わせて使用しても良い。なかでも酢酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなポリアリーレンスルフィド樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0048】
本発明の酸処理はポリマー末端の耐熱性と反応性のバランスを良好に保つ観点からスラリーのpHが6以上8以下となるように酸の添加量をコントロールしつつ、より好ましくは、pH6.5以上7.5以下となるようにコントロールしつつ実施する。このpHが低すぎると脱イオン化が進み過ぎ耐熱性が不十分となり、pHが高過ぎるとナトリウム含有量が多く反応性が不十分となり好ましくない。
【0049】
なお、スラリーのpHは固液分離せず直接測定した値であり、既知の方法、具体的にはpHメーター、pH試験紙、指示薬を用いる方法などで測定すれば良い。中でも、工程監視上好ましいしのはpHメーターを用いる方法である。
【0050】
酸洗浄する時の処理温度は70℃以上95℃以下が好ましい。この温度が低すぎると脱イオン化処理効率が低く、高過ぎると水の沸騰を抑えるために高圧下での処理が必要となり好ましくない。
【0051】
以上のように、本発明では上記の有機溶媒処理、水洗、酸処理が何れも必要であり、かつこれらをその順番で実施することにより耐熱性と反応性のバランスの取れたポリアリーレンスルフィド樹脂を得る。また、本発明における固液分離の方法は特に制限は無く既知の方法、具体的にはスクリーン分離、濾過、遠心分離などの方法が好ましく用いられる。このようにして得られたポリアリーレンスルフィドを含むスラリーは上記酸処理の後、固液分離して乾燥工程に導入しても良いが、更に水洗などの工程で洗浄し固液分離した後に乾燥しても良い。
【0052】
[乾燥処理・熱処理]
本発明における処理を行った後に、水分除去を目的とした乾燥処理および揮発分除去或いは溶融粘度を上げるために熱処理を行うことも可能である。以下にその方法について記す。
【0053】
乾燥処理の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましく、不活性ガスまたは活性ガスから少なくとも1つから選ばれるガス雰囲気下において行われる。処理温度としては110〜250℃が好ましく、120〜220℃の範囲がより好ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。乾燥処理装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置、流動層乾燥機、回転式乾燥機であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0054】
一方、熱処理温度としては、160〜270℃が好ましく、より好ましくは190〜260℃である。270℃を上回る温度で熱処理を行うと、熱処理が急激に進行もしくは、ポリマーが溶融し始めるため、その制御が困難となるため好ましくない。一方、160℃未満の温度では、熱処理の進行が著しく遅くなり生産性が低下するため好ましくない。処理時間は、0.2〜50時間が挙げられ、0.4〜10時間がより好ましい。熱処理のための加熱装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置、流動層乾燥機、回転式乾燥機であってもよいが、効率よく均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置、流動層乾燥機を用いるのがより好ましい。
【0055】
熱処理の際の雰囲気における酸素濃度の上限には特に制限はないが、安全性を考慮して50体積%程度が好ましく、25体積%以下がより好ましい。 このような工程を経て得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、含有不純物量が少なく、繊維、フィルム、成形品等の加工時や製品使用時に高温となった時に発生するガスも少ないため、加工性に極めて優れている。更に、エポキシ基やシリル基を有するエラストマ−やカップリング剤と反応させて、耐衝撃性、耐ヒートサイクル性などの機械特性に優れる高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂が得られる。
【0056】
[ナトリウム含有量]
このようにして得られた本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸処理を行うときのpHを6〜8にコントロールすることで、ナトリウム含有量500〜1000ppmのものを得ることができ、耐熱性と反応性のバランスが良好となる。好ましくは500〜800ppmであり、更に好ましくは500〜700ppmである。この量が500ppm未満の場合は、脱イオン化が進み過ぎ耐熱性が不十分となり、1000ppmを越えると反応性が不十分となり好ましくない。
【0057】
なお、ナトリウム含有量は以下に示す方法で測定した値を使用した。得られたポリマーを500℃で焼成し、次いで530℃で6時間焼成して得られた灰分を塩酸で溶解し、原子吸光光度計:AA−6300(島津製作所製)で測定した。
【0058】
[発生ガス量]
本発明の発生ガス量の測定には、以下に示す方法で算出した。
【0059】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を130℃の真空オーブンにて3時間乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂3gをガラスアンプル管に真空封入した。該ガラスアンプル管の片側(ポリフェニレンスルフィド樹脂のある方)を320℃に設定されたセラミックス電気管状炉:ARF−30K(アサヒ理化製作所製)に2時間放置し、その後、ガラスアンプル管の非加熱部(ポリフェニレンスルフィド樹脂のない方)を先端から約10cm程を切り落とす。切り落としたガラスアンプル管の初期重量とガラスアンプル管に凝集・付着した成分をクロロナフタレン5gで洗浄した後、3時間、60℃で乾燥させたガラス管の重量との差から真空状態で320℃、2時間後のポリフェニレンスルフィド樹脂からの発生物質量を算出した。最終的に、この得られた発生物質量を初期のポリフェニレンスルフィド樹脂量3gで割った値を発生ガス量として算出した。
【0060】
[溶融粘度]
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い、孔長10.00mm、孔直径0.50mmのダイスを用い、316℃で溶融粘度の測定を行った。
【0061】
また、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、単独で用いてもよいし、エポキシ基など官能基を有する樹脂やシリル基など官能基を有するカップリング剤などと反応させることにより耐衝撃性、耐ヒートサイクル性などの機械特性を改質して使用することができる。これら官能基を有する樹脂の具体例としては、さらには、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミドアセタールおよびポリイミドなどの樹脂を配合して用いることもできる。
エポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、ウレイドシラン化合物、イソシアネートシラン化合物のほか種々のものが使用できる。
【0062】
シリル基を有するカップリング剤の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0063】
また、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの無機繊維やチタン酸カリウムウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、ワラステナイト、セリサイト、カオリンなどのウィスカを添加することができ、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケート、などのケイ酸塩、アルミナ、塩化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの金属化合物、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸バリウム、硫酸カリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素及びシリカなどの無機充填剤、着色防止剤、可塑剤、防食剤、酸化防止剤、熱安定剤、渇剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、離型剤、結晶核剤等の添加剤および着色剤などの添加剤を添加することもでき、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質が優れ、特に含有不純物量が少ないため溶融時の発生ガスが少ないという優れた特徴を有するものであり、押出成形による繊維、シート、フィルムおよびパイプなどの押出成形用さらには射出用の成形品としても幅広く利用可能である。
【0064】
これら成形品の具体的用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、プロジェクター部品、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品;照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品;その他各種用途が例示できる。
【実施例】
【0065】
次に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限を受けるものではない。
【0066】
[ナトリウム含有量]
ナトリウム含有量は以下に示す方法で測定した値を使用した。得られたポリマーを500℃で焼成し、次いで530℃で6時間焼成して得られた灰分を塩酸で溶解し、原子吸光光度計:AA−6300(島津製作所製)で測定した。
【0067】
[発生ガス量]
ポリフェニレンスルフィド樹脂を130℃の真空オーブンにて3時間乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂3gをガラスアンプル管に真空封入した。該ガラスアンプル管の片側(ポリフェニレンスルフィド樹脂のある方)を320℃に設定されたセラミックス電気管状炉:ARF−30K(アサヒ理化製作所製)に2時間放置し、その後、ガラスアンプル管の非加熱部(ポリフェニレンスルフィド樹脂のない方)を先端から約10cm程を切り落とす。切り落としたガラスアンプル管の初期重量とガラスアンプル管に凝集・付着した成分をクロロナフタレン5gで洗浄した後、3時間、60℃で乾燥させたガラス管の重量との差から真空状態で320℃、2時間後のポリフェニレンスルフィド樹脂からの発生物質量を算出した。最終的に、この得られた発生物質量を初期のポリフェニレンスルフィド樹脂量3gで割った値を発生ガス量として算出した。
【0068】
[溶融粘度]
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い、孔長10.00mm、孔直径0.50mmのダイスを用い、316℃で溶融粘度の測定を行った。表1に示す溶融粘度は、せん断速度1000/秒の時の値を用いた。
【0069】
実施例1
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.205kg(2.5モル)およびN―メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略称する)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.719kg(25.3モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約30分間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに90℃の温水15Kgで4回洗浄、濾過を繰り返した。これを90℃に加熱されたpH6の酢酸水溶液25Kg中に投入し、約30分間攪拌し続けた際pHが6.4となった。次いで窒素雰囲気下150℃で5時間乾燥して、溶融粘度450ポアズ、発生ガス量0.3%、ナトリウム含有量580ppmのPPS−1を得た。
【0070】
比較例1
反応生成物を冷却後、NMPの投入を行わず濾過した以外は、実施例1と同様にして洗浄を行い、pH6の酢酸水溶液処理時のスラリーpHは8となった。更に実施例1と同様の乾燥を行い、溶融粘度520ポアズ、発生ガス量2.2%、ナトリウム含有量800ppmのPPS−2を得た。
【0071】
比較例2
反応生成物を冷却後、90℃の温水洗浄までは実施例1と同様に行い、次に、これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25Kg中に投入し、約30分間攪拌し続けた際pHが4.3となった。更に、実施例1と同様に乾燥を実施し、溶融粘度450ポアズ、発生ガス量0.6%、ナトリウム含有量240ppmのPPS−3を得た。
【0072】
比較例3
反応生成物を冷却後、90℃の温水洗浄までは実施例1と同様に行い、次いで、更に90℃温水15kgにて洗浄を実施した際pHが9.8となった。実施例1と同様に乾燥を実施し、溶融粘度540ポアズ、発生ガス量0.3%、ナトリウム含有量1100ppmのPPS−4を得た。
【0073】
比較例4
反応生成物を冷却後、100℃に加熱されたNMP10kg中に投入し、その中にpH4の酢酸水溶液25Kgを追加投入し、約30分間攪拌し続けたのち、濾過した。さらに90℃の温水15Kgで4回洗浄した。最終洗浄時のpHは6.4となった。実施例1と同様に乾燥を実施し、溶融粘度520ポアズ、発生ガス量1.2%、ナトリウム含有量900ppmのPPS−5を得た。
【0074】
これらの実施例および比較例の条件および分析結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1は本発明の方法である。
【0077】
比較例1は、有機溶媒処理が無い場合であり、発生ガスの低減効果が低い結果となった。
【0078】
比較例2は、洗浄時のpHが低い場合であり、発生ガスの低減効果が低い結果となった。
【0079】
比較例3は、洗浄時のpHが高い場合であり、ナトリウム含有量が高い結果となった。
比較例4は、有機溶媒処理と酸処理を同時に実施場合であり、洗浄効率が悪く発生ガスの低減効果が低い結果となった。
【0080】
これらの比較から本発明でポリフェニレンスルフィド樹脂を製造した場合、発生ガスが少なく、かつナトリウム含有量が最適量となり、低ガス性と反応性のバランスに優れるポリアリーレンスルフィド樹脂が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中でジハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを重合反応させた後のポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを、
(I)重合溶媒と同じ有機溶媒中で攪拌処理した後、固液分離する工程、次いで
(II)水洗した後、固液分離する工程、次いで
(III)水と無機酸および/または有機酸を加え、スラリーのpHを6〜8として処理した後、固液分離する工程
を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
工程(III)の処理温度が70℃〜95℃である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
工程(III)に使用する酸が酢酸であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により得られるナトリウム含有量500ppm〜1000ppmのポリアリーレンスルフィド樹脂。

【公開番号】特開2010−77347(P2010−77347A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250251(P2008−250251)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】