説明

ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物及びその製造方法

【課題】UV硬化不良や物性の低下等の不具合を起こすことがなく、光による劣化が効果的に防止された透明樹脂の原料となるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
[CH=CR−COO−(AO)−]−X (1)で表されるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法であって、該ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法は、(i)アルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程、(ii)該アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程、(iii)エステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程、及び、(iv)エステル交換反応系から軽沸分を除去する工程をこの順に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物及びその製造方法に関する。より詳しくは、光学部材、照明部材、自動車部材等に用いられる透明樹脂等の種々の用途に好適に用いられるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ガラス等の透明無機材料に比べて成形加工性が良好であることから、光学部材、照明部材、自動車部材等をはじめとする様々な産業分野において利用されている透明樹脂の原料として用いられるものである。
このような透明樹脂の原料として用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物の1つに、構造中にポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物がある。ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物から製造された透明樹脂を利用した製品として、例えば、エチレンオキサイドで変性されたビスフェノールAのジメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸とネオペンチルグリコールのエステルジアクリレート、及び、フェノキシ(エトキシ)エチルアクリレートを特定の割合で含む紫外線硬化型樹脂によるレンズ部を有するレンズシートが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この紫外線硬化型樹脂は、芳香族炭化水素構造を有しているため、可視光の短波長領域から紫外領域の発光波長分布を有する光源からの光に対する耐光性のレベルが充分なものではなかった。
【0003】
また(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させて得られる樹脂は、光、特に紫外線(UV光)により劣化しやすい性質を有しており、この劣化の防止のため、紫外線吸収剤が添加されることがある。このような、(メタ)アクリル酸エステル化合物に紫外線吸収剤を添加した組成物として、アルキレンオキシジ(メタ)アクリレート、特定の構造を有する光重合開始剤、及び、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の少なくとも1種を特定の割合で配合した光硬化性組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、ポリオキシアルキレン鎖の短いものについては、硬化時の収縮による成形不具合や、寸法安定性等の点において、充分なものではなく、ポリオキシアルキレン鎖の長いものについては、硬化物の耐水性等の点において充分なものではなかった。また、紫外線吸収剤の添加は、UV硬化不良や物性の低下等を起こすことから、このような不具合を起こすことなく、樹脂の光による劣化を防止することができる方法が求められている。
【特許文献1】特開平6−26383号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特許第3055068号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、UV硬化不良や物性の低下等の不具合を起こすことがなく、光による劣化が効果的に防止された透明樹脂の原料となるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び、その製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、UV硬化不良や物性の低下等の不具合を起こすことがなく、光による劣化が効果的に防止された透明樹脂の原料となるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物について種々検討したところ、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させた樹脂の光による劣化の原因が、(メタ)アクリル酸エステル化合物に不純物として極微量含まれるブレンステッド酸成分にあることを見いだした。ブレンステッド酸成分は、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造において、(1)アルコールへのアルキレンオキサイド付加反応時に使用する触媒、(2)アルコールへのアルキレンオキサイド付加反応後の反応溶液の中和に使用する中和剤、(3)アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応に使用する触媒、(4)アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応後の反応溶液の中和に使用する中和剤として使用されること、及び、エステル化反応に用いる(メタ)アクリル酸もブレンステッド酸であることから、(a)アルコールへのアルキレンオキサイド付加反応時の触媒としてブレンステッド酸を使用せず、(b)反応後の反応溶液の中和にブレンステッド酸を使用せず、かつ(c)エステル化をアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応ではなく、アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応により行うことにより、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させた樹脂の光による劣化を防止することができることを見いだした。
【0006】
本発明者等は、これらの要件を満たす製造方法とするために、アルコールへのアルキレンオキサイド付加反応時の触媒としてアルカリ(土類)金属水酸化物を用い、更に、このアルカリ(土類)金属水酸化物によるエステルの着色を防止するために、アルコールへのアルキレンオキサイド付加反応後にアルカリ(土類)金属水酸化物を除去して、エステル交換反応を行えばよいことを見いだし、これにより、UV硬化不良や物性の低下等の不具合を起こすことがなく、光による劣化が効果的に防止された透明樹脂の原料となるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造することができることを見いだした。
また、本発明者等は、このようにして製造されたポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物において、アルカリ(土類)金属分の含有割合、及び、ブレンステッド酸及びその塩の含有割合が一定量以下となるようにすると、光による劣化が効果的に防止され、様々な産業分野において利用可能な透明樹脂の原料としてより好適に用いることができるものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0008】
[CH=CR−COO−(AO)−]−X (1)
【0009】
(式中、AOは、同一又は異なって、アルキレンオキサイド残基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、有機残基を表す。nは、1以上の正数である。mは、1以上の正数である。)で表されるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法であって、
該ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法は、(i)アルカリ(土類)金属水酸化物を触媒として用いてアルコールにアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程、(ii)該アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程、(iii)該アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程、及び、(iv)エステル交換反応系から軽沸分を除去する工程をこの順に含んでなるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法である。
本発明はまた、下記一般式(1);
【0010】
[CH=CR−COO−(AO)−]−X (1)
【0011】
(式中、AOは、同一又は異なって、アルキレンオキサイド残基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、有機残基を表す。nは、1以上の正数である。mは、1以上の正数である。)で表されるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物であって、該ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、アルカリ(土類)金属分の含有割合が300ppm以下であり、かつブレンステッド酸及びその塩の含有割合が1ppm以下であるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法は、(i)アルカリ(土類)金属水酸化物を触媒として用いてアルコールにアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程、(ii)該アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程、(iii)該アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程、及び、(iv)エステル交換反応系から軽沸分を除去する工程をこの順に含んでなるものであるが、これらの工程を含むものである限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0013】
上記(i)アルコールにアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程において使用するアルカリ(土類)金属水酸化物は、アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる反応において、触媒として機能するものであれば特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのアルカリ金属の水酸化物、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムのアルカリ土類金属の水酸化物のいずれも用いることができるが、これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カリウムの水酸化物のいずれかが好ましい。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0014】
上記アルカリ(土類)金属水酸化物の添加量としては、アルコールとアルキレンオキサイドの総量100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、また、2質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.02質量部以上、1質量部以下である。更に好ましくは、0.05質量部以上、0.5質量部以下である。0.01質量部未満であると、触媒としての機能を充分に発揮できないおそれがあり、また、2質量部を超えて添加すると、ポリアルキレンオキサイド付加物が着色しやすくなったり、またそれ以上のアルキレンオキサイド付加アルコールの収率向上の効果が得られず、反応後に除去するアルカリ(土類)金属水酸化物の量が多くなることから好ましくない。
【0015】
上記(i)アルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程においては、アルコールに1モルに対して1〜100モルのアルキレンオキサイドを用いることが好ましい。より好ましくは、アルコールに1モルに対して1.5〜50モルのアルキレンオキサイドを用いることである。更に好ましくは、アルコール1モルに対して2〜20モルのアルキレンオキサイドを用いることである。また、アルキレンオキサイドとしては、炭素数1〜4のアルキレンオキサイド等が好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド等が好ましく、特にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドがより好ましい。アルキレンオキサイドは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
またアルコールに付加するアルキレンオキサイドの数としては、1〜100が好ましい。より好ましくは、1.5〜50である。更に好ましくは、2〜20モルである。上記一般式(1)におけるnは、アルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程において、アルコールに付加するアルキレンオキサイドの数によって決まることになる。
【0016】
上記(i)アルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程において用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エイコシルアルコール等の1価アルコール類;ブチルエチルプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,6−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール、シクロヘキサンジメタノール等の炭素数4〜20のアルカンジオール、ネオペンチルグリコールとヒドロキシピバリン酸とのモノ又はジエステル化物、β,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジエノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール類;トリメチロールエタン、ジメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールヘキサン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、果糖、ショ糖等の3価以上のアルコール類;ポリビニルアルコール;これらの化合物が有する酸素原子の1個以上が硫黄原子に置換したチオアルコール類等が挙げられる。
上記一般式(1)において、Xで表される有機残基部分の構造、及び、mの値は、使用するアルコールによって決まることになる。
【0017】
上記アルコールの中でも、β−水素のないアルコール、すなわちβ−水素を含有しないアルコールを少なくとも使用することが好ましい。これにより、得られるアルキレンオキサイド付加アルコール、及び、アルキレンオキサイド付加アルコールを用いて得られる(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色がより充分に低減されるとともに、(メタ)アクリル酸エステル化合物の硬化物における耐光性や耐候性、無色透明性等の物性がより充分に向上されるため、例えば、光学材料や耐光性材料の原料として特に好適なものとすることが可能となる。
【0018】
上記β−水素のないアルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバリン酸とのモノ又はジエステル化物、β,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジエノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールヘキサン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の芳香族炭化水素構造を有しない1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物等が好適である。中でも、水酸基に対してβ−水素を含有しない1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物(例えば、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコールとヒドロキシピバリン酸とのモノ又はジエステル化物、β,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジエノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールヘキサン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール)等が、光による劣化や変色に対する耐性が特に高く、より好ましい。更に好ましくは、ネオペンチルグリコール及び/又はトリメチロールプロパンであり、これにより、得られるアルキレンオキサイド付加アルコール、及び、アルキレンオキサイド付加アルコールを用いて得られる(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色が充分に低減されるとともに、(メタ)アクリル酸エステル化合物の硬化物の硬化物における物性が向上されるという作用効果が更に充分に発揮されることとなる。
【0019】
上記(i)アルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程において、アルキレンオキサイドをアルコールへ付加する反応は、溶媒を用いて行ってもよく、溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、シメン等が挙げられる。
溶媒の使用量としては、反応の総仕込み量100質量部に対して30〜150質量部が好ましい。より好ましくは、40〜120質量部である。更に好ましくは、50〜110質量部である。
【0020】
上記アルキレンオキサイドをアルコールへ付加する反応の反応温度としては、80〜170℃が好ましい。より好ましくは、85〜130℃である。更に好ましくは、90〜110℃である。
【0021】
上記(ii)アルキレンオキサイド付加アルコールを製造した後に、アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程において、アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する方法としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させた樹脂の光による劣化の原因となるブレンステッド酸を用いない方法であれば、特に制限されない。アルカリ(土類)金属水酸化物を除去するとは、その後のエステル交換反応によって生成するポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色が充分に防止される程度にまで、アルカリ(土類)金属水酸化物の含有量を低減することであり、アルカリ(土類)金属水酸化物を除去した後のアルカリ(土類)金属分の含有割合は、300ppm以下であることが好ましい。残存アルカリ(土類)金属水酸化物の割合が、300ppm以下であると、このアルキレンオキサイド付加アルコールを原料として用いて製造したポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色を充分に防止することができ、高品質のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得ることができる。より好ましくは、150ppm以下であり、更に好ましくは、100ppm以下である。
なお、アルキレンオキサイド付加アルコールが含有するアルカリ(土類)金属水酸化物の含有割合、及び、後述するポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が含むアルカリ(土類)金属分、ブレンステッド酸及びその塩の含有割合は、誘導結合プラズマ分析(株式会社リガク製・CIROS 120:Inductively Coupled Plasma)等により測定することができる。
【0022】
上記(ii)アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程は、アルキレンオキサイドの付加反応により得られたアルキレンオキサイド付加アルコールから、吸着及び/又はイオン交換によりアルカリ(土類)金属を除去する工程であることが好ましい。アルカリ(土類)金属水酸化物を吸着及び/又はイオン交換により除去する方法によると、ブレンステッド酸を使用することなくアルカリ(土類)金属水酸化物を確実に除去することができ、その後のエステル交換反応の生成物であるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色を効果的に防止することができる。
【0023】
上記アルカリ(土類)金属水酸化物の吸着は、例えば、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の珪酸塩、活性白土、酸性白土、シリカゲル、イオン交換樹脂等が挙げられる。珪酸塩としては、キョーワード600、700(協和化学社製)、ミズカライフP−1、P−1S、P−1G、F−1G(水澤化学社製)、トミタ−AD600、700(富田製薬社製)等により行うことができる。これらアルカリ(土類)金属水酸化物の吸着のために使用される化合物の使用量としては、アルカリ(土類)金属水酸化物100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、また、5000質量部以下が好ましい。より好ましくは、300質量部以上であり、また、3000質量部以下である。
【0024】
上記アルカリ(土類)金属水酸化物を吸着により除去する場合、吸着処理後の吸着剤を固液分離する方法が好ましい。固液分離の方法としては、濾過、遠心分離等が挙げられる。濾過としては、濾紙、濾布、カートリッジフィルター、セルロースとポリエステルとの2層フィルター、金属メッシュ型フィルター、金属焼結型フィルター等を用い、減圧又は加圧下、温度20〜140℃の条件下で行うことが好適である。遠心分離としては、遠心分離器、例えばデカンターや遠心清澄機等を用いて行うことができる。また、必要に応じて固液分離前の液100質量部に対して水を1〜30質量部程度添加することもできる。
【0025】
上記固液分離、特に濾過の際に濾過助剤を使用することは濾過速度を向上させる点で好適である。濾過助剤としては、珪藻土、パーライト、セルロース系濾過助剤、シリカゲル等が挙げられる。珪藻土としては、セライト、ハイフロースーパーセル、セルピュアの各シリーズ(Advanced Minerals Corporation製)、シリカ#645、シリカ#600H、シリカ#600S、シリカ#300S、シリカ#100F(中央シリカ社製)、ダイカライト(グレフコ社製)等が挙げられる。パーライトとしては、ロカヘルプ(三井金属鉱業社製)、トプコ(昭和化学社製)等が挙げられる。セルロース系濾過助剤としては、KCフロック(日本製紙社製)、ファイブラセル(Advanced Minerals Corporation製)等が挙げられる。シリカゲルとしては、サイロピュート(富士シリシア化学社製)等が挙げられる。
【0026】
上記濾過助剤は、予め濾紙等のフィルター面に濾過助剤層を形成するプレコート法を用いてもよいし、濾液に直接添加するボディーフィード法を用いてもよいし、これら両方を併用してもよい。
上記濾過助剤の使用量としては、固液分離前の液100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜1.5質量部である。
なお、濾過処理速度は、濾面の大きさ、減圧度又は加圧度、処理湿度にもよるが、100kg/m・hr以上であることが好ましい。より好ましくは、300kg/m・hr以上であり、更に好ましくは、500kg/m・hr以上である。
【0027】
上記アルカリ(土類)金属水酸化物のイオン交換は、ローム・アンド・ハース社製のアンバーリスト(登録商標)やアンバーライト(登録商標)、三菱化学社製のダイヤイオン(登録商標)、ダウケミカル社製のダウエックス(登録商標)等のイオン交換樹脂により行うことができる。これらの中でも、カルボン酸系のものにより行うことが好ましい。
これらアルカリ(土類)金属水酸化物のイオン交換のために使用される化合物の使用量としては、アルカリ(土類)金属水酸化物100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、また、10000質量部以下が好ましい。より好ましくは、400質量部以上であり、また、5000質量部以下である。
【0028】
本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法において、(iii)該アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程は、アルキレンオキサイド付加アルコールの有する水酸基の反応率が高くなるように適宜反応条件等を選択して行うことができるが、アルキレンオキサイド付加アルコールの有する水酸基の反応率は、85モル%以上であることが好ましい。アルキレンオキサイド付加アルコールの有する水酸基の反応率が85モル%以上である製造方法によると、高い収率でポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得ることができる。より好ましくは87モル%である。更に好ましくは90モル%であり、最も好ましくは92モル%である。
【0029】
上記(iii)該アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程は、アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステル化合物とを反応させて、(メタ)アクリル酸エステル化合物のアルコール由来の構造部分を、アルキレンオキサイド付加アルコールと交換することにより、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程であるが、アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステル化合物との仕込み比(アルキレンオキサイド付加アルコール:(メタ)アクリル酸エステル化合物)は、収率の点及び経済性の点から、アルキレンオキサイド付加アルコールの水酸基に対して(メタ)アクリル酸エステル化合物が1〜20モル倍が好ましい。より好ましくは1.5〜10倍であり、更に好ましくは1.8〜4倍である。
【0030】
上記エステル交換反応において、原料として用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基をエステル部分に有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル類の具体例として、以下の化合物が挙げられる。(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル等の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルである。これらは、単独あるいは混合物として用いることができる。
【0031】
上記エステル交換反応は、エステル交換反応の反応率を高めるために、ブレンステッド酸触媒以外の触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、例えば、具体的には、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の酸化物;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化タリウム、水酸化スズ、水酸化鉛、水酸化ニッケル等の水酸化物;塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化スズ、塩化鉛、塩化ジルコニウム、塩化ニッケル等のハロゲン化物;炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸鉛、炭酸亜鉛、炭酸ニッケル等の炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等の炭酸水素塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ルビジウム、リン酸鉛、リン酸亜鉛、リン酸ニッケル等のリン酸塩;硝酸リチウム、硝酸カルシウム、硝酸鉛、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル等の硝酸塩;酢酸リチウム、酢酸カルシウム、酢酸鉛、酢酸亜鉛、酢酸ニッケル等のカルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、バリウムメトキシド、バリウムエトキシド、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキサノキシ)チタン等のアルコキシ化合物;リチウムアセチルアセトナート、ジルコニアアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジブトキシスズアセチルアセトナート、ジブトキシチタンアセチルアセトナート等のアセチルアセトナート錯体;テトラメチルアンモニウムメトキシド、テトラメチルアンモニウムt−ブトキシド、トリメチルベンジルアンモニウムエトキシド等の4級アンモニウムアルコキシド;ジメチルスズオキサイド、メチルブチルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド等のジアルキルスズ化合物;ビス(ジブチルスズアセテート)オキサイド、ビス(ジブチルスズラウレート)オキサイド等のジスタノキサン;ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート等のジアルキルスズジカルボン酸塩が挙げられる。これらは、単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0032】
これらのエステル交換触媒の中でも、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキサノキシ)チタン、ジルコニアアセチルアセトナート、ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ビス(ジブチルスズアセテート)オキサイド、ビス(ジブチルスズラウレート)オキサイド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートが好適に用いられる。
【0033】
上記エステル交換触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、収率の点及び経済性の点から、アルキレンオキサイド付加アルコールに対して、0.001モル%以上が好ましく、0.005モル%以上がより好ましい。更に好ましくは、0.01モル%以上であり、最も好ましくは、0.05モル%以上である。また、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい。更に好ましくは、10モル%以下であり、最も好ましくは、5モル%である。
【0034】
上記(iii)エステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程は、重合禁止剤の存在下で反応させることが、重合を抑制し、収率の点で好ましい。重合禁止剤としては、1種又は2種以上を用いることができる。重合禁止剤として、ラジカル重合禁止剤が使用できる。具体的には、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系化合物を用いたキノン系重合禁止剤;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系化合物を用いたアルキルフェノール系重合禁止剤;アルキル化ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系化合物を用いたアミン系重合禁止剤;ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジチオカルバミン酸銅系化合物を用いたジチオカルバミン酸銅系重合禁止剤;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルのエステル等のN−オキシル系化合物を用いたN−オキシル系重合禁止剤等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、好ましいラジカル重合禁止剤として、キノン系重合禁止剤、N−オキシル系重合禁止剤を挙げることができる。好ましい重合禁止剤は、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルのエステル等である。
重合禁止剤の添加量は、(メタ)アクリル酸エステル類に対して、0.0001質量%以上が好ましく、0.0002質量%以上がより好ましく、0.0005質量%以上が更に好ましく、0.001質量%以上が特に好ましい。また、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。上記重合禁止剤添加量の範囲が、収率の点、重合抑制の点及び経済性の点で好ましい。
【0036】
上記エステル交換反応は、溶媒を用いて行ってもよく、溶媒としては、上述したアルキレンオキサイドをアルコールへ付加する反応において用いられるものと同様のものを用いることができる。
溶媒の使用量としては、反応の総仕込み量100質量部に対して1〜70質量部が好ましい。より好ましくは、5〜50質量部である。更に好ましくは、10〜30質量部である。
【0037】
上記エステル交換反応の反応温度は、特に限定されるものではないが、副生するアルコールの沸点あるいは共沸温度以上であることが好ましく、具体的には、40℃以上とすることが好ましく、50℃以上が更に好ましく、60℃以上が特に好ましい。また、180℃以下とすることが好ましく、170℃が更に好ましく、160℃以下が特に好ましい。反応圧力は、特に限定されるものではなく、常圧、加圧及び減圧の何れであってもよい。また、反応時間は、上記反応が完結するように、適宜設定すればよい。
【0038】
上記共沸溶媒については、反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;等を挙げることができる。これらの共沸溶媒は、単独でも2種類以上を併用して用いてもよい。また、過剰に用いた(メタ)アクリル酸エステル化合物を共沸溶媒とすることもできる。
【0039】
上記共沸溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、収率の点及び経済性の点から、(メタ)アクリル酸エステル化合物とアルキレンオキサイド付加アルコールの合計質量の0質量%以上とすることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル化合物とアルキレンオキサイド付加アルコールの合計質量の300質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、200質量%以下である。更に好ましくは、150質量%以下であり、最も好ましくは、100質量%以下である。
【0040】
上記エステル交換反応において、反応系気相部の分子状酸素濃度は、下限を0.01容量%以上、上限を10容量%以下に設定できる。下限は、0.02容量%以上がより好ましく、0.05容量%以上が更に好ましい。上限は、9容量%以下がより好ましく、8容量%以下が更に好ましい。上記分子状酸素濃度の範囲が、収率、重合抑制、爆発回避、経済性の点で有効である。
分子状酸素濃度の設定は、分子状酸素又は空気等の分子状酸素を含むガスと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとを、反応器に別々に供給したり、予め混合して供給したりすることにより行われる。
【0041】
上記(iv)エステル交換反応系から軽沸分を除去する工程において、軽沸分を除去する方法は、特に制限されず、例えば、常圧で蒸発させる方法、減圧下に蒸留する方法等が挙げられる。これらの中でも、減圧下に蒸留する方法が好ましい。
なお、軽沸分とは、エステル交換反応系に存在するポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物よりも低い沸点を有する化合物を意味し、上記副生アルコール、原料(メタ)アクリル酸エステル、共沸溶媒等が含まれる。
【0042】
本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、アルカリ(土類)金属分の含有割合が300ppm以下であり、かつブレンステッド酸及びその塩の含有割合が1ppm以下であるものである。アルカリ(土類)金属分、ブレンステッド酸及びその塩の含有割合がこのように微量であると、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の着色が充分に防止され、更に、ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させた樹脂は、光、特に紫外(UV)光による劣化が効果的に防止されたものとなることから、各種産業分野において用いられる透明樹脂として好適に用いることができるものとなる。より好ましくは、アルカリ(土類)金属分の含有割合としては、150ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。ブレンステッド酸及びその塩の含有割合は、0.5ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることが更に好ましい。
なお、本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、アルカリ(土類)金属分の含有割合が300ppm以下であり、かつブレンステッド酸及びその塩の含有割合が1ppm以下となるように調整されたものであれば、製造方法は特に制限されないが、上述した本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法によって製造されることが好ましい。
【0043】
上記ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ハーゼン色数が300以下であることが好ましい。ハーゼン色数が300以下であるような色調を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物から製造された透明樹脂は、充分な透明性をもつものとして、光学部材、照明部材、自動車部材をはじめとする各種産業用途において好適に用いることができるものとなる。より好ましくは、ハーゼン色数が250以下のものであり、更に好ましくは、200以下のものである。
なお、ハーゼン色数は、JIS K0071−1:1998に準じて測定することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、UV硬化不良を起こさず、良好な物性を有するポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物であって、光による劣化が効果的に防止された透明樹脂の原料となるものを製造することができる製造方法である。また、本発明のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、アルカリ(土類)金属分、ブレンステッド酸及びその塩の含有割合の含有割合が少ないものであって、これにより光学部材、照明部材、自動車部材等をはじめとする様々な産業分野において利用される透明樹脂の原料として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
<アルキレンオキサイド付加工程>
攪拌装置、温度計、アルキレンオキサイド導入管、並びに、窒素ガス導入管を備えたオートクレーブに、ネオペンチルグリコール 1042g、トルエン1042g、及び、水酸化カリウム2.8gを仕込み、攪拌下に90℃まで昇温した後、反応容器内を3回窒素置換した。次に、窒素を吹き込んで反応容器内の圧力を3.2kgf/cm(1kgf/cm=9.80665×10Pa)とした。次に、エチレンオキサイド1762gを、反応途中、発熱により温度が90℃以上にならないように注意し、また反応容器内圧力が8kgf/cm以上にならないように注意しながら、約4時間かけて投入し、攪拌を行った。エチレンオキサイド投入完了後、5時間90℃で熟成した後、常温まで降温し、ポリエチレンオキサイド付加アルコールのトルエン溶液を得た。
【0047】
<アルカリ(土類)金属除去工程>
攪拌装置、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えたフラスコに、得られたポリエチレンオキサイド付加アルコールのトルエン溶液1000g、キョーワード600BUP−S(協和化学製) 18.7gを仕込み、窒素ガス雰囲気下で95℃で2時間攪拌した。次に、ろ過助剤としてシリカ#600H(中央シリカ社製)7.3gを添加し、攪拌混合後、加圧ろ過器にて温度80℃、圧力1kgf/cmにてろ布を用いてろ過したところ清澄なろ液が得られた。得られたろ液からトルエンを加熱、減圧によって除去し、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)を得た。ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)に含まれるカリウム原子の含有率を誘導結合プラズマ分析(株式会社リガク製・CIROS 120:Inductively Coupled Plasma;以下ICPと略すことがある)によって測定したところ、5ppmであった。
【0048】
<エステル化工程>
攪拌装置、温度計、ガス吹込みライン、液体添加ラインおよびオルダーショウ型精留塔(10段)を備えた3Lガラス製装置に、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)695.3g、メタクリル酸メチル640.8g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.070g、ジブチルスズオキサイド10.4gを添加し、攪拌混合した。ガス吹込みラインより7容量%酸素(窒素バランス)を液相部に吹込みながらオイルバスにより還流温度まで昇温した。塔頂部温度がメタクリル酸メチル/メタノールの共沸温度になるまで全還流し、共沸温度に達した時点を反応開始とした。塔頂部温度が共沸温度を維持するように還流比を調節しながら8時間反応を続けた。なお、副生するメタノールはメタクリル酸メチルとの共沸混合物として反応系外へ留去させ、共沸混合物中のメタクリル酸メチルと同質量のメタクリル酸メチルを反応開始から反応終了まで連続的に反応系へ添加した。
反応中、1質量%2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールのメタクリル酸メチル溶液を、上昇蒸気量に対して2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールが200質量ppmとなるよう塔頂部より連続的に添加した。
反応終了時にNMR(Varian社製・Unity Plus 400MHz)により分析した結果、原料であるポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の水酸基の97%がエステル化していることが確認された。
【0049】
<軽沸分除去工程>
攪拌装置、温度計、ガス吹込みライン、留出装置(留出ライン、コンデンサー、受器)および減圧装置を備えた2Lガラス製装置に、エステル化工程により得られた反応液を添加し、7容量%酸素ガス(窒素バランス)を液相部に吹込みながら攪拌混合し、オイルバスにより内温を80℃に調整した。減圧装置により667hPaから徐々に67hPaまで減圧し、原料メタクリル酸メチルおよび副生メタノールを留去した。
この間、1質量%2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールのメタクリル酸メチル溶液を、上昇蒸気量に対して、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールが200質量ppmとなるようコンデンサーへ連続的に添加した。
得られたエステル化物のハーゼン単位色数をJIS K0071−1:1998に準じて測定したところ、300であった。
【0050】
<物性評価>
このエステル化物100部に光重合開始剤であるダロキュアー1173(チバスペシャルティーケミカルズ社製)0.2部を入れ、ガラス板上の1mm厚のシリコーンゴムパッキンによって囲まれた内側に流し込んだ。これに厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート製のフィルムを被せ、超高圧水銀ランプにより2J/cmのUV照射を行って硬化させ、厚さ1mmの透明樹脂板を得た。
得られた透明樹脂板を超エネルギー照射試験機(スガ試験機社製)を用いて、光照射(照射強度900W/m、波長295〜450nm、湿度70%Rh)を100時間連続して行った。光照射前後のイエローインデックスの差(ΔYI)を式差計(日本電色社製、シグマ90システム)を用いて透過モードで測定したところ、1.2であった。
【0051】
実施例2
アルカリ(土類)金属除去工程において、キョーワード600BUP−S(協和化学製)を 0.72g、シリカ#600H(中央シリカ社製)0.28gとする以外は実施例1と同様の操作を行いポリエチレンオキサイド付加アルコール(2)を得た。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(2)に含まれるカリウム原子の含有率は、46ppmであった。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の代わりにポリエチレンオキサイド付加アルコール(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエステル化工程を行ったところ、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(2)の水酸基のエステル化率は、97%であった。また、得られたエステル化物のハーゼン単位色数は、130であった。更に、得られたエステル化物を用いて実施例1と同様にして透明樹脂板を得、光照射後のΔYIを測定したところ、ΔYIは、1.0であった。
【0052】
実施例3
アルカリ(土類)金属除去工程において、キョーワード600BUP−S(協和化学製)を 0.32g、シリカ#600H(中央シリカ社製)0.13gとする以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(3)を得た。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(3)に含まれるカリウム原子の含有率は、111ppmであった。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の代わりにポリエチレンオキサイド付加アルコール(3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエステル化工程を行ったところ、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(3)の水酸基のエステル化率は、97%であった。また、得られたエステル化物のハーゼン単位色数は、160であった。更に、得られたエステル化物を用いて実施例1と同様にして透明樹脂板を得、光照射後のΔYIを測定したところ、ΔYIは、1.1であった。
【0053】
実施例4
アルカリ(土類)金属除去工程において、キョーワード600BUP−S(協和化学製)を 0.2g、シリカ#600H(中央シリカ社製)0.08gとする以外は実施例1と同様の操作を行いポリエチレンオキサイド付加アルコール(4)を得た。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(4)に含まれるカリウム原子の含有率は、230ppmであった。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の代わりにポリエチレンオキサイド付加アルコール(4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエステル化工程を行ったところ、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(4)の水酸基のエステル化率は、97%であった。また、得られたエステル化物のハーゼン単位色数は、250であった。更に、得られたエステル化物を用いて実施例1と同様にして透明樹脂板を得、光照射後のΔYIを測定したところ、ΔYIは、1.2であった。
【0054】
実施例5
実施例1と同様の操作により得られたポリアルキレンオキサイド付加アルコールのトルエン溶液1000gに対して、弱酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオンWK−10(三菱化学社製)4gを添加し、25℃で一晩放置した。
これをろ過した後、得られたろ液からトルエンを加熱、減圧によって除去し、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(5)を得た。その他の工程は実施例(1)と同様に行った。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(5)に含まれるカリウム原子の含有率は、121ppmであった。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の代わりにポリエチレンオキサイド付加アルコール(5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエステル化工程を行ったところ、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(5)の水酸基のエステル化率は、97%であった。また、得られたエステル化物のハーゼン単位色数は、170であった。更に、得られたエステル化物を用いて実施例1と同様にして透明樹脂板を得、光照射後のΔYIを測定したところ、ΔYIは、1.2であった。
【0055】
実施例6
実施例1と同様の操作により得られたポリエチレンオキサイド付加アルコールのトルエン溶液からトルエンを加熱、減圧によって除去し、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(6)を得た。得られたポリエチレンオキサイド付加アルコール(6)に含まれるカリウム原子の含有率は690ppmであった。
ポリエチレンオキサイド付加アルコール(1)の代りにポリエチレンオキサイド付加アルコール(6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエステル化工程を行なったところ、ポリエチレンオキサイド付加アルコール(6)の水酸基のエステル化率は97%であった。また、得られたエステル化物のハーゼン単位色数は1000以上であった。更に得られたエステル化物を用いて実施例1と同様にして透明樹脂板を得、光照射後のΔYIを測定したところ、ΔYIは2.5であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
[CH=CR−COO−(AO)−]−X (1)
(式中、AOは、同一又は異なって、アルキレンオキサイド残基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、有機残基を表す。nは、1以上の正数である。mは、1以上の正数である。)で表されるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法であって、
該ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法は、(i)アルカリ(土類)金属水酸化物を触媒として用いてアルコールにアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド付加アルコールを製造する工程、(ii)該アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程、(iii)該アルキレンオキサイド付加アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程、及び、(iv)エステル交換反応系から軽沸分を除去する工程をこの順に含んでなる
ことを特徴とするポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイド付加アルコールは、アルカリ(土類)金属水酸化物を除去した後のアルカリ(土類)金属分の含有割合が300ppm以下である
ことを特徴とする請求項1記載のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ(土類)金属水酸化物を除去する工程は、アルキレンオキサイドの付加反応により得られたアルキレンオキサイド付加アルコールから、吸着及び/又はイオン交換によりアルカリ(土類)金属を除去する工程である
ことを特徴とする請求項1又は2記載のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記エステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程は、アルキレンオキサイド付加アルコールの有する水酸基の反応率が85モル%以上である
ことを特徴とする請求項1〜3記載のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記エステル交換反応によりポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程において、重合禁止剤としてN−オキシル化合物を用いることを特徴とする請求項1〜4に記載のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1);
[CH=CR−COO−(AO)−]−X (1)
(式中、AOは、同一又は異なって、アルキレンオキサイド残基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、有機残基を表す。nは、1以上の正数である。mは、1以上の正数である。)で表されるポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物であって、
該ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、アルカリ(土類)金属分の含有割合が300ppm以下であり、かつブレンステッド酸及びその塩の含有割合が1ppm以下である
ことを特徴とするポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【請求項7】
前記ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ハーゼン色数が300以下である
ことを特徴とする請求項6記載のポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。

【公開番号】特開2007−55910(P2007−55910A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240289(P2005−240289)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】