説明

ポリイミドガス分離膜、及びガス分離方法

【課題】本発明の課題は、新規の可溶性のポリイミドで形成され、改良されたガス分離性能を有すると共に改良された機械的特性を併せ持ったガス分離膜、及び前記分離膜を用いたガス分離方法を提供することにある。また、本発明の課題は、アミド系溶媒を用いたポリイミド溶液から優れたガス分離性能と機械特性を兼ね備えた非対称ガス分離膜を得ることである。
【解決手段】少なくとも一部に、ジアミノジクロロジフェニルエーテル構造を有する特定の反復単位からなる芳香族ポリイミドで形成されていることを特徴とするガス分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の可溶性のポリイミドで形成されたガス分離膜、及び前記ガス分離膜を用いたガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体や液体の混合物を各成分に分離するには相変化を利用した蒸留法などの方法が一般的に用いられてきた。この方法では、潜熱だけでなく、系を相変化温度にするためのエネルギー供給が必要である。また、多段蒸留塔などの大型装置が必要になる。これに対し、高分子材料で構成される分離膜を用いる方法は、混合物を通過させるだけで、各成分を分離できるので省エネルギーの見地から有利であり、また、装置も小型化できるため、省スペースの見地からも有利である。
【0003】
分離膜の基本要求性能は、(1)分離の目的とする物質と他の成分との分離性能、(2)物質透過性能、(3)膜の強度、耐熱、耐久、耐溶剤等の物理・化学的性能である。膜の物質透過性能は必要膜面積および膜モジュール、装置の大きさ、即ちイニシャルコストを主に支配する特性であり、物質透過性能の高い素材の開発および分離活性層(緻密層)の薄膜化により工業的に実用可能な性能が実現される。一方膜の物質分離性能は緻密な膜の場合本質的に膜素材固有の特性であり、主に分離物質の収率を支配する特性、即ちランニングコストを支配する特性である。
【0004】
高分子膜の物質分離特性と透過特性は一般に相反の関係にあり、透過性に優れた高分子素材は分離性(選択性と記す場合もある)に劣る。従って、優れた分離膜を実現するには、相反する両特性のバランスに優れた膜素材の開発および、緻密な薄膜を形成できる優れた成膜特性を有する膜素材の開発が必須である。さらに、これらの素材を使用した最適な製膜方法の開発も必須となる。ポリイミド樹脂は他の樹脂と比較し気体透過・選択特性のバランスに優れ、また耐熱、耐久性等の物理的、化学的特性に優れていることから、近年ポリイミド分離膜の研究が盛んに行われている。
【0005】
特許文献1には、ビフェニルテトラカルボン酸を主成分としたテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られた可溶性の芳香族ポリイミドを用いた気体分離膜の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)へキサフルオロプロパン二無水物(以下、6−FDAと略記することもある)と芳香族ジアミンとから得られた芳香族ポリイミドの均質膜(緻密膜)からなる気体分離膜が開示されている。
【0007】
特許文献3には、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸(前記の2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)へキサフルオロプロパン二無水物に同じ)とビフェニルテトラカルボン酸とをテトラカルボン酸成分とし、ジアミノジフェニレンスルホン類(後述のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類に同じ)などをジアミン成分の主成分とした芳香族ポリイミドからなるガス分離中空糸膜が開示されている。
【0008】
しかしながら、ジクロロジアミノジフェニルエーテル類をジアミン成分としたポリイミドからなるガス分離膜は開示されていない。
【0009】
【特許文献1】特開昭56−126405号公報
【特許文献2】特開昭63−123420号公報
【特許文献3】特開平3−267130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、新規の可溶性のポリイミドで形成され、改良されたガス分離性能を有すると共に改良された機械的特性を併せ持ったガス分離膜、及び前記分離膜を用いたガス分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドによって形成されていることを特徴とするガス分離膜に関する。
【0012】
【化1】

〔但し、Bは、4価の基であり、Aは、少なくとも一部が、下記化学式(2)で示される2価の芳香族基A1である2価の基である。〕
【0013】
【化2】

【0014】
本発明は、前記A1が2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからアミノ基を取り除いた残基であることを特徴とする前記ガス分離膜に関する。
【0015】
本発明は、非対称非多孔膜であることを特徴とする前記ガス分離膜に関する。
【0016】
本発明は、前記ガス分離膜の供給側に、複数のガス成分を含む混合ガスを接触させ、前記非対称ガス分離膜の透過側へ前記複数のガス成分のうちの少なくとも一つのガス成分を選択的に透過させることを特徴とする、複数のガス成分を含む混合ガスから前記複数のガス成分のうちの少なくとも一つのガス成分を選択的に分離回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、高いガス分離性能、例えば酸素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能を有するガス分離膜を得ることができる。また、本発明のガス分離膜は、機械的特性に優れるので、非対称構造を好適に実現することができる。また、本発明ではアミド系溶媒を用いたポリイミド溶液から優れたガス分離性能と機械特性を兼ね備えた非対称ガス分離膜を得ることができるため、水系溶媒を凝固液として用いた非対称膜製造プロセスが可能となり、プロセス設備を簡略にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、特定の反復単位からなるポリイミドによって形成されていることを特徴とするガス分離膜である。
【0019】
本発明のポリイミドは、前記一般式(1)の反復単位で示される。
【0020】
このポリイミドの前記各ユニットを構成するモノマー成分について説明する。
前記化学式(1)のポリイミドのBを構成する基になるテトラカルボン酸成分としては、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸などのビフェニルテトラカルボン酸類、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンなどのビス(ジカルボキシフェニル)プロパン類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸などのベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ピロメリット酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホンなどのビス(ジカルボキシフェニル)スルホン類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテルなどのビス(ジカルボキシフェニル)エーテル類、およびそれの酸無水物、エステルなどをはじめ、従来ポリイミド分離膜において提案されているテトラカルボン酸成分等を挙げることができる。テトラカルボン酸成分としては、単数または複数の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸が好ましい。
【0021】
これらのテトラカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、異なる2種類以上の混合物を用いてもよい。好ましくは、ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットを、10モル%以上、より好ましくは20モル%以上含有する。
【0022】
前記一般式(1)のポリイミドのAを構成する基になるジアミン成分に起因する2価のユニットは、少なくとも一部が前記化学式(2)で示される分子内にエーテル基と塩素基とを有するジクロロジフェニルエーテル構造からなるユニットで構成される。
【0023】
前記化学式(2)で示される分子内にエーテル基と塩素基とを有するジクロロジフェニルエーテル構造からなるユニットは、例えば、ジアミン成分として、下記化学式(3)で示されるジクロロジアミノジフェニルエーテルを用いることによって得られる。
【0024】
【化3】

【0025】
前記のジクロロジアミノジフェニルエーテル(化学式(3))としては、例えば2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジクロロ−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3’−ジクロロ−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,5’−ジクロロ−3,3’−ジアミノジフェニルエーテルなどを挙げることができる。その中でも、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
【0026】
本発明のガス分離膜を構成するポリイミドは、3〜80モル%好ましくは5〜70モル%の前記化学式(2)で示される分子内にエーテル基と塩素基とを有するジクロロジフェニルエーテル構造からなるユニットを含むことが好ましい。
【0027】
ジアミン成分として、前記化学式(3)で示されるジクロロジアミノジフェニルエーテル類以外に、ポリイミドのジアミン成分として通常用いられるジアミンを好適に用いることができる。ジアミンとしては、単数または複数の芳香環を有する芳香族ジアミンが好ましく、ベンゼン環を1〜4個含む芳香族ジアミンが特に好ましい。芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、3,5−ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノビフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニルメタン、2,2’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3,4'−ジアミノジフェニル)プロパンなどのジアミノジフェニルプロパン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジベンゾチオフェン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチル−ジベンゾチオフェンなどのジアミノジベンゾチオフェン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシ−ジフェニレンスルフォン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジフェニレンスルフォンなどのジアミノジフェニレンスルフォン類(後述のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類に同じ)、4,4’−ジアミノビベンジル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビベンジルなどのジアミノビベンジル類、0−ジアニシジン、0−トリジン、m−トリジンなどのジアミノビフェニル類、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノンなどのジアミノベンゾフェノン類、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン、2,2',5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジンなどのベンジジン類、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなどのビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼンなどのジ(アミノフェニル)ベンゼン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどのジ〔(アミノフェノキシ)フェニル〕アルカン類、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンなどのジ〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ビフェニルなどのジ(アミノフェノキシ)ビフェニル類を挙げることができる。
【0028】
ジアミンとしては、また、イソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミンなどの脂肪族環を含むジアミンを好適に用いることができる。
【0029】
本発明のガス分離膜を形成するポリイミドは、有機極性溶媒への溶解性が優れており、前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略等モル用いて有機極性溶媒中で重合及びイミド化することによって容易に高重合度のポリイミド溶液として得ることができる。
【0030】
前記ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜50重量%程度好ましくは5〜40重量%にするのが好適である。
【0031】
重合イミド化して得られたポリイミド溶液は、そのまま直接用いることもできる。また、例えば得られたポリイミド溶液をポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入してポリイミドを析出させて単離後、改めて有機極性溶媒に所定濃度になるように溶解させてポリイミド溶液を調製し、それを用いることもできる。
【0032】
前記有機極性溶媒としては、得られるポリイミドを好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒、又はN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。
【0033】
特に本発明のガス分離膜用ポリイミドは、アミド系溶媒中における重合イミド化で容易に重合度を上げることが可能である。
【0034】
本発明のガス分離膜は、緻密層と多孔質層とを有する非対称膜であることが好ましい。緻密層はガス種によって透過速度が実質的に異なる(例えば、50℃においてヘリウムガスと窒素ガスとの透過速度比が1.2倍以上)程度の緻密さを有し、ガス種による分離機能を持つ。一方、多孔質層は実質的なガス分離機能を持たない程度に多孔性を有する層であって、必ずしも孔径は一定でなく、大きな孔から順次細かい孔となり更に連続的に緻密層を形成したものであっても構わない。本発明によって得られるポリイミド非対称膜は、形態、厚み、寸法等に特に限定はなく、例えば、平膜であっても中空糸であっても構わない。ただし、本発明によって得られる非対称膜をガス分離膜として用いる場合には、緻密層の厚さは1〜1000nm好ましくは20〜200nm程度、多孔質層の厚さは10〜2000μm好ましくは10〜500μm程度が好適であり、とりわけ中空糸ガス分離膜としては、内径が10〜3000μm好ましくは20〜900μm程度、外径が30〜7000μm好ましくは50〜1200μm程度であり、中空糸膜としては、外側に緻密層を有する中空糸非対称膜が好適である。
【0035】
本発明のガス分離膜を非対称膜とする場合は、例えば、化学式(1)のポリイミドを有機溶媒に溶解したポリイミド溶液を用いて、相転換法によって得ることができる。相転換法は、ポリマー溶液を凝固液と接触させて相転換させながら膜を形成する公知の方法である。本発明ではいわゆる乾湿式法が好適に採用される。乾湿式法は、膜形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層を形成し、次いで凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層を形成させる相転換法であり、Loebらが提案(例えば、米国特許3133132号)したものである。
そのほか、ポリアミド酸溶液を、前記の相転換法によりポリアミド酸非対称膜とした後、熱イミド化もしくは化学イミド化することにより得ることができる。
【0036】
本発明のガス分離膜は、乾湿式紡糸法を採用することによって、非対称中空糸膜として好適に得ることができる。乾湿式紡糸法は、乾湿式法を紡糸ノズルから吐出して中空糸状の目的形状としたポリマー溶液に適用して非対称中空糸膜を製造する方法である。より詳しくは、ポリマー溶液をノズルから中空糸状の目的形状に吐出させ、吐出直後に空気又は窒素ガス雰囲気中を通した後、ポリマー成分を実質的には溶解せず且つポリマー混合液の溶媒とは相溶性を有する凝固液に浸漬して非対称構造を形成し、その後乾燥し、更に必要に応じて加熱処理して分離膜を製造する方法である。紡糸ノズルは、ポリイミド溶液を中空糸状体として押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際のポリイミド溶液の温度範囲は約20℃〜150℃、特に30℃〜120℃が好適である。また、通常、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸がおこなわれる。
【0037】
紡糸に用いるポリイミド溶液は、ポリイミドの濃度が5〜40重量%更には8〜25重量%になるようにするのが好ましく、溶液粘度(回転粘度)は100℃で100〜15000ポイズ好ましくは200〜10000ポイズ、特に300〜5000ポイズであることが好ましい。溶液粘度が100ポイズ未満では、機械的強度の大きな非対称中空糸膜を得ることは難しい。また、15000ポイズを越えると、紡糸ノズルから押し出しにくくなるため目的の形状の非対称中空糸膜を得ることは難しい。
【0038】
凝固液は、ポリイミド成分を実質的には溶解せず且つポリイミド溶液の溶媒と相溶性があるものが好適である。特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。
【0039】
従来、非対称ガス分離膜を形成するために使用されていた芳香族ポリイミドの場合、アミド系溶媒にポリイミドを溶解させた溶液から乾湿式法により紡糸して得られた非対称膜からは、満足できるガス分離性能が得られないという問題があった。しかし、本発明の非対称ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドは、有機極性溶媒としてアミド系溶媒を用いたポリイミド溶液から凝固液として水もしくは水系溶媒を用いて乾湿式法により紡糸した膜でも、優れたガス分離性能と改良された機械的特性を有する。本発明における水系溶媒とは、40重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上水を含有する有機溶媒の水溶液を意味する。
【0040】
一方、有機極性溶媒としてフェノール系溶媒(例えばパラクロロフェノール)を用いる場合には、フェノール系溶媒と水系溶媒とが相溶性がないため、凝固液として水系溶媒を用いることができず、高濃度の有機溶媒を用いる必要がある。
【0041】
すなわち、有機極性溶媒としてアミド系溶媒を用いた場合、乾湿式法の凝固液として、水乃至は水系溶媒を用いた製造プロセスが可能となり、凝固浴に高濃度の有機溶媒を用いる場合に比較しプロセスに関わる設備を簡便にすることができる。具体的には、凝固浴を水系化すると、防爆を始め安全確保上必要となる設備が簡素にできる。また水系凝固浴を用いることで、凝固浴からの揮発性有機化合物(VOC)の放出も削減される。
【0042】
凝固工程では、ノズルから中空糸形状に吐出されたポリイミド溶液がその形状を保持できる程度に凝固させる一次凝固液に浸漬し、次いで完全に凝固させるための二次凝固液に浸漬するのが好ましい。凝固した中空糸分離膜は炭化水素などの溶媒を用いて凝固液と溶媒置換させたあとで乾燥し、更に加熱処理するのが好適である。加熱処理は、用いられたポリイミドの軟化点又は二次転移点よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0043】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有し、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜であって、改良された優れたガス分離性能を有する。すなわち、本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、好適には、50℃における酸素ガス透過速度(P’O2)が5.5×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上、好ましくは6.0×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上で且つ酸素ガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’O2/P’N2)が4.0以上好ましくは4.5以上である。さらに、好適には、50℃におけるヘリウムガス透過速度(P’O2)が20×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上、好ましくは40×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上で且つヘリウムガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’He/P’N2)が30以上好ましくは40以上である。そして、中空糸膜としての引張り破断強度が2kgf/mm以上、好ましくは2.5kgf/mm以上、より好ましくは3kgf/mm以上であり、特に中空糸膜としての引張り破断伸度が7%以上、好ましくは10%以上の機械的特性を有する。
【0044】
本発明のガス分離膜は通常の方法でモジュール化して好適に用いることができる。例えば中空糸膜のモジュールの場合には、適当な長さの中空糸膜100〜200000本程度を束ね、その中空糸束の両端部を、中空糸の少なくとも一方の端が開口状態を保持した状態で熱硬化性樹脂などからなる管板で固着し、得られた中空糸束と管板などからなる中空糸膜エレメントを、少なくとも混合ガス導入口と透過ガス排出口と非透過ガス排出口とを備える容器内に、中空糸膜の内側に通じる空間と中空糸膜の外側へ通じる空間とが隔絶するように収納し取り付けることによって得られる。このようなガス分離膜モジュールでは、混合ガスが混合ガス導入口から中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分が選択的に膜を透過し、透過ガスが透過ガス排出口から、膜を透過しなかった非透過ガスが非透過ガス排出口からそれぞれ排出されることによって、ガス分離が行われる。
【0045】
本発明のガス分離膜は、種々のガス種を高分離度(透過速度比)で分離回収することができる。分離度が高いと目的とするガスの回収率が高くできるので好適である。分離できるガス種には特に限定はない。例えば水素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガス、メタンやエタンなどの炭化水素ガス、酸素ガス、窒素ガスなどの分離回収に好適に用いることができる。とりわけ、空気から窒素の濃度を高めた窒素富化空気や酸素の濃度を高めた酸素富化空気を得るのに好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例によって本発明を更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(中空糸膜の混合ガス透過性能の測定方法)
6本の非対称中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が8cmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。前記ペンシルモジュールにヘリウム、酸素、窒素標準混合ガス(容積比30:30:40)を1MPaGの圧力、50℃の温度で中空糸膜の外側に供給し、透過流量および透過ガス組成を測定した。ガス組成はガスクロマトグラフ分析により求めた。測定した透過流量、透過ガス組成、供給圧、および有効膜面積から酸素ガス、および窒素ガスの透過速度を算出した。
【0048】
(中空糸膜の単独ガス透過性能の測定方法)
15本の非対称中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が10cmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。前記のペンシルモジュールに透過対象ガスを、80℃の温度、1MPaGの圧力で中空糸膜の外側に供給し、透過流量を測定した。測定した透過ガス流量、供給側圧力、透過側圧力及び有効膜面積からガスの透過速度を算出した。
【0049】
(中空糸膜の引張り強度と破断伸度の測定)
引張試験機を用いて有効長20mm、引張り速度10mm/分で測定した。測定は23℃で行った。中空糸断面積は中空糸の断面を光学顕微鏡で観察し、光学顕微鏡像から寸法を測定して算出した。
【0050】
(溶液粘度の測定方法)
ポリイミド溶液の溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec−1)を用い温度100℃で測定した。
【0051】
以下の例で用いた化合物は以下のとおりである。
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)−ビス(無水フタル酸)
(なお、この化合物は2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物ともいう。)
TSN:3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを主成分とし、メチル基の位置が異なる異性体3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを含む混合物
ODCA:2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
(なお、この化合物は4,4’−オキシビス(3−クロロアニリン)ともいう。)
DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
TCB:4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−トリクロロビフェニル
MMB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
PCP:パラクロロフェノール
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0052】
〔参考例1〕
撹拌機と窒素ガス導入管が取り付けられたセパラブルフラスコに、BPDA 60ミリモルと、6FDA 40ミリモルと、ODCA 30ミリモルと、TSN 70ミリモルとを、ポリマー濃度が23重量%となるように溶媒のNMPと共に加え、窒素ガスをフラスコ内に流通させながら、撹拌下に反応温度190℃で8時間重合イミド化反応をおこない、ポリイミド濃度が23重量%のポリイミド溶液を調製した。このポリイミド溶液の100℃における溶液粘度は1209ポイズであった。
【0053】
前記のポリイミド溶液を、400メッシュの金網でろ過し、これをドープ液として、中空糸紡糸用ノズルを備えた紡糸装置を使用して、中空糸紡糸用ノズル(円形開口部外径1000μm、円形開口部スリット幅200μm、芯部開口部外径400μm)の円形開口部からドープ液を吐出させ、同時に芯部開口部から窒素ガスを吐出させて中空糸状体を形成し、それを窒素雰囲気中に通した後、一次凝固液(30℃、45重量%エタノール水溶液)に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固装置内の二次凝固液(30℃、45重量%エタノール水溶液)中で案内ロール間を往復させて中空糸状体を凝固させ、引取りロールによって引取り速度10m/分で引き取って、湿潤中空糸膜を得た。次いでこの中空糸膜をエタノールで脱溶媒処理した後、イソオクタンでエタノールを置換し、更に100℃で加熱してイソオクタンを蒸発乾燥させ、更に250℃で30分間加熱処理して、非対称中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は、大略、外径が400μm、内径が200μmであった。
【0054】
〔参考例2〕
撹拌機と窒素ガス導入管が取り付けられたセパラブルフラスコに、BPDA 100ミリモルと、TSN 70ミリモルと、ODCA 30ミリモルとを、ポリマー濃度が17重量%となるように溶媒のPCPと共に加え、窒素ガスをフラスコ内に流通させながら、撹拌下に反応温度190℃で8時間重合イミド化反応をおこない、ポリイミド濃度が17重量%のポリイミド溶液を調製した。このポリイミド溶液の100℃における溶液粘度は1711ポイズであった。
【0055】
前記のポリイミド溶液を、400メッシュの金網でろ過し、これをドープ液として、中空糸紡糸用ノズルを備えた紡糸装置を使用して、中空糸紡糸用ノズル(円形開口部外径1000μm、円形開口部スリット幅200μm、芯部開口部外径400μm)の円形開口部からドープ液を吐出させ、同時に芯部開口部から窒素ガスを吐出させて中空糸状体を形成し、それを窒素雰囲気中に通した後、一次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固装置内の二次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)中で案内ロール間を往復させて中空糸状態を凝固させ、引取りロールによって引取り速度10m/分で引き取って、湿潤中空糸膜を得た。次いでこの中空糸膜をエタノールで脱溶媒処理した後、イソオクタンでエタノールを置換し、更に100℃で加熱してイソオクタンを蒸発乾燥させ、更に250℃で30分間加熱処理して、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は、大略、外径が400μm、内径が200μmであった。
【0056】
(参考例3〜15)
表1に示した種類と、組成とを有するテトラカルボン酸成分およびジアミン成分および溶媒を使用し、表1に示した濃度となるようにして、表1に示した時間、重合イミド化を行ったほかは、溶媒がNMPの場合、参考例1と同様にして、溶媒がPCPの場合、参考例2と同様にしてそれぞれのポリイミドの溶液を調製し、中空糸膜を得た。
【0057】
(参考例16)
表1に示した種類と、組成とを有するテトラカルボン酸成分およびジアミン成分および溶媒を使用し、表1に示した濃度となるようにしたほかは、参考例1と同様にして、ポリイミドの溶液を調製した。しかし、ポリイミドの重合性が良好でなく、50時間重合イミド化を行った後においてもポリイミド溶液の100℃における溶液粘度が37ポイズであり、中空糸膜を得ることができなかった。
【0058】
(実施例1)
参考例1で得られた中空糸膜を用いて、前記の中空糸膜の混合ガス透過性能の測定方法によりヘリウムガス、酸素ガス、および窒素ガスの透過速度を算出した。さらに、この中空糸膜の機械的特性を前記の方法によって測定した。結果を表2に示す。
【0059】
(実施例2〜13)
参考例2〜13で得られた中空糸膜を使用したほかは、実施例1と同様にして、中空糸膜のガス透過性能と機械的特性を前記の方法によって測定した。それらの結果を、表2に示す。
【0060】
(実施例14〜18)
表3に示した参考例で得られた中空糸膜を用いて、前記の中空糸膜の単独ガス透過性能の測定方法により水素ガス、炭酸ガス、酸素ガス、窒素ガス、およびメタンガスの透過速度を算出した。それらの結果を表3に示す。
【0061】
(比較例1〜2)
参考例14〜15で得られた中空糸膜を使用したほかは、実施例1と同様にして、中空糸膜の混合ガス透過性能と機械的特性を前記の方法によって測定した。それらの結果を、表2に示す。
【0062】
(比較例3)
表1の参考例16に示した組成及び溶媒を用いたポリイミドでは、中空糸膜を得ることが出来なかった。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
以上の結果から、本発明の比較例は、化学式1で示されるユニットを含有しておらず、実施例に比較して次の点で劣ることが明らかである。
−比較例1は、ヘリウムガス透過速度(P’He)が劣り、分離性能、即ちヘリウムガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’He/P’N2)が劣る。
−比較例2は、引張り破断強度が不足し実用的でない。
−比較例3は、ポリイミドの重合性が悪いため、中空糸膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明によって、高いガス分離性能、例えば酸素ガスと窒素ガス、ヘリウムガスと窒素ガス、水素ガスとメタンガス、炭酸ガスとメタンガスとの高いガス分離性能を有し、更に機械的特性を保持したガス分離膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドによって形成されていることを特徴とするガス分離膜。
【化1】

〔但し、一般式(1)のBは4価の基であり、
一般式(1)のAは2価の基であり、
少なくとも一部が、下記化学式(2)で示される2価の芳香族基A1である2価の基である。〕
【化2】

【請求項2】
前記A1が2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからアミノ基を取り除いた残基であることを特徴とする請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
非対称膜であることを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜の供給側に、複数のガス成分を含む混合ガスを接触させ、前記非対称ガス分離膜の透過側へ前記複数のガス成分のうちの少なくとも一つのガス成分を選択的に透過させることを特徴とする、複数のガス成分を含む混合ガスから前記複数のガス成分のうちの少なくとも一つのガス成分を選択的に分離回収する方法。

【公開番号】特開2010−104985(P2010−104985A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228027(P2009−228027)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】