説明

ポリイミドガス分離膜、及びガス分離方法

【課題】 本発明は、高いガス分離性能、例えば炭酸ガスとメタンガスとの高いガス分離性能や、酸素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能を有する非対称中空糸ガス分離膜を得ることができる新規の可溶性のポリイミドで形成されたガス分離膜を提供することを目的とする。
【解決手段】 ジアミン成分の少なくとも一部が、ベンゾイミダゾール構造を含む構造であることを特徴とするポリイミドで形成されたことを特徴とするガス分離膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の可溶性のポリイミドで形成されたガス分離膜、及び前記ガス分離膜を用いたガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体や液体の混合物を各成分に分離するには相変化を利用した蒸留法などの方法が一般的に用いられてきた。この方法では、潜熱だけでなく、系を相変化温度にするためのエネルギー供給が必要である。また、多段蒸留塔などの大型装置が必要になる。これに対し、高分子材料で構成される分離膜を用いる方法は、混合物を通過させるだけで、各成分を分離できるので省エネルギーの見地から有利であり、また、装置も小型化できるため、省スペースの見地からも有利である。
【0003】
分離膜の基本要求性能は、(1)分離の目的とする物質と他の成分との分離性能、(2)物質透過性能、(3)膜の強度、耐熱、耐久、耐溶剤等の物理・化学的性能である。膜の物質透過性能は必要膜面積および膜モジュール、装置の大きさ、即ちイニシャルコストを主に支配する特性であり、物質透過性能の高い素材の開発および分離活性層(緻密層)の薄膜化により工業的に実用可能な性能が実現される。一方膜の物質分離性能は緻密な膜の場合本質的に膜素材固有の特性であり、主に分離物質の収率を支配する特性、即ちランニングコストを支配する特性である。
【0004】
高分子膜の物質分離特性と透過特性は一般に相反の関係にあり、透過性に優れた高分子素材は分離性(選択性と記す場合もある)に劣る。従って、優れた分離膜を実現するには、相反する両特性のバランスに優れた膜素材の開発および、緻密な薄膜を形成できる優れた成膜特性を有する膜素材の開発が必須である。さらに、これらの素材を使用した最適な製膜方法の開発も必須となる。ポリイミド樹脂は他の樹脂と比較し気体透過・選択特性のバランスに優れ、また耐熱、耐久性等の物理的、化学的特性に優れていることから、近年ポリイミド分離膜の研究が盛んに行われている。
【0005】
特許文献1には、ビフェニルテトラカルボン酸を主成分としたテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られた可溶性の芳香族ポリイミドを用いた気体分離膜の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)へキサフルオロプロパン二無水物(以下、6FDAと略記することもある)と芳香族ジアミンとから得られた芳香族ポリイミドの均質膜(緻密膜)からなる気体分離膜が開示されている。
【0007】
しかしながら、ベンゾイミダゾール構造を含むジアミン成分から得られたポリイミドからなるガス分離膜は開示されていない。
【0008】
【特許文献1】特開昭56−126405号公報
【特許文献2】特開昭63−123420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規の可溶性のポリイミドで形成され、改良されたガス分離性能を有すると共に膜使用条件下において長期にわたる安定性を併せ持ったガス分離膜、及び前記分離膜を用いたガス分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜に関する。
【0011】
【化1】

〔式中、Bは、芳香族環を含む4価のユニットであり、
式中、Aは、芳香族環を含む2価のユニットであり、
その1〜100モル%が、下記化学式(2)
【0012】
【化2】

で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットである。〕
【0013】
また、本発明は、芳香族環を含む2価のユニットAが、
その5〜70モル%が、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA1であり、
その95〜30モル%が、下記化学式(A2)で示される2価のユニットA2であるガス分離膜に関する。
【0014】
【化3】

(式中、R及びR’は水素原子又は有機基であり、nは0、1又は2である。)
【0015】
また、本発明は、非対称膜であることを特徴とする前記のガス分離膜に関し、中空糸膜であることを特徴とする前記のガス分離膜に関する。
【0016】
さらに本発明は、前記のガス分離膜を用いて、複数のガスを含む混合ガスから特定のガスを選択的に分離回収する方法に関し、二酸化炭素とメタンガスを含む混合ガスから、選択的に二酸化炭素ガスを透過させてガス分離を行う方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、高いガス分離性能、例えば二酸化炭素ガスとメタンガスとの高いガス分離性能、二酸化炭素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能、あるいは、酸素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能を有するガス分離膜を得ることができる。二酸化炭素ガスとメタンガスとのガス分離性能が優れるガス分離膜は、天然ガスなどから二酸化炭素ガスを選択的に除去することにより、該ガス中のメタン濃度を高めるのに好適に用いることができる。また、二酸化炭素ガスと窒素ガスとのガス分離性能が優れるガス分離膜は、石炭等化石燃料の燃焼排ガスからの二酸化炭素ガスの分離回収に好適に用いることができる。また、酸素ガスと窒素ガスとのガス分離性能が優れるガス分離膜は、空気から窒素の濃度を高めた窒素富化空気や酸素の濃度を高めた酸素富化空気を得るのに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、特定の反復単位からなる可溶性の芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜である。好ましくは、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有する非対称ガス分離膜であって、改良されたガス分離性能を有する非対称ガス分離膜である。より好ましくは、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜である。
【0019】
本発明は、特定の反復単位からなるポリイミドによって形成されていることを特徴とするガス分離膜である。
【0020】
本発明のガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドは、前記一般式(1)の反復単位で示される。
式中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。また、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットであり、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA1を必須成分として含む。芳香族ポリイミドを構成するユニットについて以下に詳述する。
【0021】
ユニットBは、テトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。好ましくは、10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%の下記化学式(B1)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットB1と、好ましくは、90〜10モル%、より好ましくは80〜20モル%の下記化学式(B2)で示されるビフェニル構造からなるユニットB2を含む。さらに、ユニットBとして、前記ユニットB1、B2以外の4価のユニットB3を、50モル%以下(即ち、0〜50モル%)の量で含むことができる。ユニットBは、実質的にユニットB1およびユニットB2からなることがより好ましい。ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造が10モル%未満でビフェニル構造が90モル%を越えると、得られるポリイミドのガス透過性能が低下して、高性能ガス分離膜を得ることが難しくなる。一方、ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造が90モル%を越えビフェニル構造が10モル%未満になると、得られるポリイミドのガス分離度が低下することがある。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
ユニットAは、ジアミン成分に起因する2価のユニットであり、1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上、100モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下の前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含む2価のユニットA1を含む。
【0025】
ユニットA1は、例えば、下記化学式(A1)で示される2価のユニットである。
【0026】
【化6】

(ただし、式中の−R1−、−R2−は、それぞれ、直接結合もしくは2価の基)
【0027】
ユニットAは、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含む2価のユニットA1の他に、前記化学式(A2)で示される2価のユニットA2をさらに含むことが好ましい。ユニットA2は、1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上、100モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下含むことが好ましい。
【0028】
この芳香族ポリイミドの前記各ユニットを構成するモノマー成分について説明する。
【0029】
前記化学式(B1)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、その二無水物、又はそのエステル化物を用いることによって得られる。前記(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸類としては、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、それらの二無水物、又はそれらのエステル化物を好適に用いることができるが、特に4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、その二無水物、又はそのエステル化物が好適である。
【0030】
前記化学式(B2)で示されるビフェニル構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物などのビフェニルテトラカルボン酸類を用いることによって得られる。前記ビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、それらの二無水物、又はそれらのエステル化物を好適に用いることができるが、特に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物が好適である。
【0031】
前記化学式(1)のポリイミドのユニットAを構成する基になるジアミン成分に起因する2価のユニットは、少なくとも一部が前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA1で構成される。ユニットA1は、例えば、前記化学式(A1)で示されるユニットである。ユニットA1は、例えば、ジアミン成分として下記化学式(A1−M)で示されるジアミノベンゾイミダゾール類を用いることによって得ることができる。
【0032】
【化7】

(ただし、式中の−R1−、−R2−は、それぞれ、直接結合もしくは2価の基)
【0033】
前記化学式(A1−M)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むジアミンとしては特に限定されないが、例えば、下記化学式(A11−M)で示されるジアミノベンゾイミダゾール類が挙げられる。
【0034】
【化8】


(ただし、式中の−Ar1−は、直接結合または芳香族環を含む2価の基)
【0035】
前記のジアミノベンゾイミダゾール類(化学式(A11−M))としては、例えば、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(3−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(2−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(3−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(2−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(4−アミノナフチル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(5−アミノナフチル)−ベンゾイミダゾールなどをあげることができる。その中でも、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾールが特に好ましい。
【0036】
前記化学式(A1−M)で示されるジアミンとして、前記化学式(A11−M)で示されるジアミンの外に、例えば、下記化学式(A12−M)で示されるビスアミノベンゾイミダゾール類を挙げることができる。
【0037】
【化9】


(ただし、式中の−Ar2−は、直接結合もしくは芳香族環を含む2価の基)
【0038】
前記のビスアミノベンゾイミダゾール類(化学式(A12−M))としては、例えば、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン] 、2,2’−(1,2−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン]、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン] 、2,2’−(1,2−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン]などをあげることができる。その中でも、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]が特に好ましい。
【0039】
また、前記一般式(A2)で示される構造からなるユニットA2は、ジアミン成分として、下記一般式(A2−M)で示される芳香族ジアミンを用いることによって得られる。
【0040】
【化10】

(式中、R及びR’は水素原子又は有機基であり、nは0、1又は2である。)
【0041】
前記の化学式(A2−M)で示される芳香族ジアミンとしては、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジベンゾチオフェン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチル−ジベンゾチオフェンなどのジアミノジベンゾチオフェン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシ−ジフェニレンスルフォン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジフェニレンスルフォンなどのジアミノジフェニレンスルフォン類(後述のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類に同じ)等が挙げられる。
【0042】
本発明の芳香族ポリイミドを構成するジアミン成分として、前記化学式(A1−M)で示されるジアミン、および前記化学式(A2−M)で示されるジアミン以外に、ポリイミドのジアミン成分として通常用いられるジアミンを好適に用いることができる。ジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂環族ジアミン、脂肪族ジアミンなどがあげられるが、芳香族ジアミンが、気体透過・選択特性のバランスに優れ、また耐熱、耐久性等の物理的、化学的特性に優れていることから、好ましい。
【0043】
芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、3,5−ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノビフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニルメタン、2,2’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3,4'−ジアミノジフェニル)プロパンなどのジアミノジフェニルプロパン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン類、4,4’−ジアミノビベンジル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビベンジルなどのジアミノビベンジル類、0−ジアニシジン、0−トリジン、m−トリジンなどのジアミノビフェニル類、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノンなどのジアミノベンゾフェノン類、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン、2,2',5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジンなどのジアミノベンジジン類、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなどのビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼンなどのジ(アミノフェニル)ベンゼン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンなどのジ〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ビフェニルなどのジ(アミノフェニル)ビフェニル類を挙げることができる。
【0044】
脂環族ジアミンとしては、イソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミンなどを挙げることができる。
【0045】
本発明のガス分離膜を形成するポリイミドは、有機極性溶媒への溶解性が優れており、前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略等モル用いて有機極性溶媒中で重合及びイミド化することによって容易に高重合度のポリイミド溶液として得ることができる。
【0046】
前記芳香族ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜50重量%程度好ましくは5〜40重量%にするのが好適である。
【0047】
重合イミド化して得られた芳香族ポリイミド溶液は、そのまま直接紡糸に用いることもできる。また、例えば得られた芳香族ポリイミド溶液を芳香族ポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入して芳香族ポリイミドを析出させて単離後、改めて有機極性溶媒に所定濃度になるように溶解させて芳香族ポリイミド溶液を調製し、それを紡糸に用いることもできる。
【0048】
紡糸に用いる芳香族ポリイミド溶液は、ポリイミドの濃度が5〜40重量%更には8〜25重量%になるようにするのが好ましく、溶液粘度(回転粘度)は100℃で100〜15000ポイズ好ましくは200〜10000ポイズ、特に300〜5000ポイズであることが好ましい。溶液粘度が100ポイズ未満では、均質膜(フィルム)は得られるかもしれないが、機械的強度の大きな非対称中空糸膜を得ることは難しい。また、15000ポイズを越えると、紡糸ノズルから押し出しにくくなるため目的の形状の非対称中空糸膜を得ることは難しい。
【0049】
前記有機極性溶媒としては、得られる芳香族ポリイミドを好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒、又はN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。本発明において、特に好ましくはフェノール系溶媒である。
【0050】
本願発明のガス分離膜は、前記芳香族ポリイミド溶液を用いて、乾湿式法による紡糸(乾湿式紡糸法)によって、非対称ガス分離膜として好適に得ることができる。乾湿式法は、中空糸形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層(分離層)を形成し、更に、凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層(支持層)を形成させる方法(相転換法)であり、Loebらが提案(例えば、米国特許3133132号)したものである。
【0051】
乾湿式紡糸法は、紡糸用ノズルを用いて乾湿式法によって中空糸膜を形成する方法であり、例えば特許文献1に記載されている。
【0052】
すなわち、紡糸ノズルは、芳香族ポリイミド溶液を中空糸状体に押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際の芳香族ポリイミド溶液の温度範囲は約20℃〜150℃、特に30℃〜120℃が好適である。また、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸がおこなわれる。
【0053】
凝固液は、芳香族ポリイミド成分を実質的には溶解せず且つ芳香族ポリイミド溶液の溶媒と相溶性があるものが好適である。特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。
【0054】
凝固工程では、ノズルから中空糸形状に吐出された芳香族ポリイミド溶液がその形状を保持できる程度に凝固させる一次凝固液に浸漬し、次いで完全に凝固させるための二次凝固液に浸漬するのが好ましい。一次凝固液と二次凝固液は同一の凝固液でも構わないし、別々の凝固液でもかまわない。
凝固した中空糸分離膜は炭化水素などの溶媒を用いて凝固液と溶媒置換させたあとで乾燥し、更に加熱処理するのが好適である。加熱処理は、用いられた芳香族ポリイミドの軟化点又は二次転移点よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0055】
本発明のガス分離膜は、緻密層と多孔質層とを有する非対称膜であることが好ましい。
緻密層はガス種によって透過速度が実質的に異なる(例えば、50℃においてヘリウムガスと窒素ガスとの透過速度比が1.2倍以上)程度の緻密さを有し、ガス種による分離機能を持つ。一方、多孔質層は実質的なガス分離機能を持たない程度に多孔性を有する層であって、必ずしも孔径は一定でなく、大きな孔から順次細かい孔となり更に連続的に緻密層を形成したものであっても構わない。
【0056】
本発明によって得られるポリイミド非対称膜は、形態、厚み、寸法等に特に限定はなく、例えば、平膜であっても中空糸であっても構わないが、好ましくは、中空糸である。本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有し、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜であって、改良された優れたガス分離性能を有する。すなわち、本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、好適には、50℃における二酸化炭素ガス透過速度(P’CO2)が5.0×10-5cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上、好ましくは10.0×10-5cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上で且つ二酸化炭素ガス透過速度とメタンガス透過速度との比(P’CO2/P’CH4)が10.0以上好ましくは20.0以上である。
【0057】
本発明のガス分離膜は通常の方法でモジュール化して好適に用いることができる。例えば中空糸膜のモジュールの場合には、適当な長さの中空糸膜100〜200000本程度を束ね、その中空糸束の両端部を、中空糸の少なくとも一方の端が開口状態を保持した状態で熱硬化性樹脂などからなる管板で固着し、得られた中空糸束と管板などからなる中空糸膜エレメントを、少なくとも混合ガス導入口と透過ガス排出口と非透過ガス排出口とを備える容器内に、中空糸膜の内側に通じる空間と中空糸膜の外側へ通じる空間とが隔絶するように収納し取り付けることによって得られる。このようなガス分離膜モジュールでは、混合ガスが混合ガス導入口から中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分が選択的に膜を透過し、透過ガスが透過ガス排出口から、膜を透過しなかった非透過ガスが非透過ガス排出口からそれぞれ排出されることによって、ガス分離が行われる。
【0058】
本発明のガス分離膜は、種々のガス種を高分離度(透過速度比)で分離回収することができる。分離度が高いと目的とするガスの回収率が高くできるので好適である。分離できるガス種には特に限定はない。例えば二酸化炭素ガス、メタンやエタンなどの炭化水素ガス、水素ガス、ヘリウムガス、酸素ガス、窒素ガスなどの分離回収に好適に用いることができる。
【0059】
さらに、本発明のガス分離膜は、膜使用条件下において長期にわたり安定であり、例えば、二酸化炭素ガスの分離を行った場合にも、長期にわたり安定して分離回収することができる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例によって本発明を更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(溶液粘度の測定方法)
ポリイミド溶液の溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec-1)を用い温度100℃で測定した。
【0062】
(中空糸膜のガス透過性能の測定方法)
8本の非対称中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が8cmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。それにヘリウムガスを1MPaGの圧力、50℃の温度で中空糸膜の外側に供給し、透過流量を測定した。測定した透過流量、供給圧、および有効膜面積からヘリウムガスの透過速度を算出した。酸素ガス、窒素ガス、メタンガスおよび二酸化炭素ガスの透過速度も同様の方法で算出した。
【0063】
以下の例で用いた化合物は以下のとおりである。
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)−ビス(無水フタル酸)
(なお、この化合物は2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物ともいう。)
sBPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DSDA:3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
DAPBI:5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール
(なお、この化合物は4−(5−アミノ−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)アニリンともいう。)
5BAIB:2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]
TSN:3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド
DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PCP:4−クロロフェノール
【0064】
〔実施例1〕
撹拌機と窒素ガス導入管が取り付けられたセパラブルフラスコに、6FDA 17.8g、sBPDA 7.4g、DAPBI 5.7g、TSN 7.1gとを、ポリマー濃度が17重量%となるように溶媒のPCPと共に加え、窒素ガスをフラスコ内に流通させながら、撹拌下に反応温度190℃で10時間重合イミド化反応をおこない、ポリイミド濃度が17重量%のポリイミド溶液を調製した。このポリイミド溶液の100℃における溶液粘度は1500ポイズであった。
前記調製したポリイミド溶液を、400メッシュの金網でろ過し、これをドープ液として、中空糸紡糸用ノズルを備えた紡糸装置を使用して、中空糸紡糸用ノズル(円形開口部外径1000μm、円形開口部スリット幅200μm、芯部開口部外径400μm)の円形開口部からドープ液を吐出させ、同時に芯部開口部から窒素ガスを吐出させて中空糸状体を形成し、それを窒素雰囲気中に通した後、一次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固装置内の二次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)中で案内ロール間を往復させて中空糸状体を凝固させ、引取りロールによって引取り速度15m/分で引き取って、湿潤中空糸膜を得た。次いでこの中空糸膜をエタノールで脱溶媒処理した後、イソオクタンでエタノールを置換し、更に100℃で加熱してイソオクタンを蒸発乾燥させ、更に300℃で30分間加熱処理して、中空糸膜を得た。
得られた中空糸膜は、大略、外径が400μm、内径が200μmであった。
【0065】
中空糸膜のガス透過性能を前記の方法により測定を行い、ヘリウムガス、酸素ガス、窒素ガス、メタンガスおよび二酸化炭素ガスの透過速度を算出した。その結果、ヘリウムの透過速度(P’He)は、122×10-5cm3/cm2・sec・cmHg、酸素の透過速度(P’O2)は、14.5×10-5cm3/cm2・sec・cmHg、窒素の透過速度(P’N2)は、2.97×10-5cm3/cm2・sec・cmHg、メタンの透過速度(P’CH4)は、1.66×10-5cm3/cm2・sec・cmHg、二酸化炭素の透過速度(P’CO2)は、48.3×10-5cm3/cm2・sec・cmHgであり、二酸化炭素ガスとメタンガスとの分離度(P’CO2/P’CH4)は29であった。
【0066】
(実施例2〜7)
表1に示した種類と、組成とを有する芳香族テトラカルボン酸成分および芳香族ジアミン成分を使用したほかは実施例1と同様にして、ポリイミドの溶液を、それぞれ調製した。そして、それらの各ポリイミド溶液から中空糸膜を作成し、中空糸膜から糸束エレメントを形成し、次いで、それらの各中空糸膜の糸束エレメントからガス分離膜モジュールを形成した。
さらに、各ガス分離膜モジュールを使用したほかは、実施例1と同様にして、中空糸膜のガス透過性能を前記の方法によって測定した。それらの結果を、表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
〔実施例8〕
撹拌機と窒素ガス導入管が取り付けられたセパラブルフラスコに、6FDA 20.3g、sBPDA 3.4g、DAPBI 6.5g、TSN 8.0gを、ポリマー濃度が18重量%となるように溶媒のPCPと共に加え、窒素ガスをフラスコ内に流通させながら、撹拌下に反応温度190℃で10時間重合イミド化反応をおこない、ポリイミド濃度が18重量%のポリイミド溶液を調製した。このポリイミド溶液の100℃における溶液粘度は1400ポイズであった。
前記調製したポリイミド溶液を、実施例1と同様の方法で紡糸を行うことにより、非対称中空糸膜を得た。
【0070】
前記非対称中空糸から作成したペンシルモジュールに、二酸化炭素40体積%である二酸化炭素ガスとメタンガスの混合ガスを8MPaGの圧力、60℃の温度で中空糸膜の外側に供給し、透過流量と透過ガスの組成を測定した。測定した透過ガス流量、透過ガスの組成、非透過ガス流量、供給圧、および有効膜面積から二酸化炭素の透過速度、メタンの透過速度、二酸化炭素とメタンの分離度を算出した。
その結果、混合ガス供給開始から1時間後の二酸化炭素の透過速度(P’CO2)は、13.1×10-5cm3/cm2・sec・cmHgであり、二酸化炭素ガスとメタンガスとの分離度は27であった。また、混合ガス供給開始から380時間後の二酸化炭素の透過速度(P’CO2)は、11.9×10-5cm3/cm2・sec・cmHgであり、二酸化炭素ガスとメタンガスとの分離度は28であった。供給開始から380時間経過までの間、ガス透過性能は殆ど変化することなく安定していた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明によって、高いガス分離性能、例えば二酸化炭素ガスとメタンガスとの高いガス分離性能、二酸化炭素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能、あるいは酸素ガスと窒素ガスとの高いガス分離性能を有したガス分離膜を得ることができる。
また、前記ガス分離膜を用いて二酸化炭素ガスとメタンガスを含む混合ガスから選択的に二酸化炭素ガスを透過させてガス分離を行うガス分離方法、二酸化炭素ガスと窒素ガスを含む混合ガスから選択的に二酸化炭素ガスを透過させてガス分離を行うガス分離方法、あるいは、酸素ガスと窒素ガスを含む混合ガスから選択的に酸素ガスを透過させてガス分離を行うガス分離方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜。
【化1】

〔式中、Bは、芳香族環を含む4価のユニットであり、式中、Aは、芳香族環を含む2価のユニットであり、
その1〜100モル%が、下記化学式(2)
【化2】

で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットである。〕
【請求項2】
芳香族環を含む2価のユニットAが、
その5〜70モル%が、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA1であり、
その95〜30モル%が、下記化学式(A2)で示される2価のユニットA2であるガス分離膜。
【化3】

(式中、R及びR’は水素原子又は有機基であり、nは0、1又は2である。)
【請求項3】
非対称膜であることを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項4】
中空糸膜であることを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス分離膜を用いて、複数のガスを含む混合ガスから特定のガスを選択的に分離回収する方法。
【請求項6】
二酸化炭素とメタンガスを含む混合ガスから、選択的に二酸化炭素ガスを透過させてガス分離を行うことを特長とする請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2013−17988(P2013−17988A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175292(P2011−175292)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】