説明

ポリイミドチューブ、その製造方法、及び定着ベルト

【課題】高度の熱伝導率を有し、機械的強度に優れるとともに、押し込み強度にも優れ、高い定着性、優れたオフセット性を奏するポリイミドチューブポリイミドチューブ、該チューブの製造方法、及び該チューブを基材とする定着ベルトを提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂組成物により構成されたポリイミドチューブであって、前記ポリイミド樹脂組成物が、ポリイミド樹脂中に、カーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーを、組成物全容量基準で15容量%以上分散してなり、前記ポリイミド樹脂組成物の周方向の弾性率/軸方向の弾性率で表される針状高熱伝導性フィラーの配向度が、1.3以上であることを特徴とするポリイミドチューブ、該チューブの製造方法、及び該チューブを基材とする定着ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の定着ベルト等に用いられるポリイミドチューブに関する。より具体的には、熱伝導率や機械的強度、特に圧縮強度(押し込み荷重)に優れ、定着ベルトに使用された場合優れた定着性を与えることができるポリイミドチューブに関する。本発明は、また、前記のポリイミドチューブの製造方法、及び前記のポリイミドチューブをベルト基材とする定着ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式を利用した複写機、レーザービームプリンタなどの画像形成装置における画像形成プロセスでは、露光工程、現像工程、転写工程を通してトナー像を記録紙などの被転写材上に形成した後、この未定着トナー像を被転写材に定着する定着工程が行われる。定着方式としては、未定着トナー像を加熱・加圧して被転写材上に融着させる方法が一般的であり、加熱・加圧手段としては、定着ローラと加圧ローラとを対向させて、その間に、未定着トナー像を載せた被転写材を通過させ、両ローラ間で加圧すると共に、定着ローラ内に設けられた加熱源により加熱する方法が広く採用されている。
【0003】
特開平5−40425号公報では、この定着ローラとしてSUSチューブを用いる方法が開示されている。しかし、SUSチューブは、材料費、加工費が共に高く価格上の問題があると共に、可撓性に乏しく、紙の巻き込みなどが生じた際、端部等に割れが発生しやすいとの問題があった。
【0004】
近年、図1に示すような、薄いエンドレスベルト(定着ベルト1)を介して、加熱手段(ヒータ2)により、被転写材4上の未定着トナー像5を加熱すると共に、加圧ローラ3により加圧して定着し、定着トナー像6を形成する方式が開発されている。定着ベルトとしては、耐熱性、機械的強度、引裂強度、可撓性、離型性などに優れているポリイミドチューブを基材とし、その外表面にフッ素樹脂層を設けたエンドレスベルトが汎用されている。
【0005】
そして、ポリイミドチューブを基材とする定着ベルトの熱伝導性を改良して、電源投入後の待ち時間の短縮、消費電力の低減、定着速度の高速化、定着温度の低温化等を達成させるために、熱伝導性に優れた無機フィラーを含有させる方法が開示されている。無機フィラーとしては、カーボンブラック、シリコンカーバイド、シリカなど(特開平3−25478号公報)、窒化ホウ素(特開平8−80580号公報)や、カーボンナノチューブ(特開2004−123867号公報)等が提案されている。
【特許文献1】特開平5−40425号公報
【特許文献2】特開平3−25478号公報
【特許文献3】特開平8−80580号公報
【特許文献4】特開2004−123867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、無機フィラーを多量に添加すると、ポリイミドチューブの機械的強度が低下する問題がある。例えば、特許文献4の各実施例に具体的に示されているように、カーボンナノチューブの配合割合を高くすると、ポリイミドチューブの引裂強度などの機械的強度が著しく低下する。
【0007】
又、窒化ホウ素等の無機フィラーを用いた場合、圧縮強度が不十分となり、加圧時にチューブが変形し、その結果オフセット性が低下する問題があることが見出された。ここで、オフセット性とは、トナー画像を熱で定着させる場合に発生するオフセット現象を防ぐ性質を言う。オフセット現象とは、トナーの一部が定着ベルト上に転移し、定着ベルトが一周した後転写紙上に戻り、画面上ゴーストとなる現象である。
【0008】
本発明の課題は、高度の熱伝導率を有し、機械的強度に優れると共に、圧縮強度にも優れ、高い定着性、優れたオフセット性を奏するポリイミドチューブを提供することにある。本発明は、又、前記諸特性に優れたポリイミドチューブの製造方法を提供することを目的とする。本発明は、さらに、前記諸特性に優れたポリイミドチューブを基材として用い、電源投入後の待ち時間の短縮、消費電力の低減、定着速度の高速化、定着温度の低温化を達成できると共に、優れた機械的強度を有し、定着性、オフセット性に優れた定着ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリイミド樹脂中に、カーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーを分散してなるポリイミド樹脂組成物から構成され、前記針状高熱伝導性フィラーの配合量が、組成物全容量基準で15容量%以上であり、又前記針状高熱伝導性フィラーをチューブの周方向に高度に配向させることにより、前記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は請求項1として、
ポリイミド樹脂組成物により構成されたポリイミドチューブであって、前記ポリイミド樹脂組成物が、ポリイミド樹脂中に、針状高熱伝導性フィラーを、組成物全容量基準で15容量%以上分散してなり、前記ポリイミド樹脂組成物の(周方向の弾性率/軸方向の弾性率)で表される前記針状高熱伝導性フィラーの配向度が、1.3以上であることを特徴とするポリイミドチューブを提供する。
【0011】
このポリイミドチューブは、ポリイミド樹脂中に、針状高熱伝導性フィラーを分散させたポリイミド樹脂組成物から構成されるものであるが、
針状高熱伝導性フィラーの配合量が、組成物全容量基準で15容量%以上であり、かつ
針状高熱伝導性フィラーの配向度が1.3以上であることを特徴とする。ここで、針状高熱伝導性フィラーの配向度とは、ポリイミド樹脂組成物の、周方向の弾性率/軸方向の弾性率、で表され、針状高熱伝導性フィラーの周方向への配向の程度を示す値である。配向度は1.4以上が好ましい。
【0012】
ここで、針状高熱伝導性フィラーが、組成物全容量基準で15容量%以上とは、ポリイミド樹脂と針状高熱伝導性フィラーを含有するポリイミド樹脂組成物の全容量に対する針状高熱伝導性フィラーの容量が15%以上であることを意味し、この容量%は、JIS K7112A法に規定されている水中置換法などで測定した真比重に基づき求めた値である。
【0013】
本発明の前記の特徴により、高度の熱伝導率を有し、機械的強度に優れると共に、圧縮強度にも優れたポリイミドチューブが得られる。ここで、圧縮強度は、チューブの下部を固定し、押し込み治具にて、チューブに所定の圧縮をしたときの荷重(押し込み荷重)を測定して得られる値である。圧縮強度(押し込み荷重)が優れたポリイミドチューブを定着ベルトは、オフセット性に優れ、又この定着ベルトを用いることにより、鮮明な画像を得ることができる。又、熱伝導率が高いことにより、優れた定着性が得られる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、針状高熱伝導性フィラーが、カーボンナノチューブ又は針状酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドチューブである。
【0015】
針状高熱伝導性フィラーとしては、カーボンナノチューブ又は針状酸化チタンが好ましく用いられる。カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記することがある。)は、ナノサイズの円筒状カーボンである。カーボンナノチューブは、真比重が2.0g/cmで、アスペクト比が通常50〜1000であり、単層型(single−wall)と複層型(multi−wall)とが代表的なものであるが、このような高アスペクト比で黒鉛構造型CNTが好ましい。複層型CNTは、内部が同心円状になった構造を有している。カーボンナノチューブとしては、例えば、繊維径が1μm以下のカーボンナノファイバーや、底の空いたコップ状のカーボン材料が幾重にも重なったカーボンナノチューブなども含まれる。カーボンナノチューブの製法は、特に限定されないが、カーボンナノチューブの径を制御しやすく、量産性にも優れた気相成長法により製造されたものが好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブの短軸径(直径)は、通常300nm以下、好ましくは200nm以下であり、長さは、通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。短軸径及び長軸径は、例えば、レーザー散乱法や操作型電子顕微鏡により測定することができる。カーボンナノチューブの短軸径及び長軸径が大きすぎると、ポリイミドワニスに対する分散性が低下傾向を示し、機械的強度と熱伝導率が低下したり、表面の平滑性が損なわれるおそれがある。
【0017】
針状酸化チタンを用いる場合、針状酸化チタンの直径は5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下であり、長さは200μm以下が好ましく、より好ましくは100μmであり、さらに好ましくは50μm以下である。針状酸化チタンの長さ/直径は、通常10〜100程度である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、ポリイミド樹脂中に、針状高熱伝導性フィラーを、組成物全容量基準で15容量%以上、60容量%以下分散していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミドチューブである。
【0019】
ポリイミド樹脂組成物中の針状高熱伝導性フィラーの含有割合は、前記のように、組成物全容量基準で15容量%以上であるが、好ましくは60容量%以下である。より好ましくは、25容量%以上、50容量%以下である。カーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーの含有割合が低すぎると、ポリイミドチューブ及び該ポリイミドチューブを基材とする定着ベルトの熱伝導率が低下する。針状高熱伝導性フィラーの含有割合が高すぎると、熱伝導率が低下する傾向がある。カーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーは、所望により、カップリング剤で処理してもよい。
【0020】
請求項4に記載の発明は、厚みが10〜150μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドチューブである。
【0021】
ポリイミドチューブの厚み、外径、長さなどは、所望の機械的強度や用途などに応じて適宜選択することができる。本発明のポリイミドチューブを、電子写真方式の画像形成装置における定着ベルトの基材として使用する場合には、ポリイミドチューブの厚みを通常10〜150μm、好ましくは20〜120μm、より好ましくは30〜100μmとし、その外径を通常5〜100mm、好ましくは10〜50mmとする。ポリイミドチューブの長さは、例えば、コピー用紙などの被転写材の大きさに応じて、適宜設定することができる。
【0022】
ポリイミド樹脂としては、熱硬化型ポリイミド樹脂(「縮合型ポリイミド樹脂」ともいう)及び熱可塑性ポリイミド樹脂のいずれも用いることができるが、熱硬化型ポリイミド樹脂から形成されたものであることが、耐熱性、引張強度、引張弾性率などの観点から好ましい。熱硬化型ポリイミド樹脂からなるポリイミドチューブは、ポリイミド前駆体(「ポリアミド酸」または「ポリアミック酸」ともいう。)の有機溶媒溶液(以下、「ポリイミド前駆体ワニス」という。)に、CNT等の針状高熱伝導性フィラーを添加して分散させたもの(以下、「ポリイミドワニス」という。)を円柱状芯体の外面または円筒状芯体の外面若しくは内面に塗布し、乾燥後、加熱して硬化させる方法により得ることができる。
【0023】
ポリイミドワニスの塗布層を乾燥後、芯体表面に付着した状態で加熱硬化(イミド化)するか、あるいは管状物としての構造を保持し得る強度まで固化した時点で、芯体表面から塗布層を取り外し、次の工程で加熱硬化する。ポリイミド前駆体は、最高温度350℃から450℃まで加熱すると、ポリアミド酸が脱水閉環してポリイミド化する。
【0024】
熱硬化型ポリイミド樹脂としては、耐熱性や機械的強度などの観点から縮合型の全芳香族ポリイミド樹脂が好ましい。熱硬化型ポリイミド樹脂としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物などの酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、レゾルシンオキシジアニリンなどのジアミンとを有機溶媒中で重合反応させてポリイミド前駆体を合成し、このポリイミド前駆体の有機溶媒溶液(ポリイミドワニス)を用いてチューブの形状に賦形した後、加熱して脱水閉環したものを挙げることができる。このようなポリイミドワニスとしては、独自に合成したものの他、市販品を用いることができる。
【0025】
本発明で使用するポリイミド樹脂(イミド化した樹脂)は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。ポリイミド樹脂が単独重合体である場合、その化学構造は、下記式(A)
【0026】
【化1】

【0027】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂A、
下記式(B)
【0028】
【化2】

【0029】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂B、及び
下記式(C)
【0030】
【化3】

【0031】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂C
からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリイミド樹脂であることが、ポリイミドチューブの熱伝導率、引張強度、及び引張弾性率を高度にバランスさせる上で好ましい(請求項5)。
【0032】
これらのポリイミド樹脂AないしCは、それぞれ単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。これらの繰り返し単位AないしCを有するポリイミド樹脂は、それぞれに対応するポリイミド前駆体を用いて、チューブに成形後、イミド化する方法により得ることができる。
【0033】
より具体的には、繰り返し単位Aを有するポリイミド樹脂を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。酸二無水物成分とジアミン成分とは、ほぼ等モルの割合で使用する(以下、同じである)。
【0034】
繰り返し単位Bを有するポリイミド樹脂を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。
【0035】
繰り返し単位Cを有するポリイミド樹脂を得るためには、モノマーとして、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。
【0036】
前記ポリイミド樹脂AないしCは、2種以上をブレンドして用いることができるが、その際、剛性に優れたポリイミド樹脂と可撓性に優れたポリイミド樹脂とを組み合わせてブレンドすることが好ましい。このような観点から、ブレンド物としては、例えば、ポリイミド樹脂Aとポリイミド樹脂Bとのブレンド物、及びポリイミド樹脂Aとポリイミド樹脂Cとのブレンド物が好ましい。
【0037】
本発明で使用するポリイミド樹脂が共重合体である場合には、
(1)下記式(A)
【0038】
【化4】

【0039】
で表される繰り返し単位と、下記式(B)
【0040】
【化5】

【0041】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体1、
(2)下記式(D)
【0042】
【化6】

【0043】
で表される繰り返し単位と、下記式(B)
【0044】
【化7】

【0045】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体2、
(3)下記式(E)
【0046】
【化8】

【0047】
で表される繰り返し単位と、下記式(C)
【0048】
【化9】

【0049】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体3、
(4)下記式(A)
【0050】
【化10】

【0051】
で表される繰り返し単位と、下記式(F)
【0052】
【化11】

【0053】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体4、及び
(5)下記式(A)
【0054】
【化12】

【0055】
で表される繰り返し単位と、下記式(G)
【0056】
【化13】

【0057】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体5
からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリイミド共重合体であることが好ましい(請求項6)。
【0058】
これらのポリイミド共重合体1ないし5は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのポリイミド共重合体は、それぞれに対応するポリイミド前駆体を用いて、チューブに成形後、イミド化する方法により得ることができる。
【0059】
前記式(A)で表される繰り返し単位と前記式(B)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド共重合体1を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。酸二無水物成分とジアミン成分との割合は、ほぼ等モルである(以下、同じである)。剛性と可撓性とを高度にバランスさせる上で、前記繰り返し単位(A)の割合は、好ましくは25〜95モル%であり、前記繰り返し単位(B)の割合は、好ましくは5〜75モル%である。
【0060】
前記式(D)で表される繰り返し単位と前記式(B)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド共重合体2を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノベンズアニリドとp−フェニレンジアミンとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。剛性と可撓性とを高度にバランスさせる上で、前記繰り返し単位(D)の割合は、好ましくは25〜95モル%であり、前記繰り返し単位(B)の割合は、好ましくは5〜75モル%である。
【0061】
前記式(E)で表される繰り返し単位と前記式(C)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド共重合体3を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノベンズアニリドと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。剛性と可撓性とを高度にバランスさせる上で、前記繰り返し単位(E)の割合は、好ましくは25〜95モル%であり、前記繰り返し単位(C)の割合は、好ましくは5〜75モル%である。
【0062】
前記式(A)で表される繰り返し単位と前記式(F)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド共重合体4を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物とオキシジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。剛性と可撓性とを高度にバランスさせる上で、前記繰り返し単位(A)の割合は、好ましくは25〜95モル%であり、前記繰り返し単位(F)の割合は、好ましくは5〜75モル%である。
【0063】
前記式(A)で表される繰り返し単位と前記式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド共重合体5を得るためには、モノマーとして、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとレゾルシンオキシジアニリンとを用いてポリイミド前駆体を合成し、該ポリイミド前駆体を含有するポリイミドワニスを用いてチューブを成形した後、イミド化すればよい。剛性と可撓性とを高度にバランスさせる上で、前記繰り返し単位(A)の割合は、好ましくは25〜95モル%であり、前記繰り返し単位(G)の割合は、好ましくは5〜75モル%である。
【0064】
本発明において、ポリイミド樹脂組成物とは、イミド化後のポリイミド樹脂中に針状高熱伝導性フィラーが分散した樹脂組成物を意味する。このようなポリイミド樹脂組成物からなるポリイミドチューブを得るためには、該ポリイミド樹脂に対応するポリイミド前駆体の有機溶媒溶液中に針状高熱伝導性フィラーを所定の配合割合で添加したポリイミドワニスを用いて、後述するディスペンサー法等によりチューブを形成し、イミド化すればよい。
【0065】
本発明において、ポリイミド樹脂組成物中には、本発明の目的を損なわない範囲で、前記針状高熱伝導性フィラーに加えて、他の無機フィラーを加えてもよい。例えば、より高い熱伝導率を得るために、ボロンナイトライド等の高熱伝導性フィラーを加えてもよい。
【0066】
本発明のポリイミドチューブは、ポリイミド前駆体とカーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーを含有する有機溶媒溶液(ポリイミドワニス)を円柱状または円筒状芯体の外面(外表面)または内面(内表面)にディスペンサーを用いて、螺旋状に巻回して塗布層を形成する方法(ディスペンサー法)などによって製造することができる。
【0067】
具体的には、ディスペンサー法では、
円柱状芯体の外面、又は円筒状芯体の外面もしくは内面に、ディスペンサー供給部の吐出口を近接又は接触し、
前記芯体を回転させながら、かつ前記吐出口を芯体の回転軸方向に相対的に移動させながら、
前記吐出口より、前記円柱状芯体の外面上、又は円筒状芯体の外面上もしくは内面上に、ポリイミドワニスを連続的に供給して塗布層を形成する工程、
前記塗布層の形成後、前記塗布層を固化又は硬化する工程、及び
前記固化又は硬化後、前記芯体から塗布層を脱型する工程、
が行われる。
【0068】
ここで、吐出口を芯体の回転軸方向に相対的に移動するとは、芯体を回転させながら、芯体の一方の端側から他方の端側に徐々に移動させることを意味し、従って、ポリイミドワニスは、芯体上に螺旋状に塗布される。ここで用いられる前記ポリイミドワニスは、ポリイミド前駆体をN−メチルピロリドン等の溶剤に溶解してなる溶液に、針状高熱伝導性フィラーを分散してなるものであり、針状高熱伝導性フィラーの含有量は、ポリイミドワニスの全固形分を基準として15容量%以上である。本発明は、請求項7として、このディスペンサー法によるポリイミドチューブの製造方法を提供する。
【0069】
このディスペンサー法によるポリイミドチューブの製造方法によれば、針状高熱伝導性フィラーを周方向に配向させることができ、針状高熱伝導性フィラーの配向度が、1.3以上であるポリイミドチューブを得ることができる。周方向の配向度を高くすることにより、優れた圧縮強度が得られ、オフセット性が向上するが、さらに引張強度を高めるとの効果も得られる。周方向の引張強度が特に高いポリイミドチューブは、定着ベルトの基材として用いた場合に、駆動時のねじれ変形や座屈による潰れなどを抑制することができる。
【0070】
本発明のポリイミドチューブは、定着ベルトの基材として用いることができる。本発明は、請求項8として、前記本発明のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層が設けられていることを特徴とする定着ベルトを提供する。この定着ベルトは、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニット等に、好適に使用される。
【0071】
本発明のポリイミドチューブを定着ベルトの基材として使用する場合、その外周面にフッ素樹脂ワニスを塗布し、高温で焼結する方法を採用することがあるが、前記ポリイミド樹脂、ポリイミド共重合体、及びこれらのブレンド物は、このような高温での焼結に耐え得るだけの耐熱性を有している。
【発明の効果】
【0072】
本発明のポリイミドチューブは、高度の熱伝導率を有し、機械的強度に優れると共に、圧縮強度にも優れ、高い定着性、優れたオフセット性を奏するものである。この諸特性に優れたポリイミドチューブは本発明のポリイミドチューブの製造方法により製造することができる。さらに、この諸特性に優れたポリイミドチューブを基材として用いた本発明の定着ベルトは、電源投入後の待ち時間の短縮、消費電力の低減、定着速度の高速化、定着温度の低温化を達成できると共に、優れた機械的強度を有し、定着性やオフセット性に優れた定着ベルトであり、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニット等に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
図2は、本発明の製造方法に用いられるディスペンサー法の説明図である。図2に示すように、円柱状芯体24を周方向に回転させながら、ポリイミドワニスをディスペンサー供給部21から連続的に、円柱状芯体24の外面に供給する。該供給部の吐出口22は、該円柱状芯体24の外面に接触させる。なお、芯体としては、円柱状芯体24の代わりに、円筒状芯体を用いることが出来、この場合も図2の場合と同様に、芯体の外面にポリイミドワニスを供給することもできるが、芯体の内部に、ディスペンサー供給部の吐出口を接触させて、芯体の内面にポリイミドワニスを供給することもできる。
【0074】
ポリイミドワニスをディスペンサー供給部21の吐出口22から連続的に供給すると共に、該供給部21を芯体の回転軸方向に相対的に移動させると、供給したポリイミドワニスが螺旋状に巻回されて塗布層23が形成される。通常、ディスペンサー供給部21を円柱状芯体24の回転軸方向に移動させるが、円柱状芯体24を回転させながらディスペンサー供給部21に対して回転軸方向に移動させてもよい。回転速度及び移動の速度は、芯体24の表面に隙間無くポリイミドワニスが塗布され、螺旋状に巻回されたポリイミドワニスの隣接部分が結合して均一な塗布層を形成できる速度とする。ディスペンサー供給部21の吐出口22は、通常、ノズルとなっている。
【0075】
この塗布工程の後、常法により、塗布したポリイミドワニスを加熱硬化(イミド化)すると、強固な薄いチューブ状のフィルムが生成される。その後、該芯体からチューブを取り出すことにより、ポリイミドチューブを得ることができる。塗布工程後、完全にイミド化することなく、塗布層が少なくともチューブとしての構造を保持しうる強度を有するまで固化したチューブを脱型し、脱型後に該チューブを加熱硬化(イミド化)させてもよい。
【0076】
この製造方法に用いられるポリイミドワニスは、固形分として、ポリミド前駆体とカーボンナノチューブ等の針状高熱伝導性フィラーを含有し、かつ、該固形分の全容量における針状高熱伝導性フィラーの含有割合が15容量%以上のポリイミドワニスである。ポリイミドワニスの25℃での粘度は、好ましくは100〜15000ポイズ、より好ましくは100〜3000ポイズである。ポリイミドワニスの粘度が高すぎると、螺旋状に巻回塗布されたポリイミドワニスが互いに接触してつながる部分が他の部分より薄くなり、塗布層の表面に凹凸を生じる。ポリイミドワニスの粘度が低すぎると、塗布時または乾燥時に液だれ若しくははじきが生じ、チューブを形成することが困難となる。ポリイミドワニスの粘度を調整することにより、液だれやはじきがなく、しかも、塗布後、塗布液が重力または遠心力により動いて液面が平滑となり、凹凸のない平坦な塗布層を形成することができる。確実に液だれ、はじき、及び凹凸の形成を防止するには、使用するポリイミドワニスの粘度を100〜3000ポイズの範囲とすることが好ましい。
【0077】
使用する芯体の形状は、円柱状及び円筒状である。本発明で使用する芯体の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス等の金属;アルミナ、炭化ケイ素等のセラミックス;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール等の耐熱樹脂等が挙げられる。
【0078】
芯体の離型性を良くするため、シリコーンオイル等からなる離型剤の塗布、または芯体をセラミックスコーティングすることが好ましい。セラミックスとしては、ゾルゲル法でコーティングしたシリカ、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素;溶射法でコーティングしたアルミナ、ジルコニア;スパッタリング法でコーティングした窒化アルミ等が挙げられる。これらの中でも、高価な装置を必要とせず、コーティング作業が容易であるゾルゲル法によるセラミックスコーティングが好ましい。
【0079】
螺旋状の塗布経路に沿って、僅かに色の濃い部分を生じて縞模様となることがあり、ひどい場合には、色の濃い部分と薄い部分で厚みが異なり、塗膜に凹凸が生じることがある。この縞模様の発生は、ディスペンサー供給部の吐出口と芯体に螺旋状に塗布されたポリイミドワニス層とが接触しており、なおかつ、移動速度V(mm/秒)と芯体の回転数R(回転/秒)とが(V/R)<3.0(mm/回転数)で表される関係式で表される範囲の条件で塗布を行うことにより、液吐出口近傍での液の撹拌効果等により縞模様及び凹凸の発生を防止できる。この関係式は、(V/R)<1.5(mm/回転数)であることが好ましい。
【0080】
ディスペンサー供給部の吐出口には、プラスチックス製チューブ、ゴム製チューブ、金属管などを使用することができる。これらの中でも、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製のチューブが、適度な剛性を有し、芯体表面にキズを付けにくいため好ましい。
【0081】
本発明のポリイミドチューブは、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニットに装着される定着ベルトの基材として用いることができる。本発明の定着ベルトは、本発明のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層が設けられた構造を有するものであることが好ましい。
【0082】
フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂としては、定着ベルトの高温での連続使用を可能とするために、耐熱性に優れたものが好ましく、その具体例としては、例えば、テトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが挙げられる。
【0083】
フッ素樹脂層は、フッ素樹脂のみを用いて形成することができるが、帯電によるオフセットを防止するために、好ましくは、導電性フィラーを含有させる。フッ素樹脂層とポリイミドチューブとを接着剤を介して接着する場合には、同様に、中間層の接着層にも導電性フィラーを含有させることができる。フッ素樹脂層は、定着ベルトに離型性を付与し、記録紙などの被転写材上のトナーが定着ベルト表面に付着しないようにするために設けられる。
【0084】
導電性フィラーとしては、特に限定されないが、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;アルミニウム等の金属粉などを挙げることができる。
【0085】
フッ素樹脂層は、フッ素樹脂を含有するワニスを塗布し、焼結する方法により形成することができるが、その他の方法として、フッ素樹脂チューブを被覆する方法を採用することもできる。フッ素樹脂層の厚みは、通常1〜30μm、好ましくは5〜15μm程度である。
【0086】
定着ベルトには、ポリイミドチューブとフッ素樹脂層との間の接着性を向上させるために、中間層として接着層を設けることができる。接着層には、所望により、導電性フィラーを含有させることができる。接着層は、耐熱性の観点から、耐熱性樹脂により構成することが好ましい。接着層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂とポリアミドイミド樹脂との混合物、フッ素樹脂とポリエーテルスルホン樹脂との混合物などが好ましい。接着層に導電性フィラーを含有せしめると、定着ベルト内面の摩擦帯電に対するシールド効果と外面の帯電防止効果を高めて、オフセットを効果的に防止することができる。接着層の導電性フィラーとしては、外層に使用するのと同じものが使用できる。導電性フィラーの配合割合は、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%程度である。接着層の厚みは、通常0.1〜20μm、好ましくは1〜10μm程度である。
【0087】
本発明の定着ベルトは、加熱硬化(イミド化)したポリイミドチューブの外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層を設けた構造を有するものである。フッ素樹脂層の形成に際し、高温でフッ素樹脂の焼結を行う場合には、ポリイミドチューブの製造工程で溶媒を乾燥除去して固化したチューブを作製し、その上に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層を形成した後、フッ素樹脂の焼結と同時にポリイミドチューブを加熱硬化させてもよい。
【0088】
図3は、ポリイミドチューブ11の外周面にフッ素樹脂層13が形成された二層構造の定着ベルトを示す断面図である。図4は、ポリイミドチューブ11の外周面に、接着層12を介して、フッ素樹脂層13が形成された三層構造の定着ベルトを示す断面図である。さらに、中間層に、接着層以外の樹脂層またはゴム層を付加的に配置してもよい。
【実施例】
【0089】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されない。実施例及び比較例における性能評価のための試験方法や試験条件は、次のとおりである。
【0090】
(1)熱拡散率の測定
アルバック理工社製の周期的加熱法熱拡散率測定装置(FTC−1)を用いてポリイミドチューブの熱拡散率を測定した(測定温度23℃)。得られた熱拡散率にポリイミドチューブの比熱と密度とを掛け合わせて、熱伝導率を算出することができる。
【0091】
(2)押し込み荷重(圧縮荷重)の測定(圧縮強度)
測定装置 :島津製作所社製オートグラフ
押し込み治具:円盤状(直径1.3cm)
測定方法 :ポリイミドチューブの下部を固定し、押し込み治具にて、ポリイミドチューブを1mm圧縮したときの荷重を測定する。
【0092】
(3)定着性試験
試験方法 :アルミ板にポリイミドチューブを固定する。
ポリイミドチューブにトナーをまぶしサンプルが150℃になるまで
加熱する。
トナーに紙を押し当て、5回ほどこすった後、紙を剥がして、トナーが
紙に転移するかどうかを確認し、以下に示す基準で評価する。
◎:完全にトナーが紙に転移している
○:殆どのトナーが紙に転移している
×:多くのトナーがポリイミドチューブに残留している
【0093】
(4)オフセット試験
ポリイミドチューブを定着器に組み入れ、オフセット発生の有無を、以下に示す
基準で評価する。
○:オフセット発生せず
×:オフセット発生
【0094】
(5)配向度
ポリイミドチューブから試料片を切り出し、周方向と軸方向の2箇所で、JIS K 7161に従って、島津製作所社製のオートグラフ「AG−IS」を用い、引張速度1.7mm/s、チャック間距離30mmで測定して弾性率を求めた。
このようにして求めた周方向の弾性率及び軸方向の弾性率より、下記の式により配向度を求めた。
配向度=周方向の弾性率/軸方向の弾性率
【0095】
(6)原料のポリイミド前駆体ワニスとしては、以下に示すワニスを用いた。
・宇部興産社製「U−ワニスS−301」、比重1.446;前記式(A)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を形成するポリイミド前駆体を、溶剤(N−メチルピロリドン)に濃度18%で溶解したワニス(以下、「UワニスS」との略号で示す。)。・I.S.T社製「Pyre ML RC−5019」;前記式(C)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を形成するポリイミド前駆体を、溶剤(N−メチルピロリドン)に濃度15%で溶解したワニス(以下、「Pyre ML」との略号で示す。)。
【0096】
(7)原料のカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製「VGCF」、直径150nmφ、長さ8μm、比重2.0を用いた。
【0097】
[実施例1]
UワニスS(ポリイミド前駆体ワニス)に、カーボンナノチューブ及びボロンナイトライド(三井化学社製「MBN−010T」、黒鉛構造型BN、比重2.27)を、それぞれ、固形分全容量基準(ワニス中の固形分の容量を100容量%とする。)で、15容量%及び15容量%加え、撹拌機で予備撹拌し、3本ロールミルで配合後、真空脱泡を行い、前記各成分を含有するポリイミドワニスを得た。
【0098】
芯体として、外面にセラミックスをコーティングした外径20mmφのアルミニウム製円柱を使用した。ディスペンサー供給部にセットしたノズル(吐出口)を該芯体の外面に接触させた。
【0099】
該芯体を回転させると共に、ノズルを該芯体の回転軸方向に一定速度で移動させながら、ディスペンサー供給部のノズルから前記ポリイミドワニスを芯体の外面に定量供給し、ポリイミドワニスの塗布を行った。ディスペンサー供給部のノズルとしては、内径2mm、外径4mmのPTFE製チューブを使用した。ノズルの移動は、芯体右端から20mm(供給開始時)の位置から、芯体左端から20mm(供給停止時)の位置まで行った。塗布後、芯体を回転させながら400℃まで段階的に加熱し、冷却後、固化したポリイミド樹脂の塗布膜を芯体から、チューブとして脱型した。このようにして得られたポリイミドチューブの厚みは80μmであり、外径は24.2mmで、長さは233mmであった。
【0100】
得られたポリイミドチューブについて、前記の方法で、熱拡散率、押し込み荷重、定着性を測定し、オフセット試験を行い、又、軸方向及び周方向の引張試験を行って配向度を求めた。その結果を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
UワニスSとPyre MLを90:10(重量比)で混合したポリイミド前駆体ワニスに、カーボンナノチューブを、固形分全容量基準25容量%加え、撹拌機で予備撹拌し、3本ロールミルで配合後、真空脱泡を行い、前記各成分を含有するポリイミドワニスを得た。このようにして得られたポリイミドワニスを用いた以外は、実施例1と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で30容量%とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で30容量%とし、UワニスSとPyre MLの混合比を80:20(重量比)とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表1に示す。
【0104】
[実施例5]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で30容量%とし、UワニスSとPyre MLの混合比を70:30(重量比)とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表1に示す。
【0105】
[実施例6]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で35容量%とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0106】
[実施例7]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で35容量%とし、UワニスSとPyre MLの混合比を80:20(重量比)とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0107】
[実施例8]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で40容量%とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0108】
[実施例9]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で40容量%とし、UワニスSとPyre MLの混合比を80:20(重量比)とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0109】
[実施例10]
カーボンナノチューブの量を、固形分全容量基準で40容量%とし、UワニスSとPyre MLの混合比を70:30(重量比)とした以外は、実施例2と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0110】
[比較例1]
ポリイミドチューブの代わりに、厚みは30μm、外径は24mmで、長さは233mmのSUSチューブを作製し、該SUSチューブについて、前記の方法で、熱拡散率、押し込み荷重、定着性を測定し、オフセット試験を行った。その結果を表3に示す。
【0111】
[比較例2]
UワニスSとPyre MLを90:10(重量比)で混合したポリイミド前駆体ワニスに、ボロンナイトライド(三井化学社製「MBN−010T」)を、固形分全容量基準25容量%加え、撹拌機で予備撹拌し、3本ロールミルで配合後、真空脱泡を行い、前記各成分を含有するポリイミドワニスを得た。このようにして得られたポリイミドワニスを用いた以外は、実施例1と同じ条件で、ポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表3に示す。
【0112】
[比較例3]
カーボンナノチューブ及びボロンナイトライドを添加しなかった以外は、実施例1と同じ条件でポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表3に示す。
【0113】
[比較例4]
カーボンナノチューブの添加量を、固形分全容量基準(ワニス中の固形分の容量を100容量%とする。)で10容量%とした以外は、実施例1と同じ条件でポリイミドチューブを作製し、このポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表3に示す。
【0114】
[比較例5]
UワニスSとPyre MLを90:10(重量比)で混合したポリイミド前駆体ワニスに、カーボンナノチューブを、固形分全容量基準30容量%加え、撹拌機で予備撹拌し、3本ロールミルで配合後、真空脱泡を行い、前記各成分を含有するポリイミドワニスを得た。
【0115】
得られたポリイミドワニスに、外面にセラミックスをコーティングした外径20mmφのアルミニウム製円柱(芯体)を浸漬した後引き上げ、その後、芯体を回転させながら400℃まで段階的に加熱し、冷却後、固化したポリイミド樹脂の塗布膜を芯体から、チューブとして脱型した。このようにして得られたポリイミドチューブの厚みは80μmであった。得られたポリイミドチューブについて、実施例1と同じ測定、試験を行った。その結果を表3に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
ポリイミド樹脂中に、カーボンナノチューブを、組成物全容量基準で15容量%以上分散してなるポリイミド樹脂組成物により構成され、かつディスペンサー法で作製されて配向度が1.5以上である実施例1〜10のポリイミドチューブは、熱拡散率(熱伝導率)に優れ、その結果定着性も優れている。又、押し込み荷重(圧縮強度)も大きく、その結果オフセット性も優れている。実施例1〜10では、SUS製のチューブを用いた比較例1とほぼ同等の定着性、オフセット性が得られている。
【0120】
カーボンナノチューブを配合しない比較例2、3のポリイミドチューブは、熱拡散率(熱伝導率)、押し込み荷重(圧縮強度)が共に低く、その結果定着性及びオフセット性が低い。カーボンナノチューブの分散量が10容量%である比較例4のポリイミドチューブは、熱拡散率(熱伝導率)が不十分であり、その結果定着性が低い。
【0121】
比較例5では、カーボンナノチューブの分散量は30容量%であるが、ポリイミドチューブの作製をディップ法で行ったため、配向度が低い。その結果、押し込み荷重(圧縮強度)が低く、オフセット性も低い。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のポリイミドチューブは、電子写真方式による画像形成装置の定着ユニットに配置する定着ベルトの基材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】定着ベルトを用いた定着方式を示す説明図である。
【図2】ディスペンサー法による塗布法を示す説明図である。
【図3】定着ベルトの一例の層構成を示す断面図である。
【図4】定着ベルトの他の一例の層構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0124】
1 定着ベルト
2 ヒータ
3 加圧ローラ
4 被転写材
5 未定着トナー像
6 定着トナー像
11 ポリイミドチューブ
12 接着層
13 フッ素樹脂層
21 ディスペンサー供給部
22 吐出口
23 塗布層
24 円柱状芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂組成物により構成されたポリイミドチューブであって、前記ポリイミド樹脂組成物が、ポリイミド樹脂中に、針状高熱伝導性フィラーを、組成物全容量基準で15容量%以上分散してなり、前記ポリイミド樹脂組成物の(周方向の弾性率/軸方向の弾性率)で表される前記針状高熱伝導性フィラーの配向度が、1.3以上であることを特徴とするポリイミドチューブ。
【請求項2】
針状高熱伝導性フィラーが、カーボンナノチューブ又は針状酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドチューブ。
【請求項3】
ポリイミド樹脂中に、針状高熱伝導性フィラーを、組成物全容量基準で15容量%以上、60容量%以下分散していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミドチューブ。
【請求項4】
厚みが10〜150μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドチューブ。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂が、
下記式(A)
【化1】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂A、
下記式(B)
【化2】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂B、及び
下記式(C)
【化3】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂C
からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリイミドチューブ。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂が、
(1)下記式(A)
【化4】

で表される繰り返し単位と、下記式(B)
【化5】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体1、
(2)下記式(D)
【化6】

で表される繰り返し単位と、下記式(B)
【化7】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体2、
(3)下記式(E)
【化8】

で表される繰り返し単位と、下記式(C)
【化9】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体3、
(4)下記式(A)
【化10】

で表される繰り返し単位と、下記式(F)
【化11】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体4、及び
(5)下記式(A)
【化12】

で表される繰り返し単位と、下記式(G)
【化13】

で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体5
からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリイミド共重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリイミドチューブ。
【請求項7】
円柱状芯体の外面、又は円筒状芯体の外面もしくは内面に、ディスペンサー供給部の吐出口を近接又は接触し、
前記芯体を回転させながら、かつ前記吐出口を芯体の回転軸方向に相対的に移動させながら、
前記吐出口より、前記円柱状芯体の外面上、又は円筒状芯体の外面上もしくは内面上に、ポリイミドワニスを連続的に供給して塗布層を形成する工程、
前記塗布層の形成後、前記塗布層を固化又は硬化する工程、及び
前記固化又は硬化後、前記芯体から塗布層を脱型する工程を有し、
前記ポリイミドワニスが、ポリイミド前駆体の溶液に、針状高熱伝導性フィラーを分散してなり、針状高熱伝導性フィラーの含有量が、ポリイミドワニスの全固形分を基準として15容量%以上であることを特徴とするポリイミドチューブの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層が設けられていることを特徴とする定着ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−156965(P2009−156965A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332775(P2007−332775)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】