説明

ポリイミド前駆体の精製方法、及びポリイミド前駆体の分子量測定方法

【課題】ポリイミド前駆体、特にポリアミック酸の分子量を、安価で簡便な処理により、より安定的に再現性良く測定できる分子量測定方法、および、ポリイミド前駆体の精製方法を提供する。
【解決手段】ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって精製を行う、ポリイミド前駆体の精製方法である。また、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定を行う、ポリイミド前駆体の分子量測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性を有する絶縁材料や、感光性ポリイミドの主成分として好適に利用することが出来る、ポリイミド前駆体の精製方法、及び、ポリイミド前駆体の分子量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリアミック酸は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない。
【0003】
ポリアミック酸は、一般に酸二無水物とジアミンを溶液中で混合し合成されるが、酸無水物基とアミノ基からなる付加反応は可逆反応である為、付加反応に平行して分解反応も進行している。この付加反応は発熱反応であることから、一般にポリアミック酸は低温で保管することにより、分子量の低下を抑制している。ポリアミック酸溶液が水分を含んでいる場合、ある一定の確率で逆反応により生成した酸無水物基がその水分と反応しジカルボン酸となる。ジカルボン酸になるとアミノ基との付加反応は進行せず、その部分は失活してしまう。その為、ポリアミック酸は保管とともに分子量が低下する(非特許文献1)。
【0004】
また、最終的に得られるポリイミドの骨格が剛直であるものほど、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、溶解性が低下し、アミド系の極性溶媒であるジメチルアセトアミド(DMAc)やN−メチルピロリジノン(NMP)などにしか溶解しないことが多く、用いることができる溶媒が限られている。
簡便に合成でき、ポリイミドに比べて溶解性にも優れるポリアミック酸は、上記のように、安定性に課題がある為、5度以下、好ましくは冷凍での保管が推奨されている。
【0005】
ポリアミック酸を管理する上で、分子量の情報を得ることは非常に重要であるが、ポリアミック酸は安定性が低いことから、一般に分子量測定に用いられる、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略することがある)による平均分子量の測定が安定的に行えないという課題があった。
【0006】
GPCは、スチレンなどのゲルが充填されたカラム中を、測定サンプルの溶液を流すことでその分子量に応じて、カラムの通過時間が変化し、その時間を予め平均分子量の確認されている標準サンプル(通常はポリスチレンの場合が多い)と比較することによって、平均分子量を計算するものである。その際に、溶液やカラムを室温やそれ以上の温度に加熱し測定する為、ポリアミック酸をそのまま測定すると、装置内で分子鎖が切断され、分子量低下を起こしたり、さらには、不溶性の成分となり析出し、カラムを目詰まりさせたりして、安定的に再現性良く測定ができないという問題があった。
また、これに付随して、GPCを用いてポリアミック酸を所望の分子量ごとに分取・精製することが難しいという課題もあった。
【0007】
非特許文献2に記載されているポリイミドの異性体であるポリイソイミドは、ポリアミック酸をジシクロヘキシルカルボジイミドやテトラフルオロ酢酸無水物と3級アミンの組み合わせなどで脱水縮合することで得られ、室温では比較的安定であり、溶解性が良好である。
従来、ポリアミック酸の平均分子量は、ポリイミドを一旦、イソイミド化し、それを用いてGPCを測定する手法が行われていた。しかしながら、脱水剤の除去が難しい、また、脱水剤として加えた成分が、酸や塩基の場合、それによりポリアミック酸の分子鎖が切断され分子量が変化する、さらには、イソイミド化の反応の濃度によってはゲル化しやすい、などの課題があり、取り扱いが難しく、さらに得られたデータの正確性にも疑問があった。
【0008】
【非特許文献1】Kreuz, J. A., ”J. Polym. Sci. Part. A: Polym Chem”, 1990, 28, p.3787.
【非特許文献2】Mochizuki, A., ”Polymer”, 1995, 36, 2153-2158.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、ポリイミド前駆体、特にポリアミック酸の分子量を、安価で簡便な処理により、より安定的に再現性良く測定できる分子量測定方法、および、ポリイミド前駆体の精製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法は、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって精製を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るポリイミド前駆体の分子量測定方法は、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定を行うことを特徴とする。
【0011】
高い耐熱性や良好な絶縁特性を示すポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、室温以上の温度における保存安定性が低く、その為、ポリアミック酸のままではGPCによって分子量を再現性良く測定できなかった。
それに対し、本発明においては、ポリアミック酸にビニルエーテルを作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体とすることにより、分子量を変化させずに安定性を向上させることが可能となる。その為、測定中の分子鎖の分解を抑制でき、GPCを用いても、安定的に再現性良く分子量の測定を行うことができる。
さらには、GPCを用いて分取を行うことにより、分子量分布の制御された精製度の高いポリイミド前駆体を得ることが可能であり、その前駆体は、ヘミアセタールエステル化されているので、安定的に保存可能である。さらには、加熱によりヘミアセタールエステルを容易に分解できる為、温和な条件でポリアミック酸に戻すことも可能である。
【0012】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0013】
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0014】
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0015】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素原子が第1級炭素原子であることが、安定的な精製及び分子量測定を行える点から好ましい。
【0016】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに用いる展開溶媒として、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びγ−ブチロラクトンよりなる群から選択される1種以上の溶媒を用いることが、溶解性が良好となり、より高濃度で精製を行える為、作業効率が高まる点、データの再現性が良好な点から好ましい。また、その際に溶媒中の水分の含有率が1重量%未満であることが好ましく、0.1重量以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル化率が、50%〜100%であることが安定的な精製及び分子量測定ができる点から好ましい。
【0018】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と、ビニルエーテル化合物とを反応させて得られたものであることが、高いヘミアセタールエステル化率を示すことから、安定的な精製及び分子量測定ができる点から好ましい。
【0019】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに注入する際の溶液中のポリイミド前駆体の濃度が0.001重量%〜30重量%であることが好ましい。濃度が低すぎると精製の効率が低下すると共に、精製中にヘミアセタールエステル結合の分解やその後、ポリアミック酸主鎖の加水分解も起こりやすくなるため安定性も低下する傾向にある。濃度が高すぎると逆に精製の純度を高めにくくなる。
【発明の効果】
【0020】
以上に述べたように、本発明のポリイミド前駆体の精製方法、および、分子量測定方法においては、ヘミアセタールエステル化されたポリアミック酸が、保存安定性が良好であり、しかも、温和な反応条件で簡便に、ポリアミック酸にほとんど影響を与えることなく合成可能であることから、安定的に精製や、分子量測定ができる。
さらには、加熱によりヘミアセタールエステル結合を分解しポリアミック酸とすることも可能である。合成が簡便でさらに安価に行えるので、より低コストで安定的に精製や、分子量測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法は、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって精製を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るポリイミド前駆体の分子量測定方法は、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定を行うことを特徴とする。
【0022】
発明者は、課題に対し鋭意検討の結果、以下のような手法を見出すにいたった。
ポリアミック酸とビニルエーテル化合物は、室温で混合することで付加反応が進行し、ヘミアセタールエステル結合を形成し、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が得られることを見出した。この反応は、室温での反応であることに加え、触媒も必要なく、付加反応であるため生成物も発生しないことから、ポリアミック酸の分子量に影響をほとんど与えることなく反応が進行し、ポリアミック酸のカルボキシル基を保護することが可能である。ビニルエーテル化合物によって、ヘミアセタールエステル結合を介してポリイミド前駆体へと導入されたカルボキシル基の保護基は、実用上十分な熱安定性と高い保存安定性を有する。
【0023】
ポリアミック酸は室温において、主鎖の分解による分子量低下などにより分子量が変化することが知られているが、カルボキシル基をヘミアセタールエステル化して保護することにより、主鎖の分解を抑制でき、分子量変化がほとんどない状態となる。
あわせて、カルボキシル基をヘミアセタールエステル化することによりカルボキシル基同士の水素結合がなくなり、溶液の粘度が低粘度化する。
【0024】
GPCは、温度の安定性を保つ為、通常40℃付近の温度で分析や精製を行っている。ポリアミック酸の合成反応は、平衡反応であり、温度が高温側にシフトすると分子量が低下する方向に、低温側にシフトすると分子量が大きくなる方向に平衡が移動する。その為、ポリアミック酸のまま、GPCによって分子量測定や精製を行おうとすると、その過程で、分子量低下が起こり、それに伴い溶解性も変化して析出し、カラムが目詰まりする。つまり、安定して再現性良く測定や精製が行えない。
一方、本発明のヘミアセタールエステル化したポリアミック酸は、そのヘミアセタールエステル結合のエーテル酸素に結合する置換基の構造にもよるが、40℃程度の加熱では安定であり、且つ溶解性も良好な為、GPCによって分子量測定や精製を行う過程で分子量低下や析出等が発生しない。結果として、安定して分子量の測定が可能であり、また、流下物を分取することにより、各分子量毎に精製を行うことが可能となる。
【0025】
さらには、加熱によりヘミアセタールエステルを容易に分解できる為、ポリアミック酸に戻すことも可能である。
すなわち、ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を反応させて得られる芳香族ヘミアセタールエステル結合は、180℃以下の加熱により、ポリアミック酸とビニルエーテル、または、アセトアルデヒド、アルコールなどに分解する。ヘミアセタールエステル結合の熱分解によって発生するこれらの化合物は、180℃以下に沸点を持つ常温で液体の場合が多く、加熱の過程でその大部分が揮発する。さらに、イミド化に要する250℃以上の加熱によって、ほぼ全てが膜中より放散されると推測される。その為、最終的に得られたポリイミド膜は、ビニルエーテル由来の残存物はほとんどなく、用いたポリアミック酸から生成されたポリイミド膜に非常に近いものが得られる。
【0026】
以上のように、本発明に用いられるヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体は、保存時はカルボキシル基が保護され安定で、GPCによる分子量測定や精製を行える状態であるにもかかわらず、その後容易にポリアミック酸に戻せ、且つ、イミド化後はポリアミック酸を用いたのとほぼ同様なポリイミドとなるポリイミド前駆体を得ることができる。
【0027】
次に、本発明に用いられるポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体について説明する。
本発明に用いられるポリアミック酸は、特に限定されるものではない。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを適宜有機溶媒中で反応させて得られたポリアミック酸を、適宜用いることができる。
【0028】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0029】
【化3】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0030】
【化4】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0031】
上記式(1)において、一般に、Rは、テトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、Rはジアミン由来の構造である。
本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物は、1種類のテトラカルボン酸二無水物単独で、または2種類以上のテトラカルボン酸二無水物を併用して用いることができる。本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などが挙げられる。更に、本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物としては、例えば、特開2007−101685号公報の段落0062〜段落0064に記載の酸二無水物などを挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明のポリイミド前駆体に用いられる酸二無水物としては、カルボキシル基が芳香環に結合した構造であることが、ビニルエーテル化合物との反応が良好で、容易にヘミアセタールエステル化できる点から好ましい。従って、上記式(1)におけるRは、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の構造が、全繰り返し単位中に50%以上、より好ましくは70%以上、より更に好ましくは90%以上含まれることが好ましい。
【0033】
一方、本発明のポリイミド前駆体に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。本発明のポリイミド前駆体に適用可能なジアミン成分としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。更に、本発明のポリイミド前駆体に適用可能なジアミン成分としては、例えば、特開2007−101685号公報の段落0065〜段落0072に記載の酸二無水物などを挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
上記式(2)で表されるヘミアセタールエステル結合は、例えば以下のようなカルボキシル基とビニルエーテル化合物との反応により得ることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
つまり、ヘミアセタールエステル結合をカルボン酸とビニルエーテル化合物の付加反応により形成する場合、上記式(2)のAはビニルエーテル化合物の構造によって決まる。上記式(2)で表される構造は、ジヒドロピラン等の環状ビニルエーテル化合物を用いて形成しても良いが、この場合には、安定性は高いが反応性が悪く、反応時間が長くなるため、非環状ビニルエーテル化合物を用いて形成することが好ましい。
ここで環状ビニルエーテル化合物とはビニルエーテルのビニル結合自体が環構造の一部となっている3,4−ジヒドロ−2H−ピランのようなものである。たとえば、シクロヘキシルビニルエーテルや2−ビニロキシテトラヒドロピランなどは環構造を有しているがビニル基が環構造の一部となっていない為、非環状ビニルエーテルとなる。
【0037】
、R、Rは、は、水素、または、置換または無置換のアルキル基、アリル基、アリール基が好ましい。特に材料選定の幅も広く低コストで入手できる点から、水素であることが好ましい。また、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基は安定性を低下させる為含まないことが好ましい。
この場合の活性水素を有する置換基とは、ヘミアセタールエステル結合と交換反応可能な置換基を示し、具体的には水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などが挙げられる(化学辞典 東京化学同人)。
【0038】
上記式(2)中のAは、炭素数が1以上の1価の有機基である。Aは、炭化水素骨格を有する基が例示される。それらは、ヘテロ原子等の炭化水素以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素骨格を有する基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、さらには、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有する基(例えば、−(R−O)n−R’、ここでR及びR’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、nは1以上の整数;−R”−(O−R”’)m、ここでR”及びR”’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、mは1以上の整数、−(O−R”’)mはR”の末端とは異なる炭素に結合している;などが挙げられる。)、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にチオエーテル結合を含有する基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格上にハロゲン原子、シアノ基、シリル基、ニトロ基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなるさまざまな基が挙げられる。
【0039】
1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基を含むと、ヘミアセタールエステル結合が分解しやすくなることから保存安定性が低下するので、上記式(2)のAは、活性水素を含有しないことが好ましい。
更に、上記式(2)のAは、反応性を有するエチレン性不飽和結合などの反応性基が含まれる場合には、保存安定性が悪くなる傾向がある。そのため、反応性を有する不飽和結合を含有する場合であっても少量であることが好ましく、上記式(2)のA中に反応性基を含有する繰り返し単位は、式(1)で表される全繰り返し単位中に35モル%以下であることが好ましい。一方、ヘミアセタールエステル結合が切断された後のAの分解物をポリイミド膜中に残存し難くする点からは、上記式(2)のAには反応性基は含有しないことが好ましい。なお、上記反応性基には、エチレン性不飽和結合のほか、グリシジル基やオキセタニル基、イソシアヌル基が含まれる。
【0040】
上記式(2)のAは、特に安定性向上の観点から、炭化水素骨格中にエーテル結合を含有することが好ましい。ポリオキシアルキレン骨格を含んでいても良い。ポリオキシアルキレン骨格を含む場合のオキシアルキレンの繰り返し数は15以下であることが分解物の揮発性の点から好ましい。
【0041】
ヘミアセタールエステル結合は、加熱によりカルボン酸とその他の生成物に分解するが、その分解温度は、一般に上記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が、第3級炭素原子(以下、単に「3級」という場合がある)<第2級炭素原子(以下、単に「2級」という場合がある)<第1級炭素原子(以下、単に「1級」という場合がある)の置換基の順で高くなる。
一方、ヘミアセタールエステル結合を得るためのビニルエーテル化合物とカルボン酸の反応は、一般に上記式中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が1級<2級<3級の置換基の順で高い反応率を示す。
なお、本発明において、ヘミアセタールエステル結合におけるエーテル結合に結合する炭素原子(式(2)のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子)、又はヘミアセタールエステル結合を誘導するビニルエーテル化合物のエーテル結合に結合する炭素原子について、第1級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が0個又は1個の場合をいい、第2級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が2個の場合をいい、第3級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が3個の場合をいう。
【0042】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合に連結する置換基の構造により、安定性が異なる。上記式(1)のRに相当する置換基は、電子供与性である方がヘミアセタールエステル結合の安定性が向上し、上記式(2)のAに相当する置換基は、ヘミアセタールエステル結合の酸素原子に連結する炭素が1級の炭素であるものが、安定性が高く、2級、3級と級数が増えるに従って、安定性が低下する傾向にある。また、同じ級数のものでも、その化学構造によって熱分解温度が変化する。
ポリアミック酸の安定性が低く、ヘミアセタールエステル化反応の時間を短縮したい場合には、3級のビニルエーテル化合物を用いた方が良いが、一般的なポリアミック酸であれば1級、または2級のビニルエーテル化合物を用いた方が、分子量測定や精製の再現性が向上する。
中でも、本発明に用いられるヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体としては、前記式(2)中のAにおける酸素原子と結合する炭素が1級炭素であることが好ましい。
【0043】
また、前記式(2)中のAは、炭素数が1〜30であることが、ポリアミック酸の分子量とヘミアセタール化後の分子量を近づける観点から好ましく、炭素数が2〜15であることが更に好ましい。
【0044】
前記式(2)中のAの構造において安定性が高く好ましい組み合わせは、酸素原子と結合する炭素が1級炭素であり、さらに、直鎖または分岐または環状の飽和炭化水素骨格中にエーテル結合を1つ以上含み、且つ、活性水素を含まない構造である。
【0045】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を得る際に使用するビニルエーテルは、所望のへミアセタールエステル結合の構造に合わせて適宜選択して用いられるが下記のように例示できる。
1級のビニルエーテル化合物としては、例えば具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリシクロデカニルメチルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルメチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;エチレングリコールメチルビニルエーテル、エチレングリコールエチルビニルエーテル、エチレングリコールプロピルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリエチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルビニルエーテル、プロピレングリコールメチルビニルエーテル、プロピレングリコールエチルビニルエーテル、プロピレングリコールプロピルビニルエーテル、プロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールオクチルビニルエーテル、ブチレングリコールメチルビニルエーテル、ブチレングリコールエチルビニルエーテル、ブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールオクチルビニルエーテル、2−ビニロキシテトラヒドロピラン等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。そのほかに、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン等の環状ビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0046】
2級のビニルエーテル化合物は、例えば具体的には、イソプロピルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、sec−ペンチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、トリシクロデカニルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1−メトキシエチルビニルエーテル、1−エトキシエチルビニルエーテル、1−メチル-2−メトキシエチルビニルエーテル、1−メチル−2−エトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
【0047】
3級のビニルエーテル化合物は具体的には、tert−ブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;1−メチルシクロヘキシルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1,1−ジメチル−2−メトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
【0048】
なお、上記1級、2級、及び3級のビニルエーテル化合物のうち、ポリオキシアルキレン残基を含む場合のオキシアルキレン残基の繰り返し数は、15以下となることが分解後の揮発性の点から好ましい。
また、上記1級、2級、及び3級のビニルエーテル化合物は、それぞれ、組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明に用いられるポリイミド前駆体のヘミアセタール化率は、分子量測定や精製の再現性の観点からは100%であることが好ましい。しかし、反応性を重視し、安定性の低いヘミアセタールエステル結合を用いた場合でも、ヘミアセタールエステル化率が、50%〜100%の間であれば、析出等の問題は発生しにくくなるので用いることができる。
【0050】
本発明に用いられるヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を得る為の反応溶媒としては、本発明のポリイミド前駆体を安定的に調製することが可能な点から、窒素原子を含有しない非アミド系溶媒を用いることが好ましく、中でもラクトン類、スルホキシド類を用いることが好ましい。ジメチルスルホキシドは、高い溶解性を有する一方で、酸化され難く変異原性も確認されており、溶媒としての安定性や安全性に課題があるため、中でもラクトン類が特に好ましい。ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、δ−ヘキサノラクトンなどが挙げられ、スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。それらは、単独で用いても混合して用いても良い。
【0051】
本発明に用いられるヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を得る為の反応溶媒は、水分含有量が1重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましく、水分を含んでいないことがより好ましい。ヘミアセタールエステル結合は、水酸基などの活性水素を有する化合物と共存するとそれらとの交換反応が起こる場合がある。通常ヘミアセタール結合はヘミアセタールエステル結合よりも安定であるため、水酸基含有化合物が共存すると、ヘミアセタールエステル結合が水酸基により消費され、カルボン酸が生成される。ヘミアセタールエステル結合の分解反応の速度は、その化学構造により異なり、ヘミアセタールエステル結合を生成する反応の速度が速いほど、分解の速度も速い傾向がある。
【0052】
ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を反応させる手順としては、ポリアミック酸の溶液にビニルエーテル化合物を添加する方法がもっとも簡便である。しかし、ポリアミック酸の溶媒が、アミド系溶媒等の窒素原子を含んだものの場合、ヘミセタールエステル化が十分進行しない場合がある。その際は、ポリアミック酸溶液を再沈澱等で溶媒を取り除いて、上記の窒素原子を含んでいない溶媒に溶解させ、ビニルエーテル化合物と反応させると良い。ポリアミック酸の溶解性が低く、窒素原子を含んでいない溶媒に溶解しなくても、ヘミアセタールエステル化の反応の進行と共に溶解するようになる。
その際に加えるビニルエーテル化合物は、単体や2種以上の混合状態を一度に加えても、段階的に加えても構わない。
【0053】
発明者の検討結果によれば、その反応は、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している溶媒中や、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している化合物と共存下ではヘミアセタールエステル結合を得る収率が低い傾向があった。また、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を用いた際も収率が低くなったことから、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を含む場合も好ましくない。
ヘミアセタールエステル結合は、水酸基やアミノ基等の活性水素を有する化合物によって分解されてしまう為、反応溶液中にはカルボキシル基以外の活性水素を有する化合物は存在しない方が、より短時間で、理想的に反応が進行する。
【0054】
本発明のポリアミック酸とビニルエーテルとの反応は、前記ビニルエーテル化合物を含む溶液中で、0℃〜45℃で反応を行うことが好ましく、さらに5〜35℃が好ましく、更に10〜30℃が好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が著しく遅くなり、また、45℃を超える場合は、ヘミアセタールエステル結合が熱分解するなど、副反応が起こりやすくなり、収率や保護率が低下する。
【0055】
本発明の分子量測定方法、及び、精製方法には、GPC(別称、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC))を用いる。本発明で用いるGPC測定装置に特に制限はなく、市販されている一般的なGPC装置を用いることができる。また、GPCにおいて使用されるカラムとしては、ポリイミド前駆体および用いる展開溶媒に不活性な、有機溶媒系カラムを適宜選択して用いることができる。
【0056】
GPCに用いる展開溶媒としては、ポリイミド前駆体の溶解性の観点から、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びγ−ブチロラクトンよりなる群から選択される1種以上の溶媒を用いることが好ましく、それらには、0.01mmol/L〜100mmol/Lの範囲で、臭化リチウムや燐酸などを添加しておいても良い。
測定の再現性を高める為には、水分はできる限り含まないことが好ましく展開溶媒中に1重量%以下であることが好ましい。
【0057】
測定、及び精製時のカラムや展開溶媒の温度は、10℃〜60℃の範囲であることが好ましく、35℃〜45℃の温度範囲で行うことがさらに好ましい。10℃未満の場合、ポリイミド前駆体が高分子量の場合、析出しやすくなり、60℃以上の場合、ヘミアセタールエステル結合の分解がしやすくなり、それに伴いポリアミック酸の主鎖の分解がしやすくなり、測定の再現性が悪化する。
さらに、測定や精製の間は常に±1℃以内で制御されていることが再現性の観点から好ましい。
【0058】
本発明に係るポリイミド前駆体の精製方法及び分子量測定方法においては、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに注入する際の溶液中のポリイミド前駆体の濃度が0.001重量%〜30重量%であることが好ましい。濃度が低すぎると精製の効率が低下すると共に、精製中にヘミアセタールエステル結合の分解やその後、ポリアミック酸主鎖の加水分解も起こりやすくなるため安定性も低下する傾向にある。濃度が高すぎると逆に精製の純度を高めにくくなる。
【実施例】
【0059】
(製造例1)
100mLの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)溶媒で重合し、アセトンのよって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸:17.5重量%NMP溶液の粘度が5200cps)の白色固体 1.98g、2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE) 5g、乾燥させたγ−ブチロラクトン5mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温で、70時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAの2−ビニロキシテトラヒドロピラン保護体(ポリイミド前駆体1)の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。
【0060】
(製造例2)
製造例1において、BPDA−ODAを、BPDA−4PPD−1ODA(酸二無水物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミンはパラフェニレンジアミンと4,4‘−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で4:1で混合して合成したポリアミック酸:17.5重量%NMP溶液の粘度が5000cps)に変えた以外は、製造例1と同様の条件で、ポリイミド前駆体2の合成を行った。後述する実施例1と同様の測定条件を用いてGPCで測定した重量平均分子量は、6800であった。
【0061】
(実施例1:分子量測定)
ポリイミド前駆体1を0.5重量%の濃度のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr−NMP溶液を用い、東ソー製GPC装置(HLC−8120、使用カラム:TSK GUARDCOLUMN α(ガードカラム)、TSK gels α−M ;東ソー製 ×2本をガードカラムの後に直列に接続)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行った。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求めた。検量線は7種類の分子量の異なる標準ポリスチレン(重量平均分子量1090000、355000、96400、29300、18100、5970、456)を準備し、そのうち、分子量の間隔が広くなるように選択した4種ずつのサンプル(重量平均分子量1090000、96400、18100、456)と(重量平均分子量355000、29300、5970、456)とを、それぞれNMPに標準ポリスチレンの合計の濃度が0.5重量%となるように溶解させて、2種のポリスチレン標準溶液を調製し、GPC測定を行った。その結果を、最小2乗近似することにより、検量線を作成した。得られた検量線を図1に示す。
【0062】
ポリイミド前駆体1と重量平均分子量18100の標準ポリスチレンを、5回ずつ測定し、その再現性を評価した。その結果を下記表1に示す。表1から、ポリイミド前駆体1の重量平均分子量の測定結果のばらつきは、標準ポリスチレンの重量平均分子量の測定結果のばらつきとほぼ同等の値を示した。これにより、本発明の分子量測定方法によれば、ポリアミック酸に対して簡便な処理を行うことにより、安定的に再現性良く分子量を測定できることが明らかになった。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例2:ポリイミド前駆体の精製)
ポリイミド前駆体1とポリイミド前駆体2を、同じ重量含んだ、0.5重量%の濃度のNMP溶液を用い、実施例1と同じ条件でGPC装置に仕掛けた。その結果、それぞれの分子量に対応した2つのピークが、現れた。そこで、ピークが検出される時間に検出器から出てきた流出溶液を、2分毎にそれぞれ分取した。その分取した溶液のうち、ピークを検出し始めた最初に分取した溶液と、ピーク収束時の最後に分取した溶液を、それぞれGPCに打ち込んだところ、流出時間に対応したピークを得ることができた。
また、上記の検討でピークを検出し始めた最初に分取した溶液と、ピーク収束時の最後に分取した溶液を、予め乾燥させたアセトンへ滴下し、固体を濾別しNMRを測定したところ、ポリイミド前駆体1、ポリイミド前駆体2のそれぞれ単体のスペクトルを示すことを確認した。
【0065】
(比較例1)
製造例1に用いたBPDA−ODAを、実施例1と同じ条件で、GPCを用いた分子量の測定を試みた。その結果、装置に打ち込んだ後、ガードカラムが詰まり徐々に送液ポンプの圧力が上昇したため、測定が不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ポリスチレン標準物質を用いて得られた検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって精製を行う、ポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項2】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含む、請求項1に記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【請求項3】
前記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素原子が第1級炭素原子である、請求項2に記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項4】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに用いる展開溶媒として、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びγ−ブチロラクトンよりなる群から選択される1種以上の溶媒を用いる、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項5】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル化率が、50%〜100%である、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項6】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と、ビニルエーテル化合物とを反応させて得られたものである、請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項7】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに注入する際の溶液中のポリイミド前駆体の濃度が0.001重量%〜30重量%である、請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイミド前駆体の精製方法。
【請求項8】
ポリアミック酸にビニルエーテル化合物を作用させ、ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定を行う、ポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【請求項9】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含む、請求項8に記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【化3】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化4】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【請求項10】
前記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素原子が第1級炭素原子である、請求項9に記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【請求項11】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに用いる展開溶媒として、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びγ−ブチロラクトンよりなる群から選択される1種以上の溶媒を用いる、請求項8乃至10のいずれかに記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【請求項12】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル化率が、50%〜100%である、請求項8乃至11のいずれかに記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【請求項13】
前記ヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体が、ラクトン類及びスルホキシド類より選択される1種以上の溶媒中で、ポリアミック酸と、ビニルエーテル化合物とを反応させて得られたものである、請求項8乃至12のいずれかに記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。
【請求項14】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーに注入する際の溶液中のポリイミド前駆体の濃度が0.001重量%〜30重量%である、請求項8乃至13のいずれかに記載のポリイミド前駆体の分子量測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83922(P2010−83922A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251513(P2008−251513)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】