説明

ポリイミド樹脂

【課題】本発明のポリアミド酸ワニス組成物を用いた金属箔上のポリイミド樹脂層は、接着層を介することなく金属箔との密着性に優れ、かつ線熱膨張率が金属箔の線熱膨張率と同等となるポリイミド樹脂層を形成できるポリアミド酸ワニス組成物、ポリイミド樹脂それを用いたフレキシブルプリント基板用金属−ポリイミド複合体を提供することを目的とする。
【解決手段】エステル構造含有芳香族テトラカルボン酸二無水物及び/またはエステル構造含有芳香族ジアミンとの付加重合により得られるポリアミド酸と溶媒とからなるポリアミド酸ワニス中にオキサゾール化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、またはベンゾフラザンからなる群より選ばれるものである含窒素芳香族化合物を含有することによって得られるポリアミド酸ワニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高接着のフレキシブルプリント基板用金属−ポリイミド複合体、ポリイミド樹脂およびそのためのポリアミド酸ワニス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPC(Flexible Printed Circuits)基板としてのポリイミド樹脂の需要が飛躍的に増加している。FPCの原反である銅張積層板、FCCL(Flexible Copper Clad Laminate)の構成は主に3つの様式に分類される。即ち、1)ポリイミド樹脂層(ポリイミドフィルム)と銅箔とをエポキシ系接着剤等を用いて貼り付ける3層タイプ、2)銅箔にポリイミドワニスの塗付後乾燥又は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを塗布後、乾燥・イミド化するか、あるいは蒸着・スパッタ等によりポリイミドフィルム上に銅箔層を形成する無接着剤2層タイプ、3)接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いる擬似2層タイプが知られている。ポリイミドフィルムに高度な寸法安定性が要求される用途では接着剤を使用しない2層FCCLが有利である。
【0003】
FPC基板としてのポリイミド樹脂は実装工程における様々な熱サイクルに曝されて寸法変化が起こる。これをできるだけ抑えるためには、ポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が工程温度よりも高いことに加えて、ガラス転移温度以下での線熱膨張率ができるだけ低いことが望ましい。後述するようにポリイミド樹脂層の線熱膨張率の制御は2層FCCL製造工程中に発生する残留応力の低減の観点からも極めて重要である。
多くのポリイミド樹脂は有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミド樹脂そのものを成型加工することは通常容易ではない。そのためポリイミド樹脂は一般に、無水ピロメリット酸(PMDA)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と4,4’−オキシジアニリン(ODA)等の芳香族ジアミンとをジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリアミド酸ワニスを重合し、このポリアミド酸ワニスを銅箔上に塗付し、250〜400℃で加熱脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0004】
残留応力は、高温でのイミド化反応後に金属−ポリイミド複合体を室温へ冷却する過程で発生し、FCCLのカーリング、剥離、膜の割れ等、深刻な問題がしばしば起こる。
熱応力低減の方策として、絶縁膜であるポリイミド樹脂層自身を低線熱膨張化することが有効である。殆どのポリイミド樹脂では線熱膨張率が40〜100ppm/℃の範囲にあり、金属箔、例えば銅箔の線熱膨張率17ppm/℃よりもはるかに大きいため、銅箔の値に近い、およそ20ppm/℃以下を示す低線熱膨張率のポリイミド樹脂の研究開発が行われている。
現在実用的な低線熱膨張率のポリイミド樹脂の材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンから形成されるポリイミド樹脂が最もよく知られている。このポリイミド樹脂層は、膜厚や作製条件にもよるが、5〜10ppm/℃と非常に低い線熱膨張率を示すことが知られているが、低吸湿膨張率は示さない(非特許文献1参照)。
【0005】
ポリイミド樹脂層の寸法安定性は、熱サイクルだけでなく吸湿に対しても要求される。従来のポリイミド樹脂層では2〜3質量%も吸湿する。ポリイミド樹脂層の吸湿による寸法変化に伴う回路の位置ずれは高密度配線や多層配線にとって深刻な問題である。ポリイミド樹脂層/導体界面でのコロージョン、イオンマイグレーション、絶縁破壊等、電気特性の低下によって更に深刻な問題を引き起こす恐れがある。そのため絶縁膜としてのポリイミド樹脂層はできるだけ吸湿膨張率が低いことが求められている。
低吸湿膨張率を実現するための分子設計として、例えば式(19)で表されるエステル構造を有する酸無水物を使用してポリイミド骨格への芳香族エステル結合を導入することが有効であると報告されている(特許文献1参照)。
【0006】
【化1】

【0007】
しかしながら、銅箔との密着性が低いため接着性を発現するために、新たにビスフェノールA型エポキシ樹脂などを用いた接着層を必要とし、構成される絶縁膜(ポリイミド樹脂層+接着層)としては、難燃性、吸湿膨張率、ポリイミド樹脂の特長である耐熱性の悪化が懸念される。
接着層を別途設けずにイミダゾール化合物等の添加剤をポリアミド酸ワニス中に使用することにより得られるポリイミド樹脂層と金属箔との密着性を向上させる検討もなされている(特許文献2参照)。同様にしてイミダゾール化合物等の添加剤をエステル構造含有するポリアミド酸ワニス中に使用すると、ポリイミド樹脂層と金属箔との密着性の低下、吸湿膨張率の低下、得られるポリイミドフィルムの機械強度の低下をもたらすという不具合があった。
【0008】
ガラス転移温度や吸湿膨張係数の低下をもたらすことなく、金属箔との密着性を向上させるエステル構造を有するポリイミド樹脂を得るための添加剤が強く望まれている。
【非特許文献1】Macromolecules,29,7897(1996)
【特許文献1】特開平10−126019号公報
【特許文献2】特開平4-85363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような状況を鑑みてなされたもので、金属箔上のポリイミド樹脂層は、接着層を介することなく金属箔との密着性に優れ、線熱膨張率が金属箔の線熱膨張率と同等となるポリイミド樹脂層を形成できるポリアミド酸ワニス組成物、それを用いたフレキシブルプリント基板用金属−ポリイミド複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上述の目的を達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
1.芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの付加重合により得られるポリアミド酸、含窒素芳香族化合物および溶媒を含有するポリアミド酸ワニス組成物であって、該芳香族テトラカルボン酸二無水物が式(1)で表されるエステル構造を有する、及び/または該芳香族ジアミンが式(2)で表されるエステル構造を有し、かつ該含窒素芳香族化合物が式(3)〜(12)で表されるオキサゾール化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、およびベンゾフラザン誘導体からなる群より選ばれるものであることを特徴とするポリアミド酸ワニス組成物。
【0011】
【化2】

【0012】
(Mは、式(1)で表される2価の芳香族基より選択され、R1〜R3は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。)
【0013】
【化3】

【0014】
(m=0もしくは1であり、R4〜R6は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。)
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
【化10】

【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
(X1、X3は式(3)、(4)、(7)、(8)で表される4価の芳香族基であり、X2、X4は式(5)、(9)で表される2価の芳香族基である。式中、Y1〜Y5は、エーテル、−S−、C1〜4の飽和、不飽和アルキレン基、カルボニル基、または、スルホニル基である。R7〜R14、R16〜R29、R31〜R33は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhであり、n=0、1、2である。R15、R30、R34は上述の置換基、またはフェニル基である。)
2.前記含窒素芳香族化合物が、式(13)〜(15)のいずれか一種類以上で示されるオキサゾール化合物であることを特徴とする1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【0026】
【化14】

【0027】
【化15】

【0028】
【化16】

【0029】
(X5は、式(13)で表される4価の芳香族基であり、X6は、式(14)で表される2価の芳香族基である。R35〜R38、R40は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R39は上述の置換基、またはフェニル基である。)
3.前記含窒素芳香族化合物が、式(16)〜(18)のいずれか一種類以上で示されるアミド化合物であることを特徴とする1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
【化19】

【0033】
(X7は、式(16)で表される4価の芳香族基であり、X8は、式(17)で表される2価の芳香族基である。R41〜R44、R46は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R45は上述の置換基、またはフェニル基である。)
4.前記含窒素芳香族化合物が、式(16)で示されるアミド化合物であることを特徴とする1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【0034】
【化20】

【0035】
(X7は、式(16)で表される4価の芳香族基であり。R41、R42は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。)
5.前記含窒素芳香族化合物が、前記ポリアミド酸100質量部に対して0.01〜20質量部であることを特徴とする1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
6.1記載の前記ポリアミド酸ワニス組成物をイミド化して得られたポリイミド樹脂。
7.1記載のポリアミド酸ワニス組成物をイミド化して得られるポリイミド樹脂と、金属箔とから構成される金属−ポリイミド複合体。
【発明の効果】
【0036】
本発明のポリアミド酸ワニス組成物は、金属上に塗布乾燥加熱イミド化することにより金属−ポリイミド複合体を作製できる。そうして得られた金属−ポリイミド複合体は、金属箔との密着性に優れ、かつ線熱膨張率が金属箔の線熱膨張率と同等となるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明について具体的に説明する。
添加剤として用いる含窒素芳香族化合物は、一般式(3)〜一般式(12)のオキサゾール化合物、アミド化合物、ニトリル化合物および、ベンゾフラザンからなる群より選ばれるものである。式中のX1、X3は一般式(3)、(4)、(7)、(8)で表される4価の芳香族基であり、X2、X4は一般式(5)、(9)で表される2価の芳香族基である。式中、Y1〜Y5は、エーテル、−S−、C1〜4の飽和、不飽和アルキレン基、カルボニル基、または、スルホニル基である。R7〜R14、R16〜R29、R31〜R33は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhであり、n=0、1、2である。R15、R30、R34は上述の置換基、またはフェニル基である。
【0038】
ここで入手性、もしくは、製造コストの観点から、前記含窒素芳香族化合物は、一般式(13)〜一般式(15)で表されるオキサゾール化合物であることが好ましい。式中のX5は、一般式(13)で表される4価の芳香族基であり、X6は、一般式(14)で表される2価の芳香族基である。R35〜R38、R40は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R39は上述の置換基、またはフェニル基である。
【0039】
また入手性、もしくは、製造コストの観点から、前記含窒素芳香族化合物が、一般式(16)〜一般式(18)で表されるアミド化合物であることが好ましく、一般式(16)がさらに好ましい。式中のX7は、一般式(16)で表される4価の芳香族基であり、X8は、一般式(17)で表される2価の芳香族基である。R41〜R44、R46は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R45は上述の置換基、またはフェニル基である。
【0040】
前記含窒素芳香族化合物のエステル構造含有ポリアミド酸ワニス組成物中への配合量は、固形成分であるポリアミド酸100質量部に対し、接着強度及び耐熱性の観点から、0.01〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部である。
本発明のエステル構造を有するポリアミド酸ワニス組成物は、ポリアミド酸の原料となる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンのうち、少なくともどちらか一方がエステル構造を有することが必要である。
【0041】
エステル構造を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、一般式(1)で表される反復単位を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。式中のMは、一般式(1)で表される芳香族基より選択され、R1〜R3は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。具体的には、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−メチルフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)等のエステル構造含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。また、各々のエステル構造含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を単独で用いても、併用して用いてもよい。
【0042】
エステル構造を有する芳香族ジアミンとしては、一般式(2)で表される芳香族ジアミンが挙げられる。式中のm=0もしくは1であり、R4〜R6は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。具体的には、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノフェニル−3’−アミノベンゾエート、3−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、2−メチル−4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノフェニル−3’−アミノベンゾエート、2−メチル−4−アミノフェニル−3’−アミノベンゾエートなどのエステル芳香族ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4−アミノフェニル)イソフタレート、ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)イソフタレート、p−フェニレンビス(4−アミノベンゾエート)、m−フェニレンビス(4−アミノベンゾエート)、p−メチルフェニレンビス(4−アミノベンゾエート)、p−フェニレンビス(3−アミノベンゾエート)、p−メチルフェニレン−フェニレンビス(3−アミノベンゾエート)のジエステル芳香族ジアミン等のエステル構造含有芳香族ジアミンを使用することが好ましい。また、各々のエステル構造含有芳香族ジアミンを単独で用いても、併用して用いてもよい。
【0043】
エステル構造を有する芳香族ジアミンを利用する場合は、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知のテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。
例えば、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、オキシジフタル酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸等の二無水物があげられる。線熱膨張率やガラス転移温度等の耐熱性を向上する観点から、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。また、非芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸等の二無水物を、本発明の効果を損なわない範囲で用いてもよい。
【0044】
また、エステル構造を有するテトラカルボン酸芳香族酸二無水物を利用する場合は、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の芳香族ジアミンを使用することができる。
例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、 4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、2,2−ジメチル−4,4−ジアミノビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホンがあげられる。線熱膨張率やガラス転移温度などの耐熱性を向上する観点から、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルを使用することが好ましい。
【0045】
本発明におけるポリアミド酸は、前記のテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン酸成分を反応させて得られる。ポリアミド酸を構成する繰り返し単位の規則性は、ブロック構造が含有されていても、あるいはランダム構造であってもよい。本発明のポリイミド 樹脂は、50〜200℃における線熱膨張率が、8〜25ppm/℃であるポリイミド樹脂である。また、銅箔との線熱膨張率の整合の点から15〜22ppm/℃であることがより好ましい。
【0046】
本発明のポリイミド樹脂は、本発明のポリアミド酸ワニス組成物をイミド化することにより得られる。通常、製造にあたったテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の仕込み比を調節することによって、生成するポリイミド樹脂の分子量や末端構造を調節することができる。好ましい全テトラカルボン酸二無水物と全ジアミンのモル比は、0.90〜1.10である。
【0047】
得られるポリイミドの末端構造は、製造時における全テトラカルボン酸二無水物と全ジアミンのモル仕込み比によって、アミンもしくは酸無水物構造となる。末端構造がアミンの場合は、カルボン酸無水物にて末端封止してもよい。これらの例としては、無水フタル酸、4-フェニルフタル酸無水物、4−フェノキシフタル酸無水物、4−フェニルカルボニルフタル酸無水物、4−フェニルスルホニルフタル酸無水物等があげられるが。これに限るものではない。これらのカルボン酸無水物を単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
また、末端構造が酸無水物の場合は、モノアミン類にて末端封止してもよい。具体的には、アニリン、トルイジン、アミノフェノール、アミノビフェニル、アミノベンゾフェノン、ナフチルアミン等があげられる。これらのモノアミンを単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
本発明のポリアミド酸ワニス組成物における溶媒としては、前記のポリアミド酸と混合するものであればよく、例として、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラメチル尿素等が挙げられる。本発明に使用する好ましい溶媒は、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンである。これらは単独、または2種以上を混合して用いることができる。
また、物性を損なわない範囲において、添加剤として、シリカ等のフィラー、及びシランカップリング剤やチタネートカップリング剤等の表面改質剤等を加えても良い。
これらの溶媒の使用量には、特に制限はなく、ポリアミド酸ワニス組成物の粘度等に応じて利用することができる。
【0049】
本発明のポリアミド酸ワニス組成物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶媒中で付加重合させることによって得られるポリアミド酸ワニスとオキサゾール化合物、アミド化合物、ニトリル化合物およびベンゾフラザンから選ばれる含窒素芳香族化合物を混合溶解することにより得られる。なお、ここで含窒素芳香族化合物をポリアミド酸の付加重合が進行している系内にいつ添加するかについては、ポリアミド酸の重合前であっても重合後であってもどちらでも良い。
溶媒中での固形分濃度に特に制限はない。固形分濃度とは、溶媒を含めた全芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの総質量に対する全芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの質量の百分率である。好ましい固形分濃度は、5〜35質量%であり、より好ましくは10〜25質量%である。
【0050】
付加重合条件については、従来行われているポリアミド酸の付加重合条件に準じて行うことができる。具体的には、まず、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気下、大気圧中で芳香族ジアミン類を溶剤に0℃〜80℃にて溶解させ、40〜100℃にてテトラカルボン酸二無水物を、すみやかに加えながら、4〜8時間付加重合させる。これによりポリアミド酸ワニスが得られる。得られるポリアミド酸ワニスの粘度については、1poiseから2500poiseとなるように、固形分濃度を調節することが好ましい。
また、ポリイミドフィルムの靭性およびポリアミド酸ワニスのハンドリングの観点から、ポリアミド酸ワニスの固有粘度は好ましくは0.1〜25.0dL/gの範囲であり、好ましくは0.3〜20dL/gさらに好ましくは0.5〜15.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0051】
本発明の金属−ポリイミド複合体とは、金属箔上にポリイミド樹脂層が設けられているものである。金属箔上にて本発明のポリアミド酸ワニス組成物をイミド化して得られたポリイミド樹脂層との複合体または、金属箔上にて本発明のポリアミド酸ワニス組成物を高温乾燥して得られるポリイミド樹脂層との複合体である。ポリイミド樹脂層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50μm以下、より好ましくは1〜25μmである。
【0052】
金属箔としては、種々の金属箔を使用することができるが、フレキシブルプリント基板用としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔等が好適に用いられる。これらの金属箔は、マット処理、メッキ処理、クロメート処理、アルミニウムアルコラート処理、アルミニウムキレート処理、シランカップリング剤処理等の表面処理を行ってもよい。
金属箔の厚みは、特に限定されないが、好ましくは35μm以下、より好ましくは18μm以下である。
【0053】
本発明のポリアミド酸ワニス組成物から得られる金属−ポリイミド複合体は、以下の様にして製造することができる。まず、本発明のポリアミド酸ワニス組成物を金属箔上にブレードコーターや、リップコーター、グラビアコーター等を用い塗工を行い、その後乾燥させてポリイミド前駆体層としてのポリアミド酸ワニス組成物層(ポリアミド酸フィルム)を形成する。塗工厚は、ポリアミド酸ワニス組成物の固形分濃度に影響される。ポリアミド酸ワニス組成物層を、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気下にて、200〜400℃にて熱イミド化させることによりポリイミド樹脂層を形成することができる。
【0054】
上記のポリイミドフィルムを用いた本発明の金属−ポリイミド積層体は、該ポリイミドフィルムの片側または両側に金属箔を重ね、公知の加熱および/または加圧を伴った方法により、該ポリイミドフィルムと金属箔とを積層することで得ることができる。積層方法は単板プレスによるバッチ処理、熱ロールラミネートあるいはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理等公知の方法を用いることができる。
【0055】
上記積層方法における加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用した加熱手段を用いることができる。同様に、上記積層方法における加圧方式も特に限定されるものではなく、例えば、油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等、所定の圧力を加えることができる従来公知の方式を採用した加圧手段を用いることができる。
このようにして得られる金属−ポリイミド複合体は、金属箔、特に銅箔とポリイミド樹脂層との密着性が良好である。
【実施例】
【0056】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、以下の実施例において、ポリアミド酸ワニス組成物の特性や、イミド化後のポリイミド樹脂および銅−ポリイミド複合体の物性測定は、次のようにして行った。
(1)固有粘度(η)
0.5質量%のポリアミド酸ワニス組成物を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0057】
(2)ガラス転移温度(Tg)および線熱膨張率(CTE)
得られた銅−ポリイミド複合体を長さ50mm、幅3mm、厚み25μmに切出し、塩化第2鉄水溶液(鶴見曹達製)に浸漬し、銅箔層をエッチング処理し水洗を行った。得られたポリイミドフィルムを105℃にて熱風乾燥機にて乾燥させた後、熱分析装置(TMA-50、株式会社島津製作所製)を用いて引っ張りモード、5g荷重、試料長15mm、昇温速度10℃/min、N雰囲気下にて測定を行い、接線の交点からTgを求め、また50℃〜200℃の線熱膨張率を算出した。
【0058】
(3)接着強度
上記と同様にして銅−ポリイミド複合体を長さ150mm、幅10mm、厚み25μmに切出し、幅10mmの中央部の幅1.5mmをビニールテープにてマスキングし、塩化第2鉄水溶液(鶴見曹達製)に浸漬し、銅箔をエッチング処理し水洗を行った。その後、ビニールテープを除去し、得られたフレキシブル基板を105℃にて熱風乾燥機にて乾燥させた後、幅3mmの銅箔をポリイミド樹脂から剥離し、その応力を測定した。剥離角度を90°、剥離速度を50mm/minとした。
【0059】
(4)ハンダ耐熱性
縦3cm×横6cmの銅−ポリイミド複合体を切り出し、中央部の2.5cm×2.5cmをビニールテープにてマスキングし、塩化第2鉄水溶液(鶴見曹達製)に浸漬し、銅箔をエッチング処理し水洗を行った。その後、ビニールテープを除去し、得られた銅−ポリイミド複合体を105℃にて熱風乾燥機にて乾燥させた後、300℃に設定したハンダ浴中に試料を銅箔光沢面側をハンダ浴に接触するように1min静置した際の外観変化による評価を行った。
【0060】
(5)煮沸ハンダ耐熱性
上記と同様にして縦3cm×横6cmの銅−ポリイミド複合体を切り出し、中央部の2.5cm×2.5cmをビニールテープにてマスキングし、塩化第2鉄水溶液(鶴見曹達製)に浸漬し、銅箔をエッチング処理し水洗を行った。その後、ビニールテープを除去し、得られた試料を煮沸水中にて2時間浸漬し、その後室温にて水中に浸漬し取出し、表面に付着する水をふき取り、すみやかに、280℃で1min静置した際の外観変化による評価を行った。
【0061】
(6)吸湿膨張率:CHE
アルバック理工株式会社製熱機械分析装置(TM−9400)及び湿度雰囲気調整装置(HC−1)を用いて、幅3mm、長さ20mm(チャック間長さ15mm)、厚み20〜25μm、のフィルムを23℃、荷重5gにて湿度30%RHから70%RHに変化させた際の試験片の伸びから30%RH〜70%RHにおける平均値としてポリイミドフィルムの吸湿膨張率を求めた。
【0062】
(7)弾性率、破断伸び
(合成例1)含窒素芳香族化合物の合成1
2Lセパラフラスコ中に、ポリリン酸1000g、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル200mmol(和歌山精化工業株式会社製)を入れ、窒素雰囲気下にて150℃で2時間攪拌を行った。その後安息香酸400mmol(和光純薬工業社製)を加え、200℃にて5時間反応させた。反応液を室温まで放令後、精製水中に滴下し、得られた黄緑色析出物をろ過により分取した後、125℃で真空乾燥させ、粗結晶を得た。その後、粗結晶をN−メチルピロリドンに100℃付近で溶解させ、室温まで放冷した溶液をろ過し、不溶成分を除去した後、得られたろ液に3質量%の炭酸ナトリウム水溶液を滴下し、固体を析出させた。析出した固体を、ろ過により分取し、精製水で2〜3回洗浄した後、125℃にて真空乾燥させ、下記式(20)で表されるオキサゾール構造含有する含窒素芳香族化合物(以下、OXANと称する)を得た。
【0063】
【化21】

【0064】
(合成例2)含窒素芳香族化合物の合成2
2Lセパラフラスコ中に、N,N’−ジメチルホルムアミド溶液1200ml、3,3’−ジヒドロキシビフェニル200mmol(和歌山精化工業株式会社製)とトリエチルアミン400mmolを溶解し、窒素雰囲気下にて0℃に冷却した。その後、N,N’−ジメチルホルムアミド溶液100mlにp−ニトロ塩化ベンゾイル400mmolを溶かした溶液を、10℃以下になるように2時間かけて滴下し、その後、6時間攪拌を行った。
次いで、析出物をろ過し、N,N’−ジメチルホルムアミドで洗浄し、更に水で洗浄した後、乾燥して、式(21)で表される3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジニトロビフェニルアニリドの黄白色結晶を得た。
【0065】
【化22】

【0066】
[実施例1]
<ポリアミド酸ワニス組成物、イミド化およびポリイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にモノマー骨格中にエステル基を含有する4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(以下APABと称する)40mmol、4、4’−ジアミノジフェニルエーテル以下ODAと称する)10mmol、N−メチル−2−ピロリドン191mL(脱水)(和光純薬工業株式会社製)(以下NMPと称する)に溶解した後、この溶液にモノマー骨格中にエステル基を含有するp−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下TABPと称する)の粉末50mmolを徐々に加えた。30分後、溶液粘度が急激に増加した。更に80℃で4時間撹拌し透明、均一で粘稠なエステル基を有するポリアミド酸ワニスを得た。このポリアミド酸ワニス中に、合成例1で得た含窒素芳香族化合物(OXAN)を樹脂固形分に対して6質量部となるように添加し、溶解させポリアミド酸ワニス組成物を得た。得られたポリアミド酸ワニス組成物は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリアミド酸ワニス組成物の固有粘度は、0.72dL/gであった。このポリアミド酸ワニス組成物を、金属製の塗工台に12μm厚の銅箔(古川サーキットフォイル株式会社 F2-WS箔)マット面側を表面になるように静置する。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリアミド酸ワニス組成物を用いてドクターブレードにて銅箔マット面に塗布する。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み45μm)を得た。その後、SUS製金属板にポリアミド酸フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。カールのない25μm厚みの銅箔付きポリイミドフィルムが得られた。
【0067】
この銅箔付きポリイミドフィルムを塩化第2鉄溶液にて銅箔をエッチングすることにより膜厚25μmの薄茶色のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリイミドフィルムは、TMA測定により線熱膨張率(50℃から200℃の間の平均値)は18ppm/℃と銅箔と同等の低い線熱膨張率を示した。また、吸湿膨張率を測定したところ5.5ppm/%RH(30%RHから70%RHの間の平均値)と、極めて低い吸湿膨張率を示した。また、90°銅箔接着強度を測定したところ1.1kg/cmと高い接着強度を示した。
【0068】
また同様にして、このポリアミド酸ワニス組成物を6インチのシリコンウエハ上に、スピンコーター(MS−250 ミカサ株式会社製)にてスピンコートし、乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み17μm)を得た。その後、シリコンウエハを窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。その後、フッ酸にてシリコンウエハから剥離して10μm厚みのポリイミドフィルムが得られた。
得られたポリイミドフィルムを引っ張り試験により弾性率6.9GPa及び破断伸び53%が得られた。
【0069】
[実施例2]〜[実施例7]
OXANの代わりに一般式(21)、および下記式(22)〜下記式(26)で示されるいずれかの含窒素芳香族化合物を樹脂固形分に対して3もしくは6質量部となるように添加し、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより、ポリアミド酸ワニス組成物、ポリイミド樹脂および銅−ポリイミド複合体を得た。
なお、実施例2に使用した、合成例2の合成で得られた一般式(21)をのぞく含窒素芳香族化合物下記式(22)〜下記式(26)(順に実施例3〜7に使用)は、東京化成工業株式会社製を使用した。
【0070】
【化23】

【0071】
【化24】

【0072】
【化25】

【0073】
【化26】

【0074】
【化27】

【0075】
[実施例8]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にモノマー骨格中にエステル基を含有する4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(以下APABと称する)45mmol、4、4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下ODAと称する)5mmol、N−メチル−2−ピロリドン191mL(脱水)(和光純薬工業株式会社製)(以下NMPと称する)に溶解した後、この溶液にモノマー骨格中にエステル基を含有するp−メチルフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物(以下MTAHQと称する)の粉末50mmolを徐々に加えた。30分後、溶液粘度が急激に増加した。更に80℃で4時間撹拌し透明、均一で粘稠なエステル基を有するポリアミド酸ワニスを得た。このポリアミド酸ワニス中に、含窒素芳香族化合物(OXAN)を樹脂固形分に対して6質量部となるように添加し、溶解させポリアミド酸ワニス組成物を得た。得られたポリアミド酸ワニス組成物は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリアミド酸ワニス組成物の固有粘度は、0.82dL/gであった。このポリアミド酸ワニス組成物を、金属製の塗工台に12μm厚の銅箔(古川サーキットフォイル株式会社 F2−WS箔)マット面側を表面になるように静置する。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリアミド酸ワニス組成物を用いてドクターブレードにて銅箔マット面に塗布する。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み45μm)を得た。その後、SUS製金属板にポリアミド酸フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。カールのない25μm厚みの銅箔付きポリイミドフィルムが得られた。
【0076】
この銅箔付きポリイミドフィルムを塩化第2鉄溶液にて銅箔をエッチングすることにより膜厚25μmの薄茶色のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリイミドフィルムは、TMA測定により線熱膨張率(50℃から200℃の間の平均値)は20ppm/℃と銅箔と同等の低い線熱膨張率を示した。また、吸湿膨張率を測定したところ4.7ppm/%RH(30%RHから70%RHの間の平均値)と、極めて低い吸湿膨張率を示した。また、90°銅箔接着強度を測定したところ1.0kg/cmと高い接着強度を示した。
【0077】
また同様にして、このポリアミド酸ワニス組成物を6インチのシリコンウエハ上に、スピンコーター(MS−250 ミカサ株式会社製)にてスピンコートし、乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み17μm)を得た。その後、シリコンウエハを窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。その後、フッ酸にてシリコンウエハから剥離して10μm厚みのポリイミドフィルムが得られた。
実施例1と同様の操作を繰り返すことにより、ポリイミド樹脂ならびに銅−ポリイミド複合体を得た。
【0078】
[実施例9]
合成例2で合成した一般式(21)で示される含窒素芳香族化合物を樹脂固形分に対して6質量部となるように添加し、実施例8と同様の操作を繰り返すことにより、ポリアミド酸ワニス、ポリイミド樹脂および銅−ポリイミド複合体を得た。
【0079】
[比較例1]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にモノマー骨格中にエステル基を含有するAPAB40mmol、ODA10mmol、NMP191mL(脱水)に溶解した後、この溶液にモノマー骨格中にエステル基を含有するTABPの粉末50mmolを徐々に加えた。30分後、溶液粘度が急激に増加した。更に80℃で4時間撹拌し透明、均一で粘稠なエステル基を有するポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスは室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリアミド酸の固有粘度は、0.72dL/gであった。 実施例1と同様にして、このポリアミド酸ワニスを、金属製の塗工台に12μm厚の銅箔(古川サーキットフォイル株式会社 F2−WS箔)マット面側を表面になるように静置する。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリアミド酸ワニスを用いてドクターブレードにて銅箔マット面に塗布する。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み45μm)を得た。その後、SUS製金属板にポリアミド酸フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。カールのない25μm厚みの銅箔付きポリイミドフィルムが得られた。
【0080】
この銅箔付きポリイミドフィルムを塩化第2鉄溶液にて銅箔をエッチングすることにより膜厚25μmの薄茶色のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。
また同様にして、このポリアミド酸ワニスを6インチのシリコンウエハ上に、スピンコーター(MS−250 ミカサ株式会社製)にてスピンコートし、乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み17μm)を得た。その後、シリコンウエハを窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。その後、フッ酸にてシリコンウエハから剥離して10μm厚みのポリイミドフィルムが得られた。
【0081】
得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)および線熱膨張率(CTE)、吸湿膨張率(CHE)、弾性率、破断伸び、銅−ポリイミド複合体の接着強度ならびにハンダ耐熱性および吸湿ハンダ耐熱性の結果を表1に示す。
【0082】
[比較例2]
比較例1で得られたポリアミド酸ワニスに、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成株式会社製 製品名2E4MZ)を樹脂固形分に対して6質量部になるように添加したポリアミド酸ワニス組成物を得た。比較例1と同様の操作を繰り返すことによりポリイミド樹脂ならびに銅−ポリイミド複合体を得た。
得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)および線熱膨張率(CTE)、吸湿膨張率(CHE)、弾性率、破断伸び、銅−ポリイミド複合体の接着強度ならびにハンダ耐熱性および吸湿ハンダ耐熱性の結果を表1に示す。
【0083】
[比較例3]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にモノマー骨格中にエステル基を含有する4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(以下APABと称する)45mmol、4、4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下ODAと称する)5mmol、N−メチル−2−ピロリドン191mL(脱水)(和光純薬工業株式会社製)(以下NMPと称する)に溶解した後、この溶液にモノマー骨格中にエステル基を含有するp−メチルフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物(以下MTAHQと称する)の粉末50mmolを徐々に加えた。30分後、溶液粘度が急激に増加した。更に80℃で4時間撹拌し透明、均一で粘稠なエステル基を有するポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスは室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリアミド酸の固有粘度は、0.82dL/gであった。このポリアミド酸ワニスを、金属製の塗工台に12μm厚の銅箔(古川サーキットフォイル株式会社 F2−WS箔)マット面側を表面になるように静置する。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリアミド酸ワニスを用いてドクターブレードにて銅箔マット面に塗布する。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み45μm)を得た。その後、SUS製金属板にポリアミド酸フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。カールのない25μm厚みの銅箔付きポリイミドフィルムが得られた。
【0084】
この銅箔付きポリイミドフィルムを塩化第2鉄溶液にて銅箔をエッチングすることにより膜厚25μmの薄茶色のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。
また同様にして、このポリアミド酸ワニスを6インチのシリコンウエハ上に、スピンコーター(MS−250 ミカサ株式会社製)にてスピンコートし、乾燥器中で100℃で30min静置の後、タック性のないポリアミド酸フィルム(厚み17μm)を得た。その後、シリコンウエハを窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃で30min、200℃で1h、400℃で1hにてイミド化を行った。その後、フッ酸にてシリコンウエハから剥離して10μm厚みのポリイミドフィルムが得られた。
得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)および線熱膨張率(CTE)、吸湿膨張率(CHE)、弾性率、破断伸び、銅−ポリイミド複合体の接着強度ならびにハンダ耐熱性および吸湿ハンダ耐熱性の結果を表1に示す。
【0085】
[比較例4]
比較例3で得られたポリアミド酸ワニスに、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成株式会社製 製品名2E4MZ)を樹脂固形分に対して6質量部になるように添加したポリアミド酸ワニス組成物を得た。比較例1と同様の操作を繰り返すことによりポリイミド樹脂ならびに銅−ポリイミド複合体を得た。
得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)および線熱膨張率(CTE)、吸湿膨張率(CHE)、弾性率、破断伸び、銅−ポリイミド複合体の接着強度ならびにハンダ耐熱性および吸湿ハンダ耐熱性の結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリアミド酸ワニス組成物は、高密度配線や高信頼性を必要とするフレキシブルプリント基板やICパッケージ基板等の配線基材に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの付加重合により得られるポリアミド酸、含窒素芳香族化合物および溶媒を含有するポリアミド酸ワニス組成物であって、該芳香族テトラカルボン酸二無水物が式(1)で表されるエステル構造を有する、及び/または該芳香族ジアミンが式(2)で表されるエステル構造を有し、かつ該含窒素芳香族化合物が式(3)〜(12)で表されるオキサゾール化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、およびベンゾフラザン誘導体からなる群より選ばれるものであることを特徴とするポリアミド酸ワニス組成物。
【化1】

(Mは、式(1)で表される2価の芳香族基より選択され、R1〜R3は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。)
【化2】

(m=0もしくは1であり、R4〜R6は、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、または水素原子を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

(X1、X3は式(3)、(4)、(7)、(8)で表される4価の芳香族基であり、X2、X4は式(5)、(9)で表される2価の芳香族基である。式中、Y1〜Y5は、エーテル、−S−、C1〜4の飽和、不飽和アルキレン基、カルボニル基、または、スルホニル基である。R7〜R14、R16〜R29、R31〜R33は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhであり、n=0、1、2である。R15、R30、R34は上述の置換基、またはフェニル基である。)
【請求項2】
前記含窒素芳香族化合物が、式(13)〜(15)のいずれか一種類以上で示されるオキサゾール化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【化13】

【化14】

【化15】

(X5は、式(13)で表される4価の芳香族基であり、X6は、式(14)で表される2価の芳香族基である。R35〜R38、R40は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R39は上述の置換基、またはフェニル基である。)
【請求項3】
前記含窒素芳香族化合物が、式(16)〜(18)のいずれか一種類以上で示されるアミド化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【化16】

【化17】

【化18】

(X7は、式(16)で表される4価の芳香族基であり、X8は、式(17)で表される2価の芳香族基である。R41〜R44、R46は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。R45は上述の置換基、またはフェニル基である。)
【請求項4】
前記含窒素芳香族化合物が、式(16)で示されるアミド化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【化19】

(X7は、式(16)で表される4価の芳香族基であり。R41、R42は、水素原子、C1〜C4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、−SOH、−OPh、−SCH、または−SPhである。)
【請求項5】
前記含窒素芳香族化合物が、前記ポリアミド酸100質量部に対して0.01〜20質量部であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド酸ワニス組成物。
【請求項6】
請求項1記載の前記ポリアミド酸ワニス組成物をイミド化して得られたポリイミド樹脂。
【請求項7】
請求項1記載のポリアミド酸ワニス組成物をイミド化して得られるポリイミド樹脂と、金属箔とから構成される金属−ポリイミド複合体。

【公開番号】特開2009−280660(P2009−280660A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132517(P2008−132517)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】