説明

ポリイミド系材料、組成物及びフィルム、並びにその製造方法

【課題】耐熱性、成形性(フィルム状に成形する際の容易さ、プロセス負荷の小ささ)に優れるポリイミド系材料、及び該ポリイミド系材料からなるフィルムを提供する。
【解決手段】ポリイミド系材料は、(A)1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、(B)イミノ形成化合物と、を反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアシル化合物、該化合物を用いてなるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含むポリイミド系材料、該ポリイミド系材料を含む組成物、及び、該ポリイミド系材料からなるフィルム、並びに該フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させてなる全芳香族ポリイミドは、分子の剛直性や、分子が共鳴安定化していること、強い化学結合を有することに起因して、優れた耐熱性、機械的特性、電気特性、耐酸化・加水分解性を有しており、電気、電池、自動車および航空宇宙産業などの分野において、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料として幅広く使用されている。
しかし、例えばKapton(商品名、登録商標、東レ・デュポン社製)に代表される全芳香族ポリイミドフィルムは、フィルム状に成形するのに、高温での熱処理を要するなど、プロセス負荷が高いため成形性が低く、光学材料としての使用には制限があるという問題がある。具体的には、上記フィルムを形成するポリイミドは、有機溶媒に対する溶解性が低い。そのため、前記ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を有機溶媒に溶解させてなる溶液を用い、基板への塗布などによりフィルム状の塗膜を形成させた後、該塗膜を400℃程度の高温で熱処理することにより、塗膜中のポリアミック酸をイミド化し、ポリイミドからなるフィルムを得る必要がある。
一方、近年では、脂環族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させて得られる半芳香族ポリイミドが報告されており、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとを反応させて得られるポリイミドが提案されている(非特許文献1)。
また、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル含有化合物と、特定の式で表される、少なくとも一つのフェニレン基とイソプロピリデン基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種のイミノ形成化合物とを反応させてなるポリイミド樹脂が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199945号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】High Performance Polymer 19、P175−193 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載のポリイミドは、耐熱性に優れるものの、有機溶媒に対する溶解性が低いままであるため、フィルム状に成形するには、前駆体であるポリアミック酸を用いた高温での熱処理(熱イミド化)が必要であり、プロセス負荷が大きく成形性が悪いという課題は残されたままであるという問題がある。
特許文献1に記載のポリイミド樹脂は、耐熱性が不十分であり、光学部材としての使用に供することができないという問題がある。
そこで、本発明は、耐熱性、成形性(フィルム状に成形する際の容易さ、プロセス負荷の小ささ)に優れるポリイミド系材料を与えうる新規なアシル化合物、ポリイミド系材料、該ポリイミド系材料を含む組成物、該ポリイミド系材料からなるフィルム、並びに該フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、新規なアシル化合物の合成に成功し、該アシル化合物とイミノ形成化合物(ジアミン、ジイソシアナート、トリアルキルシリル化ジアミン)とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含むポリイミド系材料によると、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]を提供するものである。
[1] (A)1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、(B)イミノ形成化合物と、を反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とするポリイミド系材料。
[2] (B)イミノ形成化合物が、ジアミン化合物である、上記[1]に記載のポリイミド系材料。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のポリイミド系材料、及び有機溶媒を含有するポリイミド系樹脂組成物。
[4] 上記[1]又は[2]に記載のポリイミド系材料からなるフィルム。
[5] 光学部材用である上記[4]に記載のフィルム。
[6] プリント配線用基板用である上記[4]に記載のフィルム。
[7] 上記[4]〜[6]のいずれか1つに記載のフィルムの製造方法であって、上記(A)アシル化合物と上記(B)イミノ形成化合物とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む、フィルムの製造方法。
[8] 1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸。
[9] 1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物。
[10] 1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、及び/又は、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を含む、ポリアミック酸及び/又はポリイミド合成用材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミック酸及び/又はポリイミド(以下、「ポリイミド等」ともいう。)からなるポリイミド系材料は、特定のアシル化合物とイミノ形成化合物とを反応させてなるため、耐熱性に優れており、有機溶媒に対して優れた溶解性を有する。
すなわち、本発明のポリイミド系材料は、有機溶媒に対して優れた溶解性を有しており、そのまま有機溶媒に溶解させて溶液として用いることによって、フィルムを形成することができる。この場合、前記ポリイミド等を含む溶液を基板等に塗布して塗膜を形成した後、塗膜中の溶媒が蒸発する程度の温度で加熱すればよく、例えばポリアミック酸及び有機溶媒を含む溶液を用いて熱イミド化する場合のように400℃を超える高温で熱処理する必要がないため、プロセス負荷の低減を達成することができる。
また、本発明のポリイミド系材料によると、高いガラス転移温度を有する耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られた化合物のNMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例2で得られた化合物のNMRスペクトル(1H DMSO−d)を示す図である。
【図3】実施例2で得られた化合物のNMRスペクトル(13C CDCl)を示す図である。
【図4】実施例3で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図5】実施例4で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図6】比較例1で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図7】比較例2で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図8】比較例3で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図9】比較例4で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリイミド系材料は、新規なアシル化合物((A)成分)と、イミノ形成化合物((B)成分)とを反応させてなるポリアミック酸及び/又はポリイミドを主体とするものである。
まず、本発明の新規なアシル化合物について説明する。
[アシル化合物;(A)成分]
本発明の新規なアシル化合物は、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物である。
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸としては、下記式(1−1)で表わされる化合物、または下記式(1−2)で表わされる化合物が挙げられる。また、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物としては、下記式(2−1)で表わされる化合物、または下記式(2−2)で表わされる化合物が挙げられる。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

ここで、反応性誘導体とは、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸に変化しうる化合物であり、例えば、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸の2つのカルボキシル基の中の片方または両方がエステル化されたエステル化物である化合物、またはこれら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。
【0011】
上記反応性誘導体としてのエステル化物としては、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸モノメチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸ジメチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸トリメチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸テトラメチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸モノエチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸ジエチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸トリエチルエステル、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸テトラエチルエステルなどのアルキルエステル化物、また上記アルキルエステルが無置換フェニルエステルもしくはパラ置換フェニルエステル等の各種置換フェニルエステルに置き換わったアリールエステル化物などが挙げられる。
上記反応性誘導体としての酸クロライドとしては、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸ジクロライドエステル(エステルのアルコールまたはフェノール成分は上記と同じ)などが挙げられる。
上記アシル化合物は、ポリイミド等の合成のための材料として好適に用いられる。この場合、耐熱性に優れたポリイミド等を得ることができる。
なお、ポリイミド等を合成する際、上記アシル化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のアシル化合物としては、上記式(1−1)または(1−2)で表される化合物(すなわち、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸)、及び、上記式(2−1)または(2−2)で表される化合物(すなわち、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物)が好ましく、上記式(2−1)または(2−2)で表される化合物がより好ましい。無水物である1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を用いると、無水物ではないものを用いる場合に比して、低温でポリアミック酸を合成することができる。
【0012】
なお、このようなアシル化合物は、例えば、all−cis1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸を加熱することによって、上記式(1−1)または(1−2)で表される化合物を製造することができる。加熱の温度は、通常200〜320℃、好ましくは250℃〜300℃である。また、加熱時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは2〜8時間である。また、加熱中の雰囲気は、特に限定されないが、好ましくは、空気中、または窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中であり、より好ましくは、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中である。
また、上記式(2−1)または(2−2)で表される化合物は、例えば、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸に無水酢酸や塩化アセチル等の脱水剤を加えて加熱することで製造することができる。
さらに、上記式(1−1)または(1−2)で表される化合物のエステル化物や酸クロライドは、例えば、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸にアルコール、塩化チオニル、三塩化リン等を反応させることで製造することができる。
【0013】
次に、上記アシル化合物と反応して本発明のポリイミド系材料を与えるためのイミノ形成化合物((B)成分)について説明する。なお、イミノ形成化合物とは、(A)成分(アシル化合物)と反応してイミノ(−NH−の構造)を形成するための化合物をいう。
[(B)成分]
(B)イミノ形成化合物としては、ジアミン化合物、ジイソシアネート化合物、ジシリルアミン化合物が挙げられる。具体的には、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
X−Q−X (3)
(式(3)中、Xは、−NH、−N=C=O、又は−NHSi(R)(R)(R)であり、Qは、2価の有機基を示す。R〜Rは、各々独立して、炭素数1〜15のアルキル基を示す。)
このようなイミノ形成化合物の具体例としては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニルなどの芳香族ジアミン類;ジアミノテトラフェニルチオフェンなどのヘテロ原子を有する芳香族ジアミン類;1,1−メタキシリレンジアミン、1,2−エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または脂環族ジアミン類;などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらジアミン化合物は市販品をそのまま使用してもよいし、市販品を再還元してから使用してもよい。
【0014】
次に、本発明のポリイミド系材料の製造方法、およびフィルムの製造方法について説明する。
本発明のポリイミド系材料の製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(a)と、前記ポリアミック酸の少なくとも一部を、イミド化する工程(b)とを含む。
また、本発明のフィルムの製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含むものである。
本発明のフィルムの製造方法は、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を調製する前工程を含むことができる。この場合、本発明のフィルムの製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(例えば、上記工程(a)及び(b))と、前記ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程(工程(c))と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程(工程(d))と、を含む。
【0015】
[工程(a)]
工程(a)は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程である。
工程(a)の一例として、少なくとも1種の(B)イミノ形成化合物を有機溶媒に溶解した後、得られた溶液に、少なくとも1種の(A)アシル化合物を添加し、0〜100℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法が挙げられる。また、工程(a)の他の例として、少なくとも1種の(A)アシル化合物を有機溶媒に溶解した後、得られた溶液に、少なくとも1種の(B)イミノ形成化合物を添加し、0〜100℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法が挙げられる。
上記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等の非プロトン系極性溶媒;クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、反応液中の(B)イミノ形成化合物と(A)アシル化合物の合計量は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
【0016】
ここで、(A)アシル化合物と(B)イミノ形成化合物との割合は、(B)成分1当量に対して、(A)成分が0.8〜1.2当量となる割合が好ましく、1.0〜1.1当量となる割合がより好ましい。該値が0.8当量未満、または1.2当量を超えると、分子量が低くなり、フィルムを形成することが困難なことがある。
【0017】
上記の方法で得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドの末端は、カルボン酸無水物またはアミンとなる。ポリマーの末端基は、処理せずにそのままの状態でフィルム化することができる。また、末端のカルボン酸無水物は、アニリン誘導体に代表される単官能の芳香族アミンの添加により、処理することができる。
なお、ポリアミック酸とは、酸無水物基とアミノ基とが反応して生じる、−CO−NH−及び−CO−OHを含む構造を有する酸または前記酸の誘導体(具体的には、例えば、−CO−NH−及び−CO−OR(ただし、Rはアルキル基等である。)を含む構造を有するもの)をいう。ポリアミック酸は、加熱等によって、−CO−NH−のHと、−CO−OHのOHとが脱水して、環状の化学構造(−CO−N−CO−)を有するポリイミドとなる。
【0018】
[工程(b)]
次いで、得られたポリアミック酸を、脱水閉環することによりイミド化するが、この方法としては、脱水剤を用いる方法(化学イミド化)や、160℃〜350℃(溶液では160〜220℃、キャストフィルムでは300℃以上での処理が一般的)で熱処理する方法(熱イミド化)が挙げられる。
化学イミド化における脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物;もしくは相当する酸クロライド類;ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。なお、化学イミド化の際には、60〜120℃の温度で加熱することが好ましい。
熱イミド化の場合には、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去することができる。
また、イミド化の際には、必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、1−メチルピペリジン、1−メチルピペラジン等の塩基触媒を用いることができる。上記脱水剤又は塩基触媒は、アシル化合物1モルに対し、それぞれ0.1〜8モルの範囲で用いることが好ましい。
イミド化の方法としては、より低温での加熱によってイミド化を行うことができることなどから、化学イミド化が好ましい。
なお、イミド化は、ポリアミック酸の繰り返し単位の少なくとも一部、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上をイミド化するように行われる。
得られたポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液は、そのまま使用することもできるが、ポリイミド等を固体分として単離した後、有機溶媒に再溶解して用いることもできる。なお、再溶解する有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。ポリイミド等を単離する方法としては、ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を、メタノール、イソプロピルエーテル等のポリイミドに対する貧溶媒に投じてポリイミド等を沈殿させ、濾過・洗浄・乾燥等によりポリイミド等を固体分として分離する方法が挙げられる。このような操作をすることにより、イミド化の際に使用した脱水触媒(イミド化触媒)の除去も図ることができる。
【0019】
本発明においては、ポリアミック酸とポリイミドの合計100モル%中のポリイミドの割合は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。ポリイミドの割合が75モル%未満であると、フィルムの吸水率が高くなったり、耐久性が低下することがある。
得られたポリアミック酸及び/又はポリイミドは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が好ましくは40,000〜500,000、より好ましくは50,000〜400,000である。
【0020】
[工程(c)]
工程(c)は、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程である。
上記支持基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、SUS板等が挙げられる。
ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を支持基板上に塗布する方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ドクターブレードを用いる方法等を使用することができる。
塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜250μmである。
【0021】
[工程(d)]
工程(d)は、上記塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去し、フィルムを得る工程である。
具体的には、塗膜を加熱することにより、該塗膜中の有機溶媒を蒸発させて除去する。
上記加熱の条件は、有機溶媒が蒸発すればよく特に限定されないが、例えば60〜250℃で1〜5時間である。なお、加熱は二段階で行ってもよい。例えば、100℃で30分加熱した後、150℃で1時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下、もしくは減圧下にて乾燥を行ってもよい。
本工程では、有機溶媒を除去することができればよく、イミド化を行う必要がないため、従来技術に比して低温でフィルムを得ることができる。そのため、光学部材を形成する他の部材が耐熱性の低いものであっても、該部材に直接上記ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を塗布して、有機溶媒を蒸発除去することにより、フィルムを形成することができる。
得られたフィルムは、支持基板から剥離して、あるいは剥離せずにそのまま用いることができる。
【0022】
本発明のフィルムは、上記(A)成分と(B)成分とを反応させて得られるポリイミド等を主体とする。
ここで、成分(A)と成分(B)とが反応してなるポリアミック酸は、例えば下記の8つの式(4−1)〜式(7−2)で表される繰り返し単位の少なくとも1つを有するものである。
【化5】

(各式中、R〜R11は、各々独立して、水素原子又はアルキル基を表し、Qは、2価の有機基を表す。)
さらに、成分(A)と成分(B)とが反応してなるポリイミドは、例えば下記式(8−1)または(8−2)で表される繰り返し単位を有するものである。
【化6】

(各式中、Qは、上記式(4−1)〜(7−2)中のQと同様である。)
【0023】
本発明のフィルムにおいては、ポリアミック酸とポリイミドの合計100モル%中のポリイミドの割合は、75モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。ポリイミドの割合が75モル%未満であると、フィルムの吸水率が高くなったり、耐久性が低下することがある。
本発明のフィルムの厚みは、1〜250μm、好ましくは5〜200μmである。また、本発明のフィルムを基材として使用する場合には、厚みが10〜150μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。このようなガラス転移温度を有することにより、優れた耐熱性を得ることができる。
【0024】
本発明のフィルムは、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料に使用することができる。具体的には、耐熱透明フィルム、導電性透明フィルム等の光学部材に使用することができる。また、電子回路周辺材料としては、プリント配線基板用基板として使用することもでき、フレキシブルプリント配線用基板、リジットプリント配線用基板、光電子プリント配線用基板、COF(Chip on Film)用基板、TAB(Tape Automated Bonding)用基板を挙げることができる。プリント配線用基板として用いる場合には、例えば、配線用の銅層を設けることもできる。本発明のフィルムに銅層を設ける方法としては、ラミネート法、メタライジング法等を挙げることができる。ラミネート法の場合には、例えば、本発明のフィルムに銅箔を熱プレスすることによって、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。メタライジング法の場合には、例えば、本発明のフィルムの金属との親和性を発現させるために表面改質を行った後に、蒸着法またはスパッタリング法によって、ポリイミドと結合するNi系の金属層と、湿式電気めっきに必要なシード層を形成する。そして、湿式めっき法により所定の膜厚の銅層を設けることによって、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
【0025】
また、工程(a)及び(b)により得られた、ポリイミド等及び有機溶媒を含むポリイミド系溶液は、ポリイミド系樹脂組成物として、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料等に用いることもできる。具体的には、封止剤、レンズ材、プリント配線基板形成用材料等に用いることができる。例えば、プリント配線基板形成用材料として用いる場合には、キャスティング法によりプリント配線用基板を製造することができる。具体的には、銅箔の上に前記ポリイミド系樹脂組成物を塗布した後に、熱処理することによって、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
なお、前記ポリイミド系樹脂組成物は、共溶媒として、沸点が150℃以下の有機溶媒を含むことができる。該有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、ポリイミド系樹脂組成物全量中のポリアミック酸及び/又はポリイミドの濃度は、好ましくは5〜30質量%である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[(A)アシル化合物の合成]
アシル化合物(テトラカルボン酸、及び酸無水物)を下記の方法により製造し、NMR、X線構造解析等によりその構造を確認した。
[実施例1;テトラカルボン酸の合成]
all−cis1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸12.31g(50.0mmol)を窒素雰囲気下、285℃のオーブンで5時間加熱した。室温まで冷却した後、100mlの純水を加え固体が溶解するまで2時間攪拌した。活性炭を加えろ過し、無色透明の液体を得た。この液体を減圧乾固し、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸と種々のテトラカルボン酸異性体をクルードで得た(収量10.75g)。上記1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸について、NMR(1H DO)により構造分析を行った(図1参照)。
【0027】
[実施例2;酸無水物の合成]
実施例1で得たクルードのテトラカルボン酸10.75g(43.6mmol)に150mLの無水酢酸を加え100℃で3時間攪拌した。活性炭を加え20分攪拌し、熱時ろ過した。ろ液を氷浴で冷却し、沈殿物をろ過で回収して無水酢酸で数回洗浄し無色結晶の1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を得た(収量4.85g、収率52.9質量%)。
上記テトラカルボン酸無水物について、NMR(1H DMSO−d、13C CDCl3)により構造分析を行った(図2及び図3参照)。なお、図2は、NMR(1H DMSO−d)の結果である。図3は、NMR(13C CDCl3)の結果である。[X線構造解析]
温度計、攪拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却管を取り付けた100mLの4つ口フラスコにメチルアミン1.30g(40% 水溶液 15.0mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、キシレン10mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に実施例2で得た1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物0.15g(0.5mmol)を室温で加え、150℃まで加温し4時間攪拌を続けて、ビスイミド粉末を得た(収量0.114g、収率96.2質量%)。得られた粉末を昇華により精製した。
上記ビスイミド粉末について、X線構造解析により構造分析を行った。結果を表1に示す。構造分析の結果、合成例1で得られたテトラカルボン酸が1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸であり、合成例2で得られた酸無水物が1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物であることがわかった。
【0028】
【表1】

【0029】
[(B)フィルムの製造]
[実施例3;本発明のフィルムの製造]
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン9.92g(24.2mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に実施例2で得られた1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物5.08g(24.2mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液に対し、N−メチルピペリジン2.5ml、無水酢酸6.8mlを加え、75℃で4時間攪拌しイミド化を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量13.4g、収率94.6質量%)。
次いで、得られたポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。該樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、次いで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムをさらに150℃、減圧下で3時間乾燥して、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、IR(KBr法)により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1781cm−1および1718cm−1に認められた(図4参照)。
また、上記ポリマーについて、下記の方法により、重量平均分子量、イミド化率、イミド基濃度(イミド化率が100モル%であると仮定した場合の理論値)、有機溶媒に対する可溶性、ガラス転移温度を評価した。なお、重量平均分子量は、イミド化前後のポリアミック酸とポリイミドについて測定した。
結果を表2に示す。
【0030】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒には、臭化リチウム及び燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(2)イミド化率(閉環率)
ポリイミドの閉環率は、1H−NMRを使用して測定した。溶媒にはd−DMSOを用いた。未閉環のアミド基のN−Hのプロトンのピーク積分値と、脂環族ジアミン由来の−CH−(メチレン基)のプロトンのピーク積分値、または芳香族ジアミン由来の芳香環プロトンのピーク積分値の比率から算出した。
(3)有機溶媒に対する可溶性
ポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、20質量%溶液になるように調整し、室温での溶解性を評価した。完全に溶解した場合を「○」、膨潤もしくは不溶ポリマーがある場合を「×」とした。
(4)ガラス転移温度(Tg)
得られたポリマーまたはフィルムをRigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度を20℃/minとして測定した。
(5)弾性率、破断強度、伸び
フィルムを7号ダンベルで打ち抜き、引張速度500mm/分でインストロン社製(5543型)を用いて破断伸びを測定した。なお、測定は、23℃、50%RHで行った。
【0031】
[実施例4;本発明のフィルムの製造]
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.50g(35.7mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物7.50g(35.7mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液に対し、N−メチルピペリジン2.5ml、無水酢酸6.8mlを加え、75℃で3時間攪拌しイミド化を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量12.8g、収率93.5質量%)。
次いで、得られたポリマーに対して実施例3と同様に処理して、膜厚20μmのフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例3と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1773cm−1および1704cm−1に認められた(図5参照)。
また、得られたポリマーの各種物性について、実施例3と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0032】
[比較例1;比較用フィルムの製造]
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物の代わりにall−cisシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(すなわち、1−cis−2−cis−3−cis−4−cis−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物)を5.08g(24.2mmol)用い、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、9.92g(24.2mmol)、3.5ml、及び9.8mlに変更したこと以外は実施例3と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量12.9g、収率91.3質量%)を得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例3と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1779cm−1および1722cm−1に認められた(図6参照)。結果を表2に示す。
また、得られたポリマーの各種物性について、実施例3と同様にして評価した。結果を表2に示す。なお、得られたポリマーは分子量が低く、フィルムを作製することができなかった。
【0033】
[比較例2;比較用フィルムの製造]
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物の代わりにall−cisシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を7.50g(35.7mmol)を用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、7.50g(35.7mmol)、3.5ml、及び10.4mlに変更したこと以外は実施例4と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量12.6g、収率92.2質量%)を得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例3と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1770cm−1および1702cm−1に認められた(図7参照)。
また、得られたポリマーの各種物性について、実施例3と同様にして評価した。結果を表2に示す。なお、得られたポリマーは分子量が低く、フィルムを作製することができなかった。
【0034】
[比較例3;比較用フィルムの製造]
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物の代わりに1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を7.74g(34.5mmol)を用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、7.26g(34.5mmol)、3.5ml、及び10.4mlに変更したこと以外は実施例4と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量13.1g、収率95.4質量%)及びフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例3と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1775cm−1および1705cm−1に認められた(図8参照)。
また、得られたポリマーの各種物性について、実施例3と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0035】
[比較例4;比較用フィルムの製造]
温度計、攪拌機、窒素導入管、ディーンスターク管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.76g(36.9mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、NMP58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液にシクロブタンテトラカルボン酸二無水物7.24g(36.9mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
次いで、得られたポリアミック酸溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、ついで120℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムをさらに250℃、減圧下で2時間乾燥して、膜厚21μmのフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例3と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1768cm−1および1692cm−1に認められた(図9参照)。
また、得られたポリマー(ポリアミック酸)の各種物性について、実施例3と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から、本発明の新規なアシル化合物を用いてなるポリイミド系材料(実施例3、4)は、有機溶媒に対する可溶性が高いため、フィルム状に成形する際の作業性が良好であり、また、ガラス転移温度が高いため、耐熱性に優れたフィルムが得られることがわかる。一方、本発明の範囲外のアシル化合物を用いた比較例1、2では、同じ(B)成分を用いた実施例3、4に比してガラス転移温度(耐熱性)が低く、重量平均分子量も低いことがわかる。また、比較例3においても、同じ(B)成分を用いた実施例4に比してガラス転移温度(耐熱性)が低いことがわかる。また、ポリアミック酸をイミド化せずに用いた比較例4では、有機溶媒に対する可溶性が低く、フィルム化する際の作業性が劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、
(B)イミノ形成化合物と、
を反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とするポリイミド系材料。
【請求項2】
(B)イミノ形成化合物が、ジアミン化合物である、請求項1に記載のポリイミド系材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミド系材料、及び有機溶媒を含有するポリイミド系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリイミド系材料からなるフィルム。
【請求項5】
光学部材用である請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】
プリント配線用基板用である請求項4に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法であって、上記(A)アシル化合物と上記(B)イミノ形成化合物とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む、フィルムの製造方法。
【請求項8】
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸。
【請求項9】
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物。
【請求項10】
1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、及び/又は、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を含む、ポリアミック酸及び/又はポリイミド合成用材料。
【請求項11】
(A)1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、
(B)イミノ形成化合物と、
を反応させて得られるポリアミック酸。
【請求項12】
(A)1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸、1−cis−2−cis−3−trans−4−trans−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、
(B)イミノ形成化合物と、
を反応させて得られるポリイミド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−168551(P2010−168551A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283939(P2009−283939)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】