説明

ポリウレタン塗膜防水材組成物

【目的】塗膜防水材として、優れた伸び、引裂強さ、引張強さを示す塗膜を形成する防水材を従来と比較して低コストで開発すること。
【構成】イソシアネート末端ウレタンプレポリマーからなる主剤成分、ポリオール及び/またはアミン系架橋等からなる硬化剤成分、その他添加剤、着色剤、希釈剤等を混合、施工、硬化させ塗膜を形成する2液または多液常温硬化型ポリウレタン塗膜防水材において、
a.有機溶剤が、上記防水材100質量部に対して1〜20質量部含有する
b.ビヒクル(塗膜構成成分)としてペースト型塩化ビニル樹脂及び/又はペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂が、上記防水材100質量部に対して1〜12質量部含有するポリウレタン塗膜防水材組成物。
塗膜が、23℃における破断時のつかみ間伸び率300%以上、引裂強度14N/mm以上、引張強さが2.3N/mm以上の塗膜物性であるポリウレタン塗膜防水材による防水塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂を主成分として用いた塗膜防水材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン塗膜防水材は、塗膜の伸び性能や強靭性、弾性により、建築、土木分野において防水工事が必要な箇所に広く使用されている。
例えば、建築物の陸屋根形状の屋根、ルーフバルコニー、ベランダ、開放廊下、ショッピングモールや高架駅前広場、駐車場などの床、各種のスポーツ施設の舗装材などで使用されている。
ポリウレタン塗膜防水材は、一般的には常温2液混合硬化型、しばしば「2液型」と略称されるものが主流である。これは、予め重合反応によりプレポリマー化された末端イソシアネートのポリウレタン樹脂と、ポリアミン、ポリアミド、ポリオールなどの硬化剤を混合することにより、架橋反応を発生させ、優れた性能を有する塗膜を形成するものである。
【0003】
ポリウレタン樹脂(イソシアネート樹脂)は高価であるため、原材料コストを低減化する要求は常に存在する。ポリウレタン塗膜防水材を構成する配合物としては、上記のポリウレタン樹脂や硬化剤の他に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、カオリン、ゼオライト等が配合される。これらの充填材成分の占める割合を増やすことにより、塗膜防水材全体としてのコストを低減させることは可能である。
【0004】
しかしながら、形成される塗膜における充填材成分の割合が多くなると、ポリウレタン樹脂塗膜としての伸び、強靭性、弾性などの物性が低下することは避けられない。
なお、ポリウレタン組成物として、その充填材成分の一部として塩化ビニルペーストレジンが例示されている文献があるが、本発明の如く塗料ビヒクルとして特に使用することは開示されていないものである。
【特許文献1】特開平4−65417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、原材料価格の低コスト化を実現し、従前のポリウレタン塗膜材による優れた塗膜性能を何ら犠牲にすることなく高い施工性を確保したポリウレタン塗膜防水材を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決せんとして、本発明者は鋭意研究の結果、従前のポリウレタン塗膜防水材の優れた塗膜性能はそのままに、画期的な低コストでの塗膜防水材を開発したものであり、その要旨は以下に存する。
【0007】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーからなる主剤成分と、ポリオール及び/またはアミン系架橋剤、可塑剤、触媒、顔料からなる硬化剤成分と、必要に応じて添加剤、着色剤、希釈剤等を混合、施工、硬化させることにより塗膜を形成する2液または多液常温硬化型ポリウレタン塗膜防水材において、
a.有機溶剤が、上記防水材100質量部に対して1〜20質量部含有する
b.ビヒクル(塗膜構成成分)としてペースト型塩化ビニル樹脂及び/又はペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂が、上記防水材100質量部に対して1〜12質量部含有する
ことを特徴とする、ポリウレタン塗膜防水材組成物。
主剤:硬化剤の混合比率(質量部)が、主剤:硬化剤=1:2〜1:4であることを特徴とする、上記に記載されたポリウレタン塗膜防水材組成物。
上記に記載されたポリウレタン塗膜防水材を混合、施工、硬化した塗膜が、23℃における破断時のつかみ間伸び率300%以上、引裂強度14N/mm以上、引張強さが2.3N/mm以上の塗膜物性であることを特徴とする、ポリウレタン塗膜防水材による防水塗膜。
上記に記載されたポリウレタン塗膜防水材による防水塗膜が施工されたことを特徴とする構造物。
以下に詳細に説明する。
【0008】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの製造に用いるイソシアネート成分としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5ジイソシアネート、及びこれらに水添した化合物、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネートを挙げることができる。上記イソシアネート成分は1種を単独でも、あるいは数種類を併用することも可能である。コスト、反応性、可使時間を考慮すると、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6トリレンジイソシアネートの使用が好ましい。
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの製造に用いるポリオール成分としては、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール等のPPGや、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール等を例示できる。ポリオールの数平均分子量は500〜8000であることが好ましい。上記ポリオール成分は1種を単独でも、あるいは数種類を併用することも可能である。
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、反応当量比において、過剰のイソシアネート成分とポリオール成分を反応させることで生成される。
【0009】
架橋剤としては、ポリオール、及び/又はアミン系架橋剤を使用することができる。
ポリオールとしては、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール等のPPGや、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオールを例示することができる。ポリオールの数平均分子量は500〜8000であることが好ましい。アミン系架橋剤としては、4−4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する)、変性MOCA、ジエチルトルエンジアミンを例示することができる。これらは単独であっても、数種類を併用することも可能である。
【0010】
可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル等を例示することができる。これらは単独であっても、数種類を併用することも可能である。
【0011】
触媒としては、鉛オクトエート、鉛ナフテネート等の有機金属触媒、オクチル酸、オレイン酸等の有機酸やビスマス触媒を例示することができる。これらは単独であっても、数種類を併用することも可能である。
【0012】
顔料としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレイ、亜鉛華、タルク、カオリン、ゼオライト、珪藻土等の体質顔料、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、弁柄等の着色顔料を例示することができる。
【0013】
有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、脂肪族溶剤、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤や各種混合溶剤が例示できるがペースト型塩化ビニル樹脂及び/又はペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を塗膜形成させるには芳香族溶剤が好適である。また、有機溶剤は、防水材100質量部に対して、1〜20質量部配合することが必要である。1質量部未満であると、塩化ビニル樹脂及び/又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂の塗膜形成が充分ではなく、20質量部を超えて配合した場合、固形分が低下して厚膜塗布が不可となる。
【0014】
本願防水材には、充填材成分としてではなく、ビヒクル(塗膜構成成分)として、ペースト型塩化ビニル樹脂及び/又はペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を防水材100質量部に対して1〜12質量部含有することが必要である。1質量部未満であると、コスト低減効果としてはあまり期待できず、12質量部を超えて配合すると、防水塗膜に必要な物性が得られない。これらの樹脂は、ペースト型であれば塩化ビニルホモポリマーや塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂等を単独または併用して使用できる。ペースト型塩化ビニル樹脂やペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合型樹脂の平均重合度は通常700〜4000であるが、平均重合度が1000〜2000のものが好適に使用できる。ペースト型塩化ビニル樹脂、ペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は乳化重合等で合成される高分子体であり、塗料中または塗膜形成後に、溶剤成分によりゲル化または半ゲル化し塗膜構成成分になると考えられる。ペースト型塩化ビニル樹脂と可塑剤からなる従来のプラティシゾル塗料は、加熱により塩化ビニル樹脂が可塑剤で膨潤してゲル化するが、本願発明では、常温硬化型塗料にペースト型塩化ビニル樹脂を応用した点が特徴である。塩化ビニル樹脂は、約半量が塩を原料としており、石油由来の原料が少ないため、コストパフォーマンスに優れる。なお、塩化ビニル樹脂はペースト型の他に溶液重合型があるが、分子量が低く、防水塗膜に必要な性能が得られないことから好適ではない。また、懸濁重合型の塩化ビニル樹脂や塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂があるが、これらは粒子径が大きく塗膜を形成しづらいことから、防水塗膜に必要な性能が得られず好適ではない。
この他の成分として、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、安定剤等の添加剤も必要に応じて使用できる。
【0015】
主剤:硬化剤の混合比率(質量部)は、主剤:硬化剤=1:2〜1:4であることを必要とする。主剤:硬化剤=1:2より硬化剤割合が少ない場合には、コスト低減効果が期待できない。主剤:硬化剤=1:4より硬化剤割合が多い場合には、防水塗膜に必要な性能が得られない。
【0016】
前述した塗膜防水材は、従来公知の方法で製造することが可能である。即ち、ポリオール及び/またはアミン系架橋剤、ペースト型塩化ビニル樹脂及び/またはペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、可塑剤、触媒、顔料、溶剤の所定量を、各種の混合分散機により充分に分散し、硬化剤成分とする。混合分散機には、特に制限はなく、ディゾルバー、ロールミル、ボールミル、アトライター、グレンミル等の混合分散機が例示できる。混合分散後に、ろ過を行なって缶詰など適当な容器に充填する。一方のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーからなる主剤成分に溶剤、ペースト型塩化ビニル樹脂及び/またはペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、可塑剤、顔料等を混合することも可能であるが、原料中に微量の水分が含まれる場合はイソシアネートと反応するため注意が必要である。これらの原料を硬化剤成分と同様の方法で混合分散、ろ過を行なって容器に充填する。
【0017】
主剤成分と硬化剤成分とを、防水材施工の可能な限り直前に、定められた比率となるように計量し、混合する。混合後には速やかに施工し、塗膜を形成するが、施工には従来公知の塗装機が使用できる。即ち、コテ、刷毛、ローラー、エアレススプレー塗装機等である。混合後に架橋反応が開始され、硬化して塗膜が形成される。本願発明における塗膜防水材は、形成された塗膜が、JIS A6021(2006)に規定される、23℃における破断時のつかみ間伸び率300%以上、引裂強さ14N/mm以上、引張強さが2.3N/mm以上の塗膜物性を示す。
【0018】
本願発明の塗膜防水材は、ベランダ、バルコニー、陸屋根構造の屋根材、開放廊下などを有する構造物の、従来防水工事が必要な箇所に施工することが可能である。通常、含浸補強性、密着性に優れた湿気硬化型ウレタンプライマー等を塗装した後、本願発明の防水材を施工し防水層を形成する。更に本願発明の防水層を保護するため耐候性に優れたウレタン系トップコート等を塗装する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明になるポリウレタン塗膜防水材は、その配合により従来公知の同種の防水材と比較しても同等以上の信頼性のある防水性能を顕現する。また、形成される塗膜が、必要な物理条件を満たすことによって、防水性能を維持することが可能となる。これらの優れた防水、塗膜性能を有するにもかかわらず、本願発明になるポリウレタン塗膜防水材は、従来公知の同種の防水材より大きく価格を低減することに成功したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を説明する。言うまでもないが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
実施例
予め表1に示す配合重量部で容器に計りとり、室温でディゾルバーにより15分間攪拌して、1000gの主剤を得た。同様の方法で1000gの硬化剤を得た。室温で24時間放置後、主剤:硬化剤=1:3の重量比となるよう混合して、JIS A6021(2006)に示される方法で試験体を得た。その後、JIS A6021(2006)に示される方法で塗膜物性を評価した。該試験体は、JIS A6021(2006)を満足する塗膜物性を示した。
比較例1
実施例の配合から、ペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を削除して、炭酸カルシウムに置き換えた。実施例と同様の方法で試験体を得、塗膜物性を評価した。該塗膜は、塗膜中の樹脂分が少ないため、塗膜の伸びが不足し、JIS A6021(2006)を満足する性能が得られなかった。
比較例2
実施例の配合から、ペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を削除して、フタル酸ジオクチルに置き換えた。実施例と同様の方法で試験体を得、塗膜物性を評価した。該塗膜は、塗膜中に残留する可塑剤が増えたため引張強さが不足し、JIS A6021(2006)を満足する性能が得られなかった。
【0022】
表1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーからなる主剤成分と、ポリオール及び/またはアミン系架橋剤、可塑剤、触媒、顔料からなる硬化剤成分と、必要に応じて添加剤、着色剤、希釈剤等を混合、施工、硬化させることにより塗膜を形成する2液または多液常温硬化型ポリウレタン塗膜防水材において、
a.有機溶剤が、上記防水材100質量部に対して1〜20質量部含有する
b.ビヒクル(塗膜構成成分)としてペースト型塩化ビニル樹脂及び/又はペースト型塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂が、上記防水材100質量部に対して1〜12質量部含有する
ことを特徴とする、ポリウレタン塗膜防水材組成物。
【請求項2】
主剤:硬化剤の混合比率(質量部)が、主剤:硬化剤=1:2〜1:4であることを特徴とする、請求項1に記載されたポリウレタン塗膜防水材組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたポリウレタン塗膜防水材を混合、施工、硬化した塗膜が、23℃における破断時のつかみ間伸び率300%以上、引裂強さ14N/mm以上、引張強さが2.3N/mm以上の塗膜物性であることを特徴とする、ポリウレタン塗膜防水材による防水塗膜。
【請求項4】
請求項3に記載されたポリウレタン塗膜防水材による防水塗膜が施工されたことを特徴とする構造物。

【公開番号】特開2009−275071(P2009−275071A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125426(P2008−125426)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】