説明

ポリウレタン弾性繊維および染色助剤

【課題】染色性と同色性が良好で、高温水での洗濯でも色落ちが少なく色相が安定した堅牢度が良好なポリウレタン弾性繊維とその商品価値の高い繊維製品を得ること。
【解決手段】ポリウレタン弾性繊維に、層間に特定の構造をもつイオンからなる特定のハイドロタルサイト類を有効量含有させることによって、ポリウレタン弾性繊維の染色性と堅牢性が大幅に向上し、それを含む繊維製品は色相が良好で審美性に優れる。更に特定のハイドロタルサイトの粒子物性及びその表面処理により紡糸時の生産安定性が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維用染色助剤および染色性が良好でかつ高温水での洗濯においても色相の堅牢性に優れたポリウレタン弾性繊維並びにその繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、伸縮性に富み、その優れた物理、化学的特性のため、ファンデーション類、肌着、ボディスーツ、パンスト、水着およびスポーツウェア等の繊維製品に広く利用されている。ポリウレタン弾性繊維は、単独で用いることは少なく、ナイロン繊維や他の繊維素材と交編や交織され使用されることが多い。特に、ナイロン繊維と組み合わされて使用される場合が多く、通常その布帛は、ナイロン用染料として用いられるアニオン系の染料である酸性染料、酸性媒染料および含金属染料によって染色されている。
【0003】
しかし、ポリウレタン弾性繊維の染色された製品は堅牢度が低いため、洗濯および水洗い等により容易に退色するという問題があり、また、他の布地で摩擦すると染料が脱落し易く、その染料が他の洗濯物を染色汚染するという問題がある。また、酸性染料にナイロン系は良く染まるがポリウレタン弾性繊維は薄くしか染まらない同色性不一致による審美性低下の問題がある。
【0004】
すなわち、ポリウレタン弾性繊維の染色性および染色後の堅牢性は十分でなく、従来から、染色条件の改良、染料の開発、ポリウレタンのポリマー改質およびポリウレタンにリン酸エステル金属塩等を添加して改質する等の種々の検討がなされてきたが、ポリウレタン弾性繊維の染色性に関する課題は残ったままであった。
【0005】
そこで、本発明者は、全く新しい発想により下記式(4)で表されるハイドロタルサイト類をポリウレタンに含有させることにより、ポリウレタンの染色性を改善できることを提案した(特許文献1参照)。
2+1-x3+x(OH)2n-x/n・mH2O (4)
(但し、式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種を、M3+はAlおよびFeの3価金属の少なくとも1種を、An-はNO3-,Cl-,Br-,ClO4-,HCOO-およびCH3COO-からなる群から選ばれた1価のアニオンの少なくとも1種を示し、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数を表す。0<x<0.5,0≦m<2)
【0006】
上記式(4)で表されるハイドロタルサイト類は、ポリウレタン本来の染色性を大幅に改善した。しかし、それでもなお、染色性や高温水での堅牢性は不十分であることがわかった。さらには、An-がClおよびBr等のハロゲンイオンの場合には、ポリウレタン中に染色後に多量に残存した場合、ポリウレタンの耐熱、耐光性等に悪影響を及ぼすことがあった。さらに、式(4)のハイドロタルサイト類は、製造時乾燥する際に固くなり粉砕しても微粒子化が不十分であり、これが、ポリウレタン弾性繊維の紡糸時に、糸切れ多発の原因となり、ポリウレタン弾性繊維の生産が困難となる場合がある。これらの問題を解決する染色性に優れたポリウレタン弾性繊維は未だ見出されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−119510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記式(4)を用いた従来技術では未だに解決されていない、(i)染料による染色性を更に改善する、(ii)海外(特に欧州の場合)では、60℃以上、場合によっては約80℃のお湯を用いて洗濯する場合があるが、その場合でもポリウレタン弾性繊維からの染料の脱落を減少させ、洗濯前後で生地の色相変化を抑制するといった課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、課題解決のため鋭意検討した結果、ポリウレタン弾性繊維中に特定構造のハイドロタルサイト類を含有させることで、染料との交換反応を促進させ、さらにまた高温洗濯でも染料が溶出しないように染料との結合力を強化できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は下記の発明を提供する。
1.ポリウレタン重合体および該ポリウレタン重合体に対して0.1〜20質量%の下記式(1)で表されるハイドロタルサイト類からなるポリウレタン弾性繊維。
【0011】
2+1-xAlx(OH)2-x・mH2O (1)
(但し、式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種であり、B-は芳香族基を有するカルボン酸のイオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれた少なくとも1つであり、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数である。0<x<0.5、0≦m<5)
【0012】
2.式(1)中のB-が下記式(2)または式(3)で示される芳香族基を有するカルボン酸のイオンである上記1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【化1】

【化2】

(但し、上記(2)および(3)式中、nは1〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素原子数が1〜5のアルキル基、アセトアミド基、アミノ基、炭素原子数が1〜5のアルキルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキレン基、ヒドロキシアルキレンオキシ基およびアセチル基からなる群から選ばれた基であり(但しn=2〜3の場合、R1は同一でも異なっていてもよい)、R2は−COOイオンまたは−(CH2)l−COOイオンである(但し、lは1〜3の整数である)。)
【0013】
3.式(1)中のB-が安息香酸イオンである上記2項に記載のポリウレタン弾性繊維。
4.式(1)中のB-がp−アミノ安息香酸イオンである上記2項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0014】
5.式(1)中のB-がメタニル酸イオンである上記1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
6.式(1)中のxの範囲が0.2≦x≦0.4である上記1〜5項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0015】
7.ハイドロタルサイト類の層間距離d003が、X線回折法での測定値で13Å≦d003≦25Åである上記1〜6項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
8.ハイドロタルサイト類が、平均二次粒子径が2μm以下で且つ、BET比表面積が5〜20m2/gである上記1〜7項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0016】
9.ハイドロタルサイト類が、ハイドロタルサイト基準で0.1〜10質量%の高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩およびリン酸エステルの群から選ばれたアニオン系界面活性剤またはシラン系、チタネート系およびアルミニウム系の群から選ばれたカップリング剤の少なくとも一種で表面処理されていることを特徴とする上記1〜8項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0017】
10.ポリウレタン重合体を構成する高分子ジオール成分が、1種または2種以上の炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基がエーテル結合している、数平均分子量が500〜6000の単一重合または共重合ポリアルキレンエーテルジオールである上記1〜9項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0018】
11.上記1〜10項のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維とナイロン、エステル、アクリル、天然繊維およびセルロース誘導体からなる群から選ばれた繊維素材とからなる繊維製品。
12.インナー、アウター、レッグ、スポーツウェヤー、ジーンズ、水着および衛生材からなる群から選ばれた用途に用いられる上記11項に記載の繊維製品。
【0019】
13.下記式(1)で表されるハイドロタルサイト類からなるポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
2+1-xAlx(OH)2-x・mH2O (1)
(但し、式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種であり、B-は芳香族基を有するカルボン酸のイオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれた少なくとも1つであり、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数である。0<x<0.5、0≦m<5)
【0020】
14.式(1)中のB-が下記式(2)または式(3)で示される芳香族基を有するカルボン酸のイオンである上記13項に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
【化3】

【化4】

(但し、上記(2)および(3)式中、nは1〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素原子数が1〜5のアルキル基、アセトアミド基、アミノ基、炭素原子数が1〜5のアルキルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキレン基、ヒドロキシアルキレンオキシ基およびアセチル基からなる群から選ばれた基であり(但しn=2〜3の場合、R1は同一でも異なっていてもよい)、R2は−COOイオンまたは−(CH2)l−COOイオンである(但し、lは1〜3の整数である)。)
【0021】
15.式(1)中のB-が安息香酸イオンである上記14項に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
16.式(1)中のB-がp−アミノ安息香酸イオンである上記14項に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
17.式(1)中のB-がメタニル酸イオンである上記13項に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明の特定の構造をもつハイドロタルサイトを含有するポリウレタン弾性繊維及びその繊維製品は、同色性と発色性に優れ製品として審美性が良好である。更には、高温洗濯時の色相の堅牢性もすぐれる。その上、ポリウレタン弾性繊維の耐熱および耐光性等に悪影響を及ぼさない。又、ポリウレタン弾性繊維を製造する際、紡糸工程のおける途切れも少なく安定生産性に優る。
また、ポリウレタンの原料として共重合ジオールを使用した場合は、単一ジオールであるポリテトラメチレンジオールを用いた場合よりも、染色性の向上が一層良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者は、ハイドロタルサイト類の前記した様な課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、構造中のアニオンが、適度な親油性を示す芳香族基にカルボニル基が結合した構造のアニオンであるか、または芳香族アミンスルホン酸イオンであることによって解決できることを見出した。
【0024】
すなわち、染色性の不十分さおよび温水洗濯時の堅牢性低下の原因は、染浴中の酸性染料と、従来の前記式(4)で表されるハイドロタルサイト類のアニオンAn-とのイオン交換率が高くないことであった。このイオン交換率を高めるために必要なハイドロタルサイト類の条件を鋭意種々検討した結果、以下の3条件を満たせば良いことが判った。第一条件として、アニオンのイオン半径はできるだけ大きい事が好ましく、結果として、ハイドロタルサイト結晶構造中のB-が占める層間隔を大きくできるので、酸性染料の分子がアニオンに接近しやすくし、交換反応できる空間が確保される。第二条件として、発色団として芳香族基を有する酸性染料がアニオンと親和性を有することが必要である。第三条件として、ハイドロタルサイト類の層間にイオン的に存在するアニオンとハイドロタルサイト基本層(上下の金属水酸化物層)との結合力が強過ぎないことが好ましい。換言すれば、基本層に対するアニオンのイオン結合力が酸性染料のそれよれも適度に弱いことがイオン交換反応をするためには必要である。
【0025】
更に検討した結果、下記式(1)記載のハイドロタルサイト類を含有されたポリウレタン弾性繊維は、上記条件を満たすことができることを見出した。
2+1-xAlx(OH)2-x・mH2O (1)
上記(1)式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種であり、B-は芳香族基を有すカルボン酸のイオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれた少なくとも1つであり、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数である。0<x<0.5、0≦m<5。xの好ましい範囲は0.2≦x≦0.4である。
【0026】
本発明の一つの特徴は、上記式(1)のB-が芳香族基を有するカルボン酸のイオンであることを特徴とする。具体的には、B-が下記式(2)または式(3)で示される芳香族基を有するカルボン酸のイオンであることが好ましい。
【化5】

【化6】

上記(2)および(3)式中、nは1〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素原子数が1〜5のアルキル基、アセトアミド基、アミノ基、炭素原子数が1〜5のアルキルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキレン基、ヒドロキシアルキレンオキシ基およびアセチル基からなる群から選ばれた基であり(但しn=2〜3の場合、R1は同一でも異なっていてもよい)、R2は、―COOイオンまたは−(CH2)l−COOイオンである(但し、lは1〜3の整数である)。
なお、上記式(1)のB-において、さらに不純物としてのCO32-が含有されていてもよい。含有量は、好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。CO32-を少量含有しても、本発明の効果を有する。CO32-以外の不純物アニオンについても、同様である。
【0027】
以下、該ハイドロタルサイト類の効果発現機構について述べる。
前記、第一の条件を満足することは、イオン交換反応が促進することである。すなわち、ハイドロタルサイト類の(003)面の面間隔距離は13Å≦d003≦25Åであれば好ましく、13Åより大きければ染料分子が容易に交換反応するB-イオンと接近できるためイオン交換反応が進みやすい。しかし、25Åを超える場合には、式(1)のハイドロタルサイトそのものの合成収率が低い場合がある。より好ましくは、14Å≦d003≦20Åである。更に好ましくは、15Å≦d003≦18Åである。
【0028】
Cl型、NO3型および酢酸型ハイドロタルサイト類の(003)面の面間隔dは、それぞれ約7.7Å,8.9Å,12.8Åであるが、染色性は十分でない。本発明の好ましい例の1つである安息香酸アニオンの場合、d003=15.8Åは明らかに大きく、染色性も堅牢性も良好である。更にアニオンが芳香族基を有すれば、酸性染料は一般にその発色団基として芳香族基を有しており、本発明のアニオンと類似の基本骨格を有するため、化学構造的にハイドロタルサイトの層間にアニオンと置換した染料が立体的にハイドロタルサイト中に安定的に存在しやすい。そのため、高温洗濯時においても、染料の繊維からの脱離が少なく堅牢性は良好である。
【0029】
前記、第二の条件を具体的に説明すると、アニオンが脂肪族基とカルボン酸基を有するラウリン酸型やステアリン酸型はd003が12Å以上であり、親油性を有しているにもかかわらず、酸性染料によるイオン交換率は小さいため、染色性の効果が十分得られない。しかし、驚くべきことに、強い親油性を示す脂肪族カルボン酸型アニオンよりも、適度な親油性を示す芳香族基を有するアニオンの方が特に優れた効果があることを見出した。すなわち、式(1)のB-アニオンには少なくとも1つ以上の芳香族基を有することが必要であることがわかった。
【0030】
前記、第三の条件を具体的に説明すると、芳香族基を有するアニオンであったとしても、ドデシルベンゼンスルホン酸型では、d003が約15〜16Åと充分大きいにもかかわらず、スルホン基はハイドロタルサイト結晶の基本層に対して化学的な結合力が強すぎる。但し、芳香族の水素がアミノ基で置換されている芳香族アミノスルホン酸型の場合においては、アミノ基と基本層のプラス荷電相互の反発により、スルホン酸基と基本層の結合が弱められ、従って、染料とイオン交換されやすい。基本層との結合基がカルボキシル基であり、スルホン基ほど強くないアニオンが安息香酸イオン型であれば、より速やかな酸性染料とのイオン交換が起こるため好ましいことがわかった。
【0031】
前記式(1)のハイドロタルサイト類がポリウレタンの耐熱性および耐光性等に悪影響を及ぼさないためには、B-それ自体がポリウレタンに悪影響を与えないことが必要である。そのためには、B-がハロゲン含有イオンの場合は、好ましくない。芳香族を有するカルボン酸のイオンまたは、芳香族アミンスルホン酸イオンであれば、イオン交換性が良好であり、染色性が高いばかりでなく、染色後のポリウレタン中に残存する酸は殆ど無いか極めて少量であり、したがってポリウレタンへの影響は無視できる。
【0032】
前記式(1)のハイドロタルサイト類によるポリウレタン弾性繊維紡糸時の糸切れ抑制は、芳香族を有するカルボン酸のアニオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンであれば、親油性(酸型は水に難溶で親油性、アニオン型は水溶性)も持っていることにより、ハイドロタルサイト類の結晶表面の一部が酸で化学吸着されることにより撥水性を持つため、水分が除去された乾燥時のハイドロタルサイト類同士の固結防止や、粉砕時の微粒子化が容易となり、達成される。すなわち、乾燥後も、柔らかい状態であり、したがって通常の粉砕で容易に本来有するレベルまで微粒子化される。前記式(4)のハイドロタルサイト類は、乾燥時の一次粒子相互の接近があるため、固結化を十分に防止できない場合がある。
【0033】
以上の如く、本発明の芳香族基を有するカルボン酸のアニオンまたは、芳香族アミンスルホン酸イオンを有するハイドロタルサイト類は、従来技術の前記式(4)のハイドロタルサイト類の弱点を全て克服できる。
【0034】
本発明の、芳香族基とカルボン酸基を有するB-アニオンの具体的な例として、安息香酸イオン、4−プロピル安息香酸イオン、p−ターシャルブチル安息香酸イオン、p−ヒドロキシ安息香酸イオン、4−ヒドロキシ−3メトキシ安息香酸イオン、p−アセトアミド安息香酸イオン、4−メトキシ安息香酸イオン、p−アミノ安息香酸イオン、2―アミノ−4−メチル安息香酸イオン、β−ナフトエ酸イオン、4−アミノサルチル酸イオン、アニソール酸イオン、p−ヒドロキシフェニル酢酸イオン、m−アミノベンゼンスルホン酸イオン(メタニル酸イオン)およびp−アミノベンゼンスルホン酸イオン等を挙げることができる。
【0035】
ただし、芳香族基に直接OH基を有する、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸イオン、4−ヒドロキシ−3メトキシ安息香酸イオン等は、OH基が基本層に対して化学的な結合力を有するため、染料とのイオン交換能が低下する場合がある。したがって、カルボン酸基の他にOH基を有さないほうが、染料とのイオン交換が効果的であるためより好ましい。特に好ましくは、安息香酸イオンである。
【0036】
本発明では、上記ハイドロタルサイト類をポリウレタン重合体に0.1〜20重量%含有させることを特徴とする。この範囲であれば、繊維に悪影響を与えずに、効果を発現することができる。好ましくは1〜6重量%である。
【0037】
染色助剤としてポリウレタン弾性繊維にもちいる場合において具備すべき必要条件は、前述の如く優れた染色性だけでなく、ポリウレタン弾性繊維の製造における紡糸性が極めて重要であり、これが欠如すると安定的に紡糸することができない。この要求を満たすためにはアニオンの種類だけでなく、ハイドロタルサイト類結晶そのものの物性も極めて重要である。ハイドロタルサイト類の二次粒子径は最大径で5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下である。また、平均二次粒子径が2μm以下であれば好ましく、より好ましくは1μm以下である。且つBET比表面積が1〜30m2/gであれば好ましく、より好ましくは5〜20m2/gの範囲にあることである。
【0038】
さらに、本発明のハイドロタルサイト類は、ポリウレタン弾性繊維の紡糸性をさらに良くするために、前記の物性のほかに、高級脂肪酸またはそのアルカリ金属塩、リン酸エステル等のアニオン系界面活性剤およびカップリング剤(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)等の表面処理剤の少なくとも1種、好ましくはアニオン系界面活性剤で表面処理して用いることができる。ここで用いる表面処理剤量は、ハイドロタルサイト類に対して0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0039】
本発明で用いられるハイドロタルサイト類は、前記式(4)のハイドロタルサイト類を、更に芳香族基を有すカルボン酸イオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれたアニオンB-でイオン交換することによって好適に得ることができる。その一例を挙げれば、以下の方法で行うことができる。
【0040】
第一工程として、Mgおよび/またはZnとAlの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の水溶性塩の混合水溶液とアルカリ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物または炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、の水溶液をpHを6以上、好ましくは9以上で攪拌下に共沈させ、得られた沈殿を前述のアルカリ金属炭酸塩水溶液で洗浄、水洗し、CO3型ハイドロタルサイト類を製造する。第二工程として、CO3型ハイドロタルサイト類を水に分散後、オートクレーブにより100〜250℃、好ましくは120〜200℃で1時間以上、好ましくは10時間以上水熱処理を行う。第三工程として、硝酸、塩酸および過塩素酸のいずれか1種以上をCO3に対し当量以上、CO3型ハイドロタルサイトと反応させ、CO3をそれぞれNO3、ClまたはClO4に変換する。第四工程として、上記1価アニオンを安息香酸ナトリウム等の芳香族基を有しカルボン酸基を持つ化合物のアルカリ金属塩水溶液を当量以上、好ましくは1.6当量以上加えてイオン交換反応させる。その後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕および分級等の慣用の処理を適宜選択使用し、本発明の染色助剤を製造できる。
【0041】
別の製造方法として、第一工程において、アルカリとしてアルカリ金属炭酸塩の使用を省略し、Cl型、Br型、NO3型およびClO4型の1価無機アニオンのいずれかを合成し、これを水熱処理後、第三工程を省略して第四工程を行うことでも製造できる。さらに、表面処理を行う場合は、第二または第三または第四工程の終了後に行うことができる。
【0042】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン重合体に上記式(1)のハイドロタルサイト類を含有させて紡糸して得ることができる。ポリウレタン重合体は、高分子ジオールとジイソシアネートとが反応して得られたプレポリマーに、活性水素含有化合物を反応させる公知の方法で得られる。
【0043】
本発明に用いるポリウレタン重合体に用いられる高分子ジオールは、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールおよびポリエーテルジオール等を挙げることができる。好ましくは、ポリエーテルジオールであり、詳しくは、1種または2種以上の炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基がエーテル結合しているポリアルキレンエーテルジオールである。
【0044】
ポリアルキレンエーテルジオールは、1種または2種以上の炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基がエーテル結合している、数平均分子量が500〜6000の単一または共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、アルキレン基がブロック状またはランダム状にエーテル結合している、数平均分子量が500〜6000の共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。従来からポリウレタン弾性繊維の原料として広範に用いられている単一重合ポリアルキレンエーテルジオールであるPTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)に比較して、2種類以上のアルキレン基からなる共重合ポリアルキレンエーテルジオールを用いたポリウレタン弾性繊維の場合、共重合であり、ポリウレタン成分の65wt%〜85wt%を占めるジオール成分が非晶性であるため、ポリマー中に染料が浸透しやすく、本発明のハイドロタルサイトと染料との交換反応が効率的に進む為、一層色相良好な鮮やかな発色が得られる。
【0045】
さらに、共重合ジオールを用いた利点として、弾性機能がさらに改善され、その為、このポリウレタン弾性繊維は優れた弾性機能、即ち、高い破断伸度、伸長時の歪に対する小さな応力変動および伸長時の応力の小さなヒステリシス損失等を有する。従って、これを使用したパンティストッキングやアウターは、優れた弾性機能を有し、着用感にも優れ、審美性良好な繊維製品となる。共重合ポリアルキレンエーテルジオールの中でも、得られるポリウレタン弾性繊維の耐水性、耐光性、耐摩耗性および弾性機能等の観点から、ブチレン基、すなわちテトラメチレンエーテルユニットを含む共重合ポリアルキレンエーテルジオールが好ましく、更にはブチレン基、すなわちテトラメチレンエーテルユニットと2,2−ジメチルプロピレン基、すなわちネオペンチレンエーテルユニットとの組み合わせや、テトラメチレンエーテルユニットと2−メチルブチレン基との組み合わせが好ましい。
【0046】
テトラメチレン基以外のアルキレンエーテルユニットは、4モル%以上且つ85モル%以下含むことが好ましい。アルキレンエーテルユニットが4モル%未満では、スパンデックスの弾性機能改良効果が小さく、85モル%を越えると弾性繊維の強度または伸度の低下が大きい。本発明で使用されるポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量(Mn)は、500〜6000、好ましくは1000〜4000である。Mnが500より小さい場合、弾性回復性が低下し、6000より大きいと紡糸性が悪化する。
【0047】
本発明のポリウレタンに用いられるジイソシアネートとしては、分子内に2個のイソシアネート基を有す公知の脂肪族、脂環族もしくは芳香族の有機ジイソシアネートが挙げられる。具体的には、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートが例示され、好ましくは、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートである。また、有機ジイソシアネートとして、遊離のイソシアネート基に変換される封鎖されたイソシアネート基を有する化合物を使用してもよい。
【0048】
本発明のポリウレタンに用いられるイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物としては、ポリウレタンにおける常用の鎖伸長剤、即ち、イソシアネートと反応し得る水素原子を少なくとも2個含有する分子量500以下の低分子化合物を用いることが出来る。この具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ヒドラジン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、ジヒドラジド、ピペラジン等のジアミン類、及び特開平5−155841号公報で開示されたジアミン化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類等が挙げられ、好ましくはエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、及び特開平5−155841号公報で開示されたジアミン化合物類が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いても良い。また場合により、イソシアネートと反応し得る活性水素を1個含有する化合物と併用しても良い。
【0049】
ジイソシアネート、高分子ジオール及び活性水素含有化合物を用いてポリウレタンを製造する方法に関しては、公知のウレタン化反応の技術を採用することが出来る。また、本発明で用いられる各種化合物の化学量論的割合は、高分子ジオールの水酸基と活性水素含有化合物の活性水素の総和が、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基に対して1.00以上1.07当量未満が好ましい。
【0050】
本発明のポリウレタン弾性繊維を構成するポリウレタン重合体の比粘度(ηsp/c)は、1.1〜3.5dl/gが好ましい。この範囲とすることにより、弾性回復性に優れた弾性繊維となる。尚、ここで比粘度(ηsp/c)とは、N,N’−ジメチルアセトアミド溶媒中における(η/η0−1)/Cで計算した値である。(但し、Cはポリマー0.5g/DMAC99.5gの溶液粘度(0.5wt%)であり、ηはオストワルド粘度計による希薄溶液中の落下秒数であり、η0は同上粘度計によるDMACのみの落下秒数である。)
【0051】
この様にして得られるポリウレタン重合体に、更に、ポリウレタン重合体に有用な公知の有機化合物又は無機化合物の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、黄変防止剤、熱変色防止剤および耐プール用殺菌塩素剤等を添加しても良い。
【0052】
この様にして得られたポリウレタン重合体組成物は、従来公知の乾式紡糸法、湿式紡糸法および溶融紡糸法のいずれかで繊維状に成形し得る。好ましくは、耐熱性および耐久性の観点から乾式紡糸で得られるポリウレタン弾性繊維である。
【0053】
本発明のハイドロタルサイトは、乾式紡糸の場合は、本発明のハイドロタルサイトを含むポリウレタン重合体組成物が高温にさらされる時間が通常1秒以内と短時間であるので有機物からなるB-イオンも比較的安定で有り効果を発揮しやすい。溶融紡糸の場合は長期間高温状態に置かれるために、場合によって一部B-イオンが変質し、染色効果が十分でない場合がある。溶剤を用いて乾式紡糸されたポリウレタン弾性繊維の場合に特に効果を発揮する。
【0054】
この際、更に、公知のポリウレタン弾性繊維用油剤を紡糸時に外部よりオイリング装置を用いて、油剤として付着させてもよい。ここで用いられる油剤成分は、エーテル変性シリコーンの他に、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリアミノ変性シリコーン、ポリオルガノシロキサン、鉱物油、タルク、シリカ、コロイダルアルミナ等の鉱物性微粒子、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩粉末、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィンポリエチレン等の常温で固体のワックスなど種々のものを組み合わせて使用して良い。
【0055】
この様にして得られたポリウレタン弾性繊維は、実用上は、そのまま裸糸として使用しても良く、また他の繊維、例えば、ポリアミド繊維、ウール、綿、再生繊維、ポリエステル繊維など、従来公知の繊維で被覆して被覆弾性繊維として使用することもできる。特に、ナイロン、エステル、アクリル、天然繊維およびセルロース誘導体からなる群から選ばれた繊維素材と組み合わせて用いることが好ましい。
【0056】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、タイツ、パンティストッキングの用途に、好適であるが、これに限定されることなく、ファウンデーション、靴下留め、口ゴム、コルセット、外科用の包帯、織物及び編物の水着等にも用いる事ができる。特に、インナー、アウター、レッグ、スポーツウェヤー、ジーンズ、水着および衛生材からなる群から選ばれた用途に好ましく用いられる。
【0057】
本発明のポリウレタン弾性繊維を染色する場合は、通常の合成繊維、天然繊維の染色法と同じ方法を用いてよい。すなわち、浸染法、パッドスチーム法、パッドサーモフィックス法、捺染法およびスプレー法等の染色法を適用できる。染色機としては、液流染色機、ウィンス染色機およびエアーフロー染色機等の通常の染色機を用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0059】
各種評価は以下の方法にて行った。
(1)ハイドロタルサイト類の(003)面の面間隔距離の測定
粉末を広角X線回折法で測定した2θの最強ピークを用いて算出した。
(参考文献、Phy Chem Minerals、14.377.(1987))
(2)平均二次粒子径、最大二次粒子径の測定
粉末をエタノールに入れて、超音波で5分間処理した後、エタノール溶媒中での粒度分布をレーザー回折法で測定した。
【0060】
(3)BET値の測定
窒素吸着法で測定した。
(4)紡糸安定性の評価
以下の実施例記載の方法に準じて製造した各種添加剤を含んだ紡糸原液を、実施例記載の方法にて約10時間紡糸してその糸切れ回数(回/時間)を測定した。回数が少ないほど生産性が安定しているといえる。
【0061】
(5)ポリウレタン弾性繊維の染色性評価
染色評価には2ウェイトリコット編地を用いた。すなわち、フロント筬に33dt/10fのナイロン繊維、ミドル筬とバック筬に44dtの本実施例または比較例のポリウレタン弾性繊維を用い、フロント筬の組織を10/23、ミドル筬の組織を10/01、バック筬の組織を12/10とした2ウェイトリコット編地を編成した。この生地のポリウレタン弾性繊維の混率は35%であり、拡布状態で連続精練機に投入した。この際、連続精練機は4つの液槽があるものを使用し、20℃、50℃、70℃、90℃と、反物が順次通過する際の温度を変えて、かつ、各液槽には、すべて精練剤(花王(株)製 スコアロールFC−250)2g/Lを投入した。連続精練機を通過した反物は、水洗浴の通過後、マングルにて脱水しピンテンターにて190℃で45秒間プレセットを行った。
【0062】
ついで、液流染色機に投入し、精練もかねて液中で精練剤(花王(株)製 スコアロールFC−250)2g/Lを投入し、70℃で20分間酸性浴で精練を行った。排液、すすぎ、再注水し、pH4に調整した黒色の酸性染料を投入し、95℃で60分間染色した。
【0063】
その後、すすぎを行い、フィックス処理(天然タンニンS 6%owf、吐酒石L 3%owf 80℃/40分間処理)後、反物を染色機から取り出し、柔軟樹脂加工、更にピンテンターにて170℃で仕上げセットを行った。
【0064】
黒色に染めた際の染色性のレベル判定基準を以下とした。
5級 濃黒、
4級 黒、
3級 淡黒、
2級 灰色、
1級 薄灰色
【0065】
(6)生地の染色堅牢度
JIS L0844変退色により評価を行った。
その際の使用洗剤は、花王(株)製 洗剤商品名「アタック」2g/L、洗濯液温度50℃および80℃の2条件で各30分間洗濯後、30分間流水すすぎした後脱水し、室温(20℃、65%RH)にて、24時間乾燥後の色相の変化を測定した。
色相の変化(Δ級)=生地の洗濯前の級−生地の洗濯後の級
洗濯前の級数が大きく、且つ、Δ級の数値が小さいほど、色変化が少なく染色性と堅牢性が良好であるといえる。
【0066】
(実施例1)
[染色助剤ハイドロタルサイト(B-:安息香酸アニオン)の合成]
特開2000−119510号公報の[実施例1―A]に従って合成したNO3型ハイドロタルサイト類をろ過、水洗した後、表面処理を行わずに、乾燥すること無く再び約4リットルの水に攪拌機により均一に分散させ約70℃に加熱した。これに3.92モルの安息香酸ナトリウムを溶解した約2リットルの水溶液(約70℃)を攪拌下に加え約30分間反応させた。この後、ろ過し、約2リットルの温水(約60℃)で水洗し、約40℃に加熱して、撹拌下に、2gのステアリン酸ソーダを溶解した約100gの水溶液(約40℃)を添加して表面処理をした。この後ろ過、水洗し、120℃で10時間乾燥し、アトマイザーで粉砕した。この物のX線回析はd003=15.8Åにシフト拡大しており、NO3型の回析は完全に消失していた。化学分析と熱分析により求めた組成は次の通りである。
Mg0.68Al0.32(OH)2(C65COO)0.32・0.54H2
液体窒素吸着法で測定したBET比表面積は14m2/g、イソプロピルアルコール溶媒中、超音波で5分間処理した後、レーザー回析法で測定した粒度分布は平均二次粒子径=0.42μm、最大二次粒子径=0.92μmであった。
【0067】
[ポリウレタンの重合及びポリウレタン弾性繊維の製造]
単一重合ジオールである数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルジオール400gと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート91.7gとを乾燥窒素雰囲気下、80℃で3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温に冷却した後、ジメチルアセトアミド720gを加えて溶解し、ポリウレタンプレポリマー溶液を調整した。一方、エチレンジアミン8.11g及びジエチルアミン1.37gをジメチルアセトアミド390gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温下で添加して、粘度4000ポイズ(30℃)のポリウレタン溶液を得た。
【0068】
次に、ポリウレタン固形分に対して、1質量%の4,4’−プチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、0.5質量%の2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−プチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール、および3質量%の上記ハイドロタルサイトをジメチルアセトアミド溶剤130gに添加し、均一に溶解および高速撹拌により均一に分散した液を、得られたポリウレタン溶液に加えて攪拌し、均一な紡糸用原液を得た。
【0069】
このようにして得られた紡糸用原液を脱泡した後、16個の紡糸口金(各々の口金は4個の細孔を有す)の細孔から熱風中に押しだして溶剤を蒸発させた。乾燥された糸条をリング仮撚り機を通過する過程で仮撚りし、ゴッデトローラを経てオイリングローラ上でジメチルシリコンを主成分とする油剤を付与し、毎分600m/分の速度で紙管に巻き取り、44dt/4フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表1に記載した。
【0070】
(実施例2および3)
染色助剤の合成において、安息香酸ナトリウムの代わりに、p−アミノ安息香酸ナトリウムおよびβナフトエ酸ナトリウムを用いたことを除いて、実施例1と同様に染色助剤を合成した。得られた染色助剤を用いて、実施例1と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表1に記載した。
【0071】
(比較例1)
染色助剤のハイドロタルサイトを添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表1に記載した。
【0072】
(比較例2)
染色助剤として、実施例1で合成したNO3型ハイドロタルサイトをそのまま用いたことを除いて、実施例1と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表1に記載した。
【表1】

【0073】
(実施例4)
[ポリウレタンの重合及びポリウレタン弾性繊維の製造]
ジオール原料に共重合ジオールである数平均分子量1800の共重合ポリ(テトラメチレン・ネオペンチレン)エーテルジオール(ネオペンチレンの共重合率11モル%)を用いたことを除いて、実施例1と同様な方法でポリウレタン溶液を得た。得られたポリウレタン溶液の粘度は3200ポイズ(30℃)であった。
【0074】
このポリウレタン溶液を用いたことを除いて、実施例1と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表2に記載した。
【0075】
(実施例5)
染色助剤の合成において、安息香酸ナトリウムの代わりに、m−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム(メタニル酸ナトリウム)を用いたことを除いて、実施例1と同様に染色助剤を合成した。得られた染色助剤を用いて、実施例4と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表2に記載した。
【0076】
(比較例3)
染色助剤のハイドロタルサイトを添加しなかったことを除いて、実施例4と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表1に記載した。
【0077】
(比較例4)
染色助剤として、実施例1でNO3型ハイドロタルサイトを合成する際に用いた市販のハイドロタルサイト(商品名DHT−4)(BET=12m2/g、平均二次粒径0.76μm、最大二次粒径1.81μm、化学組成Mg0.67Al0.33(OH)2(CO30.165・0.50H2O)を用いたことを除いて、実施例4と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表2に記載した。
【0078】
(比較例5)
染色助剤として、実施例1で合成したNO3型ハイドロタルサイトをそのまま用いたことを除いて、実施例4と同様にポリウレタン弾性繊維を紡糸し、その評価を行なった。得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を表2に記載した。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、裸糸または他の繊維(ポリアミド繊維、ウール、綿、再生繊維およびポリエステル繊維など)で被覆して被覆弾性繊維として使用することができる。特に、タイツおよびパンティストッキングの用途に好適であるが、これに限定されることなく、ファウンデーション、靴下留め、口ゴム、コルセット、外科用の包帯および織物または編物の水着等にも用いる事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン重合体および該ポリウレタン重合体に対して0.1〜20質量%の下記式(1)で表されるハイドロタルサイト類からなるポリウレタン弾性繊維。
2+1-xAlx(OH)2-x・mH2O (1)
(但し、式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種であり、B-は芳香族基を有するカルボン酸のイオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれた少なくとも1つであり、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数である。0<x<0.5、0≦m<5)
【請求項2】
式(1)中のB-が下記式(2)または式(3)で示される芳香族基を有するカルボン酸のイオンである請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【化1】

【化2】

(但し、上記(2)および(3)式中、nは1〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素原子数が1〜5のアルキル基、アセトアミド基、アミノ基、炭素原子数が1〜5のアルキルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキレン基、ヒドロキシアルキレンオキシ基およびアセチル基からなる群から選ばれた基であり(但しn=2〜3の場合、R1は同一でも異なっていてもよい)、R2は−COOイオンまたは−(CH2)l−COOイオンである(但し、lは1〜3の整数である)。)
【請求項3】
式(1)中のB-が安息香酸イオンである請求項2に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
式(1)中のB-がp−アミノ安息香酸イオンである請求項2に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
式(1)中のB-がメタニル酸イオンである請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項6】
式(1)中のxの範囲が0.2≦x≦0.4である請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項7】
ハイドロタルサイト類の層間距離d003が、X線回折法での測定値で13Å≦d003≦25Åである請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項8】
ハイドロタルサイト類が、平均二次粒子径が2μm以下で且つ、BET比表面積が5〜20m2/gである請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項9】
ハイドロタルサイト類が、ハイドロタルサイト基準で0.1〜10質量%の高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩およびリン酸エステルの群から選ばれたアニオン系界面活性剤またはシラン系、チタネート系およびアルミニウム系の群から選ばれたカップリング剤の少なくとも一種で表面処理されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項10】
ポリウレタン重合体を構成する高分子ジオール成分が、1種または2種以上の炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基がエーテル結合している、数平均分子量が500〜6000の単一重合または共重合ポリアルキレンエーテルジオールである請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリウレタン弾性繊維とナイロン、エステル、アクリル、天然繊維およびセルロース誘導体からなる群から選ばれた繊維素材とからなる繊維製品。
【請求項12】
インナー、アウター、レッグ、スポーツウェヤー、ジーンズ、水着および衛生材からなる群から選ばれた用途に用いられる請求項11に記載の繊維製品。
【請求項13】
下記式(1)で表されるハイドロタルサイト類からなるポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
2+1-xAlx(OH)2-x・mH2O (1)
(但し、式中、M2+はMgおよびZnの2価金属の少なくとも1種であり、B-は芳香族基を有するカルボン酸のイオンまたは芳香族アミンスルホン酸イオンから選ばれた少なくとも1つであり、xおよびmはそれぞれ次の範囲を満足する数である。0<x<0.5、0≦m<5)
【請求項14】
式(1)中のB-が下記式(2)または式(3)で示される芳香族基を有するカルボン酸のイオンである請求項13に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
【化3】

【化4】

(但し、上記(2)および(3)式中、nは1〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素原子数が1〜5のアルキル基、アセトアミド基、アミノ基、炭素原子数が1〜5のアルキルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキレン基、ヒドロキシアルキレンオキシ基およびアセチル基からなる群から選ばれた基であり(但しn=2〜3の場合、R1は同一でも異なっていてもよい)、R2は−COOイオンまたは−(CH2)l−COOイオンである(但し、lは1〜3の整数である)。)
【請求項15】
式(1)中のB-が安息香酸イオンである請求項14に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
【請求項16】
式(1)中のB-がp−アミノ安息香酸イオンである請求項14に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。
【請求項17】
式(1)中のB-がメタニル酸イオンである請求項13に記載のポリウレタン弾性繊維用染色助剤。

【公開番号】特開2007−303025(P2007−303025A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132724(P2006−132724)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】