説明

ポリウレタン樹脂水性分散体

【課題】 重金属イオンを含む水溶液が添加されても粒子が凝集せず、分散体の粘度が安定で、ハンドリング性が良好な、耐金属イオン性に優れるポリウレタン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 ポリウレタン樹脂の分子主鎖中に下記一般式(1)で示されるカチオン基を有し、且つガラス転移温度が30〜110℃であるポリウレタン樹脂(A)、芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)および水性媒体からなるポリウレタン樹脂水性分散体である。
【化3】


式中、RおよびRは炭素数1〜12のアルキレン基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基であり、RおよびRのうち少なくとも1個は炭化水素基であり、X-は炭素数1〜8のアルキル硫酸アニオン、炭素数1〜8のカルボン酸アニオン、無機酸アニオンまたはハロゲンアニオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水性分散体、詳しくは4級アンモニウム塩基または3級アミノ基中和塩基を有するカチオン性ポリウレタン樹脂の水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から各種のカチオン性ポリウレタン樹脂の水性分散体が提案されている。
例えば、鋼板用の前処理樹脂として使用して電着塗膜を平滑にできるものとして、特許文献−1には4級アンモニウム塩基または3級アミノ基中和塩基を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂水性分散体が開示されている。
また、特許文献−2には、アルキル硫酸を使用せずにアルキレンオキサイドを使用してカチオン化されたカチオン性ポリウレタン樹脂水性分散体を製造する方法が開示されている。
【特許文献−1】特開平6−329981号公報
【特許文献−2】特開平5−320331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらのポリウレタン樹脂水性分散体は、重金属イオンを含む水溶液が添加されると粒子が凝集したり、分散体の粘度が増加し、ハンドリング性が低下する等、耐金属イオン性において十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、ポリウレタン樹脂の分子主鎖中に下記一般式(1)で示されるカチオン基を有し、且つガラス転移温度が30〜110℃であるポリウレタン樹脂(A)、芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)および水性媒体からなるポリウレタン樹脂水性分散体(U);該水性分散体を含む水性塗料である。
【0005】
【化2】

【0006】
式中、RおよびRは炭素数1〜12のアルキレン基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基であり、RおよびRのうち少なくとも1個は炭化水素基であり、X-は炭素数1〜8のアルキル硫酸アニオン、炭素数1〜8のカルボン酸アニオン、無機酸アニオンまたはハロゲンアニオンである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、重金属イオンを含む水溶液がポリウレタン樹脂水性分散体添加された場合であっても、粒子の凝集がしにくく、平均粒子径の安定性、分散安定性および粘度の安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)[以下、単に(U)と表記する場合がある]を構成するポリウレタン樹脂(A)[以下、単に(A)と表記する場合がある]がその主鎖中に有する一般式(1)で示されるカチオン基において、RおよびRは炭素数1〜12のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびドデシレン基などが挙げられる。
これらのうちで好ましいのは、乳化安定性の観点からメチレン基およびエチレン基、特にエチレン基である。
なお、「ポリウレタン樹脂(U)の主鎖中に有する」とは、後述の高分子ポリオール(b)や有機ポリイソシアネート(a)などから構成される主鎖の中に組み込まれていることを意味し、ペンダント状に結合しているものではないことを意味する。
【0009】
およびRは水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基であり、炭化水素基としては、例えば脂肪族炭化水素基[アルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルおよびドデシル基など)およびアルケニル基(アリル、メタリル、プロペニルおよびオクテニル基など)]並びに芳香環含有炭化水素基[ベンジル基]などが挙げられ、乳化安定性の観点から好ましいのはメチル基、エチル基およびベンジル基、特にメチル基である。
また、RまたはRのうち少なくとも1個は炭化水素基であり、RおよびRのいずれもが炭化水素基である場合は一般式(1)で示される基は4級アンモニウム塩基であり、RまたはRのうちのいずれか1個のみが炭化水素基で1個が水素原子である場合は一般式(1)で示される基は3級アミノ基を酸で中和した中和塩基となる。
一般式(1)で表される基のうち、耐水性、耐アルカリ性および耐薬品性の観点から好ましいのは4級アンモニウム塩基である。
【0010】
-は炭素数1〜8のアルキル硫酸アニオン(メチル硫酸およびエチル硫酸アニオンなど)、炭素数1〜8のカルボン酸アニオン(ギ酸、酢酸および乳酸アニオンなど)、無機酸アニオン(リン酸、硝酸および硫酸アニオンなど)およびハロゲンアニオン(クロルアニオンおよびブロムアニオンなど)が挙げられ、好ましいのは、乳化安定性の観点からアルキル硫酸アニオン、カルボン酸アニオンおよび無機酸アニオン、特にメチル硫酸アニオン、エチル硫酸アニオンおよびリン酸アニオンである。
【0011】
(A)の重量に基づく一般式(1)で示されるカチオン基の含有量は、好ましくは0.1〜2ミリ当量/g、さらに好ましくは0.2〜1.5ミリ当量/g、特に好ましくは0.3〜1ミリ当量/gである。カチオン性基が0.1ミリ当量/g以上であれば、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましく、2ミリ当量/g以下であれば重金属イオン水溶液添加時の水性分散体の粘度安定性の観点から好ましい。
カチオン基の含有量は、以下の式にしたがって、後述の、第4級アンモニウム塩基もしくはプロトン化された第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d1)または第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d2)の仕込量を設定することにより好ましい範囲内とすることができる。
カチオン基含有量(ミリ当量/g)=[(d1)または(d2)の仕込重量(g)/(d1)または(d2)の分子量]×1000/[ポリウレタン樹脂エマルションの製造に使用される溶剤と水性媒体以外の仕込重量(g)]
【0012】
本発明における(A)のガラス転移温度(以下、Tgと略記する)は通常30〜110℃、好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜90℃である。
Tgが30℃未満であると、乾燥後のフィルムの耐水性が劣り、Tgが110℃を超えると造膜性が不十分になる。
(A)のTgは、使用される原料の種類と使用量によって決まるが、例えば、Tgを高めにするには、(A)の原料成分のうち、例えば(i)ビスフェノールAのような芳香族骨格を高濃度含有する構造のポリオールを高分子ポリオール(b)のうちの50重量%以上使用すること、および(ii)ウレタン樹脂中のウレタン基濃度が高くなるように、数平均分子量が300〜1,000程度の比較的低分子量のポリオールを高分子ポリオール(b)のうちの50重量%以上使用すること等により可能である。
Tgは以下の方法で測定することができる。
測定試料の作製:
ポリウレタン樹脂水性分散体10部、N−メチルピロリドン4部を均一混合し、10cm×20cm×0.1cmのポリプロピレン製モールドに、水分蒸発後のフィルム膜厚が200μmになるような量を流し込み、室温で一晩、循風乾燥器で105℃で3時間加熱乾燥した後、0.5cm×3cmの短冊状に裁断したものを測定フィルムとする。
Tgの測定:
得られたフィルムを試料として、動的粘弾性測定を行い、得られた複素弾性率の実数部(貯蔵弾性率)に対する虚数部(損失弾性率)の比(tanδ)を求め、このtanδが最大となる温度をTgとする。
動的粘弾性測定装置はRheogel−E4000(ユービーエム社製)を使用し、測定周波数1Hz、昇温速度2℃/分、−100℃から200℃の温度範囲で複素弾性率の測定を行う。
【0013】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)は、芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)[以下、単に(B)と表記する場合がある]を含有する。(B)としては、1分子中に1個のフェニル基を有するノニオン性界面活性剤(B1)、1分子中に2個以上のフェニル基を有するノニオン性界面活性剤(B2)[以下、単に(B2)と表記する場合がある]、および1分子中に1個以上のナフチル基を有するノニオン性界面活性剤(B3)[以下、単に(B3)と表記する場合がある]などが挙げられる。
【0014】
(B1)としては、アルキル(炭素数1〜18)フェノールのエチレンオキサイド(以下、EOと略記)および/またはプロピレンオキサイド(以下、POと略記)付加物(例えばオクチルフェノールEO付加物、ノニルフェノールEO付加物など)、ベンジルアルコールもしくはアルキル(炭素数1〜18)ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、およびベンジルアミンもしくはアルキル(炭素数1〜18)ベンジルアミンのEOおよび/またはPO付加物などが挙げられる。
(B1)におけるEOおよびPOの付加モル数は、それぞれ、通常1モルから100モル、乾燥後の被膜の耐水性および重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは2モル〜90モル、さらに好ましくは5モル〜70モルである。
また(B1)のHLBは、通常8〜14、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは8.5〜13.5、さらに好ましくは9〜13である。
なお、本発明におけるHLBは、有機化合物の有機性・無機性の概念[「新界面活性剤入門」藤本武彦著、三洋化成工業発行、p197−201]から計算されるHLBである。
【0015】
(B2)としては、フェニル基が2個のもの(B21)、フェニル基が3〜12個のもの(B22)およびフェニル基が13個以上のもの(B23)が含まれる。
【0016】
(B21)としては、クミルフェノールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(1モル)化フェノールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(1モル)化アルキル(炭素数1〜18)フェノールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(1モル)化ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(1モル)化アルキル(炭素数1〜18)ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(1モル)化フェノールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(1モル)化アルキル(炭素数1〜18)フェノールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(1モル)化ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、並びに、ベンジル(1モル)化アルキル(炭素数1〜18)ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物などが挙げられる。
(B21)におけるEOおよび/またはPOの付加モル数は、通常1モルから100モル、乾燥後の被膜の耐水性および重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは2モル〜80モル、さらに好ましくは3モル〜70モルである。
また(B21)のHLBは、通常8〜14、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは8.5〜13.5、さらに好ましくは9〜13である。
【0017】
(B22)としては、スチレン(1〜10モル)化クミルフェノールのEOおよび/またはPO付加物[スチレン(7モル)化クミルフェノールのEO(25モル)付加物、スチレン(5モル)化クミルフェノールのEO(17モル)付加物、およびスチレン(3モル)化クミルフェノールのEO(12モル)付加物など]、スチレン(2〜11モル)化フェノールのEOおよび/またはPO付加物[スチレン(7モル)化フェノールのEO(22モル)付加物、スチレン(5モル)化フェノールのEO(15モル)付加物、およびスチレン(3モル)化フェノールのEO(10モル)付加物など]、スチレン(2〜11モル)化アルキル(炭素数1〜18)フェノールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(2〜11モル)化ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、スチレン(2〜11モル)化アルキル(炭素数1〜18)ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(2〜11モル)化フェノールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(2〜11モル)化アルキル(炭素数1〜18)フェノールのEOおよび/またはPO付加物、ベンジル(2〜11モル)化ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物、並びに、ベンジル(2〜11モル)化アルキル(炭素数1〜18)ベンジルアルコールのEOおよび/またはPO付加物などが挙げられる。
(B22)におけるEOおよび/またはPOの付加モル数は、通常1モルから100モル、乾燥後の被膜の耐水性および重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは2モル〜80モル、さらに好ましくは3モル〜70モルである。
また(B22)のHLBは、通常8〜14、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは8.5〜13.5、さらに好ましくは9〜13である。
【0018】
(B23)としては、スチレン(11モル以上)化クミルフェノールのEOおよび/またはPO付加物の他に、前記の(B22)におけるスチレン化物およびベンジル化物においてそれらのモル数が12以上のものなどが挙げられる。
【0019】
(B3)としては、ナフトールのEOおよび/またはPO付加物、およびアルキル(炭素数1〜18)ナフトールのEOおよび/またはPO付加物などが挙げられる。
(B3)におけるEOおよび/またはPOの付加モル数は、通常1モルから100モル、乾燥後のフィルムの耐水性および重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは2モル〜90モル、さらに好ましくは5モル〜70モルである。
また(B3)のHLBは、通常7〜14、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは7.5〜13.5、さらに好ましくは8〜13である。
【0020】
(B)のうち、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から、好ましいのは1分子中に2個以上のフェニル基を有するノニオン性界面活性剤(B2)、さらに好ましいのはフェニル基が2個のもの(B21)およびフェニル基が3〜12個のもの(B22)であり、特に好ましいのは(B22)である。
【0021】
本発明の(U)における、(B)の含有量は、(U)中の(A)の重量に対し、下限は、通常0.01重量%(以下、%は重量%を表す)、重金属イオン水溶液添加時の粘度安定性の観点から好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.3%、特に1%であり、上限は、通常40%、重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましくは20%、さらに好ましくは10%、特に8%である。
本発明の(U)における、(B)の添加は、後述のカチオン性基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A0)[以下において、単にプレポリマー(A0)または(A0)と表記する場合がある]の水性分散体を製造する工程での水性媒体への添加、鎖伸長反応工程での添加、または鎖伸長反応させてポリウレタン樹脂(A)の水性分散体を製造した後での添加など、(B)がイソシアネート基と実質的に反応しない工程であればいずれの工程でもよい。重金属イオン水溶液添加時の粒子の安定性の観点から好ましいのは(A)の水性分散体を製造した後での添加である。
【0022】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)におけるポリウレタン樹脂(A)の製造方法としては、以下の2種が挙げられる。
(1)有機ポリイソシアネート(a)、数平均分子量300〜4,000の高分子ポリオール(b)、3個以上の活性水素原子を有する数平均分子量300未満の低分子化合物(c)、並びに第4級アンモニウム塩基もしくはプロトン化された第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d1)とを反応させて得られるカチオン性基含有イソシアネート基末端プレポリマー(A0)を、水性媒体に分散させた後、鎖伸長反応させて得る。
(2)有機ポリイソシアネート(a)、数平均分子量300以上の高分子ポリオール(b)、3個以上の活性水素を有する数平均分子量300未満の低分子化合物(c)、並びに第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d2)とを反応させた後、4級化剤で4級化または酸で中和して、カチオン性基含有イソシアネート基末端プレポリマー(A0)に変換し、さらに(A0)を水性媒体に分散させた後、鎖伸長反応させて得る。
なお、鎖伸長反応における水性媒体中には必要により水以外の鎖伸長剤(f)を含んでいてもよい。
また、鎖伸長反応は、さらに架橋剤(x)および/または停止剤(e)を含んだ水性媒体中で行ってもよく、イソシアネート基が実質的に無くなるまで鎖伸長、架橋および/または停止反応を行う。
また、(A0)を形成する反応は一段または多段反応で進行させることができる。
【0023】
本発明における有機ポリイソシアネート(a)としては、従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用でき、例えば、炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート[
1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、4,4’−および/または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)など];炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート[エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)など];炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート[イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)など]
;炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート[m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)など];これらのポリイソシアネートの変性物;およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
これらのうちで好ましいのは脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネート、さらに好ましいのは脂環式ポリイソシアネート、特に好ましいのはIPDIおよび水添MDIである。
【0024】
(b)としては、数平均分子量(以下、Mnと略記する)が300〜4,000、好ましくは300〜1,900であり、特に好ましくは150以上の水酸基当量(水酸基当りのMn)を有する2〜8価またはそれ以上の高分子ポリオールおよびこれらの2種以上の併用が含まれる。〔上記および以下においてMnはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される数平均分子量を表わす。〕
(b)には、ポリエーテルポリオール(b1)、ポリエステルポリオール(b2)、ポリオレフィンポリール(b3)および重合体ポリオール(b4)が含まれる。
【0025】
(b1)としては、活性水素原子含有化合物のAO付加物が挙げられる。
【0026】
(b1)の製造に用いる活性水素原子含有化合物(k)には、2〜8個またはそれ以上の活性水素原子を有する化合物が挙げられる。(k)としては、水酸基を含む化合物(k1)、アミノ基を含む化合物(k2)、メルカプト基を含む化合物(k3)およびカルボキシル基を含む化合物(k4)が挙げられる。
【0027】
水酸基を含む化合物(k1)としては、多価アルコール(k11)および多価フェノール(k12)が挙げられる。
(k11)のうち、2価アルコールとしては、例えばC2〜18の脂肪族2価アルコール
[(ジ)エチレングリコール、(ジ)プロピレングリコール、1,2−,1,3−,2,3−および1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジ オール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールおよび1,12−ドデカンジオール]、C4〜12の脂環式2価アルコール( 特公昭45−1474号公報記載のものなど)およびC6〜18の芳香族2価アルコール[ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンおよびビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン等]が含まれる。
(k11)のうち3〜8価またはそれ以上の多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール,ソルビトール,キシリトールおよびマンニトールなど、これらの分子間または分子内脱水物(ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビタンなど)、並びに糖類(グルコース、フルクトース 、ショ糖など)およびその誘導体(グリコシド、たとえばα−メチルグルコシド)が含まれる。
【0028】
多価フェノール(k12)としては、単環多価フェノール(ピロガロール、カテコールおよびヒドロキノン)およびビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSなど)が挙げられる。
【0029】
アミノ基を含む化合物(k2)としては、モノアミン[アンモニア、1級モノアミン(ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ベンジルアミン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなど)および2級モノアミン(ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン等)]およびポリアミン[脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)、ポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン等)、脂環式ポリアミン(ジシクロヘキシルメタンジアミンおよびイソホロンジアミンなど)、芳香脂肪族ポリアミン(キシリレンジアミンなど)、
芳香族ポリアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジフェニルエーテルジアミン、ポリフェニルメタンポリアミンなど)および複素環式ポリアミン(ピペラジン、N−アミノエチルピペラジンおよびその他特公昭55−210 44号公報記載の化合物)]が挙げられる。
【0030】
メルカプト基を含む化合物 (k3)としては、上記多価アルコール(k11)に相当する(OHの少なくとも一部がSHに置換わった)ポリチオール、グリシジル基含有化合物と硫化水素との反応で得られるポリチオールなどが挙げられる。
【0031】
カルボキシル基を含む化合物(k4)としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸 、フマル酸、マレイン酸など)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など)および3価またはそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)が使用できる。
【0032】
(b1)の製造に用いるAOとしては、C2〜12またはそれ以上のAO、例えばEO、PO、1,2−、2,3−および1,3−ブチレンオキサイド、 テトラヒドロフラン(THF)、α−オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド、エピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)、およびこれらの2種以上の併用(ランダムおよび/またはブロック)が挙げられる。
【0033】
活性水素原子含有化合物へのAOの付加は、通常の方法で行うことができ、 無触媒で
または触媒(たとえばアルカリ触媒、アミン系触媒、酸性触媒)の存在下(とくにAO付加の後半の段階で)に常圧または加圧下に1段階または多段階で行なうことができる。例えば加圧反応器に、活性水素原子含有化合物および触媒を仕込み、AOを圧入する方法が挙げられる。触媒としては、アルカリ触媒、たとえばアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなど)の水酸化物;酸[過ハロゲン酸(過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸)、硫酸、燐酸、硝酸など、好ましくは過塩素酸]およびそれらの塩[好ましくは 2価または3価の金属(Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Al)
の塩]が挙げられる。反応温度は通常50〜150℃、反応時間は通常2〜20時間である。
2種以上のAOを併用する場合はブロック付加(チップ型、バランス型、活性セカンダリー型など)でもランダム付加でも両者の混合系〔ランダム付加後にチップしたもの:分子中に任意に分布されたエチレンオキシド鎖を0〜50 重量%(好ましくは5〜40重
量%)有し、0〜30重量%(好ましくは5〜25重量%)のEO鎖が分子末端にチップされたもの〕でもよい。AOのうちで好ましいものはEO単独、PO単独、THF単独、POおよびEOの併用、POおよび/またはEOとTHFの併用(併用の場合、ランダム、ブロックお よび両者の混合系)である。
AOの付加モル数は、活性水素原子1個当たり通常1〜140、好ましくは1〜110、特に好ましくは1〜90である。付加モル数が140を超えると 得られるポリウレタ
ン樹脂が軟らかくなり、強度が低下する。
AO付加反応終了後は、必要により触媒を中和し吸着剤で処理して触媒を除去・精製することができる。
【0034】
(b1)としては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)など]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコール(以下PPGと略記)など]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ビスフェノール類のEOおよび/またはPO付加物が挙げられる。
(b1)としては、不飽和度が少ない(0.1ミル当量/g以下、好ましくは0.05ミル当量/g以下とくに0.02ミリ当量/g以下)ものが望ましく、また少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%とくに少なくとも70%の第1級水酸基含有率を有するものが望ましい。
【0035】
(b1)のうちで好ましいのは、生成した被膜の耐水性、耐アルカリ性および耐薬品性の観点から、ビスフェノール骨格含有のポリエーテルポリオール(b11)、特にビスフェノール類のEOおよび/またはPO付加物である。
【0036】
ポリエステルポリオール(b2)には、縮合型ポリエステル(b21)、ポリラクトンポリオール(b22)、ポリカーボネートポリオール(b23)およびヒマシ油系ポリオール(b24)が含まれる。
【0037】
(b21)にはポリオールとカルボキシル基を含む化合物(k4)との重縮合物、(b22)にはポリオールへのラクトン(h1)の重付加物、(b23)にはポリオールへのアルキレンカーボネート(h2)の重付加物、(b24)にはヒマシ油およびポリオールもしくはAOで変性されたヒマシ油が含まれる。
【0038】
これらを構成するポリオールとしては前述の2〜8価の多価アルコールまたはそれらのAOの低モル付加物が使用できる。
【0039】
(k4)としては、好ましくはジカルボン酸が使用できる。ジカルボン酸と少割合(20%以下)の3価以上のポリカルボン酸との併用してもよい。
【0040】
ラクトン(h1)としては、C4〜12のラクトンが使用でき、例えば4−ブタノリド、5−ペンタノリドおよび6−ヘキサノリドなどが挙げられる。
アルキレンカーボネート(h2)としてはC2〜8のアルキレンカーボネートが使用でき、例えばエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどが挙げられる。これらはそれぞれ2種以上併用してもよい。
【0041】
(b2)は通常の方法で製造できる。(b21)は、例えば(k4)もしくはそのエステル形成性誘導体[酸無水物(無水マレイン酸、無水フタル酸など)、C1〜4の低級アルキル基を有するエステル(アジピン酸ジメチル、テレフタル酸ジメチルなど)、酸ハライド(酸クロライドなど)]と過剰当量のポリオールとの脱水縮重合もしくはエステル交換反応により、(k4)もしくはそのエステル形成性誘導体とポリオールとの脱水縮重合もしくはエステル交換反応に次いでAOを反応させることにより、又はポリオールと酸無水物およびAOとの反応により製造することができる。
【0042】
(b21)としては、例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンイソフタレートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルイソフタレートジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオールなどが挙げられる。
【0043】
(b22)および(b23)は、ポリオールを開始剤として、(h1)もしくは(h2)の重付加させることにより製造できる。
【0044】
変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル 交換および/またはAO付加によ
り製造できる。
【0045】
(b22)としては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールなどが挙げられる。
【0046】
(b23)としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
(b23)の市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000,日本ポリウレタン工業(株)製]、T5652[Mn=2,000、旭化成(株)製]およびT4672[Mn=2,000、旭化成(株)製]が挙げられる。
(b24)としては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性 ヒマシ油、ペンタエ
リスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物などが挙げられる。
(b2)のうち好ましいのは(b21)および(b23)、さらに好ましいのは(b21)である。
【0047】
ポリオレフィンポリオール(b3)には、ポリアルカジエン系ポリオール(b31)、アクリル系ポリオール(b32)が挙げられる。
(b31)としては、例えばポリブタジエンジオール[1,2−ビニル構造および/または1,4−トランス構造を有するポリブタジエン(ブタジエンホモポリマーおよびコポリマーたとえばスチレンブタジエンコポリマー、アクリロニトリルブタジエンコポリマー)ジオール]、ならびにこれらの水素添加物(水素添加率:たとえば20〜100%)等が挙げられる。ポリブタジエンジオールの例としてはNISSO−PBGシリーズ(G−1000、G−2000、G−3000など)(日本曹達・製)、Poly Bd(R−45M、R−45HT、CS−15、CN−15など
)(米国ARCO社製)が挙げられる。
【0048】
(b32)としては、例えばヒドロキシアルキル(C2〜6)(メタ)アクリレート[エチルヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど]と他の単量体[スチレン、アルキル(C1〜8)(メタ)アクリレートなど]との共重合体が含まれる。
【0049】
重合体ポリオール(b4)には、ラジカル重合性モノマーをポリオール[前記(b1)および/または(b2)]中でその場で重合させてなる重合体含有ポリオールが含まれる、モノマーには、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニル、これらの2種以上の混合物などが含まれる。モノマーの重合は、通常重合開始剤の存在下に行われる。
【0050】
重合開始剤には、遊離基を生成して重合を開始させるタイプのもの、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)(AVN)などのアゾ化合物;ジベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、および特開昭61−76517号公報記載の上記以外の過酸化物あるいは過硫酸塩、過ホウ酸塩、過コハク酸等が含まれる。アゾ化合物、特にAIBN、AVNが好ましい。重合開始剤の使用量は、モノマーの全量に基づいて通常0.1〜20%、好ましくは0.2〜10%である。ポリオール中での重合は無溶媒でも行なうことができるが、重合体濃度が高い場合には有機溶剤(s)の存在下に行なうのが好ましい。
【0051】
有機溶剤(s)としては例えばベンゼン、トルエン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、ヘプタン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどが挙げられる。必要により、連鎖移動剤(アルキルメルカプタン類、四塩化炭素、四臭化炭素、クロロホルム、特開昭55−31880号公報記載のエノールエーテル類など)の存在下に重合を行なうことができる。重合は重合開始剤の分解温度以上、通常60〜180℃、好ましくは90〜160℃で行なうことができ、大気圧下または加圧下、さらには減圧下においても行なうことができる。重合反応終了後は、得られる重合体ポリオールはそのままポリウレタンの製造に使用できるが、反応終了後に有機溶媒、重合開始剤の分解生成物や未反応モノマー等の不純物を慣用手段により除くのが望ましい。
(b4)は、通常30〜70%(好ましくは40〜60%とくに50〜55%)の重合したモノマーすなわち重合体がポリオールに分散した、半透明ないし不透明の白色ないしは黄褐色の分散体である。(b4)の水酸基価は、通常10〜300、好ましくは20〜250とくに30〜200である。
【0052】
(b)のうちで、好ましいのは(b1)および/または(b2)、さらに好ましいのは生成した被膜の耐水性、耐アルカリ性および耐食性の観点から、(b11)および/または(b2)、特に好ましいのは(b11)と(b2)の併用、とりわけ(b11)と(b21)の併用である。
(b11)と(b2)の併用の場合の重量比率は、生成した被膜の耐水性、耐アルカリ性および耐食性の観点から、(b)のうちの50重量%以上が(b11)であることが好ましく、(b11)/(b2)としては、50〜100/0〜50、さらに60〜100/0〜40、特に70〜100/0〜30が好ましい。
【0053】
3個以上の活性水素を有する数平均分子量300未満の低分子化合物(c)としては、Mnが300未満、好ましくは250未満の3価以上、さらに好ましくは3〜8価の低分子化合物が挙げられ、例えば前述の(k11)のうちの3価以上のもの(c1)、(k11)のAO低モル付加物(c2)、(k2)のうちの3価以上のもの(c3)および(k3)のうちの3価以上のもの(c4)が含まれる。
(c)のうち好ましいのは3〜8価のもの、さらに好ましいのは(c1)、特にトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールおよびソルビトールが好ましい。
【0054】
第4級アンモニウム塩基もしくはプロトン化された第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d1)としては、N−ジメチルジエタノールアミンメチル硫酸塩、N−メチルエチルジエタノールアミンエチル硫酸塩、N−メチルブチルジエタノールアミンメチル硫酸塩、N−メチルエチルジエタノールアミンエチル硫酸塩、N−ジメチルジエタノールアミンクロライド塩、N−メチルフェニルジエタノールアミンクロライド塩、N−メチルジエタノールアミンメチル硫酸塩およびN−ブチルジエタノールアミンメチル塩酸塩などが挙げられる。
これらのうち、耐水性、耐アルカリ性または耐薬品性の観点から好ましいのはN−ジメチルジエタノールアミンメチル硫酸塩およびN−メチルブチルジエタノールアミンメチル硫酸塩である。
【0055】
第3級アミノ基を有するMn300未満のジオール(d2)としては、N−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミンおよびN−メチルジプロパノールアミンなどが挙げられる。
これらのうち、生成した被膜の耐水性、耐アルカリ性または耐薬品性の観点から好ましいのはN−メチルジエタノールアミンおよびN−ブチルジエタノールアミンである。
なお、(d2)の代わりに第3級アミノ基を有するMn300未満のジアミン[例えば、ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン)など]を使用してもよい。
【0056】
本発明におけるカチオン性基含有イソシアネート基末端プレポリマー(A0)の製造は、通常20℃〜150℃、好ましくは60℃〜110℃の反応で行われ、反応時間は通常5〜20時間である。プレポリマー(A0)の形成は、NCO基と実質的に非反応性の有機溶剤の存在下または非存在下で行うことができる。プレポリマー(A0)は通常0.5〜10%の遊離NCO基含量を有する。
必要により使用することのできる、NCO基と実質的に非反応性の有機溶媒としてはアセトンおよびエチルメチルケトンなどのケトン類、エステル類、エーテル類並びにN−メチルピロリドンなどのアミド類が挙げられる。これらのうち好ましいのはアセトンおよびN−メチルピロリドンである。
上記のプレポリマーの製造においては反応を促進させるため、必要により通常のウレタン反応に使用される触媒を使用してもよい。触媒には、アミン触媒、たとえばトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミンおよび米国特許第4524104号明細書に記載のシクロアミジン類[1,8−ジア ザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(サンアプロ・製造、DBU)な ど];錫系触媒、たとえばジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレートおよびオクチル酸錫;チタン系触媒、たとえばテトラブチルチタネートが挙げられる。
【0057】
プレポリマー(A0)の製造において(d2)を使用する場合には、得られるプレポリマー(A0)を4級化剤で4級化または酸で中和してから次工程の水性分散体の製造に供することが好ましい。
4級化剤としては、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、塩化メチルおよび塩化ベンジルなどが挙げられ、好ましいのはジメチル硫酸およびジエチル硫酸である。
酸としては、ギ酸、酢酸、乳酸、リン酸などが挙げられ、好ましいのはギ酸、酢酸およびリン酸である。
【0058】
4級化の反応条件は、反応温度が通常30〜60℃で、反応時間が通常3〜6時間である。
【0059】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を構成するポリウレタン樹脂(A)は、上記のプレポリマー(A0)を水性媒体に分散させて、鎖伸長前の水性分散体(A1)を製造し、その後、鎖伸長反応して得られるものである。
(A1)の製造工程では、(A0)の分散を補助するために、前述の芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)を使用してもよいが、好ましいのはポリウレタン樹脂(A)の水性分散体を製造した後に(B)の全量を添加する方法である。(A1)の製造工程で(B)を使用する場合の使用量は、予想される得量のポリウレタン樹脂(A)の重量に対し、前述の下限と上限の量である。
また、(A1)の製造工程では、さらにその他の通常の界面活性剤(m)を必要により少量使用してもよいが、(B)の効果を最大限に発揮するためには(m)が使用しない方が好ましい。
少量の界面活性剤(m)を添加する場合の添加量は、(A0)の重量に基づいて、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、とりわけ好ましいのは0%であり、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)における芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)の含有量を超えない範囲である。
【0060】
(m)には、(B)以外のノニオン性界面活性剤(m1)、アニオン性界面活性剤(m2)、カチオン性界面活性剤(m3)および両性界面活性剤(m4)、高分子型乳化分散剤(m5)、およびこれらの2種以上の併用が含まれ、例えば米国特許第3929678号および米国特許第4331447号明細書に記載のものが挙げられる。
(m1)としては、脂肪族系アルコール(C8〜24)AO(C2〜8;Cは炭素数を表す。以下同様)付加物(重合度=1〜100)、(ポリ)オキシアルキレン(C2〜8、重合度=1〜100)高級脂肪酸(C8〜24)エステル[モノステアリン酸ポリエチレングリコール(重合度=20)、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(重合度=30)等]、多価(2価〜10価またはそれ以上)アルコール脂肪酸(C8〜24)エステル[モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノラウリン酸ソルビタン等]、(ポリ)オキシアルキレン(C2〜8,重合度=1〜100)多価(2価〜10価またはそれ以上)アルコール高級脂肪酸(C8〜24)エステル[モノラウリン酸ポリオキシエチレン(重合度=10)ソルビタン、ポリオキシエチレン(重合度=50)ジオレイン酸メチルグルコシド等]、脂肪酸アルカノールアミド[1:1型ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、1:1型ラウリン酸ジエタノールアミド等]、(ポリ)オキシアルキレン(C2〜8、重合度=1〜100)アルキル(1〜22)フェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレン(C2〜8、重合度=1〜100)アルキル(C8〜24)アミノエーテルおよびアルキル(C8〜24)ジアルキル(C1〜6)アミンオキシド[ラウリルジメチルアミンオキシド等]が挙げられる。
(m2)としては、炭素数8〜24の炭化水素系エーテルカルボン酸またはその塩などが挙げられる。
【0061】
必要により水性媒体に含有させる親水性溶剤としては、NCO基と実質的に非反応性のものおよび親水性(水混和性)のもの(アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類、N−メチルピロリドンなどのアミド類、エステル類、エーテル類、アルコール類)が挙げられる。これらのうち好ましいのはアセトンおよびN−メチルピロリドンである。
水と親水性溶剤との重量比は通常100/0〜50/50、好ましくは90/10〜60/40特に80/20〜60/40である。
親水性溶剤を使用した場合には、ポリウレタン樹脂水性分散体(U)の形成後に必要によりこれらを留去してもよい。
【0062】
プレポリマー(A0)を水性媒体に乳化分散させる装置は特に限定されず、例えば下記の方式の乳化機が挙げられる。:1)錨型撹拌方式、2)回転子−固定子式方式[例えば「エバラマイルダー」(荏原製作所製)]、3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、7)高圧衝撃式[例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社)]、8)
乳化式[例えば膜乳化モジュール]および9)遠心薄膜接触式[例えばフィルミックス]。これらのうち、好ましいのは、2)、4)、5)、7)および9)である。
【0063】
上記のようにして得られる水性分散体(A1)における固形分濃度(水性媒体と有機溶媒以外の成分の濃度)は通常10〜80%、好ましくは15〜70%である。
【0064】
水性分散体(A1)は、さらに必要により鎖伸長剤(f)、架橋剤(x)および/または停止剤(e2)を含む水性媒体と混合されて、NCO基が実質的に無くなるまで反応[水または(f)による鎖伸長、および必要により(x)による架橋および/または(e2)による反応停止]を行うことによりポリウレタン樹脂(A)のみからなる水性分散体(A2)となる。
この工程での水性媒体との混合および反応における温度は、通常10℃〜60℃、好ましくは20℃〜40℃である。
【0065】
(f)および(x)としては、ポリアミン(k22)が使用できる。(f)および(x)の使用量は、プレポリマー中に残存するイソシアネート基1当量に対して(f)および(x)の1級および2級アミノ基が通常0.1〜2当量、好ましくは0.1〜1.2当量である。
【0066】
停止剤(e2)には、1級モノアミン(k212)、2級モノアミン(k214)、および1価アルコール(e11)が使用できる。
(e2)の使用量は、(A1)のNCO基1当量に対して、通常0.5当量以下、好ましくは0.03〜0.3当量となるような量である。(e2)は水性媒体中に含有させておいても、プレポリマーが鎖伸長された段階で加えてもよい。
【0067】
(f)による鎖伸長および必要により(x)による架橋および/または(e2)による反応停止を行う場合には、連続式の乳化機[好ましくは上記2)例えばエバラマイルダー]を用いて(A1)を水性媒体中に分散させ、次いでバッチ式乳化機[好ましくは上記1)錨型撹拌方式]を用いて(f)および必要により(x)および/または(e2)を加えて混合して(A1)と反応させるのが好ましい。
【0068】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)の好ましい製造法は、ポリウレタン樹脂(A)からなる水性分散体(A2)に、芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)を添加し混合する方法である。
【0069】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)の固形分濃度(水性媒体と有機溶媒以外の成分の濃度)は通常10〜50%、好ましくは20〜45%である。また、粘度は通常1〜1,000mPa・s、好ましくは1〜500mPa・sである。粘度はB型粘度計を用いて測定することができる。測定の条件として、水性分散体を25℃水浴中で温調して測定するのが好ましい。
さらに、pHは通常4〜11、好ましくは5〜10であり、pHはpHMeterM−12(堀場製作所製)で測定することができる。
また、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)中のポリウレタン樹脂(A)の粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは10〜150nmである。
平均粒子径の測定は、200mlビーカーに水100mlを入れ、マグネチックスターラーにて撹拌下(1,000rpm)に、水性分散体を0.1g投入し、10分間撹拌したものを、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−700型:堀場製作所(株)製)または光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定することにより行うことができる。
【0070】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)は、重金属イオンが添加されても平均粒子径の変化が少なく、分散安定性に優れ、また分散体の粘度が安定である。
重金属イオンとしては、例えばバナジウムイオン、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン、モリブデンイオン、タングステンイオン、マンガンイオン、セリウムイオン、銅イオン、銀イオン、金イオンなどが挙げられる。
また、平均粒子径が安定で、分散体の粘度が安定である重金属イオンの最大添加量は、重金属イオンの種類により異なるが、従来のポリウレタン樹脂の場合、該樹脂の重量に対して、最大2,000ppm程度で有ったが、本発明では、最大50,000ppmの添加量であっても粘度が安定である。
【0071】
本発明の第2の実施態様は、上記のポリウレタン樹脂水性分散体(U)を含む水性塗料である。本発明の水性塗料には、(U)以外に、必要によりその他の添加剤、例えば塗膜形成補助樹脂、架橋剤、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤および凍結防止剤など1種または2種以上を添加することができる。
【0072】
塗膜形成補助樹脂には、アクリル樹脂(メタクリル酸エステル誘導体、スチレン、ブタジエンなどのビニル系単量体の共重合物など)、ポリエステル樹脂(アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸などの多価カルボン酸とエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールの重縮合物など)、アルキド樹脂(アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸などの多価カルボン酸とエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールとヤシ油、アマニ油などの油脂との重縮合物など)、エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテルやグリセリンジグリシジルエーテルなどの多価エポキシ化合物と多価アミン、多価カルボン酸などの活性水素含有化合物の縮合物などの水溶性あるいは水分散性樹脂が挙げられる。
【0073】
架橋剤には、下記の(x1)〜(x4)が挙げられる。
(x1)水溶性または水分散性のアミノ樹脂、例えば(アルコキシ)メチロール基および/またはイミノ基を含有するメラミン樹脂および尿素樹脂[好ましいのはメチロール基および/またはイミノ基を含有するメラミン樹脂];
(x2)水溶性または水分散性のポリエポキシド、例えばビスフェノールA型グリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型グリシジルエーテル、ポリオール[前記(a221)(EG、GL、TMP、ソルビトールなど)、およびそれらのAO(C2〜3)付加物(PEGなど)]のグリシジルエーテル、および乳化剤(前述の界面活性剤など)を添加して水分散性を付与したポリエポキシドなど[好ましいのは多価アルコールのグリシジルエーテル、とくにソルビトールポリ(ジ−〜ヘキサ)グリシジルエーテルおよびGLポリ(ジ−およびトリ)グリシジルエーテル];
(x3)水溶性または水分散性のポリイソシアネート化合物、例えば分子中に親水基(ポリオキシエチレン鎖など)を有するポリイソシアネート[「コロネート3062」および「コロネート3725」(日本ポリウレタン工業社製)など]、およびブロックドポリイソシアネート[前記(a1)(イソシアヌレート変性IPDIなど)をブロック化剤(米国特許第4524104号明細書に記載のフェノール類、活性メチレン化合物、ラクタム、オキシム、ビサルファイト、3級アルコール、芳香族2級アミン、イミドおよびメルカプタン:た とえばフェノール、MEK、ε−カプロラクトンなど)でブロックしたもの];
(x4)その他、ポリエチレン尿素(ジフェニルメタン−ビス−4,4’− N,N’−エチレン尿素など)。
【0074】
顔料には、無機顔料、例えば白色顔料(チタン白、亜鉛華、リトポン、鉛白など)、透明性白色顔料(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウムなど)、黒色顔料(カーボンブラック、動物性黒、鉛丹など)、灰色顔料(亜鉛末、スレート粉など)、赤色顔料(ベンガラ、鉛丹など)、茶色顔料(アンバー、酸化鉄粉、バンダイク茶など)、黄色顔料(黄鉛、ジンククロメート、黄酸化鉄など)、緑色顔料(クロム緑、酸化クロム、ビリジアンなど)、青色顔料(群青、紺青など)、紫色顔料(マルス紫、淡口コバルト紫など)およびメタリック顔料(アルミニウムフレーク、銅ブロンズフレーク、雲母状酸化鉄、マイカフレークなど);並びに有機顔料、例えば天然有機顔料(コチニール・レーキ、マダー・レーキなど)、および合成系有機顔料たとえばニトロソ顔料(ナフトール・グリンY、ナフトール・グリンBなど)、ニトロ顔料(ナフトール・イエローS、ピグメント・クロリン、リトール・ファスト・イエローGGなど)、顔料色素型アゾ顔料(トルイジン・レッド、ハンサ・イエロー、ナフトールAS−Gなど)、水溶性染料からつくるアゾレーキ(ペルシャ・オレンジ、ポンソー2R、ビルドーBなど)、難溶性染料からつくるアゾレーキ(リソール・レッド、ボーン・マルーン、レッド・レーキなど)、塩基性染料からつくるレーキ(ファナル・カラーなど)、酸性染料からつくるレーキ(アシッド・グリーン・レーキ、ピーコック・ブルー・レーキなど)、キサンタン・レーキ(エオシンなど)、アントラキノンレーキ(アリザリン・レーキ、プルプリン・レーキなど)、バット染料からの顔料(インジゴ、アルゴン・イエローなど)、フタロシアニン顔料(フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーンなど)が含まれる。
【0075】
顔料分散剤には、前述の界面活性剤(m)が挙げられる。
粘度調整剤には、増粘剤、たとえば無機系粘度調整剤(ケイ酸ソーダやベントナイトなど)、セルロース系粘度調整剤(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなど、Mwは通常20,000 以上)、タンパク質系(カゼイン、カゼインソーダ、カゼインアンモニウムなど)、アクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウムなど、Mwは通常20,000以上)、およびビニル系(ポリビニルアルコールなど、Mwは通常20,000以上)が含まれる。アクリル系、ビニル系が好ましい。
消泡剤には、長鎖アルコール(オクチルアルコールなど)、ソルビタン誘導体(ソルビタンモノオレートなど)、シリコーンオイル(ポリメチルシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、弗素変性シリコーンなど)など
防腐剤には、有機窒素硫黄化合物系、有機硫黄ハロゲン化合物系防腐剤など
劣化防止剤および安定化剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤など)には、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など。
凍結防止剤には、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが含まれる。
これらの成分の配合量は、用途によって異なるが、一般に、顔料系塗料の場合、顔料100部に対して、ポリウレタン樹脂水性分散体(U)(固形分)5〜200部、塗膜形成補助樹脂10〜300部(固形分)、架橋剤0〜30%(固形分)、粘度調整剤0〜5部、消泡剤0〜5部、防腐剤0〜5部、劣化防止剤または安定化剤0〜5部、凍結防止剤0〜5部である。
【0076】
顔料系水性塗料は、上記の水性分散体に顔料分散剤を混合し、それに顔料を加えて分散させ、必要によりその他の添加剤を配合し、未分散物を濾別する方法などにより製造することができる。上記の分散には、分散機(アトライザー、ビーズミル、三本ロール、ボールミルなど)を用いることができる。
【0077】
本発明の水性塗料は、通常の塗装手段(スプレー塗装、ハケ塗り、ロール塗装など)で塗装することができる。水性塗料の粘度は、塗装方法に 応じて適宜選択される。例えば、スプレー塗装の場合は、好ましくは剪断速度1000s−1における粘度は20〜50mPa・s、剪断速度10s−1における粘度は180〜280mPa・sである。剪断速度1000s−1における粘度が50m Pa・s以下であればスプレーから噴射されやすく、剪断速度10s−1における粘度が180mPa・s以上であるとタレが起こりにくい。これらの粘度は、ハイシアビスコメーター(日本精機社製「HSV−2」)で測定される。
【0078】
本発明の水性塗料は、被塗装体に直接またはプライマーを介して塗装することができ、また単層もしくは多層(2〜8層)の重ね塗りが可能であり、下塗り、中塗りおよび上塗りのいずれにも使用できる。被塗装体には、木材、紙、皮革、金属(アルミニウム、鉄、銅、各種合金など)、プラスチック(塩ビ系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂など)、無機質材料( コンクリート、スレート、ケイ酸カルシウム板など)が含まれる。被塗装体の形態には、フィルム、繊維、不織布、シート、板、棒、パイプ、ブロック状、 各種成型体、構築物などが含まれる。
【0079】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U)は、上記の水性塗料、接着剤、粘着剤、繊維加工用のバインダー(顔料捺染用バインダー、不織布用バインダー、補強繊維用集束剤、抗菌剤用バインダーなど)および人工皮革・合成皮革用原料などに幅広く使用することができる。
【0080】
<実施例>
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0081】
実施例1
撹拌機および加熱器を備えた加圧反応装置に、(b)としてのニューポールBP−3P[ビスフェノールAのPO3モル付加物、Mn=400;三洋化成工業(株)製]を67部、(c)としてのトリメチロールプロパンを9部、(d2)としてのN−メチルジエタノールアミンを17部、(a)としての水添MDIを149部、触媒としてのテトラブチルチタネートを0.04部、および溶媒としてのアセトン161部を、窒素を導入しながら仕込んだ。
その後90℃に加熱し、15時間かけてウレタン化反応を行った後、反応混合物を30℃に冷却してイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
その後、4級化剤としてのジメチル硫酸17部を加え、50℃で3時間かけて4級化を行い、4級アンモニウム塩基含有イソシアネート基末端プレポリマーを製造した。
プレポリマーを30℃に冷却後、溶剤としてのアセトンを96部およびN−メチルピロリドンを52部加えた。この稀釈液と水630部を室温で機械乳化(バイオミキサー[日本精機製作所製]を使用)してプレポリマーの水性分散体を得た。続いて、停止剤としてのジエタノールアミンを10%含む水溶液61部を混合し、室温で1時間撹拌して水による鎖伸長反応と同時に停止反応も行った。反応終点はイソシアネート含量が0.05%(樹脂分当たり)以下となった点である。
さらに、生成物を減圧下に60℃で8時間かけて加熱し、脱溶剤し、ポリウレタン樹脂濃度30%の水性分散体1,000部を得た。
この水性分散体1、000部に対し、5部のスチレン(7モル)化フェノールEO付加25モル付加物(B−a)を加え、30℃で攪拌し、混合して本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(U1)1005部を得た。
【0082】
実施例2〜6
表1に記載の原料を表1記載の部数用いたこと以外は実施例1と同様の方法で実施例2〜6のカチオン性ポリウレタン樹脂水性分散体を製造した。
なお、表中の略号は以下の通り。
IPDI;イソホロンジイイソシアネート
MDI−H;水添MDI
BP−3P;「ニューポールBPE−3P」(ビスフェノールAのPO3モル付加物、Mn=400、三洋化成工業(株)製)
BPE−20T;「ニューポールBPE−20T」(ビスフェノールAのEO2モル付加物、Mn=320、三洋化成工業(株)製);
P−HIP;1,6ヘキサンジオール/イソフタル酸からなるポリエステル(Mn=900、三洋化成工業(株)製)
980R;「ニッポラン980R」(ポリカーボネートジオール、Mn=2000、日本ポリウレタン工業製)
TMP;トリメチロールプロパン
MDEA;N−メチルジエタノールアミン
TBT;テトラブチルチタネート
DMS;ジメチル硫酸
NMP;N−メチルピロリドン
DEA;ジエタノールアミン
活性剤(B−a);スチレン化(7モル)クミルフェノールにEOを25モル付加物
活性剤(B−b);スチレン化(3モル)クミルフェノールにEOを25モル付加物
【0083】
比較例1
実施例1のポリウレタン樹脂水性分散体において、活性剤(B−a)を添加する前の水性分散体を比較例1の水性分散体とした。
比較例2
実施例4のポリウレタン樹脂水性分散体において、活性剤(B−b)を添加する前の水性分散体を比較例2の水性分散体とした。
【0084】
実施例および比較例で得られたポリウレタン樹脂水性分散体の計算値または分析値を表1および表2に示す。
<カチオン基含有量(計算値)>
カチオン基含有量は、以下の式にしたがって計算した。
カチオン基含有量(ミリ当量/g)=[(d1)または(d2)の仕込重量(g)/(d1)または(d2)の分子量]×1000/[ポリウレタン樹脂エマルションの製造に使用されるた溶剤と水性媒体以外の仕込重量(g)]
<Tgの測定法>
Tgは以下の方法で測定した。
測定試料の作製:
ポリウレタン樹脂水性分散体10部、N−メチルピロリドン4部を均一混合し、10cm×20cm×0.1cmのポリプロピレン製モールドに、水分蒸発後のフィルム膜厚が200μmになるような量を流し込み、室温で一晩、循風乾燥器で105℃で3時間加熱乾燥した後、0.5cm×3cmの短冊状に裁断したものを測定フィルムとした。
Tgの測定:
得られたフィルムを試料として、動的粘弾性測定を行い、得られた複素弾性率の実数部(貯蔵弾性率)に対する虚数部(損失弾性率)の比(tanδ)を求め、このtanδが最大となる温度をTgとした。
動的粘弾性測定装置はRheogel−E4000(ユービーエム社製)を使用し、測定周波数1Hz、昇温速度2℃/分、−100℃から200℃の温度範囲で複素弾性率の測定を行った。
<蒸発残分の測定法>
蒸発残分は、エマルション約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算した。
<pHの測定法>
pHは、pHMeterM−12(堀場製作所製)で25℃で測定した。
<粘度の測定法>
25℃の定温下でBL型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定した。粘度が低い方が良好である。
<平均粒子径の測定法>
光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定した

【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
これらのポリウレタン樹脂水性分散体に、下記の条件で金属イオン水溶液を添加、攪拌した。
<金属イオン水溶液の添加、攪拌>
五酸化バナジウム2重量%を含む水溶液(金属イオン水溶液A)を作成した。それぞれのカチオン性ポリウレタン樹脂水性分散体100部に対し、金属イオン水溶液A4部を添加し、25℃で3時間、マグネチックスターラーで攪拌した後、金属イオン水溶液添加後の試料とした。
<粘度変化比>
金属イオン水溶液A添加前後のポリウレタン樹脂水性分散体の粘度の比(添加後の粘度/添加前の粘度)を表3に記載した。粘度の比が小さい方が耐金属イオン性良好である。
<平均粒子径変化比>
金属イオン水溶液A添加前後のポリウレタン樹脂水性分散体の平均粒子径の比(添加後の平均粒子径/添加前の平均粒子径)を表3に記載した。平均粒子径の比が小さい方が耐金属イオン性良好である。
【0088】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗料、コーティング剤(防水コーティング、撥水コーティング、防汚コーティングなど)、接着剤(木工用接着剤、金属部品用接着剤、プラスチック用接着剤、電子基盤用接着剤および布用接着剤など)、粘着剤、繊維加工剤(顔料捺染用バインダー、不織布用バインダー、補強繊維用集束剤、抗菌剤用バインダーなど)、および人工皮革・合成皮革用原料など幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂の分子主鎖中に下記一般式(1)で示されるカチオン基を有し、且つガラス転移温度が30〜110℃であるポリウレタン樹脂(A)、芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)および水性媒体を含有するポリウレタン樹脂水性分散体(U)。
【化1】

[式中、RおよびRは炭素数1〜12のアルキレン基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基であり、R3およびR4のうち少なくとも1個は炭化水素基であり、X-は炭素数1〜8のアルキル硫酸アニオン、炭素数1〜12のカルボン酸アニオン、無機酸アニオンまたはハロゲンアニオンである。]
【請求項2】
ポリウレタン樹脂(A)中の該カチオン基の含有量が、(A)の重量に基づいて0.1〜2ミリ当量/gである請求項1記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項3】
芳香環含有ノニオン性界面活性剤(B)が、1分子中にフェニル基を3〜12個有する
ノニオン性界面活性剤である請求項1または2記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂(A)が、有機ポリイソシアネート(a)、数平均分子量300〜4,000の高分子ポリオール(b)、3個以上の活性水素原子を有する数平均分子量300未満の低分子化合物(c)、並びに第4級アンモニウム塩基もしくはプロトン化された第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d1)とを反応させて得られるカチオン性基含有イソシアネート基末端プレポリマー(A0)を水性媒体に分散させた後、鎖伸長反応させて得られるポリウレタン樹脂である請求項1〜3のいずれか記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項5】
ポリウレタン樹脂(A)が、有機ポリイソシアネート(a)、数平均分子量300〜4,000の高分子ポリオール(b)、3個以上の活性水素原子を有する数平均分子量300未満の低分子化合物(c)、並びに第3級アミノ基を有する数平均分子量300未満のジオール(d2)とを反応させた後、4級化剤で4級化または酸で中和して、カチオン性基含有イソシアネート基末端プレポリマー(A0)に変換し、さらに(A0)を水性媒体に分散させた後、鎖伸長反応させて得られるポリウレタン樹脂である請求項1〜3のいずれか記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項6】
数平均分子量300〜4,000の高分子ポリオール(b)が、ポリエステルポリオール(b2)および/またはビスフェノール骨格含有ポリエーテルポリオール(b11)である請求項4または5記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項7】
高分子ポリオール(b)のうちの50重量%以上がビスフェノール骨格含有ポリエーテルポリオール(b11)である請求項6記載のポリウレタン樹脂水性分散体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の水性分散体を含む水性塗料。

【公開番号】特開2007−270036(P2007−270036A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99638(P2006−99638)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】