説明

ポリエステルの製造方法およびポリエステル

【課題】 粉体塗料用樹脂として好適な3価以上の多価カルボン酸を酸成分の5〜45モル%含むポリエステル樹脂をゲル化させずに製造する方法を提供する。
【解決手段】 酸成分としてテレフタル酸を含むジカルボン酸、および3価以上の多価カルボン酸からなり、グリコール成分としてエチレングリコールを含むアルキレングリコールからなり、3価以上の多価カルボン酸を全酸成分の5〜45モル%含むポリエステルを製造するに際して、下記(A)〜(D)をエステル化反応触媒の存在下で反応させる。
(A)エチレンテレフタレートオリゴマー
(B)テレフタル酸以外のジカルボン酸
(C)3価以上の多価カルボン酸
(D)エチレングリコール以外のアルキレングリコール

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価以上の多価カルボン酸を含有するポリエステルの製造方法、ならびにその方法により得られる、粉体塗料用樹脂として好適なポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、機械的特性および化学的特性に優れており、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの成形物、接着剤や塗料などに広く用いられている。
この中で、トリメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸成分を含むポリエステルは、ジカルボン酸成分のみから成るポリエステルに比べて、反応性官能基数が多く、酸価の異なるポリエステルをブレンドする艶消し塗料など、粉体塗料用として好適に利用できることが知られている。
【0003】
ジカルボン酸成分およびグリコール成分からなるポリエステルは、一般に、エステル化もしくはエステル交換によってオリゴマーを得る工程と、これを高温、真空下で三酸化アンチモンなどの触媒を用いて重縮合する工程で得られる。
しかしながら、3価以上の多価カルボン酸成分を含むポリエステルを製造する場合には、3価以上の多価カルボン酸の反応性がテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸より高いため、ポリエステルが架橋構造を形成することによりゲル化し、反応槽からの払い出しが困難となったり、微粉砕が困難となり生産効率が低下するなど、安定した製造ができなかった。(特許文献1)
【0004】
このような問題を解決する方法としては、ジカルボン酸およびジオールからなるポリエステルを一旦製造し、その後、ポリエステルを高温、微加圧下において3価以上の多価カルボン酸を添加して解重合することにより、ゲル化を防止することができるが、エステル化、重縮合、解重合と3つの工程を経ることから、生産効率の点で改善が求められていた。(特許文献2)
【0005】
【特許文献1】特開平6-118707号
【特許文献2】特開2003-040988号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題を解決し、3価以上の多価カルボン酸成分を含むポリエステルを、ゲル化することなく高い生産効率で製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)酸成分としてテレフタル酸を含むジカルボン酸、および3価以上の多価カルボン酸からなり、グリコール成分としてエチレングリコールを含むアルキレングリコールからなり、3価以上の多価カルボン酸を全酸成分の5〜45モル%含むポリエステルを製造するに際して、下記(A)〜(D)をエステル化反応触媒の存在下で反応させることを特徴とするポリエステルの製造方法。
(A)エチレンテレフタレートオリゴマー
(B)テレフタル酸以外のジカルボン酸
(C)3価以上の多価カルボン酸
(D)エチレングリコール以外のアルキレングリコール
(2)全酸成分のうち、テレフタル酸が10〜90モル%、3価以上の多価カルボン酸が5〜45モル%である上記(1)記載のポリエステルの製造方法。
(3)エステル化触媒として、錫またはチタン化合物を使用し、温度210〜270℃でエステル化反応させることを特徴とする上記(1)または(2)記載のポリエステルの製造方法。
(4)上記(1)〜(3)に記載の方法により得られる、酸価が50〜300mgKOH/gの範囲であり、ゲル分率が5重量%未満であるポリエステル。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、3価以上の多価カルボン酸成分を含むポリエステルをゲル化することなく高い生産効率で製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明におけるポリエステルは、3価以上の多価カルボン酸成分が全酸成分に対して5〜45mol%共重合されていることが必要である。
3価以上の多価カルボン酸成分の割合が5mol%未満では、粉体塗料としての十分な艶消し性が得られない。一方、45mol%を超えると、ポリエステルがゲル化を起こし、反応槽からの払い出しが困難となるなど生産性が低下する。
【0011】
3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボンカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、及びこれらの酸無水物が挙げられるが、中でも、無水トリメリット酸は、コスト面からより好ましい。
【0012】
本発明における3価以上の多価カルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸および他のジカルボン酸が用いられる。テレフタル酸の全酸成分に対する割合は、10〜90mol%とするのが好ましい。
【0013】
本発明におけるポリエステルの製造方法においては、テレフタル酸は反応温度での溶融性および反応性が3価以上の多価カルボン酸より低いため、反応初期において3価以上の多価カルボン酸が優先的に反応してゲル化が起こりやすい。
そこで、本発明においては、反応初期におけるポリマーのゲル化を防止するために、テレフタル酸モノマーを使用する代わりに、エチレンテレフタレートオリゴマーを反応に用いることが必要である。
【0014】
エチレンテレフタレートオリゴマーは、テレフタル酸とエチレングリコールの反応率95%以上、平均重合度8〜9のオリゴマーであり、例えば、テレフタル酸/エチレングリコールのモル比が1.6であるスラリーをエステル化反応装置に連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件にてエステル化反応を行うことにより得られる。
【0015】
オリゴマーを反応に用いることで、ポリエステルが高度に架橋することを抑制し、適度な分岐構造を形成することができる。このため、ポリエステルはゲル分率が5重量%未満でかつ、粉体塗料としたときの塗膜強度の優れたものが得られる。
【0016】
ポリエステルの全酸成分に対するテレフタル酸の割合が10mol%未満であると、3価以上の多価カルボン酸(C)がテレフタル酸以外のジカルボン酸(B)よりも優先的に反応し、高度な架橋構造を形成し、ゲル分率が5重量%以上のポリエステルとなり、払い出しが困難となるなど実用に供し得ない。
テレフタル酸以外のジカルボン酸(B)は、ポリエステルを構成する他成分との組み合わせより樹脂の末端基を酸価50〜300mgKOH/gに調製するとともに、樹脂の溶融温度を下げ、粉体塗料としたときの焼き付け温度の低温化に効果が得られる。
テレフタル酸以外のジカルボン酸(B)としては、たとえば、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。また、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸を少量併用してもよい。これらの中で、コストの点からイソフタル酸が好ましい。
【0017】
本発明の方法で用いられるアルキレングリコール成分としては、エチレングリコールの他に、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオールが挙げられる。
本発明のポリエステルの特性を損なわない範囲であれば、アルキレングリコール以外のアルコール類を併用しても良い。1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族グリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリンなどの三価以上のアルコール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物などの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0018】
本発明におけるエステル化触媒として、錫またはチタン化合物を用いることが好ましい。これらの化合物は、エステル化反応の高い触媒能を有するため、各種酸成分の間でエステル化反応性の差が小さくなり、ゲル化を抑制する効果が得られる。
錫化合物としては、モノ-n-ブチルスズオキサイドやテトラブチルスズ、ブチルクロロスズジヒドロキシ、ブチルトリス-2-エチルヘキサオート、しゅう酸スズ、ジメチルスズマレートが挙げられる。
チタン化合物としてはチタンテトラブトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラエトキシドなどのチタンテトラアルコキシドやヘキサアルキルトリチタネート、オクタアルキルジチタネートなどを挙げることができるが、エステル化反応性の点からチタンテトラアルコキシドを用いることが好ましく、特にチタンテトラブトキシドが好ましい。
【0019】
本発明におけるポリエステルは、(A)エチレンテレフタレートオリゴマー、(B)テレフタル酸以外のジカルボン酸、(C) 3価以上の多価カルボン酸、(D)アルキレングリコールを原料として、錫またはチタン化合物を触媒として、エステル化反応槽に仕込み、一定制圧下、温度210〜270℃、窒素雰囲気下で2〜6時間、エステル化反応又はエステル交換反応を行う方法で製造することができる。反応温度が210℃に満たないと、反応に長時間を要し、生産性が低くなる。また、反応温度が270℃を超えると熱分解が進行し、色が悪化したり、エステル化反応が速くなりすぎるため、ポリエステルの特性の制御が困難となるなど実用的でない。
【0020】
本発明におけるポリエステルは、酸価50〜300mgKOH/gとすることが好ましい。酸価が50mgKOH/g未満では架橋点が少なく、粉体塗料としたときの塗膜強度が低くなり、300mgKOH/gを超えるとポリエステルが高度に架橋した構造あるいは分岐構造となるため、ゲル化し反応槽からの取り出しが困難となったり、微粉砕性が低下する。
【0021】
本発明におけるポリエステルは、ゲル分率が5重量%未満である。ゲル分率が5重量%以上になると、反応槽からのポリエステルの払い出しが困難となったり、粉砕性が低下するなど生産効率の点から好ましくない。
【0022】
本発明により得られるポリエステルは、粉体塗料以外の用途として、接着剤や塗料、トナーなどの樹脂材料として用いることができる。
【実施例】
【0023】
次に実施例および比較例によって本発明を具体的に説明する。
なお、実施例および比較例においてポリエステル樹脂及び樹脂組成物の特性値、塗膜性能の評価は次に示す方法により測定した。
【0024】
共重合成分の割合:
ポリエステルを重水素化トリフルオロ酢酸に溶解させ、1H-NMR(日本電子製JNM-LA400)を用いて測定し、求めた。
酸価:
ポリエステル樹脂0.5gをジオキサン/蒸留水=10/1(質量比)の混合溶媒50mlに溶解し、加熱還流後、0.1×103mol/m3の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。
ゲル分率:
ポリエステル0.5gをテトラヒドロフラン50ml中にいれ、50℃で3時間加熱溶解し、0.45μmのフッ素樹脂製フィルターで濾過した。フィルターで濾過されなかった樹脂(ゲル)を真空乾燥機で60℃で十分に乾燥し、その重量の最初の重量(0.5g)に対する割合(%)を求めた。
塗膜強度:
本発明で得られたポリエステル樹脂20重量部、酸基含有ポリエステル樹脂ER-8810(日本エステル社製:酸価28mgKOH/g)80重量部と、β―ヒドロキシルアルキルアミド硬化剤(EMS社製Primid XL-552)4重量部及びブチルポリアクリレート系レベリング剤(BASF社製「アクロナール4F」)1重量部、ベンゾイン0.5重量部及びルチル型二酸化チタン顔料(石原産業社製「タイペークCR-90」)50重量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池製作所製「FM10B型」)でドライブレンドした後、コ・ニーダ(ブッス社製「PR-46型」)を用いて100℃で溶融混練し、冷却、粉砕後、140メッシュ(106μm)の金網で分級して粉体塗料を得た。得られた粉体塗料をリン酸亜鉛処理鋼板上に膜厚が50〜60μmとなるように静電塗装して、160℃×20分間焼付けを行った。
これをJIS K 5400に準じ、直径1.27cmの球面を持つ撃ち台とそれにあう窪みを持った受け台との間に塗膜が球面に接触するように塗装鋼板を挟み込み、その上から1kgのおもりを垂直に落下させ、塗膜の破壊する高さを求め、20cm以上の高さから落としても、塗膜が割れないものを合格とした。
【0025】
実施例1
エチレンテレフタレートオリゴマー(14.4kg:テレフタル酸相当72モル)、イソフタル酸108モル(18.0kg)、ネオペンチルグリコール99モル(10.3kg)、無水トリメリット酸54モル(10.4kg)、触媒としてチタンテトラブトキシド2.0×1.0-4モル/酸成分1モル(17.0g)をエステル化反応槽に仕込み、圧力0.3MPaG、温度240℃、窒素雰囲気下で4時間エステル化反応を行い、酸価155mgKOH/gのポリエステルを得た。テレフタル酸とエチレンテレフタレートオリゴマーの仕込量(モル%)、および、得られたポリエステルを構成する各成分組成(モル%)、ならびに、ポリエステルのゲル分率および塗膜強度を測定した結果を表1に示した。
【0026】
実施例2〜3、比較例1〜5
仕込組成およびポリエステルを構成する各成分組成を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。得られたポリエステルのゲル分率および塗膜強度を測定した結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1〜3で得られたポリエステルはゲル化せず、良好な塗膜強度が得られた。
比較例1ではエチレンテレフタレートオリゴマーを用いず、テレフタル酸を反応に用いたため、テレフタル酸より無水トリメリット酸が先に反応し、ゲル分率の高いものとなった。
比較例2ではテレフタル酸成分が含まれていないため、無水トリメリット酸の反応速度が芳香族ジカルボン酸より速く、高度な架橋構造を形成し、ゲル分率が高くなった。
比較例3は酸成分に対する無水トリメリット酸の比率が高いため、ゲル分率の高いものとなった。
比較例4では無水トリメリット酸が共重合されていないため、塗膜強度の低いものとなった。
比較例5では酸成分に(B)が含まれておらず、樹脂の溶融温度が高かったため、160℃×20分の焼き付け条件では十分に硬化反応が進まず、塗膜強度の低いものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分としてテレフタル酸を含むジカルボン酸、および3価以上の多価カルボン酸からなり、グリコール成分としてエチレングリコールを含むアルキレングリコールからなり、3価以上の多価カルボン酸を全酸成分の5〜45モル%含むポリエステルを製造するに際して、下記(A)〜(D)をエステル化反応触媒の存在下で反応させることを特徴とするポリエステルの製造方法。
(A)エチレンテレフタレートオリゴマー
(B)テレフタル酸以外のジカルボン酸
(C)3価以上の多価カルボン酸
(D)エチレングリコール以外のアルキレングリコール
【請求項2】
全酸成分のうち、テレフタル酸が10〜90モル%、3価以上の多価カルボン酸が5〜45モル%である請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
エステル化触媒として、錫またはチタン化合物を使用し、温度210〜270℃でエステル化反応させることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の方法により得られる、酸価が50〜300mgKOH/gの範囲であり、ゲル分率が5重量%未満であるポリエステル。

【公開番号】特開2006−83265(P2006−83265A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268348(P2004−268348)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】