説明

ポリエステルフィラメント糸の紡糸方法

【課題】単糸割れを無くして、正常な安定した巻き取りを可能とするFDのポリエステルフィラメント糸(ハイマルチ糸または極細糸)の紡糸方法を提供すること。
【解決手段】エチレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするポリエステルポリマーであって、艶消しに使用する酸化チタンの含量が1.8重量%以上であるフルダルポリマーから溶融紡糸にて、単糸の太さが1デシテックス以下のフルダルハイマルチ糸またはフルダル極細糸を製造するに際し、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を8〜18重量%とすることを特徴とするポリエステルフィラメント糸の紡糸方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フルダルのポリエステルポリマーから溶融紡糸によって、単糸の太さが1デシテックス(以下、dtex.という)以下のフルダル(以下、FDという)ハイマルチ糸または極細糸の紡糸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメント糸の紡糸方法を記載した文献として、例えば、特許文献1並びに特許文献2がある。
【0003】
ところで、従来のポリエステルフィラメント糸の紡糸方法において、ポリエステルフィラメント糸の溶融紡糸で用いるエマルジョン付着量の適正域は、一般的に汎用銘柄、即ち、単糸(ポリエステルフィラメント糸を構成する多数本のフィラメントのうちの一本)の太さが、1. 5〜5dtex. 程度のフィラメント糸では、フルダルも含めて3〜6重量%であり、ハイマルチ糸や極細糸といわれる1〜0.3dtex. の糸においてもセミダル(以下、SDという)やブライト(以下、BRという)では、数パーセント、即ち、5〜6重量%から高々8重量%の範囲である。
【0004】
しかしながら、FDのハイマルチ糸や極細糸、即ち、艶消しに使用する酸化チタンの含量が、1.8重量%以上で、単糸の太さが、1dtex. 以下0. 3dtex. 程度のフィラメント糸ではエマルジョン付着量の適正域が、SDやBRと同じ範囲ではオイリング下の糸ガイド周り、引き取りロール上で単糸に割れが発生し、巻取りが難しくなる。なお、ここでいう単糸dtex. は、最終製品のそれをいっており、延伸糸FDY(紡糸直接延伸糸)の場合は、そのままであるが、POY(部分または予備配向糸)の場合は、延伸加工後の単糸の太さをいう。
【0005】
【特許文献1】特開平11−131372号公報
【特許文献2】特開平11−222769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、単糸太さが、1デシテックス以下のFDのハイマルチ糸または極細糸を製造するポリエステルフィラメント糸の紡糸方法において、この単糸割れを無くして正常な巻き取りを達成することを目的とするものである。この単糸割れの発生は、エマルジョン量が足りず、紡出されたフィラメントの表面および単糸間にエマルジョンが行き渡らないために、糸の集束性が悪くなったことによるものと推測される。エマルジョン付着量の適正域は、一般的に汎用銘柄では、3〜6重量%程度、ハイマルチ糸や極細糸においても、SD、BRでは、少し高目で数重量%から8重量%程度である。その理由は、以下の通りである。
【0007】
ハイマルチ糸や極細糸は、汎用糸対比で比表面積が大きい。即ち、糸条の全太さが同一で単糸太さの異なる銘柄の場合、比表面積は、単糸太さの平方根に反比例する。例えば、単糸2dtex. 対比で0.5dtex. 糸は2倍、また、0.35dtex. 糸では約3倍となるので、それに比例するエマルジョン量が必要と推測され、実際にそれに近い条件で安定した生産をしている。
【0008】
しかしながら、上記するように、FDのハイマルチ糸および極細糸、即ち、艶消しに使用する酸化チタンの含量が1.8重量%以上で単糸1dtex. 以下のフィラメント糸ではエマルジョン付着量がSDやBRと同じ量ではオイリング下の糸ガイド周り、引き取りロール上で単糸に割れが発生し、巻取りが難しくなる。
【0009】
紡糸工程における単糸割れの主要因は、前述のようにエマルジョン付着量が不足していることである。エマルジョン付着量が足りない場合は、上述する如くエマルジョンが行き渡らないために単糸割れ (フィラメント割れ)し、割れた単糸が切れたり、さらに、切れた単糸が引き取りロールに巻きついたりして断糸を発生する。
【0010】
充分な集束性を得るためのエマルジョン付着量が汎用銘柄3〜6重量%に対し、ハイマルチ糸や極細糸は、数重量%〜8重量%だけ必要な理由は、糸条の比表面積が汎用銘柄に対して大きくなり、この表面積にエマルジョンが行き渡るために、より多くのエマルジョンが必要になるということである。例えば、単糸の太さが半分になると比表面積は√2倍となり、エマルジョン必要量は√2倍程度必要ということである。単糸の太さが1/3になれば、エマルジョン必要量は√3倍、単糸の太さが1/4になれば、エマルジョン必要量は√4(=2)倍程度必要である。
【0011】
例えば、汎用銘柄であるPOY140dtex. /36fil. (延伸加工後単糸2.3dtex. )の場合は、エマルジョン付着量3〜6重量%に対し、ハイマルチPOY140dtex. /96fil. (延伸加工後単糸0.6dtex. )の場合は、エマルジョン付着量がそれぞれ6〜8重量%必要と考えられ、実際の生産においても適正範囲として適用されていた。
【0012】
しかしながら、FDハイマルチ糸や極細糸では、SDおよびBRの糸と全く事情が異なり、単糸割れが問題となっていた。例えば、FDハイマルチ糸POY140dtex. /96fil.や極細糸POY140dtex. /144fil.、さらに細い極細POY90dtex. /144fil.の場合は、エマルジョン付着量がそれぞれ相当のSD、BRと同じ5〜7重量%、6〜8重量%では、オイリング下の糸ガイド周り、引き取りロール上で単糸に割れが発生し、巻取りが難しくなる。
【0013】
本願の発明者らは、上述した従来技術の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オイリングに際し、エマルジョン付着量を8重量%以上、特に細い極細糸の単糸0.6dtex. 以下では、好ましくは10重量%以上とすることにより単糸割れの発生が抑えられることを見出した。
【0014】
但し、付着量が高過ぎる(多過ぎる)場合には、オイリング以降でエマルジョンが飛散し、飛散したエマルジョンにより巻き取った製品や機械を汚すばかりではなく、作業環境を悪くするなどの問題を生ずる。また、飛散しない程度であっても過剰のエマルジョンは、糸と引き取りロールとの間の適度の摩擦力を変動させて(スリップを生じさせて)、糸の均一性を悪くさせることになり、製品品質を低下させる原因となる。また、POYの場合には、過剰のエマルジョンは巻き取り中に、一部が巻取パッケージの外層部へ移動し、オイル付着量の不均一を生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするポリエステルポリマーであって、酸化チタンの含量が、1.8重量%以上であるフルダル(FD)ポリマーから溶融紡糸によって、単糸の太さが、1デシテックス(dtex.)以下のフルダル(FD)ハイマルチ糸またはフルダル(FD)極細糸を製造するに際し、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を8〜18重量%とすることを特徴とするポリエステルフィラメント糸の紡糸方法を提供するものである。
【0016】
特に、単糸の太さが、0.6デシテックス以下のフルダル極細糸を製造する場合には、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を10〜18重量%とすることをが好ましい。さらに、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を10〜15重量%とすることがより一層好ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明になるポリエステルフィラメント糸の紡糸方法によれば、単糸の太さが1dtex. 以下のFDのハイマルチ糸または極細糸を製造するに際し、油剤付与に用いるエマルジョンの糸への付着量を8〜18重量%、特に、0.6dtex. 以下のFD極細糸を製造する場合は、10〜18重量%、好ましくは、10〜15重量%とすることにより、単糸割れがなく、糸切れも非常に少ない安定した巻き取りが可能であるというものであり、その点において極めて有効に作用するものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明になるポリエステルフィラメント糸の紡糸方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、POY溶融紡糸設備の具体例を示す概略的な側面図であり、図2は、FDY溶融紡糸直延伸設備の一例を示す概略的な側面図である。一方、図3は、FD極細糸並びにSD極細糸表面の電子顕微鏡写真を示すものである。
【0019】
先ず、この発明において、ポリマーとは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするポリエステルポリマーであって、艶消しに使用する酸化チタンの含量が、1.8重量%以上であるFDポリマーである。フィラメント用のポリエステルポリマーには酸成分にテレフタール酸、ジアルコール成分にエチレングリコールを使用するポリエチレンテレフタレートが最も多いが、それぞれの成分、例えば、酸成分の一部をイソフタール酸に置き換えて一部特性の改良を図ったものもあるが、これは、一般に紡糸の曳糸性は低下する。
【0020】
従って、この発明では、酸成分にテレフタール酸、ジアルコール成分にエチレングリコールを主成分としたポリエステル (主たる繰り返し成分がエチレンテレフタレート)を使用することが好ましい。
【0021】
FD糸では、艶消し剤として酸化チタンが使用されているが、その含量は1.8重量%から2.5重量%程度が好ましい。酸化チタンの含量が、1.8重量%未満では艶消しの効果が落ちる。ハイマルチ糸あるいは極細糸では、糸が細いので汎用糸(単糸の太さが1.5dtex. 〜5dtex. )と比較すると同じ含量においても艶消し効果が低下するので、1.8重量%以上のFDポリマーを使用することが好ましい。他方、酸化チタンの含量が多くなると艶消し効果は増していくが、2.5重量%程度あれば充分であり、余り多くなると後述するように酸化チタンの凝集物が増えて曳糸性を低下させる原因となるので好ましくない。
【0022】
また、艶消しに使用する酸化チタンは充分な分散状態を保ち、重合して得られるポリマー中においても良好な分散状態を保つことが望ましい。一般的にポリマー中の酸化チタンの分散状態は、平均粒子径で0.2〜0.3ミクロンと言われているが、単に平均粒子径のみならず凝集した大きな径の粒子、言い換えれば、ポリマー中の異物となるような凝集粒子を含まないことが必要である。この発明で用いるFDポリマーは、上記するような凝集異物、即ち、粒子径が10ミクロン以上の個数はポリマー1ミリグラム中に多くとも1個以下、粒子径が10〜5ミクロン以上の個数は3個以下であることが好ましい。
【0023】
次に、紡糸工程についてであるが、この発明においては一般に溶融紡糸で使用されている紡糸設備および紡糸条件がそのまま適用可能である。即ち、図1に示すPOY溶融紡糸設備M1のように、チップホッパー1内に投入されるチップを溶融押出機2によって溶融ポリマー3とし、この溶融ポリマー3を、熱媒を封入したスピンブロック4内のポリマー輸送管並びに計量ポンプ5を介して、溶融部からスピンパック6に移送し、スピンパック6に組み込まれたハイマルチ糸または極細糸用紡糸口金から押出し、紡糸口金の下方に配置された冷却装置21で紡出糸条7を均一に冷却、次いで、オイリング装置22にてオイリングの後、第1および第2のゴデットロール12、13にて引き取り、巻取機にて巻取パッケージ14に巻き取る。
【0024】
図1に示す例において、冷却装置21は、冷却風整流部8を有していて、この冷却風整流部8を介して冷却風9を紡出糸条7に吹きつけるように構成したものからなっている。オイリング装置22は、エマルジョン供給ノズル(エマルジョン付与装置)10を含むものからなっている。図中、参照符号11は、糸ガイドを示すものである。FDY溶融紡糸直延伸設備M2の場合は、図1に示した一対のゴデットロール12、13の代わりに、図2に示すように、供給ロール15および延伸ロール16からなる一対の延伸用加熱ロール15、16を用いる。
【0025】
ハイマルチ糸または極細糸用の紡糸口金で重要なことは、オリフィス口径であり、これをハイマルチ糸単糸太さ0.9dtex. では、0.2mm、極細糸単糸太さ0.6dtex. では、0.16mm、さらに、細い単糸太さ0.4dtex. では、0.12mm程度とすることが好ましい。
【0026】
紡出糸条7を冷却する冷却装置21は、冷却風9の供給方式により横吹き方式(Cross Flow System)と、ラウンド方式(Round Quenching System)とがあるが、この発明では、どちらの方式も適用可能である。いずれの場合も、冷却の条件としては、均一で良好な品質と安定した運転を得るためには汎用糸対比で風速を低目にすることが必要である。
【0027】
オイリングは、紡出糸条7の線上、即ち、紡糸口金6から紡出糸条引き取りのための第1のゴデットロール12の入口に沿った線上に設けたエマルジョン付与装置により、一定量のエマルジョンを紡出糸条7に付与して行なう。このエマルジョン付与装置としては、オイリングロール(図示せず)を使用したロールオイリング方式と、エマルジョン供給ノズル10を使用したノズルオイリング方式とがあるが、この発明では、ノズルオイリング方式を使用する。
【0028】
その理由は、ノズルオイリング方式の方が糸条の集束距離(紡糸口金下面から集束位置までの距離)を短くして紡糸張力を低く保つことが容易なため、紡出糸条に大きな空気抵抗を受け易く紡糸張力が高くなりがちなハイマルチ糸や極細糸に適しているからである。ノズルオイリング方式の方が糸条の集束距離を短く出来る理由は、次の通りである。
【0029】
紡糸口金6から押し出されて冷却装置21で冷却されるまでは、糸条は均一に冷却されるため開繊状態にあり、次のオイリング装置22の位置で初めて糸条は集束されるが、このオイリング装置22にエマルジョン供給ノズル10を使用するノズルオイリング方式の場合は、この装置22を冷却装置21の真下または冷却装置内(所謂、紡糸筒内)に置くことが可能で、オイリングロールを引き取りロールを組み込んだフレームに配置するロールオイリング方式よりも容易に集束距離を短く出来るからである。
【0030】
実際に、ハイマルチ糸および極細糸に適した集束距離は、ハイマルチ糸単糸太さ0.9dtex. では、1〜1.2m、極細糸単糸太さ0.6dtex. では、0.8〜1m、更に、細い単糸太さ0.4dtex. では、0.8〜0.6m程度とすることが好ましい。この発明で使用するエマルジョン供給ノズル10は、一般的に使用されているノズル、即ち、エマルジョンを供給する吐出孔部と、紡出糸条と接触してエマルジョンを糸条に付与する糸導部とからなるものが使用可能である。
【0031】
この発明で重要なことは、エマルジョンの糸への付着量である。この発明では、単糸の太さが1dtex. 以下のFDハイマルチ糸または極細糸を製造するに際し、油剤付与に用いるエマルジョンの糸への付着量を8〜18重量%、特に、単糸太さが、0.6dtex. 以下のFD極細糸を製造する場合は、10〜18重量%、好ましくは、10〜15重量%とすることが必要である。この付着量は、SDやBR糸と比較してかなり多い。SDやBRならば多過ぎてエマルジョン飛散とか、また、飛散しない程度であっても過剰のエマルジョンが糸と引き取りロールとの間の摩擦力を変動させ(スリップを生じさせて)、糸の均一性を悪くさせることになり、製品品質を低下させるレベルである。
【0032】
この理由は、FD極細糸に固有の特徴と考えられる。比表面積のみの理由では説明がつかない。FD糸は、SD、BR糸対比でエマルジョンの浸透性が悪いと言われている。実際に、FD、SDおよびBRの糸サンプルを使って、「サンプルをエマルジョンに浮かべてから沈降開始までの時間を測定する方法」で、それぞれの糸サンプルの浸透性を評価したところ、FD糸は、SD、BR糸に比較し沈降開始時間が遅いことが確認された。これは、FD糸は、エマルジョンの糸表面への広がり(馴染み)が遅いことを示している。
【0033】
本願の発明者らは、この理由と原因について考察し、鋭意研究した結果、次のことが解明できた。艶消し剤として糸中に分散している酸化チタンの細かい粒子が糸表面に出て突出部をつくり、これらの突出部により糸条を構成する単糸間の隙間が広くなり (大きくなり)、エマルジョンが糸表面へ広がっていく際に、より多くのエマルジョンを必要とし、その結果、糸条全体への広がり(馴染み)を遅くしていると考えられる。実際に、単糸表面の状態を電子顕微鏡で観察すると、FD糸は、SD糸と比較して酸化チタンの含有量以上に多くの突出部が見られる(図3AおよびB参照)。
【0034】
他方、糸へのオイル付着量は、POYの場合は、延伸加工 (仮撚加工)性の点から次のレベルが好ましいことがわかっている。即ち、ハイマルチ糸および極細糸に適したオイル付着量は、いずれも汎用糸の適正レベル0.3〜0.4重量%よりも高目の0.5〜1重量%である。実際に、ハイマルチ糸単糸太さ0.9dtex. では0.5〜0.7重量%、極細糸単糸太さ0.6dtex. では0.6〜0.8重量%、更に、細い単糸太さ0.4dtex. では0.7〜1重量%程度とすることが好ましい。
【0035】
また、FDYの場合は、織編みの準備工程である撚糸工程や整経工程に適用するには次のレベルが好ましいことがわかっている。即ち、ハイマルチ糸および極細糸に適したオイル付着量は、いずれも汎用糸の適用レベル0.5〜0.7重量%よりも高目の0.6〜1.5重量%である。実際に、ハイマルチ糸単糸太さ0.9dtex. のものでは、0.6〜0.9重量%、極細糸単糸太さ0.6dtex. のものでは、0.7〜1.2重量%、更に、細い単糸太さ0.4dtex. のものでは、0.8〜1.5重量%程度とすることが好ましい。これらの適正範囲は、POYの場合は、加工機の種類など、また、FDYの場合は撚糸機や整経機の機種などで、多少は変わるが、SD糸やBR糸とほぼ同じ範囲である。
【0036】
本願の発明者らは、さらに、エマルジョン条件を詳細に詰めるために、エマルジョン付着量とオイル付着量とが上記で述べたような適正域に入るようにエマルジョン濃度(Emulsion Concentration = EC ) を合わせて紡糸し、単糸割れの発生状況を再確認するとともに得られた糸の物性を調査した。その結果、POYにおいてはエマルジョン濃度を汎用糸で多く使われる10重量%程度よりは低目の5〜10重量%とすることで適正な条件が得られることが確認された。また、得られるPOY糸の物性、特に、強度伸度の低下もなく、均一性にも問題ないことが確認された。なお、この発明でいうハイマルチ糸および極細糸POYの単糸太さ毎に細かく見ると表1に示す通りである。
【0037】
【表1】

【0038】
また、FDYにおいては、エマルジョン濃度(EC)を汎用糸で多く使われる14重量%程度よりは低目の8〜14重量%とすることで適正な条件が得られることが確認された。また、得られるFDYの物性、特に、強度伸度の低下もなく、均一性にも問題ないことが確認された。なお、この発明でいうハイマルチ糸および極細糸FD糸の単糸太さ毎に細かく見ると表2に示す通りである。
【0039】
【表2】

【0040】
なお、オイル付着量(OPU)は、規定長さの糸の重量に占めるオイルの重量の割合である。また、オイル付着量(OPU)とエマルジョン付着量(EPU)とエマルジョン濃度(EC)との関係は、次式のとおりである。
EPU=OPU/EC
【0041】
次いで、この発明になるポリエステルフィラメント糸の紡糸方法について、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1に示す紡糸設備M1を用いて、固有粘度IV=0.64で艶消し剤の酸化チタンの含量が、2.5重量%のポリエチレンテレフタレートを以下の条件で、FD極細糸POY92dtex./144fil.(POY単糸太さ0.64dtex.、加工後、58dtex./144fil.で単糸太さ0.4dtex.)を紡糸した。ここにおいて、エマルジョン付与条件は、表3中に示すようにエマルジョン濃度(EC)とエマルジョン付与量(EPU)とを種々組み合わせて実施し、その際の糸割れ発生状況および得られた糸の物性を評価した。
紡糸条件
紡糸口金 オリフィス孔径(円形) 0.12mm
孔数 144
紡糸温度 295℃
紡糸速度 2600m/分
集束距離(オイル供給ノズル位置) 0.7m
【0042】
【表3】

【0043】
表3中、実施例1−1〜1−4および実施例1−5、1−6においては、糸割れ発生が抑えられて安定した紡糸ができ、また、エマルジョンの飛散もなくて、作業環境を良好に保つことができた。また、得られたPOY糸の強伸度低下や、均一性を損なうことなく、 良い品質を保つことができた。他方、比較例1−2、1−3、1−5および比較例1−1、1−4では、単糸割れを発生するか、過剰のエマルジョン付着量で糸の均一性が悪くなるなどの問題があった。
【0044】
〔実施例2〕
実施例1と同様の紡糸設備およびFDポリエチレンテレフタレートを用いて、以下の条件で、FD極細糸POY138dtex./96fil.(POY単糸太さ1.44dtex.、加工後、86dtex./96fil.で単糸太さ0.9dtex.)を紡糸した。ここにおいて、エマルジョン付与条件は、表4中に示すようにエマルジョン濃度(EC)とエマルジョン付与量(EPU)とを種々組み合わせて実施し、その際の糸割れ発生状況および得られた糸の物性を評価した。
紡糸条件
紡糸口金 オリフィス孔径(円形) 0.20mm
孔数 96
紡糸温度 292℃
紡糸速度 3000m/分
集束距離(オイル供給ノズル位置) 1.0m
【0045】
【表4】

【0046】
表4中、実施例2−1〜2−4においては、糸割れ発生が抑えられて安定した紡糸ができ、また、エマルジョンの飛散もなくて、作業環境を良好に保つことができた。さらに、得られたPOY糸の強度伸度低下や均一性を損なうことなく、良い品質を保つことができた。他方、比較例2−1〜2−3では、単糸割れを発生するという問題があった。
【0047】
〔実施例3〕
図2に示す紡糸直接延伸設備M2を用いて、固有粘度IV=0.64で艶消し剤の酸化チタンの含量が、2.5重量%のポリエチレンテレフタレートを以下の条件で、FD極細糸FDY84dtex./144fil.(単糸太さ0.58dtex.)を紡糸し、直接延伸により引き取った。この紡糸直接延伸設備M2は、図1に示す紡糸設備M1における一対のゴデットロール12、13の代わりに、供給ロール(加熱)15および延伸ロール(加熱)16を装備したものである。ここにおいて、エマルジョン付与条件は、表5中に示すようにエマルジョン濃度(EC)とエマルジョン付与量(EPU)とを種々組み合わせて実施し、その際の糸割れ発生状況および得られた糸の物性を評価した。
紡糸条件
紡糸口金 オリフィス孔径(円形) 0.15mm
孔数 144
紡糸温度 293℃
紡糸速度 2000m/分
集束距離(オイル供給ノズル位置) 0.8m
延伸条件
供給ロール/延伸ロール温度 85/123℃
延伸速度 4000m/分
延伸倍率 2.0
【0048】
【表5】

【0049】
表5中、実施例3−1〜3−3においては、糸割れ発生が抑えられて安定した紡糸ができ、また、エマルジョンの飛散もなくて、作業環境を良好に保つことができた。さらに、得られたFDY糸の強度伸度低下やイヴネスU%、染均一性を損なうことなく、良い品質を保つことができた。他方、比較例3−1〜3−3では、単糸割れを発生するか、過剰のエマルジョン付着量で糸の均一性が悪くなるなどの問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、POY溶融紡糸設備の一具体例を示す概略的な構成図である。
【図2】図2は、FDY溶融紡糸直接延伸設備の一具体例を示す概略的な構成図である。
【図3】図3Aは、FD極細糸表面の顕微鏡写真であり、図3Bは、SD極細糸表面の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0051】
1 チップホッパー
2 溶融押出機
3 溶融ポリマー
4 スピンブロック
5 計量ポンプ
6 スピンパックおよび紡糸口金
7 紡出糸条
8 冷却風整流部
9 冷却風
10 エマルジョン供給ノズル
11 糸ガイド
12 第1のゴデットロール
13 第2のゴデットロール
14 巻取パッケージ
15 供給ロール(加熱)
16 延伸ロール(加熱)
21 冷却装置
22 オイリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするポリエステルポリマーであって、酸化チタンの含量が、1.8重量%以上であるフルダルポリマーから溶融紡糸によって、単糸の太さが、1デシテックス以下のフルダルハイマルチ糸またはフルダル極細糸を製造するに際し、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を8〜18重量%とすることを特徴とするポリエステルフィラメント糸の紡糸方法。
【請求項2】
単糸の太さが、0.6デシテックス以下のフルダル極細糸を製造するに際しては、油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を10〜18重量%とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィラメント糸の紡糸方法。
【請求項3】
油剤附与に用いるエマルジョンの糸への付着量を10〜15重量%とすることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のポリエステルフィラメント糸の紡糸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−265773(P2006−265773A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85860(P2005−85860)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】