説明

ポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、ならびに太陽電池モジュール

【課題】耐加水分解性および寸法安定性に優れたポリエステルフィルム及びその製造方法、太陽電池用バックシート、ならびに、発電性能が長期間安定な太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】原料ポリエステルを溶融押出し、冷却して、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形する工程と、ポリエステルフィルムを縦延伸する縦延伸工程と、ポリエステルフィルムを予熱する予熱部、予熱されたポリエステルフィルムに緊張を与えて横延伸する延伸部、緊張が与えられたポリエステルフィルムを160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する熱固定部、及び、熱固定部におけるポリエステルフィルムの温度よりも5℃以上低い温度となるように、熱固定したポリエステルフィルムを加熱し、緊張を緩める熱緩和部に、ポリエステルフィルムをこの順に搬送して、少なくとも横延伸する横延伸工程と、を含むポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、ならびに太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、電気絶縁用途や、光学用途等、種々の用途で用いられている。電気絶縁用途としては、近年、特に、太陽電池バックシート等の太陽電池用途が注目されている。
ところで、ポリエステルは、通常は、その表面にカルボキシ基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境では加水分解を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。太陽電池モジュールが一般に用いられる環境は、屋外等の常に風雨に曝されるような環境であり、加水分解を起こし易い環境であるため、太陽電池用途においては、ポリエステルの加水分解抑制は重要な課題の一つである。
【0003】
そのため、例えば、耐加水分解性にも優れたポリエステルを得るため、アルミニウム及びその化合物から選ばれる少なくとも1種を第1金属含有成分として含み、かつ化学式(化1)、(化2)で表されるリン化合物から選択される少なくとも1種を共存させることを特徴とするポリエステル重合触媒を用いて製造したポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、太陽電池用途に用いられるポリエステルフィルムは、熱収縮しにくい寸法安定性に優れたフィルムが求められており、例えば、ポリエステルフィルムの延伸処理後、延伸張力を緩めることで熱収縮率を小さくすることが知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2002/022707号
【特許文献2】特開2004−130594号公報
【特許文献3】特開2001−212909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜特許文献3に記載の方法では、耐加水分解性と寸法安定性とのいずれか一方のみを解決し得るに過ぎず、耐加水分解性と寸法安定性とを、同時に満足することができなかった。
【0007】
本発明は、耐加水分解性および寸法安定性に優れたポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法、ならびに太陽電池用バックシートを提供すること、また、発電性能が長期間安定な太陽電池モジュールを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却して、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形するフィルム成形工程と、
前記ポリエステルフィルムを長手方向に縦延伸する縦延伸工程と、
前記ポリエステルフィルムを予熱する予熱部、予熱されたポリエステルフィルムを少なくとも前記ポリエステルフィルムの長手方向と直交する方向に緊張を与えて横延伸する延伸部、緊張が与えられたポリエステルフィルムを該ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する熱固定部、及び、前記ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が、前記熱固定部における前記ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度よりも5℃以上低い温度となるように、前記熱固定されたポリエステルフィルムを加熱し、前記緊張を緩める熱緩和部に、前記ポリエステルフィルムをこの順に搬送して、少なくとも横延伸する横延伸工程と、
を含むポリエステルフィルムの製造方法である。
【0009】
<2> 前記横延伸工程が、前記縦延伸工程の後に行なわれ、前記横延伸工程が、熱緩和部を経たポリエステルフィルムを冷却する冷却部に前記ポリエステルフィルムを搬送する工程を更に有し、
前記横延伸工程における前記ポリエステルフィルムの幅が最大になるときの前記ポリエステルフィルムの幅L1と、前記冷却部から前記ポリエステルフィルムが離れる前記冷却部の端部における前記ポリエステルフィルムの幅L2とが、下記式(1)を満たし、かつ、
前記予熱部における前記ポリエステルフィルムの搬送速度S1と、前記冷却部の前記端部における前記ポリエステルフィルムの搬送速度S2とが、下記式(2)を満たす前記<1>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0010】
【数1】



【0011】
<3> 前記延伸部は、搬送される前記ポリエステルフィルムの搬送方向と、該ポリエステルフィルムの幅方向端部の進行方向とがなす角度を延伸角度θ〔°〕とするとき、前記延伸部における前記ポリエステルフィルムの横延伸を開始する位置Xでの延伸角度θx〔°〕と、前記延伸部における前記ポリエステルフィルムの横延伸を終了する位置Zでの延伸角度θz〔°〕と、前記延伸部における前記位置Xと前記位置Zとの中間の位置Yでの延伸角度θy〔°〕とが、下記式(3)を満たし、横延伸終了後の厚みが200μm以上のポリエステルフィルムを得る前記<1>または前記<2>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
0<θx≦θz<θy<10 (3)
【0012】
<4> 前記横延伸工程は、前記予熱部、前記延伸部、前記熱固定部、前記熱緩和部、及び前記冷却部を備え、前記予熱部において前記ポリエステルフィルムの幅方向の両端部を、片端部につき、少なくとも2つの把持部材を用いて把持して、前記予熱部から前記冷却部まで前記ポリエステルフィルムを搬送する2軸延伸装置を用い、
前記予熱部における前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔よりも、前記冷却部における前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔を狭めることで、前記ポリエステルフィルムの搬送速度を小さくする前記<2>または前記<3>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0013】
<5> 前記熱固定部、前記熱緩和部、及び前記冷却部の少なくとも一部において、前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔を狭める前記<4>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0014】
<6> 前記原料ポリエステルは、固相重合処理されている前記<1>〜前記<5のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0015】
<7> 前記縦延伸工程および前記横延伸工程を経て得られたポリエステルフィルムは、30分間150℃で加熱する加熱条件における熱収縮率が2.0%以下である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0016】
<8> 前記原料ポリエステルが、カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーを含む前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0017】
<9> 前記多官能モノマーの含有量は、前記原料ポリエステルの全モル量に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である前記<8>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0018】
<10> 前記フィルム成形工程は、前記原料ポリエステルと共に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を添加して溶融押出する工程を含む前記<1>〜前記<9>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0019】
<11> 前記末端封止剤の添加量は、前記原料ポリエステルの全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下である前記<10>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0020】
<12> 前記<1>〜前記<11>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法により得られたポリエステルフィルムである。
【0021】
<13> カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含む前記<12>に記載のポリエステルフィルムである。
【0022】
<14> 前記多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である前記<13>に記載のポリエステルフィルムである。
【0023】
<15> オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を含む前記<1>〜前記<14>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムである。
【0024】
<16> 前記末端封止剤に由来する構造部分を0.1質量%以上5質量%以下含む前記<15>に記載のポリエステルフィルムである。
【0025】
<17> 前記<12>〜前記<16>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシートである。
【0026】
<18> 太陽光が入射する透明性のフロント基板と、
前記フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び前記太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、
前記セル構造部分の前記フロント基板が位置する側と反対側に設けられ、前記封止材と隣接して配置された、前記<17>に記載の太陽電池用バックシートと、
を備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐加水分解性および寸法安定性に優れたポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法、ならびに太陽電池用バックシートを提供することができる。また、発電性能が長期間安定な太陽電池モジュールを提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】2軸延伸機の上面図である。
【図2】横延伸工程におけるポリエステルフィルムの延伸態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却して、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形するフィルム成形工程と、前記ポリエステルフィルムを長手方向に縦延伸する縦延伸工程と、前記ポリエステルフィルムを予熱する予熱部、予熱されたポリエステルフィルムを少なくとも前記ポリエステルフィルムの長手方向と直交する方向に緊張を与えて横延伸する延伸部、緊張が与えられたポリエステルフィルムを該ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する熱固定部、及び、前記ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が、前記熱固定部における前記ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度よりも5℃以上低い温度となるように、前記熱固定されたポリエステルフィルムを加熱し、前記緊張を緩める熱緩和部に、前記ポリエステルフィルムをこの順に搬送して、少なくとも横延伸する横延伸工程と、を含む構成としたものである。
【0030】
本発明では、原料ポリエステルを溶融押出して固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形するとともに、得られたポリエステルフィルムについて、上記構成の縦延伸工程と横延伸工程とを経ることで、耐加水分解性および寸法安定性の両方に優れたポリエステルフィルムを製造することができる。
本発明のポリエステルの製造方法により耐加水分解性と寸法安定性を同時に達成することができる理由は明らかではないが、次の理由によるものと推察される。
【0031】
本発明者は、ポリエステルフィルム(以下、単に「フィルム」とも称する)の耐加水分解性は、フィルムに緊張を与え、ポリエステル分子を、分子の長さ方向に伸びた状態にすると良いことを見出した。一方、フィルムの寸法安定性は、ポリエステル分子同士の分子鎖間の間隔が縮まっていると良いことも見出した。これは、ポリエステル分子同士の分子鎖間の間隔が空いていると、分子間相互作用により分子鎖間が縮まるため、フィルムの寸法安定性が悪くなる(熱収縮率が大きくなる)ものと考えられる。
従って、ポリエステルフィルムの耐加水分解性と寸法安定性とを両立するには、例えば、フィルムに緊張を与え、ポリエステル分子の分子鎖間の距離は縮めないようにすることが考えられる。
【0032】
ここで、フィルムの延伸は、詳細は後述するが、一般に、ロールやクリップ等を備えた装置を用いて、フィルムを搬送すると共に、フィルムの搬送方向の延伸(縦延伸)および搬送方向と直交する方向の延伸(横延伸)を行なう。フィルムの横延伸を行なう工程では、フィルムを、延伸に備えフィルムを予め加熱する予熱部と、フィルムを延伸するためにフィルムに緊張を与える延伸部と、フィルムに緊張を与えたまま加熱する熱固定部と、フィルムの緊張を緩める熱緩和部と、に順次搬送して延伸する。
【0033】
横延伸の工程においては、延伸部でのフィルムの延伸によりフィルムに緊張が与えられるため、ポリエステル分子が伸びて、フィルムの耐加水分解性が向上する。一方で、フィルムの寸法安定性は悪く(熱収縮率が大きく)なる。これは、フィルムの延伸により、ポリエステル分子同士の分子鎖間も大きくなるためであると考えられる。
延伸部での延伸後に、熱緩和部でフィルムへの緊張を解くことで、フィルムの寸法安定性を向上することができる。フィルムが縮み、ポリエステル分子同士の分子鎖間が狭まるためと考えられる。一方で、フィルムへの緊張を解くことにより、耐加水分解性は悪くなる。これは、分子の長さ方向に伸びていたポリエステル分子が縮まるためと考えられる。
従って、従来の横延伸工程では、耐加水分解性と、寸法安定性との両立を図ることが困難であった。
【0034】
しかし、本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、まず、第一に、原料ポリエステルを溶融押出することにより得た固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを延伸とする。
ポリエステルの固有粘度が大きいほど、ポリエステル分子は大きくなり、ポリエステル分子の動きも鈍くなると考えられる。従って、延伸部においてフィルムに緊張を与えることにより分子の長さ方向に伸びたポリエステル分子は、フィルムの緊張が解かれても、分子の動きが鈍いために縮まり難いと考えられる。そのため、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを延伸した後に、緊張を解いて緩和しても耐加水分解性が低下しないと考えられる。
一方、ポリエステル分子同士の分子鎖間の距離は、ポリエステル分子自体の動きにはあまり影響なく、フィルムへの緊張を解くことで寸法安定性を向上し得ることが分かった。
【0035】
本発明では、緊張が与えられたフィルムを、フィルムの表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する。すなわち、フィルムに緊張を与えたまま、160℃〜210℃で加熱しておくことで、ポリエステル分子を縮ませることなく結晶化させ、ポリエステル分子を伸びた状態である程度固定化することができ、フィルムの耐加水分解性を向上することができる。さらに、熱固定後に、フィルムの表面の最高到達膜面温度が、熱固定部におけるフィルムの最高到達膜面温度よりも5℃以上低い温度となるように、熱固定したフィルムを加熱して、フィルムの前記緊張を緩めることで、ポリエステル分子を縮ませることなくポリエステル分子同士の分子鎖間を狭めることができ、フィルムの寸法安定性を向上することができると考えられる。
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法の詳細を、フィルム成形工程、原料ポリエステル、縦延伸工程、および、横延伸工程の各項目に分けて説明する。
【0036】
〔フィルム成形工程〕
フィルム成形工程は、原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却して、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形する工程である。
また、フィルム成形工程は、原料ポリエステルに対して、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を添加して溶融押出する工程を含むことが好ましい。末端封止剤の詳細は後述する。
原料ポリエステルを溶融押出する方法、及び原料ポリエステルは、原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却して得られるポリエステルフィルムの固有粘度が0.75以上となる方法ないしポリエステルであれば特に限定されないが、原料ポリエステルの合成に用いる触媒や、重合方法等により固有粘度を所望の固有粘度とすることができる。
まず、原料ポリエステルについて説明する。
【0037】
(原料ポリエステル)
原料ポリエステルは、ポリエステルフィルムの原料となり、ポリエステルを含んでいる材料であれば、特に制限されず、ポリエステルのほかに、無機粒子や有機粒子のスラリーを含んでいてもよい。また、原料ポリエステルは、触媒由来のチタン元素を含んでいてもよい。
原料ポリエステルに含まれるポリエステルの種類は特に制限されない。
多価カルボン酸(例えば、ジカルボン酸)成分と、多価アルコール(例えば、ジオール)成分とを用いて合成してもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0038】
ポリエステルを合成する場合は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
(A)ジカルボン酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0039】
(B)ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物が挙げられる。
【0040】
(A)ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、(B)ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0041】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0042】
−多官能モノマー−
本発明のポリエステルフィルムの製造方法に用いる原料であるポリエステルは、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマー(以下、「3官能以上の多官能モノマー」又は単に「多官能モノマー」ともいう)を含むことが好ましい。ポリエステルに、多官能モノマーを含めることで、ポリエステルフィルムに隣接する塗布材料との密着力に優れる。ポリエステルフィルムに隣接する塗布材料としては、ポリエステルフィルム上に塗布形成する塗布層が挙げられる。
このようにポリエステルフィルムと隣接する塗布材料との密着性が向上するのは、ポリエステルの重縮合に使用されなかった官能基が、ポリエステルフィルムに隣接する塗布材料の塗布層中の成分と水素結合ないし共有結合を形成するためと考えられる。
【0043】
原料ポリエステルは、多官能モノマーを共重合成分(3官能以上の構成成分)として含むことが好ましい。「多官能モノマーを共重合成分(3官能以上の構成成分)として含む」とは、多官能モノマーに由来の構成単位を含むことを意味する。
ポリエステルは、既述のように、例えば(A)ジカルボン酸成分と(B)ジオール成分とを周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができ、更に好ましくは、これに3官能以上の多官能モノマーを共重合させて得られる。
【0044】
カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーの例として、3官能の芳香族カルボン酸としては、例えば、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、3官能の脂肪族カルボン酸としては、例えば、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、4官能の芳香族カルボン酸としては、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ペリレンテトラカルボン酸等が、4官能の脂肪族カルボン酸として、例えば、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、5官能以上の芳香族カルボン酸として、例えば、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、5官能以上の脂肪族カルボン酸として、例えば、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられる。
本発明においては、これらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
また、上述のカルボン酸のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0046】
水酸基数(b)が3以上の多官能モノマーの例として、3官能の芳香族化合物としては、例えば、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリンが、3官能の脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオールが、4官能の脂肪族アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール等が挙げられる。また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた化合物も好ましく用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0047】
また、上記以外の他の多官能モノマーとして、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類も挙げられる。このようなオキシ酸類の例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、トリヒドロキシテレフタル酸などを挙げることができる。
また、これらの多官能モノマーのカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0048】
原料ポリエステルは、前記多官能モノマーの含有比率が、ポリエステル中の全モル数に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。多官能モノマーの含有比率は、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下であり、特に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下であり、最も好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0049】
ポリエステル中に3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位が存在することで、上記したように、最終的にポリエステルフィルムを成形した場合において、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位からポリエステル分子鎖を枝分かれされた構造が得られ、ポリエステル分子間の絡み合いを促すことができる。
【0050】
多官能モノマーは、ポリエステルの重合中、すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応工程中に添加すればよい。
【0051】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0052】
例えば、エステル化反応工程は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合する。このエステル化反応工程では、触媒であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体を用いると共に、工程中に少なくとも、有機キレートチタン錯体と、マグネシウム化合物と、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を設けて構成される。
【0053】
まず初めに、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する。有機キレートチタン錯体等のチタン化合物は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0054】
より好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。さらに、PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0055】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にポリエステルが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。すなわち、Ti系触媒を用いることで、熱分解の原因となるポリエステルの末端カルボン酸の量を低減することができ、異物形成を抑制することができる。ポリエステルの末端カルボン酸の量を低減しておくことで、ポリエステルフィルムを製造した後に、ポリエステルフィルムが熱分解することを抑制することもできる。
【0056】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0057】
ポリエステルを重合する際において、触媒としてチタン(Ti)化合物を、1ppm以上50ppm以下、より好ましくは2ppm以上30ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、原料ポリエステルには、1ppm以上50ppm以下のチタン元素が含まれる。
原料ポリエステルに含まれるチタン元素の量が1ppmよりも少ないと、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)を上げることができず、熱分解し易いため、押出機内で異物が増加し易く、好ましくない。原料ポリエステルに含まれるチタン元素の量が50ppmを超えると、Ti系触媒が異物となり、ポリエステルフィルムの延伸の際に、延伸むらを引き起こすため、好ましくない。
【0058】
[チタン化合物]
触媒成分であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種が用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0059】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステルが得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加する方法により、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシ基の少ないポリエステルが得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシ基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、上記の添加方法によって末端カルボキシ基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
【0060】
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0061】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0062】
エステル化反応させる際において、Ti触媒を用い、Ti添加量がTi元素換算値で1ppm以上30ppm以下、より好ましくは3ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは5ppm以上15ppm以下の範囲で重合反応させる態様が好ましい。チタン添加量は、1ppm以上であると、重合速度が速くなる点で有利であり、30ppm以下であると、良好な色調が得られる点で有利である。
【0063】
また、チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体以外には一般に、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機キレートチタン錯体に加えて、他のチタン化合物を併用してもよい。
このようなチタン化合物の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0064】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステルの製造方法によりポリエステルが作製されるのが好ましい。
【0065】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステルが得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステルに比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステルに比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステルを提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステルが得られる。
【0066】
このポリエステルは、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0067】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0068】
[リン化合物]
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。例えば、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が挙げられ、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0069】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは60ppm以上75ppm以下となる量である。
【0070】
[マグネシウム化合物]
ポリエステルにマグネシウム化合物を含めることにより、ポリエステルの静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0071】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0072】
エステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用するのみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0073】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステルを得ることができる。
【0074】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.0≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0075】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0076】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0077】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0078】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0079】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0080】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0081】
上記のようにして合成されたポリエステルには、光安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、核剤(結晶化剤)、結晶化阻害剤などの添加剤を更に含有させてもよい。
【0082】
ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、固相重合したペレットであることが好ましい。
エステル化反応により重合した後に、さらに固相重合することにより、ポリエステルフィルムの含水率、結晶化度、ポリエステルの酸価、すなわち、ポリエステルの末端カルボキシ基の濃度(Acid Value;AV)〔当量/トン〕、固有粘度(Interisic Viscosity;IV)〔dL/g〕を制御することができる。なお、本明細書中において、「当量/トン」は1トンあたりのモル当量を表す。
【0083】
本発明においては、ポリエステルフィルムの耐加水分解性と寸法安定性との両立の観点から、ポリエステルの固有粘度(IV)は、0.75以上とする。
ポリエステルの固有粘度(IV)は、0.75〜0.9であることが好ましい。
固有粘度が0.75以上であると、ポリエステルの分子運動が阻害されて結晶化しにくくすることができ、0.9以下であると、押出機内の剪断発熱によるポリエステルの熱分解が起こり過ぎず、結晶化を抑制し、また、酸価(AV)を低く抑えることができる。
IVは、0.75以上0.85以下であることがより好ましい。
【0084】
特に、エステル化反応において、Ti触媒を使用し、さらに固相重合して、ポリエステルの固有粘度(IV)を、0.75以上0.9以下とすることで、ポリエステルフィルムの製造工程における溶融樹脂の冷却工程において、ポリエステルが結晶化することを抑制し易い。
従って、縦延伸及び横延伸に適用するポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、固有粘度が0.75以上0.9以下であることが好ましく、さらに触媒(Ti触媒)由来のチタン原子を含有することが好ましい。
【0085】
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)を濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求められる。
【0086】
ポリエステルの固相重合には、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルを、ペレット状などの小片形状にしたものを、出発物質として用いればよい。
ポリエステルの固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、順次送り出す方法)でもよく、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。
ポリエステルの固相重合は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは180℃以上230℃以下で1時間以上50時間以下、より好ましくは5時間以上40時間以下、さらに好ましくは10時間以上30時間以下の条件で行なうのが好ましい。また、固相重合は、真空中あるいは窒素気流中で行なうことが好ましい。
【0087】
固相重合の温度は、170℃以上240℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以上230℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上220℃以下である。温度が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)がより大きく低減することの点で好ましい。また、固相重合時間は、5時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以上75時間以下であり、さらに好ましくは15時間以上50時間以下である。時間が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)と固有粘度(IV)の本発明の好ましい範囲に容易に制御できる点で好ましい。固相重合は、真空中あるいは窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0088】
(溶融押出)
本発明におけるフィルム成形工程では、上記のようにして得られる原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却してポリエステルフィルムを成形する。
原料ポリエステルの溶融押出は、例えば、1本または2本以上のスクリューを備えた押出機を用い、原料ポリエステルの融点以上の温度に加熱し、スクリューを回転させて行なう。原料ポリエステルは、加熱およびスクリューによる混練により、押出機内で溶融してメルトとなる。また、押出機内での熱分解(ポリエステルの加水分解)を抑制する観点から、押出機内を窒素置換して、原料ポリエステルの溶融押出しを行なうことが好ましい。
溶融された原料ポリエステル(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出す。押出ダイは、単に「ダイ」とも称する〔JIS B8650:2006、a)押出成形機、番号134参照〕。
このとき、メルトは、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0089】
ダイからメルト(ポリエステル)をキャスティングドラム上に押出すことで、フィルム状に成形(キャスト処理)することができる。
キャスト処理により得られるフィルム状のポリエステル成形体の厚みは、0.5mm〜5mmであることが好ましく、0.7mm〜4.7mmであることがより好ましくは、0.8mm〜4.6mmであることがさらに好ましい。
フィルム状のポリエステル成形体の厚みを5mm以下とすることで、メルトの蓄熱による冷却遅延を回避し、また、0.5mm以上とすることで、押出しから冷却までの間に、ポリエステル中のOH基やCOOH基がポリエステル内部に拡散され、加水分解発生の要因となるOH基及びCOOH基がポリエステル表面に露出することを抑制する。
【0090】
押出ダイから押出されたメルトを冷却する手段は、特に制限されず、メルトに冷風を当てたり、キャストドラム(冷却キャストドラム)に接触させたり、水を霧吹きすればよい。冷却手段は、1つのみ行なってもよいし、2つ以上を組み合わせて行なってもよい。
冷却手段は、上記の中でも、連続運転時のフィルム表面へのオリゴマー付着防止の観点から、冷風による冷却及びキャストドラムを用いた冷却の少なくとも一方が好ましい。さらには、押出機から押出されたメルトを冷風で冷却すると共に、メルトをキャストドラムに接触させて冷却することが特に好ましい。
【0091】
また、キャストドラム等を用いて冷却されたポリエステル成形体は、剥ぎ取りロール等の剥ぎ取り部材を用いて、キャストドラム等の冷却部材から剥ぎ取られる。
【0092】
−末端封止剤−
本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、フィルム成形工程が、原料ポリエステルと共に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を0.1質量%以上5質量%以下添加して溶融押出する工程を含むことが好ましい。つまり、原料ポリエステルの溶融押出にあたり、前記末端封止剤を併用することが好ましい。末端封止剤を併用することで、ポリエステル分子の末端が封止剤と反応し分子鎖の末端部分が嵩高くなり、得られるポリエステルフィルム表面の微細凹凸量が増えてアンカー効果が発現しやすくなり、ポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。
【0093】
末端封止剤の添加時期は、ポリエステルフィルムの原料の押出機への投入から押出までの段階であれば、特に制限はないが、末端封止剤は、原料ポリエステルを乾燥した後から、原料ポリエステルを押出機に投入し、スクリューで送られ、押出機から押出される前までの間に加えられ、原料ポリエステルと共に溶融混練に供されることが好ましい。
例えば、原料ポリエステルを乾燥した後、原料ポリエステルと共に、末端封止剤を押出機に投入してもよい。また、溶融混練を行なう押出機の原料投入口と、溶融状態のポリエステル(メルト)の排出口との間に末端封止剤を供給する供給口を設け、押出機内の原料ポリエステルに直接、末端封止剤を加えてもよい。このとき、末端封止剤は、加熱混練が開始されているが完全に溶融状態に達していないポリエステルに加えられてもよいし、溶融状態のポリエステル(メルト)に加えられてもよい。
【0094】
本発明における末端封止剤としては、カルボジイミド基、エポキシ基、又はオキサゾリン基を有する化合物が好ましい。末端封止剤の具体例としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン系化合物などを好適に挙げることができる。
【0095】
カルボジイミド基を有する前記カルボジイミド化合物は、1官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがある。1官能性カルボジイミドとしては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド及びジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられ、好ましくはジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
また、多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドは、一般に、「−R−N=C=N−」等で表される繰り返し単位を有し、前記Rは、アルキレン、アリーレン等の2価の連結基を表す。このような繰り返し単位としては、例えば、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4'−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド及び1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどが挙げられる。
【0096】
カルボジイミド化合物は、熱分解によるイソシアネート系ガスの発生が抑えられる点で、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくは、カルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、原料ポリエステルを溶融押出する温度を下げることで、カルボジイミド化合物による耐候性の向上効果及び熱収縮の低減効果がより効果的に得られる。
【0097】
カルボジイミド化合物を用いたポリエステルフィルムは、温度300℃で30分間保持した際のイソシアネート系ガスの発生量が0〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスの発生量が0.02質量%以下であると、ポリエステルフィルム中に気泡(ボイド)が生成され難く、したがって応力集中する部位が形成されにくいため、ポリエステルフィルム内に生じやすい破壊や剥離を防ぐことができる。これにより、隣接する材料との間の密着が良好になる。
ここで、イソシアネート系ガスは、イソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。
【0098】
エポキシ基を有する前記エポキシ化合物としては、好ましい例として、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0099】
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル及びピロメリット酸テトラグリシジルエステル等を挙げられる。
【0100】
また、グリシジルエーテル化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエ−テル、O−フェニルグリシジルエ−テル、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ブタン、1,6−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ベンゼン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−エトキシエタン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−ベンジルオキシエタン、2,2−ビス−[р−(β,γ−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン及び2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるビスグリシジルポリエーテルなどが挙げられる。
【0101】
前記オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができるが、その中ではビスオキサゾリン化合物が好ましい。
ビスオキサゾリン化合物としては、例えば、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4'−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−9,9'−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)及び2,2'−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性が良好で耐候性の向上効果が高い観点から、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましい。
ビスオキサゾリン化合物は、本発明の効果を損なわない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
末端封止剤のポリエステルに対する量としては、原料ポリエステルの全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。末端封止剤の原料ポリエステルに対する好ましい量は、0.3質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
末端封止剤の添加比率が0.1質量%以上であることで、AV低下効果による耐候性向上を達成できる上、低熱収縮性も付与することができる。また、末端封止剤の添加比率が5質量%以下であると、末端封止剤の添加によるポリエステルのガラス転移温度(Tg)の低下が抑制され、これによる耐候性の低下や熱収縮の増加を抑制することができる。これは、Tgが低下した分、相対的にポリエステルの反応性が増加することで生じる加水分解性の増加を抑制したり、Tg低下で増加するポリエステル分子の運動性が増加し易くなることで生じる熱収縮が抑制されるためである。
【0103】
〔縦延伸工程〕
本発明の縦延伸工程は、フィルム成形工程により得られた固有粘度0.75以上のポリエステルフィルムを、ポリエステルフィルムの長手方向に縦延伸する工程である。
フィルムの縦延伸は、例えば、フィルムを挟む1対のニップロールにフィルムを通して、フィルムの長手方向にフィルムを搬送しながら、フィルムの搬送方向に並べた2対以上のニップロールでフィルムを用いて行なうことができる。
具体的には、例えば、フィルムの搬送方向上流側に1対のニップロールA、下流側に1対のニップロールBを設置したとき、フィルムを搬送する際に、下流側のニップロールBの回転速度を、上流側のニップロールAの回転速度より速くすることで、フィルムが搬送方向(MD;Machine Direction)に延伸される。
なお、上流側、下流側、それぞれに、各々独立に、2対以上のニップロールを設置してもよい。
また、ポリエステルフィルムの縦延伸は、上記ニップロールを備えた縦延伸装置を用いて行なってもよい。
【0104】
縦延伸工程において、ポリエステルフィルムの面積延伸倍率(各延伸倍率の積)は、延伸前のポリエステルフィルムの面積の6倍〜18倍が好ましく、8倍〜17.5倍であることがより好ましく、10倍〜17倍であることがさらに好ましい。
ポリエステルフィルムの縦延伸時の温度(以下、「縦延伸温度」とも称する)は、ポリエステルフィルムのガラス転移温度をTgとするとき、Tg−20℃以上Tg+50℃以下であることが好ましく、より好ましくはTg−10℃以上Tg+40℃以下、さらに好ましくはTg以上Tg+30℃以下である。
【0105】
なお、ポリエステルフィルムを加熱する手段としては、ニップロール等のロールを用いて延伸する場合は、ロール内部にヒーターや温溶媒を流すことのできる配管を設けることで、ロールに接するポリエステルフィルムを加熱することができる。また、ロールを用いない場合においても、ポリエステルフィルムに温風を吹きかけたり、ヒーター等の熱源に接触させ、又は熱源の近傍を通過させることにより、ポリエステルフィルムを加熱することができる。
【0106】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、縦延伸工程とは別に、後述する横延伸工程を含む。従って、本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、ポリエステルフィルムを、ポリエステルフィルムの長手方向(搬送方向、MD)と、ポリエステルフィルムの長手方向と直交する方向(TD;Transverse Direction)との少なくとも2軸に延伸する。また、MD方向およびTD方向への延伸は、各々、少なくとも1回ずつ行なえばよい。
なお、「ポリエステルフィルムの長手方向(搬送方向、MD)と直交する方向(TD)」とは、ポリエステルフィルムの長手方向(搬送方向、MD)と垂直(90°)の角度の方向を意図するものであるが、機械誤差の範囲の方向であってもよい。機械誤差の範囲とは、ポリエステルの長手方向(搬送方向、MD)と垂直とみなせる角度(90°±5°)の方向をいう。
【0107】
2軸延伸する方法としては、縦延伸と横延伸とを分離して行なう逐次2軸延伸方法のほか、縦延伸と横延伸を同時に行なう同時2軸延伸方法のいずれであってもよい。
縦延伸と横延伸とは、各々独立に2回以上行なってもよく、縦延伸と横延伸の順序は問わない。例えば、縦延伸→横延伸、縦延伸→横延伸→縦延伸、縦延伸→縦延伸→横延伸、横延伸→縦延伸などの延伸態様が挙げられる。中でも縦延伸→横延伸が好ましい。
次に、本発明における横延伸工程について、詳細に説明する。
【0108】
〔横延伸工程〕
本発明の横延伸工程は、フィルム成形工程により得られた固有粘度0.75以上のポリエステルフィルムを予熱する予熱部、予熱されたポリエステルフィルムを少なくともポリエステルフィルムの長手方向と直交する方向に緊張を与えて、ポリエステルフィルムを横延伸する延伸部、緊張が与えられたポリエステルフィルムを該ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する熱固定部、及び、ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が、熱固定部におけるポリエステルフィルムの最高到達膜面温度よりも5℃以上低い温度となるように、熱固定したポリエステルフィルムを加熱し、緊張を緩める熱緩和部に、ポリエステルフィルムをこの順に搬送して、少なくとも横延伸する工程である。
横延伸工程は、上記構成でポリエステルフィルムが少なくとも横延伸されれば、その実現手段は制限されないが、上記構成の処理を可能とする横延伸装置または2軸延伸機を用いて行なうことが好ましい。
また、横延伸工程では、更に、熱緩和部を経たポリエステルフィルムを冷却することが好ましい。
以下、2軸延伸機の説明に即して横延伸工程の詳細を説明する。
【0109】
(2軸延伸機)
図1に、2軸延伸機の一例(上面図)を示す。
図1には、2軸延伸機100と、2軸延伸機100に装着されたポリエステルフィルム200とが示されている。2軸延伸機100は、1対の環状レール60aおよび60bを備え、ポリエステルフィルム200を挟んで対称に並んでいる。
【0110】
2軸延伸機100は、ポリエステルフィルム200を予熱する予熱部10と、ポリエステルフィルム200を、矢印MD方向と直交する方向である矢印TD方向に延伸してポリエステルフィルムに緊張を与える延伸部20と、緊張が与えられたポリエステルフィルムに緊張を与えたまま加熱する熱固定部30と、熱固定したポリエステルフィルムを加熱して熱固定したポリエステルフィルムの緊張を緩める熱緩和部40と、熱緩和部を経たポリエステルフィルムを冷却する冷却部50と、に分けられる。
【0111】
環状レール60aは、環状レール60aの縁を移動可能な把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び、2jを少なくとも備え、環状レール60bは、環状レール60bの縁を移動可能な把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び、2lを少なくとも備えている。把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び、2jは、ポリエステルフィルム200のTD方向の一方の端部を把持し、把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び、2lは、ポリエステルフィルム200のTD方向の他方の端部を把持している。把持部材2a〜2lは、一般に、チャック、クリップ等と称される。
把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び、2jは、環状レール60aの縁に沿って反時計回りに移動し、把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び、2lは、環状レール60bの縁に沿って時計回りに移動する。
【0112】
把持部材2a〜2dは、予熱部10においてポリエステルフィルム200の端部を把持し、そのまま、環状レール60aまたは60bの縁を移動し、延伸部20や、把持部材2e〜2hが示される熱緩和部40を経て、把持部材2i〜2lが示される冷却部50まで進む。その後、把持部材2aおよび2bと、把持部材2cおよび2dとは、搬送方向順に、冷却部50のMD方向下流側の端部でポリエステルフィルム200の端部を離し、そのまま、環状レール60aまたは60bの縁に沿って進行し、予熱部10に戻る。
その結果、ポリエステルフィルム200は、図1における矢印MD方向に移動し、予熱部10と、延伸部20と、熱固定部30と、熱緩和部40と、冷却部50とに、順に搬送される。
把持部材2a〜2lの移動速度が、ポリエステルフィルム200の把持部分における搬送速度となる。
【0113】
把持部材2a〜2lは、各々独立に、移動速度を変化することができる。
従って、2軸延伸機100は、延伸部20において、ポリエステルフィルム200をTD方向に延伸する横延伸を可能とするものであるが、把持部材2a〜2lの移動速度を変化させることにより、ポリエステルフィルム200をMD方向にも延伸することができる。
すなわち、2軸延伸機100を用いて同時2軸延伸を行なうことも可能である。
【0114】
ポリエステルフィルム200のTD方向の端部を把持する把持部材は、図1では、2a〜2lの12個のみを図示しているが、ポリエステルフィルム200を支えるため、2軸延伸機100は、2a〜2lのほかにも、図示しない把持部材を有する。
なお、以下、把持部材2a〜2lを、「把持部材2」と総称することもある。
【0115】
(予熱部)
予熱部10では、ポリエステルフィルム200を予熱する。ポリエステルフィルム200を延伸する前に予め加熱して、ポリエステルフィルム200の横延伸を容易にする。
予熱部終了点における膜面温度(以下、「予熱温度」とも称する)は、ポリエステルフィルム200のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−10℃〜Tg+60℃であることが好ましく、Tg℃〜Tg+50℃であることがより好ましい。
なお、予熱部終了点は、ポリエステルフィルム200の予熱を終了する時点、すなわち、予熱部10の領域からポリエステルフィルム200が離れる位置をいう。
【0116】
(延伸部)
延伸部20では、予熱されたポリエステルフィルム200を、少なくともポリエステルフィルム200の長手方向(搬送方向、MD)と直交する方向(TD)に横延伸してポリエステルフィルム200に緊張を与える。
ポリエステルフィルム200の長手方向(搬送方向、MD)と直交する方向(TD)への延伸(横延伸)は、既述のように、ポリエステルフィルム200の長手方向(搬送方向、MD)と垂直(90°)の角度の方向に延伸することを意図するものであるが、機械誤差の範囲の方向であってもよい。機械誤差の範囲とは、ポリエステルの長手方向(搬送方向、MD)と垂直とみなせる角度(90°±5°)の方向である。
【0117】
延伸部20において、ポリエステルフィルム200に与える横延伸のための緊張(延伸張力)は、0.1t/m〜6.0t/mである。
また、ポリエステルフィルム200の面積延伸倍率(各延伸倍率の積)は、延伸前のポリエステルフィルム200の面積の6倍〜18倍が好ましく、8倍〜17.5倍であることがより好ましく、10倍〜17倍であることがさらに好ましい。
また、ポリエステルフィルム200の横延伸時の膜面温度(以下、「横延伸温度」とも称する)は、ポリエステルフィルム200のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−10℃以上Tg+100℃以下であることが好ましく、より好ましくはTg℃以上Tg+90℃以下、さらに好ましくはTg+10℃以上Tg+80℃以下である。
【0118】
既述のように、把持部材2(把持部材2a〜2l)は、各々独立に、移動速度を変化することができ、例えば、予熱部10における把持部材2の移動速度よりも、延伸部20、熱固定部30等の延伸部20MD方向下流側における把持部材2の移動速度を速めることで、ポリエステルフィルム200を、搬送方向(MD)に延伸する縦延伸を併せて行なうことも可能である。
横延伸工程におけるポリエステルフィルム200の縦延伸は、延伸部20のみで行なってもよいし、後述する熱固定部30、熱緩和部40、または、冷却部50で行なってもよい。複数の箇所で縦延伸を行なってもよい。
【0119】
(熱固定部)
熱固定部30では、緊張が与えられたポリエステルフィルム200を、ポリエステルフィルム200の表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する。
熱固定とは、延伸部20においてポリエステルフィルム200に緊張を与えたまま、特定の温度で加熱することをいい、本発明では、ポリエステルフィルム200の表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱する。
緊張の与えられたポリエステルフィルム200を表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱することで、ポリエステル分子の結晶を配向させて、耐加水分解性を付与することができる。
【0120】
熱固定時におけるポリエステルフィルム200の表面の最高到達膜面温度(以下、「熱固定温度」、「T熱固定」とも称する)が160℃よりも低いと、ポリエステルがほとんど結晶化しないため、ポリエステル分子を伸びた状態で固定化することができず、耐加水分解性を十分向上することができない。また、熱固定温度が210℃よりも高いと、ポリエステル分子同士の絡み合い箇所で滑りが生じ、ポリエステル分子が縮んでしまい、耐加水分解性を十分向上することができない。
熱固定温度は、170℃〜200℃であることが好ましく、175℃〜195℃であることがより好ましい。
なお、熱固定温度は、ポリエステルフィルム200の表面に熱電対を接触させることで測定することができる。
【0121】
(熱緩和部)
熱緩和部40では、ポリエステルフィルム200の表面の最高到達膜面温度が、熱固定部30におけるポリエステルフィルム200の最高到達膜面温度(T熱固定)よりも5℃以上低い温度となるように、ポリエステルフィルム200を加熱して、ポリエステルフィルム200に与えられている緊張を緩める。
以下、熱緩和時におけるポリエステルフィルム200の表面の最高到達膜面温度を「熱緩和温度」(T熱緩和)とも称する。
熱緩和部40において、熱緩和温度(T熱緩和)を、熱固定温度(T熱固定)よりも5℃以上低い温度(T熱緩和≦T熱固定−5℃)で加熱して緊張を解く(延伸張力を小さくする)ことで、ポリエステルフィルムの寸法安定性を向上することができる。
【0122】
熱緩和温度(T熱緩和)が、「T熱固定−5℃」よりも高い温度であると、緩和工程でポリエステル分子の伸びが縮んでしまい、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が低下する。
一方、熱緩和温度(T熱緩和)が、100℃以下になると、ポリエステル分子同士の分子鎖間を縮めにくく、寸法安定性を良化しにくいため、熱緩和温度(T熱緩和)は100℃以上であることが好ましい。
熱緩和温度(T熱緩和)は、100℃以上、かつ、熱固定温度(T熱固定)よりも15℃以上低い温度(100℃≦T熱緩和≦T熱固定−15℃)であることがより好ましく、110℃以上、かつ、熱固定温度(T熱固定)よりも25℃以上低い温度(110℃≦T熱緩和≦T熱固定−25℃)であることがさらに好ましく、120℃以上、かつ、熱固定温度(T熱固定)よりも30℃以上低い温度(120℃≦T熱緩和≦T熱固定−30℃)であることがより好ましい。
なお、熱緩和温度は、ポリエステルフィルム200の表面に熱電対を接触させることで測定することができる。
【0123】
また、熱緩和部40においては、少なくともポリエステルフィルム200のTD方向における緩和を行なう。かかる処理により、緊張が与えられたポリエステルフィルム200は、TD方向に縮む。
TD方向の緩和は、延伸部20においてポリエステルフィルム200に与えた延伸張力を2%〜90%弱めればよい。本発明においては、40%とすることが好ましい。
【0124】
(冷却部)
冷却部50では、熱緩和部40を経たポリエステルフィルム200を冷却する。
熱固定部30や熱緩和部40で加熱されたポリエステルフィルム200を冷却することにより、ポリエステルフィルム200の形状を固定化することができる。
冷却部50におけるポリエステル200の冷却部出口の膜面温度(以下、「冷却温度」ともいう)は、ポリエステルフィルム200のガラス転移温度Tg+50℃よりも低いことが好ましい。具体的には、25℃〜110℃であることが好ましく、より好ましくは25℃〜95℃、さらに好ましくは25℃〜80℃である。
上記範囲であることで、クリップ把持を解いたあとフィルムが不均一に縮むことを防止することができる。
ここで、冷却部出口とは、ポリエステル200が冷却部50から離れるときの、冷却部50の端部をいい、ポリエステルフィルム200を把持する把持部材2(図1では、把持部材2jおよび2l)が、ポリエステルフィルム200を離すときの位置をいう。
【0125】
なお、横延伸工程における予熱、延伸、熱固定、熱緩和、及び冷却において、ポリエステルフィルム200を加熱し、または冷却する温度制御手段としては、ポリエステルフィルム200に温風や冷風を吹きかけたり、ポリエステルフィルム200を、温度制御可能な金属板の表面に接触させ、又は前記金属板の近傍を通過させることが挙げられる
【0126】
(フィルムの回収)
冷却されたポリエステルフィルム200は、TD方向両端の把持部分をカットし、ロール状に巻き取られる。
【0127】
横延伸工程においては、製造されるポリエステルフィルムの耐加水分解性及び寸法安定性を、より高めるために、次の手法により、延伸したポリエステルフィルムの緩和を行なうことが好ましい。
【0128】
既述のように、横延伸工程は、縦延伸工程の後に行なうことが好ましい。
このように、横延伸工程を縦延伸工程の後に行なった後、冷却部50でMD方向の緩和を行なう場合、次のようにして行なうことができる。
まず、予熱部10においてポリエステルフィルム200の幅方向(TD)の両端部を、片端部につき、少なくとも2つの把持部材を用いて把持する。例えば、ポリエステルフィルム200の幅方向(TD)の片端部の一方を把持部材2aおよび2bで把持し、他方を把持部材2cおよび2dで把持する。次いで、把持部材2a〜2dを移動させることにより、予熱部10から冷却部50までポリエステルフィルム200を搬送する。
【0129】
かかる搬送において、予熱部10におけるポリエステルフィルム200の幅方向(TD方向)の片端部を把持する把持部材2a(2c)(前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材)と、把持部材2a(2c)に隣接する他の把持部材2b(2d)(前記2つの把持部材のうちの他方の把持部材)との間隔よりも、冷却部50におけるポリエステルフィルム200の幅方向の片端部を把持する把持部材2a(2c)(前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材)と、把持部材2a(2c)に隣接する他の把持部材2b(2d)(前記2つの把持部材のうちの他方の把持部材)との間隔を狭めることで、ポリエステルフィルム200の搬送速度を小さくする。かかる手法によって、冷却部50でMD方向の緩和を行なうことができる。
【0130】
ポリエステルフィルム200のMD方向の緩和は、熱固定部30、熱緩和部40、及び冷却部50の少なくとも一部において行なうことができる。
上記のように、把持部材2a−2b間の間隔、及び把持部材2c−2d間の間隔を、MD方向上流側よりも下流側で狭めることで、ポリエステルフィルム200のMD方向の緩和を行なうことができる。従って、MD方向の緩和を熱固定部30または熱緩和部40で行なう場合は、把持部材2a〜2dが熱固定部30または熱緩和部40に到達したときに、把持部材2a〜2dの移動速度を遅くして、ポリエステルフィルム200の搬送速度を小さくし、把持部材2a−2b間の間隔、及び把持部材2c−2d間の間隔を、予熱部における間隔よりも狭めればよい。
【0131】
このように、横延伸工程において、ポリエステルフィルム200のTD方向の延伸(横延伸)およびTD方向の緩和をすると共に、MD方向の延伸(縦延伸)およびMD方向の緩和をすることで、耐加水分解性を向上しつつ、寸法安定性を改良することができる。
ポリエステルフィルム200のTD方向の緩和およびMD方向の緩和は、ポリエステルフィルム200の搬送速度と、ポリエステルフィルム200の幅(TD方向の長さ)を次のように制御することによって行なうことが好ましい。
【0132】
すなわち、横延伸工程を、縦延伸工程の後に行い、横延伸工程におけるポリエステルフィルム200の幅が最大になるときのポリエステルフィルム200の幅L1と、冷却部50からポリエステルフィルム200が離れる冷却部50の端部におけるポリエステルフィルム200の幅L2とが、下記式(1)を満たし、かつ、予熱部10におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S1と、冷却部50の前記端部におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S2とが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0133】
【数2】




【0134】
ここで、「横延伸工程におけるポリエステルフィルム200の幅が最大になるときのポリエステルフィルム200の幅L1」は、ポリエステルフィルム200が延伸部20でTD方向に拡幅された後の、ポリエステルフィルム200のTD方向の最大の長さである。
図1においては、予熱部10における延伸前のポリエステルフィルム200の幅L0が、延伸部20によりポリエステルフィルム200がTD方向に拡幅されて幅L1となり、熱緩和部40で緊張が解かれて、ポリエステルフィルム200が冷却部50から離れるときに幅L2となっていることが示されている。図1においては、L0<L2<L1の順に幅が大きい。すなわち、L1は、予熱部10〜冷却部50に至る横延伸工程におけるポリエステルフィルム200の最大の幅である。
図1に示すように、延伸部20を過ぎたポリエステルフィルム200は、その後、熱固定部30にて、緊張が与えられたまま加熱されるため、通常、幅L1は、熱固定部30におけるポリエステルフィルム200の幅(TD方向の長さ)ともいえる。
また、「ポリエステルフィルム200が離れる冷却部50の端部におけるポリエステルフィルム200の幅L2」は、冷却部50に位置し、ポリエステルフィルム200を把持する把持部材2(図1では、把持部材2jおよび2l)が、ポリエステルフィルム200を離すときにおけるポリエステルフィルム200の幅である。
ポリエステルフィルム200を把持する把持部材2が、ポリエステルフィルム200を離すことで、ポリエステルフィルム200は、冷却部50の領域から離れる。例えば、把持部材2jがP点において、また、把持部材2lがQ点において、それぞれ、ポリエステルフィルム200を離すとき、冷却部50の端部(MD方向の端部)は、P点とQ点とを結んだ直線で表される。
【0135】
「予熱部10におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S1」は、ポリエステルフィルム200を把持して環状レール60の縁を移動する把持部材2(図1では、2a〜2d)の移動速度に相当する。
また、「冷却部50の前記端部におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S2」は、冷却部50に位置し、ポリエステルフィルム200を把持する把持部材2(図1では、把持部材2jおよび2l)が、ポリエステルフィルム200を離すときにおけるポリエステルフィルム200の搬送速度である。換言すると、例えば、把持部材2jがP点において、また、把持部材2lがQ点において、それぞれ、ポリエステルフィルム200を離すとき、「冷却部50の前記端部におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S2」は、ポリエステルフィルム200がP点とQ点とを結んだ直線を超えるときの搬送速度に相当する。さらに換言すると、「冷却部50の前記端部におけるポリエステルフィルム200の搬送速度S2」は、把持部材2jおよび2lが、ポリエステルフィルム200を離す直前の把持部材2jおよび2lの移動速度に相当する。
【0136】
式(1)は、ポリエステルフィルム200を延伸した後、TD方向に緩和するときは、ポリエステルフィルム200の最大の幅(TD方向の長さ)L1が、冷却部50において2%〜15%縮まるように緩和することが好ましいことを意味する。
式(2)は、ポリエステルフィルム200をMD方向に緩和するときは、ポリエステルフィルム200の予熱部10における搬送速度S1が、冷却部50において2%〜15%減速するように緩和することが好ましいことを意味する。
横延伸工程を、上記構成とすることで、耐加水分解性を向上しつつ、寸法安定性を改良することができる。
【0137】
【数3】





【0138】
ΔLは、ポリエステルフィルムのTD方向(横方向)の緩和率を示すことから、ΔLを「横方向の緩和率」とも称する。また、ΔSは、ポリエステルフィルムのMD方向(縦方向)の緩和率を示すことから、ΔSを「縦方向の緩和率」とも称する。
【0139】
L1とL2との関係、及び、S1とS2との関係を、上記のように示す場合、ΔLは、2%〜10%(2%≦ΔL≦10%)であることが好ましく、3%〜8%(3%≦ΔL≦8%)であることがより好ましい。また、ΔSは、2%〜10%(2%≦ΔS≦10%)であることが好ましく、3%〜8%(3%≦ΔS≦8%)であることがより好ましい。
【0140】
なお、横延伸工程は、既述のように、ポリエステルフィルムの横延伸に特化した横延伸装置を用いて行なってもよい。横延伸装置は、図示していないが、MD方向の延伸(縦延伸)をしない他は、2軸延伸機と同様の構造を有しており、ポリエステルフィルムを把持する把持部材、及び、把持部材を有するレールを備える。横延伸装置が少なくとも予熱部、延伸部、熱固定部、及び熱緩和部で構成されていること、及びその機能についても、既述の2軸延伸機と同様である。
【0141】
ところで、横延伸の対象となるポリエステルフィルム200が、横延伸により得られるポリエステルフィルムの厚みが200μm以上となるような、厚手のフィルム(例えば、700μm以上)である場合、大きな延伸張力を必要とするため、横延伸において、大きな負荷がかかり、2軸延伸機や横延伸装置が故障することがあった。
かかる問題を解決すべく、ポリエステルフィルム200について横延伸を行なう場合は、次のようにして行なうことが好ましい。
【0142】
すなわち、延伸部20におけるポリエステルフィルム200の搬送方向(MD)と、延伸部20におけるポリエステルフィルム200の幅方向(TD)の端部の進行方向と、がなす角度を延伸角度θ〔°〕とするとき、延伸部20におけるポリエステルフィルム200の横延伸を開始する位置Xでの延伸角度θx〔°〕と、延伸部20におけるポリエステルフィルム200の横延伸を終了する位置Zでの延伸角度θz〔°〕と、延伸部20における位置Xと位置Zとの中間の位置Yでの延伸角度θy〔°〕とが、下記式(3)を満たし、横延伸終了後の厚みが200μm以上のポリエステルフィルムが得られるように、ポリエステル200を延伸することが好ましい。
0<θx≦θz<θy<10 (3)
【0143】
上記横延伸の詳細を、図2を用いて説明する。
図2は、横延伸工程におけるポリエステルフィルムの延伸態様を示す模式図である。
図2に示す202a及び、202bは、横延伸工程において横延伸されているポリエステルフィルムのTD方向端部の軌跡を示す。
【0144】
図2において、点Aは、ポリエステルフィルムが予熱部に位置し、横延伸されていない状態におけるポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部の位置である。点Bは、ポリエステルフィルムが熱固定部に位置し、横延伸が完了した状態におけるポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部の位置である。
点X、点Y、及び点Zは、ポリエステルフィルムが延伸部に位置し、ポリエステルフィルムが幅方向(TD)に拡幅されている最中のポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部の位置である。
ポリエステルフィルムの幅方向(TD)端部は、点Aから、点X、点Y、点Z、を経て点Bに到達する。
【0145】
点X、点Y、及び点Zの位置について、より詳しく説明する。
点Xは、延伸部におけるポリエステルフィルムの横延伸を開始する位置であり、点Zは、延伸部におけるポリエステルフィルムの横延伸を終了する位置である。
ここで、「延伸部におけるポリエステルフィルムの横延伸を開始する位置」は、具体的には、延伸部のMD方向の長さをMとしたとき、延伸部のMD方向の上流側の端部からMの10%の位置をいう。また、「延伸部におけるポリエステルフィルムの横延伸を終了する位置」とは、延伸部のMD方向の下流側の端部からMの10%の位置をいう。
点Yは、点Xの位置と、点Zの位置との中間の位置である。
【0146】
ポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部が点X(位置X)にある場合、ポリエステルフィルムの幅方向の端部の点X(位置X)における進行方向は、点Xにおける接線の矢印方向(γx)で表される。
従って、延伸部におけるポリエステルフィルムの搬送方向(MD)と、延伸部におけるポリエステルフィルムの幅方向の端部の進行方向と、がなす角度を延伸角度θ〔°〕とするとき、位置X(点X)での延伸角度θx〔°〕は、MDとγxとのなす角度として表される。
【0147】
同様に、ポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部が点Y(位置Y)にある場合、ポリエステルフィルムの幅方向の端部の点Y(位置Y)における進行方向は、点Y(位置Y)における接線の矢印方向(γy)で表される。また、ポリエステルフィルムの幅方向(TD)の片端部が点Z(位置Z)にある場合、ポリエステルフィルムの幅方向の端部の点Z(位置Z)における進行方向は、点Z(位置Z)における接線の矢印方向(γz)で表される。
【0148】
従って、位置Y(点Y)での延伸角度θy〔°〕は、MDとγyとのなす角度として表され、位置Z(点Z)での延伸角度θz〔°〕は、MDとγzとのなす角度として表される。
【0149】
さらに、θx〔°〕と、θy〔°〕と、θz〔°〕とが式(3)を満たすことが好ましい。
ポリエステルフィルムの横延伸を上記構成で行なって、厚みが200μm以上のポリエステルフィルムを得ることで、2軸延伸機や横延伸装置に生じ得る大きな負荷を低減することができる。
【0150】
式(3)は、下記式(3−1)で表されることが好ましく、下記式(3−2)で表されることがより好ましい。
0.5≦θx≦θz<θy≦8.0 (3−1)
1.0≦θx≦θz<θy≦7.0 (3−2)
【0151】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、既述の本発明のポリエステルフィルムの製造方法により製造されたポリエステルフィルムであれば特に制限されないが、次の構成を有することが好ましい。
すなわち、本発明のポリエステルフィルムは、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムは、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を含むことが好ましい。
ポリエステルフィルムが、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位を含むことで、ポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。また、ポリエステルフィルムが、末端封止剤に由来する構造部分を含むことによっても、ポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。
【0152】
既述のように、本発明のポリエステルフィルムの原料としてのポリエステル(原料ポリエステル)は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができ、更に好ましくは、これに3官能以上の多官能モノマーを共重合させて得られたものであることが好ましい。ジカルボン酸成分、ジオール成分、及び多官能モノマー等の例示や好ましい態様などの詳細については、既述のとおりである。
【0153】
−多官能モノマーに由来の構成単位−
カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーに由来の構成単位としては、カルボン酸基の数(a)が3以上のカルボン酸並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマー、並びに「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類」などを挙げることができる。これらの例示及び好ましい態様などの詳細については、既述のとおりである。
また、前記カルボン酸のカルボキシ末端、又は前記「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有する多官能モノマー」のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適である。
これらは、一種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0154】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、前記3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステルフィルム中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率は、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下であり、特に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下であり、最も好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0155】
ポリエステルフィルム中に3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位が存在することで、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位からポリエステル分子鎖を枝分かれされた構造が得られ、ポリエステル分子間の絡み合いを促すことができる。その結果、高温高湿環境下に曝されてポリエステル分子が加水分解し分子量が低下しても、ポリエステル分子間に絡み合いが形成されていることにより、ポリエステルフィルムの脆化が抑制され、より優れた耐候性が得られる。さらに、このような絡み合いは、熱収縮の抑制にも有効である。これは、上記のポリエステル分子の絡み合いによりポリエステル分子の運動性が低下するため、熱で分子が収縮しようとしても収縮できず、ポリエステルフィルムの熱収縮が抑制されたものと推定される。
したがって、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が0.005モル%以上であることで、耐候性、低熱収縮性がさらに向上し易い。また、3官以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が2.5モル%以下であることで、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位は嵩高いため、結晶形成し難くなるのが抑制される。その結果として、結晶を介して形成される低移動成分の形成を促し、加水分解性が低下するのを抑制することができる。さらに、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の嵩高さにより、増加する自由体積(分子間の隙間)が抑制され、大きな自由体積中をポリエステル分子がすり抜けることで発生する熱収縮を抑制することができる。また、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の添加過剰に伴なうガラス転移温度(Tg)の低下も抑制され、耐候性の低下防止にも有効である。
【0156】
−末端封止剤に由来する構造部分−
本発明のポリエステルフィルムは、更に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる末端封止剤に由来する構造部分を有していることが好ましい。なお、「末端封止剤に由来する構造部分」とは、末端封止剤がポリエステル末端のカルボン酸と反応して末端に結合している構造をさす。
【0157】
末端封止剤がポリエステルフィルム中に含められると、末端封止剤はポリエステル末端のカルボン酸と反応し、ポリエステル末端に結合して存在するため、末端COOH量(AV値)を、既述の好ましい範囲など所望とする値に安定的に維持し易くなる。すなわち、末端カルボン酸により促進されるポリエステルの加水分解が抑制され、耐候性を高く保つことができる。さらに、末端封止剤は嵩高く、ポリエステル分子が自由体積中をすり抜けて移動するのを抑制する。その結果、分子の移動を伴なう熱収縮を抑制する効果も有する。
【0158】
「末端封止剤に由来する構造部分」を構成する末端封止剤は、1種単独であってもよく、2種以上の組合せでもよい。
末端封止剤に由来する構造部分は、ポリエステルフィルムに対して、0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含有されていることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
末端封止剤に由来する構造部分の含有比率が0.1質量%以上であることで、AV低下効果による耐候性向上を達成できる上、低熱収縮性も付与することができる。また、末端封止剤に由来する構造部分の含有比率が5質量%以下であると、末端封止剤の添加によるポリエステルのガラス転移温度(Tg)の低下が抑制され、これによる耐候性の低下や熱収縮の増加を抑制することができる。これは、Tgが低下した分、相対的にポリエステルの反応性が増加することで生じる加水分解性の増加を抑制したり、Tg低下で増加するポリエステル分子の運動性が増加し易くなることで生じる熱収縮が抑制されるためである。
末端封止剤の好ましい態様については既述のとおりである。
【0159】
(ポリエステルフィルムの物性)
本発明のポリエステルフィルムの製造方法における既述の延伸工程および横延伸工程を経て得られたポリエステルフィルムは、30分間150℃で加熱する加熱条件における熱収縮率が2.0%以下であることが好ましい。
一般にポリエステルは、ガラスに比べて、熱膨張係数や吸湿膨張係数が大きいために温湿度変化で応力がかかりやすく、ひび割れや層の剥がれを招来しやすい傾向があるが、熱収縮率が上記範囲内であることにより、ポリエステルフィルムに貼り付けられた機能性の部材シートの剥離や、ポリエステルフィルムに塗布形成した層のひび割れ等を防止することができる。
既述の本発明のポリエステルフィルムの製造方法を実施することにより、上記熱収縮率を実現することができ、特に、横延伸工程における熱固定および熱緩和における加熱温度(T熱固定およびT熱緩和の少なくとも一方)を制御するによって、上記範囲に調整することができる。
30分間150℃で加熱する加熱条件における熱収縮率は、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0160】
既述の本発明のポリエステルフィルムの製造方法により、厚さ30μm〜400μmのポリエステルフィルムを製造することが好ましい。
ポリエステルフィルムの厚みは、電気絶縁性の観点から、40μm〜350μmであることが好ましく、50μm〜300μmであることがより好ましい。
得られたポリエステルフィルムは、太陽電池発電モジュールの太陽光入射側とは反対側の裏面に配置される裏面保護シート(いわゆるバックシート)、バリアフィルム基材等の用途に好適である。
【0161】
<太陽電池用バックシート、及び、太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池用バックシートは、本発明のポリエステルフィルムを含んで構成される。
本発明の太陽電池用バックシートは、太陽電池モジュールを構成する部材として好ましく用いることができる。
例えば、太陽電池モジュールは、太陽光が入射する透明性のフロント基板と、フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、セル構造部分のフロント基板が位置する側と反対側に設けられ、封止材と隣接して配置された、本発明の太陽電池用バックシートと、を備えて構成することができる。
【0162】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0163】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0164】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0165】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、「部」、「%」はとくに記載しない限り、質量基準である。
【0166】
<原料ポリエステルの合成>
(原料ポリエステル1)
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル(Ti触媒系PET)を得た。
【0167】
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下、平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600当量/トンであった。
【0168】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0169】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10−3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0170】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10−4MPa)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0171】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10−4MPa)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート(PET))を得た。
【0172】
次に、得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリエステルのペレット<断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>を作製した。
【0173】
得られたポリエステルについて、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて以下に示すように測定した結果、Ti=9ppm、Mg=75ppm、P=60ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
得られたポリマーは、IV=0.65、末端カルボキシ基濃度AV=22当量/トン、融点=257℃、溶液ヘイズ=0.3%であった。
【0174】
−固相重合−
また、上記のようにして得たポリエステルのペレットに対して、バッチ法で固相重合を実施した。すなわち、ポリエステルのペレットを容器に投入した後、真空にして撹拌しながら、以下の条件で固相重合した。
150℃で予備結晶化処理した後、190℃で30時間の固相重合反応を行った。
【0175】
(原料ポリエステル2)
原料ポリエステル1の合成において、固相重合時間を12時間に変更したほかは同様にして、原料ポリエステル2を得た。
【0176】
(原料ポリエステル3)
原料ポリエステル1の合成において、固相重合時間を10時間に変更したほかは同様にして、原料ポリエステル3を得た。
【0177】
(原料ポリエステル4〜7)
原料ポリエステル1の合成における(1)エステル化反応において、原料組成中のジカルボン酸成分(テレフタル酸)およびジオール成分(エチレングリコール)に加えて、表1の「材料・添加剤」、「多官能成分」欄に記載の種類の多官能モノマーを、当該欄に示す量だけ添加した。なお、ここでいう添加量とは、ジカルボン酸成分およびジオール成分の和(全モル量)に対するモル%で示した。
【0178】
この後、得られたポリエステルを、原料ポリエステル1と同様にしてペレットとし、さらに、原料ポリエステル1と同様の固相重合条件にて原料ポリエステル4〜7を得た。
得られたポリエステルは、IV=0.65、末端カルボキシ基濃度AV=22当量/トン、融点=257℃、溶液ヘイズ=0.3%であった。
【0179】
なお、表1の「材料・添加剤」、「多官能成分」、「種」欄に「TMA」、「BTC」として示す多官能モノマーの詳細は、次のとおりである。
TMA:3官能カルボン酸型、トリメリット酸
BTC:4官能カルボン酸型、ベンゼンテトラカルボン酸
【0180】
〔実施例1〕
<未延伸ポリエステルフィルムの製造>
−フィルム成形工程−
原料ポリエステル1を、含水率20ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入した。原料ポリエステル1は、300℃に溶融し、下記押出条件により、ギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を介し、ダイから押出した。なお、ポリエステルシートの厚さが4mmとなるように、ダイのスリットの寸法を調整した。ポリエステルシートの厚さは、キャストドラムの出口に設置した自動厚み計により測定した。
溶融樹脂の押出条件は、圧力変動を1%、溶融樹脂の温度分布を2%として、溶融樹脂をダイから押出した。具体的には、背圧を、押出機のバレル内平均圧力に対して1%加圧し、押出機の配管温度を、押出機のバレル内平均温度に対して2%高い温度で加熱した。
ダイから押出した溶融樹脂は、冷却キャストドラム上に押出し、静電印加法を用い冷却キャストドラムに密着させた。
溶融樹脂の冷却は、冷却キャストドラムの温度を25℃に設定し、冷却キャストドラムに対面して設置された冷風発生装置から、25℃の冷風を吹き出し、溶融樹脂に当てた。冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて、冷却キャストドラムから厚さ3.5mmの未延伸ポリエステルフィルム(未延伸ポリエステルフィルム1)を剥離した。
【0181】
得られた未延伸ポリエステルフィルム1は、固有粘度IV=0.80、末端カルボキシ基濃度AV=15当量/トン、ガラス転移温度Tg=72℃であった。
【0182】
IVは、未延伸ポリエステルフィルム1を、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解し、該混合溶媒中の25℃での溶液粘度から求めた。
AVは、未延伸ポリエステルフィルム1をベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、これを基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その適定量から算出した
Tgは、JIS K 7121に準じた測定により求めた。
【0183】
<2軸延伸ポリエステルフィルムの製造>
得られた未延伸ポリエステルフィルム1について、以下の方法で逐次2軸延伸を施し、次のように延伸して、250μmの2軸延伸ポリエステルフィルム1を得た。
【0184】
−縦延伸工程−
未延伸ポリエステルフィルム1を周速の異なる2対のニップロールの間に通し、下記条件で縦方向(搬送方向)に延伸した。
予熱温度 :80℃
縦延伸温度:90℃
縦延伸倍率:3.6倍
縦延伸応力:12MPa
【0185】
−横延伸工程−
縦延伸したポリエステルフィルム1(縦延伸ポリエステルフィルム1)に対し、図1に示す構造を有するテンター(2軸延伸機)を用いて、下記条件にて延伸した。
【0186】
(予熱部)
予熱温度:110℃とした。
【0187】
(延伸部)
延伸温度(横延伸温度) :120℃
延伸倍率(横延伸倍率) :4.4倍
延伸応力(横延伸応力):18MPa
延伸角度
横延伸を開始する位置Xでの延伸角度θx:表1に示す角度〔°〕
XとZとの中間の位置Yでの延伸角度θy:表1に示す角度〔°〕
横延伸を終了する位置Zでの延伸角度θz:表1に示す角度〔°〕
【0188】
(熱固定部)
熱固定温度(T熱固定):表1に示す温度〔℃〕
【0189】
(熱緩和部)
熱緩和温度(T熱緩和):表1に示す温度〔℃〕
緩和率
横方向(ΔL):表1に示す大きさ〔%〕
縦方向(ΔS):表1に示す大きさ〔%〕
【0190】
(冷却部)
冷却温度:65〔℃〕
【0191】
(フィルムの回収)
熱緩和の後、ポリエステルフィルム1の両端を20cmずつトリミングした。その後、両端に幅10mmで押出し加工(ナーリング)を行なった後、張力25kg/mで巻き取った。
以上のようにして、厚さ250μmの実施例1の2軸延伸ポリエステルフィルム(PETフィルム)1を製造した。
【0192】
得られた2軸延伸ポリエステルフィルム1の厚さの測定は、接触式膜厚測定計(アンリツ社製)を用いて行い、長手方向に0.5mに渡り等間隔に50点をサンプリングし、幅方向に製膜全幅にわたり等間隔(幅方向に50等分した点)に50点をサンプリングし、これらの100点の厚みを測定する。これら100点の平均厚みを求め、フィルムの平均厚みとした。
2軸延伸ポリエステルフィルム1の厚みを、表1に示した。
【0193】
〔実施例2、比較例1〕
実施例1の2軸延伸ポリエステルフィルム1の製造において、未延伸ポリエステルフィルム1に代えて、それぞれ、未延伸ポリエステルフィルム2、及び未延伸ポリエステルフィルム3を用いた他は同様にして、実施例2の2軸延伸ポリエステルフィルム2、及び比較例1の2軸延伸ポリエステルフィルム101を製造した。
【0194】
<未延伸ポリエステルフィルム2、及び未延伸ポリエステルフィルム3の製造>
未延伸ポリエステルフィルム1の製造において、原料ポリエステル1を、それぞれ、原料ポリエステル2及び原料ポリエステル3に代えた他は、同様にして、未延伸ポリエステルフィルム2、及び未延伸ポリエステルフィルム3を製造した。
得られた未延伸ポリエステルフィルム2は、固有粘度IV=0.75、末端カルボキシ基濃度AV=19当量/トン、ガラス転移温度Tg=72℃であった。
得られた未延伸ポリエステルフィルム3は、固有粘度IV=0.72、末端カルボキシ基濃度AV=10当量/トン、ガラス転移温度Tg=72℃であった。
【0195】
なお、表1中、「未延伸フィルム」「原料」欄における「原料1」〜「原料3」は、原料ポリエステルとして、それぞれ、原料ポリエステル1〜原料ポリエステル3を用いていることを示す。
【0196】
〔実施例3〜実施例9、実施例12、及び比較例2〜比較例4〕
実施例1の2軸延伸ポリエステルフィルム1の製造において、横延伸工程におけるテンターの延伸角度、熱固定温度(T熱固定)、熱緩和温度(T熱緩和)、並びに、横方向及び縦方向の熱緩和率(ΔL及びΔS)を、表1に示す条件に変更したほかは同様にして、実施例3〜実施例9の2軸延伸ポリエステルフィルム3〜2軸延伸ポリエステルフィルム9、実施例12の2軸延伸ポリエステルフィルム12、及び比較例2〜比較例4の2軸延伸ポリエステルフィルム102〜2軸延伸ポリエステルフィルム104を製造した。
【0197】
〔実施例10、実施例11〕
実施例1の2軸延伸ポリエステルフィルム1の製造において、厚さが3.5mmの未延伸ポリエステルフィルム1に代えて、厚さが2.6mmの未延伸ポリエステルフィルム4を用いた他は同様にして、実施例10の2軸延伸ポリエステルフィルム10を製造した。
また、実施例12の2軸延伸ポリエステルフィルム12の製造において、厚さが3.5mmの未延伸ポリエステルフィルム1に代えて、厚さが2.6mmの未延伸ポリエステルフィルム4を用いた他は同様にして、実施例11の2軸延伸ポリエステルフィルム11を製造した。
【0198】
<未延伸ポリエステルフィルム4の製造>
未延伸ポリエステルフィルム1の製造におけるフィルム成形工程において、ダイから押出す溶融樹脂の量を調整して、厚さが2.6mmの未延伸ポリエステルフィルム4を製造した。
得られた未延伸ポリエステルフィルム4は、固有粘度IV=0.80、末端カルボキシ基濃度AV=15当量/トン、ガラス転移温度Tg=72℃であった。
【0199】
〔実施例13〜実施例19〕
実施例1の2軸延伸ポリエステルフィルム1の製造において、未延伸ポリエステルフィルム1に代えて、未延伸ポリエステルフィルム5〜11を用いたほかは同様にして、実施例13〜19の2軸延伸ポリエステルフィルム13〜19を製造した。
【0200】
<未延伸ポリエステルフィルム5〜11の製造>
未延伸ポリエステルフィルム1の製造において、原料ポリエステル1に代えて、表1に示す原料ポリエステルを用い、フィルム成形工程における原料ポリエステルの1軸混練押出機のホッパーへの投入時に、原料ポリエステルと共に、表1の「材料・添加剤」、「末端封止剤」欄に示す種類・量の末端封止剤を添加したほかは、同様にして、実施例13〜19のポリエステルフィルム13〜19を製造した。
得られた未延伸ポリエステルフィルム5〜11は、固有粘度IV=0.80、末端カルボキシ基濃度AV=15当量/トン、ガラス転移温度Tg=72℃であった。
【0201】
表1の「材料・添加剤」、「末端封止剤」、「種」欄に「CI」、「EP」、「OX」として示す末端封止剤の詳細は、次のとおりである。なお、ここでいう添加量とは原料ポリエステルの全質量に対する割合(質量%)を指す。
・CI:カルボジイミド系化合物、ラインケミー社製スタバクゾールP100
・EP:エポキシ系化合物:Hexion Speciality Cnemicals社製「カージュラE10P」
・OX:オキサゾリン系化合物:日本触媒社製「エポクロスRPS−1005」
【0202】
<評価>
得られた2軸延伸ポリエステルフィルム1〜19及び101〜104について、下記評価を行なった。結果は表1に示す。
【0203】
1.寸法安定性(熱収縮率)
2軸延伸ポリエステルフィルムの寸法安定性を、熱収縮率により評価した。
2軸延伸ポリエステルフィルムの熱収縮率は、2軸延伸ポリエステルフィルムの長さ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)とでそれぞれ測定した。
【0204】
熱収縮率は、以下の方法で求めた。
2軸延伸ポリエステルフィルムを裁断し、TD方向30mm、MD方向120mmの大きさの試料片Mを得た。試料片Mに対し、MD方向で100mmの間隔となるように、2本の基準線を入れ、無張力下で150℃の加熱オーブン中に30分間放置した。この放置の後、試料片Mを室温まで冷却して、2本の基準線の間隔を測定し、この値をA(単位;mm)とおき、100×(100−A)/100の式をもってMD方向での加熱収縮率とした。
また、基材フィルムからMD方向30mm、TD方向120mmの大きさの試料片Lを得た。試料片Lに対し、試料片Mと同様に測定と計算とを行い、TD方向での加熱収縮率とした。
【0205】
−判定基準−
◎:MD方向とTD方向のいずれもが1%以下。
○:MD方向とTD方向のいずれか一方が1%を超え、MD方向とTD方向のいずれもが2%以下。
△:MD方向とTD方向のいずれか一方が2%を超え、MD方向とTD方向のいずれもが3%以下。
×:MD方向とTD方向のいずれか一方が3%を超える。
【0206】
2.耐加水分解性(破断伸度半減時間)
2軸延伸ポリエステルフィルムの耐加水分解性を、2軸延伸ポリエステルフィルムの破断伸度半減時間によって評価した。
2軸延伸ポリエステルフィルムを、120℃、相対湿度100%の条件で保存した後の2軸延伸ポリエステルフィルムが示す破断伸度(%)が、保存前の2軸延伸ポリエステルフィルムが示す破断伸度(%)に対して50%となる保存時間を、破断伸度半減時間とした。
【0207】
2軸延伸ポリエステルフィルムの破断伸度(%)は、2軸延伸ポリエステルフィルムを裁断して、1cm×20cmの大きさの試料片Pを得て、試料片Pを、チャック間5cm、20%/分にて引っ張って求めた。
破断伸度半減時間が長い程、2軸延伸ポリエステルフィルムの耐加水分解性が優れていることを示す
【0208】
−判定基準−
◎:破断伸度半減時間が90hrを超える。
○:破断伸度半減時間が85hrを超え、90hr以下。
△:破断伸度半減時間が80hrを超え、85hr以下。
×:破断伸度半減時間が80hr以下。
【0209】
3.テンター破損度
未延伸ポリエステルフィルム1〜19及び101〜104を用いて、横延伸を行なった際におけるテンターの破損の有無から、テンター破損度を判定した。
−判定基準−
○:テンターの破損なし
△:テンターの破損あり
【0210】
4.総合判定
上記1〜3の各評価結果から、下記判定基準に基づき、判定した。
−判定基準−
◎:極めて良好(熱収縮率と耐加水分解性のいずれも◎以上の評価)
○:良好(熱収縮率と耐加水分解性のいずれも○以上の評価)
△:問題なし(熱収縮率と耐加水分解性のいずれも△以上の評価)
×:問題あり(熱収縮率と耐加水分解性のいずれか、もしくは両方が×の評価)
【0211】
5.密着性
さらに、得られた2軸延伸ポリエステルフィルム1〜19及び101〜104を、それぞれ、基材(ポリエステルフィルム基材)とし、各基材の表面に下記塗布層を形成して、基材と、塗布層との密着性を評価した。
塗布層は、乾燥厚みが0.5μmとなるように、塗布液をバー塗布法によって塗布して形成した。
【0212】
基材に形成した塗布層は、具体的には、次のようにして形成した。
基材の片面に、下記の(i)反射層と(ii)易接着性層をこの順で塗設した。
【0213】
(i)反射層(着色層)
まず初めに、下記組成の諸成分を混合し、ダイノミル型分散機により1時間分散処理して顔料分散物を調製した。
<顔料分散物の処方>
・二酸化チタン・・・39.9部
(タイペークR−780−2、石原産業(株)製、固形分100質量%)
・ポリビニルアルコール・・・8.0部
(PVA−105、(株)クラレ製、固形分10%)
・界面活性剤(デモールEP、花王(株)製、固形分:25%)・・・0.5部
・蒸留水・・・51.6部
【0214】
次いで、得られた顔料分散物を用い、下記組成の諸成分を混合することにより反射層形成用塗布液を調製した。
<反射層形成用塗布液の処方>
・上記の顔料分散物・・・71.4部
・ポリアクリル樹脂水分散液・・・17.1部
(バインダー:ジュリマーET410、日本純薬工業(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・2.7部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・1.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・蒸留水・・・7.0部
【0215】
上記より得られた反射層形成用塗布液をサンプルフィルムにバーコーターにより塗布し、180℃で1分間乾燥して、二酸化チタン塗布量が6.5g/mの反射層(白色層)を形成した。
【0216】
(ii)易接着性層
下記組成の諸成分を混合して易接着性層用塗布液を調製し、これをバインダー塗布量が0.09g/mになるように反射層の上に塗布した。その後、180℃で1分間乾燥させ、易接着性層を形成した。
<易接着性層用塗布液の組成>
・ポリオレフィン樹脂水分散液・・・5.2部
(バインダー:ケミパールS75N、三井化学(株)製、固形分:24質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・7.8部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物・・・0.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分25質量%)
・シリカ微粒子水分散物・・・2.9部
(アエロジルOX−50、日本アエロジル(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水・・・83.3部
【0217】
次に、ポリエステルフィルムの反射層及び易接着性層が形成されている側と反対側の面に、下記の(iii)下塗り層、(iv)バリア層、及び(v)防汚層をポリエステルフィルム側から順次、塗設した。
【0218】
(iii)下塗り層
下記組成の諸成分を混合して下塗り層用塗布液を調製し、この塗布液をポリエステルフィルムに塗布し、180℃で1分間乾燥させ、下塗り層(乾燥塗設量:約0.1g/m)を形成した。
<下塗り層用塗布液の組成>
・ポリエステル樹脂・・・1.7部
(バイロナールMD−1200、東洋紡(株)製、固形分:17質量%)
・ポリエステル樹脂・・・3.8部
(ペスレジンA-520、高松油脂(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・1.5部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・カルボジイミド化合物・・・1.3部
(カルボジライトV−02−L2、日清紡(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水・・・91.7部
【0219】
(iv)バリア層
続いて、形成された下塗り層の表面に下記の蒸着条件にて厚み800Åの酸化珪素の蒸着膜を形成し、バリア層とした。
<蒸着条件>
・反応ガス混合比(単位:slm):ヘキサメチルジシロキサン/酸素ガス/ヘリウム=1/10/10
・真空チャンバー内の真空度:5.0×10−6mbar
・蒸着チャンバー内の真空度:6.0×10−2mbar
・冷却・電極ドラム供給電力:20kW
・フィルムの搬送速度 :80m/分
【0220】
(v)防汚層
以下に示すように、第1及び第2防汚層を形成するための塗布液を調製し、バリア層の上に第1防汚層用塗布液、第2防汚層用塗布液の順に塗布し、2層構造の防汚層を塗設した。
【0221】
<第1防汚層>
−第1防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第1防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・セラネートWSA1070(DIC(株)製)・・・45.9部
・オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・7.7部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・2.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・反射層で用いた顔料分散物・・・33.0部
蒸留水・・・11.4部
【0222】
−第1防汚層の形成−
得られた塗布液を、バインダー塗布量が3.0g/mになるように、バリア層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第1防汚層を形成した。
【0223】
−第2防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第2防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・フッ素系バインダー:オブリガード(AGCコーテック(株)製)・・・45.9部
・オキサゾリン化合物・・・7.7部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%;架橋剤)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・2.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・前記反射層用に調製した前記顔料分散物・・・33.0部
・蒸留水・・・11.4部
【0224】
−第2防汚層の形成−
調製した第2防汚層用塗布液を、バインダー塗布量が2.0g/mになるように、バリア層上に形成された第1防汚層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第2防汚層を形成した。
【0225】
(密着性評価)
塗布層が形成された基材(試料)の、基材と塗布層との密着性を、下記方法で評価し、結果を表1に記載した。
(1)試料を85℃80%RH環境下で100時間放置する湿熱処理を施した。
(2)湿熱処理後の試料を取り出し、試料の易接着層側の表面に3mm間隔にカッターナイフで縦横10本ずつの切れ込みを入れ、100個の升目を作った。
(3)升目を作った試料を50℃の温水に1時間浸漬した後、25℃60%RH環境下の室内に取り出し、試料の表面の水分を布で拭き取った。その後、試料の升目が入った表面に、粘着テープ〔日東電工社製ポリエステル粘着テープ(No.31B)〕を貼り付け、次いで粘着テープを一気に180度方向に引き剥がした。なお、温水から取り出した後から粘着テープ引き剥がしまでの時間は5分以内で実施した。つまり、密着性評価は、試料の塗布層が湿潤状態での密着性を評価したものである。
(4)試料の升目が入った表面を目視観察し、塗布層が剥離した升目の数を数え、これを「剥離率」とした。評価基準は下記のとおりである。
【0226】
−評価基準−
◎:剥離率が1%未満
○:剥離率が1%以上5%未満
△:剥離率が5%以上10%未満
×:剥離率が10%以上
【0227】
【表1】



【0228】
表1より、実施例の2軸延伸ポリエスエステルフィルムは、寸法安定性および耐加水分解性の両方に優れた。また、横延伸工程では、延伸角度を調節して、0<θx≦θz<θy<10とすることにより、テンターの破損を抑制することができた。
【0229】
また、実施例1〜12および実施例13〜実施例19の2軸延伸ポリエスエステルフィルムに関する密着性評価から、原料ポリエステルに多官能モノマーを含有させ、または、溶融押出の際に原料ポリエステルと共に末端封止剤を添加することで、基材と塗布層との密着性に優れることがわかった。
【0230】
〔実施例20〜実施例38〕
<太陽電池用バックシートおよび太陽電池発電モジュールの作製>
上記のようにして作製した実施例1〜実施例19の2軸延伸ポリエスエステルフィルム1〜19を太陽電池用バックシート1〜19として用い、太陽電池用バックシート1〜19とした。
さらに、太陽電池用バックシート1〜19を用い、特開2009−158952号公報の図1に示す構造になるように透明充填剤(封止材)に貼り合わせ、太陽電池発電モジュール1〜19を作製した。このとき、バックシートの易接着性層が、太陽電池素子を包埋する透明充填剤に接するように貼り付けた。
【0231】
太陽電池用バックシート1〜19は、耐加水分解性および寸法安定性に優れた実施例1〜実施例19の2軸延伸ポリエスエステルフィルム1〜19を用いて製造しているため、耐加水分解性および寸法安定性に優れる。また、実施例20〜38の太陽電池発電モジュール1〜19は、かかるバックシート1〜19を用いて構成されているため、発電性能を長期に亘って安定的に得ることができた。
【符号の説明】
【0232】
2 把持部材
10 予熱部
20 延伸部
30 熱固定部
40 熱緩和部
50 冷却部
60 環状レール
100 2軸延伸機
200 ポリエステルフィルム
202 ポリエステルフィルムのTD方向の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ポリエステルを溶融押出し、さらに冷却して、固有粘度が0.75以上のポリエステルフィルムを成形するフィルム成形工程と、
前記ポリエステルフィルムを長手方向に縦延伸する縦延伸工程と、
前記ポリエステルフィルムを予熱する予熱部、予熱されたポリエステルフィルムを少なくとも前記ポリエステルフィルムの長手方向と直交する方向に緊張を与えて横延伸する延伸部、緊張が与えられたポリエステルフィルムを該ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が160℃〜210℃となるように加熱して熱固定する熱固定部、及び、前記ポリエステルフィルムの表面の最高到達膜面温度が、前記熱固定部における前記ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度よりも5℃以上低い温度となるように、前記熱固定されたポリエステルフィルムを加熱し、前記緊張を緩める熱緩和部に、前記ポリエステルフィルムをこの順に搬送して、少なくとも横延伸する横延伸工程と、
を含むポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記横延伸工程が、前記縦延伸工程の後に行なわれ、前記横延伸工程が、熱緩和部を経たポリエステルフィルムを冷却する冷却部に前記ポリエステルフィルムを搬送する工程を更に有し、
前記横延伸工程における前記ポリエステルフィルムの幅が最大になるときの前記ポリエステルフィルムの幅L1と、前記冷却部から前記ポリエステルフィルムが離れる前記冷却部の端部における前記ポリエステルフィルムの幅L2とが、下記式(1)を満たし、かつ、
前記予熱部における前記ポリエステルフィルムの搬送速度S1と、前記冷却部の前記端部における前記ポリエステルフィルムの搬送速度S2とが、下記式(2)を満たす請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【数1】



【請求項3】
前記延伸部は、搬送される前記ポリエステルフィルムの搬送方向と、該ポリエステルフィルムの幅方向端部の進行方向とがなす角度を延伸角度θ〔°〕とするとき、前記延伸部における前記ポリエステルフィルムの横延伸を開始する位置Xでの延伸角度θx〔°〕と、前記延伸部における前記ポリエステルフィルムの横延伸を終了する位置Zでの延伸角度θz〔°〕と、前記延伸部における前記位置Xと前記位置Zとの中間の位置Yでの延伸角度θy〔°〕とが、下記式(3)を満たし、横延伸終了後の厚みが200μm以上のポリエステルフィルムを得る請求項1または請求項2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
0<θx≦θz<θy<10 (3)
【請求項4】
前記横延伸工程は、前記予熱部、前記延伸部、前記熱固定部、前記熱緩和部、及び前記冷却部を備え、前記予熱部において前記ポリエステルフィルムの幅方向の両端部を、片端部につき、少なくとも2つの把持部材を用いて把持して、前記予熱部から前記冷却部まで前記ポリエステルフィルムを搬送する2軸延伸装置を用い、
前記予熱部における前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔よりも、前記冷却部における前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔を狭めることで、前記ポリエステルフィルムの搬送速度を小さくする請求項2または請求項3に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱固定部、前記熱緩和部、及び前記冷却部の少なくとも一部において、前記ポリエステルフィルムの幅方向の片端部を把持する前記2つの把持部材のうちの一方の把持部材と、該把持部材に隣接する他方の把持部材との間隔を狭める請求項4に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記原料ポリエステルは、固相重合処理されている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記縦延伸工程および前記横延伸工程を経て得られたポリエステルフィルムは、30分間150℃で加熱する加熱条件における熱収縮率が2.0%以下である請求項1〜請求項6のいずれか1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記原料ポリエステルが、カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーを含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記多官能モノマーの含有量は、前記原料ポリエステルの全モル量に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である請求項8に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルム成形工程は、前記原料ポリエステルと共に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を添加して溶融押出する工程を含む請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記末端封止剤の添加量は、前記原料ポリエステルの全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下である請求項10に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法により得られたポリエステルフィルム。
【請求項13】
カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含む請求項12に記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
前記多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である請求項13に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を含む請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項16】
前記末端封止剤に由来する構造部分を0.1質量%以上5質量%以下含む請求項15に記載のポリエステルフィルム。
【請求項17】
請求項12〜請求項16のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシート。
【請求項18】
太陽光が入射する透明性のフロント基板と、
前記フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び前記太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、
前記セル構造部分の前記フロント基板が位置する側と反対側に設けられ、前記封止材と隣接して配置された、請求項17に記載の太陽電池用バックシートと、
を備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−63632(P2013−63632A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269083(P2011−269083)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】