説明

ポリエステル原着繊維及びそれを用いた繊維製品

【課題】吸湿性に優れ、清涼感、冷涼感を有し、日光暴露に伴う吸湿性などの低下が極めて少なく、さらに染色湿潤堅牢性、耐光堅牢性といった特性にも優れたポリエステル原着繊維及びそれを用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステル原着繊維において、該原着繊維を、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該原着繊維の重量を基準として0.2〜6重量%の着色剤を含有している原着繊維とする。また、上記ポリエステル原着繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル原着繊維に関するものである。さらに詳細には、吸湿性、吸水性及び、速乾性に優れ、従来にない著しく優れた熱伝導性と透湿性を有し、特に木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができ、しかも日光暴露に伴う吸湿性、吸水性、熱伝導性、透湿性などの優れた特性の低下が少なく、染色湿潤堅牢性といった特性にも優れたポリエステル原着繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは多くの優れた特性を有するがゆえに合成繊維、フイルム、その他の成形物として広く用いられている。しかしながら、ポリエステルは、疎水性であるため、例えば繊維として使用した場合に、木綿や麻等の天然繊維に比較して吸水性、吸湿性が著しく劣る欠点があり、吸水性や吸湿性が要求される分野での使用が制限されている。なかでも、布帛が直接肌に接する衣料用途におけるポリエステル繊維の使用は、蒸れ感やべとつき感等の著しい不快感を招来するため極度に制限されているのが実状であり、特に盛夏用衣料用途での使用は実質上皆無に近い。
【0003】
従来、かかる問題を解決するため、ポリエステル繊維に吸水性、吸湿性を付与しようとする試みが多数なされている。例えば、ポリエステル繊維に吸水性(液体状態の水を吸収する性質)を付与する方法として、繊維表面を変性して吸水性を付与する方法と繊維内部まで吸水性を高める方法とがある。前者では原糸改質や後加工によって、繊維表面を親水性の化合物で覆う方法が主に採用されており、この他に放電処理、光グラフト、薬品によるエッチング、親水性化合物の低温プラズマ重合加工等がある。後者の方法としてはポリエステル繊維を多孔質化することによって毛細管現象を利用して吸水性を高めることが行われている。しかしながら、これらの方法は感知蒸泄つまり発汗状態においては相応の効果が認められ、特に多孔質の吸水性ポリエステル繊維においては、抱水率や湿潤知覚限界(湿ったと感じ得る抱水率)を顕著に高める効果が得られると共に速乾性を有するため、汗を多量にかくスポーツ用途等で快適な汗処理機能を発揮できるものの、吸湿性(気相状態の水、即ち水蒸気を吸収する性能)を殆んど有しないためか、人間の感覚にはのぼらずに常に体外に蒸発している不感蒸泄に対しては特別の効果が認められず、蒸れ感や蒸し暑さを解消する効果は少ないので、木綿や麻等の天然繊維のもつ清涼感、冷涼感を呈するのには程遠い。その上、繊維の表面に親水性樹脂の皮膜を形成させる方法では、疎水性繊維の表面のみに親水性皮膜を形成させるものであり、両者の親和性が不良であるため、洗濯耐久性に劣る欠点がある。
【0004】
一方、ポリエステル繊維に吸湿性を付与する方法として、親水性化合物のグラフト重合による後加工方法が提案されている。この方法によれば、例えばポリエチレンテレフタレート繊維にアクリル酸やメタクリル酸を15重量%程度グラフト重合した後でナトリウム塩化処理を施すことによって木綿と同等の吸湿率が得られる。しかしながら、かかるグラフト重合で改質した吸湿性ポリエステル繊維は、確かに木綿並みの平衡吸湿率は有するものの、平衡吸湿率に至るまでの吸湿速度が木綿に比較して著しく小さい。このことも関係してか、着用した際の蒸れ感やべとつき感を解消する効果は少なく、清涼感は得られない。その上、この方法では染色堅牢度が低下したり、風合が硬化する等の欠点があり実用に耐えない。
【0005】
他方、ポリマー自身を吸湿性にしたポリエステルとしては、従来から知られているポリオキシエチレングリコールを共重合したポリエステル以外には注目すべきものがないのが現状である。かかるポリオキシエチレングリコール成分を含むポリエステルは吸湿性向上効果は呈するものの、その向上効果は比較的小さく、そのため多量のポリオキシエチレングリコール成分の使用を必要とし、その結果最終的に得られる変性ポリエステル繊維の物理的性能や耐熱性の低下が著しく、実用的価値は低い。
【0006】
かかるポリオキシエチレングリコール共重合ポリエステルの欠点を改良しようとして種々の提案がなされており、そのひとつとして片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールをポリエステル主鎖の末端に共重合したポリエステルが提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、上記の片末端閉鎖ポリオキシエチレングリコールはポリエステル重縮合反応においては、いわゆる、末端停止剤として作用するため、該片末端封鎖ポリオキシアルキレングリコールの共重合量を増やすにつれて最終的に得られる共重合ポリエステルの重合度が低下するという問題が顕在化する。このため、この系で実用性のある成形物の物性を保持しつつ、充分な吸湿性を得るのは極めて困難である。
【0007】
また、従来知られている吸湿性を向上させるために改質されたポリエステル繊維においては、例えばポリエステル繊維の通常の染色加工方法である分散染料やカチオン染料による高温高圧染色法で染色加工を施して染色品となした後に日光に暴露すると、その吸湿性などの優れた特性が低下する場合があることが判明した。また場合によっては染色品の染色堅牢度、なかでも特に洗濯堅牢度に難点を有することがあり、例えばJIS L−0844 A−2法やAATCC II−A法で規定する洗濯堅牢度汚染(以下、染色湿潤堅牢度と称する)が不充分なレベルとなる場合があることがわかった。
【0008】
【特許文献1】特公平3−23646号公報
【特許文献2】特公平4−3449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、吸湿性に優れ、清涼感、冷涼感を有し、日光暴露に伴う吸湿性などの低下が極めて少なく、さらに染色湿潤堅牢性、耐光堅牢性といった特性にも優れたポリエステル原着繊維及びそれを用いた繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討した結果、特定の構造を有する共重合ポリエステルに顔料を含有させた繊維は、日光暴露に伴う吸湿性などの特性の低下が少なく、染色湿潤堅牢性や耐光堅牢性にも優れていることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は次の通りである。
1.ポリエステル原着繊維において、該原着繊維が、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該原着繊維の重量を基準として0.2〜6重量%の着色剤を含んでいること特徴とするポリエステル原着繊維。
2.ポリエーテル成分が、ポリオキシエチレン系ポリエーテルである1に記載のポリエステル原着繊維。
3.共重合ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されたポリエステルである1または2に記載の共重合ポリエステル原着繊維。
【化1】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n1は重合度を示す正の整数である)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n2は重合度を示す正の整数である)
4.着色剤が顔料である、1〜3のいずれかに記載のポリエステル原着繊維。
5.着色剤がカーボンブラックである、1〜3のいずれかに記載のポリエステル原着繊維。
6.1〜5のいずれかに記載のポリエステル原着繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル原着繊維は、吸湿性に優れ、染色湿潤堅牢性、耐光堅牢性といった特性にも優れている。また、上記原着繊維は、吸湿性に加え、吸水性、速乾性にも優れ、従来にない高い熱伝導性、透湿性も有しており、木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができる。さらに、本発明のポリエステル原着繊維は、日光暴露によっても上記の吸湿性などの特性の低下が少ないといった従来にない優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリエステル原着繊維を構成する基体ポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種のアルキレングリコールをグリコール成分とするポリエステルを主たる対象とする。
【0014】
また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、及び/又はグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコール若しくは他のジオール成分で置換えたポリエステルであってもよい。
【0015】
ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
【0016】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族ジオール化合物等をあげることができる。
【0017】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0018】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0019】
本発明の原着繊維を構成するポリエステルは、ポリエーテル成分が共重合されている共重合ポリエステルである必要がある。ポリエーテル成分としてはポリオキシアルキレン成分が好ましく、たとえば上記基体ポリエステルに、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合された共重合ポリエステルを好ましい具体例としてあげることができる。
【0020】
本発明においては上記基体ポリエステルに、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されることが好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
これらの式中、R、Rは炭化水素基を示し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルキルアリール基が好ましい。R’、R’はアルキレン基であり、炭素原子数2〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはエチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が例示される。また、2種以上の混合、例えばエチレン基とプロピレン基、若しくはエチレン基とテトラメチレン基とを持ったランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。n1、n2は重合度を示す正の整数であり、30〜140の範囲であることが好ましい。重合度が30未満では、充分な吸湿性、透湿性や木綿、麻等の天然繊維が有する清涼感、冷涼感が呈されず、本発明の目的が達成されない。また、重合度が140を越えて大きくなると最早共重合が困難になり、充分な吸湿性、透湿性や清涼感、冷涼感が呈されなくなる。なかでも40〜100の範囲において特に優れた吸湿性、透湿性が発現すると共に清涼感、冷涼感が特に顕著に奏されるので好ましい。RとR、R’とR’、n1とn2とは相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
かかる化合物の好ましい具体例としては、上記式(1)で示されるジオール化合物としてポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールノニルフェルニ1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチルグリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル等をあげることができ、これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記ジオール化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、上記式(2)で示されるエポキシ化合物の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレングリコールメチルグリシジエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチルグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチルグリシジルエーテル等をあげることができる。これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記エポキシ化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記のジオール化合物及び/又はエポキシ化合物を前記基体ポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。この際その使用量は、あまりに少ないと最終的に得られるポリエステル成形物の吸湿性、清涼感、冷涼感の性能が不充分になり、逆にあまりに多くても著しい吸湿性、清涼感、冷涼感性能の向上が見られず、かえって最終的に得られる成形物の物理的性質、例えば繊維の強伸度等が悪化するだけでなく、耐熱性や耐光性も低下するため、共重合ポリエステルに対して10〜40重量%の範囲であることが必要であり、好ましくは15〜30重量%の範囲である。
【0027】
本発明で用いる共重合ポリエステルを製造するにあたって、安定剤として従来公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤やヒンダードアミン系光安定剤を添加することは、ポリエステル原着繊維の使用時における熱劣化、酸化劣化、光劣化等を抑制する効果があるだけでなく、溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下をも抑制する効果があるのでむしろ好ましいことである。
【0028】
本発明においては、原着繊維を構成するポリエステルが、上記のポリエステルの側鎖にポリエーテル成分が共重合されている共重合ポリエステルであること、また、後述するように、該原着繊維に、該原着繊維の重量を基準として着色剤が0.2〜6重量%含有されていることが肝要である。本発明者らは、かかる構成の原着繊維としたき、染色湿潤堅牢性や耐光堅牢性に優れているだけでなく、日光暴露を受けても高い吸湿性を維持し、清涼感、冷涼感のある原着繊維および繊維製品が得られることを見出した。
【0029】
上記の着色剤としては顔料および染料をあげることができる。なかでも耐熱性に優れる点で顔料であることが好ましい。本発明で使用される着色剤としてはカーボンブラック、弁柄、群青等の無機系顔料、フタロシアニン系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系等の有機系顔料が挙げられる。なかでも、繊維製造時の高温重合工程や高温溶融紡糸工程に耐えうる耐熱性と、自動車内装材の耐光堅牢度規格に適う耐光性とを兼備している着色剤が特に好ましく使用される。とりわけ、カーボンブラックは紫外線吸収能をもつので、日光に暴露した際の吸湿性、さらには、吸水性、熱伝導性、透湿性などの特性の低下を防止する効果がより大きく好ましい。かかるカーボンブラックはチャンネルブラック、ファーネスブラック等任意のものが用いられる。上記カーボンブラックは、その一次粒子径が小さすぎると共重合ポリエステルに配合する際粒子が凝集し易く、製糸が困難となる傾向があり、一方、一次粒子径が大きすぎると原着繊維を日光に暴露した際、上記特性の低下を防止する効果が低下し易い。したがってカーボンブラックの一次粒子径は10〜40nmであることが好ましい。なお、目的とする発色を得るためには、上記着色剤を適宜選定し、単独または複数をブレンドして使用すればよい。
【0030】
本発明においては、前述したように着色剤の含有量を原着繊維の重量を基準として0.2〜6重量%とする必要がある。含有量が2重量%未満の場合には、原着繊維を日光に暴露した際の吸湿性、さらには吸水性、熱伝導性、透湿性などの特性の低下を防止する効果が不充分になる。逆に、着色剤の含有量が6重量%を超えると、日光に暴露した際の上記特性の低下を防止する効果はもはや著しく向上せず、かえって糸切れなどの溶融紡糸時や延伸時の製糸性や糸の強伸度などの力学特性が低下する。なお、着色剤の含有量は、好ましくは0.5〜5重量%であり、より好ましくは1〜4重量%である。
【0031】
上記着色剤は前述した共重合ポリエステルの重合段階から紡糸されるまでの任意の過程で添加すればよく、重合添加方式、マスターバッチ方式、リキッドカラー方式等による原着繊維の製造方法が任意に適用される。なかでも設備の汚染、制御等取扱性から重合終了後に添加するのが好ましい。重合終了後に添加する方法としては、マスターバッチ方式、リキッドカラー方式等が挙げられるが、溶融紡糸時の安定性、着色剤の取扱性等より、マスターバッチ方式が好ましい。
【0032】
さらに、マスターバッチ方式で繊維を得る場合、着色剤を添加する時期については、原料ペレットの段階で計量混合し、溶融紡糸する段階、別々に溶融させたポリマーを計量混合し紡糸する段階等があるが、いずれの方法で行っても差し支えない。
【0033】
原着繊維を製造する方法としては、格別の方法を採る必要はなく、通常のポリエステル繊維の溶融紡糸方法および前述のマスターバッチ方式、リキッドカラー方式等による製造方法が任意に適用される。たとえば、共重合ポリエステルと原着マスターチップまたはリキッドカラーを溶融混合して紡糸口金から吐出して巻き取った後、必要に応じて延伸や熱処理を施す方法によって製造される。
【0034】
かくして得られる原着繊維は長繊維であっても、短繊維であってもよく、繊度は任意でよい。繊維の断面形状は円形であっても異形であってもよく、また中空繊維であっても中実繊維であってもよい。
さらに、原着繊維には、必要に応じて任意の添加剤、たとえば着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、艶消剤、無機微粒子等が含まれていてもよい。
【0035】
以上に説明した本発明に原着繊維は、糸、織編物、不織布などの形状として、該原着繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品とすることができる。かかる繊維製品の具体例としては、次のものを挙げることができる。
【0036】
(1)衣料用途
ファッション用途としてシャツ、ブラウス、パンツ、ブルゾン、コート、和装品など、インナー・レッグ用途として肌着、ブラジャー、ガードル、ボディーファー、キャミソール、ショーツ、パンティーストッキング、ストッキング、靴下、ハイソックス、ショートソックスなど、スポーツ用途として競技用のゲームシャツやゲームパンツ(テニス、バスケット、卓球、バレーボール、陸上、ゴルフ、サッカー、ラグビーなど)、スェットスーツ、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、トレーニングウェア、ショーツ、水着、プールサイドウェア、アンダーウェア、タイツ、スパッツ、レオタード、レッグ衣料、ウェットスーツ、ドライスーツなど、寝衣用途、ユニフォーム用途、学生服用途、帽子、ショールなどの衣料付帯品、裏地、カップ、パッドなどの衣料資材、スポーツシューズなど
【0037】
(2)インテリア・寝具用途
カーテン(ドレープカーテン、レースカーテン、シャワーカーテン、ロールカーテン、ブラインドなど)、カーペット、テーブルクロス、椅子張り、間仕切り、壁紙、寝装品(掛けふとん、敷き布団、布団用側地、布団用詰め物、毛布、毛布用側地、タオルケット、シーツなど)、スリッパ、マットなど
【0038】
(3)自動車内装材用途
カーシート、カーマット、天井材、トリムなど
【0039】
(4)産業資材用途
テント類(レジャー用、イベント用など)
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
(1)固有粘度
35℃のオルソクロルフェノール溶液により測定した。
(2)洗濯に対する染色堅牢度
AATCC II−A法により測定した。
(3)耐光堅牢度
JIS L 0842−88(紫外線カーボンアーク灯法)に従って測定した。
(4)吸湿率
試料を35℃、95%RHの条件に調節した恒温恒湿室中に24時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(調湿試料の重量−絶乾試料の重量)×100/絶乾試料の重量
【0041】
[実施例1〜3]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)及び整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)を加えた。次いで10分後に三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後重合缶に移した。
【0042】
重合缶に平均の分子量が3000(m=66)のポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル25部(共重合ボリエステルに対して19.2%)を添加した後、1時間かけて760Torrから1Torrまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。1Torr以下の減圧下、重合温度280℃で更に2時間重合した時点で酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカル社製)0.8部を真空添加し、その後更に30分間重合した。得られた共重合ポリエステルを常法に従ってチップ化した。この共重合ポリエステルのチップの固有粘度は0.710であった。
【0043】
このチップと、固有粘度が0.640のポリエチレンテレフタレート80%とフタロシアニンブルー顔料20%からなるマスターチップを常法により乾燥後、混合チップ中の顔料の含有量(すなわち、繊維中の顔料の含有量)が表1に記載の含有量となるように計量混合し、孔径0.3mmの円形紡糸孔を24個穿設した紡糸口金を使用して285℃で溶融紡糸した。次いで得られた未延伸糸を、最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になる延伸倍率にて84℃の加熱ローラーと160℃のスリットヒーターを使って延伸熱処理して84デシテックス/24フィラメントの青色延伸糸を得た。
【0044】
次いで得られた青色延伸糸を製編して筒編地となし、常法により精錬・熱処理した。また、この筒編地の吸湿率、洗濯に対する染色堅牢度、および耐光堅牢度を測定した。さらに、この筒編地を屋外に20日間暴露して日光および雨にさらした後、該筒編地の吸湿率を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4〜6]
実施例1〜3において使用したフタロシアニンブルー顔料を20%含有するマスターチップに代えて平均一次粒子径が22nmのカーボンブラックを20%含有するマスターチップを用いる以外は実施例1〜3と同様に行った。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
実施例1において製造した共重合ポリエステルチップのみ使用して、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸熱処理して84デシテックス/24フィラメントの未着色延伸糸を得た。この未着色延伸糸を実施例1と同様に常法に従って製編、精錬、熱処理した後、Dianix Black BG−FS(ダイスター株式会社製分散染料)12%owfで芒硝3g/L、酢酸0.3g/Lを含む染浴中にて130℃で45分間染色後、ハイドロサルファイト2g/Lと水酸化ナトリウム2g/Lの還元洗浄を行った。さらに、得られた黒編地を用いて実施例1と同様に各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリエステル原着繊維は吸湿性だけでなく、吸水性、速乾性に優れ、従来にない優れた熱伝導性と透湿性をも有している。このため、木綿や麻等の天然繊維を凌駕する清涼感、冷涼感を発現することができる。しかも、該原着繊維は、日光暴露に伴う上記特性の低下が少なく、染色湿潤堅牢性や耐光堅牢性といった特性にも優れている。したがって、本発明のポリエステル原着繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品は、特に屋外で使用するスポーツウェア分野や盛夏用ウェア分野などの衣料として極めて有用であり、その性能を十分に発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル原着繊維において、該原着繊維が、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該原着繊維の重量を基準として0.2〜6重量%の着色剤を含有していること特徴とするポリエステル原着繊維。
【請求項2】
ポリエーテル成分が、ポリオキシエチレン系ポリエーテルである請求項1記載のポリエステル原着繊維。
【請求項3】
共重合ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されたポリエステルである請求項1または請求項2記載のポリエステル原着繊維。
【化1】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n1は重合度を示す正の整数である)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n2は重合度を示す正の整数である)
【請求項4】
着色剤が顔料である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル原着繊維。
【請求項5】
着色剤がカーボンブラックである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル原着繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル原着繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品。

【公開番号】特開2008−163516(P2008−163516A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354999(P2006−354999)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】