説明

ポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステルフィルム、太陽電池用バックシート、並びに太陽電池モジュール

【課題】IV上昇を抑えて末端カルボン酸量を低下させることができ、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムを作製すること可能なポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン化合物を含む触媒下、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、固有粘度が0.40dL/g以上のエステル化反応生成物を生成する反応物生成工程と、生成した前記エステル化反応生成物を、固体状態で熱処理することで、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合で増加させることにより固相重合させ、固有粘度が0.65〜0.90dL/g、末端カルボン酸量が20当量/トン以下であるポリエステル樹脂を得る固相重合工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れたポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステルフィルム、太陽電池用バックシート、並びに太陽電池モジュール
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、一般に、太陽光が入射するガラスの上に(封止剤)/太陽電池素子/封止剤/バックシートがこの順に積層された構造を有している。この太陽電池のバックシートとしては、従来、ポリエステルフィルムが使用されている。
【0003】
一般にポリエステルは、ジカルボン酸又はエステル形成性を持つその誘導体とグリコール類などのジオール成分との縮合重合プロセスによって製造される。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)であれば、テレフタル酸又はその誘導体とエチレングリコールとの縮合重合によって製造される。
【0004】
PETの商業的な製造プロセスでは、一般に重合触媒が用いられ、該重合触媒としてアンチモン(Sb)触媒が広く利用されている。ところが、アンチモン触媒を用いて製造されたPETでは、溶融重合中にアンチモン触媒が還元されて金属Sb粒子として析出し、ポリマー中に残存するため、押出製膜時のフィルターの濾圧上昇やフィルム面状欠陥となって操業性を低下させる一因となる。アンチモン触媒を用いない重合触媒として、ゲルマニウム(Ge)を用いた触媒が知られているが、ゲルマニウムは埋蔵量が少なく希少であることからコスト面での課題がある。
【0005】
上記のような事情に鑑みて、重合触媒としてチタン化合物を用いる検討が盛んに行なわれている。チタン化合物は、比較的安価であり、Sb化合物やGe化合物に比べて触媒活性が高く、少量の添加で高分子量のポリマーが得られる利点がある。また、Sbのような異物の発生もない。
【0006】
一般にポリエステルの表面には、カルボキシル基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境下では加水分解反応が起きやすく、経時とともに著しく劣化する傾向にある。そのため、屋外等の常に風雨に曝されるような環境に置かれる太陽電池モジュールに用いられるポリエステルは、加水分解に対して耐性を有していることが求められる。
【0007】
ところが、加水分解を抑制するためにポリエステルの末端カルボン酸基の濃度を下げても、実際の耐加水分解性は必ずしも充分に得られないのが実情である。例えば、ポリエステルがある程度の固有粘度(IV)を有していると、製膜時、つまり溶融混練して押出する際の加熱や剪断応力がかかることに伴なう発熱(剪断発熱)でカルボン酸基が増加し、結果として耐加水分解性を保持できない場合がある。ポリエステルのIV値が高いと、溶融押出の際に樹脂が押し出され難いため、剪断発熱の影響を受けやすくなる。
【0008】
上記に関連する技術として、所定量のチタン元素及びリン元素を含み、末端カルボキシル基濃度が40当量/トン以下であるポリエステルフィルムが開示されており(例えば、特許文献1参照)、耐加水分解性や耐候性等の耐環境性が改良されるとされている。
【0009】
また、リン元素の含有量が所定の範囲にあり末端カルボン酸量を26当量/トン以下とした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。このポリエステルフィルムでは、高温高湿環境下での長期使用における加水分解による劣化が防止されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−204538号公報
【特許文献2】特開2009−256621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来のポリエステルフィルムでは、末端カルボン酸基が低めに抑えられるために加水分解性に対してある程度の耐性を示すと推定されるものの、従来は比較的高い温度で速く重合させるために、カルボン酸量はそれほど下がらない反面、IVは高くなる傾向がある。IVが高くなると、溶融押し出し等の際に剪断発熱の影響を受けやすくなる。剪断発熱は、樹脂温度が定まらず末端カルボン酸量を低めに保てないため、経時での耐加水分解性が低下する。
【0012】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、IV上昇を抑えて末端カルボン酸量を低下させることができ、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムを作製すること可能なポリエステル樹脂の製造方法、及び耐加水分解性に優れたポリエステルフィルム、並びに長期耐久性を具えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> チタン化合物を含む触媒下、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、固有粘度が0.40dL/g以上のエステル化反応生成物を生成する反応物生成工程と、生成した前記エステル化反応生成物を、固体状態で熱処理することで、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合で増加させることにより固相重合させ、固有粘度が0.65〜0.90dL/g、末端カルボン酸量が20当量/トン以下であるポリエステル樹脂を得る固相重合工程と、を有するポリエステル樹脂の製造方法である。
【0014】
<2> 前記エステル化反応生成物を固体状態で熱処理するに際し、生成した前記エステル化反応生成物に対して乾燥を行なう乾燥工程から前記固相重合工程に移行する間に昇温速度を200℃/時間以下とする過程を有する前記<1>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
【0015】
<3> 前記反応物生成工程は、前記チタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも一種を用い、前記触媒として有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を含み、更に、前記反応物生成工程で生成したエステル化反応生成物を重縮合反応させる重縮合工程を有する前記<1>又は前記<2>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
【0016】
<4> 前記反応物生成工程は、前記有機キレートチタン錯体、前記マグネシウム化合物、及び前記リン酸エステルを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように添加する前記<3>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
【0017】
<5> 前記昇温速度が、10〜150℃/時間である前記<2>〜前記<4>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
<6> 前記固相重合工程の後、更に、ポリエステル樹脂を溶融押出機に投入して溶融押出し、厚みが50μm〜350μmであるフィルム状に成形する成形工程を有する前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
<7> 前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステルフィルムである。
【0018】
<8> 前記<7>に記載のポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシートである。
<9> 太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、前記<7>に記載のポリエステルフィルムとを備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、IV上昇を抑えて末端カルボン酸量を低下させることができ、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムを作製すること可能なポリエステル樹脂の製造方法、及び耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、長期耐久性を具えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】太陽電池モジュールの構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のポリエステル樹脂の製造方法、並びにこれを用いたポリエステルフィルム、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールについて、詳細に説明する。
【0022】
<ポリエステル樹脂の製造方法及びポリエステルフィルム>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、チタン化合物を含む触媒下、ジカルボン酸成分とジオール成分と(好ましくは芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール)をエステル化反応させて、固有粘度が0.40dL/g以上のエステル化反応生成物を生成する反応物生成工程と、生成した前記エステル化反応生成物を、固体状態で熱処理することで、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合で増加させることにより固相重合させ、固有粘度が0.65〜0.90dL/g、末端カルボン酸量が20当量/トン以下であるポリエステル樹脂を得る固相重合工程と、を設けて構成されている。
本発明のポリエステルフィルムは、本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されるものであり、前記反応物生成工程及び前記固相重合工程に加え、さらに固相重合工程で得られたポリエステル樹脂を延伸してフィルム状にする延伸工程を設けて得られた(一軸又は二軸)延伸フィルムであるのが好ましい。
【0023】
本発明においては、チタン系触媒の存在下、エステル化反応させて得られたエステル化反応生成物を、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合で増加させる、すなわち従来から行なわれる速度に比べてより低速で固相重合させることで、高IVにすることなく、末端カルボン酸量が低く抑えられるので、長期に亘り優れた耐加水分解性を示すポリエステルフィルムを作製することができる。
【0024】
−反応物生成工程−
本発明における反応物生成工程は、チタン化合物を含む触媒下、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、固有粘度が0.40dL/g以上のエステル化反応生成物を生成する。
【0025】
本発明における反応物生成工程は、エステル化反応、及び重縮合反応を設けてポリエステルを生成するエステル化工程である。このエステル化工程は、(a)エステル化反応と、(b)エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させる重縮合反応とを設けることができる。
【0026】
本工程では、次の固相重合工程で用いるエステル化反応生成物を、その固有粘度(IV)が0.40dL/g以上となるように生成する。生成されるエステル化反応生成物の固有粘度が0.40dL/g未満であると、後の固相重合工程でポリエステル樹脂を得る際に、樹脂の分子量が低くなり過ぎ、固相重合時に粉末状の樹脂が多量に発生する。この粉末状の樹脂は固相重合速度が速いために、高IVとなりフィルムのフィッシュアイとなり好ましくない。また、経済的にも固相重合時間が長時間となり好ましくない。
本発明においては、エステル化反応生成物の固有粘度は、固相重合時の粉の発生防止と固相重合時間の観点から、0.45dL/g以上が好ましく、0.48dL/g以上がより好ましい。ここでの固有粘度の上限値としては、溶融重合中の溶融粘度上昇による剪断発熱による熱分解でAV値が増加し易くなるのを回避する観点から、0.80dL/gが望ましい。
このようなIV値の調節は、液相重合時の重合温度や時間、真空度の調節により行なうことができる。
【0027】
なお、固有粘度(IV:Intrinsic Viscosity)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr-1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒中の30℃での溶液粘度から求められる。
【0028】
(a)エステル化反応
ポリエステルを重合する際のエステル化反応において、触媒としては、チタン(Ti)化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物等を使用できる。触媒の詳細については後述する。このうち、触媒としてTi化合物を用いるのが好ましい。この場合、Ti化合物の添加量は、Ti元素換算値が1ppm以上30ppm以下となる量が好ましく、より好ましくは2ppm以上20ppm以下となる量、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲となる量で重合を行なうことが好ましい。
Ti系化合物の量がTi元素換算で1ppm以上であると、重合速度が速くなり、好ましいIVが得られる。また、Ti化合物の量がTi元素換算で30ppm以下であると、末端COOH量を上記の範囲を満足するように調節することが可能であり、また良好な色調が得られる。
【0029】
このようなTi化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第399687号1号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特開2007−204538号公報、特許3436268号、特許第3780137号等に記載の方法を適用することができる。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムを形成するポリエステルは、(A)マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体と、(B)エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物と、を周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
【0031】
前記ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0032】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015モル以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0033】
PETは、テレフタル酸とエチレングリコールとを90モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上含むものである。
【0034】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に挙げると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0035】
これらの中でより好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。また、前記PETとしては、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるPETが好ましく、より好ましくは、耐加水分解性が良好な点で、Ti系触媒を用いたものである。
【0036】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能であり、本発明のポリエステルフィルムにおいて、末端COOH量を所定の範囲に調整するのに好適である。
【0037】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0038】
前記Ti系触媒の中でも、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種を好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0039】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、チタン、マグネシウム、リンを用い、これらをこの順に添加する構成にすると末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0040】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0041】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程を、反応物生成工程として設けて構成されるのが好ましい。この場合、エステル化反応工程に加え、該エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程を設けて構成されている製造方法によりポリエステル樹脂を作製する態様がより好ましい。なお、重縮合工程については、後述する。
【0042】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂が得られる。
【0043】
このポリエステル樹脂は、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0044】
上記において、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する場合、有機キレートチタン錯体等はエステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよい。また、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0045】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0046】
(リン化合物)
リン化合物としては、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が好適に用いられる。本発明における5価のリン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0047】
5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0048】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0049】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは65ppm以上75ppm以下となる量である。
【0050】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
【0051】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0052】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0053】
触媒としてチタン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物を用いる場合、高い静電印加性を付与するとともに耐加水分解性を有し、黄着色を抑えたポリエステルとする点で、チタン元素(Ti)、マグネシウム元素(Mg)、及びリン元素(P)の元素換算比で下記式を満たす場合が好ましい。
3ppm≦Ti元素量≦20ppm
50ppm≦ P元素量 ≦90ppm
50ppm≦Mg元素量≦100ppm
【0054】
本発明におけるエステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用のみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0055】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0056】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.0≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0057】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0058】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0059】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0060】
(b)重縮合
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0061】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0062】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が13.3×10−3〜1.3×10−3MPa(100〜10torr)、より好ましくは6.67×10−3〜2.67×10−3MPa(50〜20torr)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が2.67×10−3〜1.33×10−4MPa(20〜1torr)、より好ましくは1.33×10−3〜4.0×10−4MPa(10〜3torr)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が1.33×10−3〜1.33×10−5MPa(10〜0.1torr)、より好ましくは6.67×10−4〜6.67×10−5MPa(5〜0.5torr)である態様が好ましい。
【0063】
本発明においては、上記のエステル化反応工程及び重縮合工程を設けることにより、チタン原子(Ti)、マグネシウム原子(Mg)、及びリン原子(P)を含むと共に、下記式(i)から算出される値Zが、下記の関係式(ii)を満たすポリエステル樹脂組成物を生成することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
【0064】
ポリエステル樹脂組成物は、+0≦Z≦+5.0を満たすものであることで、Ti、P、及びMgの3元素のバランスが適切に調節されているので、重合反応性を保った状態で、色調と耐熱性(高温下での黄着色の低減)とに優れ、かつ高い静電印加性を維持することができる。また、本発明では、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂を得ることができる。
【0065】
前記式(i)は既述のように、リン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物の3者のバランスを定量的に表現したものであり、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表したものである。値Zが+0未満、つまりチタンに作用するリン量が少な過ぎると、チタンの触媒活性(重合反応性)は高まるが、耐熱性が低下し、得られるポリエステル樹脂の色調は黄色味を帯び、重合後の例えば製膜時(溶融時)にも着色し、色調が低下する。また、値Zが+5.0を超える、つまりチタンに作用するリン量が多過ぎると、得られるポリエステルの耐熱性及び色調は良好なものの、触媒活性が低下しすぎ、生成性に劣る。
本発明においては、上記同様の理由から、前記式(ii)は、1.0≦Z≦4.0を満たす場合が好ましく、1.5≦Z≦3.0を満たす場合がより好ましい。
【0066】
Ti、Mg、及びPの各元素の測定は、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いてPET中の各元素を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出することにより行なうことができる。
【0067】
また、生成されるポリエステル樹脂組成物は、更に、下記の関係式(iii)で表される関係を満たすものであることが好ましい。
重縮合後にペレットとしたときのb値 ≦ 4.0 ・・・(iii)
重縮合して得られたポリエステル樹脂をペレット化し、該ペレットのb値が4.0以下であることにより、黄色味が少なく、透明性に優れる。b値が3.0以下である場合、Ge触媒で重合したポリエステル樹脂と遜色ない色調になる。
【0068】
b値は、色味を表す指標となるものであり、ND−101D(日本電色工業(株)製)を用いて計測される値である。
【0069】
また更に、ポリエステル樹脂組成物は、下記の関係式(iv)で表される関係を満たしていることが好ましい。
色調変化速度[Δb/分]≦ 0.15 ・・・(iv)
重縮合して得られたポリエステル樹脂ペレットを、300℃で溶融保持した際の色調変化速度[Δb/分]が0.15以下であることにより、加熱下に曝された際の黄着色を低く抑えることができる。これにより、例えば押出機で押し出して製膜する等の場合に、黄着色が少なく、色調に優れたフィルムを得ることができる。
【0070】
前記色調変化速度は、値が小さいほど好ましく、0.10以下であることが特に好ましい。
【0071】
色調変化速度は、熱による色の変化を表す指標となるものであり、下記方法により求められる値である。すなわち、
ポリエステル樹脂組成物のペレットを、射出成形機(例えば東芝機械(株)製のEC100NII)のホッパーに投入し、シリンダ内(300℃)で溶融保持させた状態で、その保持時間を変更してプレート状に成形し、このときのプレートb値をND−101D(日本電色工業(株)製)により測定する。b値の変化をもとに変化速度[Δb/分]を算出する。
【0072】
−固相重合工程−
本発明における固相重合工程は、前記反応物生成工程で生成したエステル化反応生成物を、固体状態で熱処理することで、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合でゆっくりと増加させることにより固相重合させ(固相重合反応)、固有粘度が0.65〜0.90dL/g、末端カルボン酸量が20当量/トン以下であるポリエステル樹脂を得る。
【0073】
固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。
【0074】
固体状態で行なう熱処理は、場合に応じた温度を選択することができるが、低温で行なうことが好ましい。中でも、熱処理する温度は、215℃以下の温度領域が好ましく、より好ましくは150℃以上215℃以下であり、更に好ましくは170℃以上215℃以下である。上記のうち、熱処理は、190℃以上215℃以下で5時間以上100時間以下の条件にて行なうのがより好ましく、更には190℃以上215℃以下で10時間以上80時間以下、特には190℃以上215℃以下で15時間以上60時間以下の条件にて行なうのが好ましい。
【0075】
固相重合は、真空中あるいは窒素(N)気流中で行なうことが好ましい。更に、多価アルコール(エチレングリコール等)を1ppm以上1%以下混合してもよい。
【0076】
また、本発明における固相重合は、固有粘度(IV)の増加が1時間あたり0.01dL/g以下のゆっくりとした範囲で行なわれる。IVの1時間あたりの増加が0.01dL/gを超えると、末端COOHの濃度が低く抑えられず、耐加水分解性に劣る。すなわち、固有粘度の増加が0.01dL/g以下に抑えられるように熱処理を行なうようにすることで、ポリエステル樹脂における末端カルボン酸基の濃度を低く抑えることができ、ひいては耐加水分解性が向上する。これにより、ポリエステル樹脂の長期に亘る耐久性能を高めることができる。
中でも、上記と同様の理由から、固有粘度が1時間あたり0.002〜0.008dL/gで増加する範囲で固相重合させるのが好ましい。
【0077】
固相重合後のポリエステル樹脂では、固有粘度(IV)を0.65〜0.90dL/gの範囲とする。IVが0.65dL/gを下回ると、分子量が低くなり過ぎ、密着界面で凝集破壊を起こして密着が低下する。またIVが0.90dL/gを超えると、製膜中に溶融粘度が上昇し、剪断発熱を受けて熱分解しやすくなり、また球晶の生成が促進される。そのため、末端COOH基の濃度を20当量/トン以下に抑えることができず、AV値が増加し、溶融押出時の押出特性も悪化する。
更に、IVが前記範囲外であると、分子量低下により発生する脆化に伴なう被着物(特に太陽電池モジュールの電池側基板に設けられた封止材(例えばEVA))との間の界面における破壊(剥がれ)が抑えられず、また延伸時の延伸ムラの発生を回避することができない。
このようなIV値に調節するには、前記反応物生成工程において液相重合する際の重合時間の調節、固相重合により行なうことができる。
IVは、既述した方法と同様の方法で測定することができる。
【0078】
固相重合は、バッチ式(容器内に樹脂を入れ、この中で所定の時間熱を与えながら撹拌する方式)で実施してもよく、連続式(加熱した筒の中に樹脂を入れ、これを加熱しながら所定の時間滞流させながら筒中を通過させて、順次送り出す方式)で実施してもよい。
具体的には、例えば、加熱ガスフロー方式の場合、低露点窒素フローが好ましい(例えば、水スクラバーとゼオライト吸着により露点温度−40℃以下であるのが好ましい。
【0079】
また、バッチ式固相重合の場合には、高真空下で行なうのが好ましい。高真空である場合としては、50Pa以下が好ましく、より好ましくは10Pa以下であり、特に好ましくは1Pa以下である。
【0080】
固相重合により、その後の末端カルボン酸の量(末端COOH量)を20当量/トン以下とする。末端COOH量が20当量/トンを超えると、耐加水分解性が低下し、長期使用に耐える耐久性能を確保することはできない。ポリエステル樹脂の末端COOH量としては、中でも5当量/トン以上20当量/トン以下であるのが好ましく、より好ましくは7当量/トン以上20当量/トン以下であり、更に好ましくは10当量/トン以上20当量/トン以下である。
【0081】
なお、末端COOH量は、ポリエステルをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、これを基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その滴定量から算出される値である。
【0082】
−成形−
前記固相重合工程後には、固相重合を終えたポリエステル樹脂を、所望の溶融押出機に投入して溶融押出し、厚みが50μm〜350μmであるフィルム状に成形する成形工程が設けられている態様が好ましい。
ここで、製膜時の温度条件としては、樹脂の温度が290℃以下であることが好ましく、樹脂の温度は特に好ましくは285℃以下である。
【0083】
成形工程では、前記固相重合工程を経た後のポリエステルを溶融混練し、口金(押出ダイ)から押出すことにより、ポリエステルフィルムを成形することができる。
このとき、帯状に吐出された溶融樹脂(メルト)の延伸前の厚みは、500μm以上6000μm以下の範囲であることが好ましい。この場合、その後の延伸処理を経ることで、厚手のポリエステルフィルムを作製することができる。ポリエステルフィルムの厚みは、50μm以上350μm以下が好ましい。延伸前の厚みが6000μm以下であることで、メルト押出し中に皺が発生し難くムラの発生が抑えられる。
また、延伸前の厚みが500μm以上であることで、必要なフィルムの剛性を得ることができる。
メルトの延伸前の厚みについては、500μm以上6000μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは600μm以上5000μm以下の範囲であり、さらに好ましくは700μm以上4500μm以下の範囲である。
【0084】
この場合、上記の固相重合工程で得られたエステル化反応生成物を乾燥し、残留水分を100ppm以下にした後、押出し機を用いて溶融することができる。溶融温度は、250℃以上320℃以下が好ましく、260℃以上310℃以下がより好ましく、270℃以上300℃以下がさらに好ましい。押出し機は、1軸でも多軸でもよい。熱分解による末端COOHの発生をより抑制できる点で、押出し機内を窒素置換して行なうのがより好ましい。
溶融された溶融樹脂(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出す。このとき、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0085】
−延伸工程−
上記工程の後には、押出成形されたポリエステルフィルム(未延伸フィルム)を2軸延伸することにより、延伸フィルムを好適に作製することができる。
【0086】
具体的には、未延伸のポリエステルフィルムを、70℃以上140℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸し、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが好ましい。続いて、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、80℃以上150℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向(幅方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸する。
【0087】
延伸率は、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするのが好ましい。また、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上15倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以上であると、得られる二軸延伸積層フィルムの反射率や隠蔽性、フィルム強度が良好であり、また面積倍率が15倍以下であると、延伸時の破れを回避することができる。
【0088】
フィルムの耐加水分解性の点では、フィルム延伸倍率の高い方が良好であり、また、面配向度としては、0.15以上が好ましく、より好ましくは0.16以上であり、更に好ましくは0.165以上である。面配向度が前記範囲内であると、耐加水分解性の点で有利である。
ここで、面配向度は、ポリエステルフィルムの表面の結晶配向の度合いを示し、MD方向(横方向;Transverse Direction)とTD方向(縦方向;Machine Direction)の平均屈折率(n)と厚み方向の屈折率(n)との差(n−nの絶対値)により求められる値である。
また、面配向度の制御は、延伸時の縦及び又は横延伸倍率や延伸温度、熱固定温度、緩和率を調整することにより行なうことができる。
【0089】
二軸延伸する方法としては、上述のように、長手方向(TD方向)と幅方向(MD方向)の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法のほか、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
【0090】
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、好ましくは原料となる樹脂のガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で1秒以上30秒以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルムが耐加水分解性に劣ることがある。そのため、本発明のポリエステルフィルムの熱処理温度(Ts)としては、30℃≦(Tm−Ts)≦90℃であるのが好ましい。より好ましくは、熱処理温度(Ts)を40℃≦(Tm−Ts)≦80℃、更に好ましくは45℃≦(Tm−Ts)≦75℃とすることが好ましい。
【0091】
更には、本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成するバックシートとして用いることができるが、モジュール使用時には雰囲気温度が100℃程度まで上昇することがある。そのため、熱処理温度(Ts)としては、160℃以上Tm−40℃(但し、Tm−40℃>160℃)以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以上Tm−50℃(但し、Tm−50℃>170℃)以下、更に好ましくはTsが180℃以上Tm−55℃(但し、Tm−55℃>180℃)以下である。
【0092】
また必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜10%の弛緩処理を施してもよい。
【0093】
また、ポリエステルフィルムは、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0094】
本発明のポリエステルフィルムは、光安定化剤を含有することが好ましい。光安定化剤を含有することで、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、フィルム等が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。
【0095】
光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤をフィルム中に含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、フィルムによる部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、フィルムの紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、フィルム中に均一分散できることが望まれる。
【0096】
前記紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0097】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0098】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0099】
<太陽電池用バックシート>
本発明の太陽電池用バックシートは、既述の本発明のポリエステルフィルムを設けて構成したものであり、被着物に対して易接着性の易接着性層、紫外線吸収層、光反射性のある白色層などの機能性層を少なくとも1層設けて構成することができる。既述のポリエステルフィルムを備えるので、長期使用時において安定した耐久性能を示す。
【0100】
本発明の太陽電池用バックシートは、例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに下記の機能性層を塗設してもよい。塗設には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0101】
−易接着性層−
本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成する場合に太陽電池素子が封止剤で封止された電池側基板の該封止材と向き合う側に、易接着性層を有しているバックシートに構成されるのが好ましい。封止剤(特にエチレン−酢酸ビニル共重合体)を含む被着物(例えば太陽電池素子が封止材で封止された電池側基板の封止剤の表面)に対して接着性を示す易接着性層を設けることにより、バックシートと封止材との間を強固に接着することができる。具体的には、易接着性層は、特に封止材として用いられるEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)との接着力が10N/cm以上、好ましくは20N/cm以上であることが好ましい。
さらに、易接着性層は、太陽電池モジュールの使用中にバックシートの剥離が起こらないことが必要であり、そのために易接着性層は高い耐湿熱性を有することが望ましい。
【0102】
(1)バインダー
本発明における易接着性層はバインダーの少なくとも1種を含有することができる。
バインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。中でも、耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂として、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。好ましいバインダーの例として、以下のものを挙げることができる。
前記ポリオレフィンの例として、ケミパールS−120、同S−75N(ともに三井化学(株)製)が挙げられる。前記アクリル樹脂の例として、ジュリマーET−410、同SEK−301(ともに日本純薬工業(株)製)が挙げられる。また、前記アクリルとシリコーンとの複合樹脂の例として、セラネートWSA1060、同WSA1070(ともにDIC(株)製)、及びH7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)が挙げられる。
前記バインダーの量は、0.05〜5g/mの範囲が好ましく、0.08〜3g/mの範囲が特に好ましい。バインダー量は、0.05g/m以上であることでより良好な接着力が得られ、5g/m以下であることでより良好な面状が得られる。
【0103】
(2)微粒子
本発明における易接着性層は、微粒子の少なくとも1種を含有することができる。易接着性層は、微粒子を層全体の質量に対して5質量%以上含有することが好ましい。
微粒子としては、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化錫等の無機微粒子が好適に挙げられる。特にこの中でも、湿熱雰囲気に曝されたときの接着性の低下が小さい点で、酸化錫、シリカの微粒子が好ましい。
微粒子の粒径は、10〜700nm程度が好ましく、より好ましくは20〜300nm程度である。粒径が前記範囲の微粒子を用いることにより、良好な易接着性を得ることができる。微粒子の形状には特に制限はなく、球形、不定形、針状形等のものを用いることができる。
微粒子の易接着性層中における添加量としては、易接着性層中のバインダー当たり5〜400質量%が好ましく、より好ましくは50〜300質量%である。微粒子の添加量は、5質量%以上であると、湿熱雰囲気に曝されたときの接着性に優れており、1000質量%以下であると、易接着性層の面状がより良好である。
【0104】
(3)架橋剤
本発明における易接着性層は、架橋剤の少なくとも1種を含有することができる。
架橋剤の例としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。湿熱経時後の接着性を確保する観点から、これらの中でも特にオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
前記オキサゾリン系架橋剤の具体例として、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。さらに、これらの化合物の(共)重合体も好ましく利用することができる。
また、オキサゾリン基を有する化合物として、エポクロスK2010E、同K2020E、同K2030E、同WS500、同WS700(いずれも日本触媒化学工業(株)製)等も利用できる。
架橋剤の易接着性層中における好ましい添加量は、易接着性層のバインダー当たり5〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。架橋剤の添加量は、5質量%以上であることで良好な架橋効果が得られ、反射層の強度低下や接着不良が起こりにくく、50質量%以下であることで塗布液のポットライフをより長く保てる。
【0105】
(4)添加剤
本発明における易接着性層には、必要に応じて、更にポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカ等の公知のマット剤、アニオン系やノニオン系などの公知の界面活性剤などを添加してもよい。
【0106】
(5)易接着性層の形成方法
本発明の易接着性層の形成方法としては、易接着性を有するポリマーシートをポリエステルフィルムに貼合する方法や塗布による方法があるが、塗布による方法は、簡便でかつ均一性の高い薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターなどの公知の方法を利用することができる。塗布に用いる塗布液の溶媒としては、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0107】
(6)物性
本発明における易接着性層の厚みには特に制限はないが、通常は0.05〜8μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。易接着性層の厚みは、0.05μm以上であることで必要とする易接着性が得られやすく、8μm以下であることで面状をより良好に維持することができる。
また、本発明における易接着性層は、ポリエステルフィルムとの間に着色層(特に反射層)が配置された場合の該着色層の効果を損なわない観点から、透明性を有していることが好ましい。
【0108】
−紫外線吸収層−
本発明のポリエステルフィルムには、上記の紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層が設けられてもよい。紫外線吸収層は、ポリエステルフィルム上の任意の位置に配置することができる。
紫外線吸収剤は、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、セルロースエステル樹脂等とともに、溶解、分散させて用いることが好ましく、400nm以下の光の透過率を20%以下にするのが好ましい。
【0109】
−着色層−
本発明のポリエステルフィルムには、着色層を設けることができる。着色層は、ポリエステルフィルムの表面に接触させて、あるいは他の層を介して配置される層であり、顔料やバインダーを用いて構成することができる。
【0110】
着色層の第一の機能は、入射光のうち太陽電池セルで発電に使われずにバックシートに到達した光を反射させて太陽電池セルに戻すことにより、太陽電池モジュールの発電効率を上げることにある。第二の機能は、太陽電池モジュールをオモテ面側から見た場合の外観の装飾性を向上することにある。一般に太陽電池モジュールをオモテ面側から見ると、太陽電池セルの周囲にバックシートが見えており、バックシートに着色層を設けることにより装飾性を向上させることができる。
【0111】
(1)顔料
本発明における着色層は、顔料の少なくとも1種を含有することができる。顔料は、2.5〜8.5g/mの範囲で含有されるのが好ましい。より好ましい顔料含有量は、4.5〜7.5g/mの範囲である。顔料の含有量が2.5g/m以上であることで、必要な着色が得られやすく、光の反射率や装飾性をより優れたものに調整することができる。顔料の含有量が8.5g/m以下であることで、着色層の面状をより良好に維持することができる。
【0112】
顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、群青、紺青、カーボンブラック等の無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料が挙げられる。これら顔料のうち、入射する太陽光を反射する反射層として着色層を構成する観点からは、白色顔料が好ましい。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルクなどが好ましい。
【0113】
顔料の平均粒径としては、0.03〜0.8μmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5μm程度が好ましい。平均粒径が前記範囲内であると、光の反射効率が低下する場合がある。
入射した太陽光を反射する反射層として着色層を構成する場合、顔料の反射層中における好ましい添加量は、用いる顔料の種類や平均粒径により変化するため一概には言えないが、1.5〜15g/mが好ましく、より好ましくは3〜10g/m程度である。添加量は、1.5g/m以上であることで必要な反射率が得られやすく、15g/m以下であることで反射層の強度をより一層高く維持することができる。
【0114】
(2)バインダー
本発明における着色層は、バインダーの少なくとも1種を含有することができる。バインダーを含む場合の量としては、前記顔料に対して、15〜200質量%の範囲が好ましく、17〜100質量%の範囲がより好ましい。バインダーの量は、15質量%以上であることで着色層の強度を一層良好に維持することができ、200質量%以下であることで反射率や装飾性が低下する。
着色層に好適なバインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。バインダーは、耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂として、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。好ましいバインダーの例として、以下のものが挙げられる。
前記ポリオレフィンの例としては、ケミパールS−120、同S−75N(ともに三井化学(株)製)などが挙げられる。前記アクリル樹脂の例としては、ジュリマーET−410、SEK−301(ともに日本純薬工業(株)製)などが挙げられる。前記アクリルとシリコーンとの複合樹脂の例としては、セラネートWSA1060、WSA1070(ともにDIC(株)製)、H7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)等を挙げることができる。
【0115】
(3)添加剤
本発明における着色層には、バインダー及び顔料以外に、必要に応じて、さらに架橋剤、界面活性剤、フィラー等を添加してもよい。
【0116】
架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。架橋剤の着色剤中における添加量は、着色層のバインダーあたり5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。架橋剤の添加量は、5質量%以上であることで良好な架橋効果が得られ、着色層の強度や接着性を高く維持することができ、また50質量%以下であることで、塗布液のポットライフをより長く維持することができる。
【0117】
界面活性剤としては、アニオン系やノニオン系等の公知の界面活性剤を利用することができる。界面活性剤の添加量は、0.1〜15mg/mが好ましく、より好ましくは0.5〜5mg/mが好ましい。界面活性剤の添加量は、0.1mg/m以上であることでハジキの発生が効果的に抑制され、また、15mg/m以下であることで接着性に優れる。
【0118】
さらに、着色層には、上記の顔料とは別に、シリカ等のフィラーなどを添加してもよい。フィラーの添加量は、着色層のバインダーあたり20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。フィラーを含むことにより、着色層の強度を高めることができる。また、フィラーの添加量が20質量%以下であることで、顔料の比率が保てるため、良好な光反射性(反射率)や装飾性が得られる。
【0119】
(4)着色層の形成方法
着色層の形成方法としては、顔料を含有するポリマーシートをポリエステルフィルムに貼合する方法、ポリエステルフィルム成形時に着色層を共押出しする方法、塗布による方法等がある。このうち、塗布による方法は、簡便でかつ均一性の高い薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターなどの公知の方法を利用することができる。塗布に用いられる塗布液の溶媒としては、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。しかし、環境負荷の観点から、水を溶媒とすることが好ましい。
溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0120】
(5)物性
着色層は、白色顔料を含有して白色層(光反射層)として構成されることが好ましい。反射層である場合の550nmの光反射率としては、75%以上であるのが好ましい。反射率が75%以上であると、太陽電池セルを素通りして発電に使用されなかった太陽光をセルに戻すことができ、発電効率を上げる効果が高い。
【0121】
白色層(光反射層)の厚みは、1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、更に好ましくは1.5〜10μm程度である。膜厚が1μm以上である場合、必要な装飾性や反射率が得られやすく、20μm以下であると面状が悪化する場合がある。
【0122】
−下塗り層−
本発明のポリエステルフィルムには、下塗り層を設けることができる。下塗り層は、例えば、着色層が設けられるときには、着色層とポリエステルフィルムとの間に下塗り層を設けてもよい。下塗り層は、バインダー、架橋剤、界面活性剤等を用いて構成することができる。
【0123】
下塗り層中に含有するバインダーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。下塗り層には、バインダー以外にエポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤、アニオン系やノニオン系等の界面活性剤、シリカ等のフィラーなどを添加してもよい。
【0124】
下塗り層を塗布形成するための方法や用いる塗布液の溶媒には、特に制限はない。
塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターを利用することができる。前記溶媒は、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0125】
塗布は、2軸延伸した後のポリエステルフィルムに塗布してもよいし、1軸延伸後のポリエステルフィルムに塗布してもよい。この場合、塗布後に初めの延伸と異なる方向に更に延伸してフィルムとしてもよい。さらに、延伸前のポリエステルフィルムに塗布した後に、2方向に延伸してもよい。
下塗り層の厚みは、0.05μm〜2μmが好ましく、より好ましくは0.1μm〜1.5μm程度の範囲が好ましい。膜厚が0.05μm以上であることで必要な接着性が得られやすく、2μm以下であることで、面状を良好に維持することができる。
【0126】
−フッ素系樹脂層・ケイ素系樹脂層−
本発明のポリエステルフィルムには、フッ素系樹脂層及びケイ素系(Si系)樹脂層の少なくとも一方を設けることが好ましい。フッ素系樹脂層やSi系樹脂層を設けることで、ポリエステル表面の汚れ防止、耐候性向上が図れる。具体的には、特開2007−35694号公報、特開2008−28294号公報、WO2007/063698明細書に記載のフッ素樹脂系塗布層を有していることが好ましい。
また、テドラー(DuPont社製)等のフッ素系樹脂フィルムを張り合わせることも好ましい。
【0127】
フッ素系樹脂層及びSi系樹脂層の厚みは、各々、1μm以上50μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは1μm以上40μm以下の範囲が好ましく、更に好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0128】
−無機層−
本発明のポリエステルフィルムは、更に、無機層が設けられた形態も好ましい。無機層を設けることで、ポリエステルへの水やガスの浸入を防止する防湿性やガスバリア性の機能を与えることができる。無機層は、ポリエステルフィルムの表裏いずれに設けてもよいが、防水、防湿等の観点から、ポリエステルフィルムの電池側基板と対向する側(前記着色層や易接着層の形成面側)とは反対側に好適に設けられる。
【0129】
無機層の水蒸気透過量(透湿度)としては、10g/m・d〜10−6g/m・dが好ましく、より好ましくは10g/m・d〜10−5g/m・dであり、さらに好ましくは10g/m・d〜10−4g/m・dである。
このような透湿度を有する無機層を形成するには、下記の乾式法が好適である。
【0130】
乾式法によりガスバリア性の無機層(以下、ガスバリア層ともいう。)を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により膜形成する真空蒸着法が好ましい。
【0131】
ここで、ガスバリア層を形成する材料が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、無機ハロゲン化物、無機硫化物などを主たる構成成分とする場合は、形成しようとするガスバリア層の組成と同一の材料を直接揮発させて基材などに堆積させることも可能であるが、この方法で行なう場合には、揮発中に組成が変化し、その結果、形成された膜が均一な特性を呈さない場合がある。そのため、1)揮発源として、形成するバリア層と同一組成の材料を用い、無機酸化物の場合は酸素ガスを、無機窒化物の場合は窒素ガスを、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガスを、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガスを、無機硫化物の場合は硫黄系ガスを、それぞれ系内に補助的に導入しながら揮発させる方法、2)揮発源として無機物群を用い、これを揮発させながら、無機酸化物の場合は酸素ガスを、無機窒化物の場合は窒素ガスを、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガスを、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガスを、無機硫化物の場合は硫黄系ガスを、それぞれ系内に導入し、無機物と導入したガスを反応させながら基材表面に堆積させる方法、3)揮発源として無機物群を用い、これを揮発させて、無機物群の層を形成させた後、それを無機酸化物の場合は酸素ガス雰囲気下、無機窒化物の場合は窒素ガス雰囲気下、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気下、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガス雰囲気下、無機硫化物の場合は硫黄系ガス雰囲気下で保持することにより無機物層と導入したガスを反応させる方法、等が挙げられる。
これらのうち、揮発源から揮発させることが容易であるという点で、2)又は3)がより好ましく用いられる。さらには、膜質の制御が容易である点で2)の方法が更に好ましく用いられる。また、バリア層が無機酸化物の場合は、揮発源として無機物群を用い、これを揮発させて、無機物群の層を形成させた後、空気中で放置することで、無機物群を自然酸化させる方法も、形成が容易であるという点で好ましい。
【0132】
また、アルミ箔を貼り合わせてバリア層として使用することも好ましい。厚みは、1μm以上30μm以下が好ましい。厚みは、1μm以上であると、経時(サーモ)中にポリエステルフィルム中に水が浸透し難くなって加水分解を生じ難く、30μm以下であると、バリア層の厚みが厚くなり過ぎず、バリア層の応力でフィルムにベコが発生することもない。
【0133】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【0134】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0135】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0136】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0138】
(実施例1)
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル樹脂を得た。
【0139】
[反応物生成工程]
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下で平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体を、Ti添加量がTi元素換算で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600eq/トンであった。
【0140】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200eq/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で67ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0141】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力2.67×10−3MPa(20torr)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0142】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力6.67×10−4MPa(5torr)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0143】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応生成物(ポリエチレンテレフタレート;以下、PETと略記する。)を得た。
【0144】
得られたPET(反応生成物)について、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて、以下に示すように測定を行なった。その結果、Ti=9ppm、Mg=67ppm、P=58ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
また、後述する方法により、固相重合前での固有粘度(IV)及び末端COOH量を測定した。測定結果は、下記表1に示す。
【0145】
その後、得られたPET(反応生成物)を、含水率50ppm以下に真空乾燥させた。このとき、乾燥から固相重合工程に移行するまでの間は、昇温速度を80℃として加熱した。
【0146】
[固相重合工程]
上記で重合したPETをペレット化(直径3mm、長さ7mm)し、得られた樹脂ペレットを窒素雰囲気下、固相重合を実施した。このとき、固相重合させる温度を205℃とし、1時間あたりの固有粘度の変化〔ΔIV/時間〕を下記表1に示すように0.008に調節して固相重合を施した。
【0147】
[押出成形]
上記のように固相重合を終えた樹脂ペレットを、再び含水率50ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入し、N気流下、285℃で溶融して40m/分の速度で押出した。この溶融体(メルト)をギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を通した後、下記条件のもとに、幅0.8mのダイから押出すと共に、10℃に温調された直径1.5mのキャストロール(冷却ロール)上でキャストした。
<条件>
[1]キャストロール上での冷却速度
キャストロール上のメルトが250℃〜120℃に冷却するまでの間を、溶融ポリマーを表面温度20℃のキャスティングドラムにキャストし、エアー面を15℃のエアーを吹き付けて冷却する方法により強制冷却した。
[2]ダイから押出されたメルト(未延伸フィルム)の厚み
押出し機の吐出量、ダイのスリット高さを調整することにより、メルト厚みを3300μmに調節した。なお、メルト厚は、ダイ出口に設置したカメラで撮影し測定した。
【0148】
[延伸、巻取り]
上記方法で冷却ロール上に押出し、固化した未延伸フィルムに対し、以下の方法で逐次2軸延伸を施し、下記表2に記載の厚みのフィルムを得た。なお、延伸は、縦延伸を95℃で、横延伸を140℃で縦延伸、横延伸の順に行なった。その後、210℃で12秒間熱固定した後、205℃で横方向に3%緩和した。延伸後、両端を10cmずつトリミングした後、両端に厚み出し加工を施した後、直径30cmの樹脂製巻芯に3000m巻き付けた。なお、幅は1.5m、巻長は2000mであった。
<延伸方法>
(a)縦延伸
未延伸フィルムを周速の異なる2対のニップロールの間に通し、縦方向(搬送方向)に延伸した。なお、予熱温度を95℃、延伸温度を95℃、延伸倍率を3.5倍、延伸速度を3000%/秒として実施した。
(b)横延伸
縦延伸した前記フィルムに対し、テンターを用いて下記条件にて横延伸した。
<条件>
・予熱温度:110℃
・延伸温度:120℃
・延伸倍率:3.9倍
・延伸速度:70%/秒
【0149】
以上のようにして、PETフィルムを作製した。次に、作製したPETフィルムを用いて、以下の評価を行なった。
【0150】
[測定・評価]
上記で得られたPET(ポリエチレン樹脂組成物)及びそのペレットに対して、下記の測定、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1〜表2に示す。
【0151】
(1)元素含量及び値Z
高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて、PET中のチタン元素(Ti)、マグネシウム元素(Mg)、及びリン元素(P)を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出した。得られた値から、下記式(i)で算出される値Zを求めた。
Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量) ・・・(i)
【0152】
(2)IV
重縮合後に得られたPETペレットを、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])の混合溶液に溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて25℃での相対粘度ηを測定し、この相対粘度から求めた比粘度(ηsp)と濃度cからηsp/cを求め、3点法により固有粘度(IV)を算出した。
【0153】
(3)結晶配向度(フィルム面の配向度)
PETフィルムをXD測定し、下記式からPETフィルムの表面における結晶配向度を求めた。
結晶配向度={2θ=23°((110)面)のピーク強度}/{2θ=25.8°((100)面)のピーク強度}
【0154】
(4)末端COOH量
PETフィルム0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、クロロホルムを加えた混合溶液にフェノールレッド指示薬を滴下し、これを基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定した。滴下量から末端カルボキシル基の濃度[当量/トン]を算出した。
【0155】
(5)製膜性
得られたPETペレットについて、スクリュー直径250mmの単軸押出機を用いて製膜温度285℃で2000kg/時間の吐出量で製膜を行なった。製膜時の状態を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:膜揺れや静電印加ムラが無く、目視でフィルム面状の良好なものであった。
○:膜揺れや静電印加ムラは殆どみられず、目視でフィルム面状もほぼ良好なものであった。
△:膜揺れや静電印加ムラが僅かにみられ、目視でフィルム面状の悪化が見られるが、実使用上は問題ない程度であった。
×:膜揺れや静電印加ムラがみられ、目視でフィルム面状の悪化がみられた。
【0156】
(6)耐加水分解性
製膜〜延伸加工により得られたフィルムについて、120℃で100%の湿熱条件で所定の時間処理を行ない、その後JIS−K7127法により破断伸度測定を行なって、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が100時間を超えるもの
○:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が90時間を超え100時間以下のもの
△:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が80時間を超え90時間以下のもの
×:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が80時間以下のもの
【0157】
(7)LogR
得られたPETの体積固有抵抗値R(Ω・m)を、下記の測定方法により測定し、得られた測定値の常用対数値をLogRとした。
<体積固有抵抗値Rの測定>
重縮合後に得られたPETペレットを真空乾燥機で乾燥、結晶化させた後、15gを秤量して試験管に入れ、290℃のオイルバス中にて溶融させた。そこに測定用電極を挿入し、体積固有抵抗値をデジタルマルチメーター(岩通計測社製)にて読み取った。
【0158】
(実施例2)
実施例1において、重縮合反応条件を、第三重縮合槽の反応温度を278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)で滞留時間1.0時間とすることにより固相重合前のIVを0.50とし、乾燥から固相重合工程に移行するまでの昇温速度を80℃から150℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0159】
(実施例3)
実施例1の固相重合工程において、昇温速度を80℃/時間から150℃/時間に変更し、1時間あたりの固有粘度の変化〔ΔIV/時間〕を0.008から0.010に変えて固相重合を行なったこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0160】
(実施例4)
実施例1において、昇温速度を80℃/時間から100℃/時間に変更し、チタン元素含有量、マグネシウム元素含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0161】
(実施例5)
実施例1において、昇温速度を80℃/時間から150℃/時間に変更し、マグネシウム元素含有量及びリン元素含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0162】
(実施例6)
実施例1において、有機キレートチタンをテトラ−n−ブチルチタネートに代え、チタン、マグネシウム、及びリンの各元素含有量、昇温速度、1時間あたりの固有粘度の変化〔ΔIV/時間〕をそれぞれ下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0163】
(実施例7〜8)
実施例1において、チタン、マグネシウム、及びリンの各元素含有量、並びに昇温速度をそれぞれ下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0164】
(比較例1〜2)
実施例1において、チタン化合物の種類、昇温速度、1時間あたりの固有粘度の変化〔ΔIV/時間〕をそれぞれ下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0165】
(比較例3)
実施例1において、重縮合反応条件を、第三重縮合槽での反応温度を278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)で滞留時間0.3時間とすることにより固相重合前のIVを0.64から0.30に変更し、昇温速度を80℃/時間から150℃/時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0166】
(比較例4)
実施例1において、重縮合反応条件を、第三重縮合槽の反応温度を278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)で滞留時間1.0時間にすることにより固相重合前のIVを0.60とし、リン元素含有量、昇温速度、1時間あたりの固有粘度の変化〔ΔIV/時間〕を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PETフィルムを作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1〜表2に示す。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】



【0169】
前記表1〜表2に示すように、固相重合による1時間あたりの固有粘度の上昇速度を0.01dL/g/時間以下に抑えながら増加させることで、高IVにすることなく、末端COOH量を低下させることができるため、溶融製膜時の剪断発熱が防止され、耐加水分解性を向上させたフィルムを得ることができた。
なお、IV値が小さ過ぎる比較例3では、ダイから出た溶融樹脂が自重で垂れ下がってしまい、均一な静電印加を付与できず(即ち、面状が悪化)、製膜性に劣っていた。また、比較例4では、重合後IVが高すぎるために、押出し不良を生じた。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法及びポリエステルフィルムは、例えば、太陽電池モジュールを構成する裏面シート(太陽電池素子に対し太陽光の入射側と反対側に配置されるシート;いわゆるバックシート)の用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0171】
1・・・バックシート
2・・・封止剤
3・・・太陽電池素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物を含む触媒下、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、固有粘度が0.40dL/g以上のエステル化反応生成物を生成する反応物生成工程と、
生成した前記エステル化反応生成物を、固体状態で熱処理することで、固有粘度を1時間あたり0.01dL/g以下の割合で増加させることにより固相重合させ、固有粘度が0.65〜0.90dL/g、末端カルボン酸量が20当量/トン以下であるポリエステル樹脂を得る固相重合工程と、
を有するポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記エステル化反応生成物を固体状態で熱処理するに際し、生成した前記エステル化反応生成物に対して乾燥を行なう乾燥工程から前記固相重合工程に移行する間に昇温速度を200℃/時間以下とする過程を有する請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記反応物生成工程は、前記チタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも一種を用い、前記触媒として有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を含み、
更に、前記反応物生成工程で生成したエステル化反応生成物を重縮合反応させる重縮合工程を有する請求項1又は請求項2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記反応物生成工程は、前記有機キレートチタン錯体、前記マグネシウム化合物、及び前記リン酸エステルを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように添加する請求項3に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
【請求項5】
前記昇温速度が、10〜150℃/時間である請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記固相重合工程の後、更に、ポリエステル樹脂を溶融押出機に投入して溶融押出し、厚みが50μm〜350μmであるフィルム状に成形する成形工程を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシート。
【請求項9】
太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、請求項7に記載のポリエステルフィルムとを備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2011−207984(P2011−207984A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76093(P2010−76093)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】