説明

ポリエステル樹脂組成物、その製造方法、および成形体

【課題】ポリエステル樹脂組成物中に層状珪酸塩がナノメートルオーダーに高度に分散されてた、機械強度およびバリア性の優れたポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有するモノマーを全モノマー成分に対して0.1〜8mol%共重合した熱可塑性ポリエステル共重合体(a)と層状珪酸塩(b)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂組成物に対する(b)の含有率が0.1〜30質量%であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。また、熱可塑性ポリエステル共重合体と層状珪酸塩とを、250℃以下の温度で溶融混練することを特徴とする前記ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状珪酸塩を高度に分散してなる、強度やバリア性等に優れたポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、機械強度、成形性、耐熱性に優れており、繊維、フィルムあるいは成形体として広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、機械強度や耐熱性をさらに改善するために、これら熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂にガラスファイバーやカーボン繊維などの繊維状強化材や、粘土鉱物、雲母、炭酸カルシウムなどの無機充填材を加えて混練し強化した樹脂組成物が記載されている。しかし、通常の無機フィラーの場合、単に混合し混練するのみでは凝集物が残り均一に分散できないため、力学的強度や耐熱性を十分に改善できない問題があった。
【0004】
近年、このような問題を解決する技術として、ポリエステル樹脂中に層状珪酸塩をナノレベルで分散させることにより、少量の無機フィラーで機械強度や耐熱性を向上させた複合材料が種々提案されている。特許文献2には、ポリアミド中に層状粘土鉱物を均一に分散させ、強度や剛性、耐熱性に優れた複合材料が開示されているが、ポリエステル樹脂の場合には、同公報記載の方法によって、ポリアミドと同様に層状粘土鉱物が均一に分散された複合体を得ることはできない。これをうけて特許文献3では、相溶化剤の添加により層状粘土鉱物の分散性を改良する技術が開示されているが、機械強度や耐熱性の改善率は小さく、強靭性の低下が大きい成形品のみしか得られない。
【0005】
一方、特許文献4ではスルホン酸金属塩基を置換基に持つ芳香族ジカルボン酸残基を、ジカルボン酸残基の0.01〜10mol%共重合したポリエステルと層状珪酸塩を含むポリエステル樹脂組成物が開示され、層状珪酸塩が高度に分散され透明性を損なうことなく、ガスバリア性や機械的強度が向上すると記載されている。さらに、特許文献5では酸成分としてスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を10mol%以下含むポリエステル共重合体を介在させて、熱可塑性芳香族ポリエステル中に膨潤性層状珪酸塩を分子レベルで均一分散させたポリエステル複合材料が開示されている。しかしながら、いずれの場合にも高い混練温度を必要とするために、有機化剤の有機カチオンの存在によって、ポリエステル樹脂の加水分解が促進されるため、複合材料の機械的強度や耐熱性が低下して、結果的に実用に耐えうるフィルムや成形品を得ることはできなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−56975号公報
【特許文献2】特開昭62−74957号公報
【特許文献3】特開平3−62846号公報
【特許文献4】特開2000−86232号公報
【特許文献5】特開2002−82236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べたように、ポリエステル樹脂のマトリックス中に層状珪酸塩を高度に均一分散させてなり、機械強度およびバリア性が良好なポリエステル樹脂組成物は、未だ提供されていないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ナノオーダーの層状珪酸塩フィラーが高度に均一に分散されることで、機械強度、バリア性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、スルホン酸基を有するモノマーを特定量共重合した熱可塑性ポリエステル共重合体と層状珪酸塩とからなるポリエステル樹脂組成物はこれら問題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
(1)スルホン酸基を有するモノマーを全モノマー成分に対して0.1〜8mol%共重合した熱可塑性ポリエステル共重合体(a)と層状珪酸塩(b)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂組成物に対する(b)の含有率が0.1〜30質量%であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(2)熱可塑性ポリエステル共重合体(a)における酸成分が、芳香族ジカルボン酸55〜99.5mol%とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸0.5〜5mol%と脂肪族ジカルボン酸0〜40mol%とからなることを特徴とする(1)に記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)層状珪酸塩(b)が、層間カチオンとして、1級ないし4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、またはホスホニウムイオンを有していることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリエステル樹脂組成物。
(4)前記層間カチオンが4級アンモニウムイオンである(3)に記載のポリエステル樹脂組成物。
(5)前記4級アンモニウムイオンが、ジオクタデシルジメチルアンモニウム又はジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウムである(4)に記載のポリエステル樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載されたポリエステル樹脂組成物を製造する方法であって、熱可塑性ポリエステル共重合体と層状珪酸塩とを、250℃以下の温度で溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載されたポリエステル樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリエステル樹脂組成物中に層状珪酸塩がナノメートルオーダーに高度に分散されているので、機械強度およびバリア性の優れたポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリエステル樹脂組成物の主要構成物について詳述する。
【0013】
(熱可塑性ポリエステル共重合体)
本発明に用いるスルホン酸基を有するモノマーを共重合したポリエステル共重合体は、スルホン酸基(−SOOH)を有し、カルボキシル基(−COOH)又は水酸基(−OH)と重縮合ができる2官能性のモノマー化合物を、共重合の構成単位として重縮合したポリエステル共重合体である。ここで、該共重合の際の他の構成単位としては、一般的な熱可塑性ポリエステル樹脂の重縮合に用いられるジカルボン酸化合物及びジオール類の全てが使用できるが、中でも、PET及び/又はPBT及び/又はPENのモノマーと共重合したポリエステル共重合体が好ましい。
【0014】
スルホン酸基を官能基として有するモノマーを共重合したポリエステル共重合体を用いることにより、層状珪酸塩、特にオニウムイオンにより有機化処理を施した層状珪酸塩を熱可塑性ポリエステル共重合体に分散させるに際して、層状珪酸塩と樹脂との相溶性が向上し、混練を容易化し分散を促進することができ、高度に均一に分散したポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
上記のスルホン酸基を有するモノマーはポリエステルと反応する官能基を有する成分であれば特に限定されるものではないが、例としては、1,4−ジヒドロキシベンゼン−2−スルホン酸、1,4-ジヒドロキシナフタレン−2−スルホン酸などのジオール、5−スルホイソフタル酸、スルホナフタレンジカルボン酸、2−スルホテレフタル酸などのジカルボン酸及びそのアルキル及び/又はヒドロキシアルキルエステル、スルホ安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのアルキルエステル等が挙げられる。スルホン酸基は、金属塩を形成していてもよく、金属イオンの種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属やアルミニウム、亜鉛などが挙げられ、中でも、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属が好ましく、ナトリウムがより好ましい。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記したスルホン酸基を有するモノマーのうち、操業性及びコストの面から、5−ナトリウムスルホイソフタル酸がもっとも好ましく、そのエチレングリコールエステルあるいはメチルエステルが原料として使用される。
【0017】
本発明の上記熱可塑性ポリエステル共重合体におけるスルホン酸基を有するモノマーの比率は全モノマー成分に対して0.1〜8mol%とすることが必要であり、さらに好ましくはジカルボン酸成分に対して0.5〜5mol%の範囲である。共重合モル比率が0.1mol%未満であると、層状珪酸塩と樹脂との相溶性が不十分で高度に均一な分散性が得られない。一方、共重合モル比率が8mol%を超えると、樹脂の溶融粘度が高くなり重合時の払出しが困難になったり、あるいは得られるポリエステル樹脂組成物の機械的強度及びバリア性等の性能が不十分となる。
【0018】
スルホン酸基を有するモノマーの共重合方法は特に限定されるものではないが、重合時に該モノマーを添加する方法や、エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを製造する場合には、エチレンテレフタレートオリゴマーをエチレングリコールで解重合してスルホン酸塩基含有成分の分散性を良くする方法などの公知技術を適宜採用できる。
【0019】
本発明の熱可塑性芳香族ポリエステル共重合体には、その酸成分として脂肪族ジカルボン酸が共重合されていることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸を共重合することにより、ポリエステル樹脂の融点が低下するため、層状珪酸塩と溶融混練する際の溶融混練温度を低下させることができるので、層状珪酸塩の層間カチオンの熱劣化が抑制され、結果として層状珪酸塩のポリエステル樹脂への分散が促進され、バリア性、機械強度が向上する。脂肪族ジカルボン酸の共重合量は熱可塑性芳香族ポリエステル共重合体の酸成分対して0〜40mol%の範囲で使用でき、0〜22mol%が好ましく、5〜22mol%がより好ましい。
【0020】
上記のような脂肪族ジカルボン酸の共重合を考慮すると、熱可塑性芳香族ポリエステル共重合体における酸成分は、芳香族ジカルボン酸55〜99.5mol%とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸0.5〜5mol%と脂肪族ジカルボン酸0〜40mol%とからなるジカルボン酸であることが好ましい。より好ましくは、芳香族ジカルボン酸75〜98mol%とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸1〜3mol%と脂肪族ジカルボン酸0〜22mol%とからなる酸成分であり、バリア性と曲げ弾性率の改善のために特に好ましい酸成分は、芳香族ジカルボン酸75〜94mol%とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸1〜3mol%と脂肪族ジカルボン酸5〜22mol%である。なお、ポリエステル樹脂にオキシカルボン酸成分が共重合されている場合は、前記モノマーの成分比率を計算する際、ジカルボン酸成分に含めて計算する。
【0021】
ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、グリコール酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、1種若しくは2種以上を使用することができる。脂肪族ジカルボン酸を共重合することにより、ポリエステル樹脂の融点が低下するので、樹脂組成物作製時の熱分解や着色を抑制することができる。
【0022】
本発明の熱可塑性芳香族ポリエステル共重合体には、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシカルボン酸成分や、ε−カプロラクトン、乳酸などの脂肪族オキシカルボン酸成分を共重合してもよい。
【0023】
なお実際の縮合重合においては、上記のジカルボン酸をそのまま用いて重縮合を行う方法(直接エステル化法)、メチルアルコール等でエステル化して脱アルコールにより重縮合を行なう方法(エステル交換法)、又はジカルボン酸の無水物を用いて重縮合物を得る方法を採用することもある。この場合は、ジカルボン酸成分としては、上記のジカルボン酸、ジカルボン酸のエステル物、或いは酸無水物である。
【0024】
また、ジオール成分としては、芳香族ジオールでも脂肪族及びその他ジオールでもよく、具体的には、例えば、エチレングリコール、HO(CHCHO)H(nは2以上の整数を示す。)で表されるポリエチレングリコール、HO(CHOH(nは3以上の整数を示す。)で表される脂肪族ジオール、イソブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ビス−4−ヒドロキシフェニルプロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等の2官能性アルコールの1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲であれば、2種以上のポリエステル樹脂を溶融混練などの公知の方法で混合したものを用いても構わない。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂中に層状珪酸塩が無機フィラーとして配合される。層状珪酸塩を配合することで、該ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムや成形品等の機械的強度及びバリア性等を向上させることができる。
【0027】
本発明に用いられる層状珪酸塩として、具体的には、スメクタイト、バーミキュライト、膨潤性フッ素雲母等が挙げられる。スメクタイトの例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイトが挙げられる。膨潤性フッ素雲母の例としては、Na型フッ素四ケイ素雲母、Na型テニオライト、Li型テニオライト等が挙げられ、また上記の他に、カネマイト、マカタイト、マガディアイト、ケニアイト等のアルミニウムやマグネシウムを含まない層状珪酸塩を使用することもできる。好ましいものとしてはモンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母である。天然品以外に合成品でもよく、合成方法としては、溶融法、インターカレーション法、水熱法等が挙げられるが、いずれの方法であってもよい。これらの層状珪酸塩は単独で使用してもよいし、鉱物の種類、産地、粒径等が異なるものを2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記層状珪酸塩の市販品としては、具体的には、ラポナイトXLG(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、ラポナイトRD(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、サーマビス(独国ヘンケル社製、合成ヘクトライト類似物)、スメクトンSA−1(クニミネ工業(株)製、サポナイト類似物)、ベンゲル(豊順洋行(株)製、天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業(株)製、天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国バンダービルト社製、天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製、合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製、合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)、等が挙げられる。
【0029】
層状珪酸塩の層間を拡大し、ポリエステル樹脂への分散性を向上させるために、層状珪酸塩は、1級ないし4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはホスホニウムイオンで処理され、層間に前記カチオンを有していることが好ましい。1級ないし3級アンモニウムイオンは、対応する1級ないし3級アミンがプロトン化したものであり、1級アミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン等が挙げられる。2級アミンとしては、ジオクチルアミン、メチルオクタデシルアミン、ジオクタデシルアミン等が挙げられる。3級アミンとしては、トリオクチルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジドデシルモノメチルアミン等が挙げられる。4級アンモニウムイオンとしては、ジヒドロキシエチルメチルオクタデシルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジオクタデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム、ヒドロキシエチルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジヒドロキシエチルドデシルアンモニウム、ベンジルジヒドロキシエチルオクタデシルアンモニウム、ジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウム、オクタデシル(ジヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−(3’−ドデシルオキシ−2’−ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウム、メチルドデシルビス(ポリエチレングリコール)アンモニウム、メチルジエチル(ポリプロピレングリコール)アンモニウム等が挙げられる。さらに、ホスホニウムイオンとしては、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム等が挙げられる。これらのうち、ジオクタデシルジメチルアンモニウム、ジヒドロキシエチルメチルオクタデシルアンモニウム、ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム、ヒドロキシエチルジメチルドデシルアンモニウム、ジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウム、オクタデシル(ジヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−(3’−ドデシルオキシ−2’−ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウム、メチルドデシルビス(ポリエチレングリコール)アンモニウム、メチルジエチル(ポリプロピレングリコール)アンモニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム等の、分子内に1つ以上の水酸基を有するか、または炭素数12〜18のアルキル鎖を有するアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンで処理した層状珪酸塩は、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂との親和性が特に高く、層状珪酸塩の分散性が向上するため特に好ましい。特に好ましくは、ジオクタデシルジメチルアンモニウム又はジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウムである。これらのイオン化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
層状珪酸塩を上記カチオンで処理する方法としては、特に制限はないが、例えば、まず層状珪酸塩を溶媒中に分散させ、ここへ上記カチオンの塩を添加して撹拌混合することにより、層状珪酸塩の層間の無機イオンを上記カチオンとイオン交換させた後、濾別・洗浄・乾燥する方法が挙げられる。この場合、上記溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどが用いられる。
【0031】
層状珪酸塩の配合量は、ポリエステル樹脂組成物100質量%に対して0.1〜30質量%とすることが必要であり、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%である。0.1質量%未満では、本発明の目的とする機械強度、水蒸気バリア性などの物性向上効果が得られない。また、30質量%を超える場合には、粘度低下や流動性低下などにより成形加工性が悪化する傾向がある。
【0032】
本発明において、樹脂中への層状珪酸塩の分散性をさらに向上させるために、金属石鹸や、ワックス、植物由来油等の分散剤成分を添加してもよい。また、樹脂を無水マレイン酸等で変性して極性基を導入する方法も挙げられる。
【0033】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、末端封鎖剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、分散剤等を添加してもよい。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばホスファイト系有機化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物を使用することができる。これらの添加剤は一般に溶融混練時あるいは重合時に加えられる。無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリオキシメチレン、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリカーボネートおよびそれらの共重合体等の他の樹脂を添加してもよい。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、各原材料を溶融混練することにより容易に製造することができる。混練に使用する装置は特に制限されず、例えば、二軸混練押出機(スクリュー式)、ローター型二軸連続混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル、石臼型連続混練機(KCK)等が挙げられる。溶融混練に際しては、温度を250℃以下とすることが好ましい。250℃を超える温度では、層状珪酸塩の層間カチオンが熱劣化しやすくなり、その残存物が凝集して物性に悪影響を与えることが懸念される。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、各種のフィルムや成形品など、特にバリア性が要求される用途に適宜使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
実施例及び比較例の評価に用いた測定法は次のとおりである。
(1)相対粘度(ηrel ):
ウベローデ粘度計を用いて、濃度0.5g/デシリットルでのポリマー溶液粘度を測定した。なお、溶媒としてはフェノール/テトラクロロエタン(1:1、質量比)混合溶媒を用い、30℃で測定した。
(2)融点(Tm):
示差走査熱量計DSC―7(パーキンエルマー社製)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
(3)スルホン酸基含有成分および脂肪族ジカルボン酸の共重合量(mol%):
ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA−400型NMR装置にて、H−NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンピークの積分強度から共重合量を求めた。共重合量は、全酸成分を100mol%としたときの数値を示した。
(4)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn):
示差屈折率検出器(東ソー製RI−8010)を備えたゲル浸透クロマトグラフィ装置(GPC、東ソー製)を用い、10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液として、流速0.4ml/min、40℃で測定した。サンプルは、樹脂組成物5mgを溶離液2mlに溶解後、フィルターろ過してから測定を行った。分子量はポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準資料として換算した。
(5)水蒸気透過係数(WTR)、改善率:
テスター産業社製卓上テストプレス機を使用し、樹脂組成物のペレットを融点+20℃で約3分間プレスして、厚さ200〜300μmのプレスシートを作製した。このシートを用い、モコン社製の透湿度測定器(PERMATRAN−W3/31MW)により40℃、100%RHにおける水蒸気透過度を測定した。この値をW(g/m・day)、シートの厚みをT(mm)とし、Z=W×Tの関係式より水蒸気透過係数Z(g・mm/m・day)を求めた。この値が小さいほど、水蒸気透過度は小さく、バリア性は良好であることを示す。
【0039】
このとき、ベース樹脂からのWTRの改善率を下記式にて求めた。
【0040】
改善率(%)=((ベース樹脂のWTR)/(樹脂組成物のWTR)−1)×100
この値が正であれば、ベース樹脂よりもバリア性が改善されたことを示し、これを改善効果良し(◎)とした。この値が負の場合はバリア性が悪化したことを示すため、改善効果なし(×)とした。
【0041】
(6)層状珪酸塩の層間距離測定:
層状珪酸塩の層間距離は、広角X線回折装置(マックサイエンス社製)を用い、ポリエステル樹脂組成物中の層状珪酸塩の(001)面の底面反射に由来する回折ピークより、シェラーの式から算出した。
【0042】
(7)曲げ弾性率:
ポリエステル樹脂組成物を射出成形して127mm×13mm×3mmの成形片を得て、これをASTM−790に準じて変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ弾性率を測定した。試験片の作製条件は下記の通り。
【0043】
射出成形条件:射出成形機(東芝機械社製IS−80G型)を用い、金型温度15℃、 射出圧60%、射出時間20秒、冷却時間20秒、インターバル2秒とし、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片用金型を用いて行った。シリンダ温度の設定は樹脂により異なり、樹脂AおよびBと樹脂組成物1〜4では245℃、樹脂Cと樹脂組成物5〜9では210℃、樹脂Dと樹脂組成物10〜11では280℃とした。
【0044】
[原料]
次に、実施例、比較例において用いた各種原料を示す。
【0045】
(1)樹脂A〜D
【0046】
製造例1(樹脂Aの製造)
エチレンテレフタレートオリゴマー(以下、単にオリゴマーという)の存在するエステル化反応缶にテレフタル酸(以下、TPA)とエチレングリコール(以下、EG)とのmol比が1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、平均重合度4のオリゴマーを連続的に得た。
【0047】
このオリゴマー490gを重縮合反応缶に移送し、EG40gを投入し、250℃にて40分間の解重合反応行った。続けて、三酸化アンチモンの濃度が2質量%に調製されたEG溶液25g、酢酸リチウムの濃度が5質量%となるよう調製されたEG溶液8g添加し、続いて5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルの濃度が30質量%となるよう調製されたEG溶液45gを添加して、重縮合反応缶内の温度を30分間で275℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら2時間の重縮合反応を行い、常法により払い出して樹脂Aをペレットとして得た。
【0048】
分析の結果、得られた樹脂Aには、スルホイソフタル酸成分が1.5mol%共重合されており、Mw=13,400、Mn=6,880、Mw/Mn=1.9、ηrel=1.335、Tm=248℃であった。
【0049】
製造例2(樹脂Bの製造)
製造例1と同様にして得られたオリゴマー463gを重縮合反応缶に移送し、続けて、アジピン酸の濃度が25質量%に調製されたEGスラリー76gを添加し、温度250℃、常圧の条件で60分ランダム化を行った。次に、三酸化アンチモンの濃度が2質量%に調製されたEG溶液25g、酢酸リチウムの濃度が5質量%に調製されたEG溶液8g、および5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルの濃度が30質量%に調製されたEG溶液73g(全酸成分1molに対して2.6mol%)をそれぞれ添加し、重縮合反応缶内の温度を30分間で270℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら、4時間重縮合反応を行い、常法により払い出して樹脂Bをペレットとして得た。
【0050】
分析の結果、得られた樹脂Bには、スルホイソフタル酸成分が2.5mol%、アジピン酸成分が5.2mol%共重合されており、Mw=13,200、Mn=6,750、Mw/Mn=2.0、ηrel=1.310、Tm=239℃であった。
【0051】
製造例3(樹脂Cの製造)
製造例2において、アジピン酸の代わりにグルタル酸(炭素数3)を全酸成分1molに対して20mol%となるように用いて、5−ナトリウムスルホイソフタル酸エチルエステルが全酸成分1molに対して1.8mol%となるようにした以外は、製造例2と同様にして樹脂Cをペレットとして得た。
【0052】
分析の結果、得られた樹脂Cには、スルホイソフタル酸成分が1.8mol%、グルタル酸が19.6mol%導入されており、Mw=17,300、Mn=8,220、Mw/Mn=2.1、Tm=199℃であった。
【0053】
樹脂D
スルホン酸基を有するモノマーを共重合していないPETホモポリマー(ユニチカ製、NEH−2050)を用いた。
【0054】
樹脂Dは、Mw=17,800、Mn=8,000、Mw/Mn=2.2、ηrel=1.431、Tm=250℃であった。
【0055】
(2)層状珪酸塩
・ソマシフMEE:層間イオンがジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウムイオンで置換された膨潤性合成フッ素雲母(コープケミカル社製、層間距離2.1nm)。
・エスベンW:層間イオンがジオクタデシルジメチルアンモニウムイオンで置換されたモンモリロナイト(豊順洋行社製、層間距離2.7nm)。
【0056】
(ポリエステル樹脂組成物の作製)
【0057】
実施例1(樹脂組成物「A−1」)
96質量部の樹脂A、4質量部のMEEをドライブレンドし、池貝社製PCM−30型二軸押出機(スクリュー径30mmφ、平均溝深さ2.5mm)に供給し、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数200rpm(=3.3rps)、滞留時間1.6分で溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工したのち、120℃で12時間真空乾燥して樹脂組成物「A−1」を得た。
実施例2〜10(樹脂組成物「A−2」〜「C−6」)、比較例1〜2(樹脂組成物「D−1」〜「D−2」)
【0058】
表1に示した通りの組成、混練温度にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0059】
実施例1〜10および比較例1〜2の各樹脂組成物の物性を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、スルホン酸基を有するモノマーを共重合したポリエステル共重合体と層状珪酸塩とを250℃以下で溶融混練してからなるポリエステル樹脂組成物(実施例1〜10)では、層状珪酸塩の層間距離が広がっていて分散性に優れており、曲げ弾性率、水蒸気バリア性が改善されていた。
【0062】
特に実施例3〜10では、脂肪族カルボン酸が共重合されているため、混練時の粘度低下が少なく、操業は安定だった。
【0063】
一方、比較例1及び2のポリエステル樹脂組成物では、ポリエステル樹脂Dにスルホン酸基を有するモノマー成分が含まれておらず、かつ混練温度が270℃と高温だったために、樹脂の粘度低下が生じ、操業不安定になった。同時に、樹脂組成物中の層状珪酸塩の層間アンモニウムイオンが熱劣化したと考えられ、層状珪酸塩の分散性が低下して、層状珪酸塩の層間距離が初期より小さくなった。その結果として、水蒸気バリア性が悪化していた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するモノマーを全モノマー成分に対して0.1〜8mol%共重合した熱可塑性ポリエステル共重合体(a)と層状珪酸塩(b)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂組成物に対する(b)の含有率が0.1〜30質量%であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性ポリエステル共重合体(a)における酸成分が、芳香族ジカルボン酸55〜99.5mol%とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸0.5〜5mol%と脂肪族ジカルボン酸0〜40mol%とからなることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
層状珪酸塩(b)が、層間カチオンとして、1級ないし4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、またはホスホニウムイオンを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記層間カチオンが4級アンモニウムイオンである請求項3に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記4級アンモニウムイオンが、ジオクタデシルジメチルアンモニウム又はジヒドロキシエチルメチルドデシルアンモニウムである請求項4に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたポリエステル樹脂組成物を製造する方法であって、熱可塑性ポリエステル共重合体と層状珪酸塩とを、250℃以下の温度で溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたポリエステル樹脂組成物からなる成形体。


【公開番号】特開2008−7552(P2008−7552A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176748(P2006−176748)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】