説明

ポリエステル樹脂

【課題】耐摩耗性および滑り性がともに優れたポリエステル樹脂、ならびに、該ポリエステル樹脂を感光層に用いた電子写真感光体を提供する。
【解決手段】単結合又は2価の連結基により結合したジフェノールで、各フェノールに対してm−位とp−位で結合したジフェノールと2価の芳香族基又は脂肪族基を含むジカルボン酸からなるエステルを繰り返し単位として含み粘度平均分子量が1万〜20万であることを特徴とするポリエステル樹脂を、感光層のバインダー樹脂として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するポリエステル樹脂、および、そのポリエステル樹脂を感光層のバインダーとして用いた電子写真感光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、高品質の画像が即時に得られることから、近年では複写機の分野にとどまらず、各種プリンターの分野にも広く応用されている。
電子写真技術に用いられる感光体(電子写真感光体)は、電子写真プロセス、すなわち、帯電,露光,現像,転写,クリーニング,除電等のサイクルで繰り返し使用されるため、その間に様々なストレスを受けて劣化する。この様な劣化としては、例えば、帯電器として普通に用いられているコロナ帯電器から発生する強酸化性のオゾンやNOxが感光層に化学的なダメージを与えたり、像露光で生成したキャリアー(電流)が感光層内を流れたり、除電光や外部からの光によって感光層組成物が分解されたりすることによる、化学的,電気的,光学的な劣化が挙げられる。また、別の例として、クリーニングブレードや磁気ブラシなどによる摺擦や、現像剤や紙との接触等による、感光層表面の摩耗,傷の発生,膜の剥がれといった機械的な劣化がある。
【0003】
特に、後者のような感光層表面に生じる損傷等の機械的劣化は、コピ−画像上に影響を及ぼしやすく、画像品質を直接損なうことになるため、感光体の寿命を制限する大きな要因となっている。従って、高寿命の感光体を開発するためには、化学的,電気的,光学的な耐久性を高めることに加えて、機械的な負荷に対する強度を高めることが必須条件となる。
【0004】
積層型感光体の場合、一般にこうした機械的な負荷を受けるのは電荷移動層(以下、電荷輸送層と呼ぶ場合もある)である。電荷移動層は通常、バインダー樹脂と電荷移動物質(以下、電荷輸送物質と呼ぶ場合もある)とから構成されており、実質的にはバインダー樹脂が機械的な負荷に対する強度を決めることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電荷移動層に対する電荷移動物質の添加量は相当多いため、適切なバインダー樹脂を選択して感光体に十分な機械的強度を持たせることは容易ではない。
従来、電子写真感光体の電荷移動層のバインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル等のビニル重合体及びその共重合体,ポリカーボネート,ポリエステル,ポリスルホン,フェノキシ,エポキシ,シリコン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0006】
こうした数あるバインダー樹脂のなかでは、ポリカーボネート樹脂が比較的優れた性能を有しており、これまで種々のポリカーボネート樹脂が開発され、実用に供されている。例えば、特開昭50−98332号公報にはビスフェノールPタイプのポリカーボネートが、特開昭59−71057号公報にはビスフェノールZタイプのポリカーボネートが、特開昭59−184251号公報にはビスフェノールPおよびビスフェノールAの共重合タイプのポリカーボネートが、特開平5−21478号公報にはビス(4ーヒドロキシフェニル)ケトンタイプの構造を含むポリカーボネート共重合体が、それぞれバインダー樹脂として開示されている。
【0007】
ところが、こうしたポリカーボネート樹脂をバインダー樹脂に用いた感光体を含め、従来の有機感光体の多くは、トナーによる現像,紙による摩擦,クリーニング部材(ブレード)による摺擦等の実用上の負荷によって、表面が摩耗したり表面に傷を生じたりする欠点を有しているため、現状では限られた印刷性能にとどまっている。
【0008】
一方、感光体の機械的強度を高めるために、芳香族ポリエステルをバインダー樹脂として用いた例もある。例えば、特開昭56−135844号公報には、商品名「U−ポリマー」として市販されているポリアリレート(芳香族ポリエステル)樹脂をバインダーとして用いた電子写真用感光体の技術が開示され、その中でポリカーボネートに比して特に感度が優れていることが示されている。また、特開平3−6567号公報では、ビスフェノール成分にテトラメチルビスフェノールF及びビスフェノールAを使用した構造のポリアリレート(芳香族ポリエステル)共重合体を含有することを特徴とする電子写真感光体が開示されている。
【0009】
しかし、これらの芳香族ポリエステルは、感光層の塗布溶媒に対する溶解性や溶液の安定性が不良であったり、これらを感光層のバインダーとして用いると電気特性が悪化したりするという欠点がある。特に、前者の公報に記載の技術では、耐摩耗性,感度の面で若干の向上が見られるものの、その塗布液の安定性が悪いために、塗布製造が不可能か、可能な場合でも滑り性が不良である。また、後者の公報に記載の技術では、耐摩耗性の面では従来のポリカーボネートに比べて向上が見られるが、滑り性の面ではポリカーボネートに比べ優位性が認められない。
【0010】
その他にも、感光体の機械的強度を高めるために、例えばオーバーコート層を設ける方法(特開昭61−72256号公報)、耐摩耗性の高いバインダーポリマーを使用する方法(特開昭63−148263号公報,特開平3−221962号公報)等が提案されているが、いずれも効果が十分でなかったり、電気特性等の特性に悪影響を及ぼすなどの問題を含んだりしているのが現状である。
【0011】
すなわち、上述した従来の技術はいずれも、電子写真感光体における充分な耐磨耗性(耐擦傷性)および表面滑り性の双方を同時に満足するものではない。そのため、電子写真感光体用のバインダー樹脂の材質として、耐摩耗性および滑り性がともに優れた物質が望まれている。
本発明の目的は、上記課題を解決し、耐摩耗性および滑り性がともに優れたポリエステル樹脂、ならびに、該ポリエステル樹脂を感光層に使用した電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者らは、感光層に使用するバインダー樹脂について詳細に検討した結果、特定構造の繰り返し単位を共重合または単独重合することにより製造したポリエステル樹脂が、非常に優れた滑り性および高い耐摩耗性を有する上に、非ハロゲン系溶媒にも高い溶解性を示すので塗布液の保存安定性も良好であることを見いだして、本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明の要旨は、構造式中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含み、粘度平均分子量が1万〜20万であることを特徴とするポリエステル樹脂、および該ポリエステル樹脂を感光層のバインダー樹脂として用いた電子写真感光体を提供することに存する。
【化1】

・・・一般式(1)
(一般式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。また、Xは単結合もしくは2価の連結基を、Yは2価の有機連結基を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の特定の構造を有するポリエステル樹脂は、優れた耐摩耗性及び滑り性を示すとともに、有機溶媒に対する溶解性に優れていることから、電子写真感光体のバインダー樹脂として好適に用いることが出来る。また、本発明のポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用いることにより、耐久性に優れるとともに、高画質化に対応可能な電子写真感光体を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(ポリエステル樹脂)
本発明のポリエステル樹脂は、主に電子写真感光体のバインダー樹脂に用いられるが、他の用途として摺動材料、成型材料、光学材料、透明フィルム材料、コーティング材料、耐摩耗性付与剤、光機能性樹脂、レジスト材料等にも用いることが出来る。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂は、一般式(1)で表される構造の繰り返し単位を有する。
一般式(1)中の2つの芳香環におけるR1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子もしくは置換基である。置換基としては、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できるが、具体的には、それぞれ独立に、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,tert−ブチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,n−へプチル基,n−オクチル基などの炭素数1〜10程度のアルキル基、メトキシ基,エトキシ基などの炭素数1〜10程度のアルコキシ基、フッ素,塩素,臭素などのハロゲン基、ニトロ基などが挙げられる。しかし、最も好ましくは、R1〜R8いずれも水素原子である。言い換えれば、これら2つの芳香環は、最も好ましくはそれぞれ無置換の二価のベンゼン環ということになる。
【0017】
一般式(1)中のXは、単結合もしくは2価の連結基である。2価の連結基としては、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できる。具体的には、−O−,−S−などの2価の元素基や、−CH2−,−(CH22−,−(CH23−,
【化2】

などの、アルキレン基,シクロアルキレン基を含む2価の有機連結基が挙げられる。これらの2価の連結基の中でも、−CH2−、または
【化3】

が好ましい。
一般式(1)中のYは、2価の有機連結基であって、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できる。具体的には、例えば、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基などの2価の芳香族基、−CH2−、−(CH22−、−(CH23−、−(CH24−、−(CH25−、−(CH26−、−(CH27−、−(CH28−、−CH=CH−などの2価の脂肪族基が挙げられる。中でも、2価の芳香族基が好ましい。具体的には、好ましいものとして1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、−CH=CH−が、さらに好ましいものとして1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基が挙げられる。
最も好ましくは、一般式(1)の繰り返し単位は化学式(1)である。
【化4】

・・・化学式(1)
本発明のポリエステル樹脂の粘度平均分子量は1万〜20万であるが、好ましくは1万5千〜10万、さらに好ましくは1万8千〜5万である。粘度平均分子量が小さすぎると、機械的強度及び耐摩耗性が低下する。また、粘度平均分子量が大きすぎると、塗布溶液の粘度が高く塗布が困難になる。
【0018】
また、本発明のポリエステル樹脂全体に対する、一般式(1)で表される構造単位の含有率は1〜100重量%であるが、好ましくは5〜90重量%、さらに好ましくは10〜70重量%である。
本発明のポリエステル樹脂において、一般式(1)の繰り返し成分以外の構成成分である2価アルコール又は2価フェノールとしては、具体的には、芳香族ジオールとしてハイドロキノン、レゾルシノール、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン(BPF)、ビス−(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(BPE)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(TmBPF)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPQ)、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン(Cof)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン(Ce)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)プロパン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン(Xe)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(Tma)、ビス−(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン(Xf)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(BPP)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(BPO)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、フェノールフタルレイン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルビニリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルビニリデン)]ビス[2−メチルフェノール]などが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン(BPF)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(BPE)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(TmBPF)、2,2−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPQ)、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン(Cof)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン(Ce)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(Tmf)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン(Xe)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(Tma)、ビス−(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン(Xf)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(BPP)が挙げられる。特に好ましいのは、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(TmBPF)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)である。また、脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、ペンタメチレンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,5−ヘプタンジオール、ヘプタメチレンジオール、オクタメチレンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカメチレングリコール、1,6−シクロヘキサンジオール等が挙げられるが、好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0019】
特に、本発明のポリエステル樹脂における一般式(1)の繰り返し成分以外の構成成分は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【化5】

・・・一般式(2)
(一般式(2)において、R’1〜R’8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。また、X’は単結合もしくは2価の連結基を、Y’は2価の有機連結基を表す。)
一般式(2)において、R’1〜R’8はそれぞれ独立に、水素原子または置換基である。置換基としては、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できるが、具体的には、一般式(1)のR1〜R8と同様に、それぞれ独立に炭素数1〜10程度のアルキル基、炭素数1〜10程度のアルコキシ基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0020】
また、一般式(2)中のX’は、単結合もしくは2価の連結基である。2価の連結基としては、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できるが、具体的には、一般式(1)のXと同様に、−O−や−S−などの2価の元素基や、アルキレン基やシクロアルキレン基などの2価の有機連結基などが挙げられる。
【0021】
さらに、一般式(2)中のY’は、2価の有機連結基で、本発明で目的とするポリエステル樹脂の特性を損なわないものが選択できる。具体的には、一般式(1)のYと同様に、2価の芳香族基、2価の脂肪族基などが挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂全体に対する、一般式(1)の繰り返し単位以外の構成成分の含有率は、通常は1〜99重量%であるが、好ましくは10〜95重量%、さらに好ましくは30〜90重量%である。
【0022】
また、本発明のポリエステル樹脂は、他の樹脂との共重合体でも良い。その共重合形式は、ブロック,グラフト,マルチブロック共重合のいずれであっても良い。ここで共重合される他の樹脂構造としては、ポリスルホン,ポリエーテル,ポリケトン,ポリアミド,ポリシロキサン,ポリイミド,ポリスチレン,ポリオレフィン等の種々の樹脂が挙げられる。本発明のポリエステル以外の共重合成分である他の樹脂の量は、全共重合体中、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、最も好ましくは10モル%以下である。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂は、他の樹脂と混合して電子写真感光体等に用いることも可能である。ここで混合される他の樹脂としては、ポリメチルメタクリレート,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル等のビニル重合体及びその共重合体,ポリカーボネート,ポリエステル,ポリスルホン,フェノキシ,エポキシ,シリコン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。本発明のポリエステル樹脂と併用する他の樹脂の量は、全バインダー樹脂に対して通常は50重量%以下、好ましくは30重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。また、本発明のポリエステル樹脂を表面滑り性改質剤や難燃性付与剤等として用いる場合には、全樹脂に対し50重量%以下、好ましくは20重量%以下、最も好ましくは5重量%以下を、ポリシロキサン構造を含まないポリエステルや他の樹脂に混合して用いても良い。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることが可能であるが、具体的には界面重合法,溶融重合法,溶液重合法などが挙げられる。
例えば、ポリエステル樹脂の界面重合法による製造の場合は、1種類以上の二官能性フェノール成分もしくはビスフェノール成分をアルカリ水溶液に溶解した溶液と、1種類以上の芳香族ジカルボン酸クロライド成分を溶解したハロゲン化炭化水素の溶液とを混合する。この際、触媒として、四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩を存在させることも可能である。生産性の観点から、重合温度は通常0〜40℃の範囲、重合時間は2〜12時間の範囲が好ましい。重合終了後、水相と有機相とを分離し、有機相中に溶解しているポリマーを、公知の方法で洗浄,回収することにより、目的とする樹脂を得られる。
【0025】
ここで用いるアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を挙げることができる。アルカリの使用量としては、反応系中に含まれるフェノール性水酸基の1.0〜3倍当量の範囲が好ましい。
また、ここで用いられるハロゲン化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロルベンゼンなどを挙げることができる。
【0026】
触媒として用いられる四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩としては、トリブチルアミンやトリオクチルアミン等の三級アルキルアミンの塩酸,臭素酸,ヨウ素酸等の塩,ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド,ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド,ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド,テトラエチルアンモニウムクロライド,テトラブチルアンモニウムクロライド,テトラブチルアンモニウムブロマイド,トリオクチルメチルアンモニウムクロライド,テトラブチルホスホニウムブロマイド,トリエチルオクタデシルホスホニウムブロマイド,N−ラウリルピリジニウムクロライド,ラウリルピコリニウムクロライドなどが挙げられる。
【0027】
二官能性フェノール成分もしくはビスフェノール成分の具体例としては、前述の芳香族ジオールなどが挙げられるが、これらの1種もしくは2種以上を混合して用いることも可能である。
また、重合の際に分子量調節剤として、フェノール、o,m,p−クレゾール、o,m,p−エチルフェノール、o,m,p−プロピルフェノール、o,m,p−tert−ブチルフェノール、ペンチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類、o,m,p−フェニルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等の一官能性のフェノール、酢酸クロリド、酪酸クロリド、オクチル酸クロリド、塩化ベンゾイル、ベンゼンスルフォニルクロリド、ベンゼンスルフィニルクロリド、スルフィニルクロリド、ベンゼンホスホニルクロリドやそれらの置換体等の一官能性酸ハロゲン化物を存在させても良い。
【0028】
重合後の樹脂の精製方法として、樹脂の溶液を、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等のアルカリ水溶液,塩酸,硝酸,リン酸等の酸水溶液,水等で洗浄した後、静置分離,遠心分離等により分液しても良い。また、生成した樹脂の溶液を樹脂が不溶の溶媒中に析出させる方法、樹脂の溶液を温水中に分散させ溶媒を留去する方法、或いは、樹脂溶液を吸着カラム等に流通させる方法等により、樹脂を精製しても良い。
【0029】
精製後の樹脂は、樹脂が不溶の水,アルコールその他有機溶媒中に析出させたり、樹脂の溶液を温水または樹脂が不溶の分散媒中で溶媒を留去したり、加熱,減圧等により溶媒を留去したりすることで取り出すことが可能である。生成した樹脂がスラリー状である場合には、遠心分離器,濾過器等により固体として取り出すこともできる。
【0030】
得られた樹脂は、通常は樹脂の分解温度以下の温度で乾燥するが、好ましくは20℃〜樹脂の溶融温度の範囲内で減圧下で乾燥する。乾燥は残存溶媒等の不純物の純度が一定以下になるまで行なうが、通常は残存溶媒が1000ppm以下、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下になるまで乾燥する。
【0031】
(電子写真感光体)
次に、本発明のポリエステル樹脂の用途である電子写真感光体について、以下に詳細に説明する。
本発明の樹脂が使用される電子写真感光体は、通常は導電性支持体上に感光層を有するが、導電性支持体としては、例えば、アルミニウム,アルミニウム合金,ステンレス鋼,銅,ニッケル等の金属材料や、金属,カーボン,酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム,ニッケル,ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂,ガラス,紙などが主として使用される。形態としては、ドラム状,シート状,ベルト状等のものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
【0032】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、これに陽極酸化処理,化成皮膜処理等を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。
【0033】
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。
下引き層としては、樹脂,樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化珪素,酸化ジルコニウム,酸化亜鉛,酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子,チタン酸カルシウム,チタン酸ストロンチウム,チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。一種類の粒子のみを用いても良いし、複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に酸化錫,酸化アルミニウム,酸化アンチモン,酸化ジルコニウム,酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸,ポリオール,シリコン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル,アナターゼ,ブルックカイト,アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0034】
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性および液の安定性の面から、平均一次粒径として10〜100nmが好ましく、特に好ましいのは10〜25nmである。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、フェノキシ,エポキシ,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,カゼイン,ポリアクリル酸,セルロース類,ゼラチン,デンプン,ポリウレタン,ポリイミド,ポリアミド等が単独あるいは硬化剤とともに硬化した形で使用できるが、中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド,変性ポリアミド等は、良好な分散性,塗布性を示すので好ましい。
【0035】
バインダー樹脂に対する無機粒子の添加比は任意に選ぶことができるが、分散液の安定性,塗布性の面から、10〜500重量%の範囲で使用することが好ましい。
下引き層の膜厚は任意に選ぶことができるが、感光体特性および塗布性の面から、0.1〜20μmが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加しても良い。
【0036】
電子写真感光体の感光層の具体的な構成としては、
・導電性支持体上に電荷発生物質を主成分とする電荷発生層、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を主成分とする電荷輸送層をこの順に積層した積層型感光体。
・導電性支持体上に、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を主成分とする電荷輸送層、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層をこの順に積層した逆二層型感光体。
・導電性支持体上に、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を含有する層が積層され、該層中に電荷発生物質を分散させた単層型(分散型)感光体。
等が基本的な構成例として挙げられる。
【0037】
積層型感光体の場合、その電荷発生層に使用される電荷発生物質としては、例えば、セレニウム及びその合金,硫化カドミウム,その他無機系光導材料,フタロシアニン顔料,アゾ顔料,キナクリドン顔料,インジゴ顔料,ペリレン顔料,多環キノン顔料,アントアントロン顔料,ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料等各種光導電材料が使用でき、特に有機顔料、更にフタロシアニン顔料,アゾ顔料が好ましい。
【0038】
中でも、無金属フタロシアニン,銅,インジウム,ガリウム,錫,チタニウム,亜鉛,バナジウム等の金属もしくはそれらの酸化物,塩化物の配位したフタロシアニン類,モノアゾ,ビスアゾ,トリスアゾ,ポリアゾ類等のアゾ顔料が好ましい。
電子写真感光体の電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン,銅,インジウム,ガリウム,錫,チタン,亜鉛,バナジウム,シリコン,ゲルマニウム等の金属またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類が使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、上に示した酸素原子,塩素原子の他、水酸基,アルコキシ基などがあげられる。特に感度の高いX型,τ型無金属フタロシアニン,α型,β型,Y型等のチタニルフタロシアニン,バナジルフタロシアニン,クロロインジウムフタロシアニン,クロロガリウムフタロシアニン,ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。なお、ここで挙げたチタニルフタロシアニンの結晶型のうち、α型,β型についてはW.HellerらによってそれぞれII相、I相として示されており(Zeit.Kristallogr.159(1982)173)、β型は安定型として知られているものである。最も好ましく用いられるY型は、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2゜が27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型である。フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いても良いし、いくつかの混合状態でも良い。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態として、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成,顔料化,結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じせしめたものでも良い。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0039】
これらの電荷発生物質を、例えば、ポリエステル樹脂,ポリビニルアセテート,ポリアクリル酸エステル,ポリメタクリル酸エステル,ポリカーボネート,ポリビニルアセトアセタール,ポリビニルプロピオナール,ポリビニルブチラール,フェノキシ樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,セルロースエステル,セルロースエーテルなどの各種バインダー樹脂で結着した形で使用する。この場合の電荷発生物質の使用比率は、バインダー樹脂100重量部に対して通常20〜2000重量部、好ましくは30〜500重量部、より好ましくは33〜500重量部の範囲である。
【0040】
また、必要に応じて、他の有機光導電性化合物,染料色素,電子吸引性化合物を含有しても良い。
電荷発生層の膜厚は、通常は0.05〜5μm、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.15〜0.8μmが好適である。
電子写真感光体の電荷輸送層は、主として電荷輸送物質とバインダー樹脂とから構成される。バインダー樹脂としては、主として前記したポリエステル樹脂が用いられる。
【0041】
これらの電荷輸送物質としては、2,4,7−トリニトロフルオレノンなどの芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン類などの電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、チアジアゾール誘導体などの複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン化合物、これらの化合物が複数結合されたもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖もしくは側鎖に有する重合体などの電子供与性物質が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体,ヒドラゾン誘導体,芳香族アミン誘導体,スチルベン誘導体,ブタジエン誘導体およびこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましく、芳香族アミン誘導体,スチルベン誘導体,ブタジエン誘導体の複数結合されたてなるものが特に好ましい。
【0042】
これら電荷輸送物質は単独で用いても良いし、いくつかを混合して用いてもよい。これらの電荷輸送物質がバインダー樹脂に結着した形で電荷輸送層が形成される。電荷輸送層は、単一の層から成っていても良いし、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでも良い。
電荷輸送層のバインダー樹脂と電荷輸送物質の割合は、通常、バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送物質が30〜200重量部用いられるが、好ましくは40〜150重量部以下、最も好ましくは上限を90重量部とするのが、ポリアリレートの機械特性を維持する上で有利である。また膜厚は一般に10〜60μm、好ましくは10〜45μm、更に好ましくは27〜40μmである。
【0043】
電荷輸送層には、成膜性,可撓性,塗布性,耐汚染性,耐ガス性,耐光性などを向上させるために、周知の可塑剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,電子吸引性化合物,レベリング剤,増感剤などの添加物を含有させても良い。
電子吸引性化合物としては、例えばクロラニル、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、1−ニトロアントラキノン、1−クロロ−5−ニトロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、フェナントレンキノン等のキノン類;4−ニトロベンズアルデヒド等のアルデヒド類;9−ベンゾイルアントラセン、インダンジオン、3,5−ジニトロベンゾフェノン、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノン、3,3’、5,5’−テトラニトロベンゾフェノン等のケトン類;無水フタル酸、4−クロロナフタル酸無水物等の酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタラルマロノニトリル、9−アントリルメチリデンマロノニトリル、4−ニトロベンザルマロノニトリル、4−(p−ニトロベンゾイルオキシ)ベンザルマロノニトリル等のシアノ化合物;3−ベンザルフタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)フタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等のフタリド類等の電子吸引性化合物が挙げられる。
【0044】
酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物,ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
電子写真感光体の感光層に場合により添加される染料色素としては、例えばメチルバイオレット,ブリリアントグリーン,クリスタルバイオレット等のトリフェニルメタン染料,メチレンブルーなどのチアジン染料,キニザリン等のキノン染料及びシアニン染料やビリリウム塩,チアビリリウム塩,ベンゾビリリウム塩等が挙げられる。
【0045】
電子写真感光体の感光層は、常法に従って、電荷輸送物質をポリアリレート樹脂を含むバインダー樹脂と共に適当な溶剤中に溶解し、必要に応じて、適当な電荷発生物質,増感染料,電子吸引性化合物,他の電荷輸送物質、あるいは、可塑剤,顔料等の周知の添加剤を添加して得られる塗布液を導電性支持体上に塗布,乾燥して感光層を形成させることにより製造することができる。電荷発生層と電荷輸送層の二層からなる感光層の場合は、電荷発生層の上に上記塗布液を塗布するか、上記塗布液を塗布して得られる電荷輸送層の上に電荷発生層を形成させることにより製造することができる。
【0046】
塗布液調製用の溶剤としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸エチル、蟻酸メチル、メチルセロソルブアセテート等のエステル類;ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素などのアミン系化合物を溶解させる溶剤が挙げられる。勿論、これらの中からバインダーを溶解するものを選択する必要がある。
【0047】
また、電子写真感光体の感光層は、製膜性,可撓性,機械的強度を向上させるために、周知の可塑剤を含有していてもよい。そのために上記塗布液中に添加する可塑剤としては、フタル酸エステル,燐酸エステル,エポキシ化合物,塩素化パラフィン,塩素化脂肪酸エステル,メチルナフタレンなどの芳香族化合物などが挙げられる。アリールアミン系化合物を電荷輸送層中の電荷輸送物質として用いる場合の塗布液は前記組成のものでもよいが、光導電性粒子,染料色素,電子吸引性化合物等は除くか、少量の添加でよい。この場合の電荷発生層としては、上記光導電性粒子に加えて、必要に応じ、バインダーポリマーや他の有機光導電性物質,染料色素,電子吸引性化合物等の溶媒に溶解,分散させて得られる塗布液を塗布乾燥した薄層、あるいは前記光導電性粒子を蒸着等の手段により製膜とした層が挙げられる。
【0048】
感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けても良い。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を軽減する目的で、表面の層にはフッ素系樹脂、シリコン樹脂等を含んでいても良い。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含んでいても良い。
【0049】
さらに必要に応じて、バリアー層,接着層,ブロッキング層等の中間層,透明絶縁層など、電気特性,機械特性の改良のための層を有していてもよいことはいうまでもない。
感光層の塗布方法としては、スプレー塗布法,スパイラル塗布法,リング塗布法,浸漬塗布法等がある。
【0050】
スプレー塗布法としては、エアスプレー,エアレススプレー,静電エアスプレー,静電エアレススプレー,回転霧化式静電スプレー,ホットスプレー,ホットエアレススプレー等があるが、均一な膜厚を得るための微粒化度、付着効率等を考えると回転霧化式静電スプレーにおいて、再公表平1−805198号公報に開示されている搬送方法、すなわち円筒状ワークを回転させながらその軸方向に間隔を開けることなく連続して搬送することにより、総合的に高い付着効率で膜厚の均一性に優れた電子写真感光体を得ることができる。
【0051】
スパイラル塗布法としては、特開昭52−119651号公報に開示されている注液塗布機またはカーテン塗布機を用いた方法、特開平1−231966号公報に開示されている微小開口部から塗料を筋状に連続して飛翔させる方法、特開平3−193161号公報に開示されているマルチノズル体を用いた方法等がある。
【0052】
以下、浸漬塗布法について説明する。
電荷輸送物質(好ましくは前述の化合物),ポリアリレート樹脂,溶剤等を用いて、全固形分濃度が通常25〜40%、粘度が通常50〜300センチポアーズ、好ましくは100〜200センチポアーズの電荷輸送層形成用の塗布液を調整する。ここで実質的に塗布液の粘度はバインダーポリマーの種類及びその分子量により決まるが、分子量が低すぎる場合にはポリマー自身の機械的強度が低下するため、これを損わない程度の分子量を持つバインダーポリマーを使用することが好ましい。この様にして調整された塗布液を用いて、浸漬塗布法により電荷輸送層が形成される。
【0053】
その後塗膜を乾燥させるが、必要且つ充分な乾燥が行われる様に、乾燥温度時間を調整すると良い。乾燥温度は通常は100〜250℃、好ましくは110〜170℃、さらに好ましくは120〜140℃の範囲である。乾燥方法としては、熱風乾燥機,蒸気乾燥機,赤外線乾燥機及び遠赤外線乾燥機等を用いることができる。
【0054】
この様にして得られる電子写真用感光体は、高感度で、残留電位が低く、帯電性が高く、かつ、繰返しによる変動が小さく、特に、画像濃度に影響する帯電安定性が良好であることから、高耐久性感光体として用いることができる。また、750〜850nmの領域の感度が高いことから、特に半導体レーザープリンター用感光体に適している。
【0055】
本発明の電子写真感光体を使用する複写機・プリンター等の電子写真装置は、少なくとも帯電,露光,現像,転写の各プロセスを含むが、いずれのプロセスについても、通常用いられる任意の方法を用いて構わない。以下具体的に述べると、帯電方法(帯電器)としては、例えばコロナ放電を利用したコロトロンあるいはスコロトロン帯電,導電性ローラーあるいはブラシ,フィルムなどによる接触帯電などの通常の方法のうち、いずれを用いても良い。このうち、コロナ放電を利用した帯電方法では、暗部電位を一定に保つためにスコロトロン帯電が用いられることが多い。また、現像方法としては、磁性あるいは非磁性の一成分現像剤,二成分現像剤などを接触あるいは非接触させて現像する一般的な方法が用いられる。転写方法としては、コロナ放電による方法,転写ローラーあるいは転写ベルトを用いた方法等、いずれでもよい。転写方法としては、紙やOHP用フィルム等に対して直接行なっても良いし、一旦中間転写体(ベルト状あるいはドラム状)に転写したのちに、紙やOHP用フィルム上に転写しても良い。
【0056】
通常、転写の後、現像剤を紙などに定着させる定着プロセスが用いられ、定着手段としては一般的に用いられる熱定着、圧力定着などを用いることができる。
これらのプロセスのほかに、通常用いられるクリーニング,除電等のプロセスを有しても良い。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
・実施例1
[ポリエステル樹脂(A)の製造]
1Lビーカーに水酸化ナトリウム(5.21g)とH2O(400ml)を秤取り、窒素バブリングしながら攪拌し溶解させた。そこにp−tert−ブチルフェノール(0.2179g)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(0.0639g)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン [BPA] (5.72g)及び3−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノール[3,4’−BPA](5.72g)の順に添加、攪拌した後、このアルカリ水溶液を2L反応槽に移した。
【0058】
別途、イソフタル酸[IPA]クロライド(10.37g)をジクロロメタン(200ml)に溶解し滴下ロート内に移した。
重合槽の外温を20℃に保ち、反応槽内のアルカリ水溶液を攪拌しながら、滴下ロートよりジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。さらに3時間攪拌を続けた後、酢酸(1.72ml),ジクロロメタン(160ml),水(80ml)を加え30分攪拌した。その後、攪拌を停止し有機層を分離した。この有機層に対して、0.1N水酸化ナトリウム水溶液(307ml)にて洗浄を行い、次に0.1N塩酸(307ml)にて洗浄を2回行い、さらにH2O(307ml)にて洗浄を2回行なった。
【0059】
洗浄後の有機層に塩化メチレン360mlを加えて希釈し、メタノール(1800ml)に注いで得られた沈殿物を濾過にて取り出し、乾燥して目的のポリエステル樹脂(A)を得た。得られたポリエステル樹脂(A)の粘度平均分子量は約19,500であった。得られたポリエステル樹脂(A)の構造式を以下に示す。
【化6】

a/b=5/5
・・・ポリエステル樹脂(A)
【0060】
[粘度平均分子量の測定]
ポリエステル樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度Cが6.00g/Lの溶液を調製した。溶媒(ジクロロメタン)の流下時間t0が136.16秒のウベローデ型毛細管粘度計を用いて、20.0℃に設定した恒温水槽中で試料溶液の流下時間tを測定した。以下の式に従って粘度平均分子量Mvを算出した。
a=0.438×ηsp+1 ηsp=t/t0−1
b=100×ηsp/C C=6.00(g/L)
η=b/a
Mv=3207×η1.205
【0061】
[感光体の製造]
(電荷発生層の製造)
下記構造を有するβ型オキシチタニウムフタロシアニン[1]10重量部を、4−メトキシ−4−メチルペンタノン−2 150重量部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行なった。
【化7】

・・・β型オキシチタニウムフタロシアニン[1]
また、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#6000C)の5% 1,2−ジメトキシエタン溶液100部及びフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製、商品名PKHH)の5% 1,2−ジメトキシエタン溶液100部を混合してバインダー溶液を作製した。
【0062】
先に作製した顔料分散液160重量部に、バインダー溶液100重量部、適量の1,2−ジメトキシエタンを加え最終的に固形分濃度4.0%の分散液を調製した。
この様にして得られた分散液を表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に膜厚が0.4μmになるように塗布して電荷発生層を設けた。
【0063】
(電荷輸送層の製造)
次にこのフィルム上に、以下に示す電荷輸送材料[1]60部、
【化8】

・・・電荷輸送材料[1]
およびポリエステル樹脂(A)100部、およびレベリング剤としてシリコーンオイル0.03部をトルエン/テトラヒドロフラン(重量比2/8)の混合溶媒に溶解させた液を塗布し、125℃で20分間乾燥し、乾燥後の膜厚が20μmとなるように電荷輸送層を設けた。このときポリエステル樹脂の溶解性は良好であった。こうして得られた感光体で以下の評価を行なった。
【0064】
[摩擦試験]
トナーを上記で作成した感光体の上に0.1mg/cmとなるよう均一に乗せ接触させる面にクリーニングブレードと同じ材質のウレタンゴムを1cm幅に切断したものを用い45度の角度で用い、荷重200g、速度5mm/sec、ストローク20mmでウレタンゴムを100回移動させたときの100回目の動摩擦係数を、協和界面化学(株)社製全自動摩擦摩耗試験機DFPM−SSで測定した。結果を後述の表1に示す。
【0065】
[摩耗試験]
感光体フィルムを直径10cmの円状に切断して、テーバー摩耗試験機(東洋精機社製)により摩耗評価を行なった。試験条件は、23℃,50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重なし(摩耗輪の自重)で1000回回転後の摩耗量を、試験前後の重量を比較することにより測定した。結果を後述の表1に示す。
【0066】
・実施例2
[ポリエステル樹脂(B)の製造]
1Lビーカーに水酸化ナトリウム(7.82g)とH2O(600ml)を秤取り、窒素バブリングしながら攪拌し溶解させた。これにp−tert−ブチルフェノール(0.3269g)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(0.0959g)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン [BPA] (8.58g)及び3−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノール[3,4’−BPA](8.58g)の順に添加、攪拌した後、このアルカリ水溶液を2L反応槽に移した。
【0067】
別途、テレフタル酸[TPA]クロライド(15.56g)をジクロロメタン(300ml)に溶解し滴下ロート内に移した。
重合槽の外温を20℃に保ち、反応槽内のアルカリ水溶液を攪拌しながら、滴下ロートよりジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。さらに3時間攪拌を続けた後、酢酸(2.58ml)、ジクロロメタン(240ml)、水(120ml)を加え30分攪拌した。その後、攪拌を停止し有機層を分離した。この有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液(460ml)にて洗浄を行い、次に0.1N塩酸(460ml)にて洗浄を2回行い、さらにH2O(460ml)にて洗浄を2回行なった。
【0068】
洗浄後の有機層に塩化メチレン540mlを加えて希釈し、メタノール(2700ml)に注いで得られた沈殿物を濾過にて取り出し、乾燥して目的のポリエステル樹脂(A)を得た。得られたポリエステル樹脂(B)の粘度平均分子量は30,800であった。得られたポリエステル樹脂(B)の構造式を以下に示す。
【化9】

a/b=5/5
・・・ポリエステル樹脂(B)
【0069】
[ポリエステル樹脂(B)を用いた感光体に対する試験および評価]
ポリエステル樹脂(B)を用いて、実施例1と同様にして感光体を製造した。このときポリエステル樹脂の溶解性は良好であった。得られた感光体の摩擦試験、摩耗試験及び電気特性の評価を実施例1と同様の方法により同条件で行なった。結果は後述の表1に示す。
【0070】
・比較例1
[ポリエステル樹脂(C)の製造]
1Lビーカーに水酸化ナトリウム(5.84g)とH2O(400ml)を秤取り、窒素バブリングしながら攪拌し溶解させた。これにp−tert−ブチルフェノール(0.2179g)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(0.0639g)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン [BPA] (12.83g)の順に添加、攪拌した後、このアルカリ水溶液を2L反応槽に移した。
【0071】
別途、テレフタル酸[TPA]クロライド(10.37g)をジクロロメタン(200ml)に溶解し滴下ロート内に移した。
重合槽の外温を20℃に保ち、反応槽内のアルカリ水溶液を攪拌しながら、滴下ロートよりジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。さらに3時間攪拌を続けた後、酢酸(2.62ml)、ジクロロメタン(100ml)、水(50ml)を加え30分攪拌した。その後、攪拌を停止し有機層を分離した。この有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液(450ml)にて洗浄を行い、次に0.1N塩酸(450ml)にて洗浄を2回行い、さらにH2O(450ml)にて洗浄を2回行なった。
【0072】
洗浄後の有機層に塩化メチレン540mlを加えて希釈し、メタノール(2700ml)に注いで得られた沈殿物を濾過にて取り出し、乾燥して目的のポリエステル樹脂(C)を得た。得られたポリエステル樹脂(C)は塩化メチレンに不溶となり、粘度を測定出来なかった。得られたポリエステル樹脂(C)の構造式を以下に示す。
【化10】

・・・ポリエステル樹脂(C)
【0073】
[ポリエステル樹脂(C)の評価]
ポリエステル樹脂(C)はTHF/トルエン(8/2 重量比)混合溶媒に不溶であった。
・比較例2
[ポリエステル樹脂(D)の製造]
1Lビーカーに水酸化ナトリウム(2.15g)とH2O(200ml)を秤取り、窒素バブリングしながら攪拌し溶解させた。これにp−tert−ブチルフェノール(0.089g)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(0.0264g)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン [BPA] (2.36g)及び3−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノール[3,4’−BPA](2.36g)の順に添加、攪拌した後、このアルカリ水溶液を2L反応槽に移した。
別途、4,4’−ビフェニルジカルボン酸[Bp]クロライド(5.88g)をジクロロメタン(100ml)に溶解し滴下ロート内に移した。
【0074】
重合槽の外温を20℃に保ち、反応槽内のアルカリ水溶液を攪拌しながら、滴下ロートよりジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。さらに3時間攪拌を続けた後、酢酸(0.71ml)、ジクロロメタン(80ml)、水(40ml)を加え30分攪拌した。その後、攪拌を停止し有機層を分離した。この有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液(153ml)にて洗浄を行い、次に0.1N塩酸(153ml)にて洗浄を2回行い、さらにH2O(153ml)にて洗浄を2回行なった。
【0075】
洗浄後の有機層に塩化メチレン180mlを加えて希釈し、メタノール(900ml)に注いで得られた沈殿物を濾過にて取り出し、乾燥して目的のポリエステル樹脂(D)を得た。得られたポリエステル樹脂(D)の粘度平均分子量は9,200であった。得られたポリエステル樹脂(D)の構造式を以下に示す。
【化11】

a/b=5/5
・・・ポリエステル樹脂(D)
[ポリエステル樹脂(D)の評価]
ポリエステル樹脂(D)はTHF/トルエン(8/2 重量比)混合溶媒に不溶であった。
【0076】
・比較例3
[ポリカーボネート樹脂(E)を用いた感光体の製造]
実施例1において実施例1の[感光体の製造](電荷輸送層の製造)におけるポリエステル樹脂100部を、以下に示す構造のポリカーボネート樹脂(E)100部に替えた以外は実施例1と同様に感光体を作成した。
【化12】

a/b=5/5
・・・ポリカーボネート樹脂(E)
[ポリカーボネート樹脂(E)を用いた感光体に対する試験および評価]
得られた感光体の摩擦試験、摩耗試験及び電気特性の評価を実施例1と同様の方法により同条件で行なった。結果を表1に示す。
【表1】

1)テトラヒドロフラン/トルエン=80/20(重量比)に対する溶解性
2)粘度平均分子量
3)テーバー摩耗試験
4)動摩擦係数
以上の結果より、本発明のポリエステル樹脂は優れた耐摩耗性及び滑り性を示すとともに、電子写真感光体の電荷輸送層の塗布溶媒に対する溶解性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含み、粘度平均分子量が1万〜20万である
ことを特徴とする、ポリエステル樹脂。
【化1】

・・・一般式(1)
(一般式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。また、Xは単結合もしくは2価の連結基を、Yは2価の有機連結基を表す。)

【公開番号】特開2008−69363(P2008−69363A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273729(P2007−273729)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2001−67147(P2001−67147)の分割
【原出願日】平成13年3月9日(2001.3.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】