説明

ポリエステル樹脂

【課題】1,6−ヘキサンジオールを主成分とするポリマーでありながら、特に重縮合時の溶融粘度の上昇に優れ、操業性よく生産することができ、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することができるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを70モル%以上とするジオール成分とからなり、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸および/または多価アルコールを0.05〜5.0モル%含むポリエステルであって、250℃におけるシェアレート1000sec-1の溶融粘度が600dPa・sec以上、融点が100〜150℃、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,6−ヘキサンジオールを多く含有する低融点のポリエステル樹脂であって、接着剤やバインダー繊維として好適に用いることができるポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル系樹脂において低融点化したものの要求が高く、繊維化してバインダー繊維として用いたり、接着剤等に用いられている。このような用途には、一般に共重合ポリエステルが用いられており、例えば、特許文献1にはバインダー繊維に好適なポリマーとして、ポリマー組成がいくつか提案されている。
【0003】
しかしながら、これらの共重合ポリエステルは、明確な結晶融点を示さないものが多く、通常90〜200℃で軟化する。明確な結晶融点を示さないポリマーを用いて繊維を製造する場合、紡糸、延伸、熱処理工程において繊維の融解、繊維同士の膠着が生じやすく、また、それぞれの製造工程において装置への繊維の溶着も生じやすく、操業性に劣るものであった。
【0004】
そこで、上記の問題を解決するには、共重合ポリエステルは明確な結晶融点を示すことが望ましい。特許文献2には、酸成分が芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンからなり、ジオール成分が脂肪族ジオール成分からなり、結晶性が良好なポリエステルも提案されている。
【0005】
しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、接着成分として溶融させて用いる際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0006】
また、ジオール成分の炭素数が増えると沸点も同時に上がるため、炭素数が6以上のジオール成分を用いると、重縮合反応においてジオール成分が系外へ抜けにくくなり、重合度が上昇しづらく、重合時間が長時間に及んだり、必要とする溶融粘度のポリマーを得ることが困難となるといった問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−34327号公報
【特許文献2】特開平10−298271号公報
【特許文献3】特開平9−12693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするポリマーでありながら、特に重縮合時の溶融粘度の上昇に優れ、操業性よく生産することができ、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することができるポリエステル樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを70モル%以上とするジオール成分とからなり、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸および/または多価アルコールを0.05〜5.0モル%含むポリエステルであって、250℃におけるシェアレート1000sec-1の溶融粘度が600dPa・sec以上、融点が100〜150℃、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分として1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであるが、特に重縮合時の溶融粘度の上昇に優れ、適度な溶融粘度を有するものであるため、操業性よくチップ化することができる。そして、低融点で結晶性に優れるため、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のポリエステル樹脂におけるDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とするものであり、ジオール成分が1,6−ヘキサンジオールを70モル%以上とするものであり、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸および/または多価アルコールを0.05〜5.0モル%含むものである。
【0013】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸(TPA)が60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0014】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0015】
ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などを用いてもよい。
【0016】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体として、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などを用いてもよい。
【0017】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)を70モル%以上とするものであり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは70モル%以上であり、中でも80〜95モル%であることが好ましい。HDが70モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0018】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜30モル%とすることが好ましく、中でも5〜20モル%とすることが好ましい。
【0019】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0020】
さらに、環状エステルとして、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどを用いることができる。
【0021】
そして、本発明のポリエステル樹脂は、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸と多価アルコールをいずれか一方又は両方を含むものである。そして、その含有量は0.05〜5.0モル%であり、中でも0.1〜2.0モル%であることが好ましい。
【0022】
エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸としては、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸(以下TMAとする)、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0023】
エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン(以下TMPとする)、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0024】
これらのエステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸や多価アルコールの含有量が0.05モル%未満であると、1t以上のスケールを有したバッチ式重縮合反応缶を用いた場合、重縮合反応時の溶融粘度上昇が遅く、250℃におけるシェアレート1000sec-1の溶融粘度を600dPa・sec以上とすることが困難となる。一方、含有量が5.0モル%を超える場合、ポリマーのゲル化を招き、ポリマーのカッティングや篩がけといったチップの払い出し工程での操業性を悪化させると同時に、製品として使用できなくなるため好ましくない。
【0025】
また、本発明のポリエステル樹脂は、250℃におけるシェアレート1000sec-1の溶融粘度が600dPa・sec以上である。本発明では、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸や多価アルコールの少なくとも一方を0.05〜5.0モル%含有させているので、重合度の上がりにくい系においても一部分子鎖を三次元化させることができ、溶融粘度を上げることが可能となった。
溶融粘度が600dPa・sec未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るとともに、溶融粘度が低いためポリマー製造時のカッティングが困難となり、ミスカットチップの増加、カッターへのストランドの巻き込み等を招き、生産性が著しく低下する。また、繊維とする際の紡糸性も損なわれるため好ましくない。
【0026】
なお、溶融粘度が高すぎても、押出が困難になったり、また繊維とする際には、溶融粘度を下げるべく紡糸温度を上げると、ポリエステルの熱分解が顕著になり紡糸が困難になることから、実用上3000dPa・sec以下とすることが好ましい。
【0027】
そして、本発明のポリエステル樹脂の融点は、100〜150℃であり、中でも105〜140℃、さらには110〜130℃であることが好ましい。ポリエステルの融点が100℃未満であると、熱安定性が悪くなるため、チップ化したり繊維化する際の操業性や生産性が低下する。一方、融点が150℃を超えると、接着用途に用いる際に、高温での熱処理が必要となりコスト的に不利となる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は、1,6−ヘキサンジオールを70モル%以上共重合した組成であることにより、ある程度は結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによってさらに結晶性が向上するものであり、降温時の結晶化速度を向上させることができる。そして、後述する(1)式を満足することができるものとなり、チップ化したり繊維化する際の加工性に優れるものとなる。
【0029】
結晶核剤の含有量は、0.01〜5.0質量%とすることが好ましく、中でも0.5〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0030】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、本発明のポリエステル樹脂は後述する(1)式を満足することが困難となる。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、本発明のポリエステル樹脂の加工性が悪化し、例えば繊維にする際には、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。
【0031】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、本発明のポリエステル樹脂は後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0032】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0033】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタクチック重合体であってもよい。
【0034】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0035】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0036】
そして、本発明のポリエステル樹脂は、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線において、b/aが0.05(mW/mg・℃)以上であることが好ましく、中でも0.06以上であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
【0037】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0038】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、降温時の結晶化速度が遅いため、チップ化する際にローラやカッターへの巻き付きが生じたり、2つ以上のチップが溶着した連チップの発生が生じる。また、チップの貯蔵、運搬及び乾燥工程においてチップ同士の溶着や壁面への溶着が生じる。さらに、繊維化する際には紡糸、延伸、熱処理工程において繊維の融解、繊維同士の膠着が生じやすく、各工程において装置への繊維の溶着等も生じるものとなりやすい。
【0039】
なお、上記したように、b/aはポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0040】
本発明における融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分で測定するものである。
【0041】
さらに、本発明のポリエステル樹脂中には、目的を損なわない範囲内で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0042】
次に、本発明のポリエステル樹脂の製造方法について、一例を用いて説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行うことにより本発明のポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0043】
具体的には、重縮合反応は通常 0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度で所定の極限粘度のものが得られるまで行う。また、重縮合反応は、触媒存在下で行われるが、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物を用いることができる。
【0044】
エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸や多価アルコール、結晶核剤、各種添加剤(本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる)は、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
【0045】
そして、重縮合反応においてポリエステルが所定の溶融粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
〔ポリエステル樹脂〕
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)溶融粘度
得られたポリエステル樹脂(チップ化した試料)を50℃で24時間減圧乾燥して水分を除き、フローテスター(島津製作所製、型式CFT-500)を用いて、温度250 ℃、剪断速度1000sec-1の条件で測定した。
(c)融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(d)ポリマー組成
ポリエステルを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(e)操業性
(チップ化)
ポリエステル樹脂をAUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化する際、フィードローラまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の溶着により2つ以上のチップが溶着したものの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、溶着等の問題が生じ、時折中断するもののチップ化できた場合を△、溶着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○、溶着による問題が生じることなくチップ化できた場合を◎とした。
(チップのブロッキング)
チップの貯蔵・運搬および乾燥工程で、崩れないブロック状の塊や壁面への溶着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○とした。
〔無機系微粒子〕
(f)平均粒径
島津社製粒度分布測定装置(SALD-2000)を用いて、エチレングリコール中の試料の平均粒径の値を測定した。
(g)比表面積
BET法により測定した。
【0047】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEG(モル比 1/1.6) のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物1077kgを重縮合反応缶に移送し、HD700kg、多価成分としてTMA2.0kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。
次に、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを10質量%含有するEGスラリーを260kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するEG液を75.0kg、熱安定剤としてトリエチルフォスフェートを10質量%含有するEG液を4.9kg、これらを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、表1に示すポリマー組成のポリエステル樹脂を得た。そして、常法によりストランド状に払出し、AUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化した。
【0048】
実施例2〜5、比較例1〜7
ポリマー組成、多価成分の種類及び含有量、結晶核剤の種類及び含有量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
実施例1〜5、比較例1〜7で得られたポリエステル樹脂の特性値及び操業性の評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜5のポリエステル樹脂は、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸や多価アルコールを適量含有するものであったため、重縮合時の溶融粘度の上昇に優れ、溶融粘度が高く、また結晶性に優れ(1)式を満足するものであったため、操業性が良好であった。
一方、比較例1のポリエステル樹脂は、HDの共重合量が20モル%であったため、融点が210℃となった。比較例2、3のポリエステル樹脂は、多価成分が入っていない、もしくは少ないため、溶融粘度が600dPa・sec未満となり、操業性が悪かった。比較例4では、多価成分の含有量が6モル%であったため、反応物がゲル化し、ポリエステル樹脂を得ることができなかった。比較例5、6のポリエステル樹脂は、結晶核剤が入っていない、もしくは含有量が少なかったため、結晶性が低く、(1)式を満足せず、操業性が悪かった。比較例7のポリエステル樹脂は、結晶核剤の含有量が多すぎたため、ストランド状での払い出しがうまくいかず操業性が悪かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを70モル%以上とするジオール成分とからなり、エステル結合可能な官能基を3つ以上もつ多価カルボン酸および/または多価アルコールを0.05〜5.0モル%含むポリエステルであって、250℃におけるシェアレート1000sec-1の溶融粘度が600dPa・sec以上、融点が100〜150℃、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1記載のポリエステル樹脂。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。


【図1】
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【公開番号】特開2010−163470(P2010−163470A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4187(P2009−4187)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】