説明

ポリエステル混繊糸およびその織編物

【課題】ストレッチ性およびソフトなスエード調布帛およびその材料として好適な混繊糸の提供。
【解決手段】少なくともA、B2種以上のポリエステルマルチフィラメント糸を含み、0.08826cN/dtexの荷重下で糸の一部にタルミを有し、かつ、荷重下熱処理後の伸縮伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエステル混繊糸。
(ここでAは異種のポリエステル重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に存在し、該ポリエステル重合体のうち少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体とする複合繊維フィラメント、Bはポリエステルマルチフィラメント糸であり、1フィラメントあたりの繊度は以下の式を満たす。
1フィラメントあたりの繊度(dtex)/N ≦ 0.6(dtex)
ここでNは分割有無係数。フィラメントが分割能を有しない場合:N=1、フィラメントが分割能を有する場合:N=分割数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いストレッチ性とふくらみ・反発感を有するスエード調織物や編物を実現し得るポリエステル混繊糸ならびにそれを用いた織物および編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルマルチフィラメント糸を使用したスエード調織物は風合いが良く、また天然皮革と比較してクリーニングが容易にできるなど、イージーケア性に富むため、婦人、紳士衣料でカジュアルからフォーマルまで幅広く使用されてきている。近年、衣料分野では着用快適性が重要な要素となってきた。ストレッチ性が特に重要な要素となってきている。
【0003】
沸騰水で捲縮発現可能なコンジュゲートフィラメントが芯部に配置され、有機スルホン酸金属塩含有のフィラメントが鞘部に配置され、沸水収縮率5〜20%、捲縮回復率80%以上で、かつアルカリ減量により、糸表面に単繊維直径3μm以下、長さ1mm以下の毛羽を発現し得るポリエステル潜在羽毛二層構造複合糸を使用してスエード調織物が提案されているが、ストレッチ性には乏しいものであった(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−251963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術でも優れた風合いを有するスエード調素材が得られているが、ストレッチ性を併せ持った素材は得られていなかった。
【0005】
本発明の目的は、これら従来技術における問題点を解決せんとするものであって、十分にソフトな風合いが得られ、かつ、高いストレッチ性とふくらみ・反発感を有していて、快適性、仕立て映えの良いスエード調織編物を実現し得るポリエステル混繊糸、該ポリエステル混繊糸を用いてなるストレッチ性とふくらみ・反発感を有するスエード調織編物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意・検討を行った結果、混繊糸の開発に成功した。それがこれまでに開発されたものが有する上記した種々の問題点を解決することを知見した。さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)少なくともA、B2種以上のポリエステルマルチフィラメント糸を含み、0.08826cN/dtexの荷重下で糸の一部にタルミを有し、かつ、荷重下熱処理後の伸縮伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエステル混繊糸、
(ここでAは異種のポリエステル重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に存在し、該ポリエステル重合体のうち少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体とする複合繊維フィラメント、Bはポリエステルマルチフィラメント糸であり、1フィラメントあたりの繊度は以下の式を満たす。
1フィラメントあたりの繊度(dtex)/N ≦ 0.6(dtex)
ここでNは分割有無係数。フィラメントが分割能を有しない場合:N=1、フィラメントが分割能を有する場合:N=分割数)
(2)糸長差が2%以上、10%以下であることを特徴とする(1)のポリエステル混繊糸、
糸長差(%)={〔YL(B)―YL(A)〕/YL(A)}×100
YL(A):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Aの長さ
YL(B):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Bの長さ
(3)ポリエステルマルチフィラメント糸Bが分割割繊型フィラメントである(1)または(2)記載のポリエステル混繊糸、
(4)ポリエステルマルチフィラメント糸Bが海島型複合フィラメントである(1)または(2)記載のポリエステル混繊糸、
(5)下記式を満たすことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル混繊糸、
3≦S(A)−S(B)≦10
ここで、S(A)=ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率(%)
S(B)=ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率(%)
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を使用してなることを特徴とする織編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いストレッチ性とふくらみ・反発感を有し、風合いに優れたスエード調織編物を実現できるポリエステル混繊糸が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、更に詳しく本発明について説明する。
【0010】
本発明は、少なくともA、B2種以上のポリエステルマルチフィラメント糸を含み、0.08826cN/dtexの荷重下で糸表面にタルミを有し、かつ、荷重下熱処理後の伸縮伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエステル混繊糸に関する。
【0011】
本発明におけるマルチフィラメント糸は、フィラメントが複数本集まった繊維束を称する。
【0012】
本発明で定義するポリエステルマルチフィラメント糸Aは複合繊維フィラメントであり、極限粘度の異なる重合体が繊維長さ方向にサイドバイサイド型に存在することによって、紡糸延伸時に高粘度の重合体側に応力が集中するため、成分間で内部歪みが異なる。そのため、紡糸延伸後の弾性回復率差および織編物の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。また、重合体の少なくとも一方にポリトリメチレンテレフタレートを用いることで優れたストレッチ特性を有する捲縮伸長性が得られる。
【0013】
本発明におけるポリトリメチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルが好ましい。
【0014】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aのもう一方の重合体としては上記ポリトリメチレンテレフタレートと極限粘度の異なる重合体であれば特に限定はされないが、特にはポリエステルが好ましく、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられ、なかでもポリエチレンテレフタレートを主とする重合体がより好ましい。もちろん本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含有することができる。
【0015】
また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの断面はサイドバイサイド型であれば丸形断面以外にも三角〜八角断面や扁平など形状を問わないが、ストレッチ性を重視するならば丸形断面が好ましい。
【0016】
また、上記ポリトリメチレンテレフタレートには、本発明の効果を失わない範囲、好ましくはジカルボン酸成分とジオール成分の和に対して20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の割合で、他のエステル結合の形成可能な共重合成分を含んでも良い。共重合可能な化合物として、例えば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコ−ル成分として、例えば、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、ブタンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ルなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料など他の材料を必要に応じて添加することができる。
【0017】
上記ポリトリメチレンテレフタレ−トの極限粘度は溶媒o-クロロフェノール、温度25℃、オストワルド粘度計での測定で、0.5dl/g以上、1.2dl/g以下とすることが好ましい。0.5以上とすることで、安定した紡糸が可能となり、糸切れが発生しない。また、繊度むらが抑えられ、引張強度や耐屈曲摩耗性などにも優れた糸が得られる。また極限粘度を1.2以下とすることで、安定して紡糸することを可能とし、繊維の風合いもソフトにすることができる。より好ましくは0.8dl/g以上1.0dl/g以下である。
【0018】
サイドバイサイド型または偏芯芯鞘型の複合繊維は、それらの弾性回復率や収縮特性の差によって、捲縮を発現するものであり、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとることができる。
【0019】
また、本発明の混繊糸のポリエステルマルチフィラメント糸Aを構成するサイドバイサイド型複合繊維の両成分の複合比率は重量比で8:2〜2:8の範囲が好ましい。さらにし好ましくは6:4〜4:6である。この範囲をとることにより、高収縮側と低収縮側の成分の比率が好適となり、コイル捲縮が細かくなる。
【0020】
また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの1フィラメントあたりの繊度は1.0dtex以上18dtex以下が好ましい。1フィラメントあたりの繊度が低い場合は、織編物にした場合、張り腰が弱くなる傾向がある。織編物に適度な張り腰を与えるためには1.5dtex以上、10dtex未満が好ましい。また、織編物の張り腰を強調したい場合は、10dtex以上、18dtex以下が好ましい。1フィラメントあたりの繊度が高すぎると、張り腰強くなりすぎ、縫製工程が難しくなる傾向がある。
【0021】
本発明のポリエステル混繊糸のポリエステルマルチフィラメント糸Bとしては、その主成分がポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどのフィラメント糸が採用できる。耐アイロン性の点からは、ポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Bにポリトリメチレンテレフタレートを用いた場合、その織物の表面タッチはナイロン調のソフトな風合いを有するので、これも好ましい。
【0022】
ポリエステルマルチフィラメント糸Bの1フィラメントあたりの繊度(dtex)/Nが0.6dtex以下になりうることがスエード調の風合いを得るためには必要であり、より好ましくは0.4dtex以下である。0.6dtexを超えると皮膚と接触したときの感触が固くなり、良好なスエード調の風合いといえなくなる。ここでNは以下に示す分割有無係数である。
フィラメントが分割能を有しない場合:N=1
フィラメントが分割能を有する場合:N=分割数 。
【0023】
フィラメントが分割能を有するとはアルカリ減量加工で1フィラメントが複数のフィラメントに分かれるものである。例えば、分割割繊型複合フィラメント、海島型複合フィラメント等がある。
【0024】
また、ポリエステルマルチフィラメント糸Bには、必要に応じて艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナ微粒子、染色顔料など他の材料を添加しても良い。
【0025】
本発明のポリエステルマルチフィラメント糸Bは、そのフィラメントの断面が長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、染め仕上げ工程後の断面は丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意に選択することができる。
【0026】
本発明の混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で糸表面にタルミを有することが必要である。タルミを有する状態とは図1で示すようなものであり、AおよびBの糸が基本線(A−Z)を形成しているが、さらに一部Aおよび/またはBの糸が基本線(A−Z)から離脱し、バイパス線(例えばB−C−D、D−E−F、G−H−I)を有している状況であり、これらのバイパス線をタルミという。タルミは基本線とバイパス線との交点間の長さ(例えばB−Dの距離、D−Fの距離、G−Iの距離)はいずれかが1.0mm以上となることが好ましい。さらに好ましくは2.0mm以上、10mm以下が好ましい。タルミはポリエステルマルチフィラメントBであることが好ましい。タルミを有することにより、織編物にしたときに、タルミすなわちポリエステルマルチフィラメントBが織編物の表面に現れることになる。織編物を手で触ったときに、ポリエステルマルチフィラメントAは織編物の表面にはあまり存在しないので、ポリエステルマルチフィラメント糸Bのソフト感が主に手に伝わる。タルミを有しないと織物表面にはポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBが存在し、織編物を手で触ったときに、ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメント糸Bの両方の触感が手に伝わるため、ポリエステルマルチフィラメントBのソフト感が少なくなる傾向がある。
【0027】
さらに、ストレッチ性を有する織編物を実現するためには、織編物での伸長性も意識する必要がある。
【0028】
そこで、織編物で伸長性を得るためには、織編物拘束下でのポリエステルマルチフィラメント糸Aの捲縮発現能力が重要であることに着目した結果、特定数値範囲の荷重下熱処理後の伸縮伸長性を有するポリエステル混繊糸を用いることにより、上述の目的を達成しているのである。
【0029】
なお、本発明における伸縮伸長率、とは以下に示す式にて定義した値をいう。
伸縮伸長率(%)=[(L1 −L0 )/L0 ]×100
L0 :周枠0.8mのラップリールで、初荷重0.08826cN/dtexで20回巻きのカセを作る。カセに0.00177cN/dtex荷重を吊した状態で沸騰水処理を20分間行い、24時間風乾した後のカセ長。
L1 :L0 測定後、L0 測定荷重を取り除いて0.08826cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長。
【0030】
なお上記測定方法は、織編物内での拘束力に相当する0.00177cN/dtexと同じ荷重を繊維カセに吊して熱処理することで、織編物拘束下での捲縮発現能力を繊維カセの伸縮伸長率で表現したものである。この荷重下熱処理後の伸縮伸長率が高いほど捲縮発現能力が高いことを示しており、10%以上であれば織編物に適度なストレッチ特性を与えることができるので好ましい。荷重下熱処理後の伸縮伸長率は高いほど織編物にしたときのストレッチ性能が向上するため、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。10%に満たない場合は、織編物のストレッチ性は期待出来ない。
【0031】
なお、特公昭44−2504号公報に記載のような固有粘度差のあるPET系混繊糸、あるいは特開平5−295634号公報に記載のようなホモPETと高収縮性共重合PETとの組み合わせでの混繊糸では伸縮伸長率は高々5%程度である。
【0032】
本発明の混繊糸は下記で定義する糸長差が2%以上、10%以下であることが好ましい。
糸長差(%)=〔{YL(B)―YL(A)}/YL(A)〕×100
YL(A):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Aの長さ
YL(B):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Bの長さ
糸長差が2%以上、10%以下であると、ポリエステルマルチフィラメント糸Bが織編物の表面を覆うことで、良好なスエードタッチが得られる。糸長差が小さいとポリエステルマルチフィラメント糸Bのみならずポリエステルマルチフィラメント糸Aも織編物表面に現れる傾向にあり、ポリエステルマルチフィラメント糸Aのタッチにより、スエードタッチが損なわれる傾向にある。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bに染着性の差がある場合は、製品の見栄えも悪くなる。糸長差が10%を超えると、ポリエステルマルチフィラメント糸Bにより生じたタルミが大きくなりすぎて、糸のパッケージからの解舒性が悪くなり、解舒中に糸破壊を起こる場合があり使用しずらくなる傾向を示す。
【0033】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率をS(A)(%)、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率をS(B)(%)とすると、 3≦S(A)−S(B)≦10であることが好ましい。3≦S(A)−S(B)≦10とすることで、高次加工時の熱処理によって糸長差が発生し、ふくらみ感を付与することができる。S(A)−S(B)が低いと、糸長差の発生が充分でなく、ふくらみ感に乏しくなる場合がある。また、S(A)−S(B)が高いと大きな糸長差が発生するため、ふかついた風合いとなり、織物の価値が損なわれる場合がある。
【0034】
なお、本発明における沸騰水収縮率とは、以下に示す式にて定義されるものである。
沸騰水収縮率(%)={(10−L)/10}×100
L:本発明の混繊糸をポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bを分離し、24時間放置後、糸の一方の端を固定し、もう一方の端に0.08826cN/dtexの荷重を吊す、任意の位置に間隔10cmで印を付け、その後、糸をガーゼに包み30分間沸騰水中に処理する。処理した糸を取り出し脱水後12時間以上放置する。放置後、糸の一方の端を固定し、もう一方の端に0.08826cN/dtexの荷重を吊したときの印から印の長さ。
【0035】
本発明のポリエステル混繊糸は、撚係数Kが4000以上25000以下を満たす撚糸を施すことで、織編物のふくらみと反発感を最適化することが可能になる。
ただし、ここで、撚係数K=T×D1/2(T:糸長1mあたりの撚り数、D:トータル繊度(dtex))である。
【0036】
次に、本発明のポリエステル混繊糸の製造方法について詳細に説明する。
【0037】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aを得る方法としては、異なる成分のポリエステルをそれぞれ別々に溶融後、吐出し、サイドバイサイド型複合構造未延伸糸を得た後、さらに延伸することで延伸糸(ポリエステルマルチフィラメント糸A)を得ることができる。
【0038】
また、ポリエステルマルチフィラメント糸Bを得る方法としては、例えばテレフタル酸、エチレングリコール、コロイダルシリカを混合して通常の重合方法によりポリエステルを得、このポリエステルを通常の方法で紡糸することによって、ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を得ることができる。あるいは異なる成分のポリエステルをそれぞれ別々に溶融後、吐出し、海島型複合構造のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を得ることができる。
【0039】
次にポリエステルマルチフィラメント糸B用の未延伸糸を延伸する。図2は本発明の混繊糸の製造工程を紹介する概念図である。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸用ドラム2から提供された未延伸糸は、B糸用第1フィードローラー3、熱ピン4、B糸用第2フィードローラー5を通じてポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸を得ることができる。このときの延伸倍率は、断面が長さ方向に均一したい場合、太細のあるものにしたい場合によって、適宜調節すれば良い。延伸後の伸度は20%以上70%以下が好ましい。図2の例では引き続き熱処理を施しているが、図2の例から外れ、ポリエステルマルチフィラメントB用延伸糸を一旦巻き取っても良い。
【0040】
次に 3≦S(A)−S(B)≦10
[ここで、S(A)=ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率(%)、S(B)=ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率(%)]
を満たすために、B糸用第2フィードローラー5から得られたポリエステルマルチフィラメントB用延伸糸を、図2に示すようにヒーター6、さらにB糸用第3フィードローラーを通じることにより、沸騰水収縮率を低下させてポリエステルマルチフィラメントBを得ることができる。このとき、ヒーター温度は150℃以上が好ましい。熱処理温度は糸の太さ、ヒーターの種類(接触式、非接触式)、ヒーター長、加工速度により適宜設定する。図2の例では、引き続きポリエステルマルチフィラメント糸Aと混繊しているが、この例とは別にポリエステルマルチフィラメント糸Bをこのときに一旦巻き取っても良い。
【0041】
次に、ポリエステルマルチフィラメント糸Aと、ポリエステルマルチフィラメント糸Bを混繊する。この混繊をするには、例えば、準備したポリエステルマルチフィラメント糸A用ドラム1をA糸用フィードローラー7を通じて、またポリエステルマルチフィラメント糸BをB糸用第3フィードローラー8を通じて、これらを混繊ノズル9に供給し、混繊ノズル9から出た糸をデリベリーローラー10で送り出し、巻き取りローラー11でチーズ12に巻き取れば良い。このときに糸表面にタルミを有せしめるには、B糸用第3フィードローラー8の速度をデリベリーローラー10の速度より早くすればよい。また、糸長差を2%以上、10%以下とするためには、B糸用フィードローラーBの速度を該糸長差に対応した分だけフィードローラーAの速度より速くすればよい。現実に速くする割合は、実際に前述の糸長差測定法により糸長差を測定して調節するのがよい。
【0042】
ここで、混繊ノズルは整流交絡ノズル、乱流交絡ノズルなどを使用することができる。中でもより好ましくはタルミが発生しやすい乱流交絡ノズルを使用することである。
【0043】
混繊ノズルに供給する圧縮空気の圧力は、特に限定されるものではないが、本発明者らの知見によれば、0.2〜1.2MPaが好ましく、より好ましくは0.4〜1.0MPaである。圧力は加工安定性を考慮して、適宜調節すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。まず、測定方法について説明する。
【0045】
<荷重下熱処理後の伸縮伸張率>
周枠0.8mのラップリールで、初荷重0.08826cN/dtexで20回巻きのカセを作る。ラップリールからカセを取り外し、カセに0.00177cN/dtex荷重を吊した状態で沸騰水処理を20分間行う。24時間風乾した後、カセ長:L0を測定する。
L0測定後、L0 測定荷重を取り除いて0.08826cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長:L1を測定する。次式に従って、荷重下熱処理後の伸縮伸張率を算出する。測定は3回行う。得られた値の平均値の小数点以下第2位を四捨五入する。
荷重下熱処理後の伸縮伸長率(%)={(L1 −L0)/L0 }×100 。
【0046】
<沸騰水収縮率>
ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bを丁寧に分離する。このときに針、ピンセットなどの補助具を使うと分離しやすいので極力使用する。
分離した糸を24時間放置後、糸の一方の端を固定し、もう一方の端に0.08826cN/dtexの荷重を吊す、任意の位置に間隔10cmで印を付ける。
【0047】
上記糸をガーゼに包み30分間沸騰水中に処理する。処理した糸を取り出し脱水後12時間以上放置する。放置後、糸の一方の端を固定し、もう一方の端に0.08826cN/dtexの荷重を吊す。印から印の長さ(L)を測定する。次式に従って、沸騰水収縮率を算出する。測定は3回行う。平均値は小数点第2位を四捨五入する。
【0048】
沸騰水収縮率(%)={(10−L)/10}×100 。
【0049】
<糸長差>
混繊糸に荷重0.08826cN/dtexを掛け、検撚機に長さ10cmで固定する。このときに糸に撚りが入っている場合には検撚機を回して、撚りをほどいておく。
【0050】
荷重を外して、検撚機に糸を固定したまま、ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bを丁寧に分離する。このときに針、ピンセットなどの補助具を使うと分離しやすいので極力使用する。
【0051】
再び荷重0.08826cN/dtexを掛ける。ポリエステルマルチフィラメント糸Aは張力が掛かり張った状態になり、ポリエステルマルチフィラメント糸Bはポリエステルマルチフィラメント糸Aより糸長が長いので、張力が掛からず弛んだ状態になる。 この状態の糸長を測定する。この値をYL(A)とする。次にA成分を鋏で切断する。今度はB成分に張力が掛かり張った状態になる。この状態の糸長を測定する。この値をYL(B)とする。
次式に従い、糸長差を計算する。
【0052】
糸長差(%)=〔{YL(B)―YL(A)}/YL(A)〕×100
試験は、一試料糸からランダムに試験サンプル糸を計5本採取して合計5回の測定を行う。該5つの測定値を平均して(小数点第2位を四捨五入)糸長差とする。
【0053】
<織物の伸長率>
JIS−L1096 伸縮織物の伸縮性 伸長率A法(定速伸長法)に基づいて、14.7N荷重時の伸長率(%)を求めた。
【0054】
<表面タッチ>
生地の表面をさわって、スエードタッチと感じるか、糸開発に携わる人の中から無作為に選んだ5人で評価した。
【0055】
<ふくらみ感>
生地を手に持ったときの触感にて、ふくらみ感が大きく感じるものを○、ふくらみ感が小さく感じるもの×、その中間を△とし、糸開発に携わる人の中から無作為に選んだ5人の評価の平均に近い物を特性とした。
【0056】
(実施例1)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0057】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した84dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸には、120dtex、144フィラメント、伸度165%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用いた。
【0058】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を延伸した後、ヒーター温度170℃で熱処理を実施しポリエステルマルチフィラメントB(繊度:70.5dtex、分割有無係数N=1)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率10%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0059】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は13.5%、ポリエステルマルチフィラメンAトの沸騰水収縮率は9.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.5%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
【0060】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで、常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ処理を実施し、染色仕上げを実施したところ、ふくらみがあり、十分なストレッチ性のあるスエード調素材が得られた。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0061】
(実施例2)
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した56dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸には、66dtex、36フィラメントの8分割型ポリエチレンテレフタレート割繊糸の延伸糸を用いた。
【0062】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸をヒーター温度170℃で熱処理を実施し、ポリエステルマルチフィラメントB(繊度:66dtex、分割有無係数N=8)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率14%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0063】
得られた混繊糸の伸縮伸長率は14.0%、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率は12.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.0%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
【0064】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ減量を実施しポリエステルマルチフィラメント糸Bを割繊した後、染色仕上げを実施したところ、ふくらみ、反撥感があり、十分なストレッチ性のあるスエード調素材が得られた。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
実施例2で得られた混繊糸を撚糸数1000T/m(撚係数12000)で撚糸をし、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。撚糸をした糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
次いで常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ減量を実施しポリエステルマルチフィラメント糸Bを割繊した後、染色仕上げを実施したところ、ふくらみ、反撥感があり、十分なストレッチ性のあるスエード調素材が得られた。実施例2と比較して、ふくらみ感および反発感は向上していた。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0067】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した84dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸には、120dtex、144フィラメント、伸度165%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用いた。
【0068】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を延伸した後、ヒーター温度170℃で熱処理を実施しポリエステルマルチフィラメントB(繊度:70.5dtex、分割有無係数N=1)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率10%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0069】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は13.3%、ポリエステルマルチフィラメンAトの沸騰水収縮率は5.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.5%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
【0070】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで、常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ処理を実施し、染色仕上げを実施したところ、ストレッチ性のあるスエード調素材であるが、ふくらみ感に乏しい織物となった。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0072】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した84dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸には、120dtex、144フィラメント、伸度165%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用いた。
【0073】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を延伸した後、ヒーター温度170℃で熱処理を実施しポリエステルマルチフィラメントB(繊度:70.5dtex、分割有無係数N=1)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率10%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0074】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は13.6%、ポリエステルマルチフィラメンAトの沸騰水収縮率は14.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.5%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
【0075】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで、常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ処理を実施し、染色仕上げを実施したところ、十分ストレッチ性のあるスエード調素材であるが、ふかついた織物となった。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0076】
(比較例3)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0077】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した84dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸には、120dtex、98フィラメント、伸度165%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用いた。
【0078】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を延伸した後、ヒーター温度170℃で熱処理を実施しポリエステルマルチフィラメントB(繊度:68.5dtex、分割有無係数N=1)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率10%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0079】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は13.9%、ポリエステルマルチフィラメンAトの沸騰水収縮率は9.4%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.6%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部にタルミを有するものであった。
【0080】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで、常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ処理を実施し、染色仕上げを実施したところ、ストレッチ性のあるソフトな織物であるが、スエード調とは呼べない。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0081】
(比較例4)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0082】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した84dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸には、120dtex、36フィラメント、伸度160%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用いた。
【0083】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸を延伸した後、ヒーター温度170℃で熱処理を実施し、ポリエステルマルチフィラメントB(繊度:68.5dtex、分割有無係数N=1)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率10%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0084】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は13.8%、ポリエステルマルチフィラメント糸の沸騰水収縮率は9.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸の沸騰水収縮率は3.7%であった。
【0085】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで、常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ処理を実施し、染色仕上げを実施したところ、適度な反撥感とふくらみ、ストレッチ性はあるが、硬い素材となった。
【0086】
(比較例5)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した56dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸には、66dtex、36フィラメントの8分割型ポリエチレンテレフタレート割繊糸の延伸糸を用いた。
【0087】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸をヒーター温度170℃で熱処理を実施し、ポリエステルマルチフィラメントB(繊度:66dtex、分割有無係数N=8)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率2%で、インターレースノズルを用いてエアー圧0.3MPa で引き揃え混繊して巻き取った。
【0088】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は14.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸の沸騰水収縮率は12.4%、ポリエステルマルチフィラメント糸の沸騰水収縮率は3.0%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、タルミを有しなかった。
【0089】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ減量を実施しポリエステルマルチフィラメント糸を割繊した後、染色仕上げを実施したところ、ストレッチ性はあるが、風合いが若干硬く、ふくらみ感も少ない仕上がりになった。またポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bの染着性の差がはっきりとでたことにより見た目も汚いものになった。
織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0090】
(比較例6)
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した56dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸には、66dtex、36フィラメントの8分割型ポリエチレンテレフタレート割繊糸の延伸糸を用いた。
【0091】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸をヒーター温度170℃で熱処理を実施し、ポリエステルマルチフィラメントB(繊度:66dtex、分割有無係数N=8)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸Aをフィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bをフィード率17%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0092】
得られた混繊糸の伸縮伸長率は14.0%、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率は12.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.5%であった。また得られた混繊糸は0.08826cN/dtexの荷重下で、その一部に大きなタルミを有するものであった。
【0093】
糸のパッケージからの解舒性が悪かったので、織物の評価は実施しなかった。
【0094】
(比較例7)
ポリエステル混繊糸を図2に示す加工方法により製造した。
【0095】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aにはポリエチレンテレフタレート(低粘度)とポリエチレンテレフタレート(高粘度)を5:5の複合比(重量比)でサイドバイサイド型に複合した56dtex、24フィラメントの延伸糸を用いた。ポリエステルマルチフィラメント糸B用延伸糸には、66dtex、36フィラメントの8分割型ポリエチレンテレフタレート割繊糸の延伸糸を用いた。
【0096】
上記のポリエステルマルチフィラメント糸をヒーター温度170℃で熱処理を実施し、ポリエステルマルチフィラメント糸B(繊度:66dtex、分割有無係数N=8)を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸フィード率5%、ポリエステルマルチフィラメント糸フィード率14%で乱流加工ノズルを用いてエアー圧0.7MPa で交絡して巻き取った。
【0097】
得られた混繊糸の荷重下熱処理後の伸縮伸長率は4.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率は8.5%、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率は3.0%であった。
【0098】
得られた混繊糸にヨリを掛けないで、タテ糸およびヨコ糸に使用し、組織経二重織りで製織した。次いで常法によりアルカリ減量20重量%のアルカリ減量を実施しポリエステルマルチフィラメント糸を割繊した後、染色仕上げを実施したところ、ふくらみ感とソフトなスエード調風合いを有するが、ストレッチ性の全くない織物となった。織物のタテ方向の伸長率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
かかる表1から明らかなとおり、実施例1、2は、ストレッチ性に優れ、十分なふくらみ感のあるスエード調織物が得られた。さらに実施例3では、撚糸をすることで、ストレッチ性に優れ、十分なふくらみ感に加え、反発感もあるスエード調織物が得られた。
【0101】
これに対して、比較例1のものは、S(A)−S(B)が3.0%に満たないため、ふくらみ不足となった。比較例2のものは、S(A)−S(B)が10%を越えたため、ふかついた織物となった。
【0102】
また、比較例3、4はポリエステルマルチフィラメントB糸に1フィラメントあたりの繊度/Nが0.6を越える糸を使用したため、比較例3はソフトではあるがスエード調とは呼べない。比較例4はソフト感に欠け、スエード調とはほど遠いものとなった。
【0103】
また、比較例5は糸長差が2%に満たなく、タルミもないために、ふくらみに欠け外見も悪い仕上がりとなった。比較例6は糸長差が10%を越えたため、糸のパッケージからの解舒性が悪く、工業的に使用できる糸にならなかった。
【0104】
また、比較例7のものは、ポリエステルマルチフィラメント糸Aにサイドバイサイド型に貼り合わされ、該ポリエステル重合体のうち少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体とする複合繊維フィラメントを使用しなかったため、ストレッチ性のないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の混繊糸を使用した織編物はソフト感およびストレッチ性に優れたスエード調の布帛であるため、スーツ、ジャケット、パンツ、スカートなどの衣料分野に利用でき、さらに婦人衣料に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明のポリエステル混繊糸のモデル図である。
【図2】本発明のポリエステル混繊糸の製造方法を示す工程概略モデル図である。
【符号の説明】
【0107】
1:ポリエステルマルチフィラメント糸A用ドラム
2:ポリエステルマルチフィラメント糸B用未延伸糸用ドラム
3:B糸用第1フィードローラー
4:熱ピン
5:B糸用第2フィードローラー
6:ヒーター
7:A糸用フィードローラー
8:B糸用第3フィードローラー
9:混繊ノズル
10:デリベリーローラー
11:巻き取りローラー
12:チーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA、B2種以上のポリエステルマルチフィラメント糸を含み、0.08826cN/dtexの荷重下で糸の一部にタルミを有し、かつ、荷重下熱処理後の伸縮伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエステル混繊糸。
(ここでAは異種のポリエステル重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に存在し、該ポリエステル重合体のうち少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体とする複合繊維フィラメント、Bはポリエステルマルチフィラメント糸であり、1フィラメントあたりの繊度は以下の式を満たす。
1フィラメントあたりの繊度(dtex)/N ≦ 0.6(dtex)
ここでNは分割有無係数。フィラメントが分割能を有しない場合:N=1、フィラメントが分割能を有する場合:N=分割数)
【請求項2】
糸長差が2%以上、10%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル混繊糸。
糸長差(%)={〔YL(B)―YL(A)〕/YL(A)}×100
YL(A):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Aの長さ
YL(B):混繊糸の単位長さ当たりに含まれるポリエステルマルチフィラメント糸Bの長さ
【請求項3】
ポリエステルマルチフィラメント糸Bが分割割繊型フィラメントである請求項1または請求項2記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
ポリエステルマルチフィラメント糸Bが海島型複合フィラメントである請求項1または請求項2記載のポリエステル混繊糸。
【請求項5】
下記式を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル混繊糸。
3≦S(A)−S(B)≦10
ここで、S(A)=ポリエステルマルチフィラメント糸Aの沸騰水収縮率(%)
S(B)=ポリエステルマルチフィラメント糸Bの沸騰水収縮率(%)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を使用してなることを特徴とする織編物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−197864(P2007−197864A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17219(P2006−17219)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000219255)東レ・テキスタイル株式会社 (4)
【Fターム(参考)】