説明

ポリエステル潜在捲縮性複合繊維

【課題】 製糸性が良好であり、延伸における捲縮の顕在化を適度に抑えることができるため高次加工性が良く、且つ、十分なストレッチ性と優れた風合いや外観を有する布帛が得られるポリエステル潜在捲縮性繊維を提供する。
【解決手段】 固有粘度の異なる2種類のポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合されている潜在捲縮性複合繊維において、高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分との固有粘度の差を0.1〜0.4の範囲とし、17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率を1.5%以上25%未満、1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率を30%以上50%未満、強度を1.5cN/dtex以上、伸度を30%以上70%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有粘度が異なる2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたポリエステル潜在捲縮性複合繊維に関する。さらに詳しくは、製糸性、高次加工性に優れ、高いストレッチ性能や、ハリ、コシといった風合いと欠点の少ない外観を有する布帛が得られるポリエステル潜在捲縮性複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
固有粘度の異なるポリエステルをサイドバイサイドに複合したポリエステル複合繊維は潜在捲縮性能を有する繊維素材として衣料用布帛に使用されている。布帛に適度のストレッチ性を付与するポリエステル複合繊維を得るためには、2種のポリエステルの固有粘度差を大きくし、繊維にしたときの熱収縮差を大きくして潜在捲縮性を充分に付与しておくことが必要である。
【0003】
例えば、特許3119389号には、1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率が50%を越える潜在捲縮糸を用いて織編物を製造することにより、深みのある色彩と良好な風合を有する織編物が得られることが示されている。
【0004】
しかしながら、1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率が50%を越える潜在捲縮糸は、延伸糸として巻き上げた段階で、既にかなりの捲縮が顕在化してコイル状を呈したものとなる。このような延伸糸をパッケージから解舒して撚糸あるいは製織編する際には、糸導のガイド等に引っ掛かって破断したり、過度な歪みを受けて製織編後に染色欠点として発現したりして、不具合を誘発する原因となる。このため、高次加工での取扱い性の面において改善が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特許第3119389号公報
【特許文献2】特開2000−144518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、製糸性が良好であり、延伸における捲縮の顕在化を適度に抑えることができるため高次加工性が良く、且つ、十分なストレッチ性と優れた風合いや外観を有する布帛が得られるポリエステル潜在捲縮性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は、固有粘度の異なる2種類のポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合されている潜在捲縮性複合繊維であって、高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分との固有粘度の差が0.1〜0.4の範囲にあり、且つ下記(a)〜(d)の要件を同時に満足していることを特徴とするポリエステル潜在捲縮性複合繊維によって達成される。
(a)17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率が1.5%以上25%未満
(b)1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率が30%以上50%未満
(c)強度が1.5cN/dtex以上
(d)伸度が30%以上70%以下
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製糸性、高次加工性に優れたポリエステル潜在捲縮性複合繊維を提供することができる。また、上記潜在捲縮性複合繊維からは、十分なストレッチ性能、および、ハリ、コシといった風合いや欠点の少ない外観を有するポリエステル布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリエステル潜在捲縮性複合は、固有粘度の異なる2種類のポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合されている潜在捲縮性複合繊維である。
上記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートよりなる群から少なくとも1種選ばれるポリエステルであることが好ましく、これらの中でも特にポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルであることが好ましい。
【0010】
本発明においては、高粘度ポリエステル成分(以下、高粘度成分と称することがある)と低粘度ポリエステル成分(以下、低粘度成分と称することがある)との固有粘度の差が0.1〜0.4、より好ましくは0.15〜0.30の範囲にある必要がある。固有粘度差が0.1未満の場合は、2成分間の熱収縮差が不充分になりやすく、複合繊維としての潜在捲縮性能が不充分となる。固有粘度差が0.4を越える場合は、2成分の貼り合わせ不良が発生したり、吐出ポリマーの屈曲、ピクツキ、旋回等が激しくなったりして、得られた複合繊維の品質が劣ったものとなることが多く、また製糸工程での断糸率、歩留りといった生産性も悪くなる。また、低粘度成分の固有粘度は0.4〜0.7および高粘度成分の固有粘度は0.6〜0.9の範囲とするとポリマー吐出状態がより安定するので好ましい。
【0011】
また、本発明の潜在捲縮性複合繊維においては、下記(a)〜(d)の要件を同時に満足していることが肝要であり、これにより、製糸性が良好であり、延伸において捲縮の顕在化を適度に抑えることができ高次加工性が良く、十分なストレッチ特性と優れた風合いを有する布帛が得られる潜在捲縮性繊維とすることができる。
(a)17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率が1.5%以上25%未満
(b)1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率が30%以上50%未満
(c)強度が1.5cN/dtex以上
(d)伸度が30%以上70%以下
以下、各要件について説明する。
【0012】
(a)17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率は、繊維を製織編して布帛とした後に熱処理して潜在捲縮を顕在化させる際の、織編物の拘束力が掛かった状態での捲縮発現能を表す尺度である。これが1.5%未満の場合、織編物の拘束力下で繊維に捲縮を発現させる能力が弱いため、布帛に良好なストレッチ性能と風合いを付与する事が難しくなる。一方、25%以上の場合、繊維の捲縮が強くなりすぎ、布帛の風合いが硬くなりすぎるため好ましくない。上記捲縮率は、好ましくは1.5%以上10%以下である。
【0013】
(b)1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率は、糸を延伸糸として巻き上げた状態から、限りなくフリーに近い低荷重で沸水処理した後に、異なる荷重で繊維の捲縮伸び縮みを比較する方法で、一般的な潜在捲縮性能を表すと同時に、得られる測定値の絶対値が大きいことから、生糸(延伸糸の状態)で既に顕在化している捲縮率を知るための尺度としても有効である。この捲縮率値が30%より小さいと、繊維の捲縮発現能が小さく、布帛に良好なストレッチ性能と風合いを付与する事が難しくなる。一方、50%以上の場合、繊維の捲縮が強くなりすぎ、布帛の風合いが硬くなると同時に、熱処理前の生糸の捲縮の顕在化が強く、高次加工工程での取扱いが難しくなるので好ましくない。
【0014】
本発明においては、上記のように、沸水処理時の荷重が異なる2種類の測定法を用いて捲縮率をそれぞれ測定し、両測定法でともに所定の範囲に入る潜在捲縮糸を得る事が重要である。これにより、布帛にした際の機能、風合いと高次加工性を両立することができる。
【0015】
(c)強度が1.5cN/dtex未満の場合、捲返し、撚糸、製織編の工程において繊維の破断が発生し易くなるほか、布帛の引裂強度も弱くなる。特に繊維に太細を付与した際には強度は低くなり易い。太細を有しない延伸糸の場合には、2.5cN/dtex以上が好ましい。強度が高い場合、風合いが硬くなる等の傾向はあるが、特にこれ以上強度が高くてはいけないという制約は無い。但し、ポリエステルで製糸する場合、高強度化には自ずと限界があり、安定に製造できる範囲に設定すれば良い。
【0016】
(d)伸度が30%未満の場合、捲返し、撚糸、製織編の工程において繊維が受ける歪みの影響により、布帛に染色欠点および形態の欠点が発生しやすくなるほか、繊維の延伸工程においてマルチフィラメントのうち1本〜数本が破断して破断先端が毛羽となりやすく、加工工程での断糸や布帛欠点の原因となる。一方、伸度が70%を超える場合、繊維の強度や収縮率を適度に保つことが難しくなる。上記伸度は好ましくは30%以上55%以下である。
【0017】
本発明においては、高粘度ポリエステル成分が、イソフタル酸を5%以上15%以下、より好ましくは8%以上15%以下共重合されたポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルであることが好ましい。この共重合率範囲であれば、本発明に必要な高粘度成分としての熱収縮特性を発現できる。かかる観点から、低粘度ポリエステル成分は、実質的にイソフタル酸が共重合されていないポリエステルであることが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、低粘度ポリエステル成分が、真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppm以下であり、かつ濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にある有機化合物系整色剤を0.1〜10重量ppm含有するポリエステルであることが好ましい。上記のようなポリエステルで、整色剤が含有されていることにより、複合繊維の低粘度成分に使用して紡糸、延伸した際に特有の配向、結晶化特性を示し、本発明の目的とする潜在捲縮繊維を容易に得ることができる。
【0019】
より具体的には、上記ポリエステルを低粘度成分として用いた場合、次の効果があることを本発明者らは見出した。すなわち、低荷重下の熱処理時には低粘度成分が適度に収縮することで高収縮成分との収縮率差が大きくなりすぎず、これにより製糸、特に延伸の段階での捲縮の顕在化を抑制し、加工工程での取扱い性が良くなる。一方、高荷重下の熱処理時には低粘度成分の収縮率がより低くなり、高粘度成分との収縮差がより大きくなり、強い捲縮を発現する。このことは織編物のような拘束力下での高い捲縮が発現することに繋がり、良好な風合いと優れたストレッチ性能を示す布帛が得られる。
【0020】
したがって、低粘度成分において、真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmより多い場合は、上記効果が得られない。特に、低粘度成分がアンチモン化合物を含む場合、低荷重下での熱処理時にも繊維が結晶化しやすく、収縮率が低くなる傾向があり、これにより高粘度成分との収縮率差が大きくなり、捲縮が強く発現する。その結果、この低荷重下で、延伸糸の状態での捲縮の顕在化を招くことになり、高次加工工程での取扱いが難しいものになる。
【0021】
なお、本発明における真比重5.0以上の金属元素とは通常ポリエステル中に含有される触媒や金属系の整色剤、艶消剤等に含有されている金属化合物に由来するものである。具体的には、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト、セリウム、錫、亜鉛、鉛、カドミウム等が該当する。これらに対し、チタン、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等はここでいう真比重5.0以上の金属には該当しない。
【0022】
また、本発明においては、低粘度ポリエステル成分が、チタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリエステルであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が後述する一般式(III)で表される化合物であることが好ましい。これにより、上記の特定の触媒を用いて重縮合して得られたポリエステルと整色剤との相乗効果により、繊維形成段階での配向、結晶化特性が特異な挙動を示し、低荷重下熱処理時の低粘度成分の過剰な低収縮化を抑制する働きがあり、前述した効果がより顕著に現れることがわかった。
【0023】
【化1】

(上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。)
【0024】
【化2】

(上記式中、nは2〜4の整数を表わす)
【0025】
ここで、一般式(I)で表されるチタンアルコキシドとしては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、及びヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0026】
また、本発明の該チタンアルコキシドと反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0027】
上記チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部または全部を溶解し、この混合液にチタンアルコキシドを滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。なお、芳香族多価カルボン酸またはその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン及びキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0028】
ここで、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタンアルコキシドの割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタンアルコキシドの割合が低すぎると重縮合反応が進みにくくなることがある。このため、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
本発明で用いられる重縮合用の触媒系は、上記のチタン化合物成分と、下記一般式(III)により表されるリン化合物とを含むものであり、両者の未反応混合物から実質的になるものである。
【0030】
【化3】

(上記式中、R、R及びRは、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。)
【0031】
上記一般式(III)のリン化合物(ホスホネート化合物)としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボエトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボプロトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボブトキシフェニルメタンホスホン酸等のホスホン酸誘導体のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類、ジブチルエステル類等から選ばれることが好ましい。
【0032】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中における、チタン化合物の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができる。また、一般式(III)のリン化合物を含む触媒系に多量に安定剤を添加しても、得られるポリエステルの熱安定性を低下させることがなく、その色調を不良化することが無い。
【0033】
本発明では、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒が、下記数式(5)及び(6)を満足していることが好ましい。
1≦P/Ti≦15 (5)
10≦P+Ti≦100 (6)
ここで、(P/Ti)は、2以上15以下であることが好ましく、さらには10以下であることが好ましい。(P/Ti)が、1未満の場合はポリエステルの色相が黄味を帯び易くなり、一方15を越えると、ポリエステルの重縮合反応性が低下する傾向にある。
【0034】
また、(Ti+P)は、20以上70以下であることがより好ましい。(Ti+P)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が低下する傾向にあり、一方、100を越える場合には、触媒に起因する異物が少量ではあるが発生しやすくなり好ましくない。
【0035】
上記式中、Tiの量としては2〜15ミリモル%程度が適当である。本発明で用いられているポリエステルポリマーは、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであるが、本発明においては、芳香族ジカルボキシレートエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなるジエステルであることが好ましい。
【0036】
ここで芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主とすることが好ましい。より具体的には、テレフタル酸が全芳香族ジカルボン酸を基準として70モル%以上を占めていることが好ましく、さらには該テレフタル酸は、全芳香族ジカルボン酸を基準として80モル%以上を占めていることが好ましい。ここでテレフタル酸以外の好ましい芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0037】
もう一方の脂肪族グリコールとしては、アルキレングリコールであることが好ましく、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールを用いることができるが、特にエチレングリコールであることが好ましい。
【0038】
なお、本発明においては、低粘度成分として、前述した真比重が5.0以下、特にポリアンチモン化合物を含まないポリエステルを用いていることにより、紡糸吐出時に口金面に付着するの異物が極端に少なく、吐出乱れがなく断糸や品質不良が少ないことも特長として挙げられる。
【0039】
また、前述したように、上記ポリエステルには、有機化合物系整色剤が全重量に対して0.1〜10重量ppm含有されていることが、両者の相乗効果によって適度な潜在捲縮性能を発現する上で好ましい。上述の整色剤の含有量が、0.1重量ppm未満の場合は、潜在捲縮性繊維の黄色味が強くなるほか、上記の触媒と合せて使用した場合に、サイドバイサイド糸を形成する低粘度成分が低荷重下熱処理により収縮しにくい方向にシフトするため、高粘度成分との収縮差が大きくなりすぎ、捲縮の顕在化が強くなりすぎて好ましくない。一方、有機化合物系整色剤の含有が全重量に対して10重量ppmを超える場合、明度が弱くなり見た目に黒味が強くなるほか、低粘度成分が低荷重下熱処理により収縮しやすい方向にシフトするため、高粘度成分との収縮差が小さくなり、布帛に所望の風合いとストレッチ性能が得られなくなり好ましくない。該整色剤の含有量は、上記の観点から、0.3重量ppm〜9重量ppmの範囲にあることがより好ましい。
【0040】
また、上記有機系整色剤は、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にある有機化合物系整色剤である。最大吸収波長が540nm未満の場合は得られる潜在捲縮性繊維の赤味が強くなり、また600nmを超える場合は得られる潜在捲縮性繊維の青味が強くなるため好ましくない。最大吸収波長の範囲は550〜590nmの範囲がさらに好ましい。
【0041】
なお、本発明においては、有機化合物系整色剤が、最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤であることが好ましい。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600、A700はそれぞれ400nm、500nm、600nm、700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0042】
さらに、上記整色剤においては、青色系整色剤と紫色系整色剤を重量比90:10〜40:60の範囲で併用すること、あるいは青色系整色剤と赤色系または橙色系整色剤を重量比98:2〜80:20の範囲で併用することが好ましい。ここで青色系整色剤とは、一般に市販されている整色剤の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。同様に紫色系整色剤とは市販されている整色剤の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものを示す。赤色系整色剤とは市販されている整色剤の中で「Red」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が480〜520nm程度にあるものである。橙色系系整色剤とは市販されている整色剤の中で「Orange」と表記されているものである。
【0043】
これらの整色剤としては油溶染料が特に好ましく、具体的な例としては、青色系整色剤には、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol Blue RLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94等が挙げられる。紫色系整色剤には、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.SolventViolet 36等が挙げられる。赤色系整色剤には、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179等が例示される。橙色系整色剤には、C.I.Solvent Orange 60等が挙げられる。
【0044】
ここで青色系整色剤と紫色系整色剤を併用する場合、重量比90:10より青色系整色剤の重量比が大きい場合は、得られるポリエステルモノフィラメントのカラーa*値が小さくなって緑色を呈し、40:60より青色整色剤の重量比が小さい場合は、カラーa*値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。同様に青色系整色剤と赤色系または橙色系整色剤を併用する場合、重量比98:2より青色系整色剤の重量比が大きい場合は、得られるポリエステルモノフィラメントのカラーa*値が小さくなって緑色を呈し、80:20より青色整色剤の重量比が小さい場合は、カラーa*値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。該整色剤は、青色系整色剤と紫色系整色剤を重量比80:20〜50:50の範囲で併用すること、あるいは青色系整色剤と赤色系または橙色系整色剤を重量比95:5〜90:10の範囲で併用することが更に好ましい。
【0045】
本発明の潜在捲縮性繊維の横断面形状はサイドバイサイド型であり、これによって潜在捲縮性能が発現する。本発明の潜在捲縮性繊維の横断面形状を得るためには、特開2000−144518号に記載の紡糸口金を使用すれば良い。
【0046】
次に、2種類のポリエステルの貼り合わせ面積比(高粘度成分/低粘度成分)は40/60〜60/40、より好ましくは55/45〜45/55、の範囲にするのが適当である。高粘度成分の面積比率が60を越える場合には、得られる潜在捲縮複合繊維の潜在捲縮性が低下する傾向にあり、一方、低粘度成分の面積比率が60を越える場合は、潜在捲縮複合繊維の強度が低くなったり、毛羽が増えたりする傾向がある。
【0047】
また、本発明の潜在捲縮複合繊維の断面には総横断面積に対し0.5〜15%、より好ましくは1〜10%の面積を占める中空部を設けると、ポリマー吐出状態がより安定し、更に、繊維が軽量化されるため、ハリ、コシといった風合いに好影響を及ぼす。なお、中空率が15%を越える場合は、中空破れなどの貼り合わせ不良が起こることがある。
【0048】
さらに、本発明において、潜在捲縮繊維を糸長方向に太細差を有する繊維とすることで、梳毛調の風合いと自然な外観を有する布帛を得ることができる。
なお、本発明の潜在捲縮複合繊維の総繊度は30〜250dtex、単糸繊度は2〜15dtexの範囲が衣料用途での加工性、実用性の面から好ましい。
【0049】
以上に説明した本発明の潜在捲縮複合繊維は、前述の方法で得られた固有粘度の異なる2種のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを各々常法で乾燥し、2基の溶融押出機(スクリューエクストルーダー)を装備した通常の複合紡糸設備で溶融し、公知のサイドバイサイド型複合紡糸口金(中空複合繊維の場合は中空形成性吐出孔を穿設した紡糸口金を使用する)を用いて、2種のポリマー流を複合し、冷却、固化後、油剤を付与して紡糸引き取りし、延伸することで製造することができる。このとき紡糸引き取りし、一旦未延伸糸として巻き取った後、延伸を別途行っても良く、紡糸引き取り後、一旦巻取ることなく、連続して延伸を行っても良い。溶融紡糸温度は、270〜295℃の範囲が、紡糸安定性の観点より、好ましい。紡糸引き取り速度および延伸倍率は、潜在捲縮複合繊維の強度が1.5〜5.0cN/dtexの範囲、伸度が30〜70%の範囲となるように適宜設定する。延伸予熱温度は、80〜100℃が好ましい。
なお、前述したように、糸長方向に太細差を有する潜在捲縮複合繊維とする方法としては、未延伸糸を自然延伸倍率以下で斑延伸する方法が好ましく採用される。
【0050】
本発明においては、織編物などの布帛にする前に、潜在捲縮複合繊維に、100〜5000T/m、好ましくは300〜3000T/mの撚りを施すことが、捲縮を強調してハリ、コシのある風合いを得やすいという点から好ましい。
【0051】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、これを織編物などの布帛とし、精錬、染色などの熱処理を行なって捲縮を顕在化させ、風合が優れた布帛とすることができる。この際、布帛のスパンデックス法でのストレッチ率が20%以上であることが、風合いの点でより好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
ポリエステルチップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0053】
(2)17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率(TC−2)
検尺機を用いて潜在捲縮性繊維をカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作る。カセ作成後、カセの一端に0.00176cN/dtex+0.176cN/dtex(2mg/デニール+200mg/デニール)の荷重をかけてスタンドに吊り、1分間経過後の長さL0(cm)を測定する。次いで、0.176cN/dtex(200mg/デニール)の荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理する。沸水処理後0.00176cN/dtex(2mg/デニール)の荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥する。自然乾燥した試料に、再び0.00176cN/dtex+0.176cN/dtex(2mg/デニール+200mg/デニール)の荷重を負荷し、1分間経過後の長さL1(cm)を測定する。次いで、0.176cN/dtex(200mg/デニール)の荷重を除去し、1分間経過後の長さL2を測定し、次の算式で捲縮率を算出した。この測定を10回実施し、その平均値で表した。
TC−2(%)=[(L1−L2)/L0]×100
なお、測定は10回行い、その平均値を求めた。
【0054】
(3)1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率(TC−0.2)
検尺機を用いて潜在捲縮性繊維をカセ枠に巻き取り、約2200dtexのカセを作る。カセ作成後、カセの一端に1.5μN/dtex(1/6000g/デニール)の荷重をかけスタンドに吊り30分間放置し、次いでこの状態を維持したまま沸水中に入れ30分間処理する。その後、30分間風乾し、1/500(g/デニール)の荷重をかけ、長さ(a)を測定する。次に、1/500(g/デニール)の荷重をはずした後、1/20(g/デニール)の荷重をかけて、その長さ(b)を測定する。そして、次の式によって捲縮率を算出した。この測定を10回実施し、その平均値で表した。
TC−0.2(%)=[(b−a)/b]×100
【0055】
(4)貼り合わせ面積比
潜在捲縮複合繊維を任意の繊維横断面方向に切り取り、市販の顕微鏡にて倍率750倍で繊維横断面を写真撮影し、構成単糸横断面全てについて、2種のポリエステル横断面が各々占める面積を測定し、その比率(高粘度成分占有面積/低粘度成分占有面積)を「貼り合わせ面積比」(測定した全単糸横断面についての平均値)とした。
【0056】
(5)中空率(%)および中空率のばらつき
前項のポリエステル複合繊維断面顕微鏡写真で、各単糸断面の中空部面積(A)および断面を囲む面積(B)を測定し、下記式で計算し、測定した全単糸横断面についての平均値を中空率(%)とした。
中空率(%)=A/B×100
また、測定値の変動率(標準偏差/平均値×100)を中空率のばらつきとした。
【0057】
(6)ポリマー中の真比重5.0以上の金属成分定性分析:
ポリマーサンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、理学製ICP発光分析装置(JY170 ULTRACE)を用いて定性分析し、真比重5.0以上の金属元素の存在の有無を確認した。1重量ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
【0058】
(7)ポリマー中のポリエステルに可溶性のチタン、リン含有量:
ポリマー中のポリエステルに可溶性のチタン元素量、リン元素量は粒状のポリマーサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。ただし、艶消剤として酸化チタンを添加したポリエステル組成物中のチタン元素量については、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z-8100形原子吸光光度計を用いて定量を行った。ここで0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作によりポリエステル組成物中に酸化チタンを含有していてもポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。
【0059】
(8)色相(L値、a値、b値)
ポリエステルチップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、1時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL及びbを、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。Lは明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、bはその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
【0060】
(9)強度・伸度
JIS−L1013に準拠して測定した。
【0061】
(10)ストレッチ率
潜在捲縮性繊維を経糸および緯糸に用い、常法により2/2綾組織、トータルカバーファクター2000に製織、染色した5cm×10cmの試験片を、自動記録装置付き引張試験機を用いて初荷重20gをかけてつかみ、引張速度30cm/分で1.5kg定荷重まで伸ばした後、直ちに同速度でもとの位置に戻し、荷重―伸長曲線を描く。ストレッチ率は、上記の1.5kg定荷重まで伸ばした後、直ちに同速度でもとの位置に戻す寸前の、伸長距離をLcm(0.01cmまで)とするとき、次式で表わされる。
ST=[L/10]×100(%)
このストレッチ率が20%以上を合格とした。
【0062】
(11)布帛風合い及び外観
潜在捲縮性繊維を常法により2/2綾組織、トータルカバーファクター2000に製織、染色した織物について、ハリ、コシ、反発感、外観(欠点有無)といった観点から、熟練者5名により、「優」、「良」、「不良」の三段階にランク付けを行い、その平均値から算出した。
【0063】
(12)加工工程での取扱い性
延伸糸を解舒して巻き返す工程、撚糸する工程において、糸の捲縮が原因で糸導ガイド等に引っ掛かって張力変動を起こす頻度を調査し、張力変動の少ない場合を「良好」、多い場合を「不良」とした。
【0064】
[参考例1]整色剤(整色用色素)の可視光吸収スペクトル測定、整色剤調製
整色剤としてC.I.Solvent Blue 45(Clariant Japan社製)とC.I.Solvent Violet 36(有本化学社製)の2種類の整色剤を重量比2:1で濃度20mg/Lのクロロホルム溶液とし、光路長1cmの石英セルに充填し、対照セルにはクロロホルムのみを充填して、日立分光光度計U−3010型を用いて、380〜780nmの可視光領域での可視光吸収スペクトルを測定した。また、最大吸収波長とその波長における吸光度に対する、400、500、600及び700nmの各波長での吸光度の割合を測定した。
結果、可視光領域での最大吸収波長は580nmであり、各波長での吸光度の割合は、400nmでは0.10、500nmでは0.41、600nmでは0.76、700nmでは0.00であった。
【0065】
[参考例2]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2重量%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0066】
[実施例1]
・低粘度成分のポリエステルチップの製造
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、参考例2で調製したチタン触媒A 0.016部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に酸化チタンの20%エチレングリコールスラリー1.5部、参考例1で調製した整色剤の0.1重量%エチレングリコール溶液0.2部を添加して重合容器に移し、280℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。得られたポリエステルは固有粘度0.43、ジエチレングリコール含有量が0.7重量%、カラーLは72、bは2であった。
【0067】
・高粘度成分のポリエステルチップの製造
テレフタル酸ジメチル90部とエチレングリコール55部の混合物に酢酸マンガン四水和物0.038部を加えて140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、イソフタル酸8.6部を加えて20分間保持した後、リン酸トリメチル0.025部、三酸化アンチモン0.045部、酸化チタンの20%エチレングリコールスラリー1.5部を加えて重合容器に移し、290℃まで昇温しながら30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行ってポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。得られたポリエステルは固有粘度0.64、ジエチレングリコール含有量が0.7重量%、カラーLは71、bは5であった。
【0068】
・潜在捲縮性複合繊維の製造
上記の固有粘度0.43のポリエステルチップと、固有粘度0.63のイソフタル酸を10mol%共重合したポリエステルとを、常法で乾燥した後、2基の溶融押出機(スクリュウーエクストルーダー)を装備した複合紡糸機に導入し、溶融し、280℃に保たれたスピンブロックに装備された複合紡糸パックに導入し、複合紡糸口金にて2つのポリマー流を貼り合わせ重量比が50/50のサイドバイサイド型(中空率1%の繊維横断面)となるように複合しつつ吐出し、冷却・固化し、油剤を付与して、1450m/minの速度で紡糸引き取りし、291dtex/24filamentsの未延伸糸を得た。該未延伸糸を、予熱温度90℃、延伸倍率2.64倍で延伸しつつ、非接触型ヒーターにて230℃で熱セットして600m/minで巻取り、110dtex/24filamentsのポリエステル潜在捲縮性複合繊維を得た。
この潜在捲縮性繊維を経糸および緯糸に用い、常法に従い撚数S1200T/mに撚糸した後、2/2綾組織、トータルカバーファクター2000に製織、染色し、織物を得た。
【0069】
本例においては、紡糸、延伸の工程で特に断糸などのトラブルは少なく安定に製造することができ、表2に示す通り、潜在捲縮性繊維の捲縮特性は低荷重下、高荷重下それぞれで良好なものとなった。織物のスパンデックス法でのストレッチ率は表1に示す如く、29%と充分な値を示し、風合いもハリ、コシに富んだ特徴あるものとなり、また、延伸糸の状態での捲縮の顕在化は弱く、解舒して取り扱う際に特段の問題は発生せず、布帛の欠点も見当たらなかった。
【0070】
[実施例2〜4、比較例1]
紡糸速度、延伸倍率、熱セット温度を表2のように変更し、物性を変化させた以外は実施例1と同様にした。結果、実施例2〜4では紡糸、延伸の工程で特に断糸などのトラブルは少なく安定に製造することができ、表2から明らかなように、織物のストレッチ率、風合い、外観、加工工程での取扱い性を全て満足する結果となった。
一方、比較例1では、伸度が低く、加工工程の中で繊維の破断や部分破断による毛羽などの不具合が頻発し、取扱い性が悪かった。また、これが原因で繊維に欠点が多く、外観が良くなかった。
【0071】
[実施例5]
実施例1と同様に未延伸糸を得た後、該未延伸糸を、2本の糸導ガイドにて糸導を屈曲させて張力変動を加えながら、予熱温度78℃、延伸倍率2.4倍で延伸しつつ、接触型ヒーターにて170℃で熱セットして600m/minで巻取り、120dtex/24filamentsのポリエステル潜在捲縮性太細斑複合繊維を得た。これを実施例1と同様に撚糸、製織、染色し、織物を得た。本例では、紡糸、延伸の工程で特に断糸などのトラブルは少なく安定に製造することができ、表2から明らかなように、織物のストレッチ率、風合い、外観、加工工程での取扱い性を全て満足する結果となった。
【0072】
[実施例6、7]
潜在捲縮性複合繊維の繊度及びフィラメント数を56dtex/12filaments、220dtex/48filamentsとしたこと以外は実施例1と同様にした。いずれの例でも、紡糸、延伸の工程で特に断糸などのトラブルは少なく安定に製造することができ、表2から明らかなように、織物のストレッチ率、風合い、外観、加工工程での取扱い性を全て満足する結果となった。
【0073】
[比較例2]
低粘度側ポリエステルとして、3酸化アンチモン(Sb)を重合触媒として、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを常法にて重縮合し、固有粘度0.43のポリエステルを得たこと以外は実施例1と同様にした。本例では、低粘度成分が低荷重下熱処理により低収縮化しすぎて高粘度成分との収縮差が大きくなり、高い捲縮を示すと共に延伸糸の段階で捲縮の顕在化が強くなりすぎ、解舒、撚糸時の張力変動が大きく、取扱い性が悪かった。また、これが原因で繊維に欠点が多く、外観が良くなかった。
【0074】
[比較例3]
低粘度側ポリエステルの固有粘度を0.55とし、高粘度側ポリエステルとの固有粘度差を0.08としたこと以外は実施例1と同様にした。本例では、サイドバイサイド繊維を構成する2種類のポリエステルの固有粘度差が小さいことから、低荷重下および高荷重下のいずれの熱処理においても捲縮の発現が弱く、布帛のストレッチ率が低く、ハリ、コシ、反発感に欠ける風合いとなった。
【0075】
[比較例4]
低粘度側ポリエステルに、参考例1で調製した整色剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にした。本例では、チタン化合物とリン化合物とを含む触媒との相互作用が無いことから、低粘度成分が低荷重下熱処理により低収縮化しすぎて高粘度成分との収縮差が大きくなり、高い捲縮を示すと共に延伸糸の段階で捲縮の顕在化が強くなりすぎ、解舒、撚糸時の張力変動が大きく、取扱い性が悪かった。また、これが原因で繊維に欠点が多く、外観が良くなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、製糸性、高次加工性に優れたポリエステル潜在捲縮性複合繊維を提供することができる。また、上記潜在捲縮性複合繊維からは、十分なストレッチ性能、および、ハリ、コシといった風合いや欠点の少ない外観を有するポリエステル布帛を得ることができる。このため、本発明のポリエステル潜在捲縮性複合繊維は、該繊維やそれからなる布帛の生産性に優れるだけでなく、該繊維からは付加価値の高い製品を製造することができ、その産業的価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度の異なる2種類のポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合されている潜在捲縮性複合繊維であって、高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分との固有粘度の差が0.1〜0.4の範囲にあり、且つ下記(a)〜(d)の要件を同時に満足していることを特徴とするポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
(a)17.6μN/dtexの荷重下、沸水20分処理後の捲縮率が1.5%以上25%未満
(b)1.5μN/dtexの荷重下、沸水30分処理後の捲縮率が30%以上50%未満
(c)強度が1.5cN/dtex以上
(d)伸度が30%以上70%以下
【請求項2】
高粘度ポリエステル成分が、イソフタル酸を5%以上15%以下共重合したポリエステルである請求項1記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項3】
低粘度ポリエステル成分が、真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppm以下であり、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にある有機化合物系整色剤を0.1〜10重量ppm含有するポリエステルである請求項1または2記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項4】
有機化合物系整色剤が、最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤である請求項3記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600、A700はそれぞれ400nm、500nm、600nm、700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【請求項5】
低粘度ポリエステル成分が、チタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られたポリエステルである請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項6】
チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、リン化合物が一般式(III)で表される化合物である請求項5記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【化1】

(上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。)
【化2】

(上記式中、nは2〜4の整数を表わす)
【化3】

(上記式中、R、R及びRは、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。)
【請求項7】
ポリエステル中に含有されるチタン金属元素とリン元素のモル比率が下記数式(5)及び(6)を満たす請求項3〜6のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
1≦P/Ti≦15 (5)
10≦P+Ti≦100 (6)
[上記数式中、Pはポリエステル組成物中に含有されるリン元素の濃度(ミリモル%)を、Tiはポリエステル組成物中に含有されるポリエステルに可溶なチタン金属元素の濃度(ミリモル%)を表す。]
【請求項8】
2種類のポリエステルの貼り合わせ重量比(高粘度ポリエステル成分/低粘度ポリエステル成分)が40/60〜60/40である請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項9】
複合繊維の糸長方向に太細差を有する請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項10】
複合繊維の任意の横断面において、全横断面面積に対し0.5〜15%の面積を占める中空部が存在する、請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリエステル潜在捲縮性複合繊維を製織編し、これを熱処理した織編物であり、且つストレッチ率が20%以上である織編物。

【公開番号】特開2006−183163(P2006−183163A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376089(P2004−376089)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】