説明

ポリエステル系複合構造加工糸及びそれを用いた布帛

【課題】着用時に快適で、且つ、運動等による発汗時のベタツキ感や運動後の冷え感を軽減するとともに、優れた速乾性を有する布帛に適した複合構造加工糸、及び該複合構造加工糸を少なくとも一部に用いて製造された布帛を提供する。
【解決手段】2種類のポリエステル系マルチフィラメントからなる芯鞘型複合構造加工糸であって、捲縮伸長率が1%以下であるポリエステル系マルチフィラメントが芯部を形成し、捲縮伸長率が2%以上で、凹部を有する単糸断面の扁平度が2.0〜4.0の扁平ポリエステル系マルチフィラメントが鞘部を形成し、該複合構造加工糸の沸水収縮率が4%以下であり、交絡数が50〜200個/mである部分交絡を有するポリエステル系複合構造加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル系複合構造加工糸に関する。より詳細には、ソフトな風合いを有し、且つ、拡散性および速乾性に優れた衣料用途に好ましい複合糸を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスポーツウェア等の衣服は、運動等により発汗した際には布帛が吸汗し、肌と衣服が密着し、いわゆるベタツキ感や運動後の冷え感を生じる。これを防止するための方法として汗を布帛内で拡散させることによって布帛の乾燥速度を上げ、布帛内に留まる汗を少なくすることが有効であり、種々の布帛が開発されているが、布帛構造のみでは吸汗時の快適性に限界があり、これを解消するために使用する繊維の検討が進められている。
【0003】
その中でも2種以上のポリエステル系繊維を複合糸として使用した布帛が各種提案されている。例えば、特許文献1には単糸繊度、単糸断面形状の異なる2種のポリエステルマルチフィラメント糸を流体噴射加工により糸長方向に連続交絡を有する複合糸とすることで、拡散性を大きくし、且つ複合糸内の含水率を少なくすることにより、速乾性が向上する布帛が提案されているが、連続交絡により交絡数が無数にあり、その結果、糸が絞まり、風合いが硬くなることや、拡散性が阻害され、十分な速乾性が得られない。
【0004】
また、特許文献2には沸水収縮率を異ならせたポリエステルマルチフィラメント糸を延伸同時仮撚加工した後に流体噴射加工により糸長方向に部分交絡させた芯鞘構造複合糸が、特許文献3には芯部に捲縮を有しない沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントを、鞘部に単糸繊度が小さく、沸水収縮率が芯部よりも小さいポリエステルマルチフィラメント仮撚糸を有し、流体噴射加工により糸長方向に部分交絡させた芯鞘構造複合糸が、それぞれ開示されている。これらの文献に開示された複合糸はソフト風合いやバルキー性は得られる。しかし、拡散性や速乾性については考慮されておらず、風合改良のために芯鞘とも仮撚捲縮が付与されていることから水分を保持しやすく、拡散性や速乾性が劣ると考えられる。
これらのように、ソフトな風合いと十分な速乾性や拡散性を有する複合糸は見当たらないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−218146号公報
【特許文献2】特開平4−73231号公報
【特許文献3】特許第3329406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、着用時に快適で、且つ、運動等による発汗時のベタツキ感や運動後の冷え感を軽減するとともに、優れた速乾性を有する布帛に適した複合糸、及び該複合糸により製造された布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究した結果、複合糸の芯部に捲縮伸長率が低い糸を、鞘部に凹部を有する単糸断面で特定の捲縮伸長性を有する糸をそれぞれ用い、部分的に交絡させた複合構造加工糸を使用した布帛により、上記課題が達成されることを見出した。
【0008】
すなわち、本願で特許請求される発明は以下の通りである。
(1)2種類のポリエステル系マルチフィラメントからなる芯鞘型複合構造加工糸であって、捲縮伸長率が1%以下であるポリエステル系マルチフィラメントが芯部を形成し、捲縮伸長率が2%以上で、凹部を有する単糸断面の扁平度が2.0〜4.0の扁平ポリエステル系マルチフィラメントが鞘部を形成し、該複合構造加工糸の沸水収縮率が4%以下であり、交絡数が50〜200個/mである部分交絡を有することを特徴とするポリエステル系複合構造加工糸。
(2)鞘部を形成する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの捲縮伸長率が2〜10%であることを特徴とする上記(1)に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
(3)鞘部に使用する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度が1.0〜3.0dtex、単糸断面がW型断面であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
(4)芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度が2.0〜3.0dtex、単糸断面の扁平度が1.2以下、ヤング率が80cN/dtex以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載された複合構造加工糸を少なくとも一部分に用いた布帛。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合構造加工糸を使用すれば、ソフトな風合を有し着用時に快適で、且つ、運動等による発汗時のベタツキ感や運動後の冷え感を軽減するとともに、優れた速乾性を有する布帛が製造可能で、スポーツウェア、インナーおよびアウターなどの衣服を製造した時に、快適な着用感が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、ポリエステル系マルチフィラメントとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレート等からなるマルチフィラメントが挙げられ、また、常圧可染性ポリエステル系マルチフィラメントおよびカチオン可染性ポリエステル系マルチフィラメント等を用いてもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤および消泡剤等が含有されていてもよい。その中でも取り扱い性等の点から、ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステルマルチフィラメントを使用することが好ましい。
【0011】
本発明の複合構造加工糸(以下、単に複合糸と記載することがある)は、以下に示す、捲縮性の異なる2種類のポリエステル系マルチフィラメントからなり、芯鞘型構造をとることを特徴とする。拡散性および速乾性の点で、マルチフィラメントであることが必要であり、捲縮性の異なる2種類の糸が芯鞘型構造を取ることによって適度なフクラミ感とソフト感を発現できる。モノフィラメントや、紡績糸等の短繊維を使用すると、拡散性および速乾性が劣ることがある。また芯鞘型構造でなければ、フクラミ感やソフト感が劣ることがある。
【0012】
本発明の複合構造加工糸は沸水収縮率が4%以下であることを特徴とする。好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%である。沸水収縮率が4%以下であれば、生地加工における熱処理において生地の収縮が抑制され、ソフトな風合いを保つことができる。後述する糸使いおよび複合方法を選択することによって、沸水収縮率を好適に保つことができる。なお、複合構造加工糸の沸水収縮率は下記条件にて測定したものである。
【0013】
複合構造加工糸を、張力0.088cN/dtexで枠周1mの検尺機にて10周巻取り、小綛にし、小綛下端に1.77×10-3cN/dtexの荷重をかけたときの長さ(A)を測定する。次いで、1.77×10-3cN/dtexの荷重を取り外し、完全にフリーの状態で、沸騰水内に投入し、30分処理する。その後、脱水し、20℃、60%RH環境下にて24時間放置する。次いで、小綛下端に1.77×10-3cN/dtexの荷重をかけたときの長さ(B)を測定し、下記式(1)により沸水収縮率を求める。
沸水収縮率(%)=((A−B)/A)×100 (1)
【0014】
本発明の複合構造加工糸は、50〜200個/mの部分交絡を有することを特徴とする。好ましくは80〜170個/mである。交絡数が50個/m未満では、編成時のガイド等での摩擦により、スラブ調となって外感や風合いが損なわれたり、編性時の張力により交絡部が外れたりすることがある。交絡数が200個/mを越えると、大きな圧気により単糸が切れたり、交絡部が多すぎることにより風合いが硬くなることがある。このような交絡数とするためには、例えば後述する流体噴射加工において、部分交絡させる条件を取ることが好ましい。なお、複合構造加工糸の交絡数は下記の方法で測定したものである。
【0015】
複合構造加工糸を約50cmの長さでサンプリングし、下端に0.088cN/dtexの荷重を掛け、垂直に吊り下げる。この状態で30cm間にマーキングする。マーキングした上部に虫ピンを複合糸内に差し入れ、ゆっくりと下へ降ろしていく。その過程で交絡により針が止まる箇所の個数を測定し、1mあたりに換算した値を交絡数として求める。
【0016】
本発明の複合構造加工糸の芯部を形成するポリエステル系マルチフィラメントは、捲縮を有していないか、微小捲縮であり、具体的には捲縮伸長率が1%以下であることを特徴とする。捲縮伸長率が1%を超えると、単糸間に水分を保持しやすくなり、拡散性および速乾性が悪くなることがある。このような捲縮伸長率であるために、芯部に使用する糸として無捲縮または微捲縮の糸を用い、複合加工時に捲縮発現させない条件を取ることが好ましい。なお、複合構造加工糸の芯部を形成するポリエステル系マルチフィラメント糸の捲縮伸長率は、下記条件にて測定したものである。
【0017】
複合構造加工糸を、糸張力0.088cN/dtexで枠周1mの検尺機にて10周巻取り、小綛にし、小綛下端に0.26×10-3cN/dtexの荷重をかけたまま乾燥機にて90℃×15分の乾熱処理を行う。処理終了後、0.26×10-3cN/dtexの荷重を取り外し、20℃、60%RH環境下にて24時間放置する。次いで、小綛の中から、複合構造加工糸1本を30cm採取し、複合糸内の2種のマルチフィラメントから、測定するマルチフィラメントとは違うマルチフィラメントの交絡していない箇所を全て切断する(例えば、芯部に位置するマルチフィラメントの捲縮伸長率を測定する場合は、鞘部に位置するマルチフィラメントを切断する)。その後、上端を固定し、下端に1.77×10-3cN/dtexの荷重をかけ、30秒後の長さ(A)を測定する。次いで、1.77×10-3cN/dtexの荷重を取り外し、0.088cN/dtexの荷重をかけ、30秒後の長さ(B)を測定し、下記式(2)により捲縮伸長率を求める。
捲縮伸長率(%)=((B−A)/A)×100 (2)
【0018】
本発明の複合構造加工糸の芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの単糸断面形状は任意で、丸型でもよいし、三角、L型、T型、Y型、W型、H型、♯型、八葉型、およびドッグボーン型等の異型状のものや、これらの糸に中空部を有するものや、めがね型等のものを用いることができる。中でも、単糸断面形状が丸断面のものが好ましく、更に単糸断面の扁平度は1.2以下が好ましい。丸断面であり、且つ、単糸断面の扁平度が1.2以下のものは、水が保持されるような凹部がないため、拡散性および速乾性が良好となる。本発明において扁平度とは、電子顕微鏡等で撮影した断面写真の単糸断面に外接する長方形を書き、この長方形の長辺Lを短辺Hで割った値(L/H)をいう。
【0019】
本発明の複合構造加工糸の芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度は衣料等で一般的に使用されている範囲のものを用いることができるが、その中でも単糸繊度が2.0〜3.0dtexのものが好ましい。単糸繊度が2.0dtex未満では、ソフトな風合いは得られるが、単糸間に水を保持しやすくなり、速乾性が悪くなることがある。単糸繊度が3.0dtexを超えると、風合いが硬くなることがある。なお、単糸繊度は、マルチフィラメントの総繊度/マルチフィラメントの単糸数で計算したものである。
【0020】
本発明の複合構造加工糸の芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントのヤング率は衣料等で一般的に使用されている範囲のものを用いることができるが、その中でもヤング率が80cN/dtex以下であることが好ましい。ヤング率が80cN/dtexを越えると、生地にしたときのハリ、コシが強くなりすぎ、結果的には硬い風合いのものになる。なお、芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントのヤング率は、JIS−L−1090に準じて測定したものである。
【0021】
本発明の複合構造加工糸の鞘部を形成する扁平ポリエステル系マルチフィラメントは、捲縮伸長率が2%以上であることを特徴とする。その中でも捲縮伸長率が2〜10%であることが好ましい。捲縮伸長率が2%未満では、拡散性および速乾性は良くなるが、風合いが原糸風となり、硬さが残ることがある。捲縮伸長率が10%を超えると、捲縮による単糸間の隙間の水保持量が多くなり、拡散性および速乾性が不良となることや、フカツキ感が出ることがある。鞘部を形成する糸の捲縮伸長率は、複合構造加工糸の芯部を形成する糸の場合と同様にして測定することができる。
【0022】
本発明の複合構造加工糸の鞘部に使用するポリエステル系マルチフィラメントは、単糸の扁平度が2.0〜4.0であることを特徴とする。このような扁平断面であることにより、ソフトな風合いの複合構造加工糸が得られる。単糸の扁平度が2.0未満では、風合いが硬くなり、単糸の扁平度が4.0を越えると、ソフトな風合いは得られるが、製糸段階において、紡糸が不安定になることがある。複合構造加工糸の鞘部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの単糸の扁平度は、芯部に使用する糸の場合と同様にして測定することができる。
【0023】
本発明の複合構造加工糸の鞘部に使用する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの断面形状は、凹部を持った異型であることを特徴とする。単糸の断面形状としては、丸、三角、多角形等に凹部を形成したものや、L型、T型、Y型、W型、H型、♯型、八葉型およびドッグボーン型等の異型状のもの、これらの糸に中空部を有するものや、めがね型等のものを用いることができる。中でも、単糸断面形状がW型断面のものが好ましい。W型断面は糸の凹部に水が保持され、吸水性や濡れ戻り性が良好となる。又、単糸断面が扁平であることから、よりソフトな風合いが得られる。
【0024】
本発明の複合構造加工糸の鞘部に使用する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度は衣料等で一般的に使用されている範囲のものを用いることができるが、その中でも単糸繊度が1.0〜3.0dtexのものが好ましい。単糸繊度が1.0dtex未満では、ソフトな風合いは得られるが、単糸間に水を保持しやすくなり、拡散性および速乾性が悪くなることがある。単糸繊度が3.0dtexを超えると、風合いが硬くなることがある。
【0025】
なお、複合構造加工糸の鞘部を形成する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度は、複合構造加工糸の断面写真と単糸繊度が明確な他のポリエステル系マルチフィラメントの断面写真を撮影し、その写真を20倍に拡大コピーした後、20℃、60%RH環境下で24時間調湿する。その後断面形態に沿って切り、重量を測定し、単糸繊度が明確な他のポリエステル系マルチフィラメントの重量から求める。
【0026】
本発明の複合構造加工糸における芯部及び鞘部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの繊度は任意のものが使用できるが、その中でも30〜167dtexが好ましく、更に好ましくは56〜110dtexである。複合構造加工糸の繊度も任意であるが、60〜200dtexであることが好ましく、更に好ましくは89〜167dtexである。又、芯部と鞘部の構成比率においても任意に設定できるが、複合糸全体の芯部の占める割合が15〜85重量%が好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル系マルチフィラメントと扁平ポリエステル系マルチフィラメント加工糸を複合する方法としては、芯部を構成する糸に捲縮がかからない方法であれば良く、流体噴射加工およびエアカバリング等の方法を用いることができる。その中でも2種類のフィラメント間や単糸間に水を保持せず、拡散性および速乾性を向上させるためには、流体噴射加工が好ましい。更に、流体噴射加工により、前述の好ましい交絡数であるように部分交絡できる部分交絡用流体噴射ノズルを使用することが好ましい。部分交絡させるための流体噴射加工時のフィード率は1〜10%が好ましく、又、流体噴射加工時の圧力は0.1MPa〜0.7MPaの範囲で使用でき、好ましくは0.1Pa〜0.3MPaである。
【0028】
本発明の芯鞘型複合構造加工糸とする方法としては、2種の沸水収縮率のことなるポリエステル系マルチフィラメントを引き揃えて同じフィード率で混繊した加工糸を、布帛にした後、布帛加工時の熱により、マルチフィラメントの収縮差を利用し芯鞘型にする方法や、混繊時のフィード率を各々のポリエステル系マルチフィラメントに対して設定し、フィード差を利用し芯鞘型にする方法、この両方を組み合わせた方法等がある。この中でも混繊時のフィード差を利用する方法であると、鞘側に配置するマルチフィラメントが芯側に配置するマルチフィラメントの沸水収縮率よりも大きくても、収縮する量以上にフィード率を設定すれば鞘側に配置可能になることから、所望のマルチフィラメントを配置することができるので好ましい。
この場合、鞘側に配置する扁平ポリエステル系マルチフィラメント加工糸のフィード率を、芯側に配置するポリエステル系マルチフィラメント糸より0.5〜30%大きくすることができる。その中でも1〜10%が好ましい。フィード差が1%未満では、2種のポリエステル系マルチフィラメントの沸水収縮率差が1%よりも大きい場合、生地加工時の熱処理において、芯部と鞘部の構成が逆転することがあり、ソフトな風合いや拡散性および速乾性が不良となることがある。フィード差が10%以上では、芯部と鞘部の糸長差が大きくなりすぎ、その隙間に水が保持され、拡散性、速乾性が不良となることがある。
【0029】
本発明のおける複合糸の製造方法としては、仮撚機を使用して、鞘部を構成する糸に仮撚加工を施してから芯部を構成する糸と流体混繊加工を連続的に行う方法や、別途用意した鞘部を構成する加工糸を流体混繊加工機を使用して芯部を構成する糸と複合する方法があげられる。その中でも仮撚加工後に流体混繊加工を連続的に行うのが好ましい。仮撚加工方法としては一般に用いられているピンタイプ、ディスクフリクションタイプ、ニップベルトタイプおよびエアー加撚タイプ等どの方法でもよい。また、ヒーターについては1ヒーター仮撚法および2ヒーター仮撚法のどちらでもよいが、捲縮による水の保持を防ぐためには2ヒーター仮撚法が好ましい。
【0030】
本発明における複合構造加工糸の鞘部を構成する糸の仮撚加工において、第1ヒーター温度は120〜230℃が好ましい。230℃より高いとポリエステル系繊維の融着や著しい強度低下および糸切れが発生することがあり、120℃未満では捲縮性が低くなりすぎ、風合いが硬くなることがある。仮撚数においては一般に用いられる範囲でよく、下記式にて算出される。この場合、仮撚数の係数Kの値が13000〜37000の範囲であることが好ましい。
仮撚数(T/M)=K/(仮撚糸の繊度(dtex))1/2
【0031】
延伸倍率については、走行性や加工性に支障をきたさない範囲で、加撚張力として10〜30cN/dtexが好ましい。第2ヒーター温度は100〜200℃が好ましく、200℃より高いと捲縮性が大幅に低下し、風合いが硬くなる。100℃未満では捲縮性が高いため、水を保持しやすくなり、拡散性および速乾性が不良となることがある。
【0032】
本発明における布帛とは、織物又は編物のことをいう。織物組織としては、平織、ツイル織、サテン織、経二重織、緯二重織およびドビー織等の組織を使用できるが、これに限定されるものではない。織密度としては、経密度60〜350本/インチ、緯密度60〜150本/インチが好ましい。編物組織としては、横編、丸編、経編等のどのような組織でもよい。編みゲージは18〜38ゲージが好ましい。
【0033】
本発明の布帛は、本発明の複合構造加工糸を少なくとも一部に用いていれば良く、100%使用したものでもよい。本発明の複合糸を一部に使用した布帛は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の繊維および加工糸等を併用してもよい。この場合、本発明の複合糸を10重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは20重量%以上である。本発明の複合糸の含有率が大きいほど、本発明の特徴である拡散性および速乾性が向上する。
【0034】
本発明の複合構造加工糸を含む布帛の染色加工方法は、糸状態および布帛状態とも通常の染色仕上げ工程が使用でき、使用する染色機も複合糸状態での加工はチーズ染色機の使用、布帛状態での加工は液流染色機およびウインス染色機等、任意な染色機の使用ができる。又、布帛状態での加工において、仕上げセットは布帛乾燥時に皺になったり、突っ張ったりしないように仕上げればよい。また、仕上げ剤として吸水剤の付与を行うと、より吸水性が向上し、好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例における評価は以下の方法により測定した。
(1)拡散性
住友化学社製の反応染料「Sumifix Brilliant Blue」を水100gに対して0.05g溶解させた染液を20℃65%RH下の環境で、マイクロピペットを使用し、アクリル板上に0.1cc水玉状に乗せる。その上に同環境で24時間調湿した布帛から採取した、10cm×10cmの試料を肌面が下になるようにし、染液上に静かに載せる。その後、乾燥後の染液が拡散された面積を測定する。拡散面積は楕円状に拡散されたと仮定して、タテ方向の拡散長さとヨコ方向の拡散長さから(π/4)×(タテ長さ×ヨコ長さ)として求める。拡散面積が15cm2以上であると、発汗時のベタツキ感が低く、早く乾き、快適となる。
【0036】
(2)速乾性
20℃65%RH下の環境において、同環境下で24時間調湿した布帛から採取した、10cm×10cmの試料の重量を測定する。その後、電子天秤上に試料を肌面が上になるように置き、マイクロピペットを使用し、試料上に水0.1ccを滴下する。その後、生地重量が(生地重量+0.01g)よりも低くなるまでの時間を測定する。乾燥時間が20分以下であると、布帛が汗を吸い上げても着用段階で早く乾き、汗冷えが少なく、快適である。
【0037】
(3)風合い
得られた布帛をハンドリングにて、以下の基準で判定する。
○:軟らかい
△:やや軟らかい
×:硬い
【0038】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと記載)からなる扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度2.3dtex)を、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度500m/分、延伸倍率1.050倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度180℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、第2ヒーター前で、HEBERLEIN社製インターレースノズルP142を用い、エア圧力0.2MPaおよび第2ヒーター温度150℃にてPETからなるポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率68.8cN/dtex)と混繊する。混繊時のフィード率は、扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f仮撚糸は7.0%、ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fは0%とし、90dtex/42fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は2.0%、交絡数は130個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fの捲縮伸長率は8.2%であった。得られた複合構造加工糸を福原精機社製28ゲージダブル丸編機にて、本発明の複合構造加工糸100%のスムース編地を作成した。この生機を液流染色機にて80℃×20分で精練した後、水洗した。次いで、ピンテンターにて幅出し率20%、長さ出し率0%で180℃×90秒のプレセットを行った。その後、液流染色機にて130℃でポリエステル染色し、水洗を行った後に、高松油脂社製吸水加工剤SR−1000を4%owfで吸水加工し、ピンテンターにて編地のしわが取れる程度に伸長し、150℃×90秒のファイナルセットを行い、布帛を得た。得られた布帛はソフトな風合と優れた拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
PETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント58dtex/24f(扁平度2.2、めがね型中空断面、単糸の中空率30%、単糸繊度2.4dtex)を、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度500m/分、延伸倍率1.030倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度165℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、実施例1と同じポリエステルマルチフィラメントを用い、同じ混繊条件にて112dtex/48fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は2.1%、交絡数は105個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント58dtex/24fの捲縮伸長率は6.1%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成後、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛は拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、扁平ポリエステルマルチフィラメントを仮撚後、混繊する糸種をPETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント58dtex/24f(扁平度2.2、めがね型中空断面、単糸の中空率30%、単糸繊度2.4dtex、ヤング率73.6cN/dtex)にしたこと以外は同じ混繊条件にて92dtex/48fの複合構造加工糸を得た。この複合糸の沸水収縮率は3.6%、交絡数は110個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント58dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fの捲縮伸長率は8.2%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛はソフトな風合と優れた拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
実施例1において、扁平ポリエステルマルチフィラメントを仮撚後、混繊する糸種をPETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度1.9dtex、ヤング率77.8cN/dtex)にし、この扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30fの混繊時のフィード率を5%としたこと以外は同じ混繊条件にて92dtex/48fの複合構造加工糸を得た。この複合糸の沸水収縮率は3.2%、交絡数は158個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fの捲縮伸長率は8.2%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛はソフトな風合と拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0042】
[実施例5]
実施例1において、扁平ポリエステルマルチフィラメントを仮撚後、混繊する糸種をPETからなるポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率84.0cN/dtex)にし、この扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの混繊時のフィード率を4%としたこと以外は同じ混繊条件にて92dtex/42fの複合構造加工糸を得た。この複合糸の沸水収縮率は2.6%、交絡数は166個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fの捲縮伸長率は8.2%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛は拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0043】
[実施例6]
PETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/60f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度0.9dtex)を、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度500m/分、延伸倍率1.050倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度180℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、実施例1と同じポリエステルマルチフィラメントを用い、同じ混繊条件にて112dtex/48fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は2.1%、交絡数は150個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/60fの捲縮伸長率は3.7%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成後、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛はソフトな風合いと拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0044】
[実施例7]
実施例1において、混繊する際の第2ヒーター温度を常温、扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f仮撚糸のフィード率を4%としたこと以外は同じ混繊相手糸、同じ混繊条件にて90dtex/48fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は3.2%、交絡数は145個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fの捲縮伸長率は185.3%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた布帛は拡散性および速乾性を満足するものであった。得られた複合糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
PETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度2.3dtex)とPETからなるポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率68.8cN/dtex)を、村田機械製エアージェットクリンパー335−IIにて、加工速度400m/分で、HEBERLEIN社製流体噴射ノズルT−311を用い、エア圧力0.7MPaにて混繊する。混繊時のフィード率は、扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fは22%、ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fは8%とし、95dtex/42fの複合構造糸を得た。この複合構造糸の沸水収縮率は5.2%、交絡数は無数に存在するもので、これにより複合構造糸内の芯部と鞘部に位置するフィラメントが分離できず、捲縮伸長率は測定できなかった。得られた複合構造糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、複合構造糸の沸水収縮率が4%以上となることと、複合糸の交絡度が無数に存在することから、拡散性及び速乾性が不十分で、風合いも硬いものとなった。
【0046】
[比較例2]
実施例1において、仮撚加工するポリエステルマルチフィラメントに34dtex/12f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.8dtex)を使用すること以外は同じ仮撚条件、同じ混繊相手糸、同じ混繊条件にて90dtex/36fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は2.5%、交絡数は130個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置するポリエステルマルチフィラメント34dtex/12fの捲縮伸長率は11.6%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、鞘部に丸断面のポリエステルマルチフィラメントが配置されているため、拡散性及び速乾性が不十分なものとなった。
【0047】
[比較例3]
主としてPETからなる常圧可染型扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度1.9dtex)と、主としてPETからなる常圧カチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率89.3cN/dtex)を引き揃えて、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度400m/分、延伸倍率1.050倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度180℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、引き揃えたまま第2ヒーター前で、HEBERLEIN社製インターレースノズルP142を用い、エア圧力が0.2MPa、第2ヒーター温度が常温にて混繊した。混繊時のフィード率は2.3%とし、112dtex/54fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は9.2%、交絡数は155個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置する常圧カチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は52.3%、鞘部に位置する常圧可染型扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30fの捲縮伸長率は32.9%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、芯部に捲縮伸長率が1%以上のポリエステルマルチフィラメント捲縮糸が配置され、複合構造加工糸の沸水収縮率が4%以上であることから、拡散性及び速乾性が不十分で、風合いも硬いものとなった。
【0048】
[比較例4]
主としてPETからなる常圧可染型扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度1.9dtex)をTMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度500m/分、延伸倍率1.050倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度180℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、第2ヒーター前で、HEBERLEIN社製インターレースノズルP142を用い、エア圧力が0.2MPa、第2ヒーター温度が常温にて主としてPETからなる常圧カチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率89.3cN/dtex)と混繊する。混繊時のフィード率は常圧可染型扁平ポリエステルマルチフィラメントおよび常圧カチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント共に2.3%とし、112dtex/54fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は9.4%、交絡数は120個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置する常圧カチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は0.2%、鞘部に位置する常圧可染型扁平ポリエステルマルチフィラメント56dtex/30fの捲縮伸長率は168.5%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成し、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、複合構造加工糸の沸水収縮率が4%以上となり、拡散性及び速乾性が不十分なものとなった。
【0049】
[比較例5]
PETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度2.3dtex)とPETからなるポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率68.8cN/dtex)を引き揃えて、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度400m/分、延伸倍率1.050倍、D/Y1.650、第1ヒーター温度180℃およびディスク枚数4枚の条件下で仮撚後、引き揃えたまま第2ヒーター前で、HEBERLEIN社製インターレースノズルP142を用い、エア圧力0.2MPa、第2ヒーター温度150℃にて混繊する。混繊時のフィード率は7.0%とし、90dtex/42fの複合構造加工糸を得た。この複合構造加工糸の沸水収縮率は2.8%、交絡数は160個/mで、複合構造加工糸内の芯部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率は5.8%、鞘部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント58dtex/24fの捲縮伸長率は4.6%であった。得られた複合構造加工糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成後、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造加工糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、芯部に捲縮伸長率が1%以上のポリエステルマルチフィラメントが配置されているために、拡散性及び速乾性が不十分なものとなった。
【0050】
[比較例6]
PETからなる扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18f(扁平度3.0、W型断面、単糸繊度2.3dtex)とPETからなるポリエステルマルチフィラメント56dtex/24f(扁平度1.0、丸断面、単糸繊度2.3dtex、ヤング率68.8cN/dtex)を引き揃えて、TMT社製ATFディスクフリクション仮撚機にて、加工速度400m/分、第2ヒーター前でHEBERLEIN社製インターレースノズルP142を用い、エア圧力0.2MPa、第2ヒーター温度150℃にて混繊のみを行う。混繊時のフィード率は7.0%とし、90dtex/42fの複合構造糸を得た。この複合糸の沸水収縮率は2.1%、交絡数は100個/mで、複合構造糸内の芯部に位置する扁平ポリエステルマルチフィラメント34dtex/18fと鞘部に位置するポリエステルマルチフィラメント56dtex/24fの捲縮伸長率はともに0.2%であった。得られた複合構造糸を実施例1と同じ方法にて編地を作成後、実施例1と同じ染色加工工程にて布帛を得た。得られた複合構造糸の物性と布帛の性能評価及び風合い判定結果を表1に示す。本例では、鞘部に仮撚加工されておらず捲縮を有さないポリエステルマルチフィラメントが配置されているために、風合いが硬いものとなった。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のよる複合糸を使用して布帛を製造すれば、着用時に快適で、且つ、運動等による発汗時のベタツキ感や運動後の冷え感を軽減するとともに、優れた速乾性を有する衣服が製造可能で、スポーツウェア、インナーおよびアウターなどの衣服において、快適な着用感が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類のポリエステル系マルチフィラメントからなる芯鞘型複合構造加工糸であって、捲縮伸長率が1%以下であるポリエステル系マルチフィラメントが芯部を形成し、捲縮伸長率が2%以上で、凹部を有する単糸断面の扁平度が2.0〜4.0の扁平ポリエステル系マルチフィラメントが鞘部を形成し、該複合構造加工糸の沸水収縮率が4%以下であり、交絡数が50〜200個/mである部分交絡を有することを特徴とするポリエステル系複合構造加工糸。
【請求項2】
鞘部を形成する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの捲縮伸長率が2〜10%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
【請求項3】
鞘部に使用する扁平ポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度が1.0〜3.0dtex、単糸断面がW型断面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
【請求項4】
芯部に使用するポリエステル系マルチフィラメントの単糸繊度が2.0〜3.0dtex、単糸断面の扁平度が1.2以下、ヤング率が80cN/dtex以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル系複合構造加工糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載された複合構造加工糸を少なくとも一部分に用いた布帛。

【公開番号】特開2010−174424(P2010−174424A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21944(P2009−21944)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】