説明

ポリエステル組成物およびそれからなる繊維、フィルム

【課題】 再生可能な資源をモノマーとして用い、生分解性がありかつ高耐熱性に優れた脂肪族ポリエステル共重合体組成物およびそれからなる繊維を提供する。
【解決手段】 脂環式ジオールであるイソソルビド(A)1〜30モル%、脂肪族ジカルボン酸(B)1〜30モル%、および脂肪族オキシカルボン酸(C)40〜98モル%からなり、(A)と(B)のモル比(イソソルビド/脂肪族ジカルボン酸)が0.1〜10の範囲であることを特徴とし、ゲルマニウム化合物もしくはチタンキレート化合物触媒存在下、ポリエステル生成条件で反応させポリエステル組成物およびそれからなる繊維、フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として非石油系由来モノマーから構成されるポリエステル組成物およびそれからなる繊維、フィルムに関する。さらに詳しくは、主として非石油系由来のモノマーを用い、生分解性がありかつ高耐熱性に優れたポリエステル組成物およびそれからなる繊維、フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸あるいはこれらの共重合体に代表される脂肪族オキシカルボン酸から製造される脂肪族ポリエステルは、生分解性あるいは非石油系由来モノマーから構成される高分子として注目され、例えば、縫合糸などの医療材料、医薬、農薬、肥料の徐放性材料等多方面に利用されている。さらには生分解性汎用プラスチックとして容器やフィルム等の包装材料としても期待されている。しかし、これら従来の脂肪族オキシカルボン酸を用いて製造される脂肪族ポリエステルは、一般に耐熱性が悪いという欠点を有している。例えば、ゴム資材や樹脂コートの製造工程では150℃程度の高温にさらされるため、製品に欠陥を生じるといった問題や、繊維として用いると、アイロン掛けによりポリ乳酸繊維の融解により布帛に穴が開くといった問題などが指摘されている。
【0003】
この欠点を克服するために行われている研究としては、例えば、ポリ乳酸と他のポリマーとの物理的混合物として、ポリ乳酸とポリエチレンテレフタレート等のポリマーとの物理的混合物が開示されているが、機械的強度は向上したもののその耐熱性は十分なものではなかった(特許文献1)。
【0004】
他の成分の共重合による方法としては、例えば、乳酸とグリコール酸とを直接重合して得られる共重合体により高温での力学特性が向上されるということが開示されているが、依然として耐熱性は満足のいくレベルではなかった(特許文献2)。また、乳酸と脂肪族ジオールもしくは脂環式ジオール、脂肪族ジカルボン酸と共重合させることにより熱安定性および力学特性を向上させることが出来るということが開示されているが、脂肪族ジオールを用いるとその熱安定性は十分でなく、またこの特許に開示されている脂環式ジオールを用いると当初の目的である生分解性が損なわれる(特許文献3)。以上のように未だその改善効果は十分でなく、依然として用途展開には大きな制限があり、高温での力学特性や融点を向上させたポリエステルが切望されていた。また、これまでに、非石油系由来モノマーとしてイソソルビドを含有したポリエステルの製造法についての開示があるが、その生分解性、耐熱性は満足のいくものではなかった(特許文献4)。
【特許文献1】特表平4−504731号公報(特許請求の範囲、29頁実施例)
【特許文献2】特開平7−18063号公報(特許請求の範囲、5頁実施例1)
【特許文献3】特開2003−206337号公報(特許請求の範囲、5頁実施例)
【特許文献4】特表2002−512268号公報(特許請求の範囲、22頁実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主として非石油系由来のモノマーを構成成分として用い、生分解性がありかつ優れた高耐熱性を有するポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の問題を解決するためになされたものであり、脂環式ジオールであるイソソルビド(A)1〜30モル%、脂肪族ジカルボン酸(B)1〜30モル%、および脂肪族オキシカルボン酸(C)40〜98モル%を含んでなり、(A)と(B)のモル比(イソソルビド/脂肪族ジカルボン酸)が0.1〜10の範囲であることを特徴とするポリエステル組成物により達成することが出来る。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステル組成物は、その構造中に剛直な骨格を有するイソソルビド部位を有することにより、耐熱性が高く、例えば車両内装用途などの産業用途や衣料用途に好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるイソソルビドとは、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトールのことであり、[化1]に構造式を示す。このイソソルビドは糖類や澱粉などから容易に作られる。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明における脂肪族ジカルボン酸としては特に限定されないが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等があげられる。得られる共重合体の分解温度を高くできることから特にコハク酸が好ましい。これらは単独でも2種以上混合して使用することも出来る。
【0011】
本発明における脂肪族オキシカルボン酸としては、特に限定はされず、例えば乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、カプロラクトン等のラクトン類を開環させたもの、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらの光学異性体が存在する場合は、D体、L体、ラセミ体いずれでも良く、形状も、液体、固体あるいは水溶液であっても良い。得られる共重合体の分解温度や力学特性の観点から、炭素数が3以下であるオキシカルボン酸がより好ましい。入手が容易で、得られる共重合体の引っ張り強度等の面から特に、乳酸、グリコール酸が好ましい。これらは単独でも2種以上混合して用いることも出来る。
【0012】
上述成分の組成比に関しては、脂環式ジオールと脂肪族ジカルボン酸のモル比(イソソルビド/脂肪族ジカルボン酸)が0.1〜10の範囲内であることが必要であり、好ましくは0.5〜2.0の範囲内、より好ましくは等モルである。モル比が0.1未満だと耐熱性、高温安定性が充分ではなく、モル比が10を越えると得られるポリマーの強度が著しく低下する。上記のモル比範囲内であれば脂環式ジオールと脂肪族ジカルボン酸が各々1〜30モル%の中で任意の割合で決めることができ、好ましくは10〜25モル%、さらに好ましくは15〜20モル%である。脂環式ジオールと脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上加えると結晶性が低下するため成形上好ましくなく、また1%未満だと添加効果が充分に発現しない。一方、脂肪族オキシカルボン酸は98〜40モル%、好ましくは80〜50モル%、さらに好ましくは70〜60モル%である。
【0013】
本発明のポリエステル組成物は公知の任意の方法で製造することが出来るが、溶媒重合法または溶融重合法で製造することが好ましい。脂肪族オキシカルボン酸の添加時期・方法は、重縮合反応以前であれば特に限定はされない。製造方法の一例としては、脂環式ジオール(A)、脂肪族ジカルボン酸(B)、脂肪族オキシカルボン酸(C)を反応槽に投入し、必要に応じて重合触媒を添加した後、減圧条件下で加熱することによって製造される。
【0014】
ポリエステル組成物を製造する際の温度、時間、圧力などの条件は、目的物であるポリエステル組成物が得られる条件であれば特に制限はされないが、温度は160℃〜270℃、好ましくは180℃〜250℃である。重合時間は1時間〜15時間、好ましくは3時間〜10時間である。減圧度は500Pa以下、好ましくは200Pa以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル組成物は好ましくは上記原料を重合触媒の存在下で重合する。ここで用いる触媒は公知のポリエステル重合触媒が使用可能である。例えば、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物、スズ化合物などが挙げられる。
【0016】
具体的には、ゲルマニウム化合物としては、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物等が挙げられる。チタン化合物としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタンアルコキシド化合物、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、クエン酸、マレイン酸またはこれらの混合物などのキレート剤を含有するチタン化合物等が挙げられる。アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。スズ化合物としては、ジブチルスズオキシド、塩化第一スズ、オクチル酸スズ、ラウリル酸スズ、モノブチルヒドロキシスズオキシド等が挙げられるが、特に限定されるものではない。好ましくは、重合活性が高く、ポリマー品質が良好となる酸化ゲルマニウムやテトラエトキシゲルマニウム等のゲルマニウム化合物やテトラブチルチタネート等のチタン化合物が挙げられる。これら触媒化合物は、原子換算で、製造されるポリエステルの合計量に対し0.005〜5wt%含有することが好ましい。5w%を超えると色調の悪化が生じてしまい、また0.005wt%未満だと十分な触媒活性が得られない。上記範囲でより好ましいのは0.01〜1.0wt%である。
【0017】
触媒の反応系への添加は、重縮合以前であれば特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に原料に分散させた状態で添加する方法や減圧開始時に添加する方法である。例えば、あらかじめ触媒を脂肪族オキシカルボン酸溶液に溶解させた状態で添加する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の方法により製造された脂肪族ポリエステル共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、抗酸化剤、結晶核剤、滑剤、着色剤、耐光剤など必要に応じて添加することが出来る。
【0019】
本発明のポリエステル組成物を利用した繊維は、本技術分野で公知の方法を用いて繊維を作ることが出来るが、一般にポリエステル繊維の場合には溶融紡糸が好ましい。本発明の繊維では、沸収が0〜20%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良く好ましい。より好ましくは3〜10%である。
【0020】
本発明の繊維の断面形状については、丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は、長繊維、短繊維など特に制限はなく、長繊維の場合はマルチフィラメントでもモノフィラメントでも良い。
【0021】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例中における特性値は以下の方法により測定した。
(1)熱的性質;
熱重量法/示差熱分析(TG/DTA)法(セイコーインスツルメンツ社製EXSTAR6000)において、窒素雰囲気下において10℃/min昇温条件で初期重量の5%が減少した温度を熱分解温度とした。
(2)引張り特性;
卓上熱プレス法により厚さ0.2〜0.3mmのフィルムを作成し、このフィルムからJIS K7127に準拠して2号ダンベルを作成し破断伸度と破断強度とを測定した。
(3)生分解性テスト;
卓上熱プレス法により、厚さ0.2〜0.3mm縦横5cm×5cmのテストチップを作成し、このテストピースを3ヶ月間土中に埋没させて、重量変化を量ると共に目視により生分解性の確認を行った。
(4)含有金属分析;
ポリマー6gを溶融し板状に成型し、蛍光X線分析(理学電気社製蛍光X線分析装置3270型)により強度を測定して、既知含有量のサンプルで予め作成した検量線を用いて、金属含有量に換算した。
(5)繊維の強度および伸度;
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。
(6)沸収;
沸収(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初期荷重0.09cN/dtex下で測定したかせの原長。
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長。
【0022】
実施例1
撹拌翼、触媒添加口、窒素導入口および減圧口を備えた重合管にイソソルビドを28.8g、コハク酸を23.6g、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%乳酸水溶液を60.0gを仕込み、窒素雰囲気下180℃で1時間常圧で撹拌・反応させた後、その後1時間かけて250℃に昇温しながら圧力を1.0mmHgまで減圧させ、引き続き5時間重合反応させた。得られたポリエステルは、乳白色を有しており、分解温度は335℃であった。このポリマーを220℃で熱プレスしてフィルムを作成したところ、強靱なフィルムが得られた。得られたフィルムの物性値を表1に示す。また厚さ0.3mm縦横5cm×5cmのチップを土壌中に埋没させたところ、3ヶ月後多数の虫食い上の穴が観測され、また重量では35%の減少が見られ、生分解性が確認された。ゲルマニウムの含有量は、0.51wt%であった。
【0023】
このポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度を235℃として溶融紡糸した。この溶融紡糸性には問題なく、100kg巻き取りでの糸切れはゼロであった。その後、周速1500m/分で延伸を行い、84dtex、36フィラメントの丸断面の延伸糸を得た。ここでの延伸性も問題はなく、100kg巻き取りでの糸切れはゼロであった。得られた糸の強伸度物性値を表に示す。さらに、この繊維を筒編みし、190℃でアイロン掛けテストを行ったが、筒編み地に穴が空くことはなく耐熱性は良好であった。
【0024】
実施例2〜7
実施例1で用いた反応装置を用い、表1に示すように組成比を変えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0025】
実施例8
実施例1の乳酸の代わりにグリコール酸を用いた以外は、実施例1と同様にして反応させた。結果を表1に示す。
【0026】
実施例9
実施例1で用いた反応装置を用い、コハク酸の代わりにアジピン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0027】
比較例1
実施例1のイソソルビドの代わりに1,4−ブタンジオールを用いた以外は、実施例1と同様にして反応させた。得られたポリエステルは乳白色であり、分解温度は286℃であった。このポリマーを220℃で熱プレスしてフィルムを作成したところ、表1のような引張り特性を示した。また、厚さ0.3mm縦横5cm×5cmのチップを土壌に3ヶ月埋没させたところ、3%の重量減少しか見られず生分解性は不十分であった。
【0028】
このポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度を235℃として溶融紡糸した。その後、周速1500m/分で延伸を行い、84dtex、36フィラメントの丸断面の延伸糸を得た。得られた糸の強伸度物性値を表に示すが、高温(90℃)においての力学特性が低いものであった。さらにこの繊維を筒編みし、190℃でアイロン掛けテストを行ったところ、筒編み地に大きな穴が空き、耐熱性は不良なものであった。
【0029】
比較例2
実施例1の乳酸の代わりに1,4−シクロヘキサンジオールを用いた以外は、実施例1と同様にして反応させた。結果を表1に示す。
【0030】
比較例3
実施例1の乳酸の代わりに2−ヒドロキシ吉草酸を用いた以外は、実施例1と同様にして反応させた。結果を表1に示す。
【0031】
比較例4〜7
表1に示すように組成比を変えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ジオールであるイソソルビド(A)と脂肪族ジカルボン酸(B)が1〜30モル%、および脂肪族オキシカルボン酸(C)40〜98モル%を含んでなり、(A)と(B)のモル比(イソソルビド/脂肪族ジカルボン酸)が0.1〜10の範囲であることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項2】
脂肪族オキシカルボン酸(C)が、乳酸であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
重合触媒がゲルマニウム化合物またはチタン化合物であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物からなる繊維。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物からなるフィルム。

【公開番号】特開2006−96845(P2006−96845A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283767(P2004−283767)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】