説明

ポリエステル繊維

【課題】製糸時又得られた繊維の成形加工時あるいは繊維成形品の使用時に接触するローラー、ガイド等の付属品の摩耗を抑制し、また破断強伸度の良好な且つ防透性に優れるポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】繊維軸と直交する断面における芯成分の形状が3〜5個の鋭突部を有する異型断面形状である芯成分と、該芯成分を完全に被覆する鞘成分とにより構成される芯鞘型複合ポリエステル繊維とし、該芯成分が酸化チタンを10%以上含み、且つ繊維軸と直交する断面における該芯成分の各鋭突部の先端を外周とした直径Aと糸断面直径Bとする時、A/Bを特定の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防透性ポリエステル繊維に関し、繊維表面の平滑性が良好で、製糸時又得られた繊維の成形加工時あるいは繊維成形品の使用時に接触するローラー、ガイド等の付属品の摩耗を抑制し、また破断強伸度の良好な防透性ポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維は多くの優れた特性を有しているため各種用途に巾広く使用されている。そして、用途によって求められる特性が異なっており、例えば、インナー衣料やスポーツ衣料や軽装で作業する医療関連用ユニフォーム等の用途では、優れた防透性を満足することが要求されている。
【0003】
特許文献1では、酸化チタン艶消し剤を1.0重量%以上含むポリエステルで芯部を形成し、含金属リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを含有するポリエステルで鞘部を形成し該鞘部にアルカリ減量加工を施すことにより微細孔をもうけた複合繊維が提案されている。かかる複合繊維において、酸化チタン艶消し剤と微細孔の効果である程度防透性は改善されるものの尚不十分であった。
【0004】
又 特許文献2では芯部に5%以上の酸化チタン等の艶消剤を含む複合ポリエステル繊維を提案しているが、十分な性能を得るためには、結局艶消剤を多量に添加せざるをえず、又芯成分比率を高める必要があるため、糸の脆性が悪化し強伸度の劣ったものとなるばかりでなく、製糸工程での歩留も悪いものとなる。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−57920号公報
【特許文献2】特開2005−60890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、防透性ポリエステル繊維に関し、特に繊維表面の平滑性が良好で、製糸時、得られた繊維の成形加工時あるいは繊維成形品の使用時に接触するローラー、ガイド等の付属品の摩耗を抑制し、また破断強伸度の良好な防透性ポリエステル繊維に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明によれば、繊維軸と直交する断面における芯成分の形状が3〜5個の鋭突部を有する異型断面形状である芯成分と、該芯成分を完全に被覆する鞘成分とにより構成される芯鞘型複合ポリエステル繊維とし、該芯成分が酸化チタンを10%以上含み、且つ繊維軸と直交する断面における該芯成分の各鋭突部の先端を外周とした直径Aと糸断面直径Bとする時、A/Bが特定の範囲とすることにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、繊維表面の平滑性が良好で、製糸時、得られた繊維の成形加工時あるいは繊維成形品の使用時に接触するローラー、ガイド等の付属品の摩耗を抑制し、また破断強伸度の良好な防透性ポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを主たる対象とする。しかしながら、テレフタル酸成分及び/又はエチレングリコール成分以外の第3成分を少量(通常はテレフタル酸成分に対して20モル%以下)共重合したものであっても良い。芯成分、鞘成分ともにポリエステルであることが好ましい。
【0010】
尚、該ポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、又は艶消剤等を含んでも良い。
【0011】
本発明のポリエステル繊維は繊維軸と直交する断面における芯成分の形状が3〜5個の鋭突部を有する異型断面形状である酸化チタンを10%以上含有する芯成分と、該芯成分を完全に被覆する繊維形成性ポリマーからなる鞘成分とにより構成される事が必要である。本発明のポリエステル繊維は側面から見た際の光の干渉効果を利用するものであり、図3に示すように、側面から見た芯成分の面積比率は、どの側断面から見てもほぼ同様である必要がある。その為芯成分の鋭突部が3個未満であると側面から見た際に大きく透ける角度が必ず生じ糸斑状に見え易くなる。鋭突部が3個以上では実質的に差は少ないが、5個を超える鋭突部があると繊維強度が低下しやすい問題が生じる。また本発明の目的上、特に加工工程での平滑性に問題のない鞘成分によって該芯成分を完全に被覆されていなければならない。一部でも高濃度の酸化チタンを含む芯成分が糸表層に露出していると、その部分に接触した糸ガイドを磨耗させるだけでなく、露出面から剥離を起こし、糸が割れ易くなる。
【0012】
また本発明のポリエステル繊維の芯成分は、図3に示す繊維軸と直交する断面における芯成分の鋭突部の先端を外周とした直径Aが糸断面直径Bに対して以下の式を満足する必要がある。0.7≦A/B≦0.9
ここでA/Bが0.7以下であると側面から見た際に表層側で光が透け易く、透け感が残る事から十分な防透性能があるとはいえない。A/Bが0.9以上であると、鞘成分による被覆が十分でなく、洗濯などの機械的力により被覆が破れ、糸が割れやすくなる欠点をもったものとなる。
【0013】
本発明のポリエステル繊維の芯成分に含まれる酸化チタンは公知の酸化チタンを用いることができるが、一次粒子径が1.0μm以下の二酸化チタンが紡糸時の目詰まりが少なく好ましい。
【0014】
ポリエステル繊維の芯成分に含まれる酸化チタンの濃度は10%以上であることが望ましい。一般的に酸化チタンの濃度が高いほど高い防透性を発現することは自明であるが、従来の酸化チタンの混合紡糸方式では摩耗の問題から添加できる量は高々数%程度であり10%以上添加することは極めて困難であった。本発明では10%以上の濃度で酸化チタンを用いることができるので従来にない優れた防透性能をもったポリエステル繊維を提供することができる。
【0015】
酸化チタンを含有させる方法としてはポリエステル重合時又はチップ化前に酸化チタンを添加する方法、酸化チタンを含むマスターチップを予め作っておき紡糸時にベースポリマーにチップ状態或いは溶融状態でブレンドする方法等一般的な方法で行うことが出来る。
【0016】
本発明のポリエステル繊維の芯成分は繊維全体重量に対して0.1〜20%であることが好ましい。より好ましくは10〜20%である。20%を超える場合、芯成分が高濃度の酸化チタンを含む為、繊維全体として強伸度の低い繊維となる。本発明のポリエステル繊維の芯成分が、図3に示す繊維軸と直交する断面における芯成分の各鋭突部の先端を外周とした直径Aが繊維断面直径Bに対して、0.7≦A/B≦0.9を満足する場合、芯成分が繊維全体の20%以下の量であっても芯成分に使用する酸化チタンの良好な白度、防透性は維持される。このようにして繊維強度と防透性を両立させることが出来る。
【0017】
また本発明に用いる鞘成分ポリマーは前述の如く、本発明の目的を阻害しない範囲において 共重合ポリマーを使用しても、滑剤や艶消剤などを添加していても良い。ただし、酸化チタン等 硬質の添加剤の過度な添加は 本発明の目的であるところの耐摩耗性の観点で好ましくなく、濃度は5.0%以下にすることが必要である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で求めた。
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用して35℃で測定した。
(2)糸表面状態の判定
繊維表面観察繊維表面を走査型電子顕微鏡にて2000倍に拡大して観察し、繊維表面15μm×15μm中に存在する大きさ0.5μm以上の突起の数を数え、その数が10個未満を良好(〇)、10個以上20個未満をやや不良(△)、20個以上を不良(×)と表した。
(3)摩耗度
図1に示す装置を用い、200℃に加熱したローラーでサンプル繊維を加熱した後、粗度6Sの硬質クロムメッキの梨地バー上を張力2.0Kg、速度190m/minで300分間走行させた後、梨地バーの摩耗状態をレプリカ法にて観察し、軽度の摩耗状態から1〜5の5段階評価を行った。
(4)防透性
防透性(%)=[(標準黒色裏当て板(反射率6%)上での反射率)/(標準白色裏当て板(反射率91%)上での反射率)]×100
防透性の数値については、黒色裏当て板と白色裏当て板とで、裏当てされたときの反射率が等しければ防透性100%の完全な防透性体であることを示し、一方、黒色裏当て板で裏当てされたときの反射率が0%であれば防透性0%となり完全な透明体であることを示す。なお、n数5で測定し、その平均値を求めた。90%以上の防透性の時に合格とした。
(5)洗濯耐久性
織物を60℃で36分間洗濯した後、30分間のすすぎを行い、タンブラーを用いて60℃で30分間乾燥し、これを1回の洗濯とした。これを100回繰り返し、繊維が割れたり、毛羽立つまでの回数をもって耐久性評価とした。100回以上割れが起こらないものを合格とした。
【0019】
[実施例1]
固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートに酸化チタンを10%添加したものを芯成分とし、固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートを鞘成分としたものをそれぞれ285℃で溶融し、図2(ロ)に示すような断面形状を有する芯鞘比率1:9の芯鞘型複合繊維なるような口金(A/B=0/8)を用いて通常の複合紡糸装置を用いて溶融紡糸し、3000m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、140dtex/36filの芯鞘型ポリエステル複合繊維を得た。そして、該複合繊維を加工速度640m/分、ヒーター温度200℃で3軸摩擦型のデイスク式仮撚装置を用いて通常の仮撚捲縮加工を施した後、該芯鞘型ポリエステル複合繊維を経糸および緯糸に用いてタフタ織物を製織した。得られたポリエステル繊維布帛の評価結果を表1に示す。
【0020】
[比較例1]
芯成分のみで複合化せずに通常紡糸を行いポリエステル繊維を得た。糸切れが著しく少量のサンプルのみで性能評価を行った。
【0021】
[比較例2]
A/B=0.6とした以外は実施例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維布帛の評価結果を表1に示す。
【0022】
[比較例3]
A/B=0.95とした以外は実施例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維布帛の評価結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、繊維表面の平坦性に優れ、製糸時あるいは得られた繊維の成形加工時接触するローラー、ガイド等の摩耗が少なく、また使用時の付属品の摩耗及び繊維の破断強伸度の良好な防透性ポリエステル繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で用いた促進摩耗試験の概略図である。
【図2】本発明のポリエステル繊維の繊維断面の模式図である。
【図3】本発明のポリエステル繊維の繊維断面と透過側面の関係を示した模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 延伸糸供給ボビン
2 フリーローラー
2’ フリーローラー
3 供給加熱ローラー
3’ 引取りローラー
4 梨地バー
5 延伸糸
6 巻き取りボビン
A 繊維軸と直交する断面における芯成分の鋭突部の先端を外周とした直径
B 糸断面外周直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その断面の形状が3〜5個の鋭突部を有する異型断面形状である芯成分と、該芯成分を完全に被覆する鞘成分とにより構成され、繊維軸と直交する断面が円形である芯鞘型複合ポリエステル繊維であって、該芯成分が酸化チタンを10%以上含み、該芯成分の各鋭突部の先端を外周とした直径Aが繊維断面直径Bに対して以下の式を満足することを特徴とする芯鞘型複合ポリエステル繊維。0.7≦A/B≦0.9
【請求項2】
芯成分の重量比率が0.1〜20%である請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。
【請求項3】
鞘成分に含まれる酸化チタン等の艶消剤の濃度が5.0%以下である請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−57054(P2008−57054A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231871(P2006−231871)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】