説明

ポリオキシアルキレン鎖を含む界面活性剤の除去法及びメソ多孔体

【課題】非シリカ組成の材料や無機有機複合組成の材料に適用可能で、メソ多孔体を製造するために必要不可欠な工程であるメソ構造体からの新しい界面活性剤分子の除去法及びメソ多孔体を提供する。
【解決手段】ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する方法であって、合成したメソ構造体を溶媒中で加熱処理すること、上記溶媒として、加熱により上記界面活性剤分子の分解反応が進行する溶媒を用いること、メソ構造を保持して界面活性剤分子を分解除去すること、を特徴とする界面活性剤の除去方法、及び該方法を利用して合成したメソ多孔体。
【効果】ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からメソ構造を崩壊させることなく界面活性剤分子を除去してメソ構造を安定に保持したメソ多孔体を合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する方法及びそれにより得られるメソ多孔体に関するものであり、更に詳しくは、本発明は、分子構造中に酸素分子を含有するポリオキシアルキレン鎖含有界面活性剤を用いて合成したメソ構造体を溶媒中で加熱処理することで、メソ構造を崩壊させることなく安定に維持して界面活性剤分子を完全に分解、除去する方法、及び該方法により、例えば、アルキルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンブロック共重合体を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去して生成せしめたメソ構造を安定に保持したメソ多孔体に関するものである。
【0002】
本発明は、高温まで安定に非晶質ネットワーク構造を保持できるシリカ組成の材料はもとより、加熱処理する過程で結晶化してしまい、結晶化と同時にナノメートルレベルの構造規則性も維持できなくなってしまう非シリカ組成の材料にも適用可能な、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からメソ構造を保持して界面活性剤分子を完全に分解、除去することで、メソ構造を安定に保持したメソ多孔体を合成することを可能とする上記ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体とそのメソ多孔体に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
界面活性剤等の両親媒性分子が溶液中で自己集合する性質を利用して、無機材料にナノメーターレベルの規則構造を付与した材料は、メソ構造体と呼ばれる。メソ構造体から界面活性剤分子を除去することで、メソ多孔体を得ることができ、メソ多孔体を構成する無機材料の組成に応じて、様々な応用展開が期待できる。界面活性剤分子の除去法には、焼成、分解、又は抽出が広く用いられており、これらの処理プロセスは、メソ多孔体の製造工程には必要不可欠な工程である。
【0004】
焼成とは、酸素存在下でメソ構造体を加熱する方法であり、界面活性剤分子の燃焼反応を利用した有機除去法である。分解とは、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下)でメソ構造体を加熱する方法であり、界面活性剤分子の熱分解反応を利用した有機除去法である。抽出とは、メソ構造体を酸性水溶液などに分散し、イオン交換反応により界面活性剤分子を回収する方法である。
【0005】
一般的に、メソ構造体からの界面活性剤分子の除去には、焼成が用いられるが、焼成は、主成分としてケイ酸骨格を含有するシリカ系などの高温まで安定に非晶質ネットワーク構造を保持できる組成の材料に相応しい。しかしながら、非シリカ組成の材料では、加熱処理する過程で結晶化してしまう材料が多く、結晶化と同時にナノメートルレベルの構造規則性も維持できなくなることが広く知られている。分解による界面活性剤分子の除去も、加熱処理するという点では同様の問題がある。
【0006】
最近では、無機組成からなるメソ多孔体だけでなく、無機有機複合組成からなるメソ多孔体に関する研究開発も盛んに行われており、これらのメソ多孔体では、抽出により界面活性剤分子を除去する必要がある(特許文献1、2)が、それは、焼成及び分解による界面活性剤分子の除去では、界面活性剤分子と同時に有機種も除去されてしまうためである。低温焼成により界面活性剤分子のみを除去する試みもあるが(非特許文献1、2、及び3)、この種の方法は、有機基の耐熱性が極めて高い場合にのみ有効な方法である。
【0007】
酸処理などの抽出による界面活性剤分子の除去は、界面活性剤分子の回収、再利用という点で非常に重要であるが、この種の方法は、加水分解反応などを受けやすい組成の材料には適当ではなく、メソ構造の崩壊を招くことが非常に多く見られる。その他にも、過酸化水素水中での加熱処理でブロック共重合体を酸化分解してメソポーラスシリカが得られることが報告されているが(非特許文献4)、この種の方法も、加水分解反応を受け易い組成の材料には適当ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、メソ多孔体を創製するために必要不可欠な工程であるメソ構造体から界面活性剤分子を除去するこれまでの方法を、非シリカ組成のメソ構造体からの界面活性剤分子の除去に適応しようとすると、結晶化や加水分解反応の影響を大きく受けた結果として、メソ構造が崩壊してしまうこと、また、無機有機複合組成の材料では、界面活性剤分子の除去と同時に有機種まで除去されてしまうこと、という問題があり、当技術分野では、メソ構造体からの新たな界面活性剤分子の除去法の開発が強く求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−17102号公報
【特許文献2】特開2000−219770号公報
【特許文献3】特開2004−256344号公報
【非特許文献1】Chemistry of Materials, 2003, Vol. 15, p. 3742-3744.「Synthesis of Novel Mesoporous Aluminum Organophosphonate by Using Organically Bridged Diphosphonic Acid」
【非特許文献2】Chemistry of Materials, 2005, Vol. 17, p. 337-344.「Synthesis of Mesostructured and Mesoporous Aluminum Organophosphonates Prepared by Using Diphosphonic Acids with Alkylene Groups」
【非特許文献3】Chemistry of Materials, 2005, Vol. 17, p. 5521-5528.「Oligomeric Surfactant and Triblock Copolymer Syntheses of Aluminum Organophosphonates with Highly Ordered Mesoporous Structures」
【非特許文献4】Microporous and Mesoporous Materials, 2005, Vol. 81, p. 107-114.「Simultaneous removal of copolymer template from SBA-15 in the crystallization process」
【0010】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、メソ構造体からそのメソ構造を実質的に崩壊させることなく界面活性剤分子を完全に除去することを可能とする新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含有する界面活性剤であるアルキルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンブロック共重合体等を用いて合成したメソ構造体をアセトン等の溶媒中で加熱処理することで、界面活性剤分子を分解、除去することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含有する界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からそのメソ構造を実質的に崩壊させることなく安定に維持して界面活性剤分子を完全に分解、除去することで、メソ構造を安定に保持したメソ多孔体を合成することを可能とする新しいメソ多孔体の合成技術を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する方法であって、1)合成したメソ構造体を溶媒中で加熱処理する、2)上記溶媒として、加熱により上記界面活性剤分子の分解反応が進行する溶媒を用いる、3)メソ構造を保持して界面活性剤分子を分解除去する、ことを特徴とする界面活性剤の除去方法。
(2)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体をアセトン中で加熱処理する、前記(1)に記載の界面活性剤の除去方法。
(3)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体を80〜150℃の温度範囲で加熱処理する、前記(1)に記載の界面活性剤の除去方法。
(4)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤として、アルキルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンブロック共重合体の内から選択される1種以上の界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する、前記(1)又は(2)に記載の界面活性剤の除去方法。
(5)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体から界面活性剤分子を除去する、前記(1)又は(2)に記載の界面活性剤の除去方法。
(6)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体が、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体である、前記(1)又は(2)に記載の界面活性剤の除去方法。
(7)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から生成されるメソ多孔体であって、メソ構造が実質的に崩壊されることなく界面活性剤分子が除去されていることを特徴とするメソ多孔体。
(8)メソ構造体のアセトン中での加熱処理によりポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤分子が除去されている、前記(7)に記載のメソ多孔体。
(9)メソ構造体が、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体である、前記(7)に記載のメソ多孔体。
(10)メソ多孔体が、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体から生成されるメソ多孔体である、前記(7)に記載のメソ多孔体。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からそのメソ構造を崩壊させることなく界面活性剤分子を除去する方法であって、合成したメソ構造体を溶媒(溶剤)中で加熱処理すること、上記溶媒として、加熱により上記界面活性剤分子の分解反応が進行する溶媒を用いること、メソ構造を安定に保持して界面活性剤分子を分解除去すること、を特徴とするものである。本発明の界面活性剤の除去方法は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体をアセトン中で加熱処理すること、また、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体を80〜150℃の温度範囲で加熱処理すること、を好ましい実施の態様としている。
【0013】
本発明においては、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤として、アルキルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンブロック共重合体の内から選択される1種以上の界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子が除去され、また、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体から界面活性剤分子が除去される。また、本発明では、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体は、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から生成されるメソ多孔体であって、メソ構造が実質的に崩壊されることなく界面活性剤分子が除去されていることを特徴とするものである。ここで、メソ構造が実質的に崩壊されることなくとは、メソ構造がほとんど安定に保持された状態であることを意味する。本発明のメソ多孔体は、メソ構造体のアセトン中での加熱処理によりポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤分子が除去されていること、メソ構造体が、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体であること、及び、メソ多孔体が、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体から生成されるメソ多孔体であること、を好ましい実施の態様としている。
【0015】
本発明の界面活性剤分子の除去法は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体に適用されるものである。このポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤としては、好適には、例えば、アルキルポリオキシアルキレン及びポリオキシアルキレンブロック共重合体を挙げることができる。これらのアルキルポリオキシアルキレンのアルキル基には、自己集合能を失わなければ、任意の官能基を含むものも含まれる。
【0016】
ポリオキシアルキレン鎖は、例えば、エチレン鎖のものが汎用であるが、本発明では、エチレン鎖、プロピレン鎖、及びブチレン鎖などのアルキレン鎖の内から選択される一種以上であれば、アセトン等の溶媒中での加熱処理により分解反応が進行してメソ構造体からの界面活性剤分子の除去が可能である。ポリオキシアルキレンブロック共重合体のアルキレンブロックに関しても同様であり、例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体が汎用であるが、本発明では、エチレン鎖、プロピレン鎖、及びブチレン鎖などのアルキレン鎖の内から選択される二種以上の組み合わせであれば、分子内での疎水性と親水性の相違から自己集合能が発現し、メソ構造体を得ることができる。
【0017】
そして、これらについても、アセトン等の溶媒中での加熱処理により分解反応が進行してメソ構造体から界面活性剤分子が除去される。また、本発明では、トリブロック共重合体以外にも、直線的なブロック重合体であるジブロック共重合体や、更にブロック数の大きいブロック共重合体、及び非直線的なスターブロック共重合体などを利用して合成したメソ構造体からも、同様の手法により界面活性剤分子の除去が可能である。
【0018】
界面活性剤分子の分子構造が自己集合形態に影響するため、本発明では、例えば、アルキルポリオキシアルキレン界面活性剤又はポリオキシアルキレンブロック共重合体界面活性剤の中から、用いる界面活性剤を適切に選択することで、例えば、ラメラ構造、二次元六方構造、各種立方構造、及び三次元六方構造を有するメソ構造体を得ることができる。これらの構造規則性が低くなると、XRD測定から低角度領域に1つの回折ピークしか示さなくなることもあるが、本発明では、それらも、界面活性剤分子の分子集合形態を反映した構造規則性として解釈しても差し支えない。即ち、本発明では、XRD測定から低角度領域に少なくとも1つの回折ピークを示す構造規則性を有するメソ構造体が対象とされる。
【0019】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含有する界面活性剤は、上記のアルキルポリオキシアルキレン及びポリオキシアルキレンブロック共重合体のように、界面活性剤分子の分子構造中に大量に酸素分子を含むために、アセトン等の溶媒中での加熱処理により分解反応が進行してメソ構造体から界面活性剤分子が除去される。逆に、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム界面活性剤を用いて合成したメソ構造体を、溶剤中で加熱処理しても、界面活性剤分子の分解反応は進行しないことが確認されている。
【0020】
本発明においては、アセトン等の溶媒中での加熱処理により、メソ構造体からポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤分子が除去された後も、メソ構造が崩壊されることなくその構造規則性が安定に保持される。構造規則性が保持されるメソ構造体としては、無機組成では、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムを主骨格とするものを例示することができる。また、それらの骨格内に異種金属を同型置換したメソ構造体でも、構造規則性は保持される。このことは、無機有機複合組成のメソ構造体にも拡張することができる。
【0021】
シリカ及びリン酸アルミニウム類似の無機ユニットと有機成分とからなる有機シリカ、フォスフォン酸アルミニウム、及びそれらの骨格内に異種金属を同型置換したメソ構造体をアセトン等の溶媒中で加熱処理すると、メソ構造が崩壊されることなく界面活性剤分子が除去され、メソ構造を安定に保持したメソ多孔体が得られる。また、アセトン等の溶媒中で加熱処理する過程では、無機骨格の縮合反応は、ほとんど進行せず、有機種と無機種との間の共有結合の切断も観察されないため、本発明は、メソ構造体の骨格構造が実質的に崩壊されることなくほとんど保持された状態でメソ多孔体が得られるという特徴を有する。
【0022】
本発明で使用される溶媒(溶剤)としては、加熱処理によりポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤分子の分解反応が進行する溶剤であれば制限されるものではないが、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体、及び有機シリカ、フォスフォン酸アルミニウム、及びそれらの骨格内に異種金属を同型置換したメソ構造体に対しては、アセトンが好適である。その他の溶剤でも、加熱処理によりポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の分解反応は進行するため、無機成分に対する配位能力、或いは反応性が低いこと、無機成分、或いは無機有機複合成分を溶解する能力が低いことなどの条件を満たすものであれば好適に使用することが可能である。
【0023】
本発明の方法は、これらの条件を満たす溶剤を適切に選択することにより、遷移金属酸化物、遷移金属リン酸塩、及びそれらの無機有機複合組成のメソ構造体にまで拡張することのできる界面活性剤分子の除去法として適用可能である。また、加水分解反応を受け易い組成の材料では、溶剤中に水分子が共存していないことも非常に重要な処理条件であり、例えば、水分子と任意の割合で混合でき、完全に水分子を除去できないメタノールやエタノール等は、本発明で使用する溶剤としては好ましくない。
【0024】
本発明において、例えば、アセトン中でメソ構造体を処理する条件としては、水分子が共存していないことが非常に重要である。僅かに水分子が存在してしまう場合には、アセトン中に添加するメソ構造体の量を多くすると試料自身が水分子を吸着除去するために、無機骨格の加水分解反応の進行が抑制され、構造規則性を保持したままで界面活性剤分子を除去することが可能となる。しかし、この吸着水分子の存在や溶剤中に僅かに溶解している水分子は少なからず存在するため、高温での加熱処理によってメソ構造体の構造規則性は崩壊してしまう可能性がある。そのため、本発明では、150℃より低い温度で加熱処理することが好ましく、一方、低温の処理では、ポリオキシアルキレン鎖の分解反応が進行しないため、好適には、80℃より高い温度で加熱処理することが重要、且つ必要である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からそのメソ構造を崩壊させることなく界面活性剤分子を完全に分解、除去することができる。
(2)従来、加熱処理により結晶化し易い又は加水分解反応を受け易い非シリカ組成のメソ構造体や、焼成、分解及び抽出手段による界面活性剤分子の除去が不適切な無機有機複合組成のメソ構造体に好適に適用可能な界面活性剤分子の除去技術は存在しなかったが、本発明は、これらのメソ構造体にも好適に適用することが可能な界面活性剤の除去方法を提供することができる。
(3)本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体からそのメソ構造を安定に維持して界面活性剤分子を除去する方法として好適に適用することができる。
(4)本発明により、上記メソ構造体からメソ構造を安定に維持して界面活性分子を完全に分解、除去することで、メソ構造を安定に保持したメソ多孔体を合成することが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(1)メソ構造体の合成
界面活性剤として、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体を用いて、二次元六方構造を有するシリカメソ構造体を合成した。即ち、蒸留水30mL中に、トリブロック共重合体(EO20PO70EO20)を4g及び2N−HClを120mL添加し、35℃で撹拌することで、界面活性剤を含む透明な酸性水溶液を得た。その溶液に、シリカ源としてテトラエトキシシランを添加した後に、密閉容器に移し、80℃で加熱した。得られた試料を蒸留水で繰り返し洗浄し、風乾することで、二次元六方構造のシリカメソ構造体を得た。
【0028】
(2)界面活性剤分子の分解除去
合成した二次元六方構造を有するシリカメソ構造体を乾燥した後に、脱水アセトン中に分散し、100℃で24時間加熱処理した。得られた試料を、ろ過、脱水アセトンで繰り返し洗浄した後に、50℃で乾燥した。この操作を繰り返し行うことで、ブロック共重合体の除去を行った。
【0029】
(3)結果
アセトン処理後の試料の粉末X線回折(XRD)測定から、二次元六方構造が保持されていることを確認した。元素分析測定の結果、アセトン処理後の有機含有量が大きく減少しており、界面活性剤分子が除去されていることを確認した。また、繰り返しのアセトン処理で界面活性剤分子の除去率が向上した。窒素吸着測定の結果から、高比表面積を示すシリカメソ多孔体が生成したことを確認した。ケイ素原子に関する核磁気共鳴分析(29Si)からは、アセトン処理過程でケイ酸骨格構造がほとんど変化していないことが明らかとなった。
【実施例2】
【0030】
実施例1のシリカを基本骨格とする組成では、非晶質構造を保持し易く、加水分解反応を受ける程度が低いという特徴があることから、本発明の界面活性剤分子の除去法の優位性が明確に示されていないと考えられる。そこで、本実施例では、骨格構造中に有機基を含むフォスフォン酸アルミニウム(特許文献3)に着目し、メソ構造体の合成、及び界面活性剤分子の分解除去を試みた。フォスフォン酸アルミニウムとは、有機基とリン酸アルミニウム類似の無機ユニットが交互に配列した無機有機複合骨格からなり、リン酸アルミニウムは、加水分解反応を受けやすい組成の一つである。そのため、先行文献(非特許文献1、2、及び3)では、低温で焼成することで界面活性剤分子を除去しているが、部分的に骨格内有機基の分解が進行している。ここでは、骨格中の有機基がメチレン基のものを用いて、アセトン中での加熱処理により界面活性剤分子の除去に関する実験を行った。
【0031】
(1)メソ構造体の合成
アルキルポリオキシアルキレンとして、ヘキサデシルポリオキシエチレンを用いて、二次元六方構造を有し、メチレン基を骨格中に含むメソ構造体を合成した。即ち、エタノール10mL及び水5mLを混合し、その溶液に、アルキルポリオキシエチレン(C16EO20)1.5g及びメチレンジフォスフォン酸0.97gを添加して均一溶液を調製した。その溶液に無水塩化アルミニウム0.98gを添加し、強酸性の透明溶液を得た。その溶液をトレイに移し、室温で溶媒除去を行い、50℃で完全に乾燥させて試料を得た。
【0032】
(2)界面活性剤分子の分解除去
次に、合成したメソ構造体からの有機除去実験を行った。乾燥したメソ構造体2.5 gを100mLの脱水アセトン中に分散し、100℃で24時間加熱処理を行った。得られた試料を、ろ過、脱水アセトンで繰り返し洗浄した後に、50℃で乾燥した。
【0033】
(3)結果
界面活性剤が除去されていることは、組成分析測定から確認した。アセトン処理前のメソ構造体の炭素含有量は約29mass%であった。参考として、完全に界面活性剤分子が除去された際の計算値は、ここで得られるメソ多孔体の組成がAl(OPCHPOであると仮定すると、6.25mass%となる。アセトン処理の回数を増やすことで、炭素含有量は、計算値近くまで減少することが確認されているが、例えば、アセトン処理を一度行った試料の炭素含有量は、約12mass%であった。
【0034】
その試料の窒素吸着測定の結果を図1に示す。均一なメソ孔を有するメソポーラス物質に特徴的なIV型の吸着等温線が得られており、比表面積、細孔容積、及び細孔径は、それぞれ391m−1、0.41cm−1、及び3.4nm(BJH法)と算出された。図2に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を示す。この観察結果からも均質なメソ孔の構造配列が確認された。アセトン処理前後の試料のXRDパターンを図3に示す。二次元六方構造に帰属可能な回折ピークが非常に強く観察された。また、アセトン処理前後で最低角に観察される回折ピークの面間隔の変化はd100=6.3nmから6.1nmと非常に小さかった。
【0035】
図4に、27Al及び31P MAS NMR測定結果を示す。それらの結果は、アセトン処理前後で各スペクトルがほとんど変化しておらず、骨格構造の変化がほとんど進行していないことを示している。例えば、低温焼成による界面活性剤分子の除去法と比較すると、XRD測定での最低角ピークの面間隔は、界面活性剤分子の燃焼開始温度程度である250℃で既にd100=5.4nmにまで減少し、骨格構造の収縮が大きく進行している。このことからも、本発明の界面活性剤分子の除去法は、その過程において、骨格構造をほとんど変化させない方法であることが確認される。
【実施例3】
【0036】
ポリオキシアルキレンブロック共重合体として、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体を用いて二次元六方構造を有し、メチレン基を骨格中に含むメソ構造体を合成した。即ち、エタノール30mL及び水5mLを混合し、その溶液に、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(EO20PO70EO20)1.2g及びメチレンジフォスフォン酸0.88gを添加して均一溶液を調製した。その溶液に無水塩化アルミニウム0.67gを添加し、強酸性溶液を得た。その溶液をトレイに移し、室温で溶媒除去を行い、50℃で完全に乾燥させて試料を得た。次いで、得られたメソ構造体からの有機除去実験を実施例2と全く同様にして行った。乾燥したメソ構造体3.0gを100mLの脱水アセトン中に分散し、90℃、120℃、又は150℃で24時間加熱処理した。得られた試料を、ろ過、脱水アセトンで繰り返し洗浄した後に、50℃で乾燥した。
【0037】
アセトン処理前後の試料のXRDパターンを図5に示す。アセトン処理後の試料でも回折ピークの存在が明瞭に確認された。ただし、加熱温度を高くすると回折ピークがブロード化する様子が観察され、構造規則性が低下する様子が確認される。元素分析測定の結果から、ブロック共重合体が除去されていることを確認した。窒素吸着測定からも、例えば、90℃で処理した試料の場合には、メソポーラス物質に特徴的なIV型の吸着等温線が得られ、比表面積、細孔容積、及び細孔径は、それぞれ223m−1、0.52cm−1、及び6.2nm(BJH法)と算出された。27Al及び31P MAS NMR測定からも、骨格構造の収縮がほとんど進行していない様子を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳述したように、本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からの界面活性剤分子の除去法及びメソ多孔体に係るものであり、本発明によれば、分子構造中に酸素分子を含有するポリオキシアルキレン鎖含有界面活性剤を用いて合成したメソ構造体からメソ構造を崩壊させることなく界面活性剤分子を除去することが可能である。本発明は、加熱処理により結晶化し易い又は加水分解反応を受け易い非シリカ組成のメソ構造体、焼成や分解による界面活性剤分子の除去が不適切な無機有機複合組成のメソ構造体などを適用対象とした界面活性剤分子の除去プロセスとして広範に利用することが可能である。本発明により、特に、非シリカ組成のメソ構造体からメソ構造を安定に保持したメソ多孔体を合成することが実現できる。本発明は、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体とそのメソ多孔体に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ヘキサデシルポリオキシエチレンを用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した試料の窒素吸着等温線(実施例2)を示す。
【図2】ヘキサデシルポリオキシエチレンを用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した試料のTEM観察結果(実施例2)を示す。
【図3】ヘキサデシルポリオキシエチレンを用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した際のXRDパターンの変化(実施例2)を示す。
【図4】ヘキサデシルポリオキシエチレンを用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した際の27Al及び31P MAS NMRスペクトルの変化(実施例2)を示す。
【図5】ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体を用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した際のXRDパターンの変化(実施例3)を示す。
【図6】ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体を用いて合成した、二次元六方構造を有し、メチレン基を含むフォスフォン酸アルミニウムメソ構造体をアセトン処理した試料の窒素吸着等温線(実施例3)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する方法であって、(1)合成したメソ構造体を溶媒中で加熱処理する、(2)上記溶媒として、加熱により上記界面活性剤分子の分解反応が進行する溶媒を用いる、(3)メソ構造を保持して界面活性剤分子を分解除去する、ことを特徴とする界面活性剤の除去方法。
【請求項2】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体をアセトン中で加熱処理する、請求項1に記載の界面活性剤の除去方法。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体を80〜150℃の温度範囲で加熱処理する、請求項1に記載の界面活性剤の除去方法。
【請求項4】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤として、アルキルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンブロック共重合体の内から選択される1種以上の界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から界面活性剤分子を除去する、請求項1又は2に記載の界面活性剤の除去方法。
【請求項5】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体から界面活性剤分子を除去する、請求項1又は2に記載の界面活性剤の除去方法。
【請求項6】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体が、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体である、請求項1又は2に記載の界面活性剤の除去方法。
【請求項7】
ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤を用いて合成したメソ構造体から生成されるメソ多孔体であって、メソ構造が実質的に崩壊されることなく界面活性剤分子が除去されていることを特徴とするメソ多孔体。
【請求項8】
メソ構造体のアセトン中での加熱処理によりポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤分子が除去されている、請求項7に記載のメソ多孔体。
【請求項9】
メソ構造体が、ポリオキシアルキレン鎖を構造中に含む界面活性剤の自己集合形態を反映した構造規則性を有するメソ構造体である、請求項7に記載のメソ多孔体。
【請求項10】
メソ多孔体が、シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、有機シリカ、又はフォスフォン酸アルミニウムを主骨格とするメソ構造体から生成されるメソ多孔体である、請求項7に記載のメソ多孔体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−182346(P2007−182346A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1281(P2006−1281)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人科学技術振興機構「高度に制御されたナノ空間材料の創製 縮合ケイ酸塩骨格を基本構造とするメソ多孔体の合成」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】