説明

ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法

【課題】簡単な操作で、1,4−ジオキサンの生成を低減できるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオキシエチレンアルキルエーテルと三酸化硫黄含有ガスとを接触させて前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルを硫酸化する硫酸化反応工程と、前記硫酸化反応工程の反応生成物を1℃/秒以上の冷却速度で冷却して固化させる凝固工程と、前記固化後の反応生成物を中和する中和工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩は、アニオン界面活性剤として、液体洗浄剤、シャンプーなどの種々の用途に使用されている。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルと三酸化硫黄(以下、SOと略記する。)含有ガスと接触させて硫酸化し、この反応生成物を中和することにより当該硫酸化物を硫酸塩とする方法が一般的である。
かかるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造においては、従来より、1,4−ジオキサンが副生物として生成することが問題となっていた。1,4−ジオキサンの生成は、得られるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩中に1,4−ジオキサンが不純物として含まれることになる。
【0003】
そのため、これまで、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法について、1,4−ジオキサンの生成をできるだけ低減するために、様々な検討が行われている。
たとえば特許文献1には、ポリオキシアルキルエーテルを硫酸化した後に、得られたアルキルエーテル硫酸を薄膜蒸発させて、1,4−ジオキサンを除去した後、中和する方法が開示されている。
特許文献2には、薄膜硫酸化を、最高温度70℃以下、好ましくは45〜60℃で、SO/原料(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)モル比を0.95〜0.99として行なう方法が提案されている。
特許文献3には、アルカノールオキシエチラートにカルボン酸アミドオキシエチラートを少量添加することにより、1,4−ジオキサン生成を抑制する方法が開示されている。
特許文献4には、SO/原料モル比を0.95〜1.0とし、70℃以下の最高反応温度で薄膜硫酸化を行うと共に、気液分離後の硫酸化物の温度を40℃以下とし、その硫酸化物を、気液分離後3分以内に中和する方法が提案されている。
特許文献5には、硫酸化反応を低温で行うか、または高温で硫酸化反応を行った後、急速冷却して室温程度の温度にすることで、1,4−ジオキサンの生成を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭63−246357号公報
【特許文献2】特開平01−19055号公報
【特許文献3】特開平02−4436号公報
【特許文献4】特開2001−151746号公報
【特許文献5】特開2001−187776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、薄膜蒸発設備や減圧設備などが必要である。また、反応生成物を不活性ガス気流下にさらす必要があり、時間的、エネルギー的に不利である。
特許文献2に開示された発明においては、原料供給量や反応装置によって効果に差があり、安定した結果が得られない場合がある。また、SO/原料モル比が小さく、反応率が低下する傾向がある。
特許文献3に開示された発明においては、第3成分を添加する必要があり、生成物中に不純物として混在してしまうという問題がある。
また、特許文献4〜5に開示された発明によれば、従来に比べて、1,4−ジオキサンの生成を、簡単な操作で低減できる。しかし、界面活性剤の製造者、使用者等においては、1,4−ジオキサンの生成をさらに低減できるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法に対する要求がある。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであって、簡単な操作で、1,4−ジオキサンの生成を低減できるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとSO含有ガスとを接触させて前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルを硫酸化する硫酸化反応工程と、
前記硫酸化反応工程の反応生成物を1℃/秒以上の冷却速度で冷却して固化させる凝固工程と、
前記固化後の反応生成物を中和する中和工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法によれば、簡単な操作で、1,4−ジオキサンの生成を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
<硫酸化反応工程>
本工程では、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとSO含有ガスとを接触させる。これにより、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがSOと反応して硫酸化される。
【0008】
原料であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、目的とするポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩に対応するものを用いればよい。本発明においては、下記一般式(I)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。
RO−(CO)−H …(I)
式中、Rは炭素数8〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示し、nは1〜20の数を示す。
Rのアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、Rのアルキル基の炭素数は、10〜18が好ましく、12〜14が特に好ましい。
nは、エチレンオキサイドの平均付加モル数(平均エチレンオキサイド付加モル数)であり、nが小さいほど1,4−ジオキサンが生成しにくい傾向がある。nとしては、1〜5が好ましく、1〜3が特に好ましい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0009】
SO含有ガスとしては、SOガスそのものを用いてもよいが、硫酸化反応が均一に生じることから、脱湿した空気または窒素などの不活性ガスでSOガスを希釈した希釈ガスを用いることが好ましい。
SO含有ガス中のSO濃度は、1〜30容量%であることが好ましく、1〜20容量%がより好ましく、2〜10容量%がさらに好ましい。SO濃度が30容量%以下であると、硫酸化反応が、部分的に過剰反応を生じることなく均一に生じ、反応生成物の色も良好である。SO濃度が1容量%以上であると、希釈ガス全体としての使用量が少なくて済み、排ガスの量も低減できる。
【0010】
SO含有ガスの使用量は、SOとポリオキシエチレンアルキルエーテルとのモル比が、SO/ポリオキシエチレンアルキルエーテル=0.95〜1.05の範囲内となる量が好ましく、0.98〜1.02の範囲内となる量がより好ましい。1.05以下であると、1,4−ジオキサンが生成しにくい傾向があり、硫酸化工程終了時の反応生成物中の1,4−ジオキサン量を低減できる。0.95以上であると、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとSOとの反応率が良好である。
ここで、「反応率」とは、原料であるポリオキシエチレンアルキルエーテルのうちの消費された(硫酸化された)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの割合(%)を意味する。
【0011】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとSO含有ガスとを接触させる方法としては、特に制限はなく、たとえば公知の気液反応装置、たとえば槽型反応装置、薄膜式反応装置等を使用して行うことができる。しかし、槽型反応装置を用いた場合の反応時間は、通常、30〜60分であり、薄膜式反応装置を用いた場合の通常の反応時間である5〜30秒より長い時間がかかり、反応進行中に1,4―ジオキサンが増加する懸念があり、薄膜式反応装置を用いるのが好ましい。
薄膜式反応装置としては、たとえば流下薄膜式反応装置、上昇薄膜型反応装置、管型気液混合相流反応装置などを用いることができる。
薄膜式反応装置の中でも、反応効率、着色などの観点から、流下薄膜反応装置が好ましい。
【0012】
反応温度は、40〜70℃が好ましく、40〜60℃がより好ましく、40〜50℃がさらに好ましい。40℃以上であると、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとSOとの反応効率が高く、短い反応時間で高い反応率を達成できる。70℃以下であると、1,4−ジオキサンが生成しにくい傾向があり、凝固工程を行うまでの反応生成物中における1,4−ジオキサンの生成を抑制できる。
上記反応温度のような比較的高温の条件で硫酸化反応工程を行う場合、硫酸化反応の反応生成物を、硫酸化反応後そのまま放置すると、1,4−ジオキサンが増加しやすい。よって、硫酸化反応の終了後、ただちに凝固工程を行うことが好ましい。
【0013】
<凝固工程>
次に、上記硫酸化反応工程で得られた反応生成物を1℃/秒以上の冷却速度で冷却して固化させる。これにより、1,4−ジオキサンの生成を効果的に抑制できる。
反応生成物の固化は、当該反応生成物を冷却して、当該反応生成物、すなわち硫酸化されたポリオキシエチレンアルキルエーテル(以下、硫酸化物ということがある。)の凝固点以下の温度にすることにより行うことができる。
たとえば上記一般式(I)におけるRが炭素数が12〜14の直鎖アルキル基であり、nが2〜3であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸化物、またはそれらの混合物の場合、その凝固点は、常圧(1atm)下において、−8〜−2℃程度であり、たとえば−10℃以下にまで冷却すると、当該硫酸化物は固化した状態となっている。
【0014】
ここで、「硫酸化物の凝固点」とは、硫酸化物が液体から固体に変化してその流動性が失われる最高の温度である。
硫酸化物の凝固点は、「化粧品原料基準」(薬事日報社、新訂版、419〜420ページ)に記載の「11.凝固点測定方法」に準拠して測定できる(ただし、凝固点が15℃以下になることが予想される場合、冷却用に用いる冷却媒は水の代わりにドライアイスとエタノールを用いる。)。
即ち、硫酸化物の凝固点の測定は、以下の様にして行うことができる。
[装置]
図3に示す装置を使用する。図3中の各符号は以下の意味を有する。
A:ガラス製空気外とう(内外の両壁に曇りどめシリコン油を塗る。)
B:試料容器((硬質)ガラス製試験管で、試料に接する部分を除いて曇りどめシリコン油を管の両壁に塗り、A中にさし込み、コルクせんで固定する。)
C:標線
D:ガラス製浴
E:ガラス製かき混ぜ棒(径3mm、下端を外径18mmの輪状にしたもの)
F:温度計4号、5号又は6号
G:温度計1号
H:補助温度計 温度計1号を用い、その水銀球が試料上面とFの示度(凝固点)の中央部にくるようにする。
[操作法]
試料を試料容器Bの標線Cまで入れる。ガラス製浴Dに、予想した凝固点よりも10〜15℃低い温度の水(冷却媒)を入れる。ただし、凝固点が15℃より低いことが予想される場合、冷却媒にドライアイスとエタノールを用いる。
試料を入れたBに、温度計F、補助温度計H及びガラス製かき混ぜ棒Eを付けてガラス製空気外とうA中にさし込み、試料の温度が予想した凝固点よりも5℃高い温度に冷却したとき、Eを毎分20回の割合で静かに上下に動かし、30秒ごとに温度を読む。凝固がはじまったならば、かき混ぜるのを止め、少なくとも連続4回の読みの差が0.2℃以内にある温度t℃をFの示度で読み、そのときのHの示度t’℃を読みとり、凝固点T℃を次の式によって計算した後、その平均値を凝固点とする。
過冷の状態になったときは、Bの内壁をEでこすり、凝固を促進させる。凝固がはじまったらならば、かき混ぜるのを止め、10秒ごとに温度を読み、1分間一定にとどまったときのFの示度t℃及びHの示度t’℃を読みとり、凝固点T℃を次の式によって求める。
T=t+0.00015(t−t’)(t−t’’)
式中、t’’は、t℃を読みとったときの試料の上面におけるFの度数である。その点にF目盛りがないときは、外挿して求める。
【0015】
冷却は、1℃/秒以上の冷却速度で行う必要があり、好ましくは5℃/秒以上、より好ましくは8℃/秒以上である。冷却速度が大きいほど、冷却中の1,4−ジオキサンの生成が抑制される。冷却速度の上限は、特に制限はないが、現実にそれ以上の冷却速度出すのが難しくコストアップにつながるため、10℃/秒以下が実用的である。
【0016】
冷却手段は特に限定されず、従来公知の方法により冷却できる。たとえば薄膜式反応装置で反応終了後、そのまま連続で回転式冷却機(日本真空技術K・K)等で冷却し、回転面から剥離することで、フレーク状に固化した反応生成物を得る方法などがある。
【0017】
<中和工程>
次に、凝固工程で固化した後の反応生成物の中和を行う。これにより、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩が生成する。
【0018】
中和は、反応生成物とアルカリとを接触させることにより行うことができる。
中和される反応生成物は、固化した状態のままのものであってもよく、溶解した状態のものであってもよい。固化した状態の反応生成物とアルカリとを接触させると、中和反応の反応熱(中和熱)が生じるため、反応生成物は、アルカリと接触した部分から溶解し、徐々に中和が進行する。
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、有機アミン、アンモニア等が挙げられる。
これらのアルカリは、通常、水溶液として用いられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、特に制限はなく、アルカリの種類によって適宜選択される。
【0019】
中和は、たとえば、反応生成物をアルカリ水溶液中に添加する方法、アルカリ水溶液を反応生成物に添加する方法等によって行うことができる。本発明においては、反応生成物をアルカリ水溶液中に添加する方法が好ましく、反応生成物が液体である場合は、前記硫酸化反応の反応生成物を滴下することが好ましく、固体である場合は、フレーク状または粉状にして添加することが好ましい。
【0020】
中和は、特に限定されるものではないが、硫酸化反応工程における硫酸化反応の終了後、30分以内に行うことが好ましく、20分以内に行うことがより好ましい。30分以内に行うことにより、1,4−ジオキサンの生成がさらに抑制される。
ここで、硫酸化反応の終了した時点とは、目的の反応率を確保した時点を意味し、目的とする反応率としては97%以上が好ましい。
【0021】
中和工程における温度条件は、生成したポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の熱分解等を防止するために、70℃以下とすることが好ましく、50℃以下とすることがより好ましい。下限としては、特に制限はないが、中和熱による温度上昇を抑制するための冷却にコストがかかるため、20℃以上が実用的である。
【0022】
反応生成物が中和されたかどうか、つまりポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸化物が硫酸塩となったかどうかは、液体状態の反応生成物のpHを測定することにより確認できる。中和は、通常、pHが5〜9程度になるように行われる。
【0023】
本発明の製造方法により製造されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の種類は、特に制限はなく、たとえば従来アニオン性界面活性剤として提案されているポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩であってよい。
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリエタノールアミン塩等の有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩の種類は、中和工程で用いるアルカリの種類を選択することにより選択できる。
【0024】
上述したように、本発明のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法においては、硫酸化反応工程の反応生成物を急速に冷却し、固化させるという簡単な方法により、1,4−ジオキサンの生成を効果的に抑制することができる。そのため、得られるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩は、1,4−ジオキサンの含有量が低減されたものであり、本発明によれば、たとえば1,4−ジオキサン含有量が20ppm以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を得ることができる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩中に含まれる1,4−ジオキサンの含有量は、公知の方法、たとえばガスクロマトグラフィー等により測定できる。
【0025】
さらに、本発明においては、40℃以上の比較的高い温度で硫酸化を行った場合でも、1,4−ジオキサンの生成を効果的に低減できる。したがって、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を、高い反応率で得ることができる。
また、硫酸化物を固化させるという簡単な操作でよいため、薄膜蒸発設備や減圧設備などの大がかりな設備を必要とせず、エネルギー的に有利である。また、原料と三酸化硫黄との比率をそれ程厳密に制御する必要もない。
さらに、特許文献3に開示された発明のように第3成分の添加を必要としないため、不純物の少ないポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
以下の実施例および比較例においては、下記の材料を使用した。
「C12、14を主体とする天然アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル」:アルキル基の炭素数が12のアルコールと、アルキル基の炭素数が14のアルコールとの混合物である天然アルコール(商品名:CO1214、P&G社製)にエチレンオキシド(EO)を平均2または3モル付加させたもの。
「C12、13を主体とする合成アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル」:アルキル基の炭素数が12のアルコールと、アルキル基の炭素数が13のアルコールとの混合物である合成アルコール(商品名:Neodol23、Shall社製)にエチレンオキシド(EO)を平均2または3モル付加させたもの。
「水酸化ナトリウム」:フレーク苛性ソーダ(旭硝子社製)
【0027】
各ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸化物の凝固点は、段落番号[0014]に記載したように、「化粧品原料基準」(薬事日報社、新訂版、419〜420ページ)に記載の「11.凝固点測定方法」に準拠して測定した。
【0028】
また、反応生成物中の1,4−ジオキサン量は、以下の測定方法により求めた。
<1,4−ジオキサンの測定方法>
反応生成物を100mlメスフラスコに15g程度精秤し、エタノールでメスアップして調製した試料について、下記の測定条件でガスクロマトグラフィーを行い、別途、1,4−ジオキサンの試薬をエタノールで希釈して作成した検量線用試験溶液を用いて作成した検量線により、試料中の1,4−ジオキサン量を定量し、その結果から、反応生成物中の1,4−ジオキサン量を求めた。
[ガスクロマトグラフィー測定条件]
・使用装置:キャピラリーガスクロマトグラフィー(装置名:HP5890、ヒューレット・パッカード社製)
・カラム:DB−WAX(J&Wサイエンティフィック(Scientific)社製、長さ30m、内径(I.D.):0.25mm、フィルムの膜厚:0.25μm)
・温度プログラム:保持時間40℃10分→30℃/minで200℃まで昇温10分
・キャリアーガス:ヘリウム(30cm/secの線速度になるように調整)
・検出器:FID、温度200℃
・サンプル注入量:1μL
・スプリット比:[30:1]
【0029】
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
原料としてC12、14を主体とする天然アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均エチレンオキサイド付加モル数3,平均分子量=466,硫酸化物としたときの凝固点:−6℃)を用い、下記の条件で硫酸化反応を行った。
[硫酸化反応条件]
・SO含有ガス:SO濃度4容量%となるよう空気で希釈したガス。
・SO含有ガスの使用量:SOとして原料の1.00モル倍量(ポリオキシエチレンアルキルエーテル/SO(モル比)=1.00)。
・反応装置:流下型薄膜反応装置(円筒型ガラス製、内径6mm、長さ1200mm)。
・反応温度:50℃。
・反応時間:5〜10秒間
硫酸化反応の反応率は97%であり、得られた硫酸化物を即中和したときの中和生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)は、15ppmであった。
【0030】
ついで、得られた硫酸化物を、表1に示す冷却速度で表1に示す到達温度まで冷却し固化した。冷却速度は、各種寒剤(冷却速度10℃/秒のときドライアイス/エタノール、5℃/秒のとき塩化カルシウム6水和物/氷、1℃/秒及び0.5℃/秒のとき食塩/氷)を用いて調整した。
硫酸化反応終了から20分後に4質量%の水酸化ナトリウム水溶液中へ、固化された硫酸化物の小片を添加することにより中和した。中和時の温度は50℃以下を維持した。中和が完了したことは、pH試験紙により確認した。
得られた反応生成物(硫酸塩(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム))中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)を測定し、その結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
〔実施例2〜6、比較例5〜8〕
原料としてC12、14を主体とする天然アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均エチレンオキサイド付加モル数2,平均分子量=422,硫酸化物としたときの凝固点:−5℃)を用いた以外は実施例1と同様にして硫酸化反応を行った。
硫酸化反応の反応率は97%であり、得られた硫酸化物を即中和したときの中和生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)は、15ppmであった。
【0033】
ついで、得られた硫酸化物を、表2に示す冷却速度で、表2に示す到達温度まで冷却し、固化させた。
硫酸化反応終了時から20分後に、実施例と同様にして反応生成物を中和した。得られた反応生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)を測定し、その結果を表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
〔実施例7〜9、比較例9〜12〕
原料としてC12、13を主体とする合成アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均エチレンオキサイド付加モル数3,平均分子量=456,硫酸化物としたときの凝固点:−6℃)を用いた以外は実施例1と同様にして硫酸化反応を行った。
硫酸化反応の反応率は97%であり、得られた硫酸化物を即中和したときの中和生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)は、15ppmであった。
【0036】
ついで、得られた硫酸化物を、表3に示す冷却速度で、表3に示す到達温度まで冷却し、固化させた。
硫酸化反応終了時から20分後に、実施例と同様にして反応生成物を中和した。得られた反応生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)を測定し、その結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
〔実施例10〜12、比較例13〜16〕
原料としてC12、13を主体とする合成アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均エチレンオキサイド付加モル数2,平均分子量=412,硫酸化物としたときの凝固点:−5℃)を用いた以外は実施例1と同様にして硫酸化反応を行った。
硫酸化反応の反応率は97%であり、得られた硫酸化物を即中和したときの中和生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)は、15ppmであった。
【0039】
ついで、得られた硫酸化物を、表4に示す冷却速度で、表4に示す到達温度まで冷却し、固化させた。
硫酸化反応終了時から20分後に、実施例と同様にして反応生成物を中和した。得られた反応生成物(硫酸塩)中の1,4−ジオキサン量(対硫酸塩:単位ppm)を測定し、その結果を表4に示した。
【0040】
【表4】

【0041】
上記結果に示すように、冷却速度を1℃/s以上とし、硫酸化物を凝固点以下にすることによって、1,4−ジオキサンの増加を抑制することができた。
【0042】
〔評価試験1〕
以下の手順で、硫酸化工程終了後の硫酸化物の滞留温度による1,4−ジオキサンの生成量の違いを評価した。
原料としてC12、13を主体とする合成アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均エチレンオキサイド付加モル数3,平均分子量=466,硫酸化物としたときの凝固点:−6℃)を用い、実施例1と同様にして硫酸化反応を行った。
得られた硫酸化物を、−10℃、30℃、40℃または50℃の滞留温度で保持し、反応終了から5分毎に少量サンプリングし、中和を行い、得られた硫酸塩中の1,4−ジオキサン量(ppm対硫酸塩)の経時変化を測定した。中和をすることで1,4−ジオキサンの生成が止まるので、反応終了から中和するまでの時間が滞留時間となる。なお、−10℃、30℃、40℃の例については、反応終了後、5℃/秒の冷却速度でそれぞれの温度に冷却した。その結果を図1に示した。
図1に示すように、硫酸化物を凝固点以下の−10℃とした場合は、1,4−ジオキサンの増加速度が0.01ppm対硫酸塩/分であり、1,4−ジオキサンの生成がほぼなくなることがわかった。
このように、硫酸化物を固化させることで、反応完了時以降の1,4−ジオキサンの副生を、固化させない場合に比べて大幅に抑制できることがわかった。
【0043】
〔評価試験2〕
実施例1および比較例1〜3で得られた反応生成物(硫酸塩)について、反応終了時点から30分後の1,4−ジオキサン量(ppm対硫酸塩)を求めた。
この値から求めたlog[1,4−ジオキサン増加量(ppm対硫酸塩)]を縦軸にとり、到達温度(℃)を横軸にとって、その交点を図2に示した。
図2に示すように、硫酸化物が液状のままであった比較例1〜3については、ほぼ同一直線上に配置され、温度と1,4−ジオキサン量との間に相関があることがわかった。一方、硫酸化物を固化させた実施例1においては、その直線上にのっておらず、1、4―ジオキサンの生成が格段に抑制されたことがわかった。
【0044】
評価試験1および2の結果から、硫酸化物を凝固させる場合と凝固させない場合とで、その1、4―ジオキサン生成抑制効果に、量的に顕著な差異があることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】硫酸化工程終了後の反応組成物(硫酸化物)の滞留温度による1,4−ジオキサンの生成量の違いを示すグラフである。
【図2】凝固工程における到達温度と1,4−ジオキサン生成量との関係を示すグラフである。
【図3】凝固点の測定に使用する装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルと三酸化硫黄含有ガスとを接触させて前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルを硫酸化する硫酸化反応工程と、
前記硫酸化反応工程の反応生成物を1℃/秒以上の冷却速度で冷却して固化させる凝固工程と、
前記固化後の反応生成物を中和する中和工程とを含むことを特徴とするポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131573(P2007−131573A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325807(P2005−325807)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】