説明

ポリオレフィン微多孔膜及び蓄電池用セパレータ

【課題】本発明は、耐熱性および長期信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータ等として特に好適な微多孔膜を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤を含む微多孔膜であって、充填剤の含有量が該微多孔膜の総質量に対して10質量%より大きく、80質量%以下であることを特徴とする微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜及び蓄電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、様々な孔径、孔形状、孔数を有し、その特異な構造により発現され得る特性から幅広い分野に利用されている。例えば、微多孔膜は、孔径の違いによるふるい効果を利用した水処理膜や濃縮などに用いられる分離膜、微多孔化による大表面積と多孔空間を利用した吸水、吸油、脱臭用材に用いられる吸着シート、分子サイズの違いにより空気や水蒸気などは通すが水は通さないという特徴を利用した透湿防水シート、多孔空間に各種材料を充填することで多機能化し、燃料電池などに有用な高分子電解質膜や加湿膜、さらには液晶材料、電池材料として用いられている。
【0003】
近年では、国際的な地球環境保護活動の高まりを背景とした省エネルギー化や省資源化の観点から、特に自動車業界において、電気自動車(PEV)やハイブリッド自動車(HEV)の導入、検討が積極的に行われており、そのモーター駆動電源や補助電源として燃料電池や大型リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。また瞬時に大電流の充放電が可能である電気二重層キャパシタはHEV用の補助電源として期待されており開発が進められている。リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電池には、正負極間の接触を防ぎ、イオンを透過させる機能を有するセパレータと呼ばれる電解液を保持した多孔膜が正負極間に設けられている。蓄電池のさらなる高エネルギー密度化に伴い安全性や自動車用途等への展開に伴い長期信頼性が強く求められている。また、蓄電池の高エネルギー密度化、高出力化に伴い、捲回構造や集電構造は日々多様化しており電池内におけるセパレータには様々な状態での耐熱性が求められる。
【0004】
このような事情のもと、例えば特許文献1は、ポリエチレンと層状鉱物と酸変性ポリオレフィンが特定の組成比率からなる微多孔膜が耐熱性に優れることを開示している。
また、特許文献2は、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子からなる微多孔膜であって、該微多孔膜の突刺強度が3N/20μm以上、突刺しクリープにおける膜厚保持率が16%以上であるポリオレフィン微多孔膜が、安全性および長期信頼性に優れ、非水電解液電池用セパレータとして好適であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183440号公報
【特許文献2】国際公開2006/25323号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記引用文献1,2に開示された微多孔膜はいずれも、耐熱性、信頼性の観点から、必ずしも十分に満足しうるものではなかった。
即ち、特許文献1,2において、実施例で開示されている耐熱性評価法は、微多孔膜がNi箔や正負極で面方向に圧着固定された状態での評価であり、例えば面方向に圧着固定されていない厳しい条件での評価では耐熱性になお改良の余地があった。また、電池用セパレータとしての長期使用下での信頼性に関する記載はない。特に、非水電解液電池のような蓄電池(蓄電デバイス)においては、耐熱性と長期信頼性とをより高度な次元で両立することが求められる。
本発明は、耐熱性および長期信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータ等として特に好適なポリオレフィン微多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、微多孔膜が面方向に圧着固定されていないような厳しい状況下においての耐熱破膜に着目し検討を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤を含むポリオレフィン微多孔膜であって、充填剤の含有量が該微多孔膜の総質量に対して10質量%より大きく、80質量%以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜が、耐熱性に優れ、また長期信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータ等として好適に使用し得ることを見出し、本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]
ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤を含む微多孔膜であって、充填剤の含有割合がポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、及び充填剤の総質量に対して10質量%より大きく、80質量%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
[2]
充填剤の前記含有割合が30質量%より大きく60質量%以下である、[1]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3]
充填剤が無機充填剤である、[1]又は[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[4]
変性ポリオレフィンの赤外吸光スペクトルが下記の特定の関係を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
0.010<(SA+SB)/SC<0.1
SA:1792cm−1付近に観察されるカルボニル基由来のピークAのピーク面積
SB:1712cm−1付近に観察されるカルボニル基由来のピークBのピーク面積
SC:1472cm−1付近に観察されるメチレン基由来のピークCのピーク面積
[5]
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が20万以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6]
変性ポリオレフィンの含有割合が微多孔膜の総ポリマー質量に対して、5質量%以上50質量%以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜からなる蓄電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性および信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータ等として特に好適なポリオレフィン微多孔膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で使用した変性ポリオレフィンの赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態における微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤を含む微多孔膜であって、充填剤の含有量が該微多孔膜の総質量に対して10質量%より大きく、80質量%以下であるポリオレフィン微多孔膜である。
【0012】
本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂とは、オレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体であって、分子鎖の内部及び側鎖にカルボキシル基および/またはカルボン酸誘導体基(酸無水物基等を含む。)が積極的に導入されていないものをいう。ここで、積極的に導入されていないとは、後述する[(SA+SB)/SC]の値として0.010以下であることをいう。
具体的には、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂が挙げられ、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられ、これらを単独、もしくは混合して使用することが出来る。本実施の形態の微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、低融点樹脂であり、かつ高突刺強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。なお、本実施の形態において「主成分」とは、特定成分がマトリックス中に占める割合が、好ましくは10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であることを意味し、100質量%であっても良いことを意味する。
【0013】
本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂または微多孔膜の粘度平均分子量(「Mv」と略記することがある。なお、混合物について測定される場合には、その混合物全体のMvを意味する。)は、5万以上1000万未満が好ましい。粘度平均分子量が5万以上であれば、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が向上しやすい上に、十分な絡み合いを付与しやすく高強度となりやすいので好ましい。粘度平均分子量が1000万未満であれば、均一な溶融混練を得やすい傾向があり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向があるので好ましい。より好ましい粘度領域は10万以上200万未満であり、さらには50万以上100万未満である。200万未満であれば高ポリマー濃度での溶融混練が容易な傾向であり生産性向上が期待できるばかりか、熱収縮が低減する傾向にあるために好ましい。例えば、単独で粘度平均分子量200万未満のポリオレフィンを使用する代わりに、粘度平均分子量が200万のポリエチレンと27万の混合物とし、混合物の粘度平均分子量を200万未満や50万以上としてもよい。
なお、本実施の形態におけるMvは、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0014】
ポリオレフィン樹脂は、単量体の種類、分子量、密度等の異なるものを複数種類混合して用いてもよい。
耐熱性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンと他のポリオレフィン樹脂とを混合して使用することが好ましい。特に高密度ポリエチレンとポリプロピレンを混合して使用することが高突刺強度と耐熱性を併せ持つことが可能となり好ましい。ポリオレフィン樹脂の総量に対してポリプロピレンを1質量%以上50質量%未満含むことが好ましく、5質量%以上40質量%未満含むことがより好ましく、20質量%以上30質量%未満含むことが更に好ましい。1質量%以上では良好な耐熱性が得られるために好ましく、50質量%未満では延伸性が良好な傾向であり、高突刺強度な多孔膜が得られやすいために好ましい。
【0015】
前記ポリオレフィン樹脂が、微多孔膜中の前記ポリオレフィン樹脂と、後述する変性ポリオレフィンとの総量中に占める割合としては、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。上限は特に限定は無く、99質量%未満であっても良い。ポリオレフィン樹脂が50質量%以上であれば、高突刺強度が得られやすい上に、長期信頼性にも優れる傾向となる。
【0016】
なお、本実施の形態で使用されるポリオレフィン樹脂には、本実施の形態の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料;ポリオレフィン樹脂および変性ポリオレフィン以外の重合体等の添加剤を混合して使用できる。
【0017】
本実施の形態にいう変性ポリオレフィンとは、前記ポリオレフィン樹脂の分子鎖の内部、或いは側鎖に、カルボキシル基および/またはカルボン酸誘導体基(酸無水物基等を含む。)が導入された化合物を意味する(即ち、“ポリオレフィン樹脂”は“変性ポリオレフィン”を含まない概念である)。
この変性ポリオレフィンは公知の方法にて得ることが可能である。例えば、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその酸誘導体をポリエチレン等のポリオレフィンと有機溶媒中もしくは溶融下にラジカル発生剤存在下でグラフトする方法や、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその酸誘導体とエチレン等のオレフィンとをラジカル共重合する方法などが挙げられる。ここでα,β−不飽和カルボン酸もしくはその酸誘導体としては例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、およびこれらのエステル類、酸無水物類などが挙げられる。酸無水物類の例としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、無水ジクロロマレイン酸、無水ジメチルマレイン酸などが挙げられる。
【0018】
本実施の形態において変性ポリオレフィンは次の効果を奏する。特筆すべき良好な耐熱性および長期信頼性を両立するためには、ポリオレフィン樹脂(未変性)と充填剤とからなる微多孔膜では達成が困難である。また蓄電池用セパレータとして使用した場合には、高温保存特性の点でなお改良の余地を有する。
これに対し、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、及び充填剤を併用することで特筆すべき良好な耐熱性および長期信頼性を両立することが可能となる。ポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィンのみからなる微多孔膜では、本実施の形態にて述べている耐熱性を発現することが困難である。また変性ポリオレフィンと充填剤のみからなる微多孔膜であっても、本実施の形態にて述べている耐熱性を発現することは困難である。さらに、変性ポリオレフィン分子内の相互作用が大きいため、高突刺強度および低透過性を有した微多孔膜を得ることが困難な傾向になり、蓄電池用セパレータして使用することは難しい。
変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン樹脂と相溶性が高く、また適度な極性基を有するために充填剤とも親和性を有し、ポリオレフィン樹脂と充填剤の親和性を高めることで、微多孔膜の耐熱性の向上を生み出していると推察される。また充填剤と作用することで、高温保存下のような過酷な条件においても安定した微多孔膜として信頼性に優れたものとなり得る。変性ポリオレフィンの具体的な好適な特性としては下記に挙げられる。
【0019】
変性ポリオレフィンにおけるカルボキシル基またはカルボン酸誘導体基である官能基の数としては、変性ポリオレフィン1分子中に平均して0.05個〜50個程度のものが望ましい。0.05個以上であればポリオレフィン、変性ポリオレフィン、充填剤を含む微多孔膜において耐熱性が優れる傾向にある。また0.05個以上であれば、本実施の形態の微多孔膜を非水電池用セパレータとして用いた場合に容量低下等の電池性能劣化を起こし難い傾向がある。50個以下であれば、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、無機粒子を含む微多孔膜においてポリオレフィンが例えば粘度平均分子量が20万以上のポリエチレンや高密度ポリエチレンであっても相溶性が高く、延伸性に優れることで高強度となり得やすい。
【0020】
また、変性ポリオレフィンについて、赤外分光法により得られるスペクトルが、カルボニル基由来のピークA(1792cm−1付近)、ピークB(1712cm−1付近)を
有する変性ポリオレフィンが好ましい。また、ピークA、ピークB、およびメチレン基由来ピークC(1472cm−1付近)の面積が以下の特定範囲を有することが好ましい。
【0021】
0.010<(SA+SB)/SC<0.1
SA:1765cm−1と1805cm−1を結ぶベースラインとピークAに囲まれた
面積
SB:1680cm−1と1740cm−1を結ぶベースラインとピークBに囲まれた
面積
SC:1400cm−1と1520cm−1を結ぶベースラインとピークCに囲まれた
面積
【0022】
上記関係[(SA+SB)/SC]は、変性ポリオレフィンと充填剤、および変性ポリオレフィンとポリオレフィン樹脂において特定の関係を示すものである。上記関係式で表される数値が小さい場合は、変性ポリオレフィンとポリオレフィン樹脂との相溶性が良好になる傾向であり、数値が大きくなる場合は、変性ポリオレフィンと充填剤が良好な親和性を示す傾向にある。具体的には、0.010より大きい場合は、耐熱性や高温保存などの信頼性に優れる。好ましくは0.020以上、さらに好ましくは0.030以上である。0.1よりも小さい場合は、ポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレンの場合や粘度平均分子量が20万以上であっても耐熱性と高強度を有することが出来る傾向にある。好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.07以下である。
【0023】
変性ポリオレフィンとして、具体的には「モディック」(三菱化学社製)、「アドマー」(三井化学社製)などが市販されている。
【0024】
本実施の形態の微多孔膜中において、変性ポリオレフィンの含有割合が微多孔膜の総ポリマー質量に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、8質量%以上30質量%以下がより好ましい。5質量%以上であれば良好な耐熱性が得られやすく、50質量%以下であれば保存特性が良好であり、さらに延伸性に優れるために高強度となり得やすい。
【0025】
本実施の形態のポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤の総量中に占める充填剤の割合は10質量%より大きく80質量%以下である。より好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上60質量%未満である。10質量%より大きい場合は、ポリオレフィン、および変性ポリオレフィンを含有した微多孔膜において耐熱性に優れた微多孔膜が得られやすい。80質量%以下であれば、高延伸倍率が可能であり高強度が得られやすい。また電池用セパレータとして使用した際に、高温保存時の容量低下が起こり難く、信頼性に優れる傾向となる。
【0026】
本実施の形態に用いられる充填剤は、ポリオレフィン樹脂と不活性であるものであることが好ましく、有機粒子でも無機粒子でも構わない。有機粒子の場合は、ポリオレフィン樹脂の融点よりも高い融点を有する有機粒子、又は融点を有さず、前記ポリオレフィン樹脂の融点よりも高いガラス転移点を有する有機粒子であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の融点よりも高い融点を有する有機粒子、又は融点を有さず、前記ポリオレフィン樹脂の融点よりも高いガラス転移点を有する有機粒子である場合は良好な耐熱性が得られやすい傾向にある。有機粒子としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等の単独重合体、2種類以上のモノマーから選択された共重合体、その架橋体などの粒子が好ましい。
【0027】
充填剤が無機粒子である場合は、室温における電気抵抗率が10−2Ω・cm以上の無機粒子であることが好ましい。好ましくは1014Ω・cm以上である。電気抵抗率が10−2Ω・cm以上であれば、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、無機粒子を含む微多孔膜を蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に、電極間において電子絶縁性を保つことが可能であり、セパレータとして優れた微多孔膜となりうる。電気抵抗率が高い場合は電子絶縁性を向上する方向であり、特に上限値に規定はない。
【0028】
無機粒子の形状は、球状、棒状、針状、板状といかなる形状であっても構わない。耐熱性の観点から、球状、棒状、針状が好ましい。無機粒子の構造は、例えば多孔構造、層状構造、無孔構造であっても構わない。好ましくは無孔構造である。無孔構造とは、一次粒子内部に内部表面積を実質的に有さない、すなわち、一次粒子自身に微細な細孔を実質的に有さない構造である。
一次粒子自身に微細な細孔を実質的に有さない無機粒子とは、多孔度(P/S)が0.1から3.0の範囲にある無機粒子をいう。P/Sとは、一次粒子径D(単位:μm)と粒子を構成する物質の密度d(単位:g/cm)から算出される単位重量あたりの表面積Sに対する、比表面積Pの比である。粒子が球形である場合には、粒子1個あたりの表面積はπD×10−12(単位:m)であり、粒子1個の重量は(πDd/6)×10−12(単位:g)であるので、単位重量あたりの表面積Sは、S=6/(Dd)(単位:m/g)となる。比表面積Pは、−196℃における窒素吸着等温線からBET式に基づいて求められる。このような無機粒子を用いると例えば非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に容量低下等の性能劣化を起こし難い傾向がある。理由は定かではないが、一次粒子内部に微細な細孔を実質的に有していなければ、通常の乾燥工程において容易に吸着水等を除去できるために、水分混在による容量低下を引き起こし難いと推測される。さらに、ポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィンの両者を含む微多孔膜に無孔構造である無機粒子を用いると少量の変性ポリオレフィン含有量においても耐熱性に優れた微多孔膜が得られる傾向にある。
【0029】
具体的な無機粒子としては、珪素、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの酸化物や窒化物、カルシウム、バリウムなどの炭酸塩や硫酸塩が好ましい。珪素酸化物は、軽量化、低コスト化の点で、アルミニウム酸化物は耐薬品性に優れ、特に非水電池用セパレータとして使用した場合に生じる可能性のあるフッ酸との反応性が低い点で、チタン酸化物は高透過性の微多孔膜が得られやすい点でより好ましい。また、適宜、表面処理を施した無機粒子を用いることが出来る。例えば、水系溶媒を使用したろ過用途向け微多孔膜や水系電解液蓄電デバイス用セパレータを製造する場合は、親水性処理を施した無機粒子が好適であり、非水系電解液蓄電デバイス用セパレータを製造する場合は、疎水処理を施した無機粒子が好適である。
【0030】
本実施の形態に使用する無機粒子は、粒径が1nm以上100nm未満であることが好ましく、6nm以上80nm未満がより好ましく、10nm以上60nm未満が更に好ましい。粒径は、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。粒径が100nm未満の場合は、延伸等を施した場合でもポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくいためにマクロボイドの発生を抑制出来る傾向にあり高強度となりやすい。また無機粒子がポリオレフィン中に分散し融着した状態となるために耐熱性においても優れる傾向がある。
【0031】
本実施の形態の微多孔膜は、例えば以下のようにして製造することができる。
(1)ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤及び可塑剤を溶融混練する工程、
(2)溶融物を移送し、シート状に成形した後、冷却固化する工程、
(3)面倍率が20倍以上200倍未満で少なくとも一軸方向に延伸する工程、
(4)(3)の延伸工程の前又は後に可塑剤を抽出する工程、
を含む方法により得られる。
【0032】
(1)の工程で添加する可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂及び変性ポリオレフィンと混合した際にポリオレフィン樹脂及び変性ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒が好ましい。好ましくは常温において液体である。例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジブチル等のエステル類、オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。特にポリオレフィン樹脂がポリエチレンの場合、流動パラフィンは、極性基を有さないためにポリエチレンと相溶性が高く延伸時に樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくいために耐熱性に優れた微多孔膜が得られやすい。また均一な延伸が実施しやすく高突刺強度が得られやすいために好ましい。
【0033】
使用する可塑剤の比率については、均一な溶融混練が可能な比率であり、シート状の微多孔膜前駆体を成形しうるのに充分な比率であり、かつ生産性を損なわない程度であることが好ましい。具体的には、ポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィンと充填剤と可塑剤からなる組成物100質量%中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30〜80質量%、更に好ましくは40〜70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下の場合、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向があるので好ましい。一方、質量分率が30質量%以上の場合は、延伸倍率の増大に伴い厚み方向に薄くなり、薄膜を得ることが可能であるので好ましい。また可塑化効果が十分なために結晶状の折り畳まれたラメラ晶を効率よく引き伸ばすことができる。高倍率の延伸を施した場合においてもポリオレフィン鎖の切断が起こらず均一かつ微細な孔構造となり強度も増加しやすい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィンと充填剤と可塑剤を溶融混練する方法は、該混合物を押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入し、更に樹脂と充填剤と可塑剤よりなる組成物を混練することにより、均一溶液を得る方法が好ましい。
【0035】
(2)の工程は、溶融物を移送し、シート状に成形し、冷却固化させて微多孔膜前駆体を製造する工程である。この工程は、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤、可塑剤の均一溶液をTダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却することにより行うことが好ましい。
【0036】
次に(3)の延伸工程だが、延伸方向は少なくとも一軸延伸である。二軸方向に高倍率延伸した場合、面方向に分子配向するため裂けにくく安定な構造となり高い突刺強度が得られる。延伸方法は同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独もしくは併用することも構わないが、延伸方法が同時二軸延伸であることが突刺強度の増加や膜厚均一化の観点から最も好ましい。ここでいう同時二軸延伸とはMD方向(樹脂の流れ方向、フィルムの長さ方向。)の延伸とTD方向(フィルムの幅方向。)の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なっても良い。逐次二軸延伸とは、MD方向、またはTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、またはTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、または定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、面倍率で20倍以上200倍未満の範囲であり、20倍以上100倍以下が好ましく、25倍以上50倍以下の範囲がさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上の場合は、膜に十分な突刺強度を付与でき、200倍未満では膜破断を防ぎ、高い生産性が得られるので好ましい。
【0037】
各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がさらに好ましい。MD方向に4倍以上およびTD方向に4倍以上延伸した場合は、MD方向、TD方向共に膜厚ムラが小さい製品が得られやすいために好ましい。MD方向又はTD方向の延伸倍率が10倍以下では捲回性に優れる。
【0038】
延伸温度はポリオレフィンの融点温度−50℃以上、融点温度未満が好ましく、ポリオレフィンの融点温度−30℃以上、融点温度−2℃以下がより好ましく、ポリオレフィンの融点温度−15℃以上、融点温度−3℃以下がさらに好ましい。ポリオレフィンの融点温度−50℃以上では、ポリオレフィンと充填剤間もしくはポリオレフィンと可塑剤間の界面剥離が生じにくく耐熱性に優れる傾向がある。ポリオレフィンの融点温度未満では高突刺強度が得られやすく、さらに延伸ムラが低減出来るために好ましい。例えば高密度ポリエチレンを用いた場合は、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上であり、上限として好ましくは132℃以下である。複数のポリオレフィンを混合し用いた場合は、その融解熱量が大きい方のポリオレフィンの融点を基準にすればよい。
【0039】
(4)の可塑剤を抽出する工程は、耐熱性および高突刺強度の観点で(3)の延伸工程の後に行うことが好ましい。
抽出溶剤に微多孔膜を浸漬することにより可塑剤を抽出し、充分に乾燥させ、可塑剤を微多孔膜から実質的に除去することが好ましい。微多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中に微多孔膜の端部を拘束することは好ましい。また、抽出後の微多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0040】
抽出溶剤は、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン微多孔膜の融点より低いことが望ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ハイドロフロロエーテルやハイドロフロロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。
【0041】
本実施の形態の微多孔膜において、本実施の形態の利点を損なわない範囲で各延伸過程に引き続いて、または後に熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、微多孔膜の収縮をさらに抑制する効果があり好ましい。
また、本実施の形態の利点を損なわない範囲で後処理を行っても良い。後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理、及び電離性放射線等による架橋処理等が挙げられる。
【0042】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜は、電池用、特に非水電解液電池用セパレータとして有用である。
微多孔膜の最終的な膜厚は2μm以上100μm以下の範囲が好ましく、5μm以上40μm以下の範囲がより好ましく、5μm以上35μm以下の範囲がさらに好ましい。膜厚が2μm以上であれば機械強度が十分であり、また、100μm以下であればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0043】
気孔率は、好ましくは25%以上90%以下、より好ましくは40%以上80%以下、さらに好ましくは50%以上80%以下の範囲である。気孔率が25%以上では、透過性が低下しにくく、一方90%以下では電池セパレータとして使用した場合に自己放電の可能性が少なく信頼性があるので好ましい。
なお、本実施の形態における当該パラメータは、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【0044】
透気度は、好ましくは10秒以上1000秒以下、より好ましくは20秒以上500秒以下、さらに好ましくは40秒以上200秒以下の範囲である。透気度が10秒以上では電池用セパレータとして使用した際に自己放電が少なく、1000秒以下では良好な充放電特性が得られるので好ましい。
なお、本実施の形態における当該パラメータは、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【0045】
突刺強度は、好ましくは3.0N/20μm以上20N/20μm以下、より好ましくは4.0N/20μm以上15N/20μm以下、さらに好ましくは5.0N/20μm以上10N/20μm以下の範囲である。突刺強度が3.0N/20μm以上では電池用セパレータとして使用した際に、電極と共に捲回する際に破膜等の不具合が起こり難く捲回性に優れ、20N/20μm以下では、良好な耐熱性が得られるので好ましい。
なお、本実施の形態における当該パラメータは、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【0046】
微多孔膜のバブルポイントは、0.3MPa以上2MPa以下が好ましく、0.5MPa以上1.8MPa以下がより好ましく、0.7MPa以上1.5MPa以下がさらに好ましい。バブルポイントが2MPa以下であれば透過性は良好であり、目詰まり等の影響も少ない。0.3MPa以上であれば、電池セパレータとして使用した場合に自己放電の可能性が少なく信頼性があるので好ましい。
なお、本実施の形態における当該パラメータは、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0048】
(1)膜厚
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて室温23±2℃で測定した。
【0049】
(2)気孔率
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤の各々の密度と混合比より計算で求められる値を用いた。
【0050】
(3)透気度
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)にて測定した。
【0051】
(4)突刺強度
カトーテック製、商標、KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度(N)とした。
【0052】
(5)バブルポイント(MPa)
ASTM E−128−61に準拠し、エタノール中でのバブルポイントにより算出した。
【0053】
(6)(SA+SB)/SC
測定には日本バイオラッドラボラトリーズ(株)製の二次元赤外分光光度計(FTS60A)を用いた。変性ポリオレフィンを薄膜状に圧縮成形し、結晶板で挟み測定を行った。
1792cm−1付近のピークをピークAとし、その面積をSAと定義する。1765cm−1と1805cm−1を結ぶベースラインとピークAにより囲まれた面積をSAとして算出した。1712cm−1付近のピークをピークBとし、その面積をSBと定義する。1680cm−1と1740cm−1を結ぶベースラインとピークBにより囲まれた面積をSBとして算出した。1472cm−1付近のピークをピークCとし、その面積をSCと定義する。1400cm−1と1520cm−1を結ぶベースラインとピークCにより囲まれた面積をSCとして算出した。
【0054】
(7)粘度平均分子量(Mv)
デカヒドロナフタリンへ試料の劣化防止のため2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.1w%の濃度となるように溶解させ、これ(以下DHNと略す)を試料溶媒として用いる。試料(単独物、又は混合物)をDHNへ0.1w%の濃度となるように150℃で溶解させる。作成した試料溶液を10ml採取し、キャノンフェンスケ粘度計(SO100)により135℃での標線間通過秒数(t)を計測する。また、DHNを150℃に加熱した後、10ml採取し、同様の方法により粘度計の標線間を通過する秒数(t)を計測する。得られた通過秒数t、tBを用いて次の換算式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=((1.651t/tB―0.651)0.5―1)/0.0834
求められた[η]より、次式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
【0055】
(8)粒径
充填剤の粒径は、透過型顕微鏡「日立H700−H」(日立製作所製)を用いて、任意の100粒子の面積を測定し、粒子個々の面積を円近似することによる方法で、その直径を粒径とした。
(9)P/S
比表面積(P)は、比表面積測定装置「ASAP−2400」(島津製作所製)を用いて、充填剤の吸着等温線を測定し、BET法により算出した。
充填剤の一次粒子径(D)は、(8)と同様の方法で測定した。
S(m/g)=6/(D・d)を算出し(dは充填剤の真密度)、P/Sを算出した。
(10)耐熱性評価
微多孔膜を60mm×60mm四方に切り出す。外幅50mm×50mm四方、内幅44mm×44m四方のSUS製の枠(幅6mm、厚さ1mm)で微多孔膜を固定する。枠から均等に微多孔膜がはみ出すように配置し、はみ出した部分を折り返し、ダブルクリップ(KOKUYO製、極豆)12個にて微多孔膜を固定しサンプルを作成する。所定温度に加熱したオーブン中にサンプルを静置した後、15分経過後にサンプルを取り出す。冷却後、微多孔膜の状態を目視で観察し判断する。破膜が観察され・BR>ネかった場合は合格(○)とし、破膜が観察された場合は不合格(×)とみなす。
【0056】
(11)高温保存(容量維持率(%))
a.正極
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにする。
b.負極の作成
負極活物質として人造グラファイト96.6質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにする。
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製する。
d.セル組立
セパレータを30mmφ、正極及び負極を16mmφの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋は絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接している。この容器内に前記した非水電解液を注入して密閉する。室温にて一日放置した後、25℃雰囲気下、2.0mA(0.33C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を2.0mAから絞り始めるという方法で、合計8時間電池作成後の最初の充電を行う。続いて2.0mA(0.33C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。
e.容量維持率の評価
充放電は充放電装置(型式HJ−201BS、北斗電工社製)を用いて以下の順序で実施した。25℃雰囲気下、6mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。次に、6mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。その時の放電容量をA(mAh)とする。
次に25℃雰囲気下、6mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。続いて、セルを充放電装置より取り外し、70℃に設定したオーブン中に10日間保管する。その後オーブンよりセルを取り出し、セル温度が室温に安定するまで放置する。
次に、25℃雰囲気下、6mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。続いて6mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。次に、6mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。その時の放電容量をB(mAh)とする。
放電容量A(mAh)およびB(mAh)より、下記の式にて容量維持率を定義した。
容量維持率(%)=B/A×100
なお、容量維持率が大きいほど、長期信頼性に優れることを意味する。
【0057】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を13.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を8.6質量部、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を2.4質量部、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を16.0質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」(商標、(株)松村石油研究所製)を60.0質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。使用した変性ポリオレフィンの赤外吸収スペクトルを図1に示す。これにより算出した(SA+SB)/SCは0.035であった。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を50rpmに設定して10分間行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで5分間圧縮し、続いて冷却して厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートは岩本製作所社製二軸延伸機を用いて110℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。次にステンレスの枠で四方を固定した状態とし塩化メチレン中で可塑剤を除去した後、室温で乾燥し微多孔膜を得た。得られた微多孔膜は、膜厚24μm、気孔率64%、透気度270秒、突刺強度4.8Nであった。耐熱性評価は157℃で破膜なしとの結果であった。また高温保存評価における容量維持率は91%と良好な結果を示した。製膜条件および特性は表1に示す。
【0058】
[実施例2]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを11.5質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを7.7質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を4.8質量部にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0059】
[実施例3]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを13.7質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを9.1質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を1.2質量部にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0060】
[実施例4]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを13.1質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを8.7質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を5.4質量部、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を12.8質量部にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0061】
[実施例5]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを16.9質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを11.3質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を7.0質量部、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を4.8質量部にし、同時二軸延伸の延伸温度を115℃にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0062】
[実施例6]
実施例5のMv27万の高密度ポリエチレンを20.0質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを13.4質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を1.8質量部にした以外は実施例5と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0063】
[実施例7]
実施例2の変性ポリオレフィンを「モディック−AP M504」(商標、三菱化学(株)製)に変更した以外は実施例2と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0064】
[実施例8]
実施例2の変性ポリオレフィンを「モディック−AP L503」(商標、三菱化学(株)製)に変更した以外は実施例2と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0065】
[実施例9]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を9.6質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を6.4質量部、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を4.0質量部、平均一次の粒径が13nmであるアルミナ「AluC」(商標、Degussa製)を30.0質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」(商標、(株)松村石油研究所製)を50.0質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。それ以降の工程は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0066】
[実施例10]
実施例2において、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)の代わりに、無水マレイン酸で変性した変性ポリオレフィンを4.8質量部使用した以外は実施例2と同様にして微多孔膜を得た。変性ポリオレフィンは、メルトフローレートが1.0g/10min(JIS K7210に準じて測定。190℃、加重21.1N)の低密度ポリエチレン100質量部に無水マレイン酸2.0質量部、およびターシャリーブチルクミルペルオキシド0.05質量部を窒素雰囲気下、230℃で溶融混練し得たものを使用した。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0067】
[実施例11]
実施例2のMv27万の高密度ポリエチレンを7.7質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンの代わりにMv12万の高密度ポリエチレン「S360」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を11.5質量部に変更した以外は実施例2と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0068】
[実施例12]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを6.5質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを4.3質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を13.2質量部にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0069】
[実施例13]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を10.6質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を7.0質量部、変性ポリオレフィン「モディック−AP L503」(商標、三菱化学(株)製)を17.6質量部、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を4.8質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」(商標、(株)松村石油研究所製)を60.0質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。使用した変性ポリオレフィンの赤外吸収スペクトルより算出した(SA+SB)/SCは0.022であった。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を50rpmに設定して10分間行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで5分間圧縮し、続いて冷却して厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートは岩本製作所社製二軸延伸機を用いて110℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。次にステンレスの枠で四方を固定した状態とし塩化メチレン中で可塑剤を除去した後、室温で乾燥し微多孔膜を得た。製膜条件および特性を表4に示す。
[実施例14〜19]
表3の組成比にて、実施例13と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および特性を表4に示す。
また、実施例15〜19の微多孔膜については、160℃以上の超高熱に対する耐熱性を(10)の方法に従って評価した。結果を表5に示す。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、Mv27万の高密度ポリエチレンを14.4質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを9.6質量部とし、変性ポリオレフィンを添加せずに実施した以外は、実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表2に示す。
【0071】
[比較例2]
実施例1のMv27万の高密度ポリエチレンを19.7質量部に、Mv200万の超高分子量ポリエチレンを13.1質量部に、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を3.6質量部に、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を3.6質量部にし、同時二軸延伸の延伸温度を115℃にした以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表2に示す。
【0072】
[比較例3]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を18.7質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を12.4質量部、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を3.9質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」(商標、(株)松村石油研究所製)を65.0質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を50rpmに設定して10分間行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで5分間圧縮し、続いて冷却して厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートは岩本製作所社製二軸延伸機を用いて115℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。次にステンレスの枠で四方を固定した状態とし塩化メチレン中で可塑剤を除去した後、室温で乾燥し微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表2に示す。
【0073】
[比較例4]
実施例1の粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を4.9質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を3.2質量部、変性ポリオレフィン「モディック−AP H511」(商標、三菱化学(株)製)を0.9質量部、平均一次の粒径が15nmであるシリカ「DM10C」(商標、(株)トクヤマ製)を41.0質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」(商標、(株)松村石油研究所製)を50.0質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。それ以降の工程は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表2に示す。
【0074】
[比較例5]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(商標、旭化成ケミカルズ(株)製)を83.0質量部、ステアリン酸「ルナック」(花王(株)製)を2.0質量部、平均一次の粒径が7nmであるシリカ「アエロジル300」(商標、日本アエロジル(株)製)を15.0質量部添加した添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を5
0rpmに設定して10分間行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで5分間圧縮し、続いて冷却して厚さ800μmのシートを作成した。得られたシートは岩本製作所社製二軸延伸機を用いて70℃で縦方向に1.3倍したあと、105℃で横方向に2倍に逐次二軸延伸して微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表2に示す。
【0075】
実施例および比較例からも示唆されるように、本実施の形態の微多孔膜は耐熱性に優れ、また非水電解液電池等の蓄電池用セパレータとして使用した場合の高温保存特性も優れることから、耐熱性および長期信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータ等として特に好適なポリオレフィン微多孔膜といえる。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、蓄電池用セパレータとして、また、燃料電池の一構成部品、加湿膜、ろ過膜等として好適に利用できる。特に、耐熱性および長期信頼性に優れることが要求される非水電解液電池用セパレータとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、充填剤を含む微多孔膜であって、充填剤の含有割合がポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン、及び充填剤の総質量に対して10質量%より大きく、80質量%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
充填剤の前記含有割合が30質量%より大きく60質量%以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
充填剤が無機充填剤である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
変性ポリオレフィンの赤外吸光スペクトルが下記の特定の関係を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
0.010<(SA+SB)/SC<0.1
SA:1792cm−1付近に観察されるカルボニル基由来のピークAのピーク面積
SB:1712cm−1付近に観察されるカルボニル基由来のピークBのピーク面積
SC:1472cm−1付近に観察されるメチレン基由来のピークCのピーク面積
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が20万以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
変性ポリオレフィンの含有割合が微多孔膜の総ポリマー質量に対して、5質量%以上50質量%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜からなる蓄電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242779(P2009−242779A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35150(P2009−35150)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】