説明

ポリオレフィン水性分散系の製造方法及びその方法で得られるポリオレフィンの水性分散系を含むコーティング剤用添加剤

【課題】 粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法、及び耐摩性、離型性、潤滑性に優れ、さらに、造膜性に優れるとともに、光沢や透明性を維持するコーティング剤用添加剤を提供する。
【解決手段】 粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法であって、遠心分離法により粗大粒子を含む液を密度の低い軽液側より除去し、粒子径の小さい粒子を含む液を密度の高い重液側より回収する、粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系の製造方法、
並びに、前記の方法で得られるポリオレフィンの水性分散系を含むコーティング剤用添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン水性分散系の製造方法及びその方法で得られたポリオレフィン水性分散系の用途に関し、より詳しくは、粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法、及びその方法で得られるポリオレフィンの水性分散系を含むコーティング剤用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン水性分散系はコーティング材料耐摩剤として使用しており、近年ではこれらの分野では光沢性や透明性などの意匠性が求められている。例えば、数平均分子量10,000以下のポリオレフィン水性分散系は耐摩剤、離型剤、潤滑剤等として使用されているが、粒子径1.5μm以上の粒子を含むと光沢が悪化し造膜性や透明性を損なうなどの課題があった。しかしながら、粒子径1.5〜10μmの粗大粒子は、従来の濾紙やメッシュを用いて濾過する方法では除去は困難であった。
【0003】
粗大粒子を除去する方法としては、従来より、遠心分離を用いる方法が提案されている(特許文献1,2,3)。これらの方法は、何れもタンパク質、水系顔料、シリカ粒子などの水よりも密度の高い物質を除去する方法であって、遠心分離後の上澄み液を回収することで粗大粒子を除去している。しかしながら、水より密度の低いポリオレフィンの粗大粒子を除去する方法は報告されていない。
【0004】
一般に、粒子径の異なる粗大粒子の除去方法としては、沈降法、濾過法、遠心分離法の慣性の原理に基づく方法が有る。これらの方法の中で、沈降法では、密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粒子径1.5μm以上の粒子の分離を行う場合、数か月単位の時間がかかる。また、濾過法で行う場合は、使用した濾過やフィルターの目詰まりが起こり効率的でない。遠心分離法については、水性分散系から密度が0.99g/cm3以下の粒子を除去する方法は知られていない。しかしながら、遠心分離法は、一般的に、数十秒で分離可能であり、時間当りの処理量も多く有効であることから、水性分散系から密度が0.99g/cm3以下の粒子を除去すること可能であれば、非常に有用な粒子調製方法である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−078240
【特許文献2】特開平11−181340
【特許文献3】特開平14−276469
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法、及び耐摩性、離型性、潤滑性に優れ、さらに、造膜性に優れるとともに、光沢や透明性を維持するコーティング剤用添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系を遠心分離することにより、粗大粒子が密度の低い軽液側より除去され、粒子径の小さい粒子が密度の高い重液側より回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法であって、遠心分離法により粗大粒子を含む液を密度の低い軽液側より除去し、粒子径の小さい粒子を含む液を密度の高い重液側より回収する、粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系の製造方法、
並びに、
前記の方法で得られるポリオレフィンの水性分散系を含むコーティング剤用添加剤
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリオレフィン水性分散系の製造方法においては、水よりも密度の低い0.99g/cm3以下のポリオレフィン水性分散系は遠心分離により、粒子径の大きい粒子は優先的に上澄み液である軽液側に分離され、粒子径の小さい粒子は重液側に分離されずに残る。上記原理を利用して回収した軽液は、粒子径1.5μm以上の粗大粒子が除去されており、その含有量は0.01%以下に調整される。本ポリオレフィン水性分散系をコーティング材料の添加剤として使用した場合、粗大粒子が造膜性、透明性・光沢性に優れた皮膜を形成する。さらに、数平均分子量10,000以下であり結晶化度が20%以上であるポリオレフィン水性分散系を添加剤として使用した場合、耐摩性、離型性、潤滑性に優れ、かつ透明性・光沢性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明における粒子径とは粒子の直径のことをいい、動的光散乱式粒子径分布測定装置やマイクロトラック粒度分布測定装置を使用して測定することができる。
【0012】
本発明におけるポリオレフィン水性分散系の製造方法は、ポリオレフィン水性分散系を回転体内に供給して遠心力で分離し、分離した液体を連続的に排出する遠心分離機において、粒子径1.5μm以上の粗大粒子を密度の低い軽液側より除去し、密度の高い重液側より連続的に回収する、遠心分離機による粗大粒子を除去する方法である。密度の低い軽液側と密度の高い重液側の排出比率は50/50〜10/90であると粒子径1.5μm以上の粗大粒子が効率よく除去され、回収率も高い。さらに、高効率で粗大粒子を分級するには回転数が3000rpm以上であることが望ましい。また、分散系の滞留時間は10秒以上であることが粗大粒子の除去効率を高める点で望ましい。また、分散効率を高める上で分散系の粘度は100cps以下であることが望ましく、50cps以下であることが更に望ましい。
【0013】
遠心分離法に用いる遠心分離機は特に限定されるものではないが、中でも回転体内に多数の分離板を積層した分離板群を装着し、分離板群の大きい沈降面積を利用して微粒子などを効率よく分離することができる分離板型遠心分離機が望ましい。
【0014】
本発明におけるポリオレフィンとは例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等の共役ジエン、非共役ジエンが挙げられ、さらに、スチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコールなどの単量体を単独又は2種以上組み合わせて重合することができる重合物である。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・スチレン共重合体などが挙げられる。
【0015】
さらに上記重合物にエチレン性不飽和単量体がグラフトしたり、酸素または酸素含有ガスを用いて溶融状態で酸化したり、ハロゲン化アルカリ金属を用いてハロゲン化することで得られる変性物も含まれる。
【0016】
本発明における粗大粒子を含むポリオレフィン水性分散系とは通常、粒子径10nm〜10μmの粒子が水に分散した組成物のことである。ポリオレフィン水性分散系の製造方法としては特に限定されるものではないが、各種の乳化方法を利用することが望ましい。具体的に例えばポリオレフィン及び界面活性剤又はカルボキシル基を有する重合体を溶剤に溶解後高圧ホモジナイザー、高圧ホモミキサー等により乳化後溶剤を除去する方法、オレフィン系重合体を溶融状態にして高圧ホモジナイザー、高圧ホモミキサー、押出混練機により乳化する方法、α−オレフィン及び(メタ)アクリル酸の共重合体及びカリウム、ナトリウム、アンモニウムなどのアルカリ物質をオートクレーブ中で乳化する方法、その他機械的に粉砕する方法、高圧で噴射粉砕する方法、細孔より噴霧させる方法などが挙げられる。
【0017】
本発明により粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系は各種コーティング剤の添加剤として用いる事ができるか、本分散系を添加剤の耐摩擦性、離型性、潤滑性を発揮するにはポリオレフィンの数平均分子量は600〜10,000であることが望ましい。ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)とはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することで求められる数平均分子量のことをいう。
【0018】
粗大粒子調整工程により粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系は各種・コーティング剤の添加剤として用いられ、本分散系を添加剤の耐摩擦性、離型性、潤滑性を発揮するにはポリオレフィンの結晶化度が20%以上であることが望ましい。結晶化度とは、X線回折装置により測定することで求められる結晶化度のことをいう。
【0019】
本発明におけるコーティング剤とはスプレー、カーテン、フローコーター、ロールコーター、グラビアコーター、刷毛塗り、浸漬等の各種方法にて、樹脂、金属、紙、木材、繊維、皮革、ガラス、ゴムなどに塗工することにより積層体を構成する。具体的には、オーバープリントワニス、保護コート剤などが挙げられるが、一般的に透明性が高く、高光沢であることが望まれている。粒子径1.5μm以上の粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系を用いると、高光沢でかつ透明性に優れる点で望ましい。
【0020】
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。尚、実施例及び比較例における「部」、「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0021】
以下に本発明で用いた分析方法および物性測定方法を記す。
1.粗大粒子含有量(%)
マイクロトラックUPA(HONEYWELL社製)にて、粒子径を測定し、粒子径が1.499μm〜704.0μmまでの累積頻度を求めた。
2.数平均分子量
数平均分子量(Mn)は以下のようにして測定した。分離カラムとして、TSK GNH HTであり、カラムサイズは直径7.5mm、長さ300mmのものを使用した。カラム温度は140℃とし、移動相にはオルトジクロルベンゼン(和光純薬)及び酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025%を用い、1.0ml/分で移動させた。試料濃度は0.1%とし、試料注入量は500マイクロリットルとした。検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは東ソー社製を用いた。
3.結晶化度
ポリオレフィン水性分散系を乾燥後(厚さ1mm)のスペーサを用いて、200℃でホットプレスした直後、20℃冷却プレスで100kg/cm2 の荷重下に5分間冷却した後1週間後、X線回折装置(RINT2500 リガク社製)により測定した。
4.光沢度
有効成分10%のポリオレフィン水性分散系10部及びアクリルエマルション(Joncryl77 ジョンソンポリマー社製)65部、アクリル水溶液(Joncryl60 ジョンソンポリマー社製)30部を混合し、コーティング組成物を調整した。本組成物を隠ペイ率試験紙に膜厚が5μmとなるように塗工し、25℃にて24時間乾燥した。その後、光沢度計(VG10 日本電色工業製)にて60℃の反射率を観測した。
【実施例1】
【0022】
粗大粒子を2.5%含むポリオレフィン水性分散系(ケミパールW4005 三井化学社製)を15%に希釈し、ディスク型遠心分離機(LAPX202B アルファラバル社製)を用いて回転数10,000rpmにて軽液側/重液側=30/70の比率で排出し、重液側を分取し、粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系1を得た。得たポリオレフィン水性分散系の有効成分は10%であり、粗大粒子含有量、数平均分子量(Mn)、結晶化度、光沢度を測定した。測定結果を表1に示す。
【実施例2】
【0023】
粗大粒子を4.1%含むポリオレフィン水性分散系(ケミパールW900 三井化学社製)を15%に希釈し、ディスク型遠心分離機(LAPX202B アルファラバル社製)を用いて回転数10,000rpmにて軽液側/重液側=30/70の比率で排出し、重液側を分取し、粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系2を得た。得たポリオレフィン水性分散系の有効成分は10%であり、粗大粒子含有量、数平均分子量(Mn)、結晶化度、光沢度を測定した。測定結果を表1に示す。
【実施例3】
【0024】
粗大粒子を2.5%含むポリオレフィン水性分散系(ケミパールW4005 三井化学社製)を15%に希釈し、ディスク型遠心分離機(LAPX202B アルファラバル社製)を用いて回転数10,000rpmにて軽液側/重液側=70/30の比率で排出し、重液側を分取し、粗大粒子を除去したポリオレフィン水性分散系3を得た。得たポリオレフィン水性分散系の有効成分は10%であり、粗大粒子含有量、数平均分子量(Mn)、結晶化度、光沢度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
粗大粒子を2.5%含むポリオレフィン水性分散系(ケミパールW4005 三井化学社製)を10%に希釈し、メンブランフィルター(TSTP025 ミリポア社製)を用いて除去を試みたが、フィルターが詰り連続的に回収できなかった。
【0026】
【表1】

【0027】
○ 光沢度85%以上
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のポリオレフィン水性分散系の製造方法によれば、水よりも密度の低い0.99g/cm3以下のポリオレフィン水性分散系は遠心分離法により、粒子径の大きい粒子は優先的に上澄み液である軽液側に分離され、粒子径の小さい粒子は重液側に分離されずに残る。
【0029】
従って、上記原理を利用して回収した重液は、粒子径1.5μm以上の粗大粒子が除去されており、その含有量は通常0.01%以下に調整される。
【0030】
本発明の方法により得られるポリオレフィン水性分散系をコーティング材料の添加剤として使用した場合、造膜性、透明性・光沢性に優れた皮膜を形成する。さらに、数平均分子量10,000以下であり結晶化度が20%以上であるポリオレフィン水性分散系を添加剤として使用した場合、耐摩性、離型性、潤滑性に優れ、かつ透明性・光沢性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗大粒子を含み、かつ密度が0.99g/cm3以下のポリオレフィンの水性分散系から粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系を製造する方法であって、遠心分離法により粗大粒子を含む液を密度の低い軽液側より除去し、粒子径の小さい粒子を含む液を密度の高い重液側より回収する、粗大粒子が除去されたポリオレフィン水性分散系の製造方法。
【請求項2】
粗大粒子の粒子径が1.5μm以上である請求項1に記載のポリオレフィン水性分散系の製造方法。
【請求項3】
粗大粒子を含む液の除去と粒子径の小さい粒子を含む液の回収を連続的に行う請求項1に記載のポリオレフィン水性分散系の製造方法。
【請求項4】
密度の低い軽液側と密度の高い重液側の排出比率が50/50〜10/90である請求項1に記載のポリオレフィン水性分散系の製造方法。
【請求項5】
粗大粒子を1%以上含む液から粗大粒子を除去し、粗大粒子が0.01%以下の液を得る請求項1に記載のポリオレフィン水性分散系の製造方法。
【請求項6】
請求項1の方法で得られるポリオレフィンの水性分散系を含むコーティング剤用添加剤。
【請求項7】
ポリオレフィンが、数平均分子量10,000以下であり、かつ、結晶化度が20%以上であるポリオレフィンである請求項6に記載のコーティング剤用添加剤。

【公開番号】特開2006−225529(P2006−225529A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41584(P2005−41584)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】