説明

ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子、および、その型内発泡成形体

【課題】 良好な型内発泡成形性を有しつつ、ハロゲン系難燃剤を使用することなく、従来よりも高密度、厚み大のサンプルにおいても優れた難燃性を示し、燃焼時に有害なガスを発生しない難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を提供すること。
【解決手段】 ポリオレフィン系樹脂、立体障害性アミンエーテル系難燃剤および酸化鉄粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材、緩衝包材、通箱、車のバンパー用芯材、電気電子製品部品など、とくに電気電子製品部品の製造に用いられる難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子および該難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形して得られる型内発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
型内発泡成形体は、形状の任意性、軽量性、断熱性などの特徴をもっている。中でもポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子からなる型内発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体と比較すると、耐薬品性、耐熱性、圧縮後の歪回復率に優れており、これらの特徴により、ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体は、自動車内装部材、自動車バンパー用芯材をはじめ、断熱材、緩衝包装材など様々な用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、一般的にポリオレフィン系樹脂からの発泡成形体は、前記のような優れた特性を有する反面、燃焼しやすいという欠点を有する。とくに、発泡成形体は非発泡成形体と比較して燃焼性が高く、容易に燃焼してしまうという欠点を有する。
【0004】
近年、自動車部材、建築材料および電気電子製品部品に、難燃性や自己消火性を有することが要望されており、これらの要望にこたえるべく難燃性を付与した発泡成形体を得る研究が広く行なわれている。
【0005】
本来易燃性であるポリオレフィン系樹脂の難燃化の方法としては、種々検討されており、難燃剤を添加する方法が一般的である。ハロゲン含有化合物、水和金属酸化物、リン酸エステル類、含窒素化合物などさまざまな難燃剤がポリオレフィン系樹脂の難燃剤として使用されている。臭素系難燃剤がポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子に用いられる例として特許文献1〜2が挙げられるが、特に近年、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤は、燃焼時のハロゲン化ガスなどの有毒ガス発生の問題があるというように、環境問題としてクローズアップされており、使用を規制する動きが出てきている。ポリオレフィン系樹脂発泡体に非ハロゲン系の難燃剤を用いている例としては、特許文献3〜4が挙げられるが、多量の難燃剤を必要としているため、予備発泡粒子を用いて型内発泡成形体とする場合には応用が難しい。
【0006】
特許文献5に非ハロゲン型難燃剤として、ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子に立体障害アミンエーテル型の難燃剤を添加することにより型内発泡成形性の低下などの問題を生じることなくUL94発泡体の水平試験でHF−1に適合する型内発泡成形体が実施例に記載されている。また特許文献6には、同難燃剤を用いてFMVSS302に基づいた燃焼試験において自己消火性となる型内発泡成形体も記載されている。特許文献6のFMVSS302に基づいた試験よりもUL94の試験の方が、適合が厳しい試験であり、特許文献5には型内発泡成形体の密度は記載されているものの、試験サンプルの厚みは記載されていない。立体障害アミンエーテル型難燃剤を添加したポリオレフィン系樹脂型内発泡成形体は、密度が高い、または、厚みが厚い方がUL94発泡体の水平試験でHF−1、HF−2への適合が難しくなる。この立体障害アミンエーテル型の難燃剤を用いた場合でも、さらなる難燃性能の向上が望まれている。
【特許文献1】特開2002−128933号公報
【特許文献2】特開平10−147661号公報
【特許文献3】特開平7−258447号公報
【特許文献4】特開平11−322990号公報
【特許文献5】WO2003/048239号公報
【特許文献6】特開2004−263033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な型内発泡成形性を有しつつ、ハロゲン系難燃剤を使用することなく、従来よりも高密度、厚み大のサンプルにおいても優れた難燃性を示し、燃焼時に有害なガスを発生しない難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、ポリオレフィン系樹脂に立体障害性アミンエーテル系難燃剤および酸化鉄粒子を添加したポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を用いることにより、良好な型内発泡成形性を有しつつ、従来よりも優れた難燃性、具体的には、高密度の型内発泡成形体や、厚みのある型内発泡成形体においても優れた難燃性を示すことを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリオレフィン系樹脂、立体障害性アミンエーテル系難燃剤および酸化鉄粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子に関する。
【0010】
好ましい態様としては、
〔1〕前記立体障害性アミンエーテル系難燃剤が、一般式(1):
1NHCH2CH2CH2NR2CH2CH2NR3CH2CH2CH2NHR4 (1)
【0011】
【化2】

(式(1)中、R1およびR2と、R3およびR4の一方は一般式(2)で表わされるs−トリアジン部分T、R3およびR4の他方は水素原子、式(2)中、R5は1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、R6はメチル基、シクロヘキシル基またはオクチル基)で表わされる化合物、酸化鉄が黒色の酸化鉄である、
〔2〕ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、立体障害性アミンエーテル系難燃剤0.1重量部以上20重量部以下および酸化鉄粒子1重量部以上15重量部以下を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなる、
〔3〕前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、
前記記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子に関する。
【0012】
本発明の第2は、前記記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形してなる型内発泡成形体に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子により、良好な型内発泡成形性、表面外観を有しつつ、従来よりも高密度、或いは、厚みの大きいサンプルにおいても優れた難燃性を示す型内発泡成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において用いられるポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系単量体75重量%以上100重量%を含んでなる重合体であり、単独重合体或いは共重合体である。オレフィン系単量体は、好ましくは80重量%以上100重量%以下である。オレフィン系単量体と共重合性を有するその他の単量体を25重量%以下、好ましくは0重量%以上20重量%以下を含んでもよい。
【0015】
オレフィン系単量体の具体例としては、たとえば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、イソブテン、ペンテン−1、3−メチル−ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、3,4−ジメチル−ブテン−1、へプテン−1、3−メチル−ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1などの炭素数2〜12のα−オレフィンなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、前記オレフィン系単量体と共重合性を有するその他の単量体の具体例としては、たとえば、シクロペンテン、ノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,8,8a,6−オクタヒドロナフタレンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエンなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記のごときオレフィン系単量体およびオレフィン系単量体と共重合性を有するその他の単量体を含んでなるオレフィン系樹脂の具体例としては、たとえば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂;プロピレン単独重合体、たとえば、エチレン含有率1〜15重量%であるエチレン−プロピレン共重合体、例えば、ブテン含有率1〜15重量%のプロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂;ポリブテン、ポリペンテンなどがあげられる。これらのうちでは低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、エチレン含有率1〜15重量%であるエチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン含有率1〜15重量%であるプロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン含有率85〜99重量%であるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のポリプロピレン系樹脂が、均一かつ独立な気泡構造をもつ予備発泡粒子が容易に得られるという点から好ましく、より好ましくはポリプロピレン系樹脂が好ましく、特には、エチレン含有率1〜15重量%であるエチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン含有率1〜15重量%であるプロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン含有率85〜99重量%であるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体が好ましい。これらのポリオレフィン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂は、無架橋のものがコスト面、リサイクル面および工程の簡略化などの点から好ましいが、パーオキサイドや放射線により架橋或いは減成処理を行っても良い。
【0019】
本発明のポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRと表記する場合がある)0.1g/10分以上50g/10分以下が好ましく、さらには0.3g/10分以上40g/10分以下であるものが好ましい。ポリオレフィン系樹脂のMFRが0.1g/10分未満になると、ポリオレフィン系樹脂の発泡時の流動性がとぼしくなり、発泡が困難となる傾向がある。50g/10分をこえると、ポリオレフィン系樹脂は逆に過度に高い流動性を示し、高度に発泡しにくくなり、また、得られるポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子は発泡後に収縮しやすくなる傾向がある。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂には、必要に応じてポリオレフィン系樹脂と混合して使用することができる他の熱可塑性樹脂、たとえばポリスチレン、アイオノマーなどをポリオレフィン系樹脂の性質が失われない範囲で組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明における立体障害性アミンエーテル系難燃剤の好ましい例としては、たとえば一般式(1):
1NHCH2CH2CH2NR2CH2CH2NR3CH2CH2CH2NHR4 (1)
(式(1)中、R1およびR2と、R3およびR4の一方は一般式(2)で表わされるs−トリアジン部分T、R3およびR4の他方は水素原子、式(2)中、R5は、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基、2−エチルブチル基、イソペンチル基、1−メチルペンチル基、1,3−ジメチルブチル基、1-メチルヘキシル基、イソヘプチル基、1,1,3,3−テトラメチルペンチル基、1-メチルウンデシル基、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルヘキシル基などの1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、R6はメチル基、シクロヘキシル基またはオクチル基)で表わされる化合物があげられる。立体障害性アミンエーテル系難燃剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
【化3】

前記一般式(2)で表わされるs−トリアジン部分Tの具体例としては、たとえば2,4−ビス[(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン、2,4−ビス[(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン、2,4−ビス[(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジンなどがあげられる。
【0023】
前記一般式(1)で表わされる立体障害性アミンエーテル系難燃剤の具体例としては、たとえばN,N',N'''−トリス{2,4−ビス[(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノプロピルアミン;N,N',N''−トリス{2,4−ビス[(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン;N,N',N'''−トリス{2,4−ビス[(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン;N,N',N''−トリス{2,4−ビス[(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6イル}−3,3’−エチレンジイミノプロピルアミン;N,N',N'''−トリス{2,4−ビス[(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6イル}−3,3’−エチレンジイミノプロピルアミン;N,N',N''−トリス{2,4−ビス[(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−s−トリアジン−6イル}−3,3’−エチレンジイミノプロピルアミンなどがあげられる。これらは、単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ポリオレフィン系樹脂および立体障害性アミンエーテル系難燃剤の配合割合としては、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、立体障害性アミンエーテル系難燃剤は、好ましくは0.1重量部以上20重量部以下、より好ましくは1重量部以上10重量部以下用いられる。前記難燃剤の配合割合が0.1重量部未満の場合には、充分な難燃性が得られにくく、20重量部をこえる場合には、セル径が微細化傾向となり型内発泡成形性、とくに表面外観が悪化する傾向となるだけでなく、コスト高になり、経済的に不利になる傾向がある。
【0025】
前記立体障害性アミンエーテル系難燃剤をポリオレフィン系樹脂に添加する方法は、直接添加する方法であっても、立体障害性アミンエーテル系難燃剤を例えば5重量%以上50重量%以下含んでなるポリオレフィン系樹脂マスターバッチを作製し、該ポリオレフィン系樹脂マスターバッチをポリオレフィン系樹脂に添加する方法であっても良いが、添加の容易性などの点から後者の方法が好ましい。
【0026】
本発明において用いる酸化鉄とは、α−FeOOH、α−Fe23、FeO、Fe34などが挙げられ、より好ましくは黒色の酸化鉄であるFeO、Fe34などである。さらに好ましくは(FeO)x(Fe23)yで示されるFe34(x:y=1:1)を主成分として含むものである。黒色の酸化鉄は、黒色を損なわない範囲でFe23などの他の酸化鉄成分が含まれていても良く、さらに、鉄の一部が、Mn、Zn、Mgなどの他の金属で置換されていても良い。また、天然に産出されるものでも合成されるものでも良く、例としては、慣用名で鉄黒として市販されているものが使用できる。
【0027】
酸化鉄粒子の粒径は、0.05μm以上1μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.8μm以下である。
【0028】
酸化鉄粒子の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、1重量部以上15重量部以下が好ましく、より好ましくは1重量部以上10重量部以下である。1重量部未満の場合には難燃効果が見られない虞がある。15重量部を超えている場合には、酸化鉄の比重が重いため、ポリオレフィン系樹脂粒子を密閉容器内にて分散媒に分散させて発泡させる方法では、通常分散媒に浮いているポリオレフィン系樹脂粒子が沈む場合があり、製造が困難となる場合がある。
【0029】
酸化鉄粒子をポリオレフィン系樹脂に添加する方法は、直接添加する方法であっても、酸化鉄粒子を10重量%以上80重量%以下であるポリオレフィン系樹脂マスターバッチを作製し、該ポリオレフィン系樹脂マスターバッチをポリオレフィン系樹脂に添加する方法であっても良いが、酸化鉄粒子の分散性、添加の容易性などの点から後者の方法が好ましい。
【0030】
本発明では、さらに必要に応じて、タルク等のセル造核剤をはじめ酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸などの安定剤または架橋剤、連鎖移動剤、滑剤、可塑剤、充填剤、強化剤、難燃剤、帯電防止剤等を本発明の効果を損なわない範囲でポリオレフィン系樹脂に添加してポリオレフィン系樹脂組成物としてもよい。
【0031】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物は、通常、予備発泡に利用されやすいようにあらかじめ押出機、ニーダー、バンバリミキサー、ロール等を用いて溶融し、円柱状、楕円状、球状、立方体状、直方体状等のような所望の粒子形状で、その粒子の平均粒重量が好ましくは0.5mg以上3.0mg以下、より好ましくは0.5mg以上2.0mg以下になるようなポリオレフィン系樹脂粒子に成形加工される。界面活性剤型もしくは高分子型の帯電防止剤、難燃性改良剤、導電性改良剤等必要により加えられる成分は、通常、ポリオレフィン系樹脂粒子の製造過程において溶融した樹脂中に添加することが好ましい。
【0032】
前記ポリオレフィン系樹脂粒子は、従来から知られている方法を利用して難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子とすることが出来る。例えば、ポリオレフィン系樹脂粒子を密閉容器内で分散媒に分散させ、発泡剤を添加した後、ポリオレフィン系樹脂粒子が軟化する温度以上、好ましくはポリオレフィン系樹脂粒子の融点−25℃以上ポリオレフィン系樹脂粒子の融点+25℃以下、更に好ましくはポリオレフィン系樹脂粒子の融点−15℃以上ポリオレフィン系樹脂粒子の融点+15℃以下の範囲の温度に加熱し、加圧して、ポリオレフィン系樹脂粒子内に発泡剤を含浸させたのち、密閉容器の一端を開放してポリオレフィン系樹脂粒子を密閉容器内よりも低圧の雰囲気中に放出することにより難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を製造することが出来る。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂粒子を分散させる密閉容器には特に制限はなく、予備発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよいが、例えばオートクレーブ型の容器があげられる。
【0034】
前記分散媒としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、水等が使用できるが、中でも水を使用することが好ましい。
【0035】
分散媒中、ポリオレフィン系樹脂粒子同士の合着を防止するために、分散剤を使用することが好ましい。分散剤として、例えば、第三リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、タルク、クレー等の無機系分散剤が挙げられる。
【0036】
必要に応じて、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、n−パラフィンスルホン酸ソーダ、α−オレフィンスルホン酸ソーダ、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄等の分散助剤を併用することが好ましい。
【0037】
これらの中でも、第三リン酸カルシウムとn−パラフィンスルホン酸ソーダの併用が更に好ましい。分散剤や分散助剤の使用量は、その種類や、用いるポリオレフィン系樹脂の種類と使用量によって異なるが、通常、分散媒100重量部に対して分散剤0.2〜3重量部を配合することが好ましく、分散助剤0.001〜0.1重量部を配合することが好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂粒子は、分散媒中での分散性を良好なものにするために、通常、分散媒100重量部に対して、20重量部以上100重量部以下使用するのが好ましい。
【0038】
難燃性ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を製造するに当たり、発泡剤に特に制限はなく、例えば、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガス;水等およびそれらの混合物を用いることができる。
【0039】
水を発泡剤として使用する場合、高い発泡倍率のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を得るために、ポリオレフィン系樹脂に親水性ポリマー、トリアジン骨格を有する化合物のうち1種以上の化合物を添加することが好ましい。ここで親水性ポリマーとしては、エチレン−アクリル酸−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂などのカルボキシル基含有ポリマー、ポリエチレングリコール等があげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。特にエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体をナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオンで架橋させたエチレン系アイオノマー樹脂やポリエチレングリコールが良好な含水率を与え、良好な発泡性を与えることから好ましい。さらには、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体をカリウムイオンで架橋させたエチレン系アイオノマー樹脂や分子量300以上10000以下のポリエチレングリコールが、より大きな平均セル径を与えることから、好ましい。
【0040】
前記親水性ポリマーの使用量は親水性ポリマーの種類にもより、特に限定されないが、通常ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.1重量部以上5重量部以下がより好ましい。0.01重量部未満では、高発泡倍率のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子が得られにくい傾向があり、20重量部を超えては耐熱性、機械強度の低下が大きくなる場合がある。
【0041】
本発明で使用できるトリアジン骨格を有する化合物とは、単位トリアジン骨格あたりの分子量が300以下のものが好ましい。ここで、単位トリアジン骨格あたりの分子量とは、1分子中に含まれるトリアジン骨格数で分子量を除した値である。単位トリアジン骨格あたりの分子量が300を超えると発泡倍率ばらつき、セル径ばらつきが目立つ場合がある。単位トリアジン骨格あたりの分子量が300以下の化合物としては、例えば、メラミン(化学名1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン)、アンメリン(同1,3,5−トリアジン−2−ヒドロキシ−4,6−ジアミン)、アンメリド(同1,3,5−トリアジン−2,4−ヒドロキシ−6−アミン)、シアヌル酸(同1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオール)、トリス(メチル)シアヌレート、トリス(エチル)シアヌレート、トリス(ブチル)シアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)シアヌレート、メラミン・イソシアヌル酸縮合物などがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用しても良い。これらの内、高発泡倍率の予備発泡粒子を発泡倍率ばらつき、セル径ばらつきが少なく得るためには、メラミン、イソシアヌル酸、メラミン・イソシアヌル酸縮合物を使用することが好ましい。
【0042】
以上の製造方法により得られるポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子の発泡倍率は、好ましくは5倍以上50倍以下であり、さらに好ましくは7倍以上45倍以下である。
【0043】
また、一旦5倍以上35倍以下の予備発泡粒子を製造し、予備発泡粒子を密閉容器内に入れて窒素、空気などを含浸させる加圧処理により予備発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くした後、該発泡粒子をスチーム等で加熱して更に発泡させる二段発泡法等の方法で50倍以上の二段発泡予備発泡粒子を得ても良い。
【0044】
なおここで言う発泡倍率とはポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子の重量w(g)およびエタノール水没体積v(cm3)を求め、発泡前のポリオレフィン系樹脂粒子の密度d(g/cm3)から次式により求めたものである。
発泡倍率=d×v/w
【0045】
本発明のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子は、示差走査熱量計法による測定において2つの融解ピークを有し、該融解ピークのうち低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから算出した、高温側の融解ピークの比率Qh/(Ql+Qh)×100(以下、DSC比と称す)が10%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは16%以上40%以下の範囲である。DSC比が当該範囲であると、表面美麗性の高い型内発泡成形体が得られやすい。
【0046】
本発明のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形に用いる場合には、イ)そのまま用いる方法、ロ)あらかじめ予備発泡粒子中に空気等の無機ガスを圧入し、発泡能を付与する方法、ハ)予備発泡粒子を圧縮状態で金型内に充填し成形する方法、など従来既知の方法が使用しうる。
【0047】
本発明のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子から型内発泡成形体を成形する方法としては、たとえばあらかじめ予備発泡粒子を耐圧容器内で空気加圧し、予備発泡粒子中に空気を圧入することにより発泡能を付与し、これを閉鎖しうるが密閉し得ない成形型内に充填し、水蒸気などを加熱媒体として0.10〜0.4MPa(G)程度の加熱水蒸気圧で3〜30秒程度の加熱時間で成形しポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子同士を融着させ、このあと成形金型を水冷により型内発泡成形体取り出し後の型内発泡成形体の変形を抑制できる程度まで冷却した後、金型を開き、型内発泡成形体を得る方法などが挙げられる。
【0048】
本発明のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体の密度は、10kg/m3以上300kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは15kg/m3以上250kg/m3以下である。
【0049】
次に本発明におけるMFR、融点、DSC比の測定方法について説明する。
【0050】
MFRは、JIS−K7210記載のMFR測定器を用い、オリフィス2.0959±0.005mmφ、オリフィス長さ8.000±0.025mm、荷重2160g、230±0.2℃の条件下で測定したときの値である。
【0051】
融点は、示差走査熱量計を用いて、試料5〜6mgを10℃/minの昇温速度で40℃から220℃まで昇温する事によりポリオレフィン系樹脂粒子を融解し、その後10℃/minで220℃から40℃まで降温することにより結晶化させた後に、さらに10℃/minで40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線から、2回目の昇温時の融解ピーク温度として求められる値である。
【0052】
DSC比は、示差走査熱量計を用いて、ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子5〜6mgを10℃/minの昇温速度で40℃から220℃まで昇温する際に得られる融解曲線(図1に例示)において、2つのピークを有し、該融解ピークのうち低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから算出した、高温側の融解ピークの比率Qh/(Ql+Qh)×100で表されるパラメータである。
【実施例】
【0053】
つぎに、本発明を実施例及び比較例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。評価は以下のように行った。
【0054】
(DSC比)
示差走査熱量計を用いて、ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子5〜6mgを10℃/minの昇温速度で40℃から220℃まで昇温する際に得られる融解曲線(図1に例示)において、2つのピークを有し、該融解ピークのうち低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから次式により算出した。
DSC比=Qh/(Ql+Qh)×100
【0055】
(発泡倍率)
ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子の重量w(g)およびエタノール水没体積v(cm3)を求め、発泡前のポリオレフィン系樹脂粒子の密度d(g/cm3)から次式により求めたものである。
発泡倍率=d×v/w
【0056】
(平均セル径)
得られたポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子の中から任意に30個の予備発泡粒子を取り出し、JIS K6402に準拠してセル径を測定し、平均セル径を算出した。
【0057】
(独立気泡率)
空気比較式比重計(BECKMAN社製930型)を用いて、得られたポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子の独立気泡体積を求め、かかる独立気泡体積を別途エタノール浸漬法で求めた見かけ体積で除することにより独立気泡率を算出した。
【0058】
(表面外観)
型内発泡成形体表面を目視で観察し、下記の基準で評価する。
○:表面に凹凸がなく、各粒子間隙もほとんどない
×:表面に凹凸があり、各粒子間隙がきわめて大きい
【0059】
(融着)
型内発泡成形体を破断させ、その断面を観察し、断面の粒子の全個数に対する破断粒子数の割合を求め、以下の基準で評価する。
○:破断粒子の割合が60%以上
×:破断粒子の割合が60%未満
【0060】
(成形体密度)
得られた型内発泡成形体を燃焼試験用サンプルとして縦150mm、幅50mm、厚みを目的の値に切削し、重量w(g)、縦、横、厚みの長さから体積v(cm3)を求め、次式により求めたものである。
成形体密度=w/v(g/cm3
【0061】
(難燃性評価)
UL94HFに準拠した試験を行い、下記の基準で評価する。一種類のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子に対し、3.5、7、13mmの厚みにて試験を行った。
残炎時間:ガスバーナーの炎が消えてからサンプル片の炎が消えるまでの時間であり、5回試験を行ったときの平均値を算出した。時間が短いほど難燃性能は高い。
【0062】
(実施例1〜6)
ポリオレフィン系樹脂(エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン含量2.8%、MFR=6.0g/10min、融点145℃)100重量部に対し、造核剤としてタルクを0.01重量部、表1に示す比率で酸化鉄(鉄黒、40%マスターバッチ)および化学式(3):
RNHCH2CH2CH2NRCH2CH2NHCH2CH2CH2NHR (3)
【0063】
【化4】

(式中、Rは化学式(4)で表されるs−トリアジン部分T)の化合物(商品名:FLAMESTAB NOR116、チバ社製)を添加・混合し、50mmφ単軸押出機で混練したのち造粒し、ポリオレフィン系樹脂粒子(1.2mg/粒)を製造した。
【0064】
前記樹脂粒子100重量部およびイソブタン10重量部を、分散媒(パウダー状塩基性第3リン酸カルシウム1.6重量部およびn−パラフィンスルホン酸ソーダ0.03重量部を含む水300重量部)とともに10L耐圧容器に仕込み、該容器内部を表1記載の発泡温度に加熱した。ついで、容器内圧力を、イソブタンを圧入して所定発泡圧力(表1に記載)に調整した。そののち、容器内圧力をチッ素で保持しつつ、耐圧容器下部のバルブを開いて水分散物を開孔径4.0mmφのオリフィス板を通して大気圧下に放出することによって、ポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子について上記の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
次に、耐圧容器内で空気加圧し0.18〜0.23MPaの内圧を付与したポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を400mm×300mm×22mmの金型に充填し、予備発泡粒子同士を圧力0.28MPa(G)の水蒸気で10秒間加熱、融着させ、ポリオレフィン系樹脂型内発泡成形体を得た。得られた型内発泡成形体に関して、表面外観、融着率、成形体倍率、燃焼試験の評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
(比較例1〜2)
表1に示す比率で酸化鉄(鉄黒、40%マスターバッチ)および式(3)の化合物を添加し、実施例と同様の方法にてポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子、型内発泡成形体を作製、評価を行った。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】示差走査熱量計を用い、本発明記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を測定した際に得られる融解曲線の一例である。横軸は温度、縦軸は吸熱量である。低温側の網掛け部分がQl、高温側の網掛け部分がQhである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂、立体障害性アミンエーテル系難燃剤および酸化鉄粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項2】
前記立体障害性アミンエーテル系難燃剤が、一般式(1):
1NHCH2CH2CH2NR2CH2CH2NR3CH2CH2CH2NHR4 (1)
【化1】

(式(1)中、R1およびR2と、R3およびR4の一方は一般式(2)で表わされるs−トリアジン部分T、R3およびR4の他方は水素原子、式(2)中、R5は1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、R6はメチル基、シクロヘキシル基またはオクチル基)で表わされる化合物、酸化鉄が黒色の酸化鉄である請求項1記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、立体障害性アミンエーテル系難燃剤0.1重量部以上20重量部以下および酸化鉄粒子1重量部以上15重量部以下を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなる請求項1または2記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である請求項1〜3何れか一項に記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項5】
請求項1〜4何れか一項に記載のポリオレフィン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形してなる型内発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−70644(P2010−70644A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239564(P2008−239564)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】