説明

ポリオレフィン系樹脂組成物

【課題】優れた難燃性を有し、さらに成形性・生産性が向上したポリオレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種を含む無機系難燃剤50〜250質量部、及びリン酸塩系ガラス1〜20質量部を配合する樹脂組成物は、優れた難燃性を有し、成形性・生産性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂組成物に関し、詳しくは、充分な難燃性を有し、かつ生産性や成形性が優れ、特に、電線・ケーブルなどの被覆又は絶縁材料として好適である、ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブルの被覆又は絶縁材料として、絶縁性、耐熱性や成形性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物が一般に使われている。しかしながら、これらの樹脂組成物は比較的燃焼し易いため、電子部品、電気部品、自動車部品などの用途には難燃性が要求されている。
【0003】
従来オレフィン系樹脂の難燃性を充分得るためには、水酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の無機系難燃剤を大量に含有させる必要があった。しかし、該樹脂に無機系難燃剤を大量に配合させる時に成形機の圧力(トルク)が大きくなり、成形機への負荷が大きくなる場合があった。また、成形機内で著しく温度上昇が起こる場合があり、そのため、無機系難燃剤が分解して、水又は炭酸ガスが発生し、所望の特性を有する樹脂組成物が得られない場合があった。
【0004】
上記の問題点を解決する方法として、ガラスフリットを配合することが提案されている。特許文献1には、ポリオレフィン100部に対し、無機水和物50〜300部及びフリット5〜50部を含有してなる組成物が開示されている。上記組成物には、さらにリン系化合物、ホウ酸亜鉛、フェロセンなどの難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、軟化剤、分散剤を加えてもよいことが開示されている。だが、従来のフリットを用いた場合には、IEEE規格383の垂直トレイ燃焼試験(VTFT)に合格するには、無機水和物を多量に添加する必要があった。そのため、樹脂組成物中へ無機水和物やフリットの分散性が不充分となり、機械的物性や難燃性の低下を招く場合があった。
【0005】
また、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂100部に対し、(A)50〜250重量部のハロゲン及びリンを含まない無機難燃剤、(B)5〜30重量部の平均粒子径が0.01〜2μmであるフリットを含む樹脂組成物が開示されている。しかしながら、平均粒径が0.01〜2μmのフリットを用いると、樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、成形時に高い圧力が必要となり、成形性が悪くなる場合があった。上記の様に、従来のガラスフリットでは、難燃性と、成形性及び/又は生産性とを両立させることが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開平1−115945号公報
【特許文献2】特開平11−181163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂組成物に対して上記の問題点を解決し、優れた難燃性を有し、さらに生産性や成形性に優れ、特に、電線・ケーブルなどの被覆又は絶縁材料として好適なポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂に対して、特定の無機系難燃剤と特定のリン酸塩系ガラスとをそれぞれ特定量配合することにより、優れた難燃性を有し、さらに樹脂組成物の生産性、成形性が良好な樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記を特徴とする要旨を有するものである。
(1)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種を含む無機系難燃剤50〜250質量部、及びリン酸塩系ガラス1〜20質量部を含むことを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。
(2)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、ハロゲン原子を含まない窒素含有難燃剤1〜50質量部を含む上記(1)に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
(3)前記リン酸塩系ガラスが、酸化物基準で、ZnO及びSOを含み、200〜400℃のガラス転移温度を有する上記(1)又は(2)に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
(4)前記リン酸塩系ガラスが、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、300〜400℃のガラス転移点を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
:22〜27%、SO:3〜18%、ZnO:10〜55%、Al:1〜5%、B:5〜15%、LiO+NaO+KO:5〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
(5)前記リン酸塩系ガラスが、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、200〜300℃のガラス転移点を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
(6)前記リン酸塩系ガラスが、0.40〜0.80のかさ比重を有する粒子である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
(7)前記窒素含有難燃剤は、メラミン系化合物又はグアナミン系化合物と、シアヌル酸又はイソシアヌル酸と、の塩を含む上記(2)〜(6)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
(8)前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む上記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物を含む電線・ケーブルの被覆又は絶縁材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、優れた難燃性を有し、さらに樹脂組成物の生産性及び成形性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[ポリオレフィン系樹脂]
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリル共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等が挙げられる。これらの樹脂は単独あるいは二種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、樹脂組成物から得られる成形品が可撓性に優れるためエチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体を好ましく用いる。
【0012】
また、ポリオレフィン系樹脂の形態は、特に制限なく、ペレット状、粒状、粉末状、繊維状、液体状などの種々の形態を用いることができる。また、ポリオレフィン系樹脂組成物を成形して得られる成形品を、リサイクルして得られるポリオレフィン系樹脂組成物を含んでもよい。
【0013】
[無機系難燃剤]
本発明における無機系難燃剤は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、50〜250質量部含まれ、難燃性とともに樹脂組成物の生産性や成形性を改善することができる。無機系難燃剤の含有量が50質量部未満では、難燃性の効果が劣り、250質量部を超えると該樹脂組成物の機械的強度が低下する。好ましい含有量は100〜200質量部である。
【0014】
本発明に用いる無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種が使用される。水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムは、いずれも難燃性向上の点と発煙性、腐食性が少ないため難燃剤を与える。なかでも、本発明では、水酸化マグネシウムが好ましい。これは、水酸化マグネシウムが熱分解温度が320℃と高いため、成形時の温度でも分解することがほとんど無く、また、樹脂組成物の燃焼時には、脱水分解して水蒸気により難燃性を高めることができるためである。
【0015】
[リン酸塩系ガラス]
リン酸塩系ガラスは、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1〜20質量部含有することにより、充分な難燃性の効果が得られ、前記無機系難燃剤の配合量を低減させ、樹脂組成物の生産性や成形性を改善することができる1質量部未満であると充分な難燃性が得られず、20質量部超では成形品の燃焼時に溶融した樹脂組成物が滴下しやすくなり難燃性の付与効果が不充分となる場合がある。リン酸塩系ガラスの含有量が好ましくは5〜15質量部である。
【0016】
本発明におけるリン酸塩系ガラスは、ポリオレフィン樹脂組成物やそれから得られる成形品において難燃性付与や燃焼時の発煙抑止を発現し、かつ、安定した量産を可能にする限り、特に限定されない。しかし、リン酸塩系ガラスは、難燃性付与や燃焼時の発煙抑止の効果を高めるために、酸化物基準でZnO及びSOを含むことが好ましい。SOは、樹脂組成物、特に塩素を含む熱可塑性樹脂の組成物やそれから得られる成形品の燃焼時の発煙を抑止するためやガラス転移点を下げるための成分である。また、ZnOは、樹脂組成物、特に塩素を含む熱可塑性樹脂の組成物やそれから得られる成形品の燃焼時の発煙を抑止するための成分である。
【0017】
リン酸塩系ガラスにおける、ZnO及びSOは、モル%表示で、それぞれ、好ましくは5〜60%及び1〜20%、特に好ましくは10〜55%及び3〜18%含有される。SOの含有量が低すぎると、発煙抑止の効果が充分に発現されず、その含有量が高すぎると、ガラスの耐水性が著しく低下するため不適当である。ZnOの含有量が低すぎると、発煙を抑止する効果や求められる耐水性が発現されず、その含有量が高すぎると、ガラスの失透性が増大するためガラス化が困難となり不適当である。
【0018】
また、リン酸塩系ガラスは、ガラス転移温度として、200〜400℃を有することが好ましい。ガラス転移温度が200℃より小さいと、樹脂組成物の樹脂成分が燃焼する際の熱によってガラスが溶融しやすくなり、低い温度での難燃効果はあるものの、高温度領域では、ガラスの粘性が低くなって流動しやすくなり、ガラスの皮膜を形成し難くなり、結果として難燃性又は発煙抑止の効果が劣る。また、ガラス転移温度が400℃を越えると、樹脂組成物の樹脂成分が燃焼する際の熱によってガラスが溶融し難くなって、ガラスの皮膜を形成し難くなり、結果として難燃性や発煙抑止の効果が劣る。本発明で使用されるリン酸塩系ガラスのガラス転移温度は、ガラス組成を変えることにより、ガラス転移温度を300〜400℃の範囲と、200〜300℃の範囲とに区分して持たしめることができる。それにより、使用するポリオレフィン系樹脂の種類やその分解開始温度や燃焼時の性質により、樹脂の特性に合った、より好ましいガラス転移温度を有するリン酸塩系ガラスを使用することができる。
【0019】
本発明で使用される好ましい第1のリン酸塩系ガラスは、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、300〜400℃のガラス転移点を有するガラスであることが好ましい。
:22〜27%、SO:3〜18%、ZnO:10〜55%、Al:1〜5%、B:5〜15%、LiO+NaO+KO:5〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
【0020】
また、本発明における好ましい第2のリン酸塩系ガラスは、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、200〜300℃のガラス転移点を有するガラスであることが好ましい。
:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
【0021】
上記の第1及び第2のリン酸塩系ガラスは、いずれも、ガラスの耐候性や耐水性が良好であり、樹脂組成物を得る際や樹脂組成物を成形する際の熱や圧力に耐え、優れた樹脂組成物を与える。
【0022】
なお、本発明で使用されるリン酸塩系ガラスは、目的とする効果を損なわない範囲において、上記以外にSr、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Moなどの金属酸化物をガラス組成の成分として含有してもよい。また、MgやCaなどのアルカリ土類金属の金属酸化物をガラス組成の成分として含まなくとも、本発明における効果を損なわずに、低いガラス転移温度を有する組成を得ることもできる。
【0023】
更に、本発明で使用されるリン酸塩系ガラスは、カップリング剤を含む処理剤で表面処理することが好ましい。この表面処理により、リン酸塩系ガラスと樹脂とから樹脂組成物を得る際や、この樹脂組成物を成形する際に、リン酸塩系ガラスと樹脂との接着性を向上させる。リン酸塩系ガラスと樹脂との接着性が不充分であると、それらの界面に空間ができ、この空間が燃焼時にリン酸塩系ガラスが溶融してガラスの皮膜の形成することの妨げとなり、結果として難燃性付与効果が不充分となるので、これを防止することができる。また、リン酸塩系ガラスを取り扱う上で、静電気の発生を抑えてハンドリング性を改善することもできる。また、樹脂とリン酸塩系ガラスとの接着性が向上することにより、樹脂組成物の機械的物性が改善できる。
【0024】
上記カップリング剤としては、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤などを使用できる。特に、樹脂とガラスパウダーとの接着性が良好である点からシラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。上記シラン系カップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メタクリロキシドシラン系カップリング剤などを使用できる。それらのシラン系カップリング剤の中でも、樹脂とリン酸塩系ガラスとの接着性が特に優れている点から、アミノシラン系カップリング剤を用いるのが特に好ましい。
【0025】
また、上記カップリング剤の成分のリン酸塩系ガラスへの付与量は、使用されるポリオレフィン樹脂やリン酸塩系ガラスなどの種類に応じて選択されるが、付与後のリン酸塩系ガラスの質量を基準にして固形分として、好ましくは0.2〜2.0質量%である。付与量が0.2質量%より少ないとガラスを取り扱う上でのハンドリング性及び樹脂との接着性を充分に改善することやリン酸塩系ガラスを保護することが難しくなるので好ましくない。また、付与量が2.0質量%より多いと前記樹脂へのリン酸塩系ガラスの分散を低下させることになり易いので好ましくない。
【0026】
また、上記のカップリング剤を含む処理剤には、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂が含まれていることが好ましい。これにより、樹脂とリン酸塩系ガラスとの接着性がより一層優れ、難燃性又は発煙抑制性が改善されたり、樹脂組成物の機械的物性が改善されたりするので好ましい。更に、処理剤には、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂以外に、リン酸塩系ガラス又は樹脂組成物の性能を損なわない範囲で、フィルムフォーマー、潤滑剤及び帯電防止剤などが含まれていてもよい。前記フィルムフォーマーとしては、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂もしくはポリオレフィン樹脂などのポリマー又はそれらの変性物を使用することができる。前記潤滑剤としては、脂肪族エステル系、脂肪族エーテル系、芳香族エステル系又は芳香族エーテル系の界面活性剤を使用することができる。前記帯電防止剤としては、塩化リチウムもしくはヨウ化カリウムなどの無機塩又はアンモニウムクロライド型もしくはアンモニウムエトサルフェート型などの4級アンモニウム塩を使用できる。
【0027】
本発明のリン酸塩系ガラスの形態は、繊維、パウダー、フレーク、バルーンなど樹脂組成物の用途に合わせて適宜選ぶことができ、電線被覆用に用いる場合には、粉状のガラスパウダーで用いることが好ましい。
【0028】
本発明で使用されるリン酸塩系ガラスは、かさ比重が、0.40〜0.80の粒子(パウダー)であることがより好ましい。該粒子のかさ比重が、0.40未満であると、難燃性を充分に発揮できるが、ブリッジし易くなり、樹脂への練り込み作業性が困難となる場合がある。また、0.80を超えると樹脂へ練り込み作業性が容易となるが、難燃性を充分に発揮できない場合がある。さらに、好ましいかさ比重は0.50〜0.70であり、特に好ましいかさ比重は0.55〜0.65である。
【0029】
上記リン酸塩系ガラス粒子は、公知の方法及び装置を用いて、所望するガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させてリン酸塩系ガラスのカレットを作製し、所定のかさ比重となるように粉砕することにより得ることができる。リン酸塩ガラスのカレットを粉砕する粉砕方法として、媒体撹拌ミル、コロイドミル、湿式ボールミルなどの湿式粉砕方法、ジェットミル、乾式ボールミル、ロールクラッシャーなどの乾式粉砕方法などが挙げられ、複数の粉砕方法を組合せて用いてもよい。上記の粉砕方法を用いて、所定のかさ比重を有するガラスパウダーを得ることができる。また、粉砕して得られるガラスパウダーの平均粒径(体積基準D50)が好ましくは2〜5μmになるように、分級処理を行ってもよい。分級処理としては特に限定されないが、風力式分級機や篩い分け装置等を用いるのが好ましい。
【0030】
[ハロゲン原子を含まない窒素含有難燃剤]
本発明の樹脂組成物には、難燃性をさらに向上させるために、ハロゲン原子を含まない窒素含有難燃剤を含有することが好ましい。該窒素含有難燃剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1〜50質量部、好ましくは5〜30質量部である。1質量部未満では、難燃性の効果が劣り、50質量部を超えると該樹脂組成物の機械的強度が低下したり、成形機の金属部分を腐食させたりする場合があるためである。
【0031】
本発明で使用されるハロゲン原子を含まない窒素含有難燃剤としては、尿素、メラミン、メチロール化メラミン、エーテル化メラミン、メラミンオリゴマ縮合物、硫酸メラミン、ジシアンジアミド、スルファミン酸グアニジン、メラミン系化合物又はグアナミン系化合物とシアヌル酸又はイソシアヌル酸との塩などが挙げられる。また、グアニジンとリン酸との塩、グアニル尿素とリン酸との塩、ポリリン酸アンモニウム(APP)、ポリリン酸メラミン(MPP)などの窒素原子を含むリン系難燃剤も使用できる。
【0032】
本発明で使用される窒素含有難燃剤には、メラミン系化合物又はグアナミン系化合物と、シアヌル酸又はイソシアヌル酸との塩を用いることが好ましい。これは、リン酸塩系ガラス及び無機系難燃剤と併用して用いることにより、難燃性の効果を顕著に発揮するからである。前記塩はメラミン系化合物又はグアナミン系化合物と、シアヌル酸又はイソシアヌル酸との付加物であり、前者/後者(モル比)が、好ましくは、1/1、特に好ましくは、1/2を有する付加物である。メラミン系化合物又はグアナミン系化合物のうち、シアヌル酸又はイソシアヌル酸と塩を形成しないものは好ましくない。
【0033】
シアヌル酸又はイソシアヌル酸との塩を形成するメラミン系化合物としては、メラミン、メチロール化メラミン、エーテル化メラミンなどが挙げられ、同様にグアナミン系化合物としては、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等が挙げられ、好ましくは、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンである。
【0034】
メラミン系化合物又はグアナミン系化合物とシアヌル酸又はイソシアヌル酸との塩は、メラミン系化合物又はグアナミン系化合物とシアヌル酸又はイソシアヌル酸の混合物を水スラリーとなし、よく混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥して得られる粉末であり、単なる混合物とは異なる。この塩は完全に純粋である必要はなく、多少未反応のメラミン系化合物、グアナミン系化合物ないしシアヌル酸、イソシアヌル酸が残存していてもよい。本発明で使用される窒素含有難燃剤としては、メラミン系化合物とシアヌル酸との塩、具体的にはメラミンシアヌレートがさらに好ましく用いることができる。
【0035】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに、リン系難燃剤を含んでもよい。該リン系難燃剤としては、塩素原子や臭素原子などのハロゲン原子を含まないリン系難燃剤が好ましい。例えば、リン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート(TPP)などのモノマー型リン酸エステル系難燃剤、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)(BADP)などの縮合型リン酸エステル系難燃剤が挙げられる。含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤としては、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどが挙げられる。特に難燃性の効果が優れる点から、モノマー型リン酸エステル系難燃剤及び縮合型リン酸エステル系難燃剤からなる群より選択される少なくとも1種であるリン系難燃剤を用いるのが好ましい。モノマー型リン酸エステル系難燃剤としては上記以外にビス(ノリルフェニル)フェニルホスフェート、トリ(イソピルフェニル)ホスフェートなどがあり、縮合型リン酸エステル系難燃剤としては上記以外にビスフェノールA−ビス(ジクレジルホスフェート)などがある。常温で固体であるリン系難燃剤としては特にレゾルシノールビス(ジキシレニル)ホスフェートが好ましい。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物には、前述したリン酸塩系ガラスの処理剤に含まれるものとは別個に、カップリング剤、フィルムフォーマー、潤滑剤、帯電防止剤などを含有させることができ、またそれら以外に安定剤、滑剤等の種々の添加剤を含有させることができる。このような添加剤として、例えば、シラン系カップリング剤などのカップリング剤、フタル酸エステルなどの可塑剤、ステアリン酸誘導体などの滑剤、ヒンダードフェノール類などの酸化防止剤、有機スズ化合物などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系化合物などの紫外線吸収剤、顔料などの着色剤、界面活性剤などの帯電防止剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、ガラス繊維などの補強材などが適宜採用される。
【0037】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、樹脂と無機系難燃剤とリン酸塩系ガラスとを、さらに必要に応じて配合されるそれら以外の添加剤とを、溶融混合することにより製造できる。特に、混合と同時の溶融(例えば溶融混練)又は混合後の溶融混練などの従来の樹脂組成物の製造方法と同様の方法により成形材料としての組成物を製造することが好ましい。特に、上記各成分を溶融混練し、押出成形してペレット状又は粒状の成形材料とすることが好ましい。成形材料としての本発明の樹脂の形態は、特に制限なく、ペレット状、粒状、粉末状などの種々の形態を用いることができ、特にペレット状又は粒状の形態であることが好ましい。
【0038】
成形材料である本発明の樹脂組成物は、従来の樹脂組成物の同様に各種の方法によって成形して成形品とすることができる。その成形の方法としては、プレス成形、押出し成形、カレンダ成形、射出成形、引き抜き成形などがある。このような成形方法により、成形品である本発明の樹脂組成物が得られる。また、成形材料である本発明の樹脂組成物を経ることなく、樹脂と無機系難燃剤とリン酸塩系ガラスとを、さらに必要に応じてそれら以外の添加剤とを、射出成形機や押出し成形機などの成形機中で溶融混合するとともにその溶融混合物を成形し、成形品である本発明の樹脂組成物を得ることもできる。
【0039】
成形品としては、電線・ケーブルの被覆材等に用いられ、例えば、電機製品のハウジング材、半導体の封止材、プリント配線基盤などの電子用途等も挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の具体例を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各測定・評価方法を以下に示す。
ガラスのかさ比重は以下の手順により測定した。ステンレス製スコップにガラス試料約50gを秤量(w)し、45度に傾けた100mlのメスシリンダーに、ガラス試料を入れる。メスシリンダーを垂直にして、試料の上面が水平になるように、左右に2回振った。試料の容積(v)を読み取り、式 w÷v によって、かさ比重を計算した。
【0041】
ガラス転移温度は、ガラスカレットを所定の粒径に粉砕したものを測定に供し、示差熱分析装置(DTA)を用いて、加熱速度10℃/分、窒素雰囲気下で測定を行った。DTA曲線において第一吸熱部の肩の温度をガラス転移温度として読み取った。
【0042】
難燃性の試験は、UL94V規格に従い、幅12.7mm、長さ127mm、厚み1.6mmの試験片を用いて、同一組成物の試験片について垂直燃焼試験を5回行った。各試験片の5回の燃焼時間を合計して、総燃焼時間(秒)とし、250秒を超える場合は測定不可とした。前記規格の判定基準に従って、V−0、V−1またはV−2のいずれかの燃焼性クラスに分類した。すなわち、総燃焼時間が50秒以下であって、燃焼物又は落下物による脱脂綿の着火が無い場合にはV−0に分類され、総燃焼時間が50秒を超えて250秒以下であって、燃焼物又は落下物による脱脂綿の着火が無い場合にはV−1に分類され、総燃焼時間が50秒を超えて250秒以下であって、燃焼物又は落下物による脱脂綿の着火が有る場合にはV−2に分類した。なお、V−0、V−1またはV−2のいずれにも該当しない場合にV−OUTとした。
【0043】
また、60度傾斜燃焼試験は、JIS−C3005規格に従い、長さ300mmの試験片を用いた。炎が消えるまでの時間(秒)を測定し、60秒以内に自然に消えたものを合格とした。
【0044】
引張り強度の試験は、JIS K6251に従い、3号試験片を用いて行った。破断伸びを評価項目とし、比較例1の破断伸びを基準に、10%以上の伸びの向上を◎、±10%以内の伸びを○、10%以上の伸びの低下を×、としてランク評価した。
【0045】
[ガラスカレットの調製]
モル百分率表示で、4.1%のLiO、5.7%のNaO、4.4%のKO、24.9%のP、9.3%のSO、40.5%のZnO、1.5%のAlおよび9.6%のBのガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、第1のリン酸塩系ガラスカレットAを作製した。前記カレットAのガラス転移温度を測定したところ、354℃であった。
【0046】
また、モル百分率表示で、9.0%のLiO、10.6%のNaO、7.4%のKO、24.8%のP、14.6%のSOおよび33.6%のZnOのガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、第2のリン酸塩系ガラスカレットBを作製した。前記カレットBのガラス転移温度を測定したところ、240℃であった。
【0047】
前記カレットAを粉砕し、かさ比重が0.48、0.61及び0.79となる3種類のガラスパウダーA1、A2及びA3をそれぞれ得た。また、前記カレットBを粉砕し、かさ比重が0.53のガラスパウダーBを得た。
【0048】
また、前記ガラスパウダーの平均粒径(体積基準:D50)を測定したところ、ガラスパウダーA1の平均粒径は2.5μm、A2のは3.6μm、A3のは7.0μm及びBのは1.9μmであった。
【0049】
<実施例1>
[ポリオレフィン系樹脂組成物の調製]
予めポリオレフィン系樹脂以外の配合物、すなわち、無機系難燃剤として水酸化マグネシウム(キスマ5P、協和化学社製)170質量部、かさ比重0.61のガラスパウダーA2を10質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010、チバスペシャリティー社製)0.5質量部および潤滑剤としてステアリン酸亜鉛(ZnS−P、アデカ社製)0.5質量部を乾式混合(ドライブレンド)した。ポリオレフィン系樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA270、三井デュポン社製)100質量部を、設定温度80℃でロール回転数20rpmのダブルニーディングロール装置に投入し、1分間溶融混錬した。次に乾式混合した前記ポリオレフィン系樹脂以外の配合物を、前記装置に投入して、樹脂と溶融混錬した。この時に乾式混合した前記ポリオレフィン系樹脂以外の配合物が前記樹脂に練り込まれるまでの時間(練込時間)を計測し、練り込まれた後、更に3分間溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0050】
この樹脂組成物を、平板プレス成形機を用いて、金型温度180℃、成形圧力10MPa、成形時間5分で成形し、実施例1のポリオレフィン系樹脂組成物の成形品を得た。
【0051】
<実施例2〜5、比較例1〜4>
表1に記載の配合組成にて、実施例1と同様の方法によって、樹脂組成物をそれぞれ得た。実施例2〜5及び比較例1〜4となるポリオレフィン系樹脂組成物の成形品を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
なお、配合に用いた原料は、以下の通りである。
水酸化マグネシウム(キスマ5P、かさ比重:0.314、平均粒径:0.8μm)、窒素含有難燃剤(メラミンシアヌレート MC−440、日産化学社製)、Eガラスパウダー(かさ比重:0.76、平均粒径:7.0μm、自社試作品)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010;ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバスペシャリティー社製)。
【0054】
実施例1〜5及び比較例1〜4の各成形品から、難燃性の試験および引張り試験に用いる試験片をそれぞれ得て、前記試験を行った。
【0055】
実施例1〜5及び比較例1〜4の各成形品を22AWG仕様の電線の絶縁体として用い、外径1.3mm、絶縁体の標準厚さ0.26mmの電線をそれぞれ試作した。得られた各電線を用いて、60度傾斜燃焼試験を行った。
上記の試験結果及び調製時の練込時間をまとめて表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例1、3〜5の樹脂組成物は、難燃性は同等であって、練り込み時間が短くなり、生産性が改善されている。また、実施例2の樹脂組成物は、リン酸塩系ガラスのかさ比重が大きいため、難燃性は不充分であるが、練り込み時間が短く、生産性の評価は良好である。
【0058】
これに対して、比較例2の樹脂組成物は、リン酸塩系ガラスを30質量部配合するため、練り込み時間が短く、生産性の評価は良好であるが、難燃性は不充分である。また、比較例3の樹脂組成物は、水酸化マグネシウムの配合量が30質量部と少ないため、練り込み時間が短く、生産性の評価は良好であるが、難燃性は不充分である。比較例4の樹脂組成物は、水酸化マグネシウムの配合量が300質量部と多いため、難燃性は優れるものの、練り込み時間が長く、生産性の評価が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、優れた難燃性を有し、さらに樹脂組成物の生産性、成形性を改善することが可能となる。各種成形品を得るための成形材料として有用である。成形品としての本発明の樹脂組成物は、電子電気関連部材、車両関連部材等の用途に使用でき、特に電線被覆用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種を含む無機系難燃剤50〜250質量部、及びリン酸塩系ガラス1〜20質量部を含むことを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、ハロゲン原子を含まない窒素含有難燃剤1〜50質量部を含む請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸塩系ガラスが、酸化物基準で、ZnO及びSOを含み、200〜400℃のガラス転移温度を有する請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記リン酸塩系ガラスが、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、300〜400℃のガラス転移点を有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
:22〜27%、SO:3〜18%、ZnO:10〜55%、Al:1〜5%、B:5〜15%、LiO+NaO+KO:5〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
【請求項5】
前記リン酸塩系ガラスが、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ、200〜300℃のガラス転移点を有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
【請求項6】
前記リン酸塩系ガラスが、0.40〜0.80のかさ比重を有する粒子である請求項1〜5のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記窒素含有難燃剤は、メラミン系化合物又はグアナミン系化合物と、シアヌル酸又はイソシアヌル酸と、の塩を含む請求項2〜6のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜7のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物を含む電線・ケーブルの被覆又は絶縁材料。

【公開番号】特開2007−9000(P2007−9000A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189392(P2005−189392)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】