説明

ポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法

【課題】異方性のない優れた難燃性を安定に備え、外観や機械的物性にも優れた厚さ30〜300μmのポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムを良好な成形加工性のもとで製造する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂と、安定化処理された赤リン難燃剤と、ポリフルオロエチレンとが配合された樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記樹脂組成物を押出成形して、厚さが30〜300μmの押出成形フィルムを成形する押出成形工程とを有する製造方法であり、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、安定化処理された赤リン難燃剤は赤リンの量として0.8〜8質量部とし、ポリフルオロエチレン樹脂は0.05〜1質量部とする。そして、押出成形工程でのドロー比は、1.05〜33とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、電気的特性、寸法安定性などに優れ、また、自己消火性を有し、比較的燃えにくいものとして知られている。そのため、OA機器、情報・通信機器、電気・電子機器、家庭用電化機器、リチウムイオン二次電池などを構成する樹脂製筐体に用いられている。
【0003】
これらの機器には、軽量、小型、薄型化が求められているともに、環境問題や資源の有効利用の観点から、その樹脂製筐体はリサイクルに適したものであることも求められている。リサイクルを前提とした場合、筐体を構成する樹脂は、すべて同じ種類であることが望ましい。そのため、各種機器の樹脂製筐体と、これに貼付されるラベル、シール、デカール、ネームプレートなどの樹脂製フィルム基材とは、同じ樹脂から構成されることが好適である。
【0004】
このような事情を背景として、ポリカーボネート樹脂製の筐体を備えたこれらの機器に貼付されるフィルムには、ポリカーボネート樹脂製であり、かつ、より薄く、高度な難燃性を備えていることが要求される。
【0005】
機器の筐体に使用される樹脂としては、ポリカーボネート樹脂の他、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、これらのアロイなどが使用されている。これらの樹脂を難燃化する方法としては、例えば臭素や塩素を含む化合物や酸化アンチモンなどを難燃剤として配合する方法が従来より知られている。
【0006】
ところが、これらの難燃剤は、燃焼時に発生する有毒ガスや煙などの点で、環境への悪影響が懸念されている。そのため、このような難燃剤を使用しない難燃化方法が検討されている。例えば、これらの難燃剤の代わりに、赤リン難燃剤を用いる方法が例えば特許文献1〜4などに開示されている。また、臭素や塩素を含む化合物や酸化アンチモン、赤リンのいずれをも使用せずに難燃性を付与する方法が特許文献5において検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭48−85642号公報
【特許文献2】特開平7−53779号公報
【特許文献3】特開2000−297187号公報
【特許文献4】特開2000−119503号公報
【特許文献5】国際公開第05/103155号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された技術は、射出成形などで成形される立体的な成形体の難燃化については効果があったとしても、薄肉のフィルムの難燃化には十分な効果が得られない場合があった。
また、特許文献5の技術では、フィルムの難燃性はフィルムの配向性に依存するため、フィルムから試験片を切り出す際の切り出し方向によっては十分な難燃性が得られない、すなわち、難燃性に異方性を有するものであった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、異方性のない優れた難燃性を安定に備え、外観や機械的物性にも優れた厚さ30〜300μmのポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムを良好な成形加工性で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法は、ポリカーボネート樹脂と、安定化処理された赤リン難燃剤と、ポリフルオロエチレンとが配合された樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記樹脂組成物を押出成形して、厚さが30〜300μmの押出成形フィルムを成形する押出成形工程とを有し、前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、前記安定化処理された赤リン難燃剤は赤リンの量として0.8〜8質量部配合され、前記ポリフルオロエチレン樹脂は0.05〜1質量部配合され、前記押出成形工程でのドロー比は、1.05〜33であることを特徴とする。
前記樹脂組成物調製工程では、ポリカーボネート樹脂と安定化処理された赤リン難燃剤とを含有するマスターバッチと、ポリカーボネート樹脂とポリフルオロエチレン樹脂とを含有するマスターバッチとをそれぞれ調製した後、これらのマスターバッチを混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異方性のない優れた難燃性を安定に備え、外観や機械的物性にも優れた厚さ30〜300μmのポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムを良好な成形加工性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[樹脂組成物調製工程]
本発明のポリカーボネート樹脂系難燃性フィルム(以下、難燃性フィルムという。)の製造方法では、まず、ポリカーボネート樹脂に対して、安定化処理された赤リン難燃剤と、ポリフルオロエチレン樹脂とが配合され、さらに必要に応じて任意成分が配合された樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程を行う。
【0013】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。
ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられ、これらは単独または2種類以上混合して使用される。
【0014】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量には特に制限はないが、成形加工性、得られた難燃性フィルムの強度の点から、10000〜100000が好ましく、より好ましくは15000〜35000である。また、ポリカーボネート樹脂の製造に際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて添加してもよい。
【0015】
本発明で使用される安定化処理された赤リン難燃剤(以下、安定化赤リン難燃剤という。)は、赤リンを各種物質で表面処理(被覆処理)したものである。安定化赤リン難燃剤は、表面処理が施されていない未処理の赤リンと比較して、安全性、取り扱い性に優れ、成形加工時の臭気が少ないという利点がある。例えば、高温、高湿条件下におけるホスフィンの発生量が少なく、高温水中におけるリン酸の発生も少ない。
表面処理される赤リンとしては、古くから知られている粉砕赤リンを篩別して粒度を調整したものや、黄リンを熱転化することにより直接得られる球体状のものを使用できるが、破砕面がなく安定性が高く、原料保管時やフィルム成形時の安全性も高まる点から、黄リンを熱転化することにより得られる球体状の赤リンが好ましい。
【0016】
表面処理に使用される各種処理物質としては、熱硬化性樹脂、無機化合物、金属が使用できる。
熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを例示できる。
無機化合物としては、シリカ、ベントナイト、ゼオライト、カオリン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンなどを挙げることができる。
金属としては、無電解メッキが可能な金属を使用でき、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、マンガン、アルミニウムなどを例示できる。
【0017】
表面処理には、2種以上の処理物質を併用してもよい。その場合には、2種以上の処理物質を混合して一括に表面処理してもよいし、各処理物質ごとに表面処理を順次行ってもよい。また、各処理物質ごとに表面処理を行う場合には、各表面処理の間に、他の処理が介在していてもよい。
【0018】
表面処理の具体的方法としては、特開平7−53779号公報に記載される方法が挙げられる。無機化合物で表面処理する場合、例えば金属の水溶性塩類の水溶液に赤リン粒子を懸濁させ、中和または複分解によって赤リン粒子上に被覆層を形成させ乾燥する。熱硬化性樹脂で表面処理する場合、赤リン粒子の水懸濁液に、樹脂の合成原料または初期縮合物を添加し、得られた生成物を分離、洗浄、加熱乾燥し、重合反応を完結させて、被覆層を形成する。
【0019】
表面処理時における赤リンと処理物質との比率は、得られた安定化赤リン難燃剤における赤リンの含有量が20質量%以上となるように設定されると、難燃性フィルムに十分な難燃性を付与でき、かつ、処理物質のコストを抑制でき好ましい。また、得られた安定化赤リン難燃剤における赤リンの含有量が96質量%以下となるように設定されると、赤リン粒子表面が処理物質で十分に覆われ、安定性が更に高まる点で好ましい。より好ましい安定化赤リン難燃剤における赤リンの含有量は30〜96質量%、さらに好ましくは50〜95質量%である。
【0020】
安定化赤リン難燃剤の粒子径は、平均粒子径が0.1〜100μmであるものが好ましく、より好ましくは0.5〜30μm、さらに好ましくは1〜15μmである。さらに、このような平均粒子径であって、かつ、粒子径が50μm以上、より好適には30μm以上の粒子の含有量が少ないものが好ましい。このような粒子径であると、凝集物が認められず、それにより優れた外観と、良好な難燃性とを発揮する難燃性フィルムを得ることができる。
【0021】
安定化赤リン難燃剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、赤リンの量(赤リン正味量)として0.8〜8質量部であり、好ましくは1〜8質量部、より好ましくは1.05〜5.5質量部である。このような配合量であれば、難燃性フィルムに高度な難燃性を付与でき、難燃性フィルムの機械的物性(例えば、耐折り曲げ性など。)に悪影響を与えることもない。
【0022】
ポリフルオロエチレン樹脂は、燃焼物の滴下を防止する目的で使用される。本発明では、フィブリル形成能力を有するポリフルオロエチレンとして、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体などのテトラフルオロエチレン系ポリマーを好ましく使用できる。
ポリフルオロエチレン樹脂の形態としては、ファインパウダー状のフルオロポリマー、このようなフルオロポリマーの水性ディスパージョン、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂やPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)などの他の樹脂との粉体状混合物などが挙げられ、これらの形態のものを使用できる。
これらのなかでは、ファインパウダー状のポリテトラフルオロエチレンをそのままで、または、水性ディスパージョンの形態で使用すると、特に優れた外観の難燃性フィルムが得られる点で好ましい。
【0023】
ポリフルオロエチレン樹脂の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.05〜1質量部であり、好ましくは0.1〜0.4質量部である。このような配合量未満では、燃焼物の耐滴下性を得ることができない。一方、このような配合量を超えると、フィルム成形時に成形方向(流れ方向)の周期的な厚みのばらつきが生じてしまい、安定な成形が困難となり、成形加工性が劣る。
なお、ポリフルオロエチレン樹脂として、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂やPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)などの他の樹脂との粉体状混合物を使用する場合には、この粉体状混合物中のポリフルオロエチレン樹脂の量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して上記範囲内であればよい。
【0024】
樹脂組成物に必要に応じて配合される任意成分としては、難燃性フィルムに強度、剛性、より優れた難燃性を付与する成分である無機充填剤が挙げられる。
無機充填剤としては、タルク、マイカ、カオリン、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などが挙げられる。これらの無機充填剤は、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤などで表面処理されたものであってもよい。また、無機充填剤の平均粒子径は、0.5〜50μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。
【0025】
無機充填剤の配合量には特に制限はなく、安定化赤リン難燃剤の配合量との兼ね合いで、難燃性フィルムの成形加工性、外観および機械的物性に悪影響を与えない範囲で決定される。具体的には、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。
【0026】
その他の任意成分としては、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、帯電防止剤、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系)、ヒンダードアミン系光安定剤、相溶化剤、着色剤(カーボンブラック、染料、顔料)などが挙げられる。これらの任意成分の配合量は、フィルムの難燃性に悪影響を与えない範囲で適宜決定される。
【0027】
樹脂組成物調製工程では、ポリカーボネート樹脂と、安定化赤リン難燃剤と、ポリフルオロエチレン樹脂と、必要に応じて配合される任意成分とを一括混合してもよいが、ポリカーボネート樹脂と安定化赤リン難燃剤とを含有するマスターバッチと、ポリカーボネート樹脂とポリフルオロエチレン樹脂とを含有するマスターバッチとをそれぞれ調製した後、これらのマスターバッチを混合することが好ましい。このような方法によれば、凝集物が認められず、それにより、一層優れた外観と良好な難燃性とを発揮する難燃性フィルムを製造することができる。特にポリカーボネート樹脂と安定化赤リン難燃剤とを含有するマスターバッチを調製しておくことによって、原料保管時やフイルム成形時の安全性も高まる。また、任意成分は、これらマスターバッチを混合する際に配合してもよいし、マスターバッチに配合しておいてもよい。
各マスターバッチは、例えば同方向二軸混練機などで各成分を溶融混合し、ペレット状物に成形する方法などで調製できる。
【0028】
[押出成形工程]
ついで、上述の樹脂組成物調製工程で調製された樹脂組成物を押出成形して、厚さが30〜300μmの押出成形フィルム(難燃性フィルム)を成形する押出成形工程を行う。
押出成形工程では、Tダイ押出成形法、インフレーション押出成形法などの公知の方法を採用できるが、特にその際のドロー比を1.05〜33に調整することが、異方性のない安定な難燃性と、成形加工性の点で重要である。より好ましいドロー比は1.1〜27である。
ここでドロー比とは、押出成形機のダイリップの開度A(μm)と、成形されたフィルムの厚みB(μm)との比A/Bである。ドロー比が1.05未満であると、ダイリップから吐出された溶融樹脂フィルムが冷却されるまでの間に弛んでしまい、成型加工性が悪く、得られた押出成形フィルムは厚み均一性が無くなってしまう。一方、ドロー比が33を超えると、異方性のない安定な難燃性が得られない。具体的には、難燃性フィルムの成形方向をUL94規格による薄材料垂直燃焼試験の試験片の長さ方向としたとき、接炎中にフィルムのシュリンク(収縮)が大きくなり、残炎が標線に達することがある。
【0029】
また、押出成形工程でのシリンダー温度は、260〜330℃の範囲で調整され、フィルムの厚み均一性、外観を見ながら適宜調整される。
【0030】
このようにして製造された難燃性フィルムは、厚さが30〜300μmであるため、この難燃性フィルムを例えばポリカーボネート樹脂製の筐体を備えたOA機器、情報・通信機器、電気・電子機器、家庭用電化機器、リチウムイオン二次電池などの機器に貼付されるフィルムのフィルム基材として使用した場合において、これらの機器の軽量、小型、薄型化や、筐体のリサイクルに悪影響を与えることがない。
また、一般に厚みが薄いフィルムは、配合される添加物などの影響により良好な外観を維持することが難しく、また、フィルム成形も困難になる傾向にあるが、本発明によれば、厚さが30〜300μmと薄いものの、安定化赤リン難燃剤とポリフルオロエチレン樹脂の配合量が適切に制御され、また、押出成形工程のドロー比が特定の範囲に制御されているため、良好な外観と、成形加工性と、機械的物性と、異方性のない高度な難燃性とを維持することができる。
難燃性としては、具体的には、UL94規格による薄材料垂直燃焼試験で、試験片の切り出し方向によらず、VTM−0に適合するレベルを達成できる。
【0031】
以上説明したように、本発明のポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法は、樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、樹脂組成物を押出成形して、厚さが30〜300μmの押出成形フィルムを成形する押出成形工程とを有し、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、安定化処理された赤リン難燃剤は赤リンの量として0.8〜8質量部配合され、ポリフルオロエチレン樹脂は0.05〜1質量部配合され、かつ、押出成形工程でのドロー比は、1.05〜33とされているため、異方性のない優れた難燃性を安定に備え、外観や機械的物性にも優れた厚さ30〜300μmのポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムを良好な成形加工性で製造することができる。
また、樹脂組成物調製工程において、ポリカーボネート樹脂と安定化赤リン難燃剤とを含有するマスターバッチと、ポリカーボネート樹脂とポリフルオロエチレン樹脂とを含有するマスターバッチとをそれぞれ調製した後、これらのマスターバッチを混合することにより、凝集物が認められず、それにより、一層優れた外観と良好な難燃性とを発揮する難燃性フィルムを製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[難燃性フィルムの材料]
成分A1:「ポリカーボネート樹脂」:住友ダウ社製、ガリバー200−3、ビスフェノールA型ポリカーボネート、粘度平均分子量=28000
成分A2:「ポリカーボネート樹脂」:住友ダウ社製、ガリバー200−13、ビスフェノールA型ポリカーボネート、粘度平均分子量=21000
成分B:「安定化赤リン(安定化赤リン難燃剤)」:燐化学工業社製、ノーバエクセル140F、黄リンを熱転化することにより得られる球体状赤リン粒子を無機化合物(水酸化アルミニウム)および熱硬化性樹脂(熱硬化型フェノール樹脂)で被覆処理したもの、平均粒子径=10μm、赤リン含有量=91質量%
成分BM:「安定化赤リン難燃剤マスターバッチ」:成分A2と成分Bを質量比85/15となるように同方向二軸混練機で溶融混合して得られたペレット状物
成分C:「ポリテトラフルオロエチレン」:ダイキン工業社製、ポリフロンMPA FA500C、ファインパウダー
成分CM:「ポリテトラフルオロエチレンマスターバッチ」:成分A2と成分Cを質量比100/2.5となるように同方向二軸混練機で溶融混合して得られたペレット状物
成分D:「タルク」:日本タルク社製タルクP−4を信越化学工業社製3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランKBM−403で表面処理したもの、平均粒子径4.3μm
成分E:「カーボンブラック」:東海カーボン社製、トーカブラック♯7350
【0033】
[実施例および比較例]
(1)難燃性フィルムの製造
表2および3に示す配合量(質量部)で上記各成分を配合してヘンシェルミキサーで均一に混合し、調製された樹脂組成物を37mm径同方向二軸押出機(L/D=42)に供給した。シリンダー温度280℃で溶融混練し、Tダイから溶融樹脂を吐出させ、これを130℃に設定したピンチロールで引き取りつつ冷却し、表2および3に記載の厚みで、幅が500mmの難燃性フィルムを製造した。
なお、各例でのドロー比が表に示す値となるように、押出機のTダイリップの開度を調整した。
(2)評価
(i)フィルム外観(平滑性)と成形加工性(厚み均一性)の評価
各難燃性フィルムの外観について、フィルム平滑性を目視により評価した。
各難燃性フィルムの成形加工性について、フィルムの厚みの均一性により評価した。具体的には、フィルムの成形方向に沿って、厚みをマイクロメーターにて50mm間隔で50点測定し、厚みばらつき=(最大値−最小値)/平均値を求め評価した。
「○」:フィルム平滑性が優れ、厚みばらつき=0.1以下のもの。
「×」:上記「○」以外のもの。
(ii)耐折り曲げ性(機械的物性)
押出成形した難燃性フィルムをJIS P8115に準拠し、MIT試験機にて試験片が破断するまでの往復折り曲げ回数を測定した。往復折り曲げ回数が30回以上の場合「○」、30回未満の場合「×」とした。
なお、試験片は幅15mm×長さ150mmであり、フィルムの成形方向を試験片の長さ方向とした。
MIT試験条件は、折り曲げクランプ先端半径0.38mm、折り曲げクランプの開口すき間1.0mm、ばね荷重9.8N、折り曲げ角度(片側)135°、往復折り曲げ速度175回/分、測定環境23℃50%RHである。
一般に、往復折り曲げ回数は、同じフィルムであれば厚みに依存し、厚みが薄いほど回数が大きくなる。往復折り曲げ回数が30回以上であれば、フィルムを加工(折り曲げ、スリット、打ち抜き等)する際、割れやクラックを生じ難い。
(iii)難燃性
上記(1)で製造された各難燃性フィルムから、切り出す方向が異なる2種類の試験片(幅50mm×長さ200mm)を切り出した。すなわち、試験片の長さ方向と難燃性フィルムの成形方向(流れ方向)とが一致するように切り出したものを表中「縦」とし、幅方向と難燃性フィルムの成形方向(流れ方向)とが一致するように切り出したものを表中「横」とした。
そして、これらの試験片を25℃、50%RHの環境下に168時間保管後、UL94規格による薄材料垂直燃焼試験(VTM試験)を行った。
また、70℃のギアオーブン中で168時間乾燥した試験片についても、VTM試験を行った。
各評価において、各試験片を5枚ずつ使用した。
なお、接炎時間は3秒間とし、1つの試験片に対して2回接炎させ、接炎後の残炎時間をそれぞれ測定した。また、標線は試験片の下端から125mmの位置にあり、標識用綿は試験片の下端から300mm下方に配置してある。
表1にVTM試験のクラス判定基準を示す。
表2〜3に、各実施例および比較例の評価結果を示す。
【0034】
表中、最大燃焼時間とは、5枚の試験片についてのt1およびt2のうち、最大値である。また、合計燃焼時間とは、5枚の試験片のt1およびt2をすべて合計したものである。また、本実施例においては、試験片の溶融物が落下した場合でも、非溶融物が落下した場合でも、「滴下」と判定している。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
各実施例によれば、異方性のない優れた難燃性を安定に備え、外観にも優れた厚さ30〜300μmの押出成形フィルムを製造できた。
一方、赤リン難燃剤が少ない比較例1では、難燃性が不十分であり、赤リン難燃剤が多い比較例2では、耐折り曲げ性が劣った。ポリフルオロエチレンが少ない比較例3では、特に燃焼物が滴下してしまい、その点で難燃性が不十分であった。ポリフルオロエチレンが多い比較例4では、厚み30〜300μmのフィルムを成形しようとしたが、厚みばらつきが大きく、フィルム成形自体が不可能であった。また、ドロー比が大きい比較例5では、試験片が「横」である場合には、良好な難燃性が得られたものの、「縦」の場合には、接炎時にフィルムが収縮してしまい難燃性が不十分であった。すなわち、比較例5では、難燃性の異方性が顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂と、安定化処理された赤リン難燃剤と、ポリフルオロエチレンとが配合された樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記樹脂組成物を押出成形して、厚さが30〜300μmの押出成形フィルムを成形する押出成形工程とを有し、
前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、前記安定化処理された赤リン難燃剤は赤リンの量として0.8〜8質量部配合され、前記ポリフルオロエチレン樹脂は0.05〜1質量部配合され、
前記押出成形工程でのドロー比は、1.05〜33であることを特徴とするポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物調製工程では、ポリカーボネート樹脂と安定化処理された赤リン難燃剤とを含有するマスターバッチと、ポリカーボネート樹脂とポリフルオロエチレン樹脂とを含有するマスターバッチとをそれぞれ調製した後、これらのマスターバッチを混合すること特徴とする請求項1のポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−254797(P2010−254797A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106230(P2009−106230)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】