説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品

【課題】耐擦傷性、透明性、低ガス性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)0.05〜5.0質量部、および炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)0.5〜5.0質量部を含有し、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比が1〜50であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に係り、詳しくは、耐擦傷性、透明性、低ガス性に優れたポリカーボネート樹脂組成物と、これを成形してなるポリカーボネート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、無機ガラスに比較して軽量で、着色性や成形品の形状の自由度が高く、生産性にも優れているという特徴を有するので、幅広い用途がある。中でも、ポリカーボネート樹脂、とりわけ芳香族ポリカーボネート樹脂は、熱可塑性樹脂の前記諸特徴に加え、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、透明性にも優れているので、種々の分野で使用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂を各種構造部材の成形材料として用いる場合、ポリカーボネート樹脂本来の上述のような優れた特性に加えて、耐擦傷性に優れることが望まれる。
従来、この耐擦傷性の改良のためには、ポリカーボネート樹脂成形品の表面に各種コーティングを施すことが行なわれているが、コーティング等の処理では、加工のためのコストと手間を要することから、ポリカーボネート樹脂組成物の配合組成を改良することにより、ポリカーボネート樹脂成形品自体に耐擦傷性を付与することが望まれる。
【0004】
従来、ポリカーボネート樹脂組成物の耐擦傷性を高める技術としては、ポリカーボネート樹脂にシリコーンオイルを配合したもの(特許文献1)、シリコーン化合物等の摺動性充填剤を配合したもの(特許文献2)、ビフェニル化合物、ターフェニル化合物、ポリカプロラクトン等の反可塑剤を配合したもの(特許文献3)、炭素数16〜22の飽和一価脂肪酸のモノグリセリドをポリカーボネート樹脂100重量部当たり0.01〜0.2重量部配合したもの(特許文献4)などが提示されているが、耐擦傷性、透明性、低ガス性(成形時のガス発生の問題がない)のすべてにおいて、十分に満足し得るものではなかった。
【0005】
なお、本発明において、耐擦傷性改良のために用いる脂肪族カルボン酸や脂肪族カルボン酸エステル自体は、従来、離型剤として用いられており、特許文献1にも、具体的な配合量の記載はないが、離型剤としてのペンタエリスリトールテトラステアレートやグリセリンモノステアレートが記載されている。また、特許文献3にも脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを離型剤として配合し得ることが記載されている。しかしながら、特許文献1,3には、これらの離型剤により耐擦傷性が向上することは記載されておらず、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルの各々の配合量や、これらを併用する場合の配合比についての検討もなされていない。
また、特許文献4では、脂肪酸モノグリセリドのみが記載され、脂肪族カルボン酸の併用の記載はなく、その配合量も少量であるため、耐擦傷性の改善効果は十分ではない。
【0006】
更に、離型剤としての脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルの配合については、特許文献5〜12にも記載されているが、脂肪族カルボン酸と脂肪族カルボン酸エステルとを併用することが行われていなかったり、或いは、併用可能である旨の記載がある場合であってもその使用量が少な過ぎたりすることにより、耐擦傷性の改良効果は得られない。
【0007】
なお、従来において、離型剤としての脂肪族カルボン酸やそのエステル化物の配合量を少量に抑えているのは、これを多量に配合すると、成形時のガス発生量が多くなり、金型汚染を引き起こしたり、また、成形品が白濁してその外観が著しく損なわれるためである。即ち、例えば、ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸を多量に配合すると、ガスが多く発生し、金型が汚染される。また、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等の脂肪族カルボン酸エステルを多量に配合すると、白濁が生じる。
このため、従来において、脂肪族カルボン酸や脂肪族カルボン酸エステルの配合量は例えばポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.05〜0.5質量部というような少量に抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−210889号公報
【特許文献2】特開2007−51233号公報
【特許文献3】特開2007−326938号公報
【特許文献4】特公平2−48081号公報
【特許文献5】特開平5−179120号公報
【特許文献6】特開平11−152403号公報
【特許文献7】特開2001−192543号公報
【特許文献8】特開2002−167501号公報
【特許文献9】特開2008−308606号公報
【特許文献10】特開2005−68375号公報
【特許文献11】特開2007−320980号公報
【特許文献12】特開2007−332327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決し、耐擦傷性、透明性、低ガス性に優れたポリカーボネート樹脂組成物と、このポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来、離型剤として用いられている脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルのうち、特定の脂肪族カルボン酸と特定の脂肪族カルボン酸エステル化物とを特定の割合で併用添加した場合には、これらを従来の離型剤としての配合量よりも多量に配合しても白濁やガス発生の問題を引き起こすことなく、耐擦傷性を著しく改善することができ、この結果、耐擦傷性と、透明性と、低ガス性とを兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物を実現できることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)0.05〜5.0質量部、および炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)0.5〜5.0質量部を含有し、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比が1〜50であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
[2] 炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、多価アルコールと炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物であることを特徴とする[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
[3] 炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、グリセリン及び/又はペンタエリスリトールと、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物であることを特徴とする[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
[4] 炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、グリセリントリステアレート及び/又はペンタエリスリトールテトラステアレートであることを特徴とする[3]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
[5] 炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)が、ステアリン酸であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0017】
[6] ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)0.05〜5.0重量部、および炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)0.5〜5.0重量部を含有し、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比が1〜50であるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚み3mmの成形品についてJIS K−7136に従って測定したヘイズ値が2.0%以下であり、かつ、該ポリカーボネート樹脂組成物より得られたASTMダンベル試験片について、以下に記載の方法で測定したキズ断面積が50μm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
キズ断面積の測定方法:10mmφの平滑底面を有する円柱状治具の底面にグラス拭き用ポリエステル布を張り付け、1.5kgの荷重をかけて、ストローク巾100mm、速度50回/分、200往復の条件で、試験片の表面に対して往復摺動試験を行った後、表面粗さ計を用いて該試験片中央部の厚さ方向断面におけるキズの断面積を算出する。
【0018】
[7] 炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)がステアリン酸であり、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)がグリセリントリステアレート及び/又はペンタエリスリトールテトラステアレートであることを特徴とする[6]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0019】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0020】
[9] [1]ないし[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物と、該ポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物とを多色成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂に特定の脂肪族カルボン酸と脂肪族カルボン酸のエステル化物とを特定の割合で併用添加することにより、これらを従来の離型剤としての配合量よりも多く配合してその耐擦傷性改善効果を十分に発揮させた上で、白濁やガス発生を防止することが可能となり、この結果、耐擦傷性、透明性、低ガス性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、ポリカーボネート樹脂本来の有する耐熱性、寸法安定性、耐衝撃性、透明性に加えて、耐擦傷性にも優れ、また、成形時の金型汚染の問題もなく、製造歩留まりにも優れるものであり、その工業的有用性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るキズ断面積の測定方法を説明する図であり、(a)図は縦断面図、(b)図は平面図、(c)図は表面粗さ計の測定チャートを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0025】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の主要成分であるポリカーボネート樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
【0026】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、α,α'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4'−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられる。また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を併用すると、難燃性の高いポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0027】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネート樹脂が挙げられる。本発明では、(A)成分として、2種以上のポリカーボネート樹脂を併用しても良い。
【0028】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、通常14,000〜30,000、好ましくは15,000〜28,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、一般に成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品を与える樹脂組成物が得られる。ポリカーボネート樹脂(A)の最も好ましい分子量範囲は16,000〜26,000である。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂を使用するのも好ましい。
【0030】
さらに、本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料としてのポリカーボネート樹脂のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂、であっても良い。このようなポリカーボネート樹脂としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などから再生したものが挙げられる。また、ポリカーボネート樹脂から成形品を製造する際の不合格品、スプルー、ランナーなどから再生したポリカーボネート樹脂も使用可能である。
【0031】
[脂肪族カルボン酸・脂肪族カルボン酸のエステル化物(B)]
本発明においては、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)(以下「(B−1)成分」と称す場合がある。)と炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)(以下「(B−2)成分」と称す場合がある。)とを所定の割合で併用することを特徴とする(以下(B−1)成分と(B−2)成分をあわせて「(B)成分」と称す場合がある。)。
【0032】
<炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)>
脂肪族カルボン酸の炭素数が10未満のものでは、成形時のガス発生の問題があり、19を超えるものでは、耐擦傷性や離型性の改善効果が得られない。従って、本発明においては、(B−1)成分として、炭素数10〜19、好ましくは炭素数16〜18の脂肪族カルボン酸を用いる。また、脂肪族カルボン酸は飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましい。
【0033】
この脂肪族カルボン酸の炭素骨格には、水酸基などの置換基があってもよい。
【0034】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)としては、例えば、デカン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸などが挙げられる。中でもパルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、特にステアリン酸が好ましい。(B−1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.05〜5質量部である。(B−1)成分の含有量が0.05質量部未満では、耐擦傷性の改良効果が十分ではなく、また、成形時の離型性、成形品の外観に改良効果が見られず、金型の破損を引き起こす可能性がある。逆に、5質量部を超えると、成形時のガス発生量が多くなり、いずれも好ましくない。上記範囲の中で好ましいのは、0.07〜3質量部であり、特に好ましくは0.1〜1質量部である。
【0036】
<炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)>
(B−1)成分と同様の理由から、(B−2)成分を構成する脂肪族カルボン酸の炭素数が10未満のものでは、成形時のガス発生の問題があり、19を超えるものでは、耐擦傷性や離型性の改善効果が得られない。従って、本発明においては、(B−2)成分の脂肪族カルボン酸としては、炭素数10〜19、好ましくは炭素数16〜18のものを用いる。また、この脂肪族カルボン酸は飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましい。
【0037】
この脂肪族カルボン酸の炭素骨格には、水酸基などの置換基があってもよい。
【0038】
(B−2)成分を構成する炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸などが挙げられる。中でもパルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、特にステアリン酸が好ましい。
【0039】
(B−2)成分は、上述のような炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸と多価脂肪族アルコールとのエステル化物であることが好ましい。ここで、多価脂肪族アルコールとしては、3〜6価の脂肪族アルコールが好ましく、その炭素数は3〜10であることが好ましい。多価脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、メソエリスリトール、ペンチトース、ヘキシトール、ソルビトールなどが挙げられ、好ましくはグリセリン、ペンタエリスリトールである。
【0040】
(B−2)成分としての上記多価脂肪族アルコールと上記脂肪族カルボン酸とのエステル化物は、フルエステル化物であることが好ましい。なお、本発明において、「フルエステル化物」は、そのエステル化率が必ずしも100%である必要はなく、80%以上であればよい。本発明にかかるフルエステル化物のエステル化率は好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0041】
特に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸エステル化物(B−2)としては、グリセリントリステアリレート、ペンタエリスリトールテトラステアリレートが好適に用いられる。
【0042】
なお、(B−2)成分は、それを構成する脂肪族カルボン酸や多価脂肪族アルコールが異なるエステル化物や、エステル化率の異なるエステル化物の2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明において、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのエステル化物(B−2)の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.5〜5質量部である。(B−2)成分の含有量が0.5質量部未満では、耐擦傷性の改良効果が十分でなく、また、成形時の離型性、成形品の外観に改良効果が見られず、金型の破損を引き起こす可能性がある。逆に、5質量部を超えると、成形品の透明性が損なわれてしまい、いずれも好ましくない。上記範囲の中でも特に好ましいのは、0.5〜3重量部である。
【0044】
本発明では、脂肪族カルボン酸(B−1)および脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、ポリカーボネート樹脂(A)に対して上記特定の含有量であるとともに、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比((B−2)成分/(B−1)成分、以下「(B−2)/(B−1)比」と称す場合がある。)が1〜50であることが必要である。(B−2)/(B−1)比が上記範囲内であることで、効果的に耐擦傷性を向上させることができる。(B−2)/(B−1)比が1未満の場合、ガス発生の問題があり、また、(B−2)/(B−1)比が50を超えると、耐擦傷性、透明性のいずれか一方が損なわれ、いずれも好ましくない。上記範囲の中で好ましい(B−2)/(B−1)比は2〜30であり、特に好ましい質量比は3〜20である。
【0045】
なお、(B−1)成分と(B−2)成分は、それぞれ上述の含有量及び(B−2)/(B−1)比において、その合計の含有量がポリカーボネート樹脂100質量部に対して6質量部以下、特に1〜3質量部となるように配合することが好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物中の(B)成分としての(B−1)成分と(B−2)成分の合計の含有量が上記範囲よりも多いと、白濁、ガス発生の問題が起こるおそれがある。
【0046】
[その他の添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、難燃剤、滴下防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。
【0047】
<難燃剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、難燃性を付与するために難燃剤を添加することが好ましい。難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、リン酸エステル化合物及び有機スルホン酸金属塩が好適である。
【0048】
リン酸エステル化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0049】
【化1】

【0050】
(式中、R11、R12、R13及びR14は互いに独立して、置換されていても良いアリール基を示し、Xは置換基を有していても良い2価の芳香族基を示す。yは0〜5の数を示す。)
【0051】
上記式(1)においてR11〜R14で示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。またXで示される2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基や、ビスフェノールから誘導される基等が挙げられる。これらの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。yが0の場合式(1)で表される化合物はリン酸エステルであり、yが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。
【0052】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、あるいはこれらの置換体、縮合体などを例示できる。かかる成分として好適に用いることができる市販品としては、例えば、大八化学工業(株)より、「CR733S」(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))、「CR741」(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))、旭電化工業(株)より「FP500」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))といった商品名で販売されているものが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における難燃剤用のリン酸エステル化合物の含有量は、(A)成分100質量部に対し1〜50質量部であることが好ましく、3〜40質量部であることがより好ましく、5〜30質量部であることがさらに好まししい。難燃剤用リン酸エステル化合物の含有量が上記範囲であると、難燃性があり、且つ耐熱性も良好な樹脂組成物となるので好ましい。
【0054】
難燃剤用の有機スルホン酸金属塩としては、好ましくは脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。有機スルホン酸金属塩を構成する金属としては、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられ、アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等が挙げられる。
【0055】
脂肪族スルホン酸塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩が挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、好ましくは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウムなどが挙げられる。
【0056】
また、芳香族スルホン酸金属塩としては、好ましくは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4′−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4′−ジブロモフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4−クロロ−4′−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジカリウム塩などが挙げられる。
【0057】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるこれらの有機スルホン酸金属塩の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.02〜3質量部であることがより好ましく、0.03〜2質量部であることがさらに好ましい。難燃剤用有機スルホン酸金属塩の含有量が上記範囲であると、難燃性があり、且つ熱安定性が良好な樹脂組成物となるので好ましい。
【0058】
なお、上記リン酸エステル化合物と有機スルホン酸金属塩とを併用しても良い。
【0059】
<滴下防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、燃焼時の滴下防止を目的として、滴下防止剤を添加しても良い。滴下防止剤の好ましい例として、フッ素樹脂が挙げられる。より具体的には、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体等のフルオロエチレン構造を含む重合体及び共重合体である。中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、500,000〜10,000,000であることがより好ましい。
【0060】
なお、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、テフロン(登録商標)6−J(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業(株)製)、CD076(旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製)等が挙げられる。また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えばアルゴフロンF5(モンテフルオス(株)製)、ポリフロンMPA、ポリフロンFA−100(ダイキン工業(株)製)等が挙げられる。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせても良い。上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、1〜100psiの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。
【0061】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における滴下防止剤の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.05〜2質量部であることが好ましく、0.1〜1質量部であることがより好ましい。滴下防止剤の含有量が上記範囲であると、成形品の外観を損なうことなく、滴下防止性が良好となるので好ましい。滴下防止剤の含有量が(A)成分100質量部に対して2質量部を超えると成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じるので好ましくない。
【0062】
<熱安定剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、熱安定性を向上させるために熱安定剤を添加するのが好ましい。好ましい熱安定剤としては、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系熱安定剤が挙げられる。
【0063】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0064】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニルホスフォナイト等が挙げられる。
【0065】
上記のリン系熱安定剤の中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、中でもビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイトやトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
なお、熱安定剤は、単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0066】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における熱安定剤の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.005〜0.2質量部であることが好ましく、0.01〜0.1質量部であることがより好ましい。熱安定剤の含有量が上記範囲であると、加水分解等を発生させることなく、熱安定性を改善できるので好ましい。
【0067】
<酸化防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、酸化防止剤を添加するのが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましく、より具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4′−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、及び3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,6]ウンデカン等が挙げられる。中でも、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが好ましい。これらの酸化防止剤は一種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0068】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.002〜0.5質量部であることが好ましい。この範囲であると、本発明の効果を阻害せずに、酸化防止性を改善できるので好ましい。
【0069】
<紫外線吸収剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、紫外線吸収剤を添加するのが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物から成る成形品は、太陽光や蛍光灯のような光線下に長期間曝されると、紫外線によって黄色味を帯びる傾向があるが、紫外線吸収剤を添加することで、成形品が黄色味を帯びるのを、防止又は遅延させることができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系などが挙げられる。
【0070】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0071】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]等が挙げられる。
【0072】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例としては、フェニルサルチレート、2,4−ジターシャリ−ブチルフェニル−3,5−ジターシャリ−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0073】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜2質量部であることが好ましく、0.05〜1.5質量部であることがより好ましく、0.1〜1質量部であることがさらに好まししい。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲であると、成形品表面にブリードアウト等を発生させずに、耐候性を改善できるので好ましい。
【0075】
<着色剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、用途に応じて着色剤を添加することができる。使用可能な着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。無機顔料としては、例えばカーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料、群青等の珪酸塩系顔料、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料、黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料、紺青等のフェロシアン系顔料等が挙げられる。有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料、ニッケルアゾイエロー等のアゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等が挙げられる。
【0076】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における着色剤の含有量の好ましい範囲は、A成分100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがさらに好まししい。
【0077】
上記着色剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0078】
<その他>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分のほかに、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などを配合することができる。
また、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいても良い。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0079】
ポリカーボネート樹脂と共に、樹脂組成物中に配合し得るポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂と、溶融混練可能な熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、MS樹脂、SEBS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂を挙げることができる。これらは1種のみを用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0080】
これらの熱可塑性樹脂の中では、機械的強度、寸法安定性及び成形性に優れたポリマーアロイを形成できることから、スチレン系樹脂が好ましく、また、機械的強度、耐薬品性及び成形性に優れたポリマーアロイを形成することができることから、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0081】
これらのポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用する場合、ポリカーボネート樹脂を用いることによる耐衝撃性等の機械的強度、耐熱性、寸法安定性等を確保する上で、ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との合計に対するポリカーボネート樹脂の割合が50質量%以上、特に70質量%以上となるように用いることが好ましい。
【0082】
[本発明のポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いた成形品を射出成形する際に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物を用いた多色成形品とすることで、機能性を高めることができる。
【0083】
この場合、本発明のポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物の主成分を構成する熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、(A)成分と同様のポリカーボネート樹脂や、前述のポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として挙げた樹脂の1種又は2種以上を用いることができる。
この本発明のポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物についても、本発明のポリカーボネート樹脂組成物と同様に、その他の添加剤を配合することができる。
この熱可塑性樹脂組成物としては、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、(B)成分の含有量を低減したポリカーボネート樹脂組成物も好ましく用いることができる。
【0084】
[製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、従来から知られている方法で各成分を混合し、溶融混練することにより製造することができる。具体的な混合方法としては、ポリカーボネート樹脂(A)、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)、及び必要に応じて配合されるその他の添加成分を所定量秤量し、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用いて混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラペンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどを用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0085】
[成形方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各種製品(成形品)の製造(成形)用樹脂材料として使用される。その成形方法としては、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が、制限なく適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。
【0086】
[へイズ]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のうち好ましいものは、これを成形して得られる厚み3mmの成形品について、JIS K−7136に従って測定したヘイズ値が2.0%以下、特に1.5%以下、とりわけ1.0%以下である。
ヘイズ値が上記上限よりも大きいものでは、本発明で目的とする透明性を十分に満足し得ない場合がある。
【0087】
[キズ断面積]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のうち好ましいものは、このポリカーボネート樹脂組成物より得られたASTMダンベル試験片について、以下に記載の方法で測定したキズ断面積が50μm以下、特に40μm以下、とりわけ30μm以下である。
【0088】
キズ断面積の測定方法:10mmφの平滑底面を有する円柱状治具の底面にグラス拭き用ポリエステル布を張り付け、1.5kgの荷重をかけて、ストローク巾100mm、速度50回/分、200往復の条件で、試験片の表面に対して往復摺動試験を行った後、表面粗さ計を用いて該試験片中央部の厚さ方向断面におけるキズの断面積を算出する。
【0089】
なお、キズ断面積の測定方法の詳細は、実施例の項で後述する。
【0090】
この測定方法は、従来の硬度による耐擦傷性の評価とは異なり、実用時に必要な耐擦傷性を十分に反映するものである。
【0091】
[用途]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐擦傷性、透明性、低ガス性に優れたものであり、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材、車輌内装部品といった、幅広い分野に使用することが可能である。
【0092】
電気・電子機器やOA機器、情報端末機器のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材としては、パソコン、ゲーム機、テレビ等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ、携帯オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材が挙げられる。
【0093】
車輌外装・外板部品としては、へッドランプ、ヘルメットシールド等が挙げられる。車輌内装部品としては、インナードアハンドル、センターパネル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、カーナビゲーション等のディスプレイハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において使用した原材料は以下の表1に示す通りである。
また、採用した評価方法は以下の(1)〜(3)の通りである。
【0095】
【表1】

【0096】
(1)キズ断面積:
図1(a),(b)に示す如く、10mmφの平滑底面を有する円柱状治具1に、グラス拭き用ポリエステル布2を張り付け、1.5kgの荷重をかけて、ストローク巾100mm、速度50回/分、200往復の条件で、ASTMダンベル試験片3に対して往復摺動試験を行い、試験後の試験片3の摺動面の中央部分について、表面粗さ計を用いて厚さ方向の断面におけるキズの断面積を算出した。
試験片3には、図1(c)に示すように、多数のキズが付くので、これらのキズにより形成される溝の合計の断面積を算出する。
試験は5本の試験片に対して同一条件で行い、5本の試験片で求められたキズ断面積のうち、最大のものと最小のものを除き、残る3つの値の平均値を求め、この平均値をキズ断面積とした。
【0097】
(2)ヘイズ:
JIS K−7136に準拠し、3mm厚の平板を試験片とし、ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH−2000型」)で測定した。
【0098】
(3)ガスの発生:
溶融状態の樹脂組成物から発生するガスの量について、多いものを「×」、少ないものを「○」、ガスが確認されないものを「◎」と評価した。
【0099】
[実施例1〜4および比較例1〜5]
表2に示す配合で各成分を秤量し、タンブラーによって20分間混合した後、30mmφ二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30HSST」)によって、シリンダー温度280℃で溶融、混練し、押出機のダイスから吐出されるストランドを冷却して、ペレット化した。得られたペレットを原料とし、射出成形機によって、シリンダー温度を280℃とし、各種試験片(ASTMダンベル試験片および3mm厚平板)を成形し、評価した。
評価結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2より、次のことが明らかである。
(1)実施例1〜4で得られたポリカーボネート樹脂組成物は、比較例1〜5と比較してキズ断面積が少なく、耐擦傷性が向上していることが分かる。耐擦傷性は特に、比較例1,3,5において劣る。
(2)比較例2と実施例1〜4を比較した場合、比較例2はキズ断面積については比較的良好な値を示すが、比較例2はヘイズが大きい。すなわち、比較例2では成形品の透明性が大きく損なわれていることが分かる。
(3)比較例4は、キズ断面積の値は比較例1,3,5よりも良いが、溶融樹脂からのガスの発生が多いことから、金型汚染を起こし易いことが分かる。
【符号の説明】
【0102】
1 円柱状治具
2 ポリエステル布
3 ASTMダンベル試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)0.05〜5.0質量部、および炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)0.5〜5.0質量部を含有し、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比が1〜50であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、多価アルコールと炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、グリセリン及び/又はペンタエリスリトールと、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物であることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)が、グリセリントリステアレート及び/又はペンタエリスリトールテトラステアレートであることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)が、ステアリン酸であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)0.05〜5.0重量部、および炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)0.5〜5.0重量部を含有し、脂肪族カルボン酸(B−1)に対する脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)の質量比が1〜50であるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚み3mmの成形品についてJIS K−7136に従って測定したヘイズ値が2.0%以下であり、かつ、該ポリカーボネート樹脂組成物より得られたASTMダンベル試験片について、以下に記載の方法で測定したキズ断面積が50μm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
キズ断面積の測定方法:10mmφの平滑底面を有する円柱状治具の底面にグラス拭き用ポリエステル布を張り付け、1.5kgの荷重をかけて、ストローク巾100mm、速度50回/分、200往復の条件で、試験片の表面に対して往復摺動試験を行った後、表面粗さ計を用いて該試験片中央部の厚さ方向断面におけるキズの断面積を算出する。
【請求項7】
炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸(B−1)がステアリン酸であり、炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸のエステル化物(B−2)がグリセリントリステアレート及び/又はペンタエリスリトールテトラステアレートであることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物と、該ポリカーボネート樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂組成物とを多色成形してなる成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−270221(P2010−270221A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123267(P2009−123267)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】