説明

ポリシランの製造方法

本発明の対象は、一般式(1) Sin2n+2 (1)のポリシランの製造方法であって、一般式(2) R1mSiH4-m (2)のシランを、一般式(3) R23B (3)のホウ素化合物の存在下で反応させる[前記式中、R1は、1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、Rは、水素又は基R1を意味し、R2は、フッ素、塩素、臭素又は1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基であって、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素及びNO2から選択される置換基を有してよい基を意味し、nは、2〜100000の整数値を意味し、かつmは、0、1又は2の値を意味する]、前記製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルイス酸性のホウ素化合物の存在下で、モノシランからポリシランを製造する方法に関する。
【0002】
ポリシランの製造のためには複数の合成方法が存在する:
最も普及しているのは、高沸点溶剤中での元素のアルカリ金属を用いたクロロシランの、いわゆるWurtz型カップリングである。該方法は、FS.Kipping(1921)J Chem Soc 119:830で始めて記載された。しかしながら、反応操作は、荒々しい反応条件と、出発物質の高い反応性もしくは感受性に基づいて極めて費用のかかるものである。更に、生成物の分布は均質でなく、かつポリシランの変性は、他のモノマーの使用によってのみ可能である。しかし、その際に、官能基が強還元性の反応条件で保持され続けるモノマーのみが適している。このことは、好適なクロロシランの選択に大きな制限を与える。更に、ヒドロシランは、遷移金属触媒を用いて水素の脱離をしつつカップリングしてポリシランとなりうる。前記の重合法は、始めて1990年代の終わり以降に、JF.Harrod、C.Aitken、E.Samuel(1985)J Organomet Chem 279:C11から知られている。遷移金属触媒の空気感受性及び水感受性と、ほぼ第一級シランのみがこの種の重合のために適しているという事実は、この種のポリシラン合成の可能性を明らかに制限する。更に、バルクでの重合に際しての激しい水素感受性と、その際に生ずるポリマーの発泡と同時の粘度上昇は、反応操作を困難にすることがある。更に、触媒残滓をポリシランから完全に分離することは不可能である。極めて費用のかかるモノマー合成によって、ポリシランは、マスキングされたジシレンから製造することもできる。この重合様式は、K.Sakamoto、K.Obata、H.Hirata、M.Nakajima、H.Sakurai(1989)J Am Chem Soc 111:7641で記載された。しかしながら、該モノマー合成は、Wurtz型カップリングの場合と同等の程度で、ケイ素の置換基の選択を制限する。従って、この方法では、好ましいモノマー合成も、フレキシブルなシラン重合も不可能である。
【0003】
DE102006034061号A1は、技術的に極めて要求の高い、SiCl4及びH2からポリシランを製造するためのプラズマ法を記載している。しかしこの方法は、費用がかかりエネルギーを消費し、かつ生成物の複雑な後精製も、本来のポリシランへと過塩素化されたポリシランを変換するためのポリマー類似反応も必要となる。炭素含有のポリシランの製造は、全く不可能である。
【0004】
ポリシラン合成の更なる一つの可能性は、シラサイクルの開環重合であり、その際、この方法は、またしても、モノマー合成に比較的費用がかかり、これも置換基の自由な選択が不可能であるという欠点を有する。そのことは、始めてM.Cypryrk、Y.Gupta、K.Matyjaszewski(1991)J Am Chem Soc 113:1046で記載された。更に、ジクロロシランを、電気化学的にM.Ishifune、S.Kashimura、Y.Kogai、Y.Fukuhara、T.Kato、HB.Bu、N.Yamashita、Y.Murai、H.Murase、R.Nishida(2000)J Organomet Chem 611:26により反応させる方法か、又は段階的にジリチウム化されたシラン種とJP.Wesson、TC.Williams(1981)J Polym Sci,Part A:Polym Chem 19:65により反応させてポリシランとする方法が存在する。電気化学的な取り組みは、エネルギー集中的であり、ポリシランの段階的な合成は、非常に費用がかかり、実質的に研究室規模でのみ適しているにすぎない。両方の方法は、プラズマ合成のように、過ハロゲン化されたポリシランのポリマー類似反応を必要とする。
【0005】
前記の公知の合成方法の共通の問題点は、ポリマーの精製と、低いモル質量と、不均質すぎる生成物分布である。とりわけ、触媒による金属不純物に関するポリマーの純度は、工学的/電子工学的な部材で使用するためには制限付きで効果的にするに過ぎない。
【0006】
更に、公知の合成経路では、ポリマー骨格上の置換基の自由な選択と、炭素含有率の制御された調整とは、制限されてのみ可能であるに過ぎない。そのことは、DR.Miller、J.Michl(1989)Chem Rev 89:1359によれば、一方で、部分的に極めて荒々しい反応条件にも、他方で、使用される触媒の性質にも起因する。
【0007】
本発明の対象は、一般式(1)
Sin2n+2 (1)
のポリシランの製造方法であって、一般式(2)
1mSiH4-m (2)
のシランを、一般式(3)
23B (3)
のホウ素化合物の存在下で反応させる
[前記式中、
1は、1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、
Rは、水素又は基R1を意味し、
2は、フッ素、塩素、臭素又は1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基であって、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素及びNO2から選択される置換基を有してよい基を意味し、
nは、2〜100000の整数値を意味し、かつ
mは、0、1又は2の値を意味する]、前記製造方法である。
【0008】
一般式(1)のポリシランは、簡単に緩慢な反応条件下で、一般式(2)のシランと、一般式(3)のルイス酸性のホウ素化合物との反応によって製造できる。このようにして、金属触媒を省くことができる。更に、一般式(1)の得られたポリシランをポリマー類似に変性する必要はなく、おまけに生成物からの触媒の精製は簡単である。特に、易揮発性の出発物質及び触媒の留去、昇華又はクロマトグラフィー分離は大抵簡単にすることができる。
【0009】
その際、主に、反応温度及び触媒濃度というパラメータによって、一般式(1)の得られたポリシランへの影響を受けることがある:
反応温度及び触媒濃度が高まると、中規模の重合度に増える。更に、触媒濃度とその性質によって、ポリシランの炭素含量を制御できる。触媒の濃度とそのルイス酸性の選択によって、SiH4遊離によって、得られたポリマーの炭素含量を調整できる。
【0010】
好ましくは、R1は、エチレン性もしくはアセチレン性不飽和の結合を含まない、1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基を意味する。
【0011】
炭化水素基R1の例は、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、例えばn−ヘキシル基、ヘプチル基、例えばn−ヘプチル基、オクチル基、例えばn−オクチル基及びイソオクチル基、例えば2,2,4−トリメチルペンチル基、ノニル基、例えばn−ノニル基、デシル基、例えばn−デシル基、ドデシル基、例えばn−ドデシル基、オクタデシル基、例えばn−オクタデシル基、シクロアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びメチルシクロヘキシル基、アリール基、例えばフェニル基、ナフチル基及びアントリル基及びフェナントリル基、アルカリール基、例えばo−、m−、p−トリル基、キシリル基及びエチルフェニル基、アラルキル基、例えばベンジル基、α−及びβ−フェニルエチル基である。
【0012】
好ましくは、基R1は、フェニル基又は、特に1〜10個、殊に1〜6個の炭素原子を有する直鎖状のアルキル基である。特に有利な炭化水素基R1は、フェニル基、n−プロピル基、エチル基及びメチル基である。
【0013】
2のための例及び好ましい基R2は、R1で示した例と、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素及びNO2から選択される付加的な置換基を有してよい好ましい基である。好ましくは、全ての3つの基R2は同一である。置換された基R2のための好ましい例は、ハロゲン化炭化水素基、例えばクロロメチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、5,5,5,4,4,3,3−ヘプタフルオロペンチル基並びにペンタフルオロフェニル基、ペンタクロロフェニル基及びヘプタフルオロトリル基である。
【0014】
好ましくは、nは、少なくとも3の、特に好ましくは少なくとも5の、特に少なくとも10の、かつ高くても50000の、特に好ましくは高くても10000、特に高くても1000の整数値を意味する。
【0015】
一般式(1)のポリシランは、完全に炭化水素基R1で飽和されていてよく、すなわちR=R1であるか、又は炭化水素基R1を含んでも水素基を含んでもよい。好ましくは、一般式(1)のポリシランにおいて、少なくとも10モル%の、特に好ましくは少なくとも20モル%の、特に少なくとも30モル%の、かつ高くても90モル%の、特に好ましくは高くても80モル%の、特に高くても70モル%の基Rが炭化水素基R1である。
【0016】
一般式(1)のポリシランは、直鎖状、分枝鎖状又は架橋されていてよい。好ましくは、一般式(1)のポリシランにおいて、少なくとも10モル%の、特に好ましくは少なくとも20モル%の、特に少なくとも30モル%の、かつ高くても70モル%の、特に好ましくは高くても60モル%のケイ素原子は、少なくとも3つのSi−Si結合を有する。
【0017】
一般式(2)の純粋なシラン又は混合物を使用してよい。基Rは、ここではまた異なる炭化水素基R1であってもよい。
【0018】
特定の一実施態様において、最大で10モル%の、好ましくは最大で3モル%の一般式(2)のmが3の値を意味するシランを添加してよい。しかしながら、それは好ましくはない。
【0019】
好ましくは、反応温度は、少なくとも20℃、特に好ましくは少なくとも50℃、特に少なくとも80℃、かつ高くても200℃、特に好ましくは高くても160℃、特に高くても120℃である。
【0020】
該反応は、溶剤を用いずに又は溶剤を用いて実施することができる。溶剤が使用される場合に、非プロトン性で非極性の溶剤又は溶剤混合物であって、好ましくは0.1MPaで120℃までの沸点もしくは沸騰範囲を有するものが好ましい。好ましい溶剤は、アルカン、例えばペンタン、n−ヘキサン、ヘキサン異性体混合物、ヘプタン、オクタン、石油ベンジン、石油エーテル及びシロキサン、特にトリメチルシリル末端基を有する好ましくは0〜6個のジメチルシロキサン単位を有する直鎖状のジメチルポリシロキサン又は好ましくは4〜7個のジメチルシロキサン単位を有する環状のジメチルポリシロキサン、例えばヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及びデカメチルシクロペンタシロキサンである。
【0021】
好ましくは、該反応は溶剤を用いずに行われる。
【0022】
好ましくは、一般式(2)のシラン100質量部当たり、少なくとも0.1質量部の、特に有利には少なくとも0.2質量部の、特に少なくとも0.5質量部の、かつ高くても30質量部の、特に好ましくは高くても15質量部の、特に高くても5質量部の一般式(3)のホウ素化合物が使用される。
【0023】
該反応は、連続的な方法で又は断続的な方法で実施することができる。
【0024】
該反応は、好ましくは保護ガス、特にAr又はN2下で実施される。
【0025】
一般式(1)の得られたポリシランは、例えば有機半導体を基礎とする電子工学の構造エレメントにおいて、発光層もしくは正孔伝導層として使用することができる。更に、前記シランは、例えばある一定の炭素含量に調整せねばならないシリコン層及びシリコンカーバイド層の析出のための前駆体として適している。
【0026】
前記式の全ての存在する記号は、それらの意味をそれぞれ互いに独立して有する。全ての式中でケイ素原子は四価である。
【0027】
以下の実施例においては、それぞれ特記しない限りは、全ての量及びパーセントの表記は質量に対するものであり、全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)であり、かつ全ての温度は20℃である。
【0028】
実施例
20mg(0.04ミリモル)のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを、保護ガス下で25mLのシュレンクフラスコ中に秤量する。次いで、1g(9.2ミリモル)のフェニルシランを触媒に入れ、3回の凍結/融解サイクルを通じて脱ガスする。その後に、反応溶液を100℃に加熱し、2日にわたり撹拌する。残りのモノマーと生じた副生成物を、中真空で除去する。ポリシランは、粘性の帯黄色の液体として得られる。結果を以下の表に挙げる:
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
Sin2n+2 (1)
のポリシランの製造方法であって、一般式(2)
1mSiH4-m (2)
のシランを、一般式(3)
23B (3)
のホウ素化合物の存在下で反応させる
[前記式中、
1は、1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、
Rは、水素又は基R1を意味し、
2は、フッ素、塩素、臭素又は1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基であって、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素及びNO2から選択される置換基を有してよい基を意味し、
nは、2〜100000の整数値を意味し、かつ
mは、0、1又は2の値を意味する]、前記製造方法。
【請求項2】
炭化水素基R1が、フェニル基、n−プロピル基、エチル基及びメチル基から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基R2がハロゲン化された炭化水素基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応の温度が、20℃〜200℃である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
反応を溶剤を用いずに実施する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
一般式(2)のシラン100質量部当たり、0.1〜30質量部の一般式(3)のホウ素化合物が使用される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530823(P2012−530823A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516626(P2012−516626)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058148
【国際公開番号】WO2010/149499
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】