説明

ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体およびその製造方法

【課題】生体親和性を有し、医用材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等として使用することができる新規ポリマーとして、環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の4級アンモニウム塩と、モノトシル化環状四糖またはモノヨード化環状四糖と反応させることにより得られる環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体、及び、ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマー誘導体と環状四糖と反応させることにより得られる環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性材料として期待される、環状四糖を側鎖に有する新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状のオリゴ糖であるシクロデキストリン(以下、CDともいう。)は、従来、食品、衛生材料、医学・生理学材料等の分野で広く使用され、またシクロデキストリンを構成要素として含む高分子がクロマトグラフィーの分野で広く使用されている。
【0003】
環状のオリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)を含有するアクリル酸ポリマーもまた知られている(例えば、特許文献1〜特許文献5参照。)。CDを含有するポリスチレン−無水マレイン酸コポリマー誘導体に関しては、CDを結合した無水マレイン酸とスチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等とのコポリマーの製造が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【0004】
一方、現在知られている天然由来の最小の環状オリゴ糖である環状四糖は、この四糖の産生能を有するサッカロマイセス属に属する酵母を、栄養培地に培養して環状四糖を産生せしめた培養物とし、この培養物から、採取することにより得ることができる(例えば、特許文献7参照。)。環状四糖の特徴としては、大きさが約1ナノメートルであり、真中に窪みのある分子構造であること、エタノールなどの低分子物質に対して優れた包接作用を示すこと、難消化・難発酵・水溶性食物繊維であること、等が上げられる。環状四糖の生理機能としては脂質の調節効果が挙げられる。更には活性酸素消去能低減抑制剤として有効である(例えば、特許文献8参照。)。しかしながら、環状四糖が結合したポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体を製造し、これを利用することについてはこれまで全く研究が行われていない。
【特許文献1】特開平3−221501
【特許文献2】特開平3−221502
【特許文献3】特開平4−25503
【特許文献4】特開平4−25504
【特許文献5】特開平5−25203
【特許文献6】特開平8−100027
【特許文献7】特開2003−235596
【特許文献8】特開2003−160495
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような従来の問題を解決して、生体親和性を有し、医用材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等として使用することができる新規ポリマーとして、環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の4級アンモニウム塩と、モノトシル化環状四糖またはモノヨード化環状四糖と反応させることにより環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体が得られること、及び、ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマー誘導体と環状四糖とを反応させることにより環状四糖が結合した新規ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は次の(1)、(2)、(3)および(4)である。
(1) 一般式[1]:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R3は、水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、下記式:
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}](本明細書中、環状四糖というときは上記環状四糖をあらわす。)誘導体由来の1価の基を表す。複数のR3は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR3のうち5〜50%は前記環状四糖である。m、nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体。本明細書中、共重合体中の繰り返し単位の配列は規則的であっても不規則的であってもよく、ブロックを構成していてもよい。なお、本明細書中、コポリ(スチレン/マレイン酸)等の表記を、ポリスチレン−マレイン酸コポリマー等とも表記する。
(2) 一般式[2]:
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R31は、水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、上記環状四糖誘導体由来の1価の基を表す。複数のR31は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。m、nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体。
(3) 一般式[3]:
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Xは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基をあらわす。複数のXは同一でも異なっていてもよい。ただし、マレイン酸エステル構成単位の複数のXのうち少なくとも一つは水素ではない。p、q、rは繰り返し単位数をあらわす。)で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸エステル/マレイン酸)を一般式[4]:

N・OH [4]

(式中、Rは、アルキル基又はアリール基)で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、コポリ(スチレン/マレイン酸エステル/マレイン酸)4級アンモニウムとし、これと下記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または下記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させることを特徴とする前記一般式[1]で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体の製造方法。
【0015】
【化5】

【0016】
(4) 一般式[7]:
【0017】
【化6】

【0018】
で表されるコポリ(スチレン/無水マレイン酸)を環状四糖、すなわち、下記式:
【0019】
【化7】

【0020】
で表されるサイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}と反応させることを特徴とする前記一般式[2]で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって提供されるポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体は、プラスチック基板への吸着性に優れた性質を有するとともに、細胞親和性であるため、生体に直接適用される医学−生理学材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等に使用されるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
式[1]、式[2]、式[5]及び式[6]において、Rは、環状四糖を構成するグルコースの水酸基に由来する基であって、水素、炭素数1〜18個のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ドデシル等)、炭素数6〜18個のアリール基(フェニル、トリル、キシリル、クメニル、ナフチル、フェナントリル等)、炭素数2〜18個のアシル基(アセチル、ブチリル、バレリル、ラウロイル等)、炭素数7〜18個のアラルキル基(ベンジル、フェネチル、α−メチルベンジル等)、炭素数3〜16のシリル基(トリメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、t−ブチルジメチルシリル等)、リン酸エステル基、硫酸エステル基を表す。これが遊離の水酸基である場合のRは水素原子である。好ましいRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、ベンジル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。環状四糖を構成するグルコースの水酸基が誘導体を形成する割合は任意であって、全てが遊離の水酸基であってもよく、部分的に又は全てが誘導体を形成していてもよい。
【0023】
式[1]中のR、及び、式[2]中のR31は、マレイン酸由来のカルボキシル基に導入された基である。これが遊離のカルボキシル基である場合のR、R31は、水素原子である。
【0024】
3は水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、上記式で示される環状四糖誘導体由来の1価の基である。
【0025】
31は、水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、上記式で示される環状四糖誘導体由来の1価の基を表す。カルボキシル基がエステル化されている場合のR31は炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基等が挙げられ、好ましい具体例としては、メチル基、ラウリル基、ベンジル基等が挙げられる。カルボキシル基がエステル化されている場合のR31の導入量は特に限定されるものではないが、高分子中のカルボキシル基の数の10〜50%程度に導入することが好ましい。
【0026】
3及びR31において、無機若しくは有機のカチオンとしては、例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等の無機カチオン、第1、2、3級アミン、第4級アンモニウム塩等の有機カチオンを挙げることができる。
【0027】
3及びR31において、環状四糖の導入量は、高分子中のカルボキシル基の数の5〜50%である。環状四糖の導入量が5%未満であると導入量が希少のため環状四糖の特性である細胞親和性が発現しにくくなり、50%を超えると逆に、ポリスチレン−マレイン酸コポリマー成分の重量比が小さくなり、ポリスチレン−マレイン酸コポリマーの特性であるプラスチックへの吸着性が発現しにくい。好ましくは10〜50%に環状四糖を導入する。
【0028】
本発明のポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の製造方法を以下に説明する。
(a)モノトシル化環状四糖およびモノヨード化環状四糖の製造
種々の環状四糖誘導体の製造法の概略は、特開2003−160595に記載されているが、上記一般式[5]、[6]で表わされる環状四糖誘導体は、より具体的には、例えば、次のような方法によって製造することができる。
【0029】
まず、上記式で示される環状四糖をトシル化剤でトシル化する。トシル化剤としては、例えば、p−トルエンスルホニルクロリドが好ましい。トシル化剤の使用量は、環状四糖に対して1〜3倍モルが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0倍モルである。
【0030】
溶媒としては、ピリジン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど環状四糖を溶解するものが好ましく使用されるが、蒸留除去が容易なピリジンが最も好ましい。
【0031】
反応温度と時間としては、トシル化剤添加時は0〜5℃、1〜2時間が好ましく、その後は10〜30℃で1〜2時間反応させることが好ましい。反応後は、溶媒をできるだけ蒸留除去した後、反応混合物に使用溶媒の2倍の水を添加し、攪拌することでモノトシル化環状四糖を水相に溶解させる。これにイオン交換樹脂を用いて脱塩した後、濾過し、濃縮後、結晶化、クロマト分離等によりモノトシル化環状四糖が得られる。
【0032】
次に、このモノトシル化環状四糖を過剰量のヨード化剤と反応させ、トシル基をヨード化して、モノヨード化環状四糖が製造される。ヨード化剤としては、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが好適に用いられる。その使用量はモノトシル化環状四糖に対して1〜10倍モルが好ましく、より好ましくは6〜8倍モルである。
【0033】
反応温度は50〜100℃が好ましく、より好ましくは80〜90℃で、反応時間は1〜24時間が好ましく、より好ましくは3〜5時間である。必要に応じて精製することができ、精製条件としては、例えば、反応混合物を濃縮後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とアセトンの比率が1:7〜1:15、好ましくは1:8〜1:10になるようにアセトンを加えて沈殿を生成させ、これを濾過後、アセトンで洗浄し、乾燥後、クロマト分離することが挙げられる。
【0034】
(b)ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の製造
上記一般式[3]で表されるポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーを上記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマー4級アンモニウムとし、これと上記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または上記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させて前記一般式[1]で表されるポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体が製造される。
【0035】
上記一般式[3]において、Xは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基をあらわす。複数のXは同一でも異なっていてもよい。ただし、マレイン酸エステル構成単位の複数のXのうち少なくとも一つは水素ではない。p、q、rは繰り返し単位数をあらわす。アルキル基、アリール基、アラルキル基としては、上述の例示のもの等を挙げることができる。具体的には、例えば、イソブチル基を有するポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマーを挙げることができる。
【0036】
本発明に用いられる前記一般式[3]で表されるポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーの分子量は一般的には3万〜30万程度のものが好ましく使用できる。分子量が低く過ぎる場合にはゾル状態となるため、三次元形状に付形しにくくなる傾向がある。
【0037】
(1)ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマー4級アンモニウムの製造
上記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムにおいて、Rは、アルキル基またはアリール基である。上記アルキル基、アリール基としては特に限定されず、例えば、上述のもの等を挙げることができる。具体的には、例えば、水酸化テトラn−ブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0038】
ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーの4級アンモニウム塩を製造する際の溶媒としては、ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーと4級アンモニウム塩を溶解し得るものであればよい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0039】
仕込みモル比としては、一般式[3]で表されるポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーの溶液中に、水酸化4級アンモニウムを、一般式[3]で表されるポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーのカルボキシル基モル数:水酸化4級アンモニウムのモル比が好ましくは1:0.3〜1:2、より好ましくは1:0.8〜1:1.2となるように仕込む。反応温度は5〜100℃が好ましく、より好ましくは、10〜50℃で、反応時間は0.01〜10時間が好ましく、より好ましくは、0.1〜0.2時間である。反応終了後、反応液を減圧下濃縮してポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーの4級アンモニウム塩が得られる。
【0040】
(2)ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマー誘導体の製造
一般式[1]で示されるポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマー誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、ポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマーの4級アンモニウム塩の溶液中に、一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖を、一般式[3]で表されるコポリマーのカルボキシル基モル数:一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖の仕込みモル比が好ましくは1:0.1〜1:2、より好ましくは1:0.5〜1:1.0となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。
【0041】
溶媒としては、反応物および生成するポリスチレン−マレイン酸エステル−マレイン酸コポリマー誘導体を溶解し得るものであればよい。具体的には、たとえば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の有機溶媒単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0042】
つぎに、反応終了後の反応溶液を濃縮後、透析による精製を行い、濃縮乾燥後、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥することにより目的物を得ることができる。
【0043】
(c)ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の製造
上記一般式[7]で表されるポリスチレン−無水マレイン酸コポリマーを上記環状四糖と反応させることにより前記一般式[2]で表されるポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体が製造される。このコポリマーの末端には、クメン等の置換基が結合していてもよい。
【0044】
一般式[2]で示されるポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマーの溶液中に、上記環状四糖を、カルボキシル基モル数(酸無水物基のモル数の2倍とする):環状四糖の仕込みモル比が好ましくは1:0.05〜1:10、より好ましくは1:3〜1:5となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。反応終了後、反応溶液を濃縮し、透析による精製を行い、濃縮乾燥後、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して目的物を得ることができる。
【0045】
カチオンを導入するには、さらに、得られたコポリマーに、適当なアルカリを添加すればよい。
【0046】
溶媒としては、反応物および生成するポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体を溶解し得るものであればよい。具体的には、たとえば、上述したもの等の有機溶媒単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0047】
一般式[1]および[2]のポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体において、カチオン種を他の種類のカチオンに交換することができ、例えば、4級アンモニウムイオンから他の金属イオン(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)に変換する方法は、ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体の4級アンモニウム塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、金属イオンのヨード塩を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、透析による精製を行い、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【0048】
またカチオン種を水素にする方法は、ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体のカチオン塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、1M塩酸を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、透析による精製を行い、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
(合成例1)
モノトシル環状四糖の合成
乾燥した4つ口フラスコにピリジン(50mL)、環状四糖(10g)を加え5℃にした後、窒素気流下にて環状四糖に対して2倍モルの塩化トシル(6g)のピリジン溶液(50mL)を滴下ロートにて約30分かけて添加し、5℃で3時間反応させた。反応溶液に水(50mL)を加えて反応停止した後、減圧乾固により残留ピリジンを除去した。この残渣に水(100mL)を加え、水溶液部分をデカントした。次に混入しているピリジン−p−トルエンスルホン酸塩を脱塩するため、水溶液にカチオン交換樹脂(Dowex 50WX8:20g)を加え、室温で10分放置後、ろ過し、ろ液にアニオン交換樹脂(Dowex 500A:40g)を加え10分放置後ろ過し、ろ液を減圧乾固した。その結果、単離収率28%(3.5g)でモノトシル体(純度80%)を得た。更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによるモノトシル体の精製を行った(溶離液=酢酸エチル:メタノール:水=6:3:1)。その結果、1gの純度80%モノトシル体から0.8gの純化したモノトシル環状四糖(C−mTs)を得た。
【0051】
(合成例2)
モノヨード環状四糖の合成
上述のC−mTs(0.4g)に対して8倍モルのヨウ化カリウム(660mg)をDMF(10mL)中、90℃で4時間反応させた。反応液の一部(0.5mL)をとり、減圧乾固、アセトン洗浄、乾燥した後、固形物を重水に溶解し、プロトンNMRを測定した。その結果、80%の変換率でヨード化が進行した。このヨード体を単離・精製を行わずに次の反応(DMSO溶媒)に使用した。溶媒の交換は、DMFを減圧濃縮で留去した後、残渣をDMSO(10.7mL)に溶解して行った。
【0052】
モノヨード体はアセトンによる沈殿でも精製が可能であった。すなわち、反応液(10mL)に対し、アセトン(100mL)を加えて沈殿を生成させ、沈殿をろ過、アセトンで洗浄、乾燥し、モノヨード体(0.38g)を得た。
【0053】
(実施例1)
(1)ポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマーテトラブチルアンモニウム(TBA)塩の調整
ポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマー(PSt0.54−MA0.24−iBu0.44、DP=485)135mg(1mmol)のDMF分散液(20mL)に1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBA−OH)水溶液0.5mL(0.5mmol)を加えて溶液を調整した。この溶液を減圧乾固することにより目的物の調整を行った。
【0054】
(2)モノトシル体(mTs)とポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマーとの反応
得られたポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマーテトラブチルアンモニウム(TBA)塩を、DMF(10mL)、50%モノトシル環状四糖0.6g(0.8eq)を加え100℃で4時間、室温で1日反応した。反応終了後、DMFを蒸散し、水100mL、HCl1mmolを加え対イオンをCOOHとし沈殿を析出させた。沈殿をろ過、水で洗浄、乾燥し、生成物190mgを得た。プロトンNMR(図1)からPSt=0.54に対して環状四糖=0.10、iBu=0.19、COOH=0.60の構造であった(PSt0.54−CTS0.10−iBu0.19−COOH0.60)とする。
【0055】
本サンプルは水不溶性でかつメタノール可溶なため、ポリスチレンへ直接付着することが可能であった。すなわちPStシャーレに本サンプルのメタノール溶液4mg/mLを4mL加え、60℃で2時間乾燥後、水で十分洗浄、乾燥した結果、シャーレへのサンプルの付着が目視観察された。更に付着物を重メタノールに溶解し、NMR測定した結果、本サンプルのシグナルが観察されたことからシャーレへの付着が示された。
【0056】
(実施例2)
クメン末端ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマー(PSt0.65−MAanh0.34−Cu0.01:DP=74)と環状四糖との反応
PSt0.65−MAanh0.34−Cu0.01の100mg(無水マレイン酸成分=0.26mmol)をDMF(10mL)に溶解後、環状四糖670mg(1.04mmol)、4−ジメチルアミノピリジン30mg(0.25mmol)を加え、室温で1日、70℃で3時間反応した。反応終了後、溶液を水で希釈し、5日間透析した。少量の水不溶部を濾別し、水溶液成分を減圧乾固し、生成物106mgを得た。プロトンNMR(図2)からマレイン酸ユニットに環状四糖が0.07置換した生成物(PSt0.65−MACTS0.07−MA0.27−Cu0.01)が得られた。
【0057】
(実施例3)
両親媒性ポリマー水溶液のポリスチレン(PSt)シャーレへの吸着
両親媒性のクメン末端ポリスチレン−マレイン酸コポリマー誘導体(PSt0.65−MACTS0.07−MA0.27−Cu0.01)の0.5mg/mL水溶液を調製し、1mLを未処理PStシャーレに注ぎ、軽くゆすることによりシャーレ底面に均一に溶液を満たした後、1時間放置しポリマーを吸着させた。その後、未吸着のポリマー溶液を水3mLで3回洗うことによりポリマー吸着PStシャーレとして細胞親和性評価に用いた。ポリマーの吸着はPStシャーレが水に対して安定に濡れ性を示すことで確認した。
【0058】
(比較例1)
クメン末端ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマーと水との反応
PSt0.65−MAanh0.34−Cu0.01の100mg(無水マレイン酸成分=0.26mmol)をDMF(10mL)に溶解後、水(10mL)、1MNaOH(4mL)を加え、70℃で3時間反応した。反応終了後、溶液を水で希釈し、2日間透析した(PSt−MA−Na)。カチオンを水素に置き換えるためPSt−MA−Naをメタノール(20mL)に溶解し、1MHCl(3ml)、水(10mL)を加え1日透析し、減圧乾固した(PST−MA−H)。本サンプルは水不溶性でかつメタノール可溶なため、PStへ直接付着することが可能であった。PStシャーレに本サンプルのメタノール溶液2mg/mLを1mL加え、60℃で2時間乾燥後、水で十分洗浄、乾燥した結果、シャーレへのサンプルの付着が目視観察された。
【0059】
(比較例2)
クメン末端ポリスチレン−無水マレイン酸コポリマーとラクトースとの反応
PSt0.65−MAanh0.34−Cu0.01の100mg(無水マレイン酸成分=0.26mmol)をDMF(10mL)に溶解後、ラクトース720mg(2mmol)を加え、70℃で3時間反応した。反応終了後、溶液を水で希釈し、2日間透析した。カルボキシル基の対イオンをNaにするため、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mLを加え、更に1日透析後、濃縮乾固し、生成物200mgを得た。プロトンNMRからマレイン酸ユニットにラクトースが0.08置換した生成物(PSt0.65―MALac0.08−MA0.26−Cu0.01)が得られた。
【0060】
(実施例4)
細胞親和性と選択性の評価
まず、実施例1で原料ポリマーとして使用したポリスチレン−マレイン酸イソブチル−マレイン酸コポリマーのメタノール溶液(濃度4mg/ml、4ml)をPstシャーレに注ぎシャーレ底面に均一に広げた後、60℃で2時間乾燥、水で洗浄し乾燥して、対照サンプルを作成した。上記対照サンプル(表中では参照例1)と、実施例1、3及び比較例1、2で得たシャーレをサンプルとして用いて細胞親和性評価を行った。
ヒト血液から室温で遠心分離(3,000rpm、20分)することにより赤血球を大まかに除いた血球画分を調製した。この画分を生理食塩水で洗浄、室温で5分間遠心分離を3回繰り返す(1回目:15,000rpm;2回目:14,000rpm;3回目:13,000rpm)ことにより、赤血球を完全に除いた血球画分液(単球及びリンパ球を含む)を調製した。
【0061】
各シャーレを生理食塩水で洗浄後、上述の画分液(1mL)を加え、COインキュベーター内、37℃で5分間培養した。培養後上澄みを取り出し、単球及びリンパ球の比率をフローサイトメトリーにより評価し、総細胞数を血球カウンターで評価した。シャーレに吸着した単球の収率は、シャーレにおける培養前後の単球の細胞数から以下の計算式で求めた。また、単球の純度は、培養後にシャーレに吸着したリンパ球と単球の比率から以下の計算式で求めた。吸着後の単球細胞数、総細胞数は、それぞれ、吸着前の単球細胞数、総細胞数から上澄みの各細胞数を差し引いた数値である。
収率=100 x(吸着後の単球細胞数)/(吸着前の単球細胞数)
純度=100 x(吸着後の単球細胞数)/(吸着後の総細胞数)
各シャーレにおける単球の収率と純度を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
環状四糖の結合していないポリマーのみの参照例1と比較して、環状四糖が結合した実施例1のシャーレは、吸着する単球の収率が向上し、また吸着した単球の純度もかなり向上した。このことから、環状四糖の導入による標的とする細胞(単球)への親和性が向上したことが伺える。環状四糖の結合していない比較例1のシャーレと比較して、環状四糖が結合した実施例3のシャーレは、単球の収率は若干減少したものの単球の純度は大幅に向上した。このことから、環状四糖の導入により、細胞選択性において大幅な向上が認められたことから、環状四糖の効果が伺える。なお、比較例2の環状四糖の代わりにラクトースを結合したシャーレでは、環状四糖の結合したものと結合していないもののほぼ中間の値となった。
【0064】
上述の実施例から判るとおり、本発明の誘導体は、環状四糖をポリマー中に導入することにより、標的とする細胞(単球)への親和性、特に選択性を向上することができた。またこれらの誘導体はプラスチックへの吸着性が良好であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】環状四糖結合ポリスチレン−マレイン酸イソブチルエステル−マレイン酸コポリマー(実施例1)のプロトンNMRスペクトル
【図2】環状四糖結合クメン末端ポリスチレン−マレイン酸コポリマー(実施例2)のプロトンNMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】


(式中、R3は、水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、下記式:
【化2】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のR3は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR3のうち5〜50%は前記環状四糖である。m、nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体。
【請求項2】
一般式[2]:
【化3】

(式中、R31は、水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、下記式:
【化4】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のR31は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。m、nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体。
【請求項3】
一般式[3]:
【化5】

(式中、Xは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基をあらわす。複数のXは同一でも異なっていてもよい。ただし、マレイン酸エステル構成単位の複数のXのうち少なくとも一つは水素ではない。p、q、rは繰り返し単位数をあらわす。)で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸エステル/マレイン酸)を一般式[4]:

N・OH [4]

(式中、Rは、アルキル基又はアリール基)で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、コポリ(スチレン/マレイン酸エステル/マレイン酸)4級アンモニウムとし、これと下記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または下記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させることを特徴とする前記一般式[1]で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体の製造方法。
【化6】

【請求項4】
一般式[7]:
【化7】


で表されるコポリ(スチレン/無水マレイン酸)を下記式:
【化8】

で表される環状四糖と反応させることを特徴とする前記一般式[2]で表されるコポリ(スチレン/マレイン酸)誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−99903(P2007−99903A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291821(P2005−291821)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】