説明

ポリチオフェンを用いたEL素子

【課題】特に物理的変化や光化学的変化、電気化学的変化の少ない光電子機能材料を正孔注入輸送材料や発光材料として用い、信頼性および発光効率の高い種々の発光色を持ったポリチオフェンを用いたEL素子を実現すること。
【解決手段】正孔注入輸送層と発光層とを有し、この正孔注入輸送層が下記化1で示される重合体のうちの少なくとも1種以上を含有するポリチオフェンを用いたEL素子。


〔化1において、R3 およびR4 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。R3とR4とは互いに結合して環を形成してもよい。X1 およびX2 は、それぞれ水素原子またはハロゲン原子を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。nは4〜100である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェンを用いたEL(電界発光)素子に関し、詳しくは、有機化合物からなる積層構造薄膜に電界を印加して光を放出する素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、蛍光性有機化合物を含む薄膜を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有し、前記薄膜に電子および正孔を注入して再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光、燐光)を利用して発光する素子である。
【0003】
有機EL素子の特徴は、10V 程度の低電圧で100〜10000cd/m2 程度の高輝度の面発光が可能であり、また蛍光物質の種類を選択することにより青色から赤色までの発光が可能なことである。
【0004】
一方、有機EL素子の問題点は、発光寿命が短く、保存耐久性、信頼性が低いことであり、この原因としては、1)有機化合物の物理的変化があること(結晶ドメインの成長などにより界面の不均一化が生じ、素子の電荷注入能の劣化、短絡や絶縁破壊の原因となる。特に分子量500以下の低分子化合物を用いると結晶粒の出現や成長が起こり、膜性が著しく低下する。また、ITO等の界面が荒れていても、顕著な結晶粒の出現や成長が起こり、発光効率の低下や、電流のリークを起こし、発光しなくなる。また、部分的非発光部(ダークスポット)の原因にもなる。)、
【0005】
2)陰極の酸化や剥離があること(電子の注入を容易にするために仕事関数の小さな金属としてNa、Mg、Alなどを用いてきたが、これらの金属は大気中の水分や酸素と反応したり、有機化合物層と陰極の剥離が起こり、電荷注入ができなくなる。特に高分子化合物などを用い、スピンコートなどで成膜した場合、成膜時の残留溶媒や分解物が電極の酸化反応を促進し、電極の剥離が起こり部分的な非発光部を生じさせる。)、
【0006】
3)発光効率が低く、発熱量が多いこと(有機化合物中に電流を流すので、高い電界強度下に有機化合物を置かねばならず、発熱からは逃れられない。その熱のため、有機化合物の溶融、結晶化、熱分解などにより素子の劣化や破壊が起こる。)、
【0007】
4)有機化合物層の光化学的変化や電気化学的変化が起こること、などが挙げられる。
【0008】
特に、上記の問題点1)を解決するため、低分子アモルファス性化合物や、高分子化合物が検討されたりしている。しかし低分子化合物は蒸着できるが十分な薄膜安定性が得られない。また、高分子化合物は薄膜安定性はあるが、蒸着できないので積層構造が採れず、スピンコートなどで成膜するために残留溶媒や不純物が混入し、電極や有機物の劣化が著しいなどプロセス上に大きな問題がある。一方、最近蒸着できる高分子が報告されているが(例えば、非特許文献1参照)、まだ実用的な輝度の発光が得られていない。
【0009】
また透明電極は、表面抵抗の小さいこと(10〜30Ω/□以下)が必要であるためITOガラスなどが用いられている。しかし走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)の観察によると、スパッタ成膜基板で200オングストローム、EB蒸着基板で400オングストローム程度の凹凸があり、さらにITOパターニング時のダメージによる表面荒れがあり、有機薄膜の結晶化が促進されやすい環境にある。
【0010】
このことを改善するため、ITO表面にフタロシアニン膜を設けたり(例えば、特許文献1参照)、ポリアリレンビニレンをスピンコートするなどの方策が採られてきた。しかし、フタロシアニンは微結晶性であり必ずしも効果が現れず、ポリアリレンビニレンはコンバージョン時の酸でITOがダメージを受けたり、残留溶媒などにより電極の酸化が促進したり、スピンコートで成膜した不均一な膜であるため、素子の信頼性が向上しなかった。
【0011】
従って、これらの問題を改善することが可能な有機化合物の適用が望まれている。
【0012】
一方、最近、素子性能の向上を目的として、機能の異なる化合物を2種以上混合した混合層を設けたEL素子が種々提案されている。例えば、特許文献2には、輝度および耐久性の向上を目的として、正孔輸送能および発光機能を有する有機化合物と電子輸送能を有する有機化合物との積層構造の薄膜あるいは混合体薄膜を発光層に用いる旨が、また特許文献3には、正孔輸送機能を有する有機化合物と電子輸送能を有する蛍光有機化合物との混合体薄膜を発光層に用いる旨が提案されている。さらに、特許文献4には、発光効率・発光輝度の向上を目的として、電荷注入層と発光層との間に電荷注入材料と有機蛍光体とを混合した混合層を設ける旨が提案されている。また、特許文献5には、発光層への正孔(ホール)および電子の注入を容易にすることを目的として、正孔輸送層および/または電子輸送層と有機発光層との間に、対面する両層の構成材料を含む混合層を設けることが提案されている。さらに、特許文献6には、複数の有機化合物層を構成する場合、異なる機能を有する化合物を共存させた層、例えば正孔輸送性発光材料を含む層と正孔輸送性発光材料と電子輸送性材料とが共存する層等を設け、発光輝度を高くし、種々の発光色相を呈することを可能にするとともに耐久性を向上させることが提案されている。また、特許文献7には、発光層と電荷注入層の間に発光物質と電荷注入物質からなる混合層を形成し、駆動電圧を低下させる旨が提案されている。さらに、特許文献8には、発光層を正孔伝導性の有機化合物と希土類金属の有機錯体が混合された薄膜よりなるものとし、発光スペクトル幅が狭く単色性に優れ、しかも変換効率の良化を図ることが提案されている。また、特許文献9及び特許文献10には、有機発光体薄膜層の成分が有機電荷材料と有機発光材料の混合物からなる薄膜層を設け、濃度消光を防止して発光材料の選択幅を広げ、高輝度なフルカラー素子とする旨が提案されている。また、特許文献11には、層間に各層を形成する各々の成分で濃度勾配を設けた傾斜構造層を形成し、駆動電圧の低下と耐久性の向上を図ることが提案されている。
【0013】
さらに、有機化合物層にルブレンを用いたものが提案されている。ルブレンを有機化合物層にドープしたものとしては、有機化合物層としてヒドラジン誘導体の混合膜からなる正孔輸送層とトリス(8−キノリノラト)アルミニウムの発光層とを有する有機EL素子において、正孔輸送層にルブレンをドープしたもの、あるいは正孔輸送層の有機界面側半分と発光層全体にルブレンをドープしたものが提案されている。そして、正孔輸送層にドープしたものでは、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムとルブレンの両方から発光が起こることが、また正孔輸送層の半分と発光層にドープしたものでは、発光効率が向上すること、さらには保存時におけるダークスポットの増加を抑制できることが報告されている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。また、トリフェニルジアミン誘導体(TPD)の正孔輸送層にルブレンをドープしたものが提案されており、輝度半減期が向上することが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0014】
また、特許文献12には、p型の無機半導体薄膜層とルブレンを主体とする層からなる有機化合物薄膜層を設けたものが提案されており、十分な発光輝度と発光輝度の安定性が得られることが記載されている。
【特許文献1】特開昭63−295695号
【特許文献2】特開平2−250292号公報
【特許文献3】特開平2−291696号公報
【特許文献4】特開平3−114197号公報
【特許文献5】特開平3−190088号公報
【特許文献6】特開平4−334894号公報
【特許文献7】特開平5−182762号公報
【特許文献8】特開平3−289090号公報
【特許文献9】特開平4−178487号公報
【特許文献10】特開平5−78655公報
【特許文献11】特開平4−357694号公報
【特許文献12】特開平2−207488号公報
【非特許文献1】福田隆史ら、第41回(1992年)高分子学会年次大会予稿集IL−29
【非特許文献2】金井、矢島、佐藤、第39回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、28p−Q−8(1992)
【非特許文献3】佐藤、金井、有機エレクトロニクス材料研究会(JOEM)ワークショップ92予稿集、31(1992)
【非特許文献4】藤井、佐野、藤田、浜田、柴田、第54回応用物理学学術講演会講演予稿集、29p−ZC−7(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、これらのいずれのEL素子においても、発光寿命の向上という点で満足できるものではない。
【0016】
本発明の目的は、特に物理的変化や光化学的変化、電気化学的変化の少ない光電子機能材料を正孔注入輸送材料や発光材料として用い、信頼性および発光効率の高い種々の発光色を持ったポリチオフェンを用いたEL素子を実現することである。特に、分子量の大きな化合物を蒸着法で形成した有機薄膜を用い、素子の駆動時の電圧上昇や電流のリーク、部分的な非発光部の出現や成長を抑えた高信頼性の高輝度発光素子を実現することである。
【0017】
さらには、発光寿命の向上を図り、特に初期の輝度低下を抑制したポリチオフェンを用いたEL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的は、下記(1)〜(13)の本発明により達成される。
(1)正孔注入輸送層と発光層とを有し、この正孔注入輸送層が下記化1で示される重合体のうちの少なくとも1種以上を含有するポリチオフェンを用いたEL素子。
【0019】
【化1】

【0020】
〔化1において、R3 およびR4 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。R3とR4とは互いに結合して環を形成してもよい。X1 およびX2 は、それぞれ水素原子またはハロゲン原子を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。nは4〜100である。〕
(2)前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する層が真空蒸着法により形成された上記(1)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(3)前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する正孔注入輸送層のほかに、さらに、これとは異なる正孔注入輸送層を少なくとも1層有する上記(1)または(2)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(4)さらに、電子注入輸送層を有する上記(1)〜(3)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子において、正孔注入輸送性化合物を含有する層および電子注入輸送性化合物を含有する層を各々少なくとも1層有し、前記層中における前記正孔注入輸送性化合物と前記電子注入輸送性化合物とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差が0.2eV以上であるポリチオフェンを用いたEL素子。
(6)前記正孔注入輸送性化合物を含有する層が、前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する正孔注入輸送層上に積層されており、前記電子注入輸送性化合物を含有する層が、さらに前記正孔注入輸送性化合物を含有する層上に積層されている上記(5)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子において、正孔注入輸送性化合物と電子注入輸送性化合物との混合物を含有する層を少なくとも1層有するポリチオフェンを用いたEL素子。
(8)前記混合物を含有する層が発光層である上記(7)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(9)前記正孔注入輸送性化合物と前記電子注入輸送性化合物とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差が0.2eV以上である上記(7)または(8)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(10)前記正孔注入輸送性化合物のイオン化ポテンシャルIpの絶対値が5.4eV以下である上記(5)〜(9)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
(11)前記電子注入輸送性化合物がトリス(8−キノリノラト)アルミニウムである上記(5)〜(10)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
(12)蛍光性物質がドープされた層を有する上記(1)〜(11)のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
(13)前記蛍光性物質がルブレンである上記(12)のポリチオフェンを用いたEL素子。
【0021】
(14)下記化2で示される構造単位を有する重合体および下記化2で示される構造単位と下記化3で示される構造単位とを有する共重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する層を少なくとも1層有するポリチオフェンを用いたEL素子。
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
〔化2において、R1 およびR2 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。化3において、R3およびR4 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。R3とR4 とは互いに結合して環を形成してもよい。ただし、いずれの重合体および共重合体においても末端基は水素原子またはハロゲン原子である。〕
(15)前記重合体および前記共重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する層が真空蒸着法により形成された上記(14)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(16)発光層が前記重合体および前記共重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する上記(14)または(15)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(17)発光層が正孔注入輸送層を兼ねる上記(16)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(18)正孔注入輸送層と発光層とを有し、この正孔注入輸送層が前記重合体および前記共重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する上記(14)または(15)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(19)前記重合体および前記共重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する正孔注入輸送層のほかに、さらに、これとは異なる正孔注入輸送層を少なくとも1層有する上記(18)のポリチオフェンを用いたEL素子。
(20)さらに、電子注入輸送層を有する上記(18)または(19)のポリチオフェンを用いたEL素子。
【0024】
本発明では、化2で示される構造単位を有する重合体(以下、「重合体I」ともいう。)および化2で示される構造単位と化3で示される構造単位とを有する共重合体(以下、「共重合体II」ともいう。)のうちの1種以上を発光材料ないし正孔注入輸送材料として、また化1で示される重合体(以下、「重合体III 」ともいう。)を正孔注入輸送材料として、発光層や正孔注入輸送層に用いている。
【0025】
上記重合体は、いずれも、π電子の過剰な5員環を有するため、イオン化ポテンシャルが小さく、正孔を注入する能力が非常に高いので、正孔材料として用いたとき、駆動電圧を低くできる。また、分子自身が比較的直線性で、膜状態での分子間の距離が短いため、正孔移動度が高く、正孔輸送能に優れる。そのため、組み合わせる発光層や電子注入輸送層、あるいは正孔注入輸送層の膜厚をコントロールすることで、再結合領域の設計の自由度が向上し、発光スペクトルの設計や、両電極の干渉効果による発光輝度や、素子の発光領域の空間分布の制御を可能にする。
【0026】
従って、上記重合体を、適宜、発光層や正孔注入輸送層に用いることができ、特に正孔注入輸送層に用いたときには100〜1000cdm-2 程度、あるいはそれ以上の高輝度が安定して得られる。また、耐熱性・耐久性が高く、素子電流密度1000mAcm-2程度でも安定した駆動が可能である。
【0027】
また、上記重合体の薄膜はほぼアモルファス状となり膜質が良好なのでムラが無く均一な発光が可能である。
【0028】
また、本発明のEL素子は、低電圧で効率よく発光する。
【0029】
なお、本発明のEL素子の発光極大波長は、350〜700nm程度である。特に、上記重合体Iおよび共重合体IIのうちの1種以上を発光材料として発光層に用いた場合の発光極大波長は、特に、重合度、結合位置や置換基を選択することにより400〜700nmまでの任意のものとすることが可能である。従って、青色発光も安定して得ることができる。
【0030】
なお、「福田隆史ら、第41回(1992年)高分子学会年次大会予稿集1L−29」には、本発明の重合体III と同じポリ(チオフェン−2,5−ジイル)の真空蒸着膜を発光層としたEL素子が報告されている。このものは、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)を発光材料として用いるもので、本発明のように、他の蛍光性物質を発光層に用い、このような発光層のほかに、正孔注入輸送層を別途設け、この正孔注入輸送層にポリ(チオフェン−2,5−ジイル)を用いた構成については示唆すらされていない。従って、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)を正孔注入輸送層材料として用いることは、この出願の発明によりはじめて明らかにされたことである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば高輝度が安定して得られるポリチオフェンを用いたEL素子が実現する。また、耐熱性、耐久性が高く、安定した駆動が可能である。さらにはムラがなく均一な発光が可能であり、低電圧で効率よく発光する。
【0032】
混合層を発光層とするものでは、初期の輝度の低下がなく、発光寿命が延びる。また、ルブレンをドープしたものでは、初期の輝度が向上し、発光寿命が延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
【0034】
本発明のポリチオフェンを用いたEL素子(以下、「EL素子」ともいう。)は、特定構造のポリチオフェンである重合体I、共重合体II、重合体III を用いたものである。この場合、重合体I、共重合体IIは発光層や正孔注入輸送層に用いられ、重合体III は正孔注入輸送層に用いられる。
【0035】
まず、重合体Iについて説明する。重合体Iは化2の構造単位を有し、例えば化4で示されるものである。
【0036】
【化4】

【0037】
化2、化4について記すと、R1 およびR2 はそれぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なるものであってもよい。
【0038】
1 およびR2 で表わされる芳香族炭化水素基としては、無置換であっても置換基を有するものであってよく、炭素数6〜15のものが好ましい。置換基を有するときの置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0039】
1 およびR2 で表わされる脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等が挙げられ、これらのものは無置換でも、置換基を有するものであってもよい。なかでも、炭素数1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0040】
1 、R2 としては、水素原子、芳香族炭化水素基が好ましく、特には水素原子が好ましい。
【0041】
層中における重合体Iの平均重合度(化4のm)は4〜100、好ましくは5〜40、さらに好ましくは5〜20である。この場合、化2で示される繰り返し単位が全く同一の重合体(ホモポリマー)であっても、化2においてR1 とR2の組合せが異なる構造単位から構成される共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体等のいずれであってもよい。
【0042】
また、層中における重合体Iの重量平均分子量は300〜10000程度である。
【0043】
重合体Iの末端基(化4のX1 およびX2 )は、水素原子、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子である。この末端基は、一般に、重合体Iの合成の際の出発原料に依存して導入される。さらには重合反応の最終段階で他の置換基を導入することもできる。
【0044】
なお、重合体Iは化2の構造単位のみで構成されることが好ましいが、10モル%以下であれば他のモノマー成分を含有していてもよい。
【0045】
重合体Iの具体例を化5に示す。化5中には化2ないし化4のR1 、R2 の組合せで示している。
【0046】
【化5】



【0047】
次に、共重合体IIについて説明する。共重合体IIは化2の構造単位と化3の構造単位とを有し、例えば化6で示されるものである。
【0048】
【化6】



【0049】
化2については重合体Iのものと同様である。従って、化6中のR1 、R2 は化2のものと同様である。
【0050】
また化3について記すと、R3 およびR4 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なるものであってもよい。
【0051】
3 、R4 で表わされる芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基の具体例は、化2のR1、R2のところで挙げたものと同様のものを挙げることができる。また、R3 、R4 の好ましいものもR1、R2と同様である。さらに、R3 とR4 とは互いに結合して環を形成し、チオフェン環に縮合してもよい。この場合の縮合環としては、ベンゼン環等が挙げられる。このR3、R4については、化6においても同様である。
【0052】
層中における共重合体IIの平均重合度(化6におけるv+w)は、重合体Iと同様に、4〜100、好ましくは5〜40、さらに好ましくは5〜20である。また、化2の構造単位と化3の構造単位との比率は、化2の構造単位/化3の構造単位が、モル比で10/1〜1/10程度である。
【0053】
層中における共重合体IIの重量平均分子量は300〜10000程度である。
【0054】
また、共重合体IIの末端基(化6におけるX1およびX2 )は重合体Iと同様のものであり、一般に、共重合体IIの合成の際の出発原料ないしその比率に依存する。
【0055】
なお、共重合体IIは、重合体Iと同様に、化2の構造単位と化3の構造単位とで構成されることが好ましいが、10モル%以下であれば他のモノマー成分を含有していてもよい。また、共重合体IIは、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体等のいずれであってもよく、化6の構造式はこのような構造を包含するものである。さらに、化2、化3の構造単位同士は、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
【0056】
共重合体IIの具体例を化7に示す。化7中には化2のR1、R2の組合せ、化3のR3 、R4 の組合せ、すなわち化6のR1 、R2、R3、R4 の組合せで示している。
【0057】
【化7】



【0058】
さらに、化1の重合体III について説明する。化1について記すと、R3 およびR4 は化3のものと同義であり、好ましいものも同様である。
【0059】
1 およびX2 は、それぞれ同一でも異なるものであってもよく、重合体I、共重合体IIの末端基と同様に、水素原子または塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子である。X1およびX2は重合体III の合成の際の出発原料に依存する。
【0060】
nは平均重合度を表わし、層中では重合体I、共重合体IIと同様に4〜100、好ましくは5〜40、さらに好ましくは5〜20である。この場合、R3 とR4の組合せが同一の重合体(ホモポリマー)であっても、R3とR4 の組合せが異なる共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体等のいずれであってもよい。
【0061】
また、層中における重合体III の重量平均分子量は300〜10000程度である。
【0062】
なお、重合体III は化1に示すような構造であることが好ましいが、重合体I、共重合体IIと同様に、10モル%以下であれば他のモノマー成分を含有していてもよい。
【0063】
重合体IIIの具体例を化9に示す。化9中には化8のR3、R4 の組合せで示している。なお、化8は化1と同じものであるが、再掲する。
【0064】
【化8】

【0065】
【化9】



【0066】
本発明の重合体I、共重合体IIおよび重合体III は、ジハロゲン化アリール化合物を縮重合することで得られる。好ましくは、(1)グリニャール反応を行い、ジクロロ(2,2′−ビピリジン)ニッケル[NiCl2(bpy)]などのNi錯体などを用いて重合する方法[Yamamoto T.,et al., Bull.Chem.Soc.Jpn.,56,1497(1983)] や、(2)ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル[Ni(cod)2]を用いて重合する方法[T.Yamamoto,et al., Polym.J.,22,187(1990)] 、などにより得られる。
【0067】
このような重合体の同定は、元素分析、赤外吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等によって行うことができる。
【0068】
また、平均重合度(n)、重量平均分子量は、光散乱法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、液体クロマトグラフィー、マススペクトル等によって求めることができる。
【0069】
融点は300℃以上、または融点を持たないものであり、真空蒸着によりアモルファス状態あるいは微結晶状態の良質な膜が得られる。
【0070】
以下に、これらの重合体の合成例を示す。併せて元素分析の結果を示す。
【0071】
(合成例1)
<ポリ(チオフェン−2,4−ジイル)[重合体I−1:末端基HまたはBr]の合成>ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2)1.58g(5.71mmol)、2,2’−ビピリジン0.90g (5.75mmol)と、1,5−シクロオクタジエン1.0mlを、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに窒素雰囲気中で混合し、さらに2,4−ジブロモチオフェン1.15g(4.76mmol)を加え、60℃で18hr攪拌した。その結果、赤茶色のポリマーを沈澱として得た。得られたポリマーからニッケル化合物などを除去するため、塩酸−エタノール溶液、エチレンジアミン水溶液、トルエン、熱水、エタノールで洗浄した。収率は91%であった。
【0072】
元素分析
C H S Br
計算値(%) 58.5 2.45 39.55 0.0 (C4H2S)n
測定値(%) 57.07 2.07 35.50 5.56
【0073】
(合成例2)
<ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)[重合体III −1:末端基HまたはBr]の合成>
ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2 )1.58g (5.71mmol)、2,2’−ビピリジン0.90g (5.75mmol)と、1,5−シクロオクタジエン1.0mlを、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに窒素雰囲気中で混合し、さらに2,5−ジブロモチオフェン1.15g(4.76mmol)を加え、60℃で18hr攪拌した。その結果、赤茶色のポリマーを沈澱として得た。得られたポリマーからニッケル化合物などを除去するため、塩酸−エタノールで洗浄した。収率は98%であった。
【0074】
元素分析
C H S Br
計算値(%) 58.5 2.45 39.55 0.0 (C4H2S)n
測定値(%) 53.45 2.32 35.84 6.39
【0075】
(合成例3)
<ポリ(3−フェニル−チオフェン−2,4−ジイル)[重合体I−3:末端基HまたはBr]>
ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2 )1.58g (5.71mmol)、2,2’−ビピリジン0.90g (5.75mmol)と、1,5−シクロオクタジエン1.0mlを、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに窒素雰囲気中で混合し、さらに2,4−ジブロモ−3−フェニルチオフェン1.19g(5.0mmol)を加え、60℃で18hr攪拌した。その結果、うす茶色のポリマーを沈澱として得た。得られたポリマーからニッケル化合物などを除去するため、塩酸−エタノール溶液、エチレンジアミン水溶液、トルエン、熱水、エタノールで洗浄した。収率は90%であった。
【0076】
元素分析
C H S Br
計算値(%) 75.8 3.8 20.2 0.0 (C10H6S)n
測定値(%) 74.5 3.7 18.6 3.0
【0077】
(合成例4)
<ポリ(3,4−ジメチルチオフェン−2,5−ジイル)[重合体III−5:末端基HまたはBr]の合成>
ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2 )1.58g (5.71mmol)、2,2’−ビピリジン0.90g (5.75mmol)と、1,5−シクロオクタジエン1.0mlを、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに窒素雰囲気中で混合し、さらに2,5−ジブロモ−3,4−ジメチルチオフェン1.40g(5.2mmol)を加え、60℃で18hr攪拌した。その結果、オレンジ色のポリマーを沈澱として得た。得られたポリマーからニッケル化合物などを除去するため、塩酸−エタノール溶液、エチレンジアミン水溶液、トルエン、熱水、エタノールで洗浄した。収率は80%であった。
【0078】
元素分析
C H S Br
計算値(%) 65.4 5.48 29.1 0.0 (C6H6S)n
測定値(%) 65.1 5.51 27.0 2.0
【0079】
(合成例5)
<チオフェン−2,4−ジイル−チオフェン−2,5−ジイル(1:1)共重合体〔共重
合体II−1:端末基HまたはBr〕の合成>
ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2 )1.58g (5.71mmol)、2,2’−ビピリジン0.90g (5.75mmol)と、1,5−シクロオクタジエン1.0mlを、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに窒素雰囲気中で混合し、さらに2,5−ジブロモチオフェン0.63g(2.6mmol)と、2,4−ジブロモチオフェン0.63g (2.6mmol)とを加え、60℃で18hr攪拌した。その結果、赤茶色のポリマーを沈澱として得た。得られたポリマーからニッケル化合物などを除去するため、塩酸−エタノール溶液、エチレンジアミン水溶液、トルエン、熱水、エタノールで洗浄した。収率は93%であった。
【0080】
元素分析
C H S Br
計算値 (%) 58.5 2.45 39.55 0.0 (C4H2S)n
測定値 (%) 57.1 2.10 36.2 4.0
【0081】
その他の例示化合物についても上記に従って、あるいは上記に準じて同様に合成できる。
【0082】
本発明のEL素子は、少なくとも1層の有機化合物層を有し、少なくとも1層の有機化合物層が本発明の重合体を含有する。本発明のEL素子の構成例を図1に示す。同図に示されるEL素子1は、基板2上に、陽極3、正孔注入輸送層4、発光層5、電子注入輸送層6、陰極7を順次有する。
【0083】
発光層は、正孔および電子の注入機能、それらの輸送機能、正孔と電子の再結合により励起子を生成させる機能を有する。正孔注入輸送層は、陽極からの正孔の注入を容易にする機能、正孔を輸送する機能および電子の輸送を妨げる機能を有し、電子注入輸送層は、陰極からの電子の注入を容易にする機能、電子を輸送する機能および正孔の輸送を妨げる機能を有するものであり、これらの層は、発光層へ注入される正孔や電子を増大・閉じ込めさせ、再結合領域を最適化させ、発光効率を改善する。電子注入輸送層および正孔注入輸送層は、発光層に用いる化合物の電子注入、電子輸送、正孔注入、正孔輸送の各機能の高さを考慮し、必要に応じて設けられる。例えば、発光層に用いる化合物の正孔注入輸送機能または電子注入輸送機能が高い場合には、正孔注入輸送層または電子注入輸送層を設けずに、発光層が正孔注入輸送層または電子注入輸送層を兼ねる構成とすることができる。また、場合によっては正孔注入輸送層および電子注入輸送層のいずれも設けなくてよい。また、正孔注入輸送層および電子注入輸送層は、それぞれにおいて、注入機能をもつ層と輸送機能をもつ層とを別個に設けてもよい。
【0084】
本発明の重合体Iおよび共重合体IIは、発光層ないし正孔注入輸送層に用いることが好ましい。この場合、発光層のみ、あるいは正孔注入輸送層のみに用いるものとできるほか、正孔注入輸送層を兼ねた正孔注入輸送・発光層に用いることも好ましい。また、場合によっては、正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層を兼ねる形の発光層に用いてもよい。
【0085】
一方、本発明の重合体III は、正孔注入輸送層に用いることが好ましい。
【0086】
まず、本発明の重合体I、共重合体IIを発光層に用いる場合について説明する。この場合発光層には他の蛍光性物質を併用してもよい。このような蛍光性物質としては、例えば、特開昭63−264692号公報に開示されているような化合物、例えば、クマリン、キナクリドン、ルブレン、スチリル系色素等の化合物から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、例えば、テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネ
ン、12−フタロペリノン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の金属錯体色素などの有機蛍光体である。このような蛍光性物質の含有量は、本発明の重合体I、共重合体IIの5モル%以下とすることが好ましい。このような化合物を適宜選択して添加することにより、発光光を長波長側にシフトすることができる。
【0087】
また、発光層には、一重項酸素クエンチャーが含有されていてもよい。このようなクエンチャーとしては、ニッケル錯体や、ルブレン、ジフェニルイソベンゾフラン、三級アミン等が挙げられる。このようなクエンチャーの含有量は、本発明の重合体I、共重合体IIの10モル%以下とすることが好ましい。
【0088】
本発明の重合体I、共重合体IIを発光層に用いる場合、正孔注入輸送層および電子注入輸送層には、通常の有機EL素子に用いられている各種有機化合物、例えば、特開昭63−295695号公報、特開平2−191694号公報、特開平3−792号公報等に記載されている各種有機化合物用いることができる。例えば、正孔注入輸送層には、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体等を用いることができ、また、電子注入輸送層には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムなどの有機金属錯体誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体等を用いることができる。
【0089】
このほか、正孔注入輸送層には、本発明の重合体I、共重合体II、重合体IIIを用いることもできる。また、正孔注入輸送層を別途設けることなく、発光層を正孔注入輸送層と兼ねる形とすることも好ましい。
【0090】
正孔注入輸送層を正孔注入層と正孔輸送層とに分けて設層する場合は、正孔注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陽極(ITO等)側からイオン化ポテンシャルの小さい化合物の層の順に積層することが好ましい。また陽極表面には薄膜性の良好な化合物を用いることが好ましい。このような積層順については、正孔注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。このような積層順とすることによって、駆動電圧が低下し、電流リークの発生や部分的非発光部(ダークスポット)の発生・成長を防ぐことができる。また、素子化する場合、蒸着を用いているので1〜10nm程度の薄い膜も、均一かつピンホールフリーとすることができるため、正孔注入層にイオン化ポテンシャルが小さく、可視部に吸収をもつような化合物を用いても、発光色の色調変化や再吸収による効率の低下を防ぐことができる。
【0091】
電子注入輸送層を電子注入層と電子輸送層とに分けて設層する場合は、電子注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陰極側から電子親和力の値の大きい化合物の層の順に積層することが好ましい。このような積層順については電子注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。
【0092】
次に、本発明の重合体I、共重合体II、重合体III を正孔注入輸送層に用いる場合について説明する。この場合、正孔注入輸送層には、前記したような正孔注入輸送材料を併用することができる。また、このような正孔注入輸送材料を用いた正孔注入輸送層と積層することもできる。特に好ましいのは、陽極表面に本発明の重合体を用いた第一正孔注入輸送層を形成し、さらに前記したような他の正孔注入輸送材料を用いた第二正孔注入輸送層を積層することである。このような積層した構成とすることにより、正孔注入輸送機能が向上し素子としての性能が向上する。さらに、ITO等の陽極表面の荒れをカバーし、上部に積層する有機化合物層を安定化する。
【0093】
特に、積層構成における第二正孔注入輸送材料としてはテトラフェニルジアミノビフェニル誘導体(TPD)等の芳香族三級アミンなどが好ましい。このような化合物は、通常本発明の重合体よりもイオン化ポテンシャルが同等となるか、大きくなるので、本発明の重合体を適宜選択することによって好ましい組合せを選択することができるからである。
【0094】
本発明の重合体は、イオン化ポテンシャルIpの絶対値が4.8〜5.4eV程度、電子親和力Eaの絶対値が1.8〜3.0eV程度のものである。
【0095】
本発明の重合体を正孔注入輸送層に用いる場合、発光層に用いる蛍光性物質は、前記したようにより長波長の蛍光をもつものから選択すればよく、例えば、前記した発光層において本発明の重合体I、共重合体IIと併用される蛍光性物質の1種以上から適宜選択すればよい。このような発光層としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を用いたものであってよく、このような発光層は電子注入輸送層を兼ねる電子注入輸送・発光層であってもよい。なお、本発明の重合体を正孔注入輸送層に用いる場合、発光層にも本発明の重合体I、共重合体IIを用いることができる。また、電子注入輸送層には前記の電子注入輸送材料を用いることができる。その他の構成については、本発明の重合体を発光層に用いる場合と同様である。
【0096】
発光層の厚さ、正孔注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは特に限定されず、形成方法によっても異なるが、1層当たり、通常、1〜1000nm程度、特に8〜200nmとすることが好ましい。
【0097】
正孔注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは、再結合・発光領域の設計によるが、発光層の厚さと同程度もしくは1/10〜10倍程度とすればよい。電子もしくは正孔の、各々の注入層と輸送層を分ける場合は、注入層は1nm以上、輸送層は20nm以上とするのが好ましい。このときの注入層、輸送層の厚さの上限は、通常、注入層で100nm程度、輸送層で1000nm程度である。このような膜厚については、注入輸送層を2層設け、第一および第二注入輸送層とする場合も同じである。
【0098】
また、組み合わせる発光層や電子注入輸送層や正孔注入輸送層のキャリア移動度やキャリア密度(イオン化ポテンシャル・電子親和力により決まる)を考慮しながら、膜厚をコントロールすることで、再結合領域・発光領域を自由に設計することが可能であり、発光色の設計や、両電極の干渉効果による発光輝度・発光スペクトルの制御や、発光の空間分布の制御を可能にできる。
【0099】
本発明において、電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物とを併用する場合、より具体的には、電子注入輸送性化合物を含有する層と正孔注入輸送性化合物を含有する層とを有するEL素子においては、これらの層に含有される電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれらの両者の差は0.2eV以上であることが好ましい。
【0100】
これら両化合物同士のIp差、Ea差を上記範囲とすることによって、電子注入輸送層と正孔注入輸送層との組合せのように、電子注入輸送性化合物を含有する層と正孔注入性化合物を含有する層のエネルギー状態(レベル)が最適化されて、界面におけるキャリアブロッキング効果が高まり、極性的に劣勢あるいは不安定なキャリアの注入はより起こりにくくなるので、各層の有機化合物がダメージを受けにくくなり、キャリア再結合領域や発光領域で、キャリアや励起子の失活ポイントを生じにくくなる。その結果、安定した発光が得られ、寿命が大幅に向上する。これに対し、これらの差が小さくなると、界面におけるキャリアブロッキング効果が得られなくなる。
【0101】
上記において、電子注入輸送性化合物を含有する層および正孔注入輸送性化合物を含有する層のいずれか一方あるいは両方が2層以上存在する場合は、電子注入輸送性化合物を含有する層の少なくとも1層と正孔注入輸送性化合物を含有する層の少なくとも1層との間で上記関係を満たせばよいが、より近接する層同士で上記関係を満たすことが好ましい。
【0102】
特に、正孔注入輸送層と電子注入輸送・発光層、電子注入輸送層と正孔注入輸送・発光層、等のように、電子注入輸送性化合物を含有する層と正孔注入輸送性化合物を含有する層とが積層された構成において、上記各層中の電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物とのIp差、Ea差を上記範囲とすることが好ましい。
【0103】
より近接した層同士、特に積層構成では、界面におけるキャリアブロッキング効果が発揮されやすいからである。
【0104】
さらには、上記の積層構成は、本発明の重合体を含有する正孔注入輸送層を第一正孔注入輸送層とした場合に適用することが好ましく、具体的には、この第一正孔注入輸送層上に、上記の正孔注入輸送性化合物を含有する層を例えば第二正孔注入輸送層等として設け、さらにこの上に積層して上記の電子注入輸送性化合物を含有する層を設けることが好ましい。
【0105】
このような構成とすることによって、上記のキャリアブロッキング効果に加え、さらに素子の安定化効果を得ることができる。
【0106】
上記における電子注入輸送性化合物は、前記の電子注入輸送材料のなかから、また正孔注入輸送性化合物は、前記の正孔注入輸送材料のなかから選択して用いることができる。また、場合によっては本発明の重合体から選択して用いてもよい。さらに、電子注入輸送性化合物、正孔注入輸送性化合物は各々1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0107】
なお、上記各層において、電子注入輸送性化合物または正孔注入輸送性化合物を2種以上含有させるとき、上記のIp差、Ea差は、通常、主成分となる化合物(通常50wt% 以上の含有量)についての値を用いて求める。
【0108】
上記の差のなかでも、いずれかが上記範囲にあればよいが、特には両方の差が上記範囲にあることが好ましい。また、特に電子注入輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウムを用いるときはIpの差が上記範囲にあることが好ましい。
【0109】
このときの差の上限値には特に制限はないが、通常1eV程度であり、上記の差はいずれも0.2〜1eVの範囲にあることが好ましい。
【0110】
上記において用いる正孔注入輸送材料は、一般にイオン化ポテンシャルIpの絶対値が5.4eV以下であり、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムとの組合せで用いる場合は特にこの値のものであることが好ましい。この値の下限には特に制限はないが、通常は4.8eV程度であり、この値は4.8〜5.4eVの範囲にあることが好ましい。
【0111】
また、正孔注入輸送材料の電子親和力Eaの絶対値は1.8〜3.0eV程度であることが好ましい。
【0112】
これに対し、正孔注入輸送材料とともに用いる電子注入輸送材料は、通常、イオン化ポテンシャルIpの絶対値が5.4〜6.5eVの範囲、電子親和力Eaの絶対値が2.5〜3.5eVの範囲にあるものから選択することが好ましい。
【0113】
特に、上記の構成において電子注入輸送材料としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを用いることが好ましい。この錯体のイオン化ポテンシャルIpの絶対値は通常5.6〜5.7eV程度であり、電子親和力Eaの絶対値は2.9〜3.0eV程度である。
【0114】
上記において、好ましい正孔注入輸送材料と電子注入輸送材料との組合せは以下のとおりである。
【0115】
[電子注入輸送材料 正孔注入輸送材料]
(1)トリス(8-キノリノラト)アルミニウムN,N'-ヒ゛ス(m-メチルフェニル)-N,N'-シ゛フェニル- 1,1'-ヒ゛フェニル-4,4'-シ゛アミン(2) トリス(8-キノリノラト)アルミニウム1,1'-ヒ゛ス(4-シ゛-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン(3) トリス(8-キノリノラト)アルミニウム N,N'-ヒ゛ス(p-t-フ゛チルフェニル)-N,N'-シ゛フェニル-1,1'-ヒ゛フェニル-4,4'-シ゛アミン(4) トリス(8-キノリノラト)アルミニウム N,N'-ヒ゛ス(p-n-フ゛チルフェニル)-N,N'-シ゛フェニル-1,1'-ヒ゛フェニル-4,4'-シ゛アミン
【0116】
本発明においては、電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物との混合物を含有する混合層を設けることが好ましい。
【0117】
このとき、混合層にはキャリアのホッピング伝導パスができることになるので、各キャリアは極性的により優勢な物質中を移動する。すなわち正孔は正孔注入輸送性固体中を、また電子は電子注入輸送性固体中を移動することになり、逆の極性のキャリア注入は起こりにくくなるので、各有機化合物がダメージを受けにくくなり、キャリア再結合領域や発光領域で、キャリアや励起子の失活ポイントを生じにくくなる。その結果、安定した発光が得られ、寿命が大幅に向上する。
【0118】
上記の混合層は、発光層であることが好ましく、電子注入輸送性化合物および正孔注入輸送性化合物のうちの一方、あるいは両方が発光機能を併せ持つことが好ましい。
【0119】
上記の混合層における電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物との混合比は、キャリアの移動度にもよるが、重量比で、電子注入輸送性化合物:正孔注入輸送性化合物が60:40〜40:60であることが好ましく、特には50:50程度であることが好ましい。
【0120】
この混合に供する電子注入輸送性化合物は、前記の電子注入輸送材料のなかから、また正孔注入輸送性化合物は、前記の正孔注入輸送材料のなかから選択して用いることができる。また、場合によっては本発明の重合体から選択して用いてもよい。さらに、混合層において、電子注入輸送性化合物、正孔注入輸送性化合物は各々1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。また、混合層には発光強度を高めるために、蛍光性物質をドープして用いてもよい。このときの蛍光性物質としてはルブレンが好ましい。
【0121】
上記の混合層に用いる正孔注入輸送材料と電子注入輸送材料とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差は、0.2eV以上であることが好ましい。
【0122】
材料同志のIp差、Ea差を上記範囲とすることによって、先に述べたキャリアのブロッキング効果に加え、各キャリアが極性的により優勢な物質中を移動する効果が向上し、発光がさらに安定化するとともに、素子の寿命がさらに向上する。これに対し、これらの差が小さすぎると、上記のようなキャリアのブロッキングや移動の効果が得られにくくな
る。
【0123】
上記の差のなかでも、いずれかが上記範囲にあればよいが、特には両方の差が上記範囲にあることが好ましいこと、また、特に電子注入輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウムを用いるときはIpの差が上記範囲にあることが好ましいこと、さらにはIpおよびEaの差の上限値あるいはIpおよびEaの絶対値、また電子注入輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウムを用いることが好ましいことや併用する正孔注入輸送材料と電子注入輸送材料との好ましい組合せ例については、前記と同じである。
【0124】
本発明において、上記のような混合層を設ける場合、混合層を発光層として、電子注入輸送層と正孔注入輸送層との間に、挟み込むようにして設けることが好ましい。そして、混合層は接する両層の電子注入輸送性化合物と正孔注入輸送性化合物とを用いて混合したものであることが好ましい。さらには、上記の正孔注入輸送層は、本発明の重合体を正孔注入輸送材料とする第一正孔注入輸送層上に、第二正孔注入輸送層として設層することが好ましい。
【0125】
また、混合層の形成方法としては、異なる蒸着源より蒸発させる共蒸着が好ましいが、蒸気圧(蒸発温度)が同程度あるいは非常に近い場合には、予め同じ蒸着ボート内で混合させておき、蒸着することもできる。
【0126】
上記の混合層においては、両化合物を均一に混合することが好ましいが、場合によっては化合物を島状に存在させてもよい。また、混合層の厚さは、分子層一層に相当する厚みから、有機化合物層の膜厚未満とすることが好ましく、具体的には1〜85nmとすることが好ましく、さらには5〜60nm、特には5〜50nmとすることが好ましい。なお、混合層は、素子中に存在する有機化合物層の一部とすることが好ましく、有機化合物層をすべて混合層とすると高輝度な均一発光が得られにくくなることもある。
【0127】
本発明におけるイオン化ポテンシャルIpは、白橋、磯部、宇田、電子材料、123(1985)の記載に従う低エネルギー電子分光装置「 Model AC-1 」(理研計器製)を用い、10〜200nm厚の化合物単層の蒸着膜をITO透明電極を有する基板やスライドガラスなどの上に成膜したサンプルを使用して測定した値である。
【0128】
上記の低エネルギー電子分光装置は、図2に示す構成のものである。
【0129】
図2に示すように、分光装置10は、紫外線ランプ11、モノクロメータ12、検出器13、低エネルギー電子計数装置14、制御装置15、演算表示装置16およびX−Yステージ17により構成され、X−Yステージ上にサンプルSを載置して測定を行うものである。
【0130】
紫外線ランプ11には重水素ランプを用い、このランプから出た光をモノクロメータ12により200〜360nmの任意の波長に分光し、サンプルS表面に照射する。200〜360nmの光は、E=hν=h(c/λ)(E:エネルギー,h:プランク定数,ν:振動数,λ:波長)の式を用いてエネルギーに換算すると、各々6.2〜3.4eVとなる。この光を励起エネルギーの低い方から高い方に向かってスイープしていくと、あるエネルギーで光電効果による電子放出が始まる。このエネルギーが一般に光電的仕事関数といわれる値である。このようにして放出された光電子を検出器13および低エネルギー電子計数装置14を用いて計数し、バックグランド補正やデッドタイム中の数え落としの補正などの演算をした後、図3に示すような励起エネルギー・放出電子量特性(基本特性)を演算表示装置16のディスプレイ上に表示する。
【0131】
基本特性に示すように、この光電子放出率( Count Per Second : CPS )と励起エネルギー(eV)の関係は、縦軸を光電子放出率のn乗(CPS)nとし、横軸を励起エネルギーとすると、直線関係で表すことができる。ここで、nの値は通常1/2を採用している。
【0132】
なお制御装置15は、モノクロメータ12の波長駆動、X−Yステージ17によるサンプル位置の制御および低エネルギー電子係数装置14の計数制御を行っている。
【0133】
従って、本発明では、図3から得られる光電的仕事関数をイオン化ポテンシャルIpとする。
【0134】
一方、本発明における電子親和力Eaは、分光学的方法から測定したものであり、紫外(UV)吸収スペクトルの吸収端からエネルギーギャップを計算して求めたものである。
【0135】
本発明では、ルブレンを有機化合物層にドープすることが好ましい。
【0136】
ドープは有機化合物層全域に行ってよく、好ましくは、正孔注入輸送層全域とするのがよい。後述のとおり、特にキャリア再結合領域、発光領域およびその近傍、例えば正孔注入輸送層の有機化合物層との接触界面にルブレンが存在することが好ましいと考えられるので必ずしも正孔注入輸送層全域とする必要はなく、正孔注入輸送層の、これに接する発光層(電子注入輸送層を兼ねる場合も含む。)、もしくは電子注入輸送層(正孔注入輸送層が発光層を兼ねる場合)側の半分の領域としてもよいが、通常は正孔注入輸送層全域とする。また、場合によっては、正孔注入輸送層全域または正孔注入輸送層の、これに接する発光層もしくは電子注入輸送層側の半分の領域と、発光層もしくは電子注入輸送層の正孔注入輸送層側半分の領域とすることもできる。特に、正孔注入輸送層において、正孔注入輸送材料とルブレンとの併用は好ましく、本発明の重合体を用いた第一正孔注入輸送層上に、ルブレンをドープした第二正孔注入輸送層を設けることが好ましい。
【0137】
ルブレンのドーピング濃度は、ルブレンが濃度消光を起こすことから高濃度の使用は好ましくなく、ドープ層全体に対し0.1〜50wt% とすることが好ましく、さらには0.1〜30wt% 、特には0.1〜20wt% とすることが好ましい。
【0138】
前述のように、本発明において、好ましくは正孔注入輸送層等の正孔注入輸送性化合物を含有する層と電子注入輸送層等の電子注入輸送性化合物を含有する層とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差が最適化されて、界面におけるキャリアブロッキング効果が高まり、極性的に劣勢あるいは不安定なキャリアの注入は起こりにくくなるので、各層の有機化合物がダメージを受けにくくなり、キャリア再結合領域や発光領域で、キャリアや励起子の失活ポイントを生じにくくなる。これに加え、特にルブレンをドープする場合、ルブレンはバイポーラーな輸送性を有しており、ルブレンでもキャリア再結合が起こるので、その分さらに有機化合物が受けるダメージは少なくなる。また、さらにルブレンがキャリア再結合領域近傍に存在するため、励起子からルブレンへのエネルギー移動が起こり、非放射的失活が少なくなり、その結果、安定した発光が得られ、寿命が大幅に向上する。
【0139】
本発明では、蛍光性物質としてルブレンを用いることが好ましいが、ルブレンのほか、他の蛍光性物質をドープしてもよい。
【0140】
本発明において、陰極には、仕事関数の小さい材料、例えば、Li、Na、Mg、Al、Ag、Inあるいはこれらの1種以上を含む合金を用いることが好ましい。また、陰極
は結晶粒が細かいことが好ましく、特に、アモルファス状態であることが好ましい。陰極の厚さは10〜1000nm程度とすることが好ましい。
【0141】
EL素子を面発光させるためには、少なくとも一方の電極が透明ないし半透明である必要があり、上記したように陰極の材料には制限があるので、好ましくは発光光の透過率が80%以上となるように陽極の材料および厚さを決定することが好ましい。具体的には、例えば、ITO、SnO2 、Ni、Au、Pt、Pd、ドーパントをドープしたポリピロールなどを陽極に用いることが好ましい。また、陽極の厚さは10〜500nm程度とすることが好ましい。また、素子の信頼性を向上するために駆動電圧が低いことが必要であるが、好ましいものとして10〜30Ω/□のITOが挙げられる。
【0142】
基板材料に特に制限はないが、図示例では基板側から発光光を取り出すため、ガラスや樹脂等の透明ないし半透明材料を用いる。また、基板に色フィルター膜や誘電体反射膜を用いて発光色をコントロールしてもよい。
【0143】
なお、基板に不透明な材料を用いる場合には、図1に示される積層順序を逆にしてもよい。
【0144】
次に、本発明のポリチオフェンを用いたEL素子の製造方法を説明する。
【0145】
陰極および陽極は、蒸着法やスパッタ法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0146】
正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層の形成には、均質な薄膜が形成できることから真空蒸着法を用いることが好ましい。これにより、1〜10nm程度の薄い膜も、均一かつピンホールフリーとすることができるので、発光色の色調変化や再吸収による効率の低下を防ぐことができる。真空蒸着法を用いた場合、アモルファス状態または結晶粒径が0.1μm以下の均質な薄膜が得られる。結晶粒径が0.1μm を超えていると、不均一な発光となり、素子の駆動電圧を高くしなければならなくなり、電荷の注入効率も著しく低下する。なお、上記の結晶粒径の下限には特に制限はないが、通常0.001μm程度である。
【0147】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、10-5Torr(10-3Pa)以下の真空度とし、蒸着速度は0.1〜1nm/sec程度とすることが好ましい。また、真空中で連続して各層を形成することが好ましい。真空中で連続して形成すれば、各層の界面に不純物が吸着することを防げるため、高特性が得られる。また、素子の駆動電圧を低くすることができる。
【0148】
これら各層の形成に真空蒸着法を用いる場合において、1層に複数の化合物を含有させる場合、化合物を入れた各ボートを個別に温度制御して共蒸着することが好ましい。
【0149】
本発明の重合体を蒸着する際、好ましくは5〜40、さらに好ましくは5〜20のモノマー単位となって蒸着される。蒸着された化合物が上記化合物であることは、赤外吸収スペクトル(IR)、液体クロマトグラフィー、GPC、マススペクトル、蛍光スペクトル、吸収スペクトル等で確認できる。より具体的には、蒸着物をトルエン等の有機溶媒に溶解し、上記の方法による測定を行えばよい。
【0150】
本発明のEL素子は、通常、直流駆動型のEL素子として用いられるが、交流駆動またはパルス駆動することもできる。印加電圧は、通常、2〜20V 程度とされる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明の具体的実施例を比較例とともに示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0152】
<実施例1>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0153】
次いで、化9の重合体III −1[ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)]を蒸着速度0.2nm/secで30nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
【0154】
次いで、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送層を兼ねた発光層とした。
【0155】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0156】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、7V 、100mA/cm2で500cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax =501nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で3000時間以上安定しており、部分的非発光部の出現および成長は全くなかった。
【0157】
<実施例2>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0158】
次いで、化5の重合体I−1[ポリ(チオフェン−2,4−ジイル)]を蒸着速度0.2nm/secで30nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
【0159】
次いで、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送層を兼ねた発光層、すなわち電子注入輸送・発光層とした。
【0160】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0161】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、8V 、100mA/cm2で800cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax =500nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で3000時間以上安定しており、部分的非発光部の出現および成長は全くなかった。
【0162】
<実施例3>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0163】
次いで、化9の重合体III −1[ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)]を10nmの厚さに蒸着し、第一正孔注入輸送層とした。
【0164】
次いで、N,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−
ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD−1)を50nmの厚さに蒸着し、第二正孔注入輸送層とした。
【0165】
次いで、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。
【0166】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0167】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、7V 、100mA/cm2で3000cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax =500nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で1000時間まで、部分的非発光部の出現および成長は全く無く、安定な発光を示した。また、この素子と同様な10個の素子を発光させたところどの素子も電流リークは起こらなかった。
【0168】
<実施例4>
実施例1において、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムの発光層のほかに、電子注入輸送材料としてm−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール]ベンゼンを用い、電子注入輸送層を別途設けたEL素子を作製した。この場合、発光層の厚さは50nm、電子注入輸送層の厚さは10nmとし、電子注入輸送層は発光層と同様に蒸着により形成した。
【0169】
このような素子においても、実施例1と同等の良好な結果が得られた。
【0170】
<比較例1>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0171】
次いで、N,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD−1)を50nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
【0172】
次いで、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。
【0173】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0174】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、18V 、100mA/cm2で2500cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax =505nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で100時間にて、部分的非発光部の出現および成長がみられた。また、この素子と同様な10個の素子を発光させたところ、300時間までに10個の素子すべてが電流リークを起こし、大幅な輝度の低下が起こった。
【0175】
<実施例5>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。その基板を煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、真空槽を1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0176】
まず、化9の重合体III −1[ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)]を蒸着速度約0.1nm/secで約10nmの厚さに蒸着し、第一正孔注入輸送層とした。
【0177】
次いで、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサンを蒸着速度0.1〜0.2nm/secで約50nmの厚さに蒸着し、第二正孔注入輸送層とした。
【0178】
さらに、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.1〜0.2nm/secで約50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送・発光層とした。
【0179】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで約200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0180】
このEL素子に直流電圧を印加し、乾燥雰囲気下10mA/cm2の一定電流密度で連続駆動させた。初期には7.0V 、300cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は24時間で、その間の駆動電圧の上昇は2.1V であった。
【0181】
<比較例2>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。その基板を煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0182】
まず、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサンを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
【0183】
次いで、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。
【0184】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、有機EL素子を得た。
【0185】
このEL素子に直流電圧を印加し、乾燥雰囲気下10mA/cm2の一定電流密度で連続駆動させた。初期には、8.5V 、360cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。3時間後には駆動電圧が11.5V に上昇し、19時間後には絶縁破壊していた。
【0186】
<実施例6>
厚さ200nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。その基板を煮沸エタノール中から引き上げて乾燥してUV/O3洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、真空槽を1×10-4Pa以下まで減圧した。
【0187】
まず、化9の重合体III −1[ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)]を蒸着速度約0.1nm/secで約20nmの厚さに蒸着し、第一正孔注入輸送層とした。
【0188】
次いで、真空槽を大気下に戻し、再び真空槽を1×10-4Pa以下まで減圧した後、N,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD−1)を蒸着速度0.1〜0.2nm/secで約55nmの厚さに蒸
着し、第二正孔注入輸送層とした。
【0189】
さらに、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.1〜0.2nm/secで約50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送・発光層とした。
【0190】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで約200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0191】
このEL素子に直流電圧を印加し、乾燥雰囲気下10mA/cm2の一定電流密度で連続駆動させた。初期には5.6V 、210cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は130時間で、その間の駆動電圧の上昇は1.8V であった。また、部分的非発光部の出現および成長は全くなかった。さらにその後も電流リークは起こらず、安定な発光を示した。
【0192】
<実施例7>
実施例6において、第二正孔注入輸送層を約35nm厚に形成したのち、さらに減圧状態を保ったまま、前記第二正孔注入輸送材料と電子注入輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウムをほぼ同じ蒸着速度(0.1〜0.2nm/sec)で共蒸着して、混合層を約40nmの厚さに形成した。この混合層は発光層である。
【0193】
その後、実施例6と同様に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを用いて約30nmの厚さの電子注入輸送層を形成し、陰極を形成し、EL素子を得た。
【0194】
実施例6と同様に乾燥雰囲気下10mA/cm2の一定電流密度で連続駆動させた。初期には、6.9V 、280cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=505nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は1050時間で、その間の駆動電圧の上昇は3.2V であった。また、部分的非発光部の出現および成長は全くなかった。さらにその後も電流リークは起こらず、安定な発光を示した。
【0195】
混合層に用いたN,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD−1)のイオン化ポテンシャルIpの絶対値は5.40eVであり、電子親和力Eaの絶対値は2.40eVであった。一方、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムのイオン化ポテンシャルIpの絶対値は5.64eVであり、電子親和力Eaの絶対値は2.95eVであった。
【0196】
イオン化ポテンシャルIpは、ガラス基板上に測定化合物の蒸着膜(蒸着速度0.2nm/sec)を約10nm厚に形成したサンプルの膜について、低エネルギー電子分光装置AC−1(理研計器製)で測定して得られたものである。また、電子親和力Eaは紫外吸収スペクトルから求めたものである。
【0197】
また、重合体III −1のイオン化ポテンシャルIpの絶対値は5.0eVであった。
【0198】
<実施例8>
実施例7において、混合層の厚さを20nmとするほかは同様にして素子を得、同様に特性を調べた。
【0199】
その結果、初期には、6.1V 、280cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は1000時間で、その間の駆動電圧の上昇は3.1Vであった。また、部分的非発光部の出現および成長は全くなく、さらにその後も電流リークは起こらず、安定な発光を示した。
【0200】
<実施例9>
実施例7において、混合層の厚さを10nmとするほかは同様にして素子を得、同様に特性を調べた。
【0201】
その結果、初期には、6.4V 、290cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は800時間で、その間の駆動電圧の上昇は3.0Vであった。また、部分的非発光部の出現および成長は全くなく、さらにその後も電流リークは起こらず、安定な発光を示した。
【0202】
<実施例10>
実施例7において、混合層の厚さを5nmとするほかは同様にして素子を得、同様に特性を調べた。
【0203】
その結果、初期には、6.0V 、250cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax=500nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は500時間で、その間の駆動電圧の上昇は2.6Vであった。また、部分的非発光部の出現および成長は全くなく、さらにその後も電流リークは起こらず、安定な発光を示した。
【0204】
実施例6〜10の結果から、混合層を設けることによって、初期の輝度が向上し、半減期が長くなることがわかる。
【0205】
なお、実施例6、7において、[発明を実施するための最良の形態]の項に例示される上記(1)以外の(2)〜(4)の化合物の組合せで、EL素子を作製し、特性を調べたところ、積層構造のものと混合層を設けたものとで、上記と同様の傾向を示した。
【0206】
<実施例11>
厚さ200nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。その基板を煮沸エタノール中から引き上げて乾燥してUV/O3洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、真空槽を1×10-4Pa以下まで減圧した。
【0207】
まず、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)を蒸着速度約0.1nm/secで約20nmの厚さに蒸着し、第一正孔注入輸送層とした。
【0208】
次いで真空槽を大気下に戻し、再び真空槽を1×10-4Pa以下まで減圧した後、N,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD−1)とルブレンをそれぞれ蒸着速度0.1〜0.2nm/sec、0.01〜0.02nm/secでトータル約55nmの厚さに共蒸着し、第二正孔注入輸送層とした。
【0209】
さらに、減圧状態を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.1〜0.2nm/secで約50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送・発光層とした。
【0210】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで約200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0211】
このEL素子に直流電圧を印加し、乾燥雰囲気下10mA/cm2の一定電流密度で連続駆動させた。初期には、5.3V 、290cd/m2 の黄色(発光極大波長λmax=550nm)の発光が確認された。輝度の半減時間は260時間で、その間の駆動電圧の上昇は1.6V
であった。
【0212】
実施例11の結果から、ルブレンをドープすることによって、初期の輝度が向上し、半減期が長くなることがわかる。
【0213】
なお、実施例1〜11において、正孔注入輸送層に、上記重合体のかわりに、化4〜化9に示される重合体ないし共重合体のうちの1種以上を用いてEL素子を作製したところ、実施例1〜11と同等の良好な結果が得られた。
【0214】
また、これらの重合体ないし共重合体のイオン化ポテンシャルIpの絶対値は、4.8〜5.4eVの範囲にあり、N,N’−ビス(m−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンまたは1,1−ビス(4−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン(Ipの絶対値=5.40eV)等を第二正孔注入輸送層用化合物とする組合せで、第一正孔注入輸送層用とするのにふさわしい化合物を選択することができた。
【0215】
<実施例12>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0216】
次いで、化5の重合体I−1[ポリ(チオフェン−2,4−ジイル)]を蒸着速度0.2nm/secで300nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0217】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0218】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、11V 、100mA/cm2で10cd/m2 の青色(発光極大波長λmax =480nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で1000時間以上安定していた。
【0219】
<実施例13>
厚さ100nmのITO透明電極(陽極)を有するガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥し、蒸着装置の基板ホルダーに固定して、1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)まで減圧した。
【0220】
次いで、化7の共重合体II−1[チオフェン−2,4−ジイル−チオフェン−2,5−ジイルコポリマー]を蒸着速度0.2nm/secで30nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0221】
さらに、減圧状態を保ったまま、MgAg(重量比10:1)を蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに蒸着して陰極とし、EL素子を得た。
【0222】
このEL素子に電圧を印加して電流を流したところ、10V 、100mA/cm2で10cd/m2 の黄緑色(発光極大波長λmax =530nm)の発光が確認され、この発光は乾燥窒素雰囲気中で1000時間以上安定しており、部分的非発光部の出現および成長は全くなかった。
【0223】
なお、実施例12、13において、発光層に、上記重合体ないし共重合体のかわりに、化4〜化7の重合体ないし共重合体の1種以上を用いてEL素子を作製したところ、実施例12、13と同等の良好な結果が得られた。
【0224】
以上より、本発明のポリチオフェンを用いたEL素子は、電流リークがなく、非発光部分(ダークスポット)の発生成長がない、信頼性の高い素子であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の有機EL素子の構成例を示す側面図である。
【図2】低エネルギー電子分光装置の構成を示すブロック図である。
【図3】励起エネルギーと電子イールドとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0226】
1…EL素子、2…基板、3…陽極、4…正孔注入輸送層、5…発光層、6…電子注入輸送層、7…陰極、10…低エネルギー電子分光装置、11…紫外線ランプ、12…モノクロメータ、13…検出器、14…低エネルギー電子計数装置、15…制御装置、16…演算表示装置、17…X−Yステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔注入輸送層と発光層とを有し、この正孔注入輸送層が下記化1で示される重合体のうちの少なくとも1種以上を含有するポリチオフェンを用いたEL素子。
【化1】


〔化1において、R3 およびR4 は、それぞれ水素原子、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。R3とR4 とは互いに結合して環を形成してもよい。X1 およびX2 は、それぞれ水素原子またはハロゲン原子を表わし、これらは同一でも異なっていてもよい。nは4〜100である。〕
【請求項2】
前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する層が真空蒸着法により形成された請求項1記載のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項3】
前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する正孔注入輸送層のほかに、さらに、これとは異なる正孔注入輸送層を少なくとも1層有する請求項1または2のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項4】
さらに、電子注入輸送層を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリチオフェンを用いたEL素子において、正孔注入輸送性化合物を含有する層および電子注入輸送性化合物を含有する層を各々少なくとも1層有し、前記層中における前記正孔注入輸送性化合物と前記電子注入輸送性化合物とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差が0.2eV以上であるポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項6】
前記正孔注入輸送性化合物を含有する層が、前記重合体のうちの少なくとも1種以上を含有する正孔注入輸送層上に積層されており、前記電子注入輸送性化合物を含有する層が、さらに前記正孔注入輸送性化合物を含有する層上に積層されている請求項5のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリチオフェンを用いたEL素子において、正孔注入輸送性化合物と電子注入輸送性化合物との混合物を含有する層を少なくとも1層有するポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項8】
前記混合物を含有する層が発光層である請求項7記載のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項9】
前記正孔注入輸送性化合物と前記電子注入輸送性化合物とのイオン化ポテンシャルIpの差もしくは電子親和力Eaの差、またはこれら両者の差が0.2eV以上である請求項7または8記載のポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項10】
前記正孔注入輸送性化合物のイオン化ポテンシャルIpの絶対値が5.4eV以下である請求項5〜9のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項11】
前記電子注入輸送性化合物がトリス(8−キノリノラト)アルミニウムである請求項5〜10のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項12】
蛍光性物質がドープされた層を有する請求項1〜11のいずれかのポリチオフェンを用いたEL素子。
【請求項13】
前記蛍光性物質がルブレンである請求項12のポリチオフェンを用いたEL素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−287242(P2006−287242A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127710(P2006−127710)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【分割の表示】特願2004−11123(P2004−11123)の分割
【原出願日】平成6年6月29日(1994.6.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】