説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法

【課題】孔径が大きく、かつ、より厚いPTFE多孔質膜の実現が可能な、PTFE多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】PTFE多孔質膜の製造方法であって、PTFE粉末を含むシート状物を第1の方向に延伸して得たPTFEシート1aを、第1の方向(矢印Aの方向)と直交する第2の方向(矢印Bの方向)に延伸する延伸工程を含み、上記延伸工程において、PTFEシート1aを第1の方向へ収縮させながら第2の方向に延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と言う)多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアフィルタ用途に用いられるPTFE多孔質膜は、例えば、下記のようにして作製される。PTFEパウダーと有機溶剤とを混合してペーストを作製し、このペーストを用いて押出成形により予備成形体を作製する。その後、得られた予備成形体を、押出しまたは圧延等してシート状物とし、次いで、シート状物を2方向へ延伸して、PTFE多孔質膜(未焼成)を得る。上記PTFE多孔質膜は焼成されることもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記製造方法では、延伸の際にPTFEが直径0.2μm以下の繊維へと繊維化している。そのため、上記製造方法により得られたPTFE多孔質膜は、気孔率が高く、かつ捕集効率も高い。また、上記PTFE多孔質膜は、エアフィルタ濾材の材料として必要な通気性を確保するために、その厚みは非常に薄い。
【特許文献1】特開平10−30031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記PTFE多孔質膜はその厚みが非常に薄いため、機械的ダメージによって破損しないよう、その取り扱いの際には注意を払う必要があった。また、上記PTFE多孔質膜では、繊維径が非常に細く、非常に多くの繊維が存在していため、上記PTFE多孔質膜を塵等の多い環境下で使用した場合、塵等は、PTFE多孔質膜の表面で集中的に捕捉される。その結果、上記PTFE多孔質膜は目詰まりを起こしやすいという問題があった。これらの理由から、エアフィルタ濾材の材料として適した通気性を確保した上で、孔径が大きく、かつより厚いPTFE多孔質膜が求められていた。
【0005】
本発明は、孔径が大きく、かつ、より厚いPTFE多孔質膜の実現が可能な、PTFE多孔質膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のPTFE多孔質膜の製造方法は、PTFE粉末を含むシート状物を第1の方向に延伸して得たPTFEシートを、前記第1の方向と直交する第2の方向に延伸する延伸工程を含み、前記延伸工程において、前記PTFEシートを前記第1の方向に収縮させながら前記第2の方向に延伸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、シート状物を第1の方向へ延伸して得たPTFEシートを、第1の方向に収縮させながら第2の方向に延伸するので、第2の方向に延伸する際のPTFEの繊維化が抑制されるとともに、延伸の際に形成された複数の繊維のうちの近隣の繊維同士が束になる。その結果、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法によれば、孔径の大きいPTFE多孔質膜を得ることができる。さらに、本発明では、PTFEシートを、第1の方向に収縮させながら第2の方向に延伸するので、PTFEシートを、第1の方向に収縮させることなく第2の方向に延伸する、従来のPTFE多孔質膜の製造方法よりも、厚いPTFE多孔質膜を得ることができる。このように、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法によれば、孔径が大きく、かつ、より厚いPTFE多孔質膜の実現が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明のPTFE多孔質膜およびその製造方法の一例を図面を用いて説明する。
【0009】
本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法は、PTFE粉末を含むシート状物を第1の方向に延伸して得たPTFEシートを、第1の方向と直交する第2の方向に延伸する延伸工程を含む。第1の方向への延伸倍率について特に制限はないが、エアフィルタ濾材の材料として好ましい通気性を有しつつ、かつ、延伸により生じ得る繊維の破断を抑制することを考慮すれば、10倍以上40倍以下であることが好ましい。第1の方向への延伸は、PTFEの融点よりも低い温度、例えば、250℃よりも高く327℃よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0010】
第1の方向への延伸方法については、特に制限はなく、例えば、熱ロール延伸法やゾーン延伸法等が挙げられる。
【0011】
図1に示すように、熱ロール延伸法は、シート状物1を繰り出しロール71,72から連続して繰り出し、ロール回転速度の相違により一対のロール72,73間でシート状物1を延伸する方法である。この場合は、ロール72近傍の延伸領域75においてシート状物1が延伸される。
【0012】
図2に示すように、ゾーン延伸法では、加熱炉66内を所定の温度に設定し、その雰囲気にシート状物1を曝し、ロール回転速度の差により一対のロール72,73間でシート状物1を延伸する。上流側のロール71,72から下流側のロール73,74へと繰り出されたシート状物1は加熱炉66内において所定の延伸倍率に延伸される。
【0013】
その他の延伸方法として、シート状物の対向する一対の辺をクリップ等ではさみ、そのシート状物を、所定の温度に設定された加熱炉内の雰囲気に曝しながら引っ張って、延伸する方法等が挙げられる。
【0014】
PTFEシート1a(図1および図2参照)の第2の方向への延伸は、例えば下記のように、バッチで行ってもよいし、帯状のPTFEシート1aに対して行ってもよい。
【0015】
次に、図3を用いて、第2の方向への延伸をバッチで行う場合について説明する。
【0016】
図3に示すように、平面が矩形状のPTFEシート1aの各辺を、それぞれ把持部材4a〜4dで挟む。次いで、矢印A(第1の方向)と直交する1対の辺11a,11bを把持した1対の把持部材4a,4bを互いに近づける。同時に、矢印B(第2の方向)と直交する1対の辺11c,11dを把持した1対の把持部材4c,4dを互いに遠ざける。すなわち、PTFEシート1aを第1の方向に収縮させながら、第2の方向に延伸する。このような方法によりPTFEシート1aを第2の方向に延伸する場合、得られたPTFE多孔質膜の周縁部には延伸ムラがある。そのため、得られたPTFE多孔質膜を、エアフィルタ濾材の材料として用いる場合は、延伸ムラの少ない部分を用いると好ましい。尚、本明細書において、「直交」には、実質的に直交する場合も含む。
【0017】
第2の方向への延伸をバッチで行う場合、PTFEシート1aの第1の方向への収縮率Aは、50%以上90%以下であることが好ましい。収縮率Aが50%以上90%以下であると、過度な繊維化が抑制され、孔径が大きく、かつ、好適な通気性が確保されたPTFE多孔質膜を実現できる。上記収縮率Aは、下記式(数1)により算出される値である。
【0018】
(数1)
収縮率A(%)=(P−Q)/P×100
ただし、式中のPは、図4Aに示すように、第1の方向と直交する1対の辺を把持した1対の把持部材4a,4bのうちの、一方の把持部材4aによって把持されたPTFEシート1aの箇所1a'と他方の把持部材4bによって把持されたPTFEシート1aの箇所1a"との間の、PTFEシート1aを第2の方向に延伸する前における最短距離Xである。また、式中のQは、図4Bに示すように、一方の把持部材4aによって把持されたPTFEシート1aの箇所1a'と他方の把持部材4bによって把持されたPTFEシート1aの箇所1a"との間の、PTFEシート1aを第2の方向に延伸した後における最短距離X'である。
【0019】
次に、図5を用いて、帯状のPTFEシートに対して第2の方向への延伸を行う場合について説明する。
【0020】
帯状のPTFEシートを第2の方向へ延伸をする場合は、例えば、図5に示す延伸装置を用いる。図5に示すように、延伸装置は、テンターと類似の構造をしている。延伸装置は、帯状のPTFEシート1aの辺11e,11fをそれぞれ把持するための複数の把持部材4と、隣り合う把持部材4同士を連結する屈折部5とを備えている。また、延伸装置は、把持部材4がスライドする把持部材用レール6と、屈折部5の支点に連結された軸ピン10がスライドする軸ピン用レール7とを備えている。
【0021】
把持部材用レール6と軸ピン用レール7との間隔Wは、PTFEシート1aの進行方向Cに沿って大きくなっている。そのため、把持部材によって把持されたPTFEシート1aを進行方向Cへ搬送したとき、PTFEシート1aの長手方向に隣り合う把持部材間距離Yは、PTFEシート1aの進行方向Cへ進むほど狭くなる。一方、対向する把持部材間距離Zは長くなる。
【0022】
帯状のPTFEシート1aを第2の方向(矢印Bの方向)に延伸する際には、まず、PTFEシート1aの長手方向と平行な1対の辺11e,11fを、PTFEシート1aの長手方向の一方端側から長手方向に向かって、順次、複数の把持部材4で把持する。同時に、把持部材4、軸ピン10を、それぞれ、スライドさせて、帯状のPTFEシート1aを、進行方向Cへ順次搬送する。尚、本明細書において、「平行」には、実質的に平行な場合も含む。
【0023】
すると、上記把持部材間距離Yは、PTFEシート1aの一方端側から長手方向に沿って、順次、狭められる。同時に、1対の辺11e,11fのうちの、一方の辺11eを把持した複数の把持部材4のうちの所定の把持部材4eと、他方の辺11fを把持した複数の把持部材4のうちの上記所定の把持部材4eと対向する把持部材4fとは、PTFEシート1aの一方端側から長手方向に沿って、順次、互いに遠ざかる。
【0024】
図6に、図5に示したD部分の拡大図を示している。把持部材間距離Y(図5参照)は、PTFEシート1aの進行方向Cへ進むほど狭くなるので、図6に示すように、PTFEシート1aの耳部にたるみが生じることが予想される。しかし、第2の方向(矢印Bの方向)に延伸されている最中のPTFEシート1aの一部では、第2の方向(矢印Bの方向)への延伸方向と反対方向の引張応力が生じているので、上記たるみはPTFEシート1aの中央部に吸収される。その結果として、PTFEシート1aは弛むことなく第2の方向に延伸される。
【0025】
帯状のPTFEシート1aに対して第2の方向への延伸を行う場合、PTFEシート1aの第1の方向への収縮率Bは、50%以上90%以下であることが好ましい。収縮率Bが50%以上90%以下であると、過度な繊維化が抑制され、孔径が大きく、かつ、好適な通気性が確保されたPTFE多孔質膜を実現できる。上記収縮率Bは、下記式(数2)により算出される値である。
【0026】
(数2)
収縮率B(%)=(R−S)/R×100
ただし、式中のRは、PTFEシート1aを第2の方向へ延伸する前の、一方の辺11e(または他方の辺11f)を把持した複数の把持部材4のうちの長手方向に隣り合う把持部材についての把持中心間距離Yaであり、Sは、PTFEシート1aを第2の方向へ延伸した後の、一方の辺11e(または他方の辺11f)を把持した複数の把持部材4のうちの長手方向に隣り合う把持部材についての把持中心間距離Ybである(図5参照)。尚、上記把持中心とは、把持部材の中心を意味し、把持中心間距離とは、隣り合う把持部材の中心間距離を意味する。
【0027】
第2の方向への延伸倍率について特に制限はないが、エアフィルタ濾材の材料として好ましい通気性を確保するために、10倍以上60倍以下であることが好ましい。第2の方向への延伸は、PTFEの融点よりも低い温度、例えば、室温以上〜200℃以下で行うと好ましい。
【0028】
本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法において、面積拡大倍率は、30倍以上600倍以下であることが好ましい。面積拡大倍率が、30倍以上600倍以下であると、孔径が大きく、より厚く、かつエアフィルタ濾材として好適な通気性を有する、PTFE多孔質膜を実現できるからである。尚、本明細書において、面積拡大倍率は下記式(数3)にて定義される。(数3)中の収縮率は、第2の方向への延伸をバッチで行う場合は、収縮率Aのことであり、図5を用いて説明した例のように連続的に行う場合は、収縮率Bのことである。
【0029】
(数3)
面積拡大倍率=(第1の方向への延伸倍率)×(第2の方向への延伸倍率)×[1−(収縮率(%)/100)]
【0030】
本実施形態のPTFE多孔質膜に用いるシート状物は、例えば、下記の方法により作製される。ただし、シート状物の作製方法は、下記の例に限定されるものではない。
【0031】
まず、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えて、ペースト状の混和物を作製する。PTFEファインパウダーには特に制限はなく、市販のものを使用できる。液状潤滑剤としては、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができ、抽出や加熱により除去できるものであれば特に制限されず、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル等の炭化水素を使用できる。これらの液状潤滑剤は、単独で使用しても良く、2種以上併用してもよい。
【0032】
液状潤滑剤の添加量は、PTFEファインパウダーの種類、液状潤滑剤の種類、後述するシート状物の成形条件等により異なるが、例えば、PTFEファインパウダー100重量部に対して5〜50重量部程度が適当である。
【0033】
次に、ペースト状の混和物をシート状に成形する。成形方法としては、例えば、混和物をロット状に押し出した後、(1)対になったロールにより圧延する方法や、(2)板状に押し出してシート状にする方法が挙げられる。(1)および(2)の両方の方法を組み合わせてもよい。シート状物の厚みは、延伸条件等により異なるが、例えば、0.1mm〜0.5mmである。
【0034】
尚、得られたシート状物に含まれる液状潤滑剤は、延伸工程の前に、加熱法または抽出法等により除去しておくことが好ましい。抽出法に使用する溶媒について特に制限はないが、例えば、ノルマルデカン、ドデカン、ナフサ等が挙げられる。
【0035】
PTFEシート1aを第1の方向へ収縮させることなく第2の方向に延伸する、従来のPTFE多孔質膜の製造方法では、第2の方向への延伸時に、ポアソン収縮によりPTFEシート1aに第1の方向にも張力が生じ、この張力によってPTFEの繊維化が進行し、PTFEシートの厚み方向にネッキングが生じる。このため、得られたPTFE多孔質膜は、繊維化率が高く、厚みが薄くなる。
【0036】
一方、本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法では、PTFEシート1aを第1の方向へ収縮させながら第2の方向に延伸するので、第2の方向への延伸時に、ポアソン収縮に起因するPTFEシート1aにおける第1の方向の張力が緩和される。そのため、第2の方向への延伸時の、PTFEの繊維化が抑制され、厚み方向へのネッキングも抑制される。その結果として、繊維が束になった状態で存在し、平均孔径が大きく、厚いPTFE多孔質膜を得ることができる。換言すると、単位厚さあたりの圧力損失の小さいPTFE多孔質膜を得ることができる。
【0037】
尚、本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法により製造されたPTFE多孔質膜は、未焼成の状態では強度が弱く寸法安定性が良くないため、熱処理を行い焼成することが望ましい。熱処理はPTFE多孔質膜の融点(327℃)以上で行う。
【0038】
本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法により製造されたPTFE多孔質膜の厚みは、13μm以上100μm以下であることが好ましい。厚みが13μm以上100μm以下であれば、機械的ダメージによる破損が効果的に抑制される。
【0039】
また、上記PTFE多孔質膜の平均孔径は、0.5μm〜5.0μmであることが好ましい。PTFE多孔質膜の平均孔径が、0.5μm〜5.0μmであると、PTFE多孔質膜をエアフィルタ濾材の材料として用いた場合に、使用に伴うPTFE多孔質膜の目詰まりが抑制される。
【0040】
本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法により製造されたPTFE多孔質膜を、エアフィルタ濾材の材料として用いる場合、PTFE多孔質膜単体で用いてもよいが、通気性支持材に積層して用いてもよい。上記通気性支持材としては、例えば、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)等の多孔質材料を用いることが好ましい。
【0041】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、PTFE多孔質膜の圧力損失、平均孔径および厚みは下記の方法に従って測定した。
【0042】
(1)圧力損失
サンプルを有効面積が100cm2となるように円形ホルダーにセットし、入口側から大気塵を供給しつつ、入口側と出口側に圧力差を与え、このサンプルを通過する空気の透過速度を流量計で 5.3cm/sに調整したときの圧力損失(初期値)を圧力計(マノメーター)で測定した。尚、大気塵とは、雰囲気中に浮遊している塵埃をいう。
【0043】
(2)平均孔径
平均孔径は、ASTM F316−86(バルブポイント法)に従い、(米)Porous Material Inc.製、Perm−Porometerを用いて測定した。測定試薬には、フッ素系溶媒((米)スリーエム社製、FC−40、表面張力16mN/m)を用いた。
【0044】
(3)厚み
ダイアルシックネスゲージ(測定子径:10mmφ、最少目盛り:1μm)を用いて5点測定し、その平均値を求めた。
【実施例1】
【0045】
PTFEファインパウダー(旭硝子(株)製、CD123)100重量部に対して液状潤滑剤(流動パラフィン)25重量部を均一に混合して得たペースト状の混和物を予備成形し、予備成形体をペースト押出により丸棒状に成形した。次に、丸棒状の成形物を圧延してシート状物(厚み0.2mm、幅180mm)とし、シート状物を180℃で3分間加熱し液状潤滑剤を乾燥除去した。
【0046】
次いで、延伸倍率が18倍になるように280℃で、シート状物を第1の方向に延伸(ゾーン延伸)して帯状のPTFEシートを得た。帯状のPTFEシートを切断して長さ1mのPTFEシートを得、図3に示すようにして、PTFEシート1aを第2の方向に130℃で延伸した。
【0047】
尚、第2の方向への延伸前における距離X(図4A参照)は90cm、第2の方向へ延伸した後の距離X'(図4B参照)は36cmとし、第1の方向への収縮率Aは60%とした。また、第2の方向への延伸倍率は10倍とした。PTFEシートを第2の方向へ延伸した後、得られたPTFE多孔質膜(未焼成)を、ブロワーを用いて450℃で約0.5秒間加熱して焼成した。
【実施例2】
【0048】
実施例1と同様にして帯状のPTFEシートを得た。実施例2では、図5に示した延伸装置を用いて、PTFEシートを150℃で第2の方向に延伸した。PTFEシートを第2の方向に延伸する前の、隣り合う把持部材についての把持中心間距離Yaは、16cmとし、PTFEシートを第2の方向に延伸した後の、隣り合う把持部材についての把持中心間距離Ybは、8cmとし、第1の方向への収縮率Bは50%とした。また、第2の方向への延伸倍率は50倍とした。PTFEシートを第2の方向へ延伸した後、得られたPTFE多孔質膜(未焼成)を、ブロワーを用いて450℃で約0.5秒間加熱して焼成した。
【実施例3】
【0049】
第1の方向への延伸倍率を18倍、第2の方向への延伸倍率を30倍、第2の方向への収縮率Aを85%としたこと以外は実施例1と同様にして、焼成されたPTFE多孔質膜を得た。
【0050】
(比較例1)
第2の方向への収縮を行わないこと以外は実施例3と同様にして、焼成されたPTFE多孔質膜を得た。
【0051】
表1に、実施例1〜3および比較例1のPTFE多孔質膜の、平均孔径、圧力損失、厚み等を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、PTFEシートを第1の方向へ収縮させながら第2の方向に延伸して得た実施例1〜3のPTFE多孔質膜では、PTFEシートを第1の方向へ収縮させることなく第2の方向に延伸して得た比較例1のPTFE多孔質膜よりも、平均孔径が大きく、厚みが厚く、単位厚さあたりの圧力損失が小さい。
【0054】
図7は、レーザー顕微鏡で観察した実施例1のPTFE多孔質膜の表面写真であり、図8は、レーザー顕微鏡で観察した比較例1のPTFE多孔質膜の表面写真である。図7と図8とを比較すると、実施例1のPTFE多孔質膜(図7)では、比較例1のPTFE多孔質膜よりも、近隣の繊維同士が束になっていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法では、孔径が大きく、かつ、より厚いPTFE多孔質膜の実現が可能であり、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法により製造されたPTFE多孔質膜は、掃除機、空気清浄機、焼却炉等に用いられるフィルタ濾材の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のPTFE多孔質膜の製法方法の一例を説明する工程図である。
【図2】本発明のPTFE多孔質膜の製法方法の一例を説明する工程図である。
【図3】本発明のPTFE多孔質膜の製法方法の一例を説明する工程図である。
【図4】Aは、PTFEシートを第2の方向に延伸する前における、図3のI−I'断面図であり、Bは、PTFEシートを第2の方向に延伸した後における、図3のI−I'断面図である。
【図5】本発明のPTFE多孔質膜の製法方法の一例を説明する工程図である。
【図6】図5におけるD部分の拡大図である。
【図7】実施例1のPTFE多孔質膜の表面写真である。
【図8】比較例1のPTFE多孔質膜の表面写真である。
【符号の説明】
【0057】
1 シート状物
1a PTFEシート
4,4a〜4f 把持部材
第1の方向 A
第2の方向 B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレン粉末を含むシート状物を第1の方向に延伸して得たポリテトラフルオロエチレンシートを、前記第1の方向と直交する第2の方向に延伸する延伸工程を含み、
前記延伸工程において、前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第1の方向へ収縮させながら前記第2の方向に延伸することを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記延伸工程において、
平面が矩形状の前記ポリテトラフルオロエチレンシートの各辺をそれぞれ把持部材で把持し、
前記第1の方向と直交する1対の辺を把持した1対の把持部材を互いに近づけながら、
前記第2の方向と直交する1対の辺を把持した1対の把持部材を互いに遠ざけて、
前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第1の方向へ収縮させながら前記第2の方向へ延伸する、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1の方向への収縮率Aが、50%以上90%以下である請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
ただし、上記収縮率Aは、下記式により規定される。
収縮率A(%)=(P−Q)/P×100
P:前記第1の方向と直交する前記1対の辺を把持した前記1対の把持部材のうちの、一方の把持部材によって把持された前記ポリテトラフルオロエチレンシートの箇所と、他方の把持部材によって把持された前記ポリテトラフルオロエチレンシートの箇所との間の、前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第2の方向に延伸する前における最短距離
Q:前記一方の把持部材によって把持された前記ポリテトラフルオロエチレンシートの箇所と前記他方の把持部材によって把持された前記ポリテトラフルオロエチレンシート箇所との間の、前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第2の方向に延伸した後における最短距離
【請求項4】
前記延伸工程において、
帯状の前記ポリテトラフルオロエチレンシートの、その長手方向と平行な1対の辺を、それぞれ、前記長手方向の一方端側から前記長手方向に向かって、順次、複数の把持部材で把持し、
各辺を把持した前記複数の把持部材のうちの、前記長手方向に隣り合う把持部材間の距離を、前記帯状のポリテトラフルオロエチレンシートの一方端側から前記長手方向に沿って、順次狭めながら、
前記1対の辺のうちの、一方の辺を把持した前記複数の把持部材のうちの所定の把持部材と、他方の辺を把持した前記複数の把持部材のうちの前記所定の把持部材と対向する把持部材とを、前記帯状のポリテトラフルオロエチレンシートの一方端側から前記長手方向に沿って、順次、互いに遠ざけて、
前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第1の方向へ収縮させながら前記第2の方向へ延伸する、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1の方向への収縮率Bが、50%以上90%以下である請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
ただし、上記収縮率Bは、下記式により規定される。
収縮率B(%)=(R−S)/R×100
R:前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第2の方向へ延伸する前の、前記一方の辺を把持した前記複数の把持部材のうちの前記長手方向に隣り合う把持部材についての把持中心間距離
S:前記ポリテトラフルオロエチレンシートを前記第2の方向へ延伸した後の、前記一方の辺を把持した前記複数の把持部材のうちの前記長手方向に隣り合う把持部材についての把持中心間距離
【請求項6】
前記延伸工程において、
前記第1の方向への延伸倍率が10倍以上40倍以下である請求項1〜5のいずれかの項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記延伸工程において、
前記第2の方向への延伸倍率が10倍以上60倍以下である請求項1〜6のいずれかの項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
面積拡大倍率が30倍以上600倍以下である請求項1〜7のいずれかの項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−124506(P2006−124506A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314477(P2004−314477)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】