説明

ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法

【課題】非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液を製造するための新規な製造方法を提供する。
【解決手段】非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液を製造するための製造方法であって、パーフルオロヘキサン酸又はその塩の存在下に水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する工程を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンが、パーフルオロヘキサン酸アンモニウムの存在下に得られている。しかし、エタンの存在下に、多量の過硫酸アンモニウムを使用しているため、この条件で高分子量の非溶融加工性のPTFEは得られない。
【0003】
特許文献2には、パーフルオロオクタン酸アンモニウム及びパーフルオロヘプタン酸アンモニウムの存在下に重合を行いポリテトラフルオロエチレンの水性分散液を得たことが記載されている。
【0004】
特許文献3には、含フッ素モノマーを、開始剤と重合助剤を含む水性媒体中で重合する方法であって、重合助剤が800g/mol以上の数平均分子量を有するフルオロポリエーテル酸とフッ素系界面活性剤の組合せであるものが開示されている。
【0005】
特許文献4には、炭素数4〜8で主鎖に1〜4個のエーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸及びその塩の存在下に、テトラフルオロエチレンとの共重合におけるモノマー反応性比が0.1〜8であるコモノマーをポリテトラフルオロエチレンの生成量に対して、0.001〜0.01質量%含有させるポリテトラフルオロエチレン水性乳化液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−180364号公報
【特許文献2】国際公開第2005/42593号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0269408号明細書
【特許文献4】国際公開第2011/055824号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に開示されるようなエーテル結合を有する含フッ素乳化剤は、液中での安定性が低いという問題があった。また、テトラフルオロエチレンを高温で重合させたり、長時間重合させたりすると、エーテル結合を有する含フッ素乳化剤は重合途中で分解してしまうので、重合反応で得られた非溶融加工性PTFE粒子を安定に分散させる能力が低いという問題があった。
【0008】
これに対して、エーテル結合を持たない乳化剤としては、たとえばパーフルオロオクタン酸アンモニウムが挙げられるが、環境中で難分解性であり、生体からの排出速度が遅いため、代替化合物が求められている。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液を製造するための新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液を製造するための製造方法であって、パーフルオロヘキサン酸又はその塩の存在下に水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する工程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法は、更に、800g/mol以上の分子量を有するフルオロポリエーテル酸又はその塩(1)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合することが好ましい。
【0012】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、式(1a)〜(1d)で表される繰り返し構造からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し構造を有することが好ましい。
(−CFCF−CF−O−) (1a)
(−CF−CF−CF−O−) (1b)
(−CF−CF−O−)−(−CF−O−) (1c)
(−CF−CFCF−O−)−(−CF−O−) (1d)
(式(1a)〜(1d)中、m及びnは1以上の整数である。)
【0013】
本発明の製造方法は、更に、ノニオン界面活性剤(2)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合することが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法は、更に、モノマー反応性比が0.1〜8であるコモノマー(3)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合することが好ましい。
【0015】
コモノマー(3)は、式(3a)〜(3d)で表されるコモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
CH=CH−Rf (3a)
(式中、Rfは炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−Rf (3b)
(式中、Rfは炭素数が1〜2のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−(CFCF=CF (3c)
(式中、nは1又は2である。)
【0016】
【化1】

(式中、X及びXはF、Cl又はメトキシ基であり、Yは式Y1又はY2である。)
【0017】
【化2】

(式Y2中、Z及びZ’はF又は炭素数1〜3のフッ素化アルキル基である。)
【0018】
本発明の製造方法は、更に、反応性乳化剤(4)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合することが好ましい。
【0019】
反応性乳化剤(4)は、下記式(4a)〜(4e)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
CF=CF−(CFn1−Y (4a)
(式中、n1は、1〜10の整数を表し、Yは、−SO又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)
CF=CF−(CFC(CF)F)n2−Y (4b)
(式中、n2は、1〜5の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFXn3−Y (4c)
(式中、Xは、F又はCFを表し、n3は、1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFCFXO)n4−CFCF−Y (4d)
(式中、n4は、1〜10の整数を表し、Y及びXは、前記定義と同じ。)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)n5−CF(CF)−Y (4e)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。n5は、0又は1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法は、環境中で難分解性であり、生体からの排出速度が遅いパーフルオロオクタン酸アンモニウムを使用せずに、分散安定性に優れた非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの水性分散液を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0022】
本発明は、非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕の粒子を含む水性分散液を製造するための製造方法である。
【0023】
上記PTFEは、非溶融加工性であれば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕単独重合体であってもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。本明細書において、上記非溶融加工性とは、ASTM D−1238及びD−2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質を意味する。上記PTFEは、フィブリル化性を有するものであることが好ましい。
【0024】
上記変性PTFEは、TFEと、TFEと共重合可能な微量の単量体との共重合体であって溶融成形できないものである。上記微量の単量体としては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;フッ素化(アルキルビニルエーテル);パーフルオロアルキルエチレン;環式のフッ素化された単量体;エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0025】
上記フッ素化(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられ、上記PAVEとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(5)
CF=CF−ORf(5)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0026】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(5)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0027】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパーフルオロプロピルビニルエーテル〔PPVE〕が好ましい。
【0028】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(5)において、Rfが炭素数4〜9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、mは、0又は1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、nは、1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0033】
パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)としては特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン等が挙げられる。
【0034】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
上記微量の単量体に由来する微量単量体単位は、変性PTFEのポリマー鎖全体の0.001〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましい。
【0036】
本明細書において、上記微量単量体単位等の「単量体単位」は、変性PTFEの分子構造上の一部分であって、対応する単量体に由来する部分を意味する。上記微量の単量体に由来する微量単量体単位は、PTFE水性分散液を凝析、洗浄、乾燥して得られたファインパウダーについて赤外吸収スペクトル測定を行って得られた値である。
【0037】
すなわち、本発明の製造方法は、TFEに加えて、フルオロオレフィン、フッ素化(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロアルキルエチレン等を重合させるものであってもよい。
【0038】
本発明の製造方法は、パーフルオロヘキサン酸又はその塩の存在下に水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する工程を有することを特徴とする。
【0039】
パーフルオロヘキサン酸塩としては、パーフルオロヘキサン酸のアンモニウム塩、パーフルオロヘキサン酸のナトリウム塩、パーフルオロヘキサン酸のカリウム塩等が挙げられる。パーフルオロヘキサン酸及びパーフルオロヘキサン酸塩のなかでも、分散性が良好である観点からパーフルオロヘキサン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0040】
パーフルオロヘキサン酸又はその塩は、水性媒体に対して、10〜0.001質量%とすることが好ましく、5〜0.01質量%とすることがより好ましい。パーフルオロヘキサン酸又はその塩の量が多すぎると、電解質効果によって得られる樹脂コロイドの安定性がよくなく、収率を上げることができないおそれがあったり、反応中及び反応後の凝集物や反応容器への付着物が多くなるなどの系が不安定になる現象が起こるおそれがあったりする。パーフルオロヘキサン酸又はその塩の量が少なすぎると、界面活性剤による安定化効果が不足し、やはり系が不安定になる現象が起こるおそれがある。
【0041】
本発明における水性媒体は、水を含む液体であれば特に限定されず、水に加え、本発明の特徴を損なわない範囲で水溶性有機溶媒をも含むものであってもよい。上記水性媒体としては水が好ましい。
【0042】
本発明における重合は、パーフルオロヘキサン酸又はその塩の存在下で行うこと以外は、従来公知の方法で行うことができる。パーフルオロヘキサン酸又はその塩は、重合開始前に水性媒体中に予め添加すれば、重合反応の間に追加しなくてもよい。
【0043】
テトラフルオロエチレンの重合は、例えば、上記パーフルオロカルボン酸又はその塩と、重合開始剤やその添加剤とを含有させた水性媒体中で、TFE、及び、必要に応じて添加する微量の単量体を重合させることにより行うことができる。
【0044】
上記重合開始剤は、重合においてラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸パーオキサイド、ビスグルタル酸パーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド等の水溶性有機過酸化物、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤が挙げられる。上記重合開始剤は、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、シュウ酸、塩化第一鉄、などの還元剤と組み合わせてレドックスとしたものであってもよい。
【0045】
上記添加剤は、従来より重合に使用されているものであれば特に限定されないが、例えばラジカル捕捉剤、安定化剤が挙げられる。
上記ラジカル捕捉剤としては、例えば、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類やキノン化合物が挙げられるが、ハイドロキノンが好ましい。上記ラジカル捕捉剤は、重合反応途中で加えることが好ましい。
【0046】
上記安定化剤としては、例えば、パラフィンワックスが挙げられる。上記パラフィンワックスとしては、炭素数16以上の飽和炭化水素であって、融点が50〜70℃のものが挙げられる。
【0047】
上記重合において、上記TFE等の単量体、重合開始剤や添加剤の各添加量は、使用する重合開始剤や添加剤の種類、重合スケール等に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。
【0048】
上記重合は、使用する重合開始剤や添加剤の種類、重合スケール等に応じて、重合温度、重合圧力等の反応条件を適宜設定することができる。
上記重合温度は、一般に30〜120℃であり、好ましくは50〜100℃である。
上記重合圧力は、一般に0.1〜5MPaであり、好ましくは0.5〜3MPaである。
【0049】
上記重合は、重合反応中にラジカル分解速度を上げる操作を行うことが好ましい。重合の途中でラジカル分解速度を上げてラジカルを消費させ、重合後半のラジカル濃度を下げることにより、高分子量のPTFE粒子を得ることができる。
このような操作としては、例えば、(1)反応系中に還元剤を添加する、(2)重合温度を重合開始時の温度より5℃以上高くする、等の操作が挙げられる。上記(1)の操作における還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法において、パーフルオロヘキサン酸又はその塩に加えて、更に、800g/mol以上の分子量を有するフルオロポリエーテル酸又はその塩(1)の存在下にTFEを重合することが好ましい。フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)を存在させることによって、粒子径が小さいPTFE粒子を得ることができ、分散安定性の高い水性分散液を得ることができる。
【0051】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、カルボン酸、スルホン酸、スルホンアミド、又は、ホスホン酸であることが好ましく、カルボン酸であることがより好ましい。フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)のなかでも、フルオロポリエーテル酸の塩が好ましく、フルオロポリエーテル酸のアンモニウム塩がより好ましく、フルオロポリエーテルカルボン酸のアンモニウム塩が更に好ましい。
【0052】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、分子の主鎖中の酸素原子が、1〜3個の炭素原子を有する飽和フルオロカーボン基により分離されているいずれかの鎖構造を有することが可能である。2種以上のタイプのフルオロカーボン基が分子中に存在し得る。
【0053】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、式(1a)〜(1d)で表される繰り返し単位を有するものであることが好ましい。
(−CFCF−CF−O−) (1a)
(−CF−CF−CF−O−) (1b)
(−CF−CF−O−)−(−CF−O−) (1c)
(−CF−CFCF−O−)−(−CF−O−) (1d)
(式(1a)〜(1d)中、m及びnは1以上の整数である。)
【0054】
これらの構造は、J.Appl.Polymer Sci.、57、797(1995年)においてKasaiにより検討されている。ここに開示されているとおり、このようなフルオロポリエーテルは、一端または両端に、カルボン酸基またはその塩を有することが可能である。同様に、このようなフルオロポリエーテルは、一端または両端に、スルホン酸またはホスホン酸基またはその塩を有し得る。加えて、両端に酸官能基を有するフルオロポリエーテルは、異なる基を各端部に有し得る。単官能性フルオロポリエーテルについて、分子の他端は通常は過フッ素化されているが、水素または塩素原子を含有していてもよい。
【0055】
一端または両端に酸基を有するフルオロポリエーテルは、少なくとも2つのエーテル酸素、好ましくは少なくとも4つのエーテル酸素、およびさらにより好ましくは少なくとも6つのエーテル酸素を有する。好ましくは、エーテル酸素を分離するフルオロカーボン基の少なくとも1つ、より好ましくはこのようなフルオロカーボン基の少なくとも2つは、2または3個の炭素原子を有する。さらにより好ましくは、エーテル酸素を分離するフルオロカーボン基の少なくとも50%が2または3個の炭素原子を有する。また、好ましくは、フルオロポリエーテルは合計で少なくとも15個の炭素原子を有し、例えば、上記の繰り返し単位構造中のnまたはn+mの好ましい最小値は、少なくとも5である。酸基を一端または両端に有する2種以上のフルオロポリエーテルを、本発明による方法において用いることが可能である。典型的には、単一種の特定のフルオロポリエーテル化合物の製造において特別な注意が払われない限り、フルオロポリエーテルは、平均分子量に対する分子量範囲内の様々な割合で複数種の化合物を含有し得る。
【0056】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、数平均分子量が800g/mol以上である。フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、水性重合媒体中への分散が困難であるおそれがあることから、数平均分子量が6000g/mol未満であることが好ましい。フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、数平均分子量が800〜3500g/molであることがより好ましく、1000〜2500g/molであることが更に好ましい。
【0057】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)の量は、水性媒体に対して5〜3000ppmであることが好ましく、5〜2000ppmであることがより好ましく、さらに好ましい下限は10ppm、さらに好ましい上限は、100ppmである。
【0058】
本発明の製造方法において、パーフルオロヘキサン酸又はその塩に加えて、更に、ノニオン界面活性剤(2)の存在下にTFEを重合することが好ましい。ノニオン界面活性剤(2)を存在させることによって、粒子径が小さいPTFE粒子を得ることができ、分散安定性の高い水性分散液を得ることができる。
【0059】
ノニオン界面活性剤(2)としては、フッ素を含有しないノニオン界面活性剤であることが好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤;エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体等のポリオキシエチレン誘導体;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル型ノニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等のアミン系ノニオン界面活性剤;等が挙げられる。
【0060】
ノニオン界面活性剤(2)において、その疎水基は、アルキルフェノール基、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基の何れであってもよい。
【0061】
ノニオン界面活性剤(2)としては、例えば、下記一般式(i)
−O−A−H (i)
(式中、Rは、炭素数8〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状の1級又は2級アルキル基であり、Aは、ポリオキシアルキレン鎖である。)により表される化合物が挙げられる。上記ポリオキシアルキレン鎖としては、オキシエチレンとオキシプロピレンとからなるものであってもよい。
【0062】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの市販品としては、例えば、Genapol X080(製品名、クラリアント社製)、タージトール9−S−15(製品名、クラリアント社製)、ノイゲンTDS−80(製品名、第一工業製薬社製)、レオコールTD90(製品名、ライオン社製)、プロノン104(製品名、日油社製)等が挙げられる。
【0063】
ノニオン界面活性剤(2)としては、また、下記一般式(ii)
−C−O−A−H (ii)
(式中、Rは、炭素数4〜12の直鎖状又は分岐鎖状の1級若しくは2級のアルキル基であり、Aは、ポリオキシアルキレン鎖である。)が挙げられる。
【0064】
上記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系ノニオン化合物としては、例えば、トライトンX−100(商品名、Dow Chemical社製)等が挙げられる。
【0065】
ノニオン界面活性剤(2)の量は、水性媒体に対して0.1〜0.0000001質量%であることが好ましく、0.01〜0.000001質量%であることがより好ましい。ノニオン界面活性剤(2)の量が多すぎると連鎖移動による重合速度の低下、反応の停止などが起こり実用的でない。ノニオン界面活性剤(2)が少なすぎると、粒子径が小さなPTFE粒子を得ることが困難になるおそれがある。また、分散安定性の高いPTFE水性分散液を得ることが困難になるおそれがある。
【0066】
本発明の製造方法において、パーフルオロヘキサン酸又はその塩に加えて、更に、テトラフルオロエチレンの重合の開始時にモノマー反応性比が0.1〜8であるコモノマー(3)の存在下にTFEを重合することが好ましい。コモノマー(3)を存在させることによって、粒子径が小さいPTFE粒子を得ることができ、分散安定性の高い水性分散液を得ることができる。
【0067】
ここで、TFEとの共重合におけるモノマー反応性比とは、成長ラジカルがTFEに基づく繰り返し単位未満であるときに、該成長ラジカルがTFEと反応する場合の速度定数を、該成長ラジカルがコモノマーと反応する場合の速度定数で除した値である。この値が低いほど、コモノマーがTFEと高反応性であることを表す。モノマー反応性比は、TFEとコモノマーとを共重合して開始直後の生成ポリマー中の組成を求め、ファインマン−ロスの式より算出できる。
【0068】
モノマー反応性比が0.1〜8であるコモノマー(3)としては、式(3a)〜(3d)で表されるコモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
CH=CH−Rf (3a)
(式中、Rfは炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−Rf (3b)
(式中、Rfは炭素数が1〜2のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−(CFCF=CF (3c)
(式中、nは1又は2である。)
【0069】
【化5】

(式中、X及びXはF、Cl又はメトキシ基であり、Yは式Y1又はY2である。)
【0070】
【化6】

(式Y2中、Z及びZ’はF又は炭素数1〜3のフッ素化アルキル基である。)
【0071】
コモノマー(3)の量は、最終的なPTFEの生成量に対して0.001〜0.01質量%となるような量であることが好ましく、0.002〜0.01質量%となるような量であることがより好ましい。コモノマー(3)の量が多すぎると連鎖移動による重合速度の低下、反応の停止などが起こり実用的でない。コモノマー(3)が少なすぎると、粒子径が小さなPTFE粒子を得ることが困難になるおそれがある。また、分散安定性の高いPTFE水性分散液を得ることが困難になるおそれがある。
【0072】
本発明の製造方法において、パーフルオロヘキサン酸又はその塩に加えて、更に、反応性乳化剤(4)の存在下にTFEを重合することが好ましい。反応性乳化剤(4)を存在させることによって、粒子径が小さいPTFE粒子を得ることができ、分散安定性の高い水性分散液を得ることができる。
【0073】
上記反応性乳化剤(4)の量は、水性媒体の0.1ppmに相当する量を超える量であることが好ましく、5ppm以上であることがより好ましく、10ppm以上であることが更に好ましい。上記反応性乳化剤(4)が少なすぎると、得られるPTFEの粒子径が大きくなるおそれがある。上記反応性乳化剤(4)は、上記範囲であればよいが、例えば、上限を5000ppmとすることができる。また、上記製造方法では、反応中または反応後の水性分散液の安定性を向上させるために、反応途中で反応性乳化剤(4)を系中に追加してもよい。
【0074】
上記反応性乳化剤(4)は水溶性が高いので、未反応の反応性乳化剤(4)が水性分散液中に残存したとしても、濃縮工程、あるいは凝析・洗浄工程での除去は、後述する含フッ素化合物と同様に容易である。
【0075】
上記反応性乳化剤(4)は、重合の過程で生成ポリマー中に取り込まれるが、重合系中の反応性乳化剤(4)の濃度そのものが低く、ポリマーに取り込まれる量が少ないため、PTFEの耐熱性が低下したり焼成後に着色したりする問題はない。
【0076】
上記反応性乳化剤(4)は、ラジカル重合で反応可能な官能基と親水基とを有するものである。
【0077】
上記反応性乳化剤(4)における親水基としては、例えば、−NH、−POM、−OPOM、−SOM、−OSOM、−COOM(各式において、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)が挙げられる。上記親水基としては、なかでも、−SOM及び−COOMが好ましい。上記アルカリ金属としては、Na、K等が挙げられる。
【0078】
上記反応性乳化剤(4)における「ラジカル重合で反応可能な官能基」としては、例えば、ビニル基、アリル基等の不飽和結合を有する基が挙げられる。
【0079】
上記反応性乳化剤(4)は、ラジカル重合で反応可能な官能基を有するので、上記重合において使用すると、重合反応初期に含フッ素モノマーと反応し、上記反応性乳化剤(4)に由来する親水基を有し安定性が高い粒子が形成されると推測される。このため、上記反応性乳化剤(4)の存在下に重合を行うと、乳化粒子数が多くなると考えられる。
【0080】
上記重合は、上記反応性乳化剤(4)を1種存在させるものであってもよいし、2種以上存在させるものであってもよい。
【0081】
上記重合において、上記反応性乳化剤(4)として、不飽和結合を有する化合物を使用することができる。
【0082】
反応性乳化剤(4)は、下記式(4a)〜(4e)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
CF=CF−(CFn1−Y (4a)
(式中、n1は、1〜10の整数を表し、Yは、−SO又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)
CF=CF−(CFC(CF)F)n2−Y (4b)
(式中、n2は、1〜5の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFXn3−Y (4c)
(式中、Xは、F又はCFを表し、n3は、1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFCFXO)n4−CFCF−Y (4d)
(式中、n4は、1〜10の整数を表し、Y及びXは、前記定義と同じ。)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)n5−CF(CF)−Y (4e)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。n5は、0又は1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
上記アルカリ金属としては、Na、K等が挙げられる。
【0083】
上記式(4a)において、上記n1は、5以下の整数であることが好ましく、2以下の整数であることがより好ましい。上記Yは、適度な水溶性及び界面活性を得られる点で、−COOMであることが好ましく、Mは、不純物として残留しにくく、得られる成形体の耐熱性が向上する点で、H又はNHであることが好ましい。
【0084】
上記式(4a)で表されるパーフルオロビニルアルキル化合物としては、例えば、CF=CFCFCOOM(式中、Mは上記定義と同じ。)が挙げられる。
【0085】
上記式(4b)において、上記n2は、乳化能の点で、3以下の整数であることが好ましく、Yは、適度な水溶性及び界面活性が得られる点で、−COOMであることが好ましく、Mは、不純物として残留しにくく、得られる成形体の耐熱性が向上する点で、H又はNHであることが好ましい。
【0086】
上記式(4c)において、上記n3は、水溶性の点で5以下の整数であることが好ましく、上記Yは、適度な水溶性及び界面活性が得られる点で、−COOMであることが好ましく、上記Mは、分散安定性がよくなる点で、H又はNHであることが好ましい。
【0087】
上記式(4d)において、上記Xは、界面活性能の点で、−CFであることが好ましく、上記n4は、水溶性の点で5以下の整数であることが好ましく、上記Yは、適度な水溶性と界面活性が得られる点で−COOMであることが好ましく、上記Mは、H又はNHであることが好ましい。
【0088】
上記式(4d)で表されるパーフルオロビニルエーテル化合物としては、例えば、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCOOM(式中、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)が挙げられる。
【0089】
上記式(4e)において、上記n5は乳化能の点で0又は1〜5の整数であることが好ましく、0、1又は2であることがより好ましく、0又は1であることが更に好ましい。上記Yは、適度な水溶性と界面活性が得られる点で−COOMであることが好ましく、上記Mは、不純物として残留しにくく、得られた成形体の耐熱性が向上する点で、H又はNHであることが好ましい。
【0090】
上記式(4e)で表されるパーフルオロビニルアルキル化合物としては、例えば、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOM(式中、Mは上記定義と同じ。)が挙げられる。
【0091】
本発明の製造方法により、PTFEの粒子の含有量が5〜60質量%である水性分散液を得ることができる。上記水性分散液は、重合の後に後処理を行うことによりPTFE粒子の含有量を適宜調整することもできる。上記後処理は、希釈、精製等の従来公知の方法で行うことができる。
【0092】
本明細書において、PTFE粒子の含有量は、水性分散液1gを送風乾燥機中で150℃、30分の条件で乾燥し、該水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表したものである。
【0093】
上記PTFE粒子は、平均一次粒子径が50〜500nm、好ましくは100〜400nmであるものである。上記平均一次粒子径は、より好ましい下限が150nmであり、より好ましい上限が350nmである。上記PTFE粒子は、平均一次粒子径が上記範囲内にあるものなので、ペースト押出圧力が低く、加工性に優れたファインパウダーとすることができる。
【0094】
上記平均一次粒子径は、固形分濃度0.22質量%に調整したPTFE水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から間接的に決定した値である。
【0095】
上記PTFE粒子は、標準比重〔SSG〕が2.12〜2.30であるものである。上記SSGは、好ましい下限が2.13であり、好ましい上限が2.25である。上記PTFE粒子は、SSGが上記範囲内にあるものなので、破断強度が高い成形体に加工することができる。さらに、延伸性に優れた多孔膜を得ることができ、応力緩和時間で表される耐熱性にも優れた特性を示す。
【0096】
上記SSGは、ASTM D 4895−89に従い測定したものである。
【0097】
上記PTFE粒子は、上述のように平均一次粒子径が大きいので、押出圧力が低いファインパウダーに加工することができる。更に、上記ファインパウダーから得られる成形体は、上記PTFE粒子のSSGが低いゆえ破断強度が高い。
【0098】
本発明の製造方法により得られたPTFE水性分散液を、ノニオン界面活性剤の存在下に陰イオン交換樹脂と接触させる工程(I)と、工程(I)で得られた水性分散液を、水性分散液中の固形分濃度が水性分散液100質量%に対して30〜70質量%となるように濃縮する工程(II)とを含む製造方法により、含フッ素界面活性剤を含まず、固形分濃度が高いPTFE水性分散液を製造することもできる。
【0099】
上記陰イオン交換樹脂と接触させる工程は、従来公知の方法で行うことができる。また、上記濃縮方法としては、上述のものが挙げられる。
本発明の製造方法は、上記工程(I)の後、PTFEの水性分散液と陰イオン交換樹脂とを分離してPTFEの水性分散液を回収する工程を含むことが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法により得られたPTFE水性分散液を凝析する工程、得られたPTFE凝析粒子の洗浄を行う工程、及び、乾燥を行う工程を含む製造方法により、PTFEファインパウダーを製造することもできる。
【0101】
上記PTFE水性分散液の凝析は従来公知の方法で行うことができ、例えば、PTFE水性分散液を水で適宜希釈した後、強く攪拌することにより行うことができる。上記凝析における攪拌は、予め炭酸アンモニウム等の電解質や水溶性有機溶剤を上記PTFE水性分散液に加えて行ってもよい。
【0102】
上記PTFE凝析粒子の洗浄は、水を用いて行うことができ、好ましくは、上述のパーフルオロカルボン酸又はその塩の0.1%水溶液のpKaに相当するpH以上のpH下で行うことが好ましい。本発明におけるpKaに相当するpHとは、パーフルオロカルボン酸又はその塩の0.1%水溶液の50%中和点のpHである。上記洗浄は、pH3以上で行うことがより好ましく、pH5以上であることが更に好ましい。
上記洗浄は、上記範囲内のpHで行うと、重合に使用したパーフルオロカルボン酸又はその塩をPTFE凝析粒子から効率良く除去することができる。
【0103】
上記PTFE凝析粒子の乾燥は、一般に、上述のパーフルオロカルボン酸又はその塩の昇華点以上の温度、好ましくは30℃〜PTFEの融点、より好ましくは100〜300℃、さらに好ましくは100〜250℃の温度で行うことができる。
【0104】
上記PTFEファインパウダーは、上述のPTFE粒子から構成されるものなので、押出圧力が低いことに加え、破断強度が高い成形体に加工することができる。
【0105】
上記PTFEファインパウダーは、平均粒子径を100〜1000μmとすることができる。好ましくは、300〜800μm、より好ましくは、400〜700μmである。上記平均粒子径は、JIS K6891に準拠して測定したものである。
【0106】
上記PTFEファインパウダーは、見掛け密度を0.35〜0.65g/mlとすることができる。好ましくは、0.40〜0.55g/ml、より好ましくは、0.45〜0.52g/mlである。上記見掛け密度は、JIS K6892に準拠して測定したものである。
【0107】
上記PTFEファインパウダーは、チューブ、電線被覆、シール部材、パッキン、摺動部材等の各種成形材料や添加剤として好適に使用することができる。
【0108】
上記PTFEファインパウダーの成形方法としては、例えば、ペースト押出成形が挙げられる。
上記ペースト押出成形は、従来公知の方法で行うことができ、所望の形状やサイズに応じて成形条件を選択することができる。上記ペースト押出成形は、上記PTFEファインパウダーに顔料や充填剤等の従来公知の添加剤を加えて行うことができる。
上記ペースト押出成形により、チューブ状、シート状、フィルム状等の種々の形状の成形体を得ることができる。
【0109】
上記PTFEファインパウダーは、ペースト押出成形後、更に延伸を行うことによりPTFE多孔体とすることもできる。
上記延伸の条件や延伸倍率は、ペースト押出後の成形品の形状やサイズに応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0110】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0111】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0112】
パーフルオロカルボン酸又はその塩の濃度
重合に使用した脱イオン水に対する濃度である。
【0113】
ポリマー濃度
水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、30分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した。
【0114】
ポリマー凝集量
重合反応終了後に、予めパラフィンワックスを除去した水性分散液を200メッシュのSUS網でろ過した後、SUS上に残った水性分散液凝集物、反応槽に残ったポリマー凝集物、及び、攪拌翼やバッフルに付着したポリマー凝集物を回収し、送風乾燥機中で150℃、1時間乾燥した後、重量を測定し、ポリマー凝集量とした。乳化剤の粒子安定化効果が高ければ、ポリマー濃度が高い領域でもポリマー凝集量が少なくなる。
【0115】
平均一次粒子径
固形分濃度を約0.02質量%に希釈し、単位長さに対する550nmの投射光の透過率と電子顕微鏡写真により決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から間接的に求めた。
【0116】
標準比重〔SSG〕
ASTM D 4895−89に従い測定した。
【0117】
実施例1
(1)水性分散液の調製
内容積1Lの攪拌翼を備えたガラス製耐圧容器に、脱イオン水530mL、パラフィンワックス(融点60℃)を30g、及び、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩(APFH)0.825gを仕込み、窒素圧入、脱圧を3回繰り返し、耐圧容器内の酸素を除去した後、更にテトラフルオロエチレン〔TFE〕モノマーで容器内を置換した。
【0118】
次に70℃において、内圧が0.8MPaになるようにTFEモノマーを圧入し、更に0.05質量%の過硫酸アンモニウム〔APS〕水溶液20gを仕込み、反応を開始した。反応の進行に伴い、系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.8MPaに維持した。
【0119】
TFEモノマーを101g供給した時点で攪拌を停止し、モノマーを脱圧しTFE単独重合体水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は14.5%、ポリマー凝集量は8g、平均一次粒子径は270nmであった。
【0120】
(2)PTFEファインパウダーの調製
得られた水性分散液をポリマー濃度が10%となるように、脱イオン水で希釈した後、20℃で攪拌することにより凝析を行った。得られた凝析粒子を回収し、10倍量の水で2回洗浄を行い、更に160℃で16時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。
得られたPTFEファインパウダーのSSGは、2.21であった。
【0121】
(3)PTFEディスパージョンの調整
得られた水性分散液100gに対して、界面活性剤(第一工業製薬社製ノイゲンTDS−80)を1.4g添加し均一に混合した後、陰イオン交換樹脂(製品名:アンバーライトIRA900J、ローム・アンド・ハース社製)を充填したカラムを通過させた。得られた水性分散液を60℃に保持し、相分離によって得られた濃縮ポリマー相を回収した。この濃縮ポリマー相は、ポリマー濃度が70%であった。さらに水と界面活性剤を添加して、ポリマー濃度60%、界面活性剤量6%とし、アンモニア水でpHを9.8に調整した。得られた水性分散液の粘度は、24cpsであった。
【0122】
実施例2
実施例1のAPFHを2.475gに変更したこと、TFEモノマーを95g供給した時点で攪拌を停止ししたこと以外は、実施例1と同様にして、水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は14.3%、ポリマー凝集量は3g、平均一次粒子径は258nmであった。実施例1と同様に得られたファインパウダーのSSGは、2.21であった。
【0123】
実施例3
(1)水性分散液の調製
内容積1Lの攪拌翼を備えたガラス製耐圧容器に、脱イオン水545mL、パラフィンワックス(融点60℃)を30g、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩2.475g、米国特許第6429258号明細書に記載されているKrytox157を5.5mgを仕込み、窒素圧入、脱圧を3回繰り返し、耐圧容器内の酸素を除去した後、更にテトラフルオロエチレン〔TFE〕モノマーで容器内を置換した。
【0124】
次に70℃において、内圧が0.8MPaになるようにTFEモノマーを圧入し、更に0.05質量%の過硫酸アンモニウム〔APS〕水溶液5gを仕込み、反応を開始した。反応の進行に伴い、系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.8MPaに維持した。TFEモノマーを90g供給した時点で、ハイドロキノン2mgを仕込み、反応を継続した。
【0125】
15.5時間後にTFEモノマーを217g供給した時点で攪拌を停止し、モノマーを脱圧しTFE単独重合体水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は28.1%、ポリマー凝集量は1.8g、平均一次粒子径は337nmであった。
【0126】
(2)PTFEファインパウダーの調製
得られた各水性分散液をポリマー濃度が10%となるように、脱イオン水で希釈した後、20℃で攪拌することにより凝析を行った。得られた凝析粒子を回収し、10倍量の水で2回洗浄を行い、更に160℃で16時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。
得られたPTFEファインパウダーのSSGは、2.158であった。
【0127】
(3)押出成形
室温で2時間以上放置したPTFE100gと、押出助剤である炭化水素油(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)21.7gとを、容量900ccのガラス瓶に入れ、3分間混合し、2時間、25℃の恒温槽に放置した後、リダクションレシオ(RR)100、押出速度51cm/分、25℃の条件で、オリフィス(直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30゜)を通して、ペースト押出を行い、ビード(押出成形体)を得る。このペースト押出において、押出負荷が平衡状態になったときの負荷について、使用したシリンダーの面積で除した値を押出圧力とした。
押出圧力は、18.3MPaであった。
【0128】
(4)破断強度測定
上記RR100におけるペースト押出圧力の測定により作成したビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔51mmとなるよう各末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱し、次いでクランプを総延伸率24倍となるまで延伸速度100%/秒で延伸した。延伸体a1は断裂やボイドの無い均一なものであった。延伸体a1について、引張試験機(商品名:AGS−500D、島津製作所社製)を用いて、室温で300mm/分の速度で引っ張った際における破断時の強度として測定した。この結果は、29.5Nであった。
【0129】
(5)応力緩和時間測定
上記RR100におけるペースト押出圧力の測定により作成したビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間が38mmとなるよう各末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱し、次いでクランプを総延伸2400%となるまで延伸速度1000%/秒で延伸することにより、延伸体a2を作成した。延伸体a2は断裂やボイドの無い均一なものであった。更に、延伸体a2(全長25cm)をぴんと引っ張った状態で固定具に固定し、390℃の温度下のオーブン中に放置した時から破断するまでに要する時間を、応力緩和時間として求めた。固定具における延伸体a2は、オーブンの側部にある(覆われた)スロットを通してオーブンに挿入されるので、延伸体a2をオーブンに配置する間に温度は下降することがなく、それゆえに米国特許第4,576,869号に開示されたように回復にしばしの時間を必要としない。
応力緩和時間は565秒であった。
【0130】
実施例4
(1)水性分散液の調製
内容積1Lの攪拌翼を備えたガラス製耐圧容器に、脱イオン水545mL、パラフィンワックス(融点60℃)を30g、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩2.475g、プロノン104(日油社製の非イオン性界面活性剤)を1mg仕込み、窒素圧入、脱圧を3回繰り返し、耐圧容器内の酸素を除去した後、更にテトラフルオロエチレン〔TFE〕モノマーで容器内を置換した。
【0131】
次に70℃において、内圧が0.8MPaになるようにTFEモノマーを圧入し、更に0.05質量%の過硫酸アンモニウム〔APS〕水溶液5gを仕込み、反応を開始した。反応の進行に伴い、系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.8MPaに維持した。TFEモノマーを90g供給した時点で、ハイドロキノン2mgを仕込み、反応を継続した。
【0132】
11.2時間後にTFEモノマーを217g供給した時点で攪拌を停止し、モノマーを脱圧しTFE単独重合体水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は28.0%、ポリマー凝集量は2.9g、平均一次粒子径は306nmであった。
【0133】
(2)PTFEファインパウダーの調製
得られた各水性分散液をポリマー濃度が10%となるように、脱イオン水で希釈した後、20℃で攪拌することにより凝析を行った。得られた凝析粒子を回収し、10倍量の水で2回洗浄を行い、更に160℃で16時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。
得られたPTFEファインパウダーのSSGは、2.165であった。
【0134】
(3)押出成形
実施例3と同様に押出成形を行った。押出圧力は、15.4MPaであった。
【0135】
(4)破断強度測定
実施例3と同様に破断強度測定を行った。この結果は、22.6Nであった。
【0136】
(5)応力緩和時間測定
実施例3と同様に応力緩和時間測定を行った。
応力緩和時間は315秒であった。
【0137】
実施例5
(1)水性分散液の調製
ステンレス鋼(SUS316)製アンカー型攪拌翼と温度調節用ジャケットを備え、内容量が6リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、脱イオン水3560mL、パラフィンワックス(融点60℃)を104g、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩〔APFH〕16.11g、米国特許第6429258号明細書に記載されているKrytox157を161mg仕込み、70℃に加温しながら窒素ガスで3回、TFEガスで2回、系内を置換して酸素を除いた。その後、TFEガスで内圧を0.70MPaにし、280rpmで攪拌し、内温を70℃に保った。
重合槽内の温度が安定した後、脱イオン水20gに過硫酸アンモニウム〔APS〕13mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、オートクレーブ内圧を0.78MPaにした。反応は加速的に進行したが、反応温度は70℃、攪拌は280rpmを保った。また、オートクレーブ内圧を常に0.78MPaに保つようにTFEを連続的に供給した。
TFEモノマーを540g供給した時点で、更に脱イオン水20gにハイドロキノン13mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、更に反応を継続した。
TFEを1350g供給した時点で攪拌を停止し、モノマーを脱圧しTFE水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は27.2%、ポリマー凝集量は10g、平均一次粒子径は292nmであった。
【0138】
(2)PTFEファインパウダーの調製
得られた各水性分散液をポリマー濃度が13%となるように、脱イオン水で希釈した後、20℃で攪拌することにより凝析を行った。得られた凝析粒子を回収し、10倍量の水で2回洗浄を行い、更に210℃で16時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。得られたPTFEファインパウダーのSSGは、2.157であった。
実施例3と同様に押出成形を行った。押出圧力は18.8MPaであった。
実施例3と同様に破断強度測定を行った。破断強度は29.6Nであった。
実施例3と同様に応力緩和時間測定を行った。応力緩和時間は676秒であった。
【0139】
実施例6
Krytox157を仕込まず、代わりにコモノマーとしてパーフルオロブチルエチレン(CH=CH−C)を0.08g(最終的なPTFEの生成量に対して、0.006質量%)系中に仕込んだ他は、実施例5と同様にして、水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は27.3%、ポリマー凝集量は2g、平均一次粒子径は251nmであった。実施例1と同様にして得られたファインパウダーのSSGは2.144であった。
実施例3と同様に押出成形を行った。押出圧力は18.8MPaであった。
実施例3と同様に破断強度測定を行った。破断強度は32.3Nであった。
実施例3と同様に応力緩和時間測定を行った。応力緩和時間は515秒であった。
【0140】
実施例7
Krytox157を仕込まず、代わりにコモノマーとしてパーフルオロメチルビニルエーテル(CF=CF−O−CF)を0.12g(最終的なPTFEの生成量に対して、0.009質量%)系中に仕込み、得られた凝析粒子の乾燥温度を160℃に変更する他は、実施例5と同様にして、水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は27.3%、ポリマー凝集量は2g、平均一次粒子径は273nmであった。実施例1と同様にして得られたファインパウダーのSSGは2.151であった。
実施例3と同様に押出成形を行った。押出圧力は16.2MPaであった。
実施例3と同様に破断強度測定を行った。破断強度は30.8Nであった。
実施例3と同様に応力緩和時間測定を行った。応力緩和時間は505秒であった。
【0141】
実施例8
反応性乳化剤としてCH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH(反応性乳化剤A)の50%水溶液11mgをAPFHとともに系中に仕込んだ他は、実施例2と同様にして、水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は14.6%、ポリマー凝集量は0.9g、平均一次粒子径は209nmであった。実施例1と同様にして得られたファインパウダーのSSGは、2.21であった。
【0142】
実施例9
Krytox157を仕込まず、代わりに反応性乳化剤Aの50%水溶液72mgをAPFHとともに系中に仕込んだ他は、実施例5と同様にして、水性分散液を得た。得られた水性分散液のポリマー濃度は27.3%、ポリマー凝集量は2g、平均一次粒子径は285nmであった。実施例1と同様に得られたファインパウダーのSSGは2.157であった。
実施例3と同様に押出成形を行った。押出圧力は18.1MPaであった。
実施例3と同様に破断強度測定を行った。破断強度は32.1Nであった。
実施例3と同様に応力緩和時間測定を行った。応力緩和時間は560秒であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液を製造するための製造方法であって、
パーフルオロヘキサン酸又はその塩の存在下に水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
更に、800g/mol以上の分子量を有するフルオロポリエーテル酸又はその塩(1)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
フルオロポリエーテル酸又はその塩(1)は、式(1a)〜(1d)で表される繰り返し構造からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し構造を有する請求項2記載の製造方法。
(−CFCF−CF−O−) (1a)
(−CF−CF−CF−O−) (1b)
(−CF−CF−O−)−(−CF−O−) (1c)
(−CF−CFCF−O−)−(−CF−O−) (1d)
(式(1a)〜(1d)中、m及びnは1以上の整数である。)
【請求項4】
更に、ノニオン界面活性剤(2)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合する請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
更に、モノマー反応性比が0.1〜8であるコモノマー(3)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合する請求項1、2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
コモノマー(3)は、式(3a)〜(3d)で表されるコモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である請求項5記載の製造方法。
CH=CH−Rf (3a)
(式中、Rfは炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−Rf (3b)
(式中、Rfは炭素数が1〜2のパーフルオロアルキル基である。)
CF=CF−O−(CFCF=CF (3c)
(式中、nは1又は2である。)
【化1】

(式中、X及びXはF、Cl又はメトキシ基であり、Yは式Y1又はY2である。)
【化2】

(式Y2中、Z及びZ’はF又は炭素数1〜3のフッ素化アルキル基である。)
【請求項7】
更に、反応性乳化剤(4)の存在下にテトラフルオロエチレンを重合する請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
反応性乳化剤(4)は、下記式(4a)〜(4e)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7記載の製造方法。
CF=CF−(CFn1−Y (4a)
(式中、n1は、1〜10の整数を表し、Yは、−SO又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)
CF=CF−(CFC(CF)F)n2−Y (4b)
(式中、n2は、1〜5の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFXn3−Y (4c)
(式中、Xは、F又はCFを表し、n3は、1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)
CF=CF−O−(CFCFXO)n4−CFCF−Y (4d)
(式中、n4は、1〜10の整数を表し、Y及びXは、前記定義と同じ。)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)n5−CF(CF)−Y (4e)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。n5は、0又は1〜10の整数を表し、Yは、前記定義と同じ。)


【公開番号】特開2013−60590(P2013−60590A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187012(P2012−187012)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】