説明

ポリヌクレオチド試料の分析において感度を向上させる方法

【課題】ポリヌクレオチド試料の分析において、高感度な検出を可能にする手段を提供する。
【解決手段】ポリヌクレオチド試料の分析方法であって、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに、融解温度調節剤が添加された被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含む、前記分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進するための方法および試薬、該方法および試薬を用いたポリヌクレオチド試料の分析方法、ならびにそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な生物の遺伝子構造を明らかにするのみならず、その遺伝子機能をゲノムスケールで解明しようとする試みが行われつつあり、遺伝子機能を効率的に解析するための技術開発も急速に進んでいる。DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)は、スライドガラス等の基板に多数のDNA分子を所定の領域毎に整列固定させた高密度のアレイであり、核酸の塩基配列の決定、並びに遺伝子の発現、変異、多型性などの同時解析に非常に有用である。このDNAマイクロアレイを用いた遺伝子情報の解析は、創薬研究、疾病の診断や予防法の開発などに極めて有用であるため、DNAマイクロアレイの作製技術および得られたデータの解析システムのより一層の開発が望まれている。
【0003】
DNAマイクロアレイを用いた検出に際しては、まず担体表面に高密度に整列したDNA断片などのプローブポリヌクレオチドに対して、放射性同位体や蛍光色素で標識したポリヌクレオチド試料をハイブリダイズさせる。このとき、ターゲットポリヌクレオチド試料中の、プローブポリヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつ分子は、プローブポリヌクレオチドと相補的にハイブリダイズする。次いで、このハイブリダイズしているターゲットポリヌクレオチド分子上の標識に由来するシグナルを測定し、ハイブリダイズされたプローブポリヌクレオチドを同定する。具体的には、RIや蛍光イメージスキャナーでマイクロアレイ上の放射線強度または蛍光強度を測定し、そして得られた画像データを解析処理する。従って、DNAマイクロアレイによれば、数千〜数万個の分子を同時にハイブリダイズさせて検出することができ、微量の試料で短時間のうちに大量の遺伝子情報を得ることができる。
【0004】
上記のようなDNAマイクロアレイを用いた分析においては、検出対象であるターゲットポリヌクレオチドが微量であるため、高感度な検出が求められる。そのため、プローブポリヌクレオチドを高密度かつ強固に固定化するための基板などが報告されている。例えば、固体支持体表面に、ポリヌクレオチドと共有結合を形成する活性エステル基等の反応活性基を導入して、プローブポリヌクレオチドを共有結合を介して固定化させる方法(特許文献1〜3参照)などが報告されている。
【0005】
【特許文献1】WO 00/22108
【特許文献2】WO 01/75447
【特許文献3】WO 02/12891
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含むポリヌクレオチド試料の分析において、高感度な検出を可能にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を行った結果、被検ポリヌクレオチド試料に融解温度調節剤を添加することにより、プローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション効率を向上でき、高感度な検出が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ポリヌクレオチド試料の分析方法であって、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに、融解温度調節剤が添加された被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含む、前記分析方法。
(2)融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(1)記載の方法。
(3)融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む(2)記載の方法。
(4)担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含むポリヌクレオチド試料の分析方法において、被検ポリヌクレオチド試料に融解温度調節剤を添加することによりプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進する方法。
(5)融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(4)記載の方法。
(6)融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、(5)記載の方法。
(7)トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種からなる融解温度調節剤を含む、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進するための試薬。
(8)融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、(7)記載の試薬。
(9)担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することによりポリヌクレオチド試料を分析するためのキットであって、融解温度調節剤を含む被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬を含む、前記キット。
(10)融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(9)記載のキット。
(11)融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、(10)記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ポリヌクレオチド試料の高感度な分析が可能になり、微量のポリヌクレオチド試料でも効率的に分析することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一実施形態において本発明は、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含むポリヌクレオチド試料の分析方法において、被検ポリヌクレオチド試料に融解温度調節剤を添加することによりプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進する方法に関する。
【0011】
別の実施形態において本発明は、ポリヌクレオチド試料の分析方法であって、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに、融解温度調節剤が添加された被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含む、前記分析方法に関する。
【0012】
融解温度は、加熱されたポリヌクレオチド二本鎖間の水素結合がきれて一本鎖の状態に変化するときの温度をさし、Tで表される。通常、DNAを中性の薄い塩溶液中で加熱して紫外部の吸光度を測定し、その上昇の中点をとって融解温度とする。融解温度はポリヌクレオチドの種類によってきまっており、ヌクレオチド鎖が長いほど、またGC含量が高いほど高くなる。本明細書においてポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドも包含され、DNAおよびRNAを含む核酸、ならびに核酸誘導体も包含される。DNAには、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAが包含される。核酸誘導体の例としては、リン酸ジエステル部位を修飾した人工核酸;フラノース部位のグリコシル結合やヒドロキシル基を修飾した人工核酸;核酸塩基部位を修飾した人工核酸;および糖・リン酸骨格以外の構造を利用した人工核酸などが挙げられ、より具体的には、リン酸部位の酸素原子を硫黄原子で置換したホスホロチオエート型、ホスホロジチオエート型、ホスホロジアミデート型、メチルホスホネート型またはメチルホスホノチオエート型の人工核酸;フラノース環上の置換基修飾型、糖環骨格が1炭素増炭したピラノース型、または多環式糖骨格型の人工核酸;ピリミジンC−5位修飾塩基型、プリンC−7位修飾塩基型、または環拡張修飾塩基型の人工核酸などが挙げられる。ならびにそれらに標識が付加されたもの、また、担体に固定化するために反応性の官能基が付加されたものも包含される。
【0013】
本明細書においてプローブポリヌクレオチドは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、目的遺伝子を検出するために用いられるポリヌクレオチドであって、目的遺伝子に対応するポリヌクレオチドまたはその断片と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドをさす。プローブポリヌクレオチドとしては、通常、合成オリゴヌクレオチド、cDNAおよびゲノムDNA、それらの断片、ならびにそれらを変性させたもの(例えば、一本鎖を二本鎖に変性させたもの)等が用いられる。プローブポリヌクレオチドは、通常20〜5000塩基長、好ましくは20〜1500塩基長を有する。例えば、オリゴアレイの場合、20〜80塩基長であり、cDNAアレイの場合、500〜1500塩基長である。
【0014】
本明細書においてターゲットポリヌクレオチドは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、検出対象であるポリヌクレオチドをさす。ターゲットは標的と称される場合もある。通常、プローブにハイブリダイズさせる被検試料由来のポリヌクレオチドおよびそれを基にして酵素的に合成されたポリヌクレオチド、具体的には、mRNA、cDNA、aRNA、それらの断片、ならびにそれらを変性させたもの等が用いられる。
【0015】
ハイブリダイズまたはハイブリダイゼーションは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、相補的な配列を持つポリヌクレオチド同士、例えば、一本鎖のDNA同士、一本鎖のRNA同士、または一本鎖のDNAと一本鎖のRNAが適切な条件下で二本鎖を形成することをいう。
【0016】
融解温度調節剤は、核酸増幅反応において、上記融解温度を調節する、好ましくは融解温度を下げるために用いられる試薬をさす。本発明において融解温度調節剤は、融解温度を下げる作用を有するものであれば特に制限されないが、好ましくは、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む。トリアルキルアミノ酸は、ベタイン(Betaine)とも称され、アミノ酸のN‐トリアルキル置換体をさし、一種の第4級化合物である。すなわち、アミノ酸のアミノ基がアルキル基(好ましくは、炭素数1〜6の低級アルキル基)で三置換された化合物をさす。アミノ酸に過剰のアルカリの存在のもとにヨウ化アルキルか硫酸ジアルキルを作用させて得ることができ、結晶でも水溶液中でも両性イオンとして存在する。トリアルキルアミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、ヒスチジン、アスパラギン酸またはグルタミン酸のN‐トリアルキル置換体が挙げられる。融解温度調節剤は、上記化合物の一種を含むものでもよいし、複数種を含むものでもよい。本発明において融解温度調節剤は、好ましくはトリメチルグリシンおよびジメチルスルホキシドの一方または双方を含む。
【0017】
被検ポリヌクレオチド試料に添加する融解温度調節剤の量は、当業者であれば適宜設定できるが、被検ポリヌクレオチド試料中、融解温度調節剤が、通常0.1〜5Mとなるように添加する。融解温度調節剤としてトリメチルグリシンを添加する場合は、被検ポリヌクレオチド試料中、通常0.1〜2M、好ましくは1〜1.7Mとなるように添加する。融解温度調節剤としてジメチルスルホキシドを添加する場合は、被検ポリヌクレオチド試料中、通常0.1〜1.3M、好ましくは0.25〜0.64Mとなるように添加する。
【0018】
被検ポリヌクレオチド試料は、担体上に固定化されたプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズするターゲットポリヌクレオチドを含みうる試料であれば特に制限されない。例えば、血液、血清、尿、涙、細胞、器官、組織、骨、骨髄、リンパ、リンパ節、滑液組織、軟骨細胞、滑液マクロファージ、内皮細胞、皮膚、これらの抽出物および破砕物、ならびに培養細胞、胚細胞、幹細胞、動物細胞抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物および真核単細胞抽出物等の生物学的試料が挙げられる。被検ポリヌクレオチド試料には、上記の生物学的試料に由来する試料、例えば、特定の核酸が増幅された試料等も包含される。通常、被検ポリヌクレオチド試料として、含まれるポリヌクレオチドが標識されたものを用いることにより、ハイブリダイゼーションを検出する。上記生物学的試料およびこれに由来する試料を、SSC(saline-sodium citrate)などの水性媒体に溶解または分散することにより、被検ポリヌクレオチド試料(以下、ハイブリダイゼーション溶液と称する場合もある)を調製することができる。本発明は、この被検ポリヌクレオチド試料に、上記融解温度調節剤を添加することを特徴とする。融解温度調節剤を添加することにより、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズするターゲットポリヌクレオチドの量を増大させることができ、検出感度を向上させることができる。
【0019】
被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドは、分子間または分子内で高次構造をとっているため、それがハイブリダイゼーション効率を低下させる原因になっていると考えられる。被検ポリヌクレオチド試料に融解温度調節剤を添加することにより、この高次構造が破壊されハイブリダイゼーション効率が上昇したものと考えられる。
【0020】
本発明において、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定するとは、換言すれば、プローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを示すシグナル、通常、標識に基づくシグナルを測定することをいい、得られるシグナルおよびその強度は、検出方法、標識方法や標識の種類によって異なる。
【0021】
標識方法や標識の種類は、プローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを検出できるものであれば特に制限されず、当技術分野で公知である。例えば、ターゲットポリヌクレオチドを合成または増幅する際に放射能標識や蛍光標識などの標識を共有結合させた基質(主にUTP)を取り込ませ、その標識によって、ハイブリダイゼーションを検出することができる。標識としては、当技術分野で通常用いられるもの、例えば、放射能標識、蛍光標識、化学ルミネッサー、ルミネッサーおよび感光剤等を使用することもできる。蛍光標識としては、Cy3およびCy5などのCyDye、FITC、RITC、ローダミン、テキサスレッド、TET、TAMRA、FAM、HEX、ROXなどが挙げられ、放射能標識としては、α−32P、γ−32P、35Sなどが挙げられる。さらに、酵素、酵素断片、酵素阻害剤、抗体、触媒等を結合させてもよい。
【0022】
例えば、標識として蛍光標識を用いた場合は、蛍光シグナルを好適な検出器により検出する。検出器としては、例えば蛍光レーザー顕微鏡、冷却CCDカメラおよびコンピュータを連結した蛍光スキャニング装置が用いられ、担体上の蛍光強度を自動的に測定することができる。CCDカメラの代わりに共焦点型または非焦点型のレーザーを用いてもよい。これにより、画像データが得られる。得られたデータから、担体上に固定化されたプローブポリヌクレオチドに対して相補性を有するターゲットポリヌクレオチドを同定することができ、これに基づいて遺伝子発現プロファイルを作成したり、ポリヌクレオチド試料の塩基配列を決定することもできる。
【0023】
ターゲットポリヌクレオチドのプローブポリヌクレオチドへのハイブリダイゼーションは、プローブポリヌクレオチドを固定化した担体上に、上記被検ポリヌクレオチド試料をスポッティングした後インキュベートすることにより実施できる。スポッティングは、96穴または384穴等のプラスチックプレートに試料を分注し、スポット装置を用いて滴下することにより実施できる。インキュベーションは、室温〜100℃の範囲の温度で、1〜24時間の範囲の時間で実施することが好ましい。
【0024】
ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤の溶液と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応のポリヌクレオチドを除去することが好ましい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、またはグッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが好ましい。
【0025】
プローブポリヌクレオチドを固定化するための担体としては、当技術分野で通常用いられるものを使用でき、その形状や材料は特に制限されない。例えば、マイクロアレイ等の平板状のもの、ビーズ等の粒子状のもの、および糸状のものが挙げられるが、好ましくはマイクロアレイ等の平板状のものを用いる。材料としては、例えば、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;シリコン;ガラス、石英ガラス、溶融石英、合成石英、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライトおよび感光性ガラス等のガラス材料;プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene 樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)が挙げられる。
【0026】
本発明においては、担体として、基板上にポリヌクレオチドを静電的に引き寄せるための静電層、およびポリヌクレオチドと共有結合しうる官能基を有するものが好ましく用いられる。ここで基板の材料としては、特に制限されないが、上記の材料が挙げられる。基板の形状およびサイズは特に限定されないが、形状としては、平板状、糸状、球状、多角形状、粉末状などが挙げられ、サイズは、平板状のものを用いる場合、通常は、幅0.1〜100mm、長さ0.1〜100mm、厚み0.01〜10mm程度である。静電層を有する担体を用いる場合は、融解温度調節剤としては、アミノ基を有する化合物を含まないもの用いるのが好ましい。
【0027】
基板には、表面処理を施してもよい。表面処理には、合成ダイヤモンド、高圧合成ダイヤモンド、天然ダイヤモンド、軟ダイヤモンド(例えば、ダイヤモンドライクカーボン)、アモルファスカーボン、炭素系物質(例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ)のいずれか、それらの混合物、またはそれらを積層させたものを用いることが好ましい。また、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化バナジウム等の炭化物を用いてもよい。ここで、軟ダイヤモンドとは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等の、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。表面処理層の厚みは、1nm〜100μmであることが好ましい。
【0028】
表面処理された基板の一例としては、スライドガラスに軟ダイヤモンドを製膜した基板が挙げられる。このような基板は、ダイヤモンドライクカーボンが、水素ガス0〜99体積%、残りメタンガス100〜1体積%を含んだ混合ガス中で、イオン化蒸着法により作成したものであることが好ましい。
【0029】
基板の表面処理層の形成は、公知の方法、例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposit)法、ECRCVD(Electric Cyclotron Resonance Chemical Vapor Deposit)法、ICP(Inductive Coupled Plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric Cyclotron Resonance)スパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、EB(Electron Beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法、イオン化蒸着法、アーク蒸着法、レーザ蒸着法などにより行うことができる。
【0030】
本発明の担体には、ポリヌクレオチドを静電的に引き寄せるために静電層が設けられていることが好ましい。静電層としては、ポリヌクレオチドを静電的に引き寄せ、ポリヌクレオチドの固定化量を向上させるものであれば、特に制限はないが、例えば、アミノ基含有化合物など正荷電を有する化合物を用いて形成することができる。
【0031】
前記アミノ基含有化合物としては、非置換のアミノ基(−NH)、または炭素数1〜6のアルキル基等で一置換されたアミノ基(−NHR;Rは置換基)を有する化合物、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、n−プロピルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、アミノアゾベンゼン、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)、アクリノール、アミノ安息香酸、アミノアントラキノン、アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、アニリン、またはこれらの重合体(例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン)や共重合体;4,4’,4”-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン、スペルミジン、スペルミン、プトレシンなどのポリアミン(多価アミン)が挙げられる。
【0032】
静電層は、基板または表面処理層と共有結合させずに形成してもよく、基板または表面処理層と共有結合させて形成してもよい。
【0033】
静電層を基板または表面処理層と共有結合させずに形成する場合には、例えば、表面処理層を製膜する際に前記アミノ基含有化合物を製膜装置内に導入することによって、アミノ基を含有する炭素系皮膜を製膜する。製膜装置内に導入する化合物として、アンモニアガスを用いてもよい。また、表面処理層は、密着層を形成した後にアミノ基を含有する皮膜を形成するといった、複層であってもよく、この場合もアンモニアガスを含んだ雰囲気で行ってもよい。
【0034】
また、静電層を基板または表面処理層と共有結合させずに形成する場合には、静電層と基板または表面処理層との親和性、即ち密着性を高める点で、基板上に、前記の非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物および炭素化合物を蒸着させた後、ポリヌクレオチドと共有結合しうる官能基を導入することが好ましい。ここで用いる炭素化合物としては、気体として供給することができれば特に制限はないが、例えば常温で気体であるメタン、エタン、プロパンが好ましい。蒸着の方法としては、イオン化蒸着法が好ましく、イオン化蒸着法の条件としては、作動圧が0.1〜50Pa、そして加速電圧が200〜1000Vの範囲であることが好ましい。
【0035】
静電層を基板または表面処理層と共有結合させて形成する場合には、例えば、基板または表面処理層を施した基板に、塩素ガス中で紫外線照射して表面を塩素化し、次いで前記アミノ基含有化合物のうち、例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン、4,4',4''-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン等の多価アミンを反応させて、基板と結合していない側の末端にアミノ基を導入することにより、静電層を形成することができる。基板表面を塩素化した後、アンモニアガス中でUV照射することにより、アミノ基を導入してもよい。
【0036】
また、静電層が施された基板にポリヌクレオチドと共有結合しうる官能基を導入する反応(例えば、ジカルボン酸または多価カルボン酸を用いるカルボキシル基の導入)を溶液中で行う場合には、基板を、前記の非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬した後、ポリヌクレオチドと共有結合しうる官能基を導入することが好ましい。前記溶液の溶媒としては、例えば水、N−メチルピロリドン、エタノールが挙げられる。
【0037】
静電層が施された基板に、ジカルボン酸または多価カルボン酸を用いてカルボキシル基を導入する場合には、予めN−ヒドロキシスクシンイミドおよび/またはカルボジイミド類で活性化させたり、あるいは、反応をN−ヒドロキシスクシンイミドおよび/またはカルボジイミド類の存在下に行うことが好ましい。
【0038】
基板を、非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬することにより、静電層を形成する場合に、アミノ基含有化合物としてポリアリルアミンを用いると、基板との密着性に優れ、ポリヌクレオチドの固定化量がより向上する。
【0039】
静電層の厚みは、1nm〜500μmであることが好ましい。
前記のようにして、静電層を施した基板表面には、ポリヌクレオチドと共有結合しうる官能基を導入するため、化学修飾を施すことが好ましい。
前記官能基としては、例えばカルボキシル基、活性エステル基、ハロホルミル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、アミノ基が挙げられる。
【0040】
官能基としてカルボキシル基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:X−R−COOH(式中、Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるハロカルボン酸、例えばクロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2−クロロプロピオン酸、3−クロロプロピオン酸、3−クロロアクリル酸、4−クロロ安息香酸;式:HOOC−R−COOH(式中、Rは単結合または炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸;式:R−CO−R−COOH(式中、Rは水素原子または炭素数1〜12の2価の炭化水素基、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるケト酸またはアルデヒド酸;式:X−OC−R−COOH(式中、Xはハロゲン原子、Rは単結合または炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸のモノハライド、例えばコハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0041】
活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、たとえば高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。
【0042】
実際的には、エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。活性エステル基としては、具体的にはp−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド基等が挙げられる。
【0043】
例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド基は、前記のようにして導入されたカルボキシル基に、シアナミドやカルボジイミド(例えば、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤とN−ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物を反応させることにより生成することができる。
【0044】
官能基としてハロホルミル基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:X−OC−R−CO−X(式中、Xはハロゲン原子、Rは単結合または炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸のジハライド、例えばコハク酸クロリド、マロン酸クロリドが挙げられる。
【0045】
官能基として水酸基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:HO−R−COOH(式中、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるヒドロキシ酸またはフェノール酸が挙げられる。
【0046】
官能基としてアミノ基を導入するために用いられる化合物としては、例えばアミノ酸が挙げられる。
前記の化合物は、そのカルボキシル基が静電層のアミノ基と縮合してアミド結合を形成する。
前記の化合物のうち、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸は親水性を向上させるために使用することもできる。
【0047】
上記の工程において、アミノ基含有化合物による処理、官能基導入処理、活性エステル化処理は、数回繰り返して行うことが好ましい。
【0048】
プローブポリヌクレオチドを、適当な溶媒に溶解または分散して、担体上にスポッティングすることにより、ポリヌクレオチドを担体に固定化することができる。例えば、プローブポリヌクレオチドを含む溶液を、96穴または384穴等のプラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポット装置等を用いて担体上に滴下してスポッティングを行う。スポット装置としては、ピン方式、インクジェット方式、毛細管によるキャピラリ方式などを利用したスポット装置を用いることができる。
【0049】
本発明はまた、融解温度調節剤を含む、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進するための試薬に関する。本発明の試薬を、ターゲットポリヌクレオチドを含む被検ポリヌクレオチド試料に添加することにより、プローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進し、ポリヌクレオチド試料の分析において検出感度を向上させることができる。融解温度調節剤およびその添加量等については、既に述べたとおりである。
【0050】
本発明はまた、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することによりポリヌクレオチド試料を分析するためのキットであって、融解温度調節剤を含む被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬を含む、前記キットに関する。当該キットは、公知のポリヌクレオチド試料を分析するためのキットに加えて、融解温度調節剤を含む被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬を含むことを特徴とする。すなわち、ターゲットポリヌクレオチドを含む被検ポリヌクレオチドから、ハイブリダイゼーション用の被検ポリヌクレオチド試料を調製するための溶媒として、融解温度調節剤を含む溶媒を被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬として含むキットをさす。被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬は、融解温度調節剤を含むことを除き、公知のハイブリダイゼーション溶液調製用の溶媒と同様である。従って、当該試薬は、当技術分野においてハイブリダイゼーション溶液を調製するためのものとして慣用の溶媒に、融解温度調節剤を添加することにより調製できる。慣用の溶媒としては、例えば、SSC(saline-sodium citrate)などの水性媒体に界面活性剤を加えた溶液が挙げられる。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。
【0051】
本発明のキットは、上記被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬を含むことを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。例えば、ポリヌクレオチドを分解または断片化するための酵素、緩衝液、マトリックス溶媒、洗浄バッファー、試料希釈液、反応停止液、標準物質等を含みうる。更に本発明のキットには、アッセイ方法を説明するためのインストラクションマニュアルを組み合せることもできる。
【実施例】
【0052】
実施例1 蛍光ラベル化cDNA(ターゲットポリヌクレオチド)の調製
蛍光ラベル化cDNAの調製にはアマシャムバイオサイエンス社製のCyScribe First−Strand cDNA Labelling Kitを用いた。
予め70℃、42℃、37℃のヒートブロック、もしくは恒温器を準備し、mRNA試料および各試薬類を溶かし氷上に準備した。次にmRNA試料を含め、以下の系を組んだ。この系は以後のハイブリダイゼーションを3回実施するのに充分な量であった。
【0053】
【表1】

【0054】
上記反応系を組んだ後、70℃にて5分間保温し、室温に移し10分間放置した。この反応液にさらに以下のように試薬を添加し、反応系を組んだ。また以後の操作はできる限り遮光条件下で行なった。
【0055】
【表2】

【0056】
上記反応系を組んだ後、42℃にて90分間保温し逆転写反応により蛍光ラベル化cDNAを合成した。次に2.5M NaOHを2μl添加し、37℃で15分間保温することで未反応mRNAを分解した。次に2M HEPESを10μl添加することで中和し、蛍光ラベル化cDNA溶液を得た。
【0057】
次にアマシャムバイオサイエンス社製のCyScribe GFX Purification Kitを用いて、蛍光ラベル化cDNAを精製した。コレクションチューブにGFXスピンカラムをセットし、GFXスピンカラム内にCapture buffer 500μlを添加し、蛍光ラベル化cDNA溶液をさらに添加し、ピペッティングにより混和した。13,000rpmにて30秒間遠心し、コレクションチューブ内の濾液を廃棄した。同じコレクションチューブにGFXスピンカラムを再度セットし、Wash buffer 600μlを添加した。13,000rpmにて30秒間遠心し、コレクションチューブ内の濾液を廃棄した。上記洗浄過程をさらに2回繰り返した。同じコレクションチューブにGFXスピンカラムを再度セットし、13,000rpmにて10秒間遠心し、カラムに付着したWash bufferを完全に除去した。新しい1.5ml容マイクロチューブにGFXスピンカラムをセットし、予め65℃に保温しておいたElution buffer 22μlをフィルターの中央部に添加し、10分間放置した。13,000rpmにて1分間遠心し、マイクロチューブ内に濾液を回収した。上記溶出過程をさらに2回繰り返し、同じマイクロチューブ内に回収した。上記操作により合計66μlの蛍光ラベル化cDNA溶液を得た。得られた蛍光ラベル化cDNA溶液を22μlずつ新しいマイクロチューブに分注し、スピードバック等で乾固し、−20℃、暗所にて保存した。
【0058】
実施例2 マイクロアレイ(プローブポリヌクレオチド固定化担体)の製造
25mm(幅)×75mm(長さ)×1mm(厚み)のスライドガラスを、ポリアリルアミン水溶液(0.1g/l)に浸漬することにより、静電層を形成した。その後、静電層のアミノ基に、多価カルボン酸としてのポリアクリル酸を、0.1Mの1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミドの存在下で縮合した。そして、0.1M リン酸緩衝液(pH6)300mlに0.1Mの1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド・塩酸塩と20mMのN−ヒドロキシスクシンイミドを溶解した活性化液中に30分間浸漬することによって活性化することにより、ガラス基板の表面に静電層およびN−ヒドロキシスクシンイミド基を有する担体を製造した。
【0059】
得られた担体に、上記で得られた蛍光ラベル化cDNAに対応する3種のプローブポリヌクレオチドをそれぞれスポット1〜3としてスポッティングすることにより、担体上にプローブポリヌクレオチドが固定化されたマイクロアレイチップを得た。プローブポリヌクレオチドの塩基長は60merであった。
【0060】
実施例3 ハイブリダイゼーション
乾固した蛍光ラベル化cDNAに、以下の試薬を添加し、タッピングにより溶解・混和し、被検ポリヌクレオチド試料としてのハイブリダイゼーション溶液を調製した。
【0061】
【表3】

【0062】
予めマイクロアレイチップを2xSSC/0.2%SDSに浸漬し室温にて15分間洗浄し、2xSSC/0.2%SDSに浸漬し90℃にて5分間洗浄し、超純水でリンスした後、300rpmにて3分間遠心することでチップ表面の溶液を除去し、プローブポリヌクレオチドの熱変性と担体の不活性化を行った。
【0063】
前処理を施したマイクロアレイチップをハイブリダイゼーションカセット(ArrayIt)にセットし、スポット位置に合うように24x25mmのギャップ付きカバーグラスを載せ、ハイブリダイゼーション溶液18μlを毛管現象により流し込んだ。カセット内の窪みに夫々30μlの精製水と、ガラス上のカバーグラスと離れた位置2点に夫々3μlの3xSSCを滴下しハイブリダイゼーション中の乾燥を防いだ。60℃にて16時間ゆっくり振盪(〜15rpm)しながらハイブリダイゼーションを行なった。
以下の洗浄液を調製し、約200mlずつ染色壷またはビーカー等に入れておいた。
【0064】
【表4】

【0065】
Wash buffer I中にカバーグラスごと浸し、カバーグラスを自然に剥がし、Wash buffer II中に移し、5分間振盪洗浄した。Wash buffer III中に移し3〜4回上下させリンスした後、300rpmにて1分間遠心し、チップ上の水分を除去した。マイクロアレイチップ上のスポットにハイブリダイズした蛍光ラベル化cDNA量をGenePix 4000Bスキャナーを用いて測定した(1st.ハイブリダイゼーション)。結果を図1に示す。図1は、BetaineもDMSOも添加していない被検ポリヌクレオチド試料を用いた場合をコントロールとし、コントロールで得られた蛍光強度を基準(100%)として、BetaineまたはDMSOを添加したハイブリダイゼーション溶液を用いた場合の相対蛍光強度(%)をそれぞれ示す。図1から、スポット1〜3のいずれについても、BetaineまたはDMSOを被検ポリヌクレオチド試料に添加した場合は、それらを添加しない場合と比べて、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルが増大すること、すなわち、検出感度が向上することが示された。
【0066】
蛍光量を測定した後のマイクロアレイチップを、超純水を満たした50ml容キャップ付チューブに移し、そのチューブを沸騰水に浸漬し、1時間湯煎することでハイブリダイズした蛍光ラベル化cDNAを遊離させた後、300rpmにて1分間遠心し、チップ上の水分を除去した。マイクロアレイチップ上のスポットに残存した蛍光ラベル化cDNA量をGenePix 4000Bスキャナーを用いて測定した(洗浄)。
【0067】
残存した蛍光量を測定した後のマイクロアレイチップに上記のマイクロアレイチップの前処理を施した。再び前処理したマイクロアレイチップを用いて、同様にハイブリダイゼーションを行い、マイクロアレイチップ上のスポットにハイブリダイズした蛍光ラベル化cDNA量をGenePix 4000Bスキャナーを用いて測定した(2nd.ハイブリダイゼーション)。
【0068】
スポット1〜3のそれぞれについて、1st.ハイブリダイゼーション、洗浄、2nd.ハイブリダイゼーション後の蛍光強度を測定した結果を図2〜4に示す。図2〜4の結果から、スポット1〜3のいずれについても、BetaineまたはDMSOを被検ポリヌクレオチド試料に添加した場合は、それらを添加しない場合と比べて、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルが増大すること、すなわち、検出感度が向上することが示された。さらに、一度洗浄してターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドから遊離させた後、再度ハイブリダイゼーションを行った場合(2nd.ハイブリダイゼーション)も、同様の結果が得られることが示された。
【0069】
以上から、被検ポリヌクレオチド試料にBetaineおよびDMSO等の融解温度調節剤を添加することにより、ハイブリダイゼーションを利用したポリヌクレオチドの分析においてプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズするターゲットポリヌクレオチドを増大させ、検出感度を向上できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】BetaineもDMSOも添加していないハイブリダイゼーション溶液(被検ポリヌクレオチド試料)を用いた場合をコントロールとし、コントロールで得られた蛍光強度を基準(100%)として、BetaineまたはDMSOも添加したハイブリダイゼーション溶液を用いた場合の相対蛍光強度(%)を示す。
【図2】スポット1について、1st.ハイブリダイゼーション、洗浄、2nd.ハイブリダイゼーション後の蛍光強度を測定した結果を示す。
【図3】スポット2について、1st.ハイブリダイゼーション、洗浄、2nd.ハイブリダイゼーション後の蛍光強度を測定した結果を示す。
【図4】スポット3について、1st.ハイブリダイゼーション、洗浄、2nd.ハイブリダイゼーション後の蛍光強度を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチド試料の分析方法であって、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに、融解温度調節剤が添加された被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含む、前記分析方法。
【請求項2】
融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することを含むポリヌクレオチド試料の分析方法において、被検ポリヌクレオチド試料に融解温度調節剤を添加することによりプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進する方法。
【請求項5】
融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種からなる融解温度調節剤を含む、担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドへのターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを促進するための試薬。
【請求項8】
融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、請求項7記載の試薬。
【請求項9】
担体に固定化されたプローブポリヌクレオチドに被検ポリヌクレオチド試料を接触させ、被検ポリヌクレオチド試料に含まれるターゲットポリヌクレオチドをプローブポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションに基づくシグナルを測定することによりポリヌクレオチド試料を分析するためのキットであって、融解温度調節剤を含む被検ポリヌクレオチド試料調製用試薬を含む、前記キット。
【請求項10】
融解温度調節剤が、トリアルキルアミノ酸、テトラアルキルアンモニウム塩、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項9記載のキット。
【請求項11】
融解温度調節剤が、トリメチルグリシンおよび/またはジメチルスルホキシドを含む、請求項10記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−289009(P2007−289009A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117137(P2006−117137)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】