説明

ポリビニルアセタール系樹脂

【課題】 弾性率が高く、アルコール系溶剤への溶解性に優れ、透明性が高いアルコール溶液が得られるポリビニルアセタール系樹脂を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を0.1〜1.5モル%有し、ケン化度が98.5モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A)をアセタール化してなる。



[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアセタール系樹脂に関し、さらに詳しくは、弾性率が高く、アルコール系単独溶剤への溶解性に優れ、透明性が高いアルコール溶液が得られるポリビニルアセタール系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール系樹脂は一般的にはポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られるポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)をアセタール化して得られるもので、PVA系樹脂の連続するビニルアルコール構造単位がアルデヒド化合物によってアセタール化された構造単位と、未反応のビニルアルコール構造単位、およびPVA系樹脂の未ケン化部分である酢酸ビニル構造単位を有する高分子である。かかるポリビニルアセタール系樹脂は、強靭性、無機粉体・有機粉体の分散性、各種素材に対する接着性、透明性に優れ、多くの有機溶剤に可溶であることから、ウォッシュプライマー、保護塗料、金属塗料などの塗料、フレキソインク、グラビアインクなどの印刷用インク、プリント基板、コイル電線用ワニス、接着剤、セラミックスバインダー、磁気テープなどのバインダー、インクジェットメディア、織物捺染などのコーティング材料、ガラス中間膜等の様々な用途で使用されている。
【0003】
かかるポリビニルアセタール樹脂は有機溶剤溶液として使用されることが多いが、近年、環境保護の観点から有機溶剤の使用量低減が求められ、ポリビニルアセタール系樹脂においても、より高濃度溶液での使用が求められている。そのため、高濃度溶液とした際の溶液粘度が低いポリビニルアセタール系樹脂が望まれ、例えば、主鎖にエチレンを構成単位として有するPVA系樹脂をアセタール化してなるポリビニルアセタール系樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
また、ポリビニルアセタール系樹脂を溶液として使用する場合の有機溶剤としては、低粘度かつ貯蔵中の粘度変化が小さい溶液が得られることからトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤とアルコール系溶剤の混合溶剤が好ましく用いられてきたが、芳香族系溶剤は環境に対する負荷、および健康に対する影響が大きいため、使用が制限される傾向にあり、ポリビニルアセタール系樹脂溶液もアルコール系の単独溶剤によるものが望まれている。
しかしながら、通常のポリビニルアセタール系樹脂はアルコールの単独溶剤への溶解性は十分ではなく、例えば、特許文献1記載のポリビニルアセタール系樹脂も、芳香族系/アルコール系の混合溶剤溶液には良好な溶解性を示すが、アルコール単独溶剤に対する溶解性については不十分である。
【0005】
一方、ポリビニルアセタール系樹脂の特性には原料であるPVA系樹脂に由来する未反応ビニルアルコール構造単位中の水酸基が大きな影響を与えており、水酸基量が多いものほど水素結合によって結晶化しやすく、高弾性率および強靭性に優れたポリビニルアセタール系樹脂が得られる。そのため、フィルムや塗膜、ガラス中間膜のように高弾性率、および強靭性を必要とする用途に対してはケン化度の高い、すなわち水酸基量が多いPVA系樹脂を原料として得られたポリビニルアセタール系樹脂が用いられる。
しかしながら、かかる高ケン化度PVA系樹脂によるポリビニルアセタール系樹脂はアルコール系単独溶剤への溶解性が十分でない場合があり、たとえ溶解したとしても、透明性が低い溶液しか得られないため、透明性を要求されるフィルム等への適用は難しいものであった。
【特許文献1】特開2003−183325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は既に、アルコール単独溶剤への溶解性に優れたポリビニルアセタール系樹脂として側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂をアセタール化してなるポリビニルアセタール系樹脂を提案した(特願2004−292098)。しかしながら、かかる新規ポリビニルアセタール系樹脂の他の目的は柔軟性の向上であり、その検討の中で評価したポリビニルアセタール系樹脂はいずれも弾性率が低く、フィルムやガラス中間膜などの用途に適したものではなかった。さらに、かかる新規ポリビニルアセタール系樹脂は、アルコール単独溶剤溶液としたときの透明性の点でまだまだ改良の余地があることが判明した。
【0007】
すなわち本発明は、弾性率が高く、アルコール系の単独溶剤への溶解性に優れ、透明性に優れたアルコール溶液が得られるポリビニルアセタール系樹脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を0.1〜1.5モル%有し、ケン化度が95モル%以上であるPVA系樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール系樹脂によって、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【化1】


なお、式中のR1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合、すなわちビニル構造部分の炭素と1,2−ジオール構造部分の炭素が直接結合したもの、または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
【0009】
すなわち、本発明はポリビニルアセタール系樹脂の原料であるPVA系樹脂として、側鎖に一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する変性PVAを用い、特にその1,2−ジオール構造単位の含有量が比較的少なく、ケン化度が高いものを用いたことを最大の特徴とするものであり、それによって、高弾性率かつ、優れたアルコール系溶剤への溶解性という、本発明特有の効果が得られたものである。
【0010】
通常、高弾性率のポリビニルアセタール系樹脂を得る場合には、原料であるPVA系樹脂は高ケン化度のものが好ましいが、アルコール溶解性に関しては低ケン化度の方が望ましい。そこで、本発明では少量であっても著しくアルコール溶解性を改善できる1,2−ジオール構造を側鎖に導入することによって、高ケン化度PVA系樹脂を用いることによる高弾性率と、変性基による優れたアルコール溶解性とを両立させることができたものと推定される。
また、ポリビニルアセタール系樹脂は、通常、水溶液としたPVA系樹脂を低温下でアセタール化して製造されるが、高ケン化度PVA系樹脂の場合、水溶液中で微結晶が生成しやすく、これが均一なアセタール化を阻害する可能性があったが、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、高ケン化度であっても低温水溶液中の微結晶が生成しにくく、均一にアセタール化が進行することで本発明の特徴を有するポリビニルアセタール系樹脂がえられたものであると推定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、弾性率が高く、アルコール系の単独溶剤への溶解性に優れ、透明性に優れたアルコール溶液が得られることから、フィルム、塗膜、およびガラス中間膜のような高弾性率と強靭性が必要とされる用途や、溶剤溶液を流延・乾燥して透明な皮膜を形成するような用途に極めて好適である。
【0012】
なお、本発明の効果は側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂(A)を原料とすることによって得られたものである。
これに対し、PVA主鎖の主結合様式である1,3−グリコール結合を、ポリ酢酸ビニルの重合温度を通常より高温にすることによって、頭−頭、あるいは尾−尾結合の比率を増やして得られる、主鎖1,2−グリコール結合の量が通常の値(約1.6モル%)よりも多いPVA系樹脂が知られている(例えば、特開2001−355175号など)。しかしながら、かかる主鎖1,2−グリコール結合は本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の側鎖1,2−ジオール構造と異なり、結晶性を低下させる効果が小さく、低温水溶液中での微結晶形成を抑制する効果はさほど期待できない。また、かかる主鎖1,2−グリコール結合による水酸基は、通常のPVA系樹脂と同様の二級水酸基であり、本発明の側鎖1,2−ジオール構造中の一級水酸基のような強い水素結合、分子間凝集力に起因する高弾性率を期待することはできない。
【0013】
また、末端に水酸基を有するα−オレフィンを共重合させてえられる、側鎖にモノヒドロキシアルキル基を有するPVA系樹脂も公知(例えば、特開平7−179707号など)であるが、かかる技術で用いられるモノマーでは高重合度のPVA系樹脂をえることは困難である場合が多く、皮膜強度が必要とされるポリビニルアセタール系樹脂の原料としても用いるには不充分である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(A)をアセタール化して得られるものである。
【化2】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
すなわち、本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、PVA系樹脂(A)の連続するビニルアルコール構造単位がアルデヒド化合物によってアセタール化された構造単位と、一般式(1)で表される構造単位中の1,2−ジオール部分がアセタール化された構造単位、未反応のビニルアルコール構造単位、未反応の一般式(1)で表される構造単位、およびPVA系樹脂の未ケン化部分である酢酸ビニル構造単位を有する高分子である。
【0016】
以下、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の原料として用いられるPVA系樹脂(A)について詳細に説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂であり、一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合、すなわちビニル構造部分の炭素と1,2−ジオール構造部分の炭素が直接結合したもの、または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
【化3】

【0017】
なお、かかるPVA系樹脂(A)の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は、0.1〜1.5モル%であり、PVA系樹脂(A)の残る部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と若干量の酢酸ビニル構造単位を含む。
【0018】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR1〜R3、及びR4〜R6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、また、その炭素数1〜4のアルキル基は必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0019】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは、好ましくは単結合、すなわちビニル構造部分の炭素と1,2−ジオール構造部分の炭素が直接結合したものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、あるいは−CH2OCH2−が好ましい。
【0020】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法が好適に用いられる。
【化4】


[式中、R1、R2、及びR3、はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【0021】
また、(i)以外の製造法として、
(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、
【化5】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法を用いてもよい。
【化6】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0022】
なお、本発明で用いられるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
以下、かかる(i)、(ii)、及び(iii)の方法について説明する。
【0023】
[(i)の方法]
(i)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(2)で示される化合物とを共重合したのちケン化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
かかる上記一般式(2)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9は、アルキル基、好ましくはメチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。
【0024】
式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH2OCH2−あるいは−OCH2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、などが挙げられる。
【0025】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取り扱いにおいて優れるという点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素、Xが単結合、R7、R8がR9−CO−でありR9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、そのなかでも特にR9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1―ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701、であり、これは後述のビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数Cxは0.003(65℃)であり、ビニルエチレンカーボネートのCx=0.005(65℃)や、2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランのCx=0.023(65℃)と比較して小さい値であり、これは3,4−ジアセトキシ−1−ブテンをビニルエステル系モノマーのコモノマーとして用いた場合に、他のモノマーと比べて重合度の上昇を阻害しにくいことを示すものである。また、重合速度の点でも3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは上記の他のモノマーよりも優れている。
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生成物が、主構造単位として多用される酢酸ビニル構造単位と同様の酢酸誘導体であり、その後処理に特別な装置や工程を設ける必要がない点も、工業的に大きな利点である。
【0026】
なお、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、工業生産用ではイーストマンケミカル社、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。また、1,4―ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを精製して利用することも出来る。また、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを塩化パラジウム触媒等を用いた公知の異性化反応によって3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換して用いることもできる。
【0027】
かかるビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物とを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用されるが、一般式(2)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させられる点から滴下重合が好ましく、特には前述の酢酸ビニルとの反応性比を用いたHANNA法に基づく重合方法が好ましい。
【0028】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0029】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、コモノマーの種類や触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.01〜0.7モル%が好ましく、特には0.02〜0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度で行われ、より具体的には、35〜150℃、好ましくは40〜75℃の範囲で行われる。
【0030】
重合終了時には、ラジカル重合において用いられる公知の重合禁止剤を反応系内に添加することが好ましく、かかる重合禁止剤としては、例えば、m−ジニトロベンゼン、アスコルビン酸、ベンゾキノン、α―メチルスチレンの二量体、p−メトキシフェノール等を挙げることができる。
【0031】
得られた共重合体は次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては上記で得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0032】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び式(2)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位の合計量1モルに対して0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0033】
また、式(2)で示される化合物として、Xが−CH2OCH2−であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素であるグリセリンモノアリルエーテルも好ましいモノマーであるが、上述の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等と比較すると高重合度のPVA系樹脂がえられにくく、皮膜強度が必要とされるポリビニルアセタール系樹脂の原料としてはやや不向きである。
【0034】
[(ii)の方法]
(ii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(3)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱炭酸して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(3)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0035】
ビニルエステル系モノマーと一般式(3)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−ジオール構造に変換される。
また、一定圧力下(常圧〜1×107Pa)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0036】
なお、ビニルエチレンカーボネートを用いた場合、そのビニルエステル系モノマーとの共重合体をケン化する際に、有害物質である炭酸ジメチルが副生することから、製造時、回収溶剤の処理、あるいは製品への残存等に注意を払う必要がある。
【0037】
[(iii)の方法]
(iii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱ケタール化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(4)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R10、R11はそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。かかるアルキル基は共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、R10、R11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適である。
【0038】
ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、更に酸触媒を用いて水系溶媒(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。その場合の酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等が挙げられる。
また、ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
【0039】
なお、前述したように2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランは3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等と比較して連鎖移動定数が大きいため、高重合度のPVA系樹脂がえられにくく、皮膜強度が必要とされるポリビニルアセタール系樹脂の原料としてはやや不向きである。
【0040】
また、本発明に用いるPVA系樹脂(A)は、本発明の目的を阻害しない範囲において各種不飽和モノマーを共重合したものを用いることができる。かかる不飽和モノマーの導入量としては、一概にはいえないが、導入量が多すぎると水溶性が損なわれたり、ガスバリアー性が低下することがあるため、好ましくない。
かかる不飽和モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、アセトアセチル基含有モノマー等が挙げられる。
【0041】
更に、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。
又、重合温度を100℃以上にすることにより、PVA主鎖中に異種結合である1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度導入したものを使用することが可能である。
【0042】
かくして得られるPVA系樹脂(A)中の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は0.1から1.5モル%であり、さらには0.2〜1.2モル%、特には0.3〜1モル%のものが好ましい。かかる1,2−ジオール構造単位の含有量が少なすぎると、アルコール溶液の透明性が不足したり、長期保存時の粘度安定性が低下する場合があり、逆に含有量が多すぎるとポリビニルアセタール系樹脂の弾性率が低くなりすぎる場合があるため好ましくない。これは、製造工程において、原料であるPVA系樹脂を水溶液としたとき、見かけ上は均一な水溶液であっても分子レベルでは分子会合によるミクロジャンクションが形成されている場合があり、このような状態でアセタール化反応を行うと分子間あるいは分子内でアセタール化度が不均一になることによるものと推定される。
一方、かかる1,2−ジオール構造単位の含有量が多すぎると得られたポリビニルアセタール系樹脂の弾性率が小さくなり、高剛性、強靭性などを必要とする用途への適用が困難になる場合があるため好ましくない。
【0043】
また、PVA系樹脂(A)のケン化度は95モル%以上であり、好ましくは96〜99.9モル%、さらには97〜99.8モル%、特には99.0〜99.5モル%である。かかるケン化度が低すぎると、得られたポリビニルアセタール系樹脂の弾性率が不足する場合があるため好ましくない。
【0044】
また、PVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は通常は100〜4000であり、さらには200〜3500、特には250〜3000のものが好ましく、かかる平均重合度が小さすぎると得られたポリビニルアセタール系樹脂の強度が充分ではなく、逆に大きすぎるとポリビニルアセタール系樹脂溶液の粘度が高くなりすぎて作業性が低下したり、高濃度溶液にすることが困難になるため好ましくない。
【0045】
また、本発明で使用されるPVA系樹脂(A)は、異なる他のPVA系樹脂との混合物であってもよく、かかる他のPVA系樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、上述の他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
【0046】
次に、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造法について説明する。
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。中でも、溶剤中、酸触媒の存在下で上記PVA系樹脂(A)をアルデヒド化合物によってアセタール化する方法が好ましく用いられる。その方法は、沈殿法と溶解法に大別され、前者(沈殿法)の場合にはPVA系樹脂(A)を水溶液とし、水を主体とした溶剤中、低温でアセタール化反応を行い、ポリビニルアセタール系樹脂が析出した後、系の温度を上げて熟成反応(アセタール化反応の完結とアセタール化部分の再配列)させる方法が好ましく用いられる。また、後者(溶解法)の場合は、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、あるいはこれに水等を併用した混合溶剤を用い、高温でアセタール化反応を行った後、系に水等を加えてポリビニルアセタール系樹脂を沈殿析出させて行われる。
【0047】
上記アセタール化反応において使用されるアルデヒド化合物としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド(三量体および多量体のパラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(三量体のパラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、イソペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド、グリオキザール、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒドなどの脂肪族ジアルデヒド、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、フルフラールなどの複素環式アルデヒドが挙げられる。なかでも、アセトアルデヒドおよびブチルアルデヒドが好適に用いられ、特にブチルアルデヒドが好適に用いられる。また、これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上のアルデヒドを混合して用いてもよい。
【0048】
アセタール化反応に用いる酸触媒としては特に限定されず、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられるが、好適には塩酸、硫酸が用いられる。
また、アセタール化反応が終了した後、その反応停止剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ性化合物や、エチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド類、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類を添加することも可能である。
【0049】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度は、特に限定されないが、40〜80モル%であることが好ましく、特には50〜80モル%、更には60〜75モル%であることが好ましい。かかるアセタール化度が小さすぎると水溶性となるため、沈殿法、溶解法のいずれの製造法においてもポリビニルアセタール系樹脂を反応系から取り出すことが困難になったり、ポリビニルアセタール系樹脂の親水性が増し、耐水性が不充分となるため好ましくなく、また、大きすぎると残存水酸基が少なくなるために、ポリビニルアセタール系樹脂の強靭性が不充分になったり、アルコール系の単独溶剤への溶解性が乏しくなることがあるため好ましくない。
なお、本発明のポリビニルアセタール系樹脂においては、PVA系樹脂(A)の主鎖の水酸基と、側鎖の1,2−ジオール構造における水酸基の両方がアセタール化される場合があるが、そのアセタール化度は、アセタール化前の総水酸基量に対する、アセタール化された水酸基量で表されるものである。
【0050】
かくして得られた本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂を原料とするため、分子鎖中に未反応の1,2−ジオール構造単位を有し、その効果によって高弾性率とアルコール系溶剤への優れた溶解性を示す。
さらに、本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、低温水中でのPVA系樹脂のアセタール化反応時に、PVA系樹脂の微結晶生成が少ないことから、均一なアセタール化物が得られ、分子間あるいは分子内のアセタール化分布が均一であると推定される。その結果、塗料、セラミックス、熱現像性感光材料などのバインダーとして使用された場合に、良好な接着力が得られ、また、ガラス中間膜に用いられた場合、オートクレーブによる加圧・加熱接着、あるいは真空バッグ方式による接着のいずれの場合も、溶融接着不良をおこしにくいものと推定される。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0052】
実施例1
〔PVA系樹脂(A)の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1200g、メタノール240g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン12g(酢酸ビニルに対して0.5モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.017モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、還流させながら重合を行った。
酢酸ビニルの重合率が74.5%となった時点で、m−ジニトロベンゼン0.3gを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(A1)を得た。
【0053】
得られたPVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ99.3モル%であり、平均重合度は、JIS K6726に準して分析を行ったところ1850であった。また、1,2−ジオール構造の含有量は1H−NMRで測定して算出したところ0.4モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【0054】
〔ポリビニルアセタールの製造〕
PVA系樹脂(A1)18gを水284gの入ったビーカー中に投入、攪拌、分散させた後、90℃に昇温し、1.5時間かけて溶解させた。
得られたPVA系樹脂(A1)水溶液を5%濃度に調製し、その250gを10℃に冷却し、これに濃度35%の塩酸1.3gとn−ブチルアルデヒド7.45gとを添加し、液温を10℃に維持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を25℃で30分間、さらに40℃で5時間維持して反応を完了させ、常法により中和、水洗、及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール系樹脂を得た。該ポリビニルアセタール系樹脂の1H−NMRによるアセタール化度は、69.8モル%であった。
【0055】
〔アルコール溶液の透明性〕
得られたポリビニルアセタール系樹脂をメタノール、エタノールの4%溶液とし、分光光度計(日本分光社製、紫外可視分光光度計 V−560)を用いて25℃で、430nmにおける光透過率(%)を求めた。
【0056】
〔貯蔵弾性率〕
かかるポリビニルアセタール系樹脂の10%エタノール溶液をガラス板上に流延、乾燥して厚さ10μmのフィルムを作製した。該フィルムの粘弾性を、調湿粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製、DVA−225Rheometer)を用いて、相対湿度40%RH,周波数10Hz、温度30〜90℃(昇温速度0.5℃/分)の条件で測定し、得られたデータから45℃における貯蔵弾性率を求めた。
【0057】
実施例2
実施例1のポリビニルアセタール系樹脂の製造工程において、PVA系樹脂の溶解条件を80〜85℃に昇温して、1.5時間とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度66.7モル%)を作製し、同様にアルコール溶液の透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
実施例1のポリビニルアセタール系樹脂の製造工程において、PVA系樹脂の溶解条件を90℃に昇温して、1.5時間、さらにオートクレーブで120℃に昇温して1時間
とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度は62.4モル%)を作製し、同様にアルコール溶液の透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
比較例1
実施例1において、PVA系樹脂として、ビニルアルコール構造単位と酢酸ビニル構造単位のみからなり、ケン化度99.0モル%、平均重合度1750のPVAを用いた以外は実施例1と同様にポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度67.4モル%)を作製し、同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
比較例2
比較例1において、PVA系樹脂の溶解条件を80〜85℃に昇温して、1.5時間とした以外は、比較例1と同様にしてポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度65.2モル%)を作製し、同様にアルコール溶液の透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
比較例3
比較例1において、PVA系樹脂の溶解条件を90℃に昇温して、1.5時間、さらにオートクレーブで120℃に昇温して1時間とした以外は、比較例1と同様にしてポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度65.8モル%)を作製し、同様にアルコール溶液の透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例4
実施例1のPVA系樹脂(A)の製造工程に準じて作製したPVA系樹脂(1,2−ジオール構造の含有量6.1モル%、ケン化度99モル%、平均重合度860)を用い、実施例1と同様にポリビニルアセタール(アセタール化度69モル%)を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0063】
比較例5
実施例1において、PVA系樹脂として、エチレンと酢酸ビニルの共重合物をケン化して得られる、エチレン含有率6%、ケン化度98モル%、平均重合度1700のエチレン変性PVAを用いた以外は実施例1と同様にポリビニルアセタール系樹脂(アセタール化度64モル%)を作製し、同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0064】
〔表1〕

【0065】
表1に明らかなように、本発明のポリビニルアセタール系樹脂(実施例1〜3)は、未変性PVAを原料とするポリビニルアセタール系樹脂(比較例1〜3)と比較して、メタノールおよびエタノールへの溶解性に優れ、透明性に優れたアルコール溶液が得られた。特に、本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、製造時のPVAの溶解を低温で行った場合でも良好なアルコール溶解性と透明性が得られることが分かる。
また、本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、その1,2−ジオール構造の含有量が大きいPVA系樹脂を用いたもの(比較例4)に対し、弾性率が高く、アルコール溶液としたときの透明性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、弾性率が高く、アルコール系溶剤への溶解性に優れ、透明なアルコール溶液が得られることから、フィルム、塗膜、およびガラス中間膜のような高弾性率と強靭性が必要とされる用途や、溶剤溶液を流延・乾燥して透明な皮膜を形成するような用途に極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を0.1〜1.5モル%有し、ケン化度が95モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A)をアセタール化してなることを特徴とするポリビニルアセタール系樹脂。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項2】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位におけるR1、R2、及びR3がいずれも水素であり、Xが単結合であり、R4、R5、及びR6がいずれも水素であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアセタール系樹脂。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物との共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアセタール系樹脂。
【化2】


[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【請求項4】
アセタール化度が40〜80モル%であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリビニルアセタール系樹脂。
【請求項5】
ブチルアルデヒドによってアセタール化されたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のポリビニルアセタール系樹脂。

【公開番号】特開2007−297613(P2007−297613A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98330(P2007−98330)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】