説明

ポリビニルアルコール組成物

【課題】 簡易に製造することが可能であり、機能性物質を含有させても機械的強度が低下することがないポリビニルアルコール組成物を提供する。
【解決手段】 機能性物質と、無機塩と、ポリビニルアルコールとを含有する水溶液を乾燥して形成されたポリビニルアルコール組成物であって、前記無機塩が水溶性であり、かつ結晶水を含有することができる塩であることを特徴とするポリビニルアルコール組成物。機能性物質が冷却用組成物である上記ポリビニルアルコール組成物。機能性物質が保湿成分である上記ポリビニルアルコール組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性物質を含有したポリビニルアルコール(PVA)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PVAハイドロゲルは、透明で耐熱性があり、耐薬品性、ガス透過性、耐バクテリア性に優れているので、創傷被覆材等の生体適合材料として期待されている。また、PVAハイドロゲルに薬理活性物質又は薬理活性物質と吸収助剤及び/又は粘着性付与材を含有させた経皮吸収製剤が提示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなハイドロゲルの製造法としては、10〜40%PVA水溶液に放射線を照射し、この水溶液を乾燥し、これを水に漬けて膨潤させる方法(例えば、特許文献2参照)があり、さらにゲルの強度を増す方法として、PVA水溶液を乾燥後これを熱処理したものに放射線を照射する方法等がある(例えば、非特許文献1参照)。
さらに、ハイドロゲルの強度や粘着性を改良する手段として、PVAとその他の重合体を混合した水溶液に放射線照射してハイドロゲルを得る方法が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。これらは粘着層、吸水・支持層、支持体層などを含むハイドロゲル積層体となっており、各層によって照射する放射線の線量を変えることによって、粘着層や支持層などによって物性を変更することに成功している。
【0004】
しかしながら、これらのPVAハイドロゲルは、作製時に放射線を照射しなければならず、特殊な装置が必要であり、また、機能性物質を含有させた場合に、機械的強度が低下することがあった。
【特許文献1】特公平3−77171号公報
【特許文献2】特開平4−358532号公報
【特許文献3】特開平9―262249公報
【特許文献4】特開平9−267453公報
【非特許文献1】「医科器械学」、1992年、第62巻、p.285−289
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の問題点を解決し、簡易に製造することが可能であり、機能性物質を含有させても機械的強度が低下することがないポリビニルアルコール組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、機能性物質と特定の無機物とを含むPVA水溶液から形成してなるPVA組成物が上記課題を解決することを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)機能性物質と、無機塩と、ポリビニルアルコールとを含有する水溶液を乾燥して形成されたポリビニルアルコール組成物であって、前記無機塩が水溶性であり、かつ結晶水を含有することができる塩であることを特徴とするポリビニルアルコール組成物。
(2)機能性物質が冷却用組成物である(1)記載のポリビニルアルコール組成物。
(3)冷却用組成物がアルキレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、またはこれらの混合物である(2)記載のポリビニルアルコール組成物。
(4)機能性物質が保湿成分である(1)記載のポリビニルアルコール組成物。
(5)保湿成分がグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マルビトール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、またはこれらの混合物である(4)記載のポリビニルアルコール組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPVA組成物は、強度に優れ、既存品よりも簡易に製造することが可能である。また、本発明のPVA組成物は、冷却剤や保湿剤などの他、各種貼付材の基材を初めとする様々な用途への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のPVA組成物は、機能性物質と無機塩とを含有するPVA水溶液を乾燥して形成されたものである。
PVAは、平均重合度が1000〜2500であることが好ましく、ケン化度が50〜100%であることが好ましい。
【0009】
本発明において、無機塩は水溶性であり、かつ結晶水を含有することができるもの、すなわち、水が存在すると、結晶水を持った水和物になる性質を有するものであることが必要である。このような無機塩は、PVA水溶液中では、塩水和物として、溶解しているPVA中に取込まれるので、無機塩はPVA水溶液に添加時には無水物の形態であってもよい。
本発明で使用する無機塩としては、ハロゲン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩及び酸化物等が例示され、カチオンの種類は特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、アルミニウムなどが特に望ましい。
【0010】
本発明で使用する機能性物質としては、医薬品成分、冷却用組成物、保湿剤、化粧品用成分などが挙げられる。
冷却用組成物としては例えば、アルキレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの物質やこれらの混合物が挙げられる。
保湿成分としては例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マルビトール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩などの物質やこれらの混合物が挙げられる。
これらの機能性物質をPVAに加えることによって、PVA組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の貼付剤、保湿剤、パップ剤やパック剤等の発熱時や炎症時の患部の冷却剤、電気治療器の導電性パッド、飲料などの冷却剤、洗浄剤等の日用品に好適に使用可能な冷却用組成物並びに冷却剤などの用途に用いることが可能となる。
【0011】
上記PVAと無機塩と機能性物質とを含有するPVA水溶液において、PVAの濃度は、5〜80質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。PVAの濃度が5質量%未満であると、組成物層の成形性が低下し、80質量%を超えると、PVAの溶解が困難になる。一方、無機塩の濃度は、0.05〜75質量%が好ましく、4〜50質量%がより好ましい。無機塩の濃度が0.05質量%未満であったり、75質量%を超えると成形性が低下する。また、機能性物質の濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。機能性物質の濃度が0.1質量%未満であると、機能性が発現しないことがあり、20質量%を超えると、成形性が低下する。
水溶液中における無機塩とPVAとの質量比率(無機塩/PVA)は、1/99〜75/25であることが好ましく、1/2〜2/1であることがより好ましい。無機塩の質量比率が1質量%未満であったり、75質量%を超えると成形性が低下する。
なお、水溶液中には、水溶性の有機溶媒を含有することができるが、その濃度が50質量%を超えると、組成物層が固形化しないことがある。
【0012】
本発明において、PVA組成物は、上記PVA水溶液を乾燥して形成されたものである。乾燥条件としては、15〜80℃、0.1〜240時間が好ましい。この方法により、厚さ10μm〜5mm、より好ましくは、50μm〜2mmのPVA組成物を得ることができる。
【0013】
このようにして形成されたPVA組成物は、従来のPVAハイドロゲルとは本質的に異なるものである。
すなわち、従来のPVAハイドロゲルにおいては、低温に保持することにより、多量の水分子を含有する。一方、本発明におけるPVA組成物は、PVA水溶液を常温又は加熱した状態(80℃以下)で十分乾燥することにより、いわゆる自由水としての水の含有量は、一部吸着水としての水が存在するので0質量%にはならないが、PVAの10質量%以下となる。そして、無機塩水和物としてPVA中に取込まれた水の大部分は乾燥によっても除去されることはなく、PVA中に残存する。この無機塩水和物としてPVA中に取込まれた水は、上記自由水とは異なるものであり、自由水とは異なる挙動を示す。したがって、本発明におけるPVA組成物は、従来のPVAハイドロゲルとは基本的に異なるものである。
【0014】
なお、本発明のPVA組成物は、機能性物質と、無機塩と、ポリビニルアルコールとを含有する水溶液を支持体上に塗布、乾燥して、支持体上に形成されてもよい。塗布方法としては、ローラーコーティング、はけ塗りなどの通常の方法を使用することができる。乾燥条件としては、15〜80℃、0.1〜240時間が好ましい。
支持体は、織布、不織布やフィルム等が望ましい。
織布もしくは不織布を用いる場合、材質は特に制限されないが、具体的には綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン、アセテートやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース系繊維、ナイロン、ビニロン、スチロール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル等の合成繊維が挙げられる。
フィルムを用いる場合も特に材質は制限されないが、具体的にはレーヨン、アセテートやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ナイロン、ビニロン、スチロール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリウレタン、PVAやポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルキルエーテルなどのビニル系高分子等の高分子物質が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも出来る。また、支持体として、本発明で使用する無機塩とポリビニルアルコールとを含有する水溶液、すなわち、機能性物質を含有しない無機塩含有ポリビニルアルコール水溶液から形成されるフィルムを使用してもよい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
実施例1
ケン化度97%、平均重合度1,800のPVA(顆粒)200gに、蒸留水300gを加え、さらにCa(NO・4HOをPVAに対して100質量%となるように加え、また、冷却成分として1,3−ブチレングリコールを4質量%、ジプロピレングリコールを3質量%、グリセリンを1質量%となるように添加した。系全体を100℃に加熱し、十分に攪拌し、均一なPVA水溶液とした。
このPVA水溶液をテフロン(登録商標)製の型に、乾燥後の厚さが1mmになるように流し込み、25℃、相対湿度60%RHで24時間乾燥した。
得られたPVA組成物は、JIS K6251の引っ張り試験において、切断のびが473%であり、比較例1のPVA組成物に比べて著しく優れたものであった。
【0017】
比較例1
Ca(NO・4HOを含有しない以外は実施例1と同じ組成の水溶液を用いて、実施例1と同様の手順でPVA組成物を作成した。得られたPVA組成物の保湿能は、実施例1のそれとほとんど同程度であったが、切断のびは327%であった。
【0018】
実施例2
実施例1の冷却成分の代わりに、保湿成分として、グリセリンを10質量%、マルビトールを5質量%となるように添加したPVA水溶液を用いて、実施例1と同様の手順でPVA組成物を作成した。得られたPVA組成物は、切断のびが485%であり、比較例2のPVA組成物に比べて著しく優れたものであった
【0019】
比較例2
Ca(NO・4HOを含有しない以外は実施例2と同じ組成の水溶液を用いて、実施例2と同様の手順でPVA組成物を作成した。得られたPVA組成物の保湿能は、実施例2のそれとほとんど同程度であったが、切断のびは316%であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性物質と、無機塩と、ポリビニルアルコールとを含有する水溶液を乾燥して形成されたポリビニルアルコール組成物であって、前記無機塩が水溶性であり、かつ結晶水を含有することができる塩であることを特徴とするポリビニルアルコール組成物。
【請求項2】
機能性物質が冷却用組成物である請求項1記載のポリビニルアルコール組成物。
【請求項3】
冷却用組成物がアルキレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、またはこれらの混合物である請求項2記載のポリビニルアルコール組成物。
【請求項4】
機能性物質が保湿成分である請求項1記載のポリビニルアルコール組成物。
【請求項5】
保湿成分がグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マルビトール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、またはこれらの混合物である請求項4記載のポリビニルアルコール組成物。

【公開番号】特開2008−239777(P2008−239777A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81730(P2007−81730)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】