説明

ポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を用いたパイル製品およびその製造方法

【課題】カーペットの立毛感、嵩高感およびソフトな風合いを有する高級感のあるソフト性カーペットを提供する。
【解決手段】以下の、(1)〜(3)の条件を満たすポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸で構成され、
(1)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A):嵩密度11(cm3 /g)以下
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(B):嵩密度14(cm3 /g)以上
(3)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)とポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が1:2〜2:1の範囲
以下の(4)〜(6)の条件を満たすポリプロピレンパイル製品。
(4)圧縮仕事量(WC)≧0.29g・cm/cm2
(5)圧縮率(EMC)≧18.5%
(6)圧縮の硬さ(LC)≧0.70non
及び、上記ポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸をタフティングし、パイルとした後、パイルをカットし、解繊加工を施す上述のポリプロピレンパイル製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン捲縮繊維からのパイル製品であって、抜(ぬけ)糸がなく、立毛感があり、嵩高感が高く、かつ、ソフトな風合いを有するポリプロピレン繊維混繊糸を用いたパイル製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン捲縮糸は、軽量性、撥水性、易リサイクル性等に優れていることから、繊維製品等の産業用途に多く用いられている。
ポリプロピレンパイル製品に求められる特性としては、嵩高感、風合いなどがある。これらの特性を高めるために、例えば、カーペット用原糸の単繊維繊度の調整や原糸断面形状の調整、捲縮加工を行っている。しかしながら、嵩高感を得ようとした高捲縮繊維、また、断面形状を異型断面捲縮繊維からのパイル製品は、硬いものとなる。そのためソフト感のあるパイル製品を得るために、ソフト感のある捲縮繊維が必要になってくる。
しかしながら、ソフト感のある捲縮繊維を得るにはいくつかの問題点がある。具体的には、細繊度のフィラメント捲縮繊維を得るには、製糸性面で顔料や染料により制限がある等の問題があった。また、単繊維繊度が細い捲縮繊維は、製糸性が悪くなる。得られた繊維製品も繊維同士が絡み合うと云う欠点がある。
また、低捲縮繊維を得るには、製糸性面で捲縮糸の伸縮性が低く、巻き取り前の張力の変動が吸収できず、製糸性を悪化する恐れがある。また、低捲縮糸を繊維製品にする際も捲縮糸の伸縮性が低く、ニードル前の張力の変動が吸収できず、また、ルーパーから捲縮糸が外れにくくタフト工程通過性が悪くなる。製糸性および、タフト工程通過性のあるソフト感のあるパイル製品用途に用いることは出来なかった。
【0003】
そこで、タフト通過性が良く、風合いのソフトな、ポリプロピレン繊維製カーペットの開発については、従来から数多くの研究、開発がなされており、特許文献1には、湾曲先端部を持つ平らな側部アームを有する実質的に平らな側部長方形中央区分(S字型扁平断面糸)の断面糸が提案されている。
特許文献2には、断面が扁平形状のポリエステル繊維を含んだパイルからなる布帛も提案されている。また、特許文献3には、ポリプロピレンテレフタレート系ポリエステル繊維で、扁平率が1:2〜1:10の扁平繊維も提案されている。
特許文献4には、ポリエステル繊維の扁平断面糸とポリエステル繊維の中空断面糸の混繊糸を用いることが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1は、独特な二吐出部の断面形状であり、更に、使用されている樹脂もナイロン6,6であり、染色されたカーペットであり易リサイクル性に劣るものである。
また、特許文献2は、ポリエステル繊維を含んだ断面が扁平断面繊維からの布帛であり易リサイクル性のポリプロピレン繊維製品ではない。
また、特許文献3は、ポリプロピレンテレフタレート系ポリエステル繊維であり易リサイクル性のポリプロピレン繊維ではない。
更に、特許文献1や特許文献2には、パイルの風合いがソフトおよび柔らかな手触りと記載されている。しかし、これらソフト性および柔らかな手触りで嵩高感および立毛感を高めるための方法であり、後加工にて、解繊および低捲縮化することでソフト感を発現させる方法ではない。
【0005】
また、特許文献3も、風合い、パイルのヘタリ、毛倒れ性、風合いの変化(劣化)等の改良であり、これも後加工にて解繊および低捲縮化することでソフト感を発現させる方法ではない。扁平繊維は、その断面形状から嵩高性を得るための単繊維間空隙が得られないと云う問題がある。
また、特許文献4に開示されている方法は、パイルのヘタリ、毛倒れ性等の改良であり、使用樹脂もポリエステル樹脂で、ポリエステル繊維にリン元素が2000ppm〜10000ppm含有した繊維で、繊維断面も扁平断面糸と中空断面糸の混繊糸であり、易リサイクル性の繊維ではない。
【0006】
また、高嵩高性を得る方法として、繊維断面を多葉断面にする方法は数多く提案されている。例えば、特許文献5には各葉の輪郭に沿って先端で連結する凸曲面を持ち実質的に平面がなく、一葉当たり2〜20の曲率反転も持つ特殊Y断面繊維が提案されているが、これらは何れも後加工にて解繊加工することでソフト感を発現させるものではない。
【0007】
【特許文献1】特表平8−512102号公報
【特許文献2】特開昭61−152849号公報
【特許文献3】特開2000−328393号公報
【特許文献4】特開平5−230737号公報
【特許文献5】特開2002−88564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術における問題点を解決しようとするものであり、後加工でのタフト通過性が良好で、かつ、紡糸安定性に優れたポリプロピレン繊維よりなるパイル製品を提供することにある。
従って本発明の課題は、タフト通過性が良好であり、嵩高感が高く、かつ、風合いが良好であるパイル製品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における、第1の要旨は、以下の、(1)〜(3)の条件を満たすポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸で構成され、
(1)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A):嵩密度11(cm3 /g)以下
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(B):嵩密度14(cm3 /g)以上
(3)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)とポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が1:2〜2:1の範囲
以下の(4)〜(6)の条件を満たすポリプロピレンパイル製品にある。
(4)圧縮仕事量(WC)≧0.29g・cm/cm2
(5)圧縮率(EMC)≧18.5%
(6)圧縮の硬さ(LC)≧0.70non
【0010】
さらに本発明の第2の要旨は、下記の(A)〜(C)の工程を経て、
(A)嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)と、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が、1:2〜2:1の範囲であるポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸をタフティングし、パイルとする
(B)パイルをカットする
(C)解繊加工を施す
ポリプロピレンパイル製品の製造方法にある。
【0011】
本発明のパイル製品は、嵩高感が高く、かつ、ソフトな風合いを有する。パイル製品のタフト工程で、工程通過性を得るために適度な捲縮性を有するソフト性ポリプロピレン繊維を用い、嵩高性を有するポリプロピレン繊維との混繊糸であって、タフト工程後、解繊加工することによって、扁平繊維及び、Y字断面繊維とも単繊維間空隙が得られる。
本発明のポリプロピレン捲縮繊維からなるパイル製品は、ソフトな風合いで、嵩高感に優れることから、車両用オプションマットやラグ・ピースカーペットホームユース等に好適に用いる事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のパイル製品に使用するポリプロピレンマルチフィラメント繊維は、嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)と、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)からなり、その混繊比率が1:2〜2:1であることが必要である。嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)と、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が1:2未満であるとソフト性が欠如するため好ましくない。混繊比率が2:1を超えるとソフト性は高くなるが、嵩高性が劣り好ましくない。
【0013】
本発明で用いる嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)のポリプロピレンマルチフィラメント糸としては、扁平断面糸、三角断面糸、丸断面糸などを用いることができる。
これらの中、扁平断面糸を用いる場合は、扁平率が3〜10の範囲であることが好ましい。5〜8の範囲であることがさらに好ましい。扁平率が3未満であると、嵩高度が高くなりやすく、ソフト感が欠如したものとなり、扁平率が10を超えると、ソフト感に優れるものの、製糸性が不安定である。
【0014】
一方、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)のポリプロピレンマルチフィラメント糸としては、Y字断面糸、中空断面糸、長さ方向に部分的に中空部を有する断面糸などを用いることができる。
【0015】
本発明のポリプロピレン繊維製品は、圧縮仕事量(WC)≧0.29g・cm/cm2 、圧縮率(EMC)≧18.5%、圧縮の硬さ(LC)≧0.70であることが必要である。圧縮仕事量(WC)が0.29g・cm/cm2 未満であると、繊維製品はソフト感に乏しいものとなり、好ましくない。また、圧縮率も18.5%未満であると、ソフト感が乏しくなる。圧縮の硬さ(LC)が0.70未満であると嵩高性に乏しいものとなり、好ましくない。
【0016】
本発明は、タフト工程後解繊加工することでポリプロピレン捲縮糸が解繊され、ソフト感、嵩高感が発現し高級感のある繊維製品が得られる。
【0017】
本発明の繊維製品を構成するポリプロピレンマルチフィラメント糸に用いる樹脂は、特に制限なく、市販品や従来公知の重合方法により得られるいかなるポリマーも用いることができる。また、本発明の繊維製品を構成するポリプロピレンマルチフィラメント糸には、繊維の物性を害さない範囲で、着色顔料、分散剤、蛍光増白剤、艶消剤、滑剤、帯電防止剤、消臭剤、抗菌剤、難燃剤等の添加剤が配合されていてもよく、またこれら添加剤の種類、量は異なっていてもよい。
【0018】
次に、本発明のポリプロピレンパイル製品の製造方法を説明する。
本発明のポリプロピレンパイル製品の製造方法は、嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)と、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)との混繊比率が1:2〜2:1の範囲である混繊糸をタフティングし、パイルとすることが必要である。
【0019】
本発明のポリプロピレンパイル製品の製造方法は、タフティング後パイルに解繊加工を施すことが必要である。
本発明は、この解繊加工を施すことによってソフト感、嵩高感が発現し高級感のあるパイル製品が得られる。
【0020】
本発明のパイル製品を構成するポリプロピレンマルチフィラメント繊維は、公知の溶融紡糸方法で得ることができる。溶融紡糸においては、芯鞘構造又は貼合わせ構造等の複合繊維であってもよい。
次に、溶融押出機により溶融した樹脂を紡糸口金から押し出し、紡出糸の表面に紡糸油剤を給油し、糸条を巻き取ることにより未延伸糸を得る。未延伸糸は、そのまま連続工程で延伸を行ってもよいし、一旦巻き取った後延伸してもよい。延伸は、1段又は2段以上の多段で行ってもよく、多段延伸における延伸倍率比の設定も特に限定されない。
【0021】
このようにして得られた未延伸糸に延伸およびホットエアー捲縮加工を施す。この際、溶融紡糸された未延伸糸を巻き取ることなく、連続して延伸、延伸同時ホットエアー捲縮加工、エアー交絡する直接紡糸延伸捲縮方式、又は未延伸糸を一旦巻取った後、延伸同時ホットエアー捲縮加工、エアー交絡する方式などを用いることにより捲縮糸を得ることができる。
【0022】
また、延伸工程では熱源が接触型或いは非接触型であってもよい。延伸での延伸倍率は、1.5〜5倍とすることが好ましく、延伸倍率が1.5倍未満では、得られるフィラメント糸の繊維強度が低く、5倍を超えると、糸切れ等発生の危険性が高くなる。また、延伸温度は、50〜130℃であることが好ましく、延伸温度が50℃未満では、延伸倍率が低くなり、得られるフィラメント糸の繊維強度も低く、130℃を超えると、糸切れが発生する。
次いで、得られたソフト性ポリプロピレン繊維製品としては、カットパイルカーペットまたは一部にカットパイル部が混在したカットパイルカーペット、あるいは一部にループパイル部が混在したカットアンドループパイルカーペットとしてもよい。
【0023】
このパイル製品を形成した後、接着剤を裏面に塗布し、この接着剤を乾燥・硬化してパイルを固定することにより本発明のポリプロピレン繊維からなるパイル製品であるソフトカーペットが得られる。このとき、この接着剤を介して基材の裏面に、その用途に応じた裏地、例えば、合成ゴムまたは塩化ビニル樹脂からなるシートや麻布などを貼り付けてもよい。用いる接着剤は、その用途や裏地の材質に応じて任意の接着剤を用いることができる。例えば、アクリル系ラテックスまたはウレタン系接着剤などその基布の種類に合わせて適宜選択する。
【0024】
なお、本発明で得られる繊維製品の各特性値の測定は以下の方法で求め、かつ、評価した。
(嵩密度)
試料を束ねカセ状の測定用サンプルを作成し、乾熱温度70℃×10分の熱処理を行った後、図1に示した一定の巾、高さを有する凹所を設けたサンプル台の凹部にサンプルを充填し、その上に測定荷重(240g)を載せ、所定時間(10分)後の高さ(L)を読み取り、測定器(サンプル台凹部の側面)よりはみ出たサンプルをカットし、サンプル台内のサンプルの重量を測定し、下記の式により嵩密度を算出した。
嵩密度(cm3 /g):L×4/g
図1はサンプル台(測定器)の斜視図で、上方に測定用の凹部が設けられており凹部の巾は1cm、長さは4cm、高さ(深さ)は3cmである。図2は同測定器の長さ方向からの断面図で、Lは凹部の高さを示している。
【0025】
(扁平率)
・測定薄金属板(厚さ0.5mm、穴径0.8mm)の穴に繊維を通す。
・測定薄金属板の上下にある繊維を剃刀で切断する。
・光学顕微鏡のステージに乗せ、切断面を写真撮影する。
・写真より、繊維断面の巾及び長さを測定し、断面巾と断面長の比を求める。
これらを、10回繰り返し、平均値を取り、扁平率とした。
【0026】
(捲縮率)
・試料を束ねカセ状のサンプル糸を作成する。
巻き取張力・・・D(繊度:デシテックス)当たり1/15g
巻き回数・・・・2回(繊度によって変更)
・サンプル糸を無荷重下で、乾熱温度80℃で10分間熱処理をする。
・熱処理後10分以上無荷重下で放置する。
・サンプル糸の一端に測定荷重Aを掛け1分後に糸長(L1)を測定する。
測定荷重A=D×(1/10)×(2×巻き回数)
・測定荷重Aを除き2分間放置する。
・サンプル糸の一端に測定荷重Bを掛け1分後に糸長(L2)を測定する。
測定荷重B=D×(1/10)×(2×巻き回数)
・計算式:捲縮率(%)=((L1−L2)/L1)×100により算出した数値を捲縮率とした。
【0027】
(圧縮仕事量(WC)、圧縮率(EMC)、圧縮硬さ(LC))
ポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を用いて、1/8ゲージのタフティングマシンで、パイル打ち込み密度12/インチ、パイル高さ8mmのカットパイルカーペットを作成し、前記カーペットにポリッシャー加工を施したものを試料として測定した。
単純圧縮試験機(カトーテック株式会社製、製品名:KES−FB3)
試料加圧板より大きな試料を受圧板の上にセットし、測定面積:2cm2 、測定速度:50sec/mmの条件で、最大荷重(50gf/cm2 )まで測定した。
1)圧縮仕事量(WC)(g・cm/cm2 ):カーペットのソフト感と、立毛感・嵩高性を表す指標で、次のように求める。圧力0.5g/cm2 でのカーペットの厚みを(To )として、50g/cm2 まで圧力を加えたときの厚み(Tm )までの圧力PとdTの積分したもの。
2)圧縮率(EMC)(%):最大荷重(50gf/cm2 )での圧縮率で、下記の計算式で求めた。
(To −Tm )/To ×100(%)
3)圧縮の硬さ:カーペットのソフト感と、立毛感・嵩高性を表す指標で、次のように求める。圧力0.5g/cm2 でのカーペットの厚みを(To )として、50g/cm2 まで圧力を加えたときの厚み(Tm )までの圧力PとdTの積分値/ 圧力0.5g/cm2 でのカーペットの厚みを(To )として、50g/cm2 まで圧力を加えたときの厚み(Tm )までの圧力Pの面積。
4)圧縮量:最大荷重(50gf/cm2 )までの凹み量で、下記の計算式で求めた。
o −Tm (mm)
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
ポリプロピレンホモポリマー(日本ポリケム製SA03(MFR=31g/10分、融点=164℃))にベージュ色顔料(ベージュ用マスターバッチ(製品名:1T90 大日精化工業(株)製))を0.54質量%の割合でブレンドしたものを用いた。上記混合樹脂を溶融押出機にて、押出温度を215℃、紡糸温度205℃で、孔形状が扁平率1:10(0.2mm×2.0mm)の紡糸口金(孔数120)と孔形状がY型の紡糸口金(孔数60)を用いて、吐出し、紡糸速度715m/分で紡糸した。
引き続いて、一旦巻き取ること無く、得られた未延伸マルチフィラメント糸を延伸倍率1.9倍、延伸温度100℃、熱セット温度125℃、熱風温度175℃で同時延伸ホットエアー捲縮加工を行い、捲縮緩和率20.0%で巻き取り、2000dtex180フィラメント(以下、fと表記)のポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を得た。
得られた混繊糸は捲縮率が7.8%、扁平断面糸の扁平率6.5、嵩密度9.3(cm3 /g)であった。また、混繊糸を構成する扁平断面糸と、Y型断面糸の嵩密度(cm3 /g)はそれぞれ、7.1、14.0であった。
前記ポリプロピレンマルチフィラメント繊維を1/8ゲージのタフティングマシンを用い、パイル打ち込み密度12/インチ、パイル高さ:8mmでタフトし、カットパイルカーペットとした。タフト工程の通過性は特に問題も無く良好であった。得られたカットパイルカーペットにポリッシャー加工を施しカーペット表面を解繊した。得られたカーペットは、立毛感・嵩高感・ソフト感の優れたカーペットとなった。繊維の物性、捲縮率、扁平率、WC、EMC、nonを表1〜表2に示す(以下、同)。
【0029】
(実施例2)
実施例1で用いたと同じポリプロピレンホモポリマーにアイボリー色顔料(アイボリー用マスターバッチ(製品名:P591 大日精化工業(株)製))を0.78質量%の割合でブレンドし、扁平率1:10(0.2mm×2.0mm)の紡糸口金の孔数を60、孔形状がY型の紡糸口金の孔数を120、セット時の熱風温度を150℃に変更したほかは実施例1と同様にして、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。得られた混繊糸の捲縮率7.4%、単繊維断面の扁平率7.0、嵩密度9.1(cm3 /g)であった。また、混繊糸を構成する扁平断面糸と、Y型断面糸の嵩密度(cm3 /g)はそれぞれ、7.1、14.0であった。
前記ポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を用いて実施例1と同様にカットパイルカーペットを製造し、圧縮仕事率などの評価を行ったが、タフト工程の通過性は特に問題も無く良好であった。また、立毛感・嵩高感・ソフト感の優れたカーペットとなった。
【0030】
(実施例3)
アイボリー色顔料を0.78質量%の割合でブレンドし、孔形状がY型の紡糸口金のかわりに孔形状が中空型の紡糸口金(孔数60)を用いて、熱風温度150℃、捲縮緩和率18.4%としたほかは、実施例1と同様にし、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を得た。得られた混繊糸は、捲縮率7.6%、扁平断面糸の扁平率6.5、嵩密度8.8(cm3 /g)であった。また、混繊糸を構成する扁平断面糸と、Y型断面糸の嵩密度(cm3 /g)はそれぞれ、7.1、9.6であった。
実施例1と同様にカットパイルカーペットを製造し、圧縮仕事率などの評価を行ったが、タフト工程の通過性は特に問題も無く良好であった。また、立毛感・嵩高感・ソフト感の優れたカーペットとなった。
【0031】
(比較例1)
孔形状がY断面の紡糸口金(孔数180)を使用し、延伸倍率を2.2倍、捲縮緩和率20.0にしたほかは、実施例1と同様にし、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント糸を得た。
得られた繊維の物性を表1に、繊維製品の評価結果を表2に示すが、得られた混繊糸の捲縮率9.5%、嵩密度14.0(cm3 /g)であった。
実施例1と同様にしてカットパイルカーペットを製造しようとしたが、カーペット表面の低捲縮化ができなかった。得られたカーペットは、嵩高性には優れるが、硬い風合いのカーペットとなった。
【0032】
(比較例2)
孔形状が扁平率1:10(0.2mm×2.0mm)の紡糸口金(孔数180)を使用し、延伸倍率を1.9倍、捲縮緩和率15.4にしたほかは、比較例1と同様にし、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント糸を得た。扁平断面糸の扁平率6.5、捲縮率6.0%であった。
比較例1と同様に、カットパイルカーペットを製造した。得られたカットパイルカーペットにポリッシャー加工を施し、カーペット表面を解繊および低捲縮化した。得られたカーペットは、ソフト感に優れるが、立毛感と嵩高感の無いカーペットとなった。
【0033】
(比較例3)
孔形状が扁平率1:4(0.2mm×0.8mm)の扁平断面の紡糸口金(孔数120)と孔形状がY型の紡糸口金(孔数60)を用い、延伸倍率を2.2倍、捲縮緩和率20.0にしたほかは、実施例1と同様にして、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸を得た。
得られた混繊糸は、捲縮率7.6%、扁平断面糸の扁平率2.5、嵩密度10.6(cm3 /g)であった。また、混繊糸を構成する扁平断面糸と、Y型断面糸の嵩密度(cm3 /g)はそれぞれ、8.8、14.0であった。
実施例1と同様にしてカットパイルカーペットを製造しようとしたが、低捲縮化ができなかった。得られたカーペットは、嵩高性に優れるが、硬い風合いのカーペットとなった。
【0034】
(比較例4)
比較例1のポリプロピレンマルチフィラメント繊維として、孔形状が扁平断面の紡糸口金(孔数180)を使用し、延伸倍率を1.9倍、捲縮緩和率15.4にしたほかは、比較例1と同様にして、2000dtex180fのポリプロピレンマルチフィラメント糸を得ようとしたが紡糸安定性が悪く糸を巻き取る事が出来なかった。扁平断面糸の扁平率は、13であった。
上述の各実施例、比較例で得られたカーペットの性能を表1、表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例及び比較例で得られたカーペットの嵩密度を評価するための測定器具(サンプル台)の斜視図である。
【図2】同、断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、(1)〜(3)の条件を満たすポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸で構成され、
(1)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A):嵩密度11(cm3 /g)以下
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(B):嵩密度14(cm3 /g)以上
(3)ポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)とポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が1:2〜2:1の範囲
以下の(4)〜(6)の条件を満たすポリプロピレンパイル製品。
(4)圧縮仕事量(WC)≧0.29g・cm/cm2
(5)圧縮率(EMC)≧18.5%
(6)圧縮の硬さ(LC)≧0.70non
なお、嵩密度(cm3 /g)は、荷重(240g)を載せた後の高さから求めた。
【請求項2】
下記の(A)〜(C)の工程を経て、
(A)嵩密度11(cm3 /g)以下のポリプロピレンマルチフィラメント糸(A)と、嵩密度14(cm3 /g)以上のポリプロピレンマルチフィラメント糸(B)の混繊比率が、1:2〜2:1の範囲であるポリプロピレンマルチフィラメント混繊糸をタフティングし、パイルとする
(B)パイルをカットする
(C)解繊加工を施す
ポリプロピレンパイル製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−50407(P2009−50407A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219053(P2007−219053)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(506300464)MRCパイレン株式会社 (6)
【Fターム(参考)】