説明

ポリプロピレン成形品、シート状ポリプロピレン成形品およびポリプロピレン熱成形品の製造方法

【課題】高剛性および高透明性なアイソタクティシティの高いポリプロピレン成形品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アイソタクティックペンタッド分率が95%モル以上の立体規則性を有するポリプロピレン溶融物を流動させる。ポリプロピレン溶融物を、−200℃以上50℃以下に冷却し、かつ0.1秒以上100秒以下で維持し、100nm以下の中間相もしくは単斜晶のドメインおよび非晶相を主要組成とする急冷ポリプロピレン高次構造体を得る。急冷ポリプロピレン高次構造体を、吸熱性転移を示す温度域かつポリプロピレンの融解温度以下の温度に昇温して熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品、このポリプロピレン成形品の熱成形に供されるシート状ポリプロピレン成形品およびポリプロピレン熱成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明シート分野においてポリ塩化ビニル(以下、PVCと略記する)樹脂が多用されてきたが、近年の環境問題などへの意識の高まりとともに、PVC樹脂に変わる新しい透明シートが要求されている。このようなシートとして、ポリプロピレン(以下、PPと略記する)からなるシートが注目されている。
しかしながら、PPは結晶性樹脂であるために、透明性について十分でない場合がある。また、透明性シートは各種物品を包装する分野で主として用いられることからも、シート基材の特性として、透明性に加えて、他の物性、特に剛性に優れたシートが望まれている。
【0003】
一般に、高剛性を得るためには、アイソタクティックPP(以下、i−PPと略記する)の立体規則性(タクティシティ)の高いPPを用いi−PP溶融物を徐冷することなどにより高結晶化すればよいことが知られている。しかしながら、高剛性と同時に高透明性をも得ることは困難である。
透明性を阻害する要因として考えられているのは、ミクロンサイズの球晶である。i−PPは、その立体規則性が高いほど結晶化速度が速く結晶成長が増すため、結果的に球晶が大きくなる。このため、立体規則性の高いi−PP溶融物を冷却してもミクロンサイズの球晶の含有量が増し透明性を損ない易い。また、熱成形性についても、高い立体規則性のi−PPでは、結晶化速度が速いため、塑性変形が困難であると考えられていた。
このことにより、i−PPの高透明性成形品を得るためには、i−PP溶融物を急速冷却することにより実現できることが知られている。また、この急速プロセスに用いるi−PPは、結晶化速度を遅くして結晶の生成を抑制するなどの手段が知られている。
【0004】
例えば、熱成形性の向上には、結晶性の低い非晶性の透明性PPシートを原反に用いることが望ましいとされている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、熱成形用原反シートとしては、低剛性のために変形や熱収縮率が大きいので、成形品の寸法精度が低下し、歩留まりの向上が得られにくい。
また、急冷効果をより発揮するために、i−PPの立体規則性は一定の値以下に制限されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、高い立体規則性を有していても結晶化速度が比較的に遅いメタロセン系触媒で重合したi−PPを用いることが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、100%近いi−PPを用いる場合、特殊な冷却プロセスを用い、かつ結晶の生成を抑制し中間相の形成を促す石油樹脂などの特殊な添加剤を添加することで、高透明性と一定の剛性とが得られることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
さらに、急速冷却後、成形品を表面粗さの小さい金属性のロールやベルトなどと接触させ熱処理を行うことによって高透明性を備えたPP成形品が得られることが知られている(特許文献5参照)。これは、急速冷却によって生成した非結晶性PP成形品表面が加熱された金属などと接触することにより、表面光沢が増す効果などのためと考えられている。
また、特許文献5には、立体規則性の低いi−PPを用いる方法や、立体規則性の高いPPと低いPPとをブレンドして平均の立体規則性を低くして結晶化速度を遅くする方法などが採られている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−213976号公報
【特許文献2】特開平11−172059号公報
【特許文献3】特開2004−66565号公報
【特許文献4】特許第3725955号公報
【特許文献5】特開2003−170485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1ないし特許文献5に記載のような従来の各種方法では、より高い剛性および透明性との双方を満足することが困難である。すなわち、高透明性を維持しつつ従来にない高い剛性を有する成形品を得ること、また熱成形品の場合、変形が少なく寸法精度の高い熱成形用原反シートを得ることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、従来にない高剛性を有した高透明性のポリプロピレン成形品、このポリプロピレン成形品の熱成形に供されるシート状ポリプロピレン成形品およびポリプロピレン熱成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、立体規則性の高いi−PP溶融物の急速冷却などによって得られる高い次構造と熱処理が高次構造に及ぼす効果について鋭意検討を行った。その結果、本発明は、結晶が大部分を占める高次構造であっても高い透明性が得られるという新しい知見を見出したものである。例えば、i−PP急冷品を加熱した金属ロールや金属ベルトに接触することによる全ヘイズの向上効果が、主として成形品の表面光沢の向上によるものと従来考えられていたが、より高い立体規則性のPPの場合は、熱処理により内部の高次構造自体が高透明性を発現する構造により大きく変化するという発見に基づくものである。本発明は、従来の技術思想と反するこれらの知見に基づいて、従来困難とされた領域の高い立体規則性を有するPPを用いて、その溶融物の一定以上の急速冷却を行うのみで特殊な冷却条件や補助剤の添加を必要とすることなく高透明かつ従来にないレベルの高い剛性を有するPP成形品という有益な用途を完成させたものである。
【0009】
本発明に記載のポリプロピレン成形品は、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品であって、密度法による結晶化度70%以上であり、100nmを超える結晶ドメインを実質的に含まないことを特徴とする。
この発明では、密度法による結晶化度70%以上で、100nmを超える結晶ドメインを実質的に含まない、主としてナノサイズの結晶性ドメインと非晶性ドメインとにて構成された高次構造(以下、ポリ・ナノ・ドメイン構造)であるアイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレンの成形品である。
このことにより、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上で、密度法による結晶化度70%以上の結晶性の高いポリプロピレンでも、高剛性および高透明性の双方が得られ、加温された状態でも剛性を維持でき、汎用性を向上できる。
なお、密度法による結晶化度は、JIS K 7112 Dに準拠して求めた密度から詳細は後述するする式から算出される値である。また、100nmを超える結晶ドメインを実質的に含まない状態としては、透明性が実質的に低下しなければよく、100nmを超える結晶ドメインの含有を完全に排除するものではない。具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)により、結晶相と非晶相とからなるモルフォロジーを観察することにより確認でき、観察領域内で100nmを超える結晶ドメインが観察されない状態である。
【0010】
そして、本発明では、請求項1に記載のポリプロピレン成形品であって、前記結晶ドメインは、5nm以上70nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下の粒状結晶および積層ラメラ晶ドメインである構成とすることが好ましい。
この発明では、結晶ドメインとして、5nm以上70nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下の粒状結晶および積層ラメラ晶ドメインにて構成されている。
このことにより、結晶性の高い高剛性のポリプロピレンでも高透明性が得られる。
【0011】
本発明に記載のポリプロピレン成形品は、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品であって、密度法による結晶化度70以上であり、実質的に100nm以下の結晶ドメインにて構成されたことを特徴とする。
この発明では、密度法による結晶化度70%以上で、実質的に100nm以下の結晶ドメインにて構成された、主としてナノサイズの結晶性ドメインと非晶性ドメインとにて構成された高次構造(以下、ポリ・ナノ・ドメイン構造)であるアイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレンの成形品である。
このことにより、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上で、密度法による結晶化度70%以上の結晶性の高いポリプロピレンでも、高剛性および高透明性の双方が得られ、加温された状態でも剛性を維持でき、汎用性を向上できる。
【0012】
そして、本発明では、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、結晶相と非晶相とを主要組成とし、実質的に中間相を含まない構成とすることが好ましい。
この発明では、実質的に中間相を含まない構成としている。すなわち、中間相は、単に分子鎖が何本か配列して互いに寄り添った高次構造体ないし分子配向とせいぜい一次元の短距離秩序しか有しないスメクチック液晶構造であるため、三次元の短距離秩序を有するα晶に比べ、その弾性率は小さく、また分子鎖の配向揺らぎも大きく、光の屈折率が均一でないものと考えられ、光散乱が大きく透明性を損なうおそれがある。
このように、ポリ・ナノ・ドメイン高次構造体において、実質的に中間相を含まない構造とすることにより、従来にない高い結晶化度を実現でき、結果的に従来と同程度に高い透明性と従来にない高い剛性を同時に有するポリプロピレン成形品が得られる。
【0013】
また、本発明では、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、前記密度法による結晶化度は、70%以上90%以下である構成とすることが好ましい。
この発明では、結晶化度を70%以上90%以下に設定している。
このことにより、組成の大半が結晶相となり、高い剛性とともに諸物性のバランスに優れた成形品が得られる。
ここで、結晶化度が70%より低いと、剛性が低下するおそれがある。一方、結晶化度が90%より高くなると、塑性変形し難く耐衝撃性などが低下するという不都合が生じるおそれがある。このことにより、結晶化度を70%以上90%以下、好ましくは75%以上90%以下、さらに好ましくは75%以上85%以下に設定する。
【0014】
また、本発明では、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のポリプロピレン成形品を実現したとき、透明性に関して、全ヘイズは厚さ寸法が0.1mm以上0.55mm以下の場合で40%以下、厚さ寸法が0.1mm以上0.45mm以下の場合35%以下、厚さ寸法が0.1mm以上0.35mm以下の場合で20%以下、また全光線透過率はいずれの場合も90%を上回るという、従来と同程度の高透明成形品が結果的に得られる。
【0015】
さらに、本発明では、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のポリプロピレン成形品を実現したとき、成形品の剛性に関しては、本質的に厚さ依存性がなく、また材料固有の弾性率を示す貯蔵弾性率を指標として測定すると、23℃で2,400MPa以上5,000MPa以下、好ましくは80℃で800MPa以上1500MPa以下で、かつ、120℃で300MPa以上650MPa以下となる従来にないレベルの高剛性成形品が得られる。
このことにより、従来に比べ、23℃(常温)では1.3倍程度、80℃では1.5倍、120℃では2倍近い剛性が得られ、例えば加熱食品などを封入する容器などにも、変形することなく十分に利用でき、汎用性を向上できる。
ここで、23℃での貯蔵弾性率が2,400MPaより低くなると、取扱時に変形や破損などを生じるおそれがある。一方、23℃での貯蔵弾性率が5,000MPaより高くなると、シート状成形品の巻き取りなどのハンドリングが困難となる不都合を生じるおそれがある。本発明では、23℃での貯蔵弾性率を2,400MPa以上5,000MPa以下、好ましくは2,400MPa以上4,000MPa以下に設定することができる。また、本発明では、120℃での貯蔵弾性率が300MPaより低くなると、例えば折り箱や容器などの成形品に加工して封入した内容物を加熱した際、変形するなど耐熱性の点で不都合を生じるおそれがあるが、300MPa以上650MPa以下に設定することができるために、そのような問題発生を回避できる。
すなわち、本発明によれば、従来に比べ常温もしくは80℃の剛性を維持したまま、10%程度の厚さ寸法の削減ができ、なおかつ120℃の剛性を上回る高透明PP成形品が得られる。また、常温もしくは80℃剛性に支障がなければ25%程度の厚さ寸法の削減が得られ、120℃の剛性を維持できる上、透明性の向上を図ることが出来る。さらには、厚さ寸法の削減によりコストの低減が得られる。
なお、貯蔵弾性率は、詳細は後述するが、成形品の動的粘弾性を測定することにより得られる。
【0016】
また、本発明では、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、前記アイソタクティックペンタッド分率は、97モル%以上である構成とすることが好ましい。
この発明では、アイソタクティックペンタッド分率を97モル%以上としている。
このように、非常に高いアイソタクティックペンタッド分率のi−PPを原料として使用して、高剛性および高透明性の双方が得られる。
【0017】
そして、本発明では、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上のプロピレンホモポリマーを原料樹脂として用いて成形された構成とすることが好ましい。
この発明では、原料樹脂として、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上のプロピレンホモポリマーを用いている。
このことにより、高剛性および高透明性の双方が得られ、加温時も十分な剛性が得られるポリプロピレンの成形品が容易に得られる。
【0018】
また、本発明では、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、シート状に成形された構成とすることが好ましい。
この発明では、シート状に成形することで、例えば折り箱や容器などの成形が容易にでき、成形品の製造性を向上できる。
【0019】
また、本発明では、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、内部に収容空間を有した容器状に成形された構成とすることもできる。
この発明では、内部に収容空間を有した容器状に成形することで、広く利用されている例えば食品容器などに利用しても、高剛性で確実に食品を収容できるとともに、内容物を視認でき、さらには食品を加熱する場合でも容器毎加熱しても十分な高温剛性により確実な収容が得られ、利用の拡大が容易に図れる。
【0020】
本発明に記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法は、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品を製造するポリプロピレン成形品の製造方法であって、アイソタクティックペンタッド分率が95%モル以上の立体規則性を有するポリプロピレン溶融物を流動させる流動工程と、この流動工程で得られた前記流動させたポリプロピレン溶融物を、温度範囲が−200℃以上50℃以下に冷却し、かつ0.1秒以上100秒以下で維持して、中間相もしくは単斜晶(α晶)のドメインおよび非晶相を主要組成とする急冷ポリプロピレンを得る急冷工程と、この急冷工程で得られた前記急冷ポリプロピレン高次構造体を、吸熱性転移を示す温度域かつポリプロピレンの融解温度以下の温度に昇温し、かつ0.1秒以上1,000秒以下で維持する熱処理を実施する熱処理工程と、を実施することを特徴とする。
この発明では、流動工程にて、アイソタクティックペンタッド分率が95%モル以上の立体規則性を有するポリプロピレン溶融物を流動させる。この後、急冷工程にて、流動させたポリプロピレン溶融物を、温度範囲が−200℃以上50℃以下に冷却し、かつ0.1秒以上100秒以下で維持し、中間相もしくは単斜晶(α晶)のドメインおよび非晶相を主要組成とする急冷ポリプロピレン高次構造体を生成させる。さらに、熱処理工程にて、急冷ポリプロピレン高次構造体を、吸熱性転移を示す温度域かつこの急冷ポリプロピレン高次構造体の融解温度以下の温度に昇温し、かつ0.1秒以上1,000秒以下で維持する熱処理を施す。
このことにより、密度法による結晶化度70%以上で、100nmを超える結晶ドメインを実質的に含まない高剛性および高透明性のポリプロピレン成形品が得られる。
【0021】
そして、本発明では、請求項13に記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、前記急冷工程は、前記ポリプロピレン溶融物を、温度範囲が−200℃以上30℃以下に急速冷却する構成とすることが好ましい。
この発明では、急冷工程でのポリプロピレン溶融物の冷却として、温度範囲が−200℃以上30℃以下に急速冷却する。
このことにより、非晶相とナノサイズの中間相とからなるポリ・ナノ・ドメイン構造が得られ、続く、熱処理工程後もこのポリ・ナノ・ドメイン構造のモルフォロジーはほぼ維持される結果、100nmを超える結晶ドメインが実質的に生成せず、高剛性で高透明性のポリプロピレン成形品が得られる。
【0022】
また、本発明では、請求項13または請求項14に記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、前記熱処理工程は、前記吸熱性転移を示す温度域が110℃以上で、かつ前記ポリプロピレンの融解温度が150℃以下である構成とすることが好ましい。
この発明では、熱処理工程において、吸熱性転移を示す温度域を110℃以上とし、ポリプロピレンの融解温度を150℃以下として熱処理する。
このことにより、100nmを超える結晶ドメインが実質的に生成せず、高剛性で高透明性のポリプロピレン成形品が得られる。
【0023】
さらに、本発明では、請求項13ないし請求項15のいずれかに記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、前記熱処理工程の後に、この熱処理工程で得られた前記熱処理されたポリプロピレンのシート状成形品を熱成形する熱成形工程を実施する構成とすることができる。
この発明では、熱処理工程後に得られたシート状のポリプロピレン成形品を、例えば凹凸状や容器状などの立体形状を有する成形品に成形する場合、例えばさらに吸熱性転移を示す温度域かつ熱処理されたポリプロピレン成形品の融解温度以下の温度域となる熱成形温度で熱成形する。すなわち、熱処理工程における熱処理にてシート状や容器状などの成形品に成形するのではなく、熱処理により得られたポリプロピレン成形品をさらに熱成形する。
このことにより、従来の熱成形時にしばしば起きた原反シートの反り・変形を回避し、最終的に寸法精度が高い状態で、結晶化度が70%以上で高い剛性のポリプロピレンにおける高い透明性のポリプロピレン成形品が容易に得られる。
以上のことにより、例えば折り箱や容器などの熱成形品に加工した際の十分な剛性が得られ、高透明性による内容物の視認性の向上なども図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のポリプロピレン成形品に係る一実施形態について説明する。
(ポリプロピレン成形品の構成)
本発明のポリプロピレン成形品は、いわゆるアイソタクティックポリプロピレン(以下、i−PPと略記する)成形品で、アイソタクティックペンタッド分率の下限値が95モル%以上であり、好ましくは97モル%以上である。また、本発明のアイソタクティックペンタッド分率の上限値は、特に限定されないが、例えば、99.99モル%以下、好ましくは99.95モル%以下である。
ここで、アイソタクティックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクティック結合したもの)でのアイソタクティック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。本発明のi−PP成形品は、透明性が高く、剛性に優れた成形品を得ることができる。アイソタクティックペンタッド分率が高いほど高剛性を実現できるので、アイソタクティックペンタッド分率は高いことが好ましい。
【0025】
そして、本発明のi−PP成形品の高次構造は、主として結晶相と非晶相とにより構成されている。具体的には、広角X線回折(WAXD:Wide-Angle X-ray Diffraction)において、実質的に単斜晶(以後、α晶と記載する)からなる結晶相で、結晶相が70%以上99.9%以下、非晶相が0.1%以上30%以下の二相で構成されている。好ましくは、本発明のi−PP成形品はα晶相が75%以上99.5%以下であり、実質的に中間相を含まない。中間相を含まないことは、X線回折により確認することができる。なお、結晶相としては、適宜、六方晶(β晶)、三斜晶(γ晶)の各結晶相が混在してもよい。
さらに、本発明のi−PP成形品の高次構造は、密度法による結晶化度の下限値が70%以上、好ましくは75%以上である。また、結晶化度の上限値は、特に限定されないが、例えば、90%以下、好ましくは85%以下である。結晶化度が上記の範囲であると、高い剛性と同時に適度の塑性変形性が得られる。
また、結晶相は、非晶相を介して全体的に略均質に存在することが好ましい。この場合、成形品において、より高い透明性が得られるため好ましい。また、熱成形による偏肉が少なく、成形後の容器などの肉厚分布がより均一になるので好ましい。
さらに、結晶相はラメラ晶が積層した積層ラメラ晶ドメインとして、非晶相を介して全体的に均質に存在していてもよい。
ここで、積層ラメラ晶とは、平板状結晶(以下、「ラメラ晶」と称す。)が同方向に並んだ構造体を意味する。しかしながら、このラメラ晶は結晶性ポリマーの分野において確立された「ラメラ晶」の折り畳み鎖やその積層体を必ずしも意味するものではない。結晶相において、非晶部を間に挟んで同じ配向性を持ったラメラ晶が積層する。このように同じ配向性を持ったラメラ晶の集まりをひとつのドメインとして、積層ラメラ晶ドメインとする。そして、各積層ラメラ晶ドメインは、それぞれの配向性を有しており、各積層ラメラ晶ドメインは非晶相を介して全体的に均質に存在している。なお、すべての積層ラメラ晶ドメインが同じ配向性を持っていてもよい。
【0026】
さらに、本発明のi−PP成形品の高次構造は、100nmを超える球晶や積層ラメラ晶ドメインを実質的に含まないものである。言い換えると、本発明のi−PP成形品における組織構造体の大きさは100nm以下であり、好ましくは70nm以下である。さらに、組織構造体の下限値としては、特に限定されないが、例えば、1nm以上であり、または5nm以上である。
ここで、100nmを超える球晶や積層ラメラ晶ドメインを含まないことは、偏光光学顕微鏡により数μm以上の球晶の存在しないことを確認した後、RuO4染色を施した薄膜切片について2000倍の透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により、各々の成形品の表面付近から中心部に向かって3〜4回スキャンすることにより確認できる。また、結晶性の組織構造体の実際のサイズは、10万倍から20万倍のTEMにより非染色性の結晶相と染色された非晶相とからなる積層ラメラ晶ドメインなどのモルフォロジーを観察することにより確認することができる。
なお、ここでいう組織構造体のサイズは、上述の通り透過型電子顕微鏡(TEM)観察により確認した場合の数値である。したがって、小角光散乱(SALS:Small-Angle Light Scattering)理論に基づいて散乱体のサイズを算出した場合の数値範囲とは必ずしも一致しない。
【0027】
本発明のi−PP成形品は、上述したようにナノオーダーの組織構造体からなるポリ・ナノ・ドメイン高次構造を有するので、高い結晶化度にもかかわらず、高透明性を達成することができる。すなわち、従来のi−PP成形品では高結晶化度を有する場合の透明性が低かった。これは、ドメインが大きいため、光を散乱させるなどの悪影響が及ぼされるためである。
本発明のi−PP成形品が、高い結晶化度にもかかわらず高透明性を達成することができる理由としては、急冷PPに熱処理を施すなどにより得られる本発明のi−PP成形品では、熱処理後、中間相がα晶に転移し、局所的な分子鎖の配向揺らぎが小さくなる。その結果、分子鎖の充填状態が均一化し系全体として屈折率が均質化することにより、高い透明性が得られると考えられる。
【0028】
さらに、本発明のi−PP成形品の高次構造は、例えば、小角X線散乱(SAXS:Small-Angle X-ray Scattering)により得られる長周期の上限値が100nm以下、好ましくは70nm以下である。また、長周期の下限値は、特に限定されないが、例えば、1nm以上、特に5nm以上である。
ただし、本発明のi−PP成形品は散乱強度のピークは、球晶を含む高次構造に比べて明瞭ではなく、長周期が存在しない場合もある。これにより、推測の域を出ないが、より一層透明性が向上するものと考えられる。また、SAXSの散乱強度には異方性が認められず、結晶性ナノ・ドメイン内の分子鎖の向きは互いに相関はなく無秩序であると考えられるが、この点は成形品の透明性とは必ずしも関係がないものと考えられる。
【0029】
本発明のi−PP成形品は、全ヘイズが厚さ寸法0.1mm以上0.55mm以下の場合で40%以下、厚さ寸法0.1mm以上0.45mm以下の場合で35%以下、厚さ寸法0.1mm以上0.35mm以下の場合で20%以下、また全光線透過率はいずれの場合も90%を上回り、従来と同程度の高透明性成形品が結果的に得られる。
また、本発明のi−PP成形品は、貯蔵弾性率が、23℃で2,400MPa以上5,000MPa以下であり、特に2,400MPa以上4,000MPa以下である。さらに、本発明のi−PP成形品は、貯蔵弾性率が、80℃で800MPa以上1500MPa以下、120℃で300MPa以上650MPa以下であり、特に250MPa以上600MPa以下である。
貯蔵弾性率が上記範囲内であると、従来に比べ成形品の薄肉化、ゲージダウンを図ることができる。例えば、シート状成形品を化粧品などの折り箱に用いたり、熱成形品を食品や医療器具などの容器に用いたりした際に、かかる成形品の厚さを薄くすることができる。また、120℃以上の加圧減菌処理に対する耐性を高めることができる。さらに、高温下で保形性を高めることができ、例えば、電子レンジ加熱後の保形性が高まる。なお、23℃の貯蔵弾性率は、特に上限値に制約はないが、例えば工業生産時におけるシート状成形品の巻き取りなどのハンドリングが困難となるおそれがあるので、上記上限値を超えないようにすることが好ましい。
【0030】
本発明に係るi−PP成形品は、さらに、造核剤および石油樹脂の少なくとも1種が含まれていてもよい。造核剤としては、有機系物質および無機系物質を任意に使用することができる。
また、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE:Linear Low Density Polyethylene)などのポリオレフィンを任意にポリマーブレンドしてもよい。
【0031】
造核剤としては、有機系が好ましく、例えば、ジベンジリデンソルビトール系化合物、フォスフェート系化合物などが挙げられる。ジベンジリデンソルビトール系化合物としては、ジベンジリデンソルビトール(以下、DBSと略記する)、パラ・メチル・DBS、パラ・エチル・DBS、パラ・クロル・DBSなどが挙げられる。このDBS系化合物は、透明性の改善に特に有効である。フォスフェート系化合物としては、リン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸-2,2´-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられる。
その他の造核剤としては、ジ安息香酸アルミニウム、塩基性ジ・パラ・ターシャリ・ブチル安息香酸アルミニウム、ベータ-ナフトエン酸ソーダ、カプロン酸ソーダ、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジターシャリ・ブチルフェニル)ソーダ、フタロシアニン、キナクリドン、高融点ポリマーなどを使用してもよい。
造核剤を含む場合、その含有量は、例えば、ポリプロピレン基材100重量部に対して、0.02〜1.0重量部、好ましくは0.04〜0.5重量部である。造核剤の含有量が上記範囲内であると、十分な透明性が得られる。また、造核剤が上記範囲に対して多すぎる場合、透明性向上の効果が変わらなくなるため、効果のわりにはコスト高となる。
【0032】
石油樹脂としては、例えば、C系石油樹脂、テルペン系石油樹脂等を使用してもよい。C系石油樹脂は、イソプレン、2−メチルブテン−1および2、ピペリレンなどを含む混合物共重合体である。テルペン系石油樹脂は、α−ピネン、β−ピネン、ジベンテン(リモネン)などを含む混合物共重合体である。また、色調や耐候性を向上させるため、これらの石油樹脂の水素添加物を使用してもよい。
石油樹脂を含む場合、その含有量は、例えば、ポリプロピレン基材100重量部に対して、3〜30重量部である。石油樹脂の含有量が上記範囲内であると、十分な熱成形性(延伸性)、透明性等の改善効果が得られ、また、シートが脆くなるのを防止できる。
さらに、本発明のポリプロピレン成形品には、必要に応じて、帯電防止剤、防曇剤、安定剤、滑剤、着色剤などが添加されていてもよい。
【0033】
(ポリプロピレン成形品の製造)
次に、本発明のi−PP成形品の製造方法を説明する。
本発明のI−PP成形品は、例えば、アイソタクティックペンダット分率95モル%以上のプロピレンホモポリマーを原料樹脂として用いて得られる。本発明のi−PP成形品は、例えば、ポリプロピレンの流動工程、急冷工程、および熱処理工程を経て得られる。
【0034】
流動工程には、例えば、従来のスクリュー式単軸押出し機に、フラット型Tダイまたはサーキュラーダイを取り付けた装置を用いることができる。
流動工程においては、例えば、ダイ内におけるせん断流動、ダイ出口から引き落す際の伸張流動、またはその両方によりポリプロピレン溶融物を流動させる。
ここで、次式(1),(2)で定義される引落し比Rd(Draw Down Ratio)および平均の伸長歪み速度▲ε▼が流動工程の制御因子として重要である。
Rd=V/V …(1)
▲ε▼=(V−V)/La …(2)
式中、VはPP溶融物の押出し速度、Vはシート成形品の引取り速度、Laはエアーギャップである。また、Vは、ダイのリップ開度と幅および溶融PPの吐出量から計算できる。Rdは、2以上、好ましくは3以上であり、伸長歪み速度▲ε▼は0.10sec-1、好ましくは0.15sec-1以上である。なお、引落し比Rdおよび平均の伸長歪み速度▲ε▼は、特に上限値に制限はないが、それぞれ20以下、10sec-1以下が好ましい。
【0035】
本実施形態の急冷工程は、PP溶融物が温度Tから、所定の時間(冷却時間)温度Tの冷却媒体に接触することにより冷却される過程である。ここで、上述の流動工程におけるPP溶融物のダイ出口温度をTとし、急冷工程においてPP溶融物が最初に接触する冷却媒体の温度を冷却温度Tとする。
具体的には、例えば、所定の温度Tに維持された冷却用の金属ベルトと金属ロールとの間に挿入され、両者に接触することにより、PP溶融物は冷却される。
【0036】
急冷工程では、生成する中間相が100nm以下となるような条件で、流動工程を経たPP溶融物の急速冷却を行う。
本発明に係るポリ・ナノ・ドメイン構造体を得るには、冷却温度、および冷却速度、冷却時間が重要な制御因子である。
ここで、冷却時間tはPP溶融物が冷却媒体と接触した状態を維持する時間とし、本実施形態では金属ロールと金属ベルトとが相対する区間をPPが通過するに要する時間と定義する。
このような条件としては、例えば、80℃/秒以上、好ましくは100℃/秒以上、1,000℃/秒以下の冷却速度にてPP溶融物を冷却させる。または、一定の冷却温度でPP溶融物を一定時間維持する。具体的には、温度−200℃以上、50℃以下、好ましくは−100℃以上、50℃以下の範囲、さらに好ましくは−50℃以上、50℃以下の範囲に冷却し、かつ時間0.1秒以上、1,000秒以下の範囲で維持する。かかる方法により、中間相および非晶相からなる急冷ポリプロピレンを得る。
【0037】
急冷工程には、例えば、図1に示す金属ベルト15と冷却ロール13,14,16,17との組み合わせからなる冷却装置を用いることができる。Tダイ12から、所定の速度で溶融ポリプロピレンを押出し、所定の冷却温度に保たれた金属ロール(第3の冷却ロール)16および金属ベルト15との間に挿入することによりPP溶融物を冷却する。
なお、古くから知られている水冷方式や、例えば特開2004-188868号公報、特開2004-66565号公報、特表平11-508501号公報に開示された冷却装置や冷却方法を用いることができる。さらに、サーキュラーダイから押し出されたチューブラー状の溶融物を水槽に浸漬することにより急冷してもよい。
【0038】
冷却工程を経て得られたシート状成形品は、熱風加熱、スチーム加熱、IR加熱、金属との接触加熱など、任意の方式の任意の組み合わせにより所定の温度に昇温し、その温度で時間加熱する熱処理工程に供される。熱処理工程においては、昇温速度、最大温度及び加熱時間などの温度プロファイルが制御因子となる。このうち、特に熱処理を行う最大温度と時間が重要であるが、所定の熱処理前に予熱工程を設けてもよい。
【0039】
熱処理工程では、急冷PPにおける中間相が実質的にα晶に変換され、100nmを超える積層ラメラ晶ドメインが形成されないような条件で熱処理を行う。
このような条件として、昇温速度には特に制限はないが、0.1℃/秒以上であれば望ましい。好ましくは、0.1℃/秒以上、400℃/秒以下の昇温速度にて、急冷ポリプロピレンを熱処理する。また、例えば、吸熱性転移を示す温度域かつPP成形品の融解温度以下に昇温して、該温度域で急冷ポリプロピレンを熱処理する。さらに具体的には、上記温度範囲で、時間0.1秒以上、1,000秒以下、好ましくは時間1秒以上、300秒以下の範囲で維持する。
【0040】
吸熱性転移を示す温度域は、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)または成形品の表面温度の加熱時間依存性曲線の形状により確認できる。
DSCの場合、急冷シートの昇温によるDSC曲線は、40℃付近から吸熱性が始まり、続いて発熱性も示した後、再度なだらかな吸熱性を示すが、この再度吸熱性を示す温度域から確認することができる。
加熱時間依存性曲線の形状により確認する場合、具体的には以下のようにして確認できる。すなわち、加熱開始後、PPシートの表面温度は最初直線的に増加する。ここで、加熱時間に対するPPシートの表面温度の傾きが小さくなる温度域が存在する。かかる温度域を、吸熱性転移を示す温度域とする。吸熱性転移を示す温度域は、例えば、100℃以上であり、好ましくは、110℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。さらに、熱処理工程における上限値はポリプロピレンの融解温度以下であることが好ましい。
PP成形品の融解温度とは、後述のマイクロ熱分析による測定値であり、昇温速度が速いほど低い値を示す。例えば、後述の実施例12における急冷ポリプロピレン成形品の融解温度は、0.3℃/秒では154℃、7℃/秒では147℃、13℃/秒では146℃、および25℃/秒では145℃である。本実施形態では、種々の昇温速度で熱処理を行ってよい。例えば、110℃まで19℃/秒で昇温し、その後121℃以上127℃以下まで5℃/秒程度でさらに昇温し、合計で2.0秒以上3.5秒以下の熱処理を行う。
但し、昇温速度が速いほど、PP急冷品の融解温度は低温になることが本発明の過程で新たに見出された。このため、赤外線などの輻射加熱や金属などとの接触加熱などの昇温速度が速い加熱方法を用いる場合には、一般に知られているDSC測定によるPPの結晶融解温度(160℃台)より10℃〜20℃程度低温での熱処理時間が可能になり、このメリットは適宜活用することができるという点に留意すべきである。
【0041】
従来、融解温度以下の低い温度域で熱処理を施すと、透明性は向上するが、成形品が高度に結晶化すると、熱成形は、通常用いられる真空または真空圧空程度の低圧では困難または不可能であると考えられていた。
本実施形態では、融解温度以下かつ吸熱性転移を示す温度域で熱処理を施しても、熱成形性を損なうことなく熱成形が可能である。かかる理由としては、熱処理後にも冷却工程後のポリ・ナノ・ドメイン高次構造が概ね維持されているためと推測される。
本実施形態では、上記温度範囲内で熱処理を施すことにより、シートに一定の剛性が得られる。そのため、熱成形に供するまでの間にたるみや歪みなどの変形を抑制できるとともに、通常の真空圧空熱成形を用いて熱成形が可能であり、良好な熱成形性が得られる。
【0042】
次に、ポリプロピレン樹脂シート11の製造装置の構成の一例を図1に示すともに、当該製造装置を使用した本実施形態のポリプロピレン樹脂シート11の製造方法を説明する。なお、シート成形としては、図1の製造装置を用いる場合に限られるものではなく、各種方法を利用できる。
本実施形態の方法では、溶融ポリプロピレンを所定の温度範囲で急冷後、さらに所定の温度範囲で熱処理を行う。熱処理後にも冷却工程後のナノ高次構造が維持され、高透明性と高剛性とを兼ね備えたI−PP成形品が得られる。また、結晶化度が高い状態であってもi−PPの熱成形が可能である。
【0043】
まず、溶融ポリプロピレン樹脂シートを所定の温度範囲で急冷する急冷工程を行う。
本実施形態における樹脂シートとは、シートと比べて厚さのみ相対的に異なる樹脂フィルムの場合を含む。
まず、ポリプロピレン樹脂シート11と直接接触している金属製エンドレスベルト15および第3の冷却ロール16の表面温度が所定の冷却温度に保たれるように、第1の冷却ロール13、第2の冷却ロール14、および第3の冷却ロール16の温度制御をしておく。
なお、図1に鎖線で示したように、第1の冷却ロール13の前に他の冷却ロール15Aを設け、エンドレスベルト15の内側から接触させることで、エンドレスベルト15をさらに冷却するようにしてもよい。
【0044】
そして、押出機のTダイ12より押出されたポリプロピレン樹脂シート11を、第1の冷却ロール13と接触しているエンドレスベルト15と、第3の冷却ロール16とに略同時に接触するようにして、第1の冷却ロール13および第3の冷却ロール16の間に導入する。
第1の冷却ロール13は、その表面に弾性材18が被覆されている。金属製のエンドレスベルト15および第3の冷却ロール16は、好ましくは表面粗さが、例えば0.5S以下の鏡面を有している。
第1の冷却ロール13および第3の冷却ロール16でポリプロピレン樹脂シート11を圧接して所定の温度以下に冷却する。このようにして、ポリプロピレン樹脂シート11の圧接と冷却とを同時に行うことが可能になり、ポリプロピレン樹脂シート11の透明性を高めることができる。この際、第1の冷却ロール13と第3の冷却ロール16間の押圧力で弾性材18が圧縮されて弾性変形し、ポリプロピレン樹脂シート11は、両冷却ロール13,16による面状圧接となっている。
【0045】
引き続き、このポリプロピレン樹脂シート11を鏡面のエンドレスベルト15で第3の冷却ロール16に対して圧接して所定の温度以下に冷却する。
エンドレスベルト15で第3の冷却ロール16側に押圧されたポリプロピレン樹脂シート11は、エンドレスベルト15と第3の冷却ロール16により面状に圧接されている。
この際の面圧は、例えば0.01MPa〜0.5MPa、好ましくは0.01MPa〜0.1MPaである。この際、両冷却ロール13,16間の押圧は、線圧で2kg/cm〜400kg/cmである。第3の冷却ロール16とエンドレスベルト15との間の面圧が上記下限値以上であると、良好な鏡面転写と冷却の効果が得られる。また、ベルト張力が高くなりすぎるのを防ぎ、ベルト寿命の短縮化を防ぐ観点から、面圧は上記上限値以下であることが好ましい。
【0046】
次に、ポリプロピレン樹脂シート11をエンドレスベルト15に重なるように沿わせた状態でエンドレスベルト15の回動とともに第2の冷却ロール14に移動させる。
このポリプロピレン樹脂シート11を、エンドレスベルト15を介して第2の冷却ロール14に対して圧接して所定の温度以下に冷却する。第4の冷却ロール17でガイドされて第2の冷却ロール14側に押圧されたポリプロピレン樹脂シート11は、エンドレスベルト15に面状に圧接されている。この際の面圧は、例えば0.01MPa〜0.5MPaである。
【0047】
続いて、熱処理装置(図示せず)を用いて熱処理工程を行う。ここで、熱処理工程には大別して、以下の二つの場合がある。
第一に、上述した急冷工程で得られた急冷ポリプロピレンであるシート状成形品について、加熱工程で熱処理シートとして熱処理が施される場合である。この場合、例えば、熱処理シートとして折り箱などの用途に供される。
第二に、急冷工程で得たシート状成形品のそのままの形状を維持したまま何らかの熱処理工程を経た後、さらに所定の熱成形に供する場合である。
【0048】
前者のシート形状を維持して熱処理を施す方法として、例えば、所定の雰囲気温度に保った熱風加熱炉を用いる場合、金属などの固体やオイルなどの液体と接触させることにより加熱する場合、赤外線などの輻射加熱機を用いる場合、80℃〜150℃のスチームを用いる場合などがある。さらに、熱風加熱炉を用いた熱処理では、熱風加熱炉内の湿度は乾燥状態から飽和水蒸気圧までの間で任意の値が選択できる。
なお、熱処理方法はこれらの方法に限定されるものではない。
このような熱処理工程により、シート形状のポリプロピレン成形品を得ることができる。
【0049】
後者の熱処理工程では、例えば、まず、熱風加熱炉の中を所定の時間で通過することによる熱処理工程を経る。その後、さらにこの熱処理されたポリプロピレンシートを熱成形に供することにより、その加熱工程において結果的に熱処理がなされる。この熱処理されたポリプロピレンシートは、その直後に続いて所定の形状の金型を用いて容器などの形状に賦形、すなわち熱成形される。
【0050】
(実施形態の効果)
上述したように、本実施形態によれば、溶融ポリプロピレンを所定の温度範囲で急冷後、さらに所定の温度範囲で熱処理を行うことにより、高結晶化度で高剛性のポリプロピレンでも、高透明性のポリプロピレン樹脂シート11として高速度で製造することができる。
特に、アイソタクティックペンタッド分率が95%モル以上の立体規則性を有するポリプロピレン溶融物を所定の条件で冷却した後、所定の熱処理工程で熱処理を施すことにより、従来と同様に高い透明性を維持したまま、さらに一層高い剛性を有するポリプロピレン熱成形品が得られる。
さらには、高温剛性は格段に増大でき、使い勝手のよい熱成形品を提供できる。
そしてさらに、常温もしくは80℃の剛性を維持したまま、厚さ寸法の削減ができる。したがって、熱成形品の目的や用途に応じて、熱成形品の厚さ削減によるコストの低減が得られる。
【0051】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上述の実施形態では、金属ベルトと金属ロールとの組み合わせからなる冷却装置を用いたが、金属ロールと金属ロールとの組み合わせ、または金属ベルトと金属ベルトとの組み合わせからなる冷却装置を用いてもよい。
【0052】
さらに、成形品の成形方法としては、押出成形以外にも、射出成形、ブロー成形等の熱可塑性ポリマー一般に用いられる種々の成形方法を使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。上述の実施形態における製造装置1(図1)および製造方法において、具体的条件を下記の通りとした。
【0054】
(アイソタクティックペンタッド分率の測定)
本発明においてi−PPの立体規則性の指標として用いたアイソタクティックペンタッド分率の測定は、A.Zambelliにより開示された13C−NMR法(Macromolecules,6925,1973)に準拠して行った。具体的には、まず、i−PP試料220mgを10mm径NMR試料管に採取し、1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン混合溶液(90/10vol%)を2.5ml加え140℃で均一に混合物を溶解させた後、JNM−EX400(商品名:日本電子株式会社製)を用いて13C−NMRスペクトルを測定した。13C−NMRスペクトル測定条件を以下に示す。
・パルス幅 :7.5μs/45度
・観測周波数の範囲 :25,000Hz
・パルス繰り返し時間:4秒
・測定温度 :130℃
・積算回数 :10,000回
【0055】
アイソタクティックペンタッド分率とは、プロピレン5分子の結合パターントータル9種類(「mmmm」、「mmmr」、「rmmr」、「mmrr」、「rmrr+mrmm」、「rmrm」、「rrrr」、「mrrr」、「mrrm」)のそれぞれに対応して13C−NMRスペクトルとして観測される9本のピークすべての面積に対して、「mmmm」に対応するピーク面積の相対比率として定義され、具体的には以下の式(3)により算出した。ここで2つのピークに重なりがある場合、2つのピークの谷からベースラインまで垂直に垂線を引き、両者のピークを分割した(垂直分割法)。
アイソタクティックペンタッド分率(mol%)
=A(mmmm)/A(トータル)×100…(3)
ここで、A(mmmm)はmmmmピークの面積であり、A(トータル)は9本のピーク面積の合計を意味する。
なお、2つのピークに重なりがある場合、上記垂直分割法の他に各ピークをローレンツ型ピークの集合体として波形分離を行う方法も知られており、解析ソフト(日本電子株式会社 商品名;ALICE 2)を用いて求めた値を以下併記する。
例えば、原料として、株式会社プライムポリマー製のアイソタクティックペンタッド分率が97モル%(プライムポリプロ F−300SV(商品名)(MFR3g/10分、lot.2602671))または92モル%(プライムポリプロ E−304GP(商品名)(MFR3g/10分、lot.2605231))のホモタイプのアイソタクティック・ポリプロピレン(I−PP)を用いた場合、波形分離から求めた値は、プライムポリプロ F−300SVでは97.9モル%、プライムポリプロ E−304GPでは92.5モル%である。
【0056】
(透過型電子顕微鏡(TEM))
・試料調製
シート状成形品または熱成形容器の切り出し品の断面をウルトラミクロトーム(EICHERT社製 商品名:FC−S型ミクロトーム)により薄片化を行い、観察用試料とした。
ここで、観察用試料はRuO4による電子染色を行った試料を作製した。TEMにより、非染色性の結晶相と染色性の非晶相とからなる積層ラメラ晶ドメインなどのモルフォロジーを観察した。これにより、100nmを超える結晶ドメインの有無と、結晶性の組織構造体(ラメラ晶)のサイズとを確認した。
すなわち、図2の10万倍のTEM観察像の写真に示すように、視野全体に明るいコントラストを示す結晶性の粒状ドメインと結晶性の平板状ドメイン(ラメラ晶)との少なくともいずれか一方が存在する。そして、そのドメインとドメインとの間には、相対的に狭い暗いコントラスト領域が存在する。
ラメラ状晶のサイズは、任意の20点で測定を行い、短軸方向、長軸方向の長さをそれぞれラメラ状晶の厚さ、幅とした。厚さについては平均値を求め、幅については数値の分布が大きいため、最小値と最大値を示した。また、このラメラ状晶が積層した組織構造体ドメイン(積層ラメラ状晶ドメイン)も認められる場合がある。
なお、試料前処理条件は以下の通りである。
・試料前処理:RuO4による電子染色
・TEM観察:透過型電子顕微鏡 日立製作所製H−800;加速電圧:200kV;倍率2000倍〜20万倍
【0057】
(広角X線回折(WAXD))
T.Konishiらの用いた方法(Macromolecules、38,8749,2005)を参考にして測定を行った。
解析は、X線回折プロファイルについて非晶相、中間相、および結晶相それぞれのピーク分離を行い、各相に帰属されるピーク面積から存在比率を求めた。
【0058】
(結晶化度)
・密度
密度は、JIS K 7112 D法に準拠して測定した。成形品の一部を5mm角程度に切断し、23℃の密度勾配管(池田理化社製 商品名:RMB−6型)へ投入した。15分後の試料の位置を読み取り、検量線より密度を求めた。測定は、n=3で行い、下4桁の測定値を単純平均し報告値とした。
・結晶化度
結晶化度は、結晶化度を下記式(4)を用いて、各試料の密度実測値から比例配分により算出した。
[結晶化度]=(d/d)*(d−d)/(d−d)*100(%)…(4)
d:試料の密度
:I−PPα晶相の完全結晶状態の密度(936kg/m3
:I−PPの非晶状態の密度(850kg/m3
【0059】
(I−PP成形品の物性評価)
・融解温度(融点)の測定
融解温度は、成形品から切り出した試料を走査型サーマル顕微鏡法(以下、マイクロ熱分析と略記す)により、マイクロ熱分析装置μTA2990(商品名:TA Instrument製)を用いて測定した。具体的には、μDTA曲線の温度微分曲線において、約50℃〜約200℃の温度範囲における傾きの変化を3段階の変化として捉えた。
(1)50℃から高温側にベースラインを引いて傾きがほぼ一定の範囲
(2)傾きが急激に変化した範囲
(3)200℃から低温側にベースラインを引いて傾きがほぼ一定の範囲
このとき、上記(1)〜(3)それぞれの範囲を直線で近似し、近似した直線の2つの交点の中点を試料の融点として決定した。
・弾性率
弾性率は、サンプル幅4.0mmのi−PP成形品を用いて、動的固体粘弾性試験装置(セイコーインスルメンツ株式会社製 商品名:DMS6100)により測定した。貯蔵弾性率をスパン間距離20mmとなるよう設定し、周波数1.0Hzにて、10℃から昇温速度2.0℃/分で試料の融解する温度まで測定し、23℃、80℃および120℃における貯蔵弾性率の値を求めた。
・透明性(ヘイズ)
透明性の指標として、ヘイズ値をJIS K7136準拠し、Haze Meter(ヘイズメータ)(日本電色工業株式会社製 商品名:NDH200)を用いて測定した。
【0060】
(流動工程)
流動工程は以下のようにして行った。原料として、株式会社プライムポリマー製のアイソタクティックペンタッド分率が97モル%(商品名:プライムポリプロ F−300SV(MFR3g/10分、lot.2602671))または92モル%(商品名:プライムポリプロ E−304GP(MFR3g/10分、lot.2605231))のホモタイプのアイソタクティック・ポリプロピレン(i−PP)を用いた。
これらi−PPポリマーを、フルフライト型スクリュー式単軸押出機を用い、可塑化および溶融させ、i−PPポリマー溶融物をTダイから押出した。これを金属ベルトと金属ロールとの間に挿入し、このベルトとロール間の押圧を30kg/cm、面圧を0.1MPa程度に維持したまま、所定の厚さとなるように引き取って巻き取った。
【0061】
(急冷工程)
急冷工程には、図1に示すような金属ベルトと金属ロールとの組み合わせからなる冷却装置と同型の装置を用いた。温度20℃の冷媒を用いて、溶融ポリプロピレンを冷却した。
【0062】
実施例1、4、5、7、8、9(ラボ機による溶融押出流動急冷条件A)
具体的には、以下に記述する条件で、スクリュー式単軸押出し機による押出し工程を実施した。
・スクリュー;フルフライト型、圧縮比は3.5、65mmφ
・スクリュー回転速度;70rpm(吐出量約45kg/hr一定)
・Tダイ;コートハンガー型(幅800mm、リップ開度1.5mm)
・押出し温度;240℃
・押出速度(V);毎分0.57m
・エアーギャップ(La);150mm
金属ベルトおよび金属ロールからなる冷却工程は、以下に記述する条件である。
・温度;20℃
・ロール径;270mmφ
・ベルト接触部ロール角度;50°
ここで、ベルト接触部ロール角度とは、特開平9−136346号公報の図1に開示されたθ1とθ2を合計した値である。
・引取り速度(V);(1.2/t)m/分
ここで、tは、シート厚さ(mm)を示す。
・冷却時間;1.2[sec]×t/0.1
ここで、冷却時間は上記抱き角度から算出される周長を、平均引取り速度を除して求めた。
そして、冷却温度と冷却時間との値を、後述する実験結果と合わせて表1に示す。
【0063】
実施例2、3、6、10、11、14、15、16(ラボ機による溶融押出流動急冷条件B)
具体的には、以下に記述する条件で、スクリュー式単軸押出し機による押出し工程を実施した。
・スクリュー;フルフライト型、圧縮比は3.5、65mmφ
・スクリュー回転速度;125rpm(吐出量;約80kg/hr)
・Tダイ;コートハンガー型(幅800mm、リップ開度2.0mm)
・押出し温度;240℃
・押出速度(V);毎分1.2m
・エアーギャップ(La);150mm
金属ベルトおよび相対する金属ロールからなる冷却工程は、以下に記述する条件である。
・温度;20℃
・ロール径;270mmφ
・ベルト接触部ロール角度;50°
・引取り速度;(2.1/t)m/分
ここで、tは、シート厚さ(mm)を示す。
・冷却時間;0.68[sec]×t/0.1
ここで、冷却時間は上記抱き角度から算出される周長を、平均引取り速度を除して求めた。
【0064】
実施例12、13(商用機による溶融押出流動急冷条件C)
具体的には、以下に記述する条件で、スクリュー式単軸押出し機による押出し工程を実施した。
・スクリュー;フルフライト型、圧縮比は3.5、65mmφ
・スクリュー回転速度;86rpm(約540kg/hr)
・Tダイ;コートハンガー型(幅1100mm、リップ開度1.5mm)
・押出し温度;240℃
・押出速度(V);毎分6.1m
・エアーギャップ(La);250mm
金属ベルトおよび相対する金属ロールからなる冷却工程は、以下に記述する条件である。
・温度;18℃
・ロール径;600mmφ
・ベルト接触部ロール角度;50°
・平均引取り速度;(9.0/t)m/分
ここで、tは、シート厚さ(mm)を示す。
・冷却時間;0.367[sec]×t/0.1
ここで、tは、シート厚さ(mm)を示す。
【0065】
(熱処理工程)
押出し急冷工程で得た所定の厚さのシート状成形品を原反シートとして用い、熱処理工程を行った。熱処理工程は以下に説明する2つの熱処理AまたはBの条件で行った。
・熱処理A:原反シートを急冷工程の後、そのままの状態で熱処理に供した。
・熱処理B:加熱機を用いて熱処理工程を行い、その後に熱成形機を用いて熱成形工程を行った。
【0066】
熱処理Aにおいては、シート状の成形品形状を保持したまま熱処理を行った。具体的には、以下のいずれかの方法を用いた。
・熱風加熱炉内での加熱:熱風加熱炉としてアルプ(株)送風循環乾燥機CFD−35H型(商品名)を用い、この中に溶融押出し急冷により得たシート状成形品を静置することにより熱処理を施した。熱処理温度として、加熱炉内の温度実測値を採用した。なお、加熱炉内の測定温度と下記のヒートラベル表示温度とは、整合性のあるものであった。
・赤外線(IR)加熱:熱成形に用いた単発成形機((株)シノス製 商品名:FM−3M/H型)の加熱機を熱処理装置として使用し、パネル温度を500℃に設定し所定時間加熱を施した。ミクロン(株)製の5点表示型のヒートラベルを、加熱するシート状成形品の表面に予め貼り付けておき、熱処理終了後、温度を読み取った。ただし、このヒートラベルは5℃または6℃間隔に到達した温度が測定できるものであり、実際の温度は測定値より最大4℃〜5℃高い場合もあり得る。
溶融押出し工程、急冷工程を経てシート状成形品を得た後、熱風加熱炉またはIRを用いた熱処理Aによる熱処理を施したシート状PP成形品についての実施例を表1に示す。
【0067】
熱処理Bにおいては、熱処理Aと同様の処理を行った後に、さらに熱成形工程を以下のいずれかまたは両方の方法で行った。
・研究機によるラボテスト
上記熱処理Aを行った後、60mmφ、30mm深さの円形カップ型にて0.45MPaの圧力下に真空圧空成形を行った。実際の成形は、成形品の透明性が大きく失われる加熱時間よりも0.5秒から1.0秒短い時間で行った。
・商業機による実用試験
1.フードパックA金型
0.35mm厚PPシートを標準に設計されたコンビニなど向けのフードパックA金型(短辺120mm×長辺175mm、蓋部深さ;15mm、容器部深さ;30mm)を用い、住友重機株式会社製連続真空圧空熱成形機CM−1(商品名)により熱成形を行った。成形サイクルを変化させることにより成形品の透明性が損なわれず、かつ金型形状の型再現性の良好な加熱時間となるよう成形サイクルを決定した後、0.48MPaの圧力にて成形した。
2.パスタ金型
0.30mm厚PPシートを標準として設計された深さ35mmの180mmφ円形容器金型を用いた。
3.フードパックB金型
0.35mm厚PPシートを標準として設計された90×140×深さ30mm容器金型を用いた。
そして、溶融押出工程、急冷工程、熱風加熱炉を用いた熱処理AおよびIRを用いた熱処理Bを行った後、上記いずれかの金型を用いて熱成形を行い最終的に各種の容器とした場合の実施例を、後述する実験結果と合わせて表2に示す。
【0068】
(実施例1)
アイソタクティックペンタッド分率が97モル%のi−PPを原料とし、上記押出急冷条件Aにて押出溶融物を引取り速度(V)毎分6.0mにて押出した。続いて、この押出溶融物を20℃に維持された金属ベルトと金属ロールとの間に挿入し、2.4秒間冷却して0.2mm厚の急冷シートを得た。このとき引落し比(Rd)10.5、伸長歪み速度(▲ε▼)0.60sec-1であった。
このようにして得た急冷シートを、140℃に保持した熱風加熱炉内に3分間静置することにより、熱処理を行い高い結晶化度のシート状成形品を得た。この得られたシート状成形品について、高次構造解析と物性評価とを行った。
その結果、密度法による結晶化度は77%であった。また、300倍ないし400倍のPOM観察、および2000倍ないし2万倍でのTEM観察の結果、結晶性の積層ラメラ状晶ドメインが部分的に認められるが一辺が100nmを越えるサイズのものは認められなかった。その他、全ヘイズ、全光線透過率、および23℃、80℃、120℃における貯蔵弾性率を測定した結果を、表1に示す。
また、表1には示してないがWAXDパターンの解析結果、中間相の存在は認められず、結晶相は実質的にα晶相からなり、α晶相と非晶相との比はそれぞれ85%および15%であった。また、10万倍または20万倍のTEM観察の結果、10〜20nm程度の粒状非染色性(結晶性)ドメインおよび厚さ8nm、幅最大35nmのラメラ状晶が認められた。さらにSAXSを測定した結果、長周期は19nmであり、散乱強度は円周方向に均一であった。
【0069】
(実施例2)
上記押出急冷条件Bにて、引取り速度が5.5m/分(この時、引落し比Rd=4.5、伸長歪み速度▲ε▼=0.48sec-1)、冷却時間が4.2秒、熱処理が150℃、1分間、である他、実施例1と同様にして0.35mm厚のシート状成形品を得た。表1に結果を示す他、WAXDから求めたα晶相と非晶相とは、それぞれ82%、18%であった。
【0070】
(実施例3)
熱処理を50℃から150℃まで30分間かけて行った他、実施例2と同様にして0.35mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
引取り速度が3.0m/分(この時、引落し比Rd=5.3、伸長歪み速度▲ε▼=0.32sec-1)、急冷時間が4.8秒である他、実施例1と同様にして、0.40mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。また、WAXDから求めたα晶相と非晶相とは、それぞれ77%、23%であった。
【0072】
(実施例5)
引取り速度が2.2m/分(この時、引落し比Rd=3.7、伸長歪み速度▲ε▼=0.17sec-1)、急冷時間が6.6秒、である他、実施例1と同様にして0.55mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。また、WAXDから求めたα晶相と非晶相とは、それぞれ92%、8%であった。
【0073】
(実施例6)
熱処理を120℃、10分間かけて行った他、実施例2と同様にして0.35mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。
【0074】
(実施例7)
引取り速度が6.0m/分(この時、引落し比Rd=10.5、伸長歪み速度▲ε▼=0.60sec-1)、熱処理をIRパネル温度500℃にて6.0秒間加熱して表面温度が127℃に達するまで行い、熱成形機内で凹みのないフラット金型で冷却した他、実施例1と同様に0.20mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。
【0075】
(実施例8)
引取り速度が4.0 m/分(この時、引落し比Rd=7.0、伸長歪み速度▲ε▼=0.38 sec-1)、冷却時間が3.6秒、熱処理をIRパネル温度500℃にて8.0秒間加熱して表面温度が138℃に達するまで行った他、実施例1と同様にして0.30mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例9)
引取り速度が2.2m/分(この時、引落し比Rd=3.7、伸長歪み速度▲ε▼=0.17sec-1)、冷却時間が6.6秒、熱処理をIRパネル温度500℃にて15.0秒間加熱して表面温度が132℃に達するまで行った他、実施例1と同様にして0.55mm厚のシート状成形品を得た。そして、同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
押出急冷条件Aにて急冷シートを得るまで、すなわち熱処理を行わない他は実施例8と同じである。そして、上記実施例と同様に、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を表2に示す。
密度法による結晶化度は47%であり、100nmを越える積層ラメラ晶ドメインは存在せず、全ヘイズは28%であり、貯蔵弾性率は23℃、80℃、120℃でそれぞれ1320MPa、310MPa、170MPaであった(表2参照)。また、表1には示さないがWAXD解析によれば、α晶は実質的に認められず、中間相と非晶相がそれぞれ54%と46%との比率であった。また、TEM観察の結果、ラメラ状晶の厚さは8nmで幅は最小10nm、最大40nmであった。さらにSAXSの結果からは、長周期が11nmであり、その散乱強度は円周方向に均一であった。
【0078】
(比較例2)
アイソタクティックペンタッド分率が92モル%のi−PPを用いる他、実施例8と同じである。
密度法による結晶化度は63%であり、100nmを越える積層ラメラ晶ドメインは存在せず、全ヘイズは7%であり、貯蔵弾性率は23℃、80℃、120℃でそれぞれ2000MPa、600MPa、170MPaであった(表2参照)。
【0079】
(比較例3)
熱処理を230℃、5分行う他、実施例8と同じである。
密度法結晶化度は68%で、偏光顕微鏡観察により積層ラメラ晶からなる数μm以上の球晶が多数認められた。サンプルの外観は白濁して不透明であり、全ヘイズは60%以上であった(表2参照)。同様に、上記に定義される融解温度を上回る温度域、例えば熱風加熱炉で昇温速度0.3℃/秒で155℃以上、またIR加熱で20℃/秒の昇温速度で150℃を越えて熱処理を行うと、いずれの場合も成形品の外観は白濁して不透明であった。
【0080】
(比較例4)
実施例12,13と同様の押出急冷条件Cにて、0.35mm厚の急冷シートを得た後、130℃に維持した熱風加熱炉内で10秒間熱処理し、シート状成形品を得た。
密度法結晶化度は56%であり、100nmを越える積層ラメラ晶ドメインは存在せず、全ヘイズ、貯蔵弾性率を表2に示す。また、WAXD解析の結果、α晶相と非晶相とがそれぞれ53%、47%であった(表2参照)。
【0081】
(比較例5)
アイソタクティックペンタッド分率が92モル%である他、比較例1と同じである。
密度法結晶化度は48%、100nmを越える積層ラメラ晶ドメインは存在せず、全ヘイズは17%であり、貯蔵弾性率、その他の物性を表2に示す。また、WAXD解析の結果、α晶は存在せず、中間相と非晶相とはそれぞれ50%、50%であった。TEM観察の結果、ラメラ状晶の厚さ7nm、幅は最小12nm、最大41nmであった。SAXS解析の結果、長周期11nm、その散乱強度は円周方向に均一であった(表2参照)。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
以下、熱成形品に関して実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0085】
(実施例10)
アイソタクティックペンタッド分率が97モル%のi−PPを原料とし、上記押出急冷条件Bで引取り速度6.4m/分にて(この時、引落し比Rd=5.2、伸長歪み速度▲ε▼=0.58sec-1)、押出溶融物を20℃に維持された金属ベルトと金属ロールとの間に挿入し、3.7秒間急冷した。この急冷にて得た0.31mm厚の押出急冷シートを、140℃に保持した熱風加熱炉内で10秒間熱処理し、熱成形用原反シートを得た。
これをIRパネル温度500℃の連続式熱成形機により毎分13.5ショット(4.4秒加熱)にて、フードパックA金型により熱成形を行った。この時、ヒートラベルで測定したシート表面温度は138℃であった。
このようにして得た熱成形容器の蓋部分の中央部(厚さ0.21mm)について、高次構造解析と物性評価とを行った。その結果を、表3に示す。
表3に示すように、密度法による結晶化度は78%であった。また、TEM観察の結果、積層ラメラ状晶ドメインが部分的に認められるが一辺が100nmを越えるサイズのものは認められなかった。その他、全ヘイズ、全光線透過率、および23℃、80℃、120℃における貯蔵弾性率を測定した結果を、表3に示す。また、表3には示してないがWAXDパターンの解析結果、中間相の存在は認められず、α晶相と非晶相との比はそれぞれ98%および2%であり、TEM観察の結果、10〜20nm程度の粒状非染色性(結晶性)ドメインおよび厚さ15nm、幅最大62nmのラメラ状晶が認められた。さらにSAXSを測定した結果、長周期は27nmであり、散乱強度は円周方向に均一であった。また、熱成形用原反シートについては、WAXDパターンの解析の結果、中間相の存在は認められず、α晶相と非晶相とが約半々からなり、TEM観察の結果、10〜20nm程度の粒状非染色性(結晶性)ドメインおよび厚さ10nm、幅が最大45nmのラメラ状晶が認められた。さらに、SAXSを測定した結果、長周期は10nmであり、散乱強度は円周方向に均一であった。
【0086】
(実施例11)
引取り速度が5.5m/分(この時、引落し比Rd=4.5、伸長歪み速度▲ε▼=0.48sec-1)、冷却時間が4.2秒、押出急冷シート厚さが0.35nm、熱風加熱炉内の熱処理が140℃、3分、熱成形機のIR加熱後のシート表面温度が132℃であった他、実施例10と同様にして熱成形容器を得た。表3に、その高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは厚さが異なる点を除き実施例4と同様であった。
【0087】
(実施例12)
上記押出急冷条件Cにて、引取り速度が30m/分(この時、引落し比Rd=5.0、伸長歪み速度▲ε▼=1.6sec-1)、冷却温度18℃、冷却時間が1.1秒、押出急冷シート厚さが0.31nm、熱風加熱炉内の熱処理が130℃、10秒、熱成形機のIR加熱後のシート表面温度が132℃で、パスタ金型を用いた他、実施例10と同様にして熱成形容器を得た。表3に、その高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは比較例4と同じである。
【0088】
(実施例13)
引取り速度が25.7m/分(この時、引落し比Rd=4.2、伸長歪み速度▲ε▼=1.3sec-1)、冷却温度18℃、冷却時間が1.1秒、押出急冷シート厚さが0.35nm、熱風加熱炉内の熱処理が130℃、10秒、熱成形機のIR加熱後のシート表面温度が132℃で、フードパックB金型を用いた他、実施例12と同様にして熱成形容器を得た。表3に、その高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは実施例12と同じである。
【0089】
(実施例14)
実施例6の0.35mm厚のシート状成形品について、さらに単発式熱成形機を用いてIR加熱後のシート表面温度が127℃なるように加熱し、カップ金型を用いて熱成形容器を得た。表3に、カップ底部(厚さ0.334mm)の高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは実施例6と同じである。
【0090】
(実施例15)
押出急冷シートを熱風加熱炉内の熱処理が140℃、40秒である他実施例6と同じ0.35mm厚シート状成形品について、単発式熱成形機のIR加熱後のシート表面温度が138℃、カップ金型を用いて実施例14と同様にして熱成形容器を得た。表3に、カップ底部(厚さ0.322nm)の高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは、厚さが異なる点を除き実施例4と同様であった。
【0091】
(実施例16)
実施例3の0.35mm厚のシート状成形品について、さらに単発式熱成形機を用いてIR加熱後のシート表面温度が127℃、カップ金型を用いて実施例14と同様にして熱成形容器を得た。表3に、カップ底部(厚さ0.326mm)の高次構造および物性を評価した結果を示す。また、熱成形用原反シートは実施例3と同じである。
【0092】
(比較例6)
アイソタクティックペンタッド分率92モル%のi−PPを押出急冷条件Bにて0.35mm厚急冷シートとした後、熱風加熱炉による熱処理を施すことなく、連続式熱成形機にて実施例10と同様にフードパックA金型により容器を得た。
蓋中央部から切り出したサンプル(厚さ0.25mm)の密度法結晶化度は、65%であり、100nmを越える積層ラメラ晶ドメインは存在せず、全ヘイズ、貯蔵弾性率、その他の物性を表3に示す。表3に示さないが、TEM観察の結果、ラメラ状晶の厚さは11nm、幅は最小13nm、最大45nmであった。また、WAXD解析の結果、α晶相、非晶相が各々95%、5%であった。さらに、SAXS解析の結果、長周期は認められず、散乱強度は円周方向に均一であった。また、熱成形用原反シートは厚さが異なる点を除き比較例5と同様であった。
【0093】
【表3】

【0094】
そして、図3に示すように、実用域の厚さ寸法0.3〜0.4mmのi−PP急冷品に一定の熱処理を施すと、全ヘイズは、アイソタクティックペンタッド分率92モル%ではわずかにしか低下しないが、アイソタクティックペンタッド分率97モル%では40%程度低下し、透明性が改善されていることが認められた。
なお、図3において、「急冷」は、ラボ機による溶融押出流動急冷条件Aで、「140℃、3分」は、熱風加熱炉内の加熱条件である。
この結果は、従来においてアイソタクティックペンタッド分率が92モル%のPPを使った急冷品を加熱した金属ロールや金属ベルトに接触することによる全ヘイズの向上効果が、主として成形品の表面光沢の向上によるものと考えられていたが、より高い立体規則性のアイソタクティックペンタッド分率97モル%のPPを使った場合、熱処理効果として内部の高次構造自体がより高透明性を発現する構造に変化したことを明確に示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のポリプロピレン成形品は、アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するもので、例えばシート材の他、折り箱、袋、カップ、パックなどの容器など、広く利用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法において使用する装置を示す概略図である。
【図2】本発明を説明するための実施例12の熱成形容器における断面の10万倍でのTEM観察像を示す図である。
【図3】本発明を説明するためのアイソタクティックペンタッド分率と熱処理との関係における全ヘイズの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
11…ポリプロピレン成形品であるポリプロピレン樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品であって、
密度法による結晶化度70%以上であり、
100nmを超える結晶ドメインを実質的に含まない
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項2】
請求項1に記載のポリプロピレン成形品であって、
前記結晶ドメインは、5nm以上70nm以下の粒状結晶および積層ラメラ晶ドメインである
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項3】
アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品であって、
密度法による結晶化度70%以上であり、
実質的に100nm以下の結晶ドメインにて構成された
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
結晶相と非晶相とを主要組成とし、実質的に中間相を含まない
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
前記密度法による結晶化度は、70%以上90%以下である
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
厚さ寸法が0.1mm以上0.45mm以下での全ヘイズが35%以下である
ことを特徴としたポリプロピレン成型品。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
貯蔵弾性率が、23℃で2,400MPa以上5,000MPa以下で、かつ、120℃で250MPa以上650MPa以下である
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
前記アイソタクティックペンタッド分率は、97モル%以上である
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上のプロピレンホモポリマーを原料樹脂として用いて成形された
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
シート状に成形された
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のポリプロピレン成形品であって、
内部に収容空間を有した容器状に熱成形された
ことを特徴としたポリプロピレン成形品。
【請求項12】
請求項11に記載の容器状のポリプロピレン成形品の熱成形に供するシート状ポリプロピレン成形品であって、
結晶相と非晶相とを主要組成とし、実質的に中間相を含まない
ことを特徴としたシート状ポリプロピレン成形品。
【請求項13】
アイソタクティックペンタッド分率が95モル%以上の立体規則性を有するポリプロピレン成形品を製造するポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、
アイソタクティックペンタッド分率が95%モル以上の立体規則性を有するポリプロピレン溶融物を流動させる流動工程と、
この流動工程で得られた前記流動させたポリプロピレン溶融物を、温度範囲が−200℃以上50℃以下に冷却し、かつ0.1秒以上100秒以下で維持して、中間相もしくは単斜晶(α晶)のドメインおよび非晶相を主要組成とする急冷ポリプロピレン高次構造体を得る急冷工程と、
この急冷工程で得られた前記急冷ポリプロピレン高次構造体を、吸熱性転移を示す温度域かつこの急冷ポリプロピレン高次構造体の融解温度以下の温度に昇温し、かつ0.1秒以上1,000秒以下で維持する熱処理を実施する熱処理工程と、を実施する
ことを特徴とするポリプロピレン熱成形品の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、
前記急冷工程は、前記ポリプロピレン溶融物を、温度範囲が−200℃以上30℃以下に急速冷却する
ことを特徴とするポリプロピレン熱成形品の製造方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、
前記熱処理工程は、前記吸熱性転移を示す温度域が110℃以上で、かつ前記ポリプロピレンの融解温度が150℃以下である
ことを特徴とするポリプロピレン熱成形品の製造方法。
【請求項16】
請求項13ないし請求項15のいずれかに記載のポリプロピレン熱成形品の製造方法であって、
前記熱処理工程の後に、この熱処理工程で得られた前記熱処理されたポリプロピレンのシート状成形品を熱成形する熱成形工程を実施する
ことを特徴とするポリプロピレン熱成形品の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−13357(P2009−13357A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179108(P2007−179108)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】