説明

ポリプロピレン樹脂組成物および該組成物よりなる医療用器具ならびにプレフィルドシリンジ

【課題】剛性、耐熱性、衛生性に優れ、成形体のハイサイクル生産性を有し、透明性、耐衝撃性に優れた成形体を製造し得るポリプロピレン樹脂組成物を提供する。また、該樹脂組成物を用いて、成形時の気泡が抑制され、衛生性、透明性、耐衝撃性に優れ、ハイサイクル生産性を有し、スチーム滅菌に好適である医療用器具、薬液充填型のプレフィルドシリンジを提供する。
【解決手段】メルトフローレートが10〜45g/10分であり、メソペンタッド分率mmmmが0.970以上であるプロピレン単独重合体(A)80〜99重量%と、メルトフローレートが5〜15g/10分であり、かつエチレン含有量が8.0〜15.0wt%、ブテン含有量が12.0〜20.0wt%であるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)1〜20重量%とからなるプロピレン系樹脂100重量部に対し、特定の造核剤(C)を0.05〜0.3重量部配合してなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物およびその用途に関し、さらに詳しくは、衛生性、耐熱性、成形時の気泡発生抑制とロングラン成形性、更には従来到達できなかったレベルの透明性とハイサイクル生産性を付与した、優れた成形品を調製することができるポリプロピレン樹脂組成物、ならびにその組成物から形成された容器、医療用器具などの成形品に関する。さらには、水蒸気滅菌による薬液充填型プレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリプロピレン樹脂は、化学的特性、物理的特性および成形加工性に優れ、しかも安価であることから、食品容器や医薬品容器を初めとした広範囲の用途に利用されている。そして特許文献1および特許文献2には、医薬品を充填して用いるポリプロピレン系の容器が提案されている。しかしながら、特許文献1、特許文献2などに記載のいわゆる従来のポリプロピレン樹脂では、機械的強度、衛生性、透明性、射出成形時のコア金型引き抜き時のシリンジ傷抑制というロングラン生産性、更に落下時の耐衝撃性が問題となっており、これらを全て満足しながら更なるハイサイクル生産性を付与する事は難しかった。
【0003】
また、γ線や電子線滅菌は非常に簡単で完全な滅菌を施すことができる滅菌方法であるが、どのようなポリプロピレンでも、γ線や電子線滅菌によって低分子量成分や添加剤抽出物が発生する為、薬液充填後にγ線や電子線滅菌するプレフィルドシリンジ生産は困難である事を最近の研究で見出した。
【0004】
透明性及び生産性を向上させるために、ポリプロピレン樹脂に従来の有機リン酸エステル造核剤、特に有機リン酸エステルのナトリウム金属塩では、ロングラン生産時に傷つきが微量発生し、透明性も不足し、且つ更なるハイサイクル生産性を追及できなかった。
【0005】
また、有機リン酸エステルのアルミニウム金属塩では分散剤として脂肪酸金属塩を多く添加しなければならず、この脂肪酸金属塩は薬液とpH作用や塩反応によって白濁を生じるといった問題を引き起こす場合があった。
【特許文献1】特許第3195434号公報
【特許文献2】特許第2528443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、衛生性、成形時の気泡抑制、従来到達できなかったレベルの透明性付与と同時に耐衝撃性を付与し、ハイサイクル生産性を加味した、優れた成形品を調製することができるポリプロピレン樹脂組成物、ならびにその組成物から形成された医療用器具、さらには薬液充填型水蒸気滅菌プレフィルドシリンジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、
メルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が10〜45g/10分であり、メソペンタッド分率mmmmが0.970以上であるプロピレン単独重合体(A)80〜99重量%と、
メルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が5〜15g/10分であり、かつエチレン含有量が8.0〜15.0wt%、ブテン含有量が12.0〜20.0w
t%であるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)1〜20重量%と
からなるプロピレン系樹脂100重量部に対し、
ナトリウム-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを80重量%以上の割合で含有する造核剤(C)を0.05〜0.3重量部配合してなることを特徴としている。
【0008】
本発明の医療器具は、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなることを特徴としている。
本発明のプレフィルドシリンジは、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のプレフィルドシリンジは、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなり、薬液充填後に水蒸気による滅菌を施されることを特徴としている。
さらに本発明のプレフィルドシリンジは、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなり、シリンジ成形から薬液充填までを無菌条件にて行って製造されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剛性、耐熱性、衛生性、耐薬品性に優れ、成形体のハイサイクル生産性を有し、透明性、耐衝撃性に高度に優れた成形体を製造し得るという、医療器具製造などの用途に好適な特性を、バランスよく兼ね備えたポリプロピレン樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該ポリプロピレン樹脂組成物を用いて、成形時の気泡が抑制され、衛生性、透明性、耐衝撃性、耐薬品性に優れるとともに、ハイサイクル生産性を有し、スチーム滅菌に好適である医療用器具、薬液充填型のプレフィルドシリンジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
<ポリプロピレン樹脂組成物>
(A)プロピレン単独重合体
本発明で用いられるプロピレン単独重合体(A)は、プロピレンの単独重合体であってメルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)は、10〜45g/10分、好ましくは20〜40g/10分、さらに好ましくは22〜28g/10分の範囲にある。
【0012】
また、プロピレン単独重合体(A)の13C−NMRで測定したメソペンタッド分率mmmmが0.970以上、好ましくは0.970〜0.990であることが望ましい。メルトフローレートとメソペンタッド分率が上記の範囲内にあると、得られるポリプロピレン樹脂組成物の流動性(成形性)とその成形品の耐熱性が良好で、しかも、見映えのよい外観を有する成形品が得られる。
【0013】
メソペンタッド分率mmmmは、13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示している。具体的には、プロピレン単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるメチル基に由来する吸収強度(Pmmmm)のプロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度(Pw)に対する比、すなわち〔(Pmmmm)/(Pw)〕として求められる値である。
【0014】
本発明に係るプロピレン単独重合体(A)は、公知の重合用触媒を用いて製造することができるが、メタロセン化合物触媒を用いることで好ましく製造することができる。メタロセン化合物触媒のメタロセン化合物成分としては、下記一般式(1)または(2)で表されるメタロセン化合物が好ましく用いられる。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(1)および式(2)中、R3は、炭化水素基およびケイ素含有炭化水素基から選ば
れ、R1、R2、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、およびR14は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭化水素基およびケイ素含有炭化水素基から選ばれ、R1ないしR12で示される基のうち、隣接した基は互いに結合して環を形
成してもよく、一般式(1)の場合はR1、R4、R5およびR12から選ばれる基とR13
たはR14が互いに結合して環を形成してもよく、Aは、不飽和結合および/または芳香族環を含んでいてもよい炭素原子数2〜20の2価の炭化水素基を示し、AはYと共に形成する環を含めて2つ以上の環構造を含んでいてもよく、Yは、炭素原子またはケイ素原子であり、Mは、周期表第4族から選ばれた金属を示し、jは、1〜4の整数であり、Qは、ハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれ、jが2以上のときはQは互いに同一でも異なっていてもよい。)
上記炭化水素基の好ましい例としては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアルキルアリール基などが挙げられる。
【0017】
また、R3は、イオウ、酸素などの異原子を含む環状の炭化水素基、たとえばチエニル
基、フリル基などであってもよい。具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1,1-ジエチルプロピル、1-エチル-1- メチルプロピル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、1,1-ジメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、ネオペンチル、シクロヘ
キシルメチル、シクロヘキシル、1-メチル-1- シクロヘキシル、1-アダマンチル、2-アダマンチル、2-メチル-2- アダマンチル、メンチル、ノルボルニル、ベンジル、2-フェニルエチル、1-テトラヒドロナフチル、1-メチル-1- テトラヒドロナフチル、フェニル、ナフチル、トリルなどの炭化水素基が挙げられる。
【0018】
上記ケイ素含有炭化水素基の好ましい例としては、ケイ素原子数1〜4、かつ炭素原子数3〜20のアルキルシリル基またはアリールシリル基が挙げられる。具体的には、トリメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、トリフェニルシリルなどの基が挙げられる

【0019】
なお、R3は、立体的に嵩高い置換基であることが好ましく、炭素原子数4以上の置換
基であることがより好ましい。
上記一般式(1)または(2)において、Mは、周期表第4族から選ばれる金属であり、具体的には、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムが挙げられる。上記一般式(1)または(2)において、jは1〜4の整数である。上記一般式(1)または(2)において、Qはハロゲン原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、アニオン配位子、または孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれる。jが2以上のときはQは、互いに同一でも異なっていてもよい。ハロゲンの具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、炭化水素基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。アニオン配位子の具体例としては、メトキシ、tert-ブトキシ、フェノキシ等のアルコキシ基;アセテート、
ベンゾエート等のカルボキシレート基;メシレート、トシレート等のスルホネート基などが挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子の具体例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類が挙げられる。Qは、少なくとも一つはハロゲンまたはアルキル基であることが好ましい。
【0020】
上記一般式(1)または(2)で表わされる、本発明に係るプロピレン単独重合体(A)の製造に好適なメタロセン化合物としては、以下のような化合物などが好ましく例示される。
一般式(1)で、R1、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R2、R4、R5、R7
8、R9、R10、R12が水素、R6、R11がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3が1-メチル-1-シクロヘキシル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウ
ム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R8
9、R12が水素、R6とR7が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、R10とR11が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3がトリメチルシリル、R1、R2、R4、R5
8、R9、R12が水素、R6とR7が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、R10とR11が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(C
3)2)-、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3が1,1-ジメチルプロピル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3が1-エチル-1-メチルプロピル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウ
ム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3が1,1,3-トリメチルブチル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3が1,1-ジメチルブチル、R1、R2、R4、R5
、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Y
が炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R7
8、R9、R10、R12が水素、R6、R11がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R3、R13、R14がフェニル、R1、R2、R4、R5、R8、R9、R12
水素、R6とR7が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、R10とR11が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、Mがジル
コニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R3がトリメチルシリル、R13、R14がフェニル、R1、R2、R4、R5
、R8、R9、R12が水素、R6とR7が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2
2C(CH3)2)-、R10とR11が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13がメチル、R14がフェニル、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4
5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がエチル、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R6
8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R1、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R2、R4、R5、R6
8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R6
8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R1、R13、R14がメチル、R3がtert-ブチル、R2、R4、R5、R6
7、R8、R9、R10、R11、R12が水素、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、j
が2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がメチル、R3がトリメチルシリル、R1、R2、R4、R5
6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが
炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(1)で、R13、R14がフェニル、R3がトリメチルシリル、R1、R2、R4、R5
、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Y
が炭素、Qが塩素、jが2であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R1がメチル、R3がtert-ブチル、R2、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12が水素、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)5-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R1がメチル、R3がtert-ブチル、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、j
が2、Aが-(CH2)5-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R3がトリメチルシリル、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R9、R10、R12が水素、R6、R11がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)5-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R3がトリメチルシリル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)5-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12
が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)4-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R3が1,1-ジメチルプロピル、R1、R2、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12が水素、R7、R10がtert-ブチル、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)5-であるメタロセン化合物。
一般式(2)で、R3がtert-ブチル、R1、R2、R4、R5、R8、R9、R12が水素、R6
とR7が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、R10とR11
が互いに結合して環を形成した-(C(CH3)2CH2CH2C(CH3)2)-、Mがジルコニウム、Yが炭素、Qが塩素、jが2、Aが-(CH2)4-であるメタロセン化合物。
【0021】
上記のようなメタロセン化合物は、1種単独で、または2種以上組合わせて用いること
ができる。
また上記のようなメタロセン化合物は、粒子状担体に担持させて用いることもできる。このような粒子状担体としては、SiO2 、Al23 、B23 、MgO、ZrO2 、CaO、TiO2 、ZnO、SnO2 、BaO、ThOなどの無機担体、ポリエチレン、プロピレン系ブロック共重合体、ポリ-1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、スチレン-ジ
ビニルベンゼン共重合体などの有機担体を用いることができる。これらの粒子状担体は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
プロピレン単独重合体(A)の製造に用いられるメタロセン化合物触媒は、助触媒成分のひとつとして、アルミノキサンを含むことが好ましい。従来公知のようにアルミノキサンは、たとえば下記のような方法によって製造することができる。
(1)吸着水を含有する化合物あるいは結晶水を含有する塩類、たとえば塩化マグネシウム水和物、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物、硫酸ニッケル水和物、塩化第1セリウム水和物などの炭化水素媒体懸濁液に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物を添加して反応させる方法。
(2)ベンゼン、トルエン、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの媒体中で、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に直接水や氷や水蒸気を作用させる方法。
(3)デカン、ベンゼン、トルエンなどの媒体中でトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に、ジメチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどの有機スズ酸化物を反応させる方法。
【0023】
アルミノキサンを調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウ
ム、トリ-sec-ブチルアルミニウム、トリ-tert-ブチルアルミニウム、トリペンチルアル
ミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウム等のトリシクロアルキルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシド等のジアルキルアルミニウムアリーロキシドなどが挙げられる。これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、トリメチルアルミニウムが特に好ましい。
【0024】
本発明で用いられるプロピレン単独重合体(A)は、上記したメタロセン触媒の存在下に、プロピレンを重合させて調製することができる。プロピレン単独重合体(A)の重合工程は、通常、約−50〜200℃、好ましくは約50〜100℃の温度で、また通常、常圧〜100kg/cm2、好ましくは約2〜50kg/cm2の圧力下で行なわれる。プロピレンの重合は、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行なうことができる
(B)エチレン−プロピレン−ブテン共重合体
本発明で用いられるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)は、エチレン含有量が8.0〜15.0wt%、好ましくは10.0〜15.0wt%、ブテン含有量が12.0〜20.0wt%、好ましくは15.0〜18.0wt%である。エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)のエチレン含有量およびブテン含有量がこの範囲内にあると、プロピレン単独重合体(A)との相溶性が良好となって透明性を向上させ、且つ共重合体が良好な低温耐衝撃性を有するゴム的性質を示す。
【0025】
このエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)のメルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)は、5〜15g/10分、好ましくは6〜10g/10分である。メルトフローレートがこの範囲内にあると、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)がポリプロピレン樹脂組成物中で微分散し、透明性に優れる。
【0026】
このようなエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)は、シクロペンタジエン骨格を有する置換基がジルコニウム金属等の遷移金属に配位したメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物等とを含むメタロセン系触媒などの立体規則性重合触媒の存在下に、エチレンとプロピレンと1-ブテンとを共重合させて製造することができる。特に、メ
タロセン系触媒を用いて製造したエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)は、分子量分布および組成分布が狭いことから、内溶液による耐抽出性が良好であり、容器用や注射器用の樹脂組成物の原料樹脂として適している。
(C)造核剤
本発明で用いられる造核剤(C)は、ナトリウム-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは97重量%以上の割合で含有する。本発明で用いられる造核剤(C)の主成分であるナトリウム-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートは、下記式で表される化合物である。
【0027】
【化2】

【0028】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、このような造核剤(C)を、プロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05〜0.3重量部、好ましくは0.05〜0.20重量部含有する。
本発明においては、分散性や安定性のために、分散剤を副成分として本発明の効果を阻害しない範囲、特に造核剤(C)に対して10重量%以内の量で添加する事も可能である。
その他の成分
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、リン系酸化防止剤(D)、アミン系酸化防止剤(E)、塩酸吸収剤(F)などを含有していてもよい。
【0029】
リン系酸化防止剤(D)としては、特に制限はなく、従来公知のリン系酸化防止剤を用いることができる。なお、リン系酸化防止剤(D)の使用が1種類のみであると、ブリードによる内容物汚染が少ないため好ましい。リン系酸化防止剤(D)としては、3価の有機リン化合物が好ましく、具体的には、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファ
イト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトなどが挙げ
られる。
【0030】
リン系酸化防止剤(D)は、プロピレン系樹脂100重量部に対して、通常0.05〜0.3重量部、好ましくは0.07〜0.2重量部、特に好ましくは0.1〜0.12重
量部の割合で用いられる。
【0031】
アミン系酸化防止剤(E)としては、ピペリジン環を持つ化合物が例示される。具体的には、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ポリ-6-[1-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-s-トリアジン-2,4-ジイル][[(2,2,6,6-
テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]などが挙げられる。
【0032】
アミン系酸化防止剤(E)は、プロピレン系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜0.3重量部、好ましくは0.01〜0.2重量部、さらに好ましくは0.01〜0.1重量部、特に好ましくは0.05〜0.1重量部の割合で用いられる。
【0033】
塩酸吸収剤(F)としては、滅菌方法や薬液との白濁物生成、造核剤との相互作用を考慮し、ハイドロタルサイト系が好ましいが、薬液との反応性などが無い場合、適宜脂肪酸金属塩を極力減量したハイドロタルサイトとの併用系が好適である。塩酸吸収剤(F)は、プロピレン系樹脂100重量部に対して、通常、0.02〜0.10重量部の割合で用いられる。
【0034】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤などを配合することができる。
ポリプロピレン樹脂組成物の調製
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、前記したプロピレン単独重合体(A)、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)、造核剤(C)および必要に応じて他の添加剤たとえばリン系酸化防止剤(D)、アミン系酸化防止剤(E)、塩酸吸収剤(F)等を、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダーなどを用いて混合した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することによって、上記各成分および添加剤が均一に分散混合された高品質のポリプロピレン樹脂組成物として得ることができる。
【0035】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、メルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が10〜45g/10分の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜40g/10分の範囲内にあることが望ましい。
【0036】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、成形性、剛性、耐熱性、成形時の気泡抑制、衛生性、ハイサイクル生産性を有するとともに、従来のポリプロピレン系樹脂よりも高度な透明性、耐衝撃性を有する成形体を形成でき、ロングラン射出成形にも好適である。また、本発明のポリプロピレン樹脂組成物から得られた成形体は、耐熱性に優れ、たとえばスチーム処理を施した場合にも高度な透明性、耐衝撃性を保持でき、耐薬品性にも優れる。すなわち本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、医療用器具などの用途に用いるポリプロピレン樹脂に望まれる全ての特性にバランスよく優れる。このため、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、医療用器具、食品容器などの各種成形品の製造に好適に用いることができ、特に、プレフィルドシリンジなどの医療用器具の製造に好適に用いることができる。
<医療用器具>
本発明に係る医療用器具は、上述の本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなる。
【0037】
本発明の医療用器具は、剛性、耐熱性、成形時の気泡抑制、衛生性、ハイサイクル生産
性を保持したまま、特に従来よりも改良された透明性と耐衝撃性を有し、かつ、ロングラン射出成形においてもシリンジ内面に傷がつきにくく、生産性にも優れる。
【0038】
本発明の医療用器具としては、具体的には、たとえば、注射器の注射筒外筒やプレフィルドシリンジを挙げることができる。
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物を成形してなる成形品は、剛性と透明性と耐熱性に優れ、いわゆる水蒸気による熱での変形を生じないという優れた性質を有しているので、医療用器具として好ましく用いることができる。医療用器具としては、水蒸気滅菌を施す医療用器具、特に水蒸気滅菌されるプレフィルドシリンジ、シリンジなどが好ましく挙げられ、さらに、薬液充填後に水蒸気滅菌を施す薬液充填型プレフィルドシリンジを特に好ましく挙げることができる。
【0039】
本発明に係る医療用器具によれば、近年、誤った投薬処理などによる問題を激減することが可能となる。すなわち、あらかじめ薬液をシリンジに充填したパック方式のプレフィルドシリンジを使用することによって、このような医療事故を未然に防ぐことができる。
【0040】
本発明のプレフィルドシリンジに充填される薬液としては、一般的なヘパリン生食液や塩化カルシウム水溶液などが例示されるがこれらに何ら限定されるものではない。
プレフィルドシリンジのシリンジ本体などの本発明に係る医療用器具は、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物を、公知の方法により成形して製造することができる。ここで、シリンジ成形などのポリプロピレン樹脂組成物の成形は、滅菌条件下、好ましくは無菌条件下で行われることが望ましい。また、本発明に係るプレフィルドシリンジは、好ましくは無菌条件下で成形したシリンジに、無菌条件下で薬液充填を行って得るのが望ましい。
【0041】
本発明の医療用器具およびプレフィルドシリンジは、耐熱性、耐薬品性に優れ、水蒸気滅菌などのスチーム処理や薬剤との接触によっても優れた透明性を維持するため、薬剤との作用によって生じる白濁問題が解消され、様々な薬液を充填しての今後の使用に好適である。
【0042】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例等において、物性は次の方法で測定した。
(1)メルトフローレート(MFR)は、ASTM D 1238に準拠し、230℃、荷重2.16kgで測定した。
(2)曲げ弾性率は、ASTM D 790に準拠して曲げ試験を行ない、その結果から曲げ弾性率を算出した。
(3)加熱変形温度;ASTM D 648に準じて行った。単位は℃である。
(4)ヘイズは、ASTM D 1003に準拠し、長さ12cm、幅11cm、厚み2mmの角板
を射出成形し、121℃1時間の条件でシリンジを水蒸気滅菌し、滅菌前後でのヘイズを測定した。
(5)成形性の評価として、20ml、厚み1mmの注射器外筒8本取り金型を用い、150t電動射出成形機にて、シリンジ生産サイクルタイム(秒)をもとめた。シリンジ生産サイクルタイム6秒未満を○、6秒以上を×と評価した。
【0044】
成形温度は実際の顧客成形条件を想定し、200℃で実施した。射出成形の際に、ショートモールド(金型中に樹脂が完全に充填されないまま成形されてしまう成形不良状態)となり、成形温度を220℃に上げてもショートモールドが解消されない、又は樹脂に焼
けや他の部位がバリ気味になってしまう場合を「ショート(×)」と評価した。また、射出成形時にバリ(製品周囲の微小なはみ出し樹脂)が生じ、成形温度を190℃に下げてもバリが解消されない場合を「バリ(×)」と評価した。
(6)上記シリンジを用い、押し子を入れ、日局方溶出物試験121℃1時間水蒸気滅菌後のシリンジの変形による内容液液洩れの有無を目視で評価した。
(7)シリンジ破壊高さは45gの四角錘を上記シリンジ胴部に種々の高さで落下させ、破壊高さ(cm)の平均(n=10)をもとめた。破壊高さ140cm以上を合格(○)、100cm以上140cm未満を△、100cm未満を×と評価した。
原料
実施例等で使用した原料の調製方法及び物性は以下のとおりである。
〔調製例1〕プロピレン単独重合体の製造
充分に窒素置換した20リットル容量のオートクレーブ中に、シリカ担持メチルアルミノキサンをアルミニウム換算で20mmol入れ、ヘプタン500mlに懸濁させた。次いでその懸濁液に、ジメチルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロライド54mg(0.088mmol)をトルエン溶液として加えた後、次いでトリイソブチルアルミニウム(80mmol)を加え、30分攪拌して触媒懸濁液とした。
【0045】
充分に窒素置換した内容積20リットルのオートクレーブに、プロピレン5kgと水素2リットルを装入し、上記の触媒懸濁液を添加し、3.0〜3.5MPaの圧力下、70℃で60分間バルクホモ重合を行なった。少量のメタノールを添加することで重合反応を停止し、重合器内の未反応ガスをパージした。上記のようにして得られたプロピレン単独重合体(A2−1)の収量は、2.8kgであった。このプロピレン単独重合体(A2−1)は、MFR(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が30g/10分であり、融点(Tm)が159℃であった。また立体規則性は、メソペンタッド分率mmmmが97.0%であり、2,1-挿入と1,3-挿入は共に検出されなかった。
【0046】
なお、実施例等で用いた(A2−1)以外の、(A2−2)、(A2−3)及び(A2−4)のプロピレン単独重合体については、前記製造例において用いるメタロセン化合物の種類および重合反応時の水素添加量等の重合条件を変更することにより製造した。A1−1及びA1−3については公知のチーグラーナッタ触媒を用いて前述の重合反応時の水素添加量等の重合条件を変更して製造した。A3−1及びA3−2についても同様に公知のチーグラーナッタ触媒を用いて、上記プロピレン単独重合体重合時にエチレンガスを所定量フィードし製造した。
〔調製例2〕エチレン・プロピレン・ブテン共重合体の製造
触媒の製造(ジフェニルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-tert-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドの合成)
(1)(3-tert-ブチル-5-メチル-シクロペンタジエニル)(2,7-シ゛-tert-ブチル-フルオレニル)ジフェニルメタンの合成
マグネチックスターラーチップおよび三方コックを備えた200mlの三口フラスコを充分に窒素置換し、窒素雰囲気下で2.53gの2,7-ジ-tert-ブチルフルオレン(9.10mmol)を70mlの脱水ジエチルエーテルに溶解した。この溶液に6.4mlのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(1.56M:9.98mmol)を氷浴中で徐々に滴下した後、室温で一晩攪拌した。この反応溶液に3.01gの3-tert-ブチル-1-メチル-6,6-ジフェニルフルベン(10.0mmol)を40mlの脱水ジエチルエーテルに溶解
した溶液を加え、還流下で7日間攪拌した。反応混合物を100mlの塩酸水溶液(1N)に添加した後、ジエチルエーテルを加え有機層を分離し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、乾燥剤をろ過し、ろ液から溶媒を減圧留去することにより赤褐色液体を得た。180gのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフ(展開溶媒:n−ヘキサン)により精製し、展開溶媒を減圧留去後、
メタノールから再結晶し、減圧乾燥することにより、1.65g(2.85mmol)の薄黄色固体として目的化合物を得た(収率:31%)。
(2)ジフェニルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-tert-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドの合成
マグネチックスターラーチップおよび三方コックを備えた50mlのシュレンクフラスコを充分に窒素置換し、窒素雰囲気下で0.502gの(3-tert-ブチル-5-メチル-シク
ロペンタジエニル)(2,7-ジ-tert-ブチル-フルオレニル)ジフェニルメタン(0.86
8mmol)を30mlの脱水ジエチルエーテルに溶解した。この溶液に1.40mlのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(1.56M:2.18mmol)を氷浴中で徐々に滴下した後、室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去することにより得られた橙色固体を脱水ペンタンで洗浄し、減圧乾燥することにより橙色固体を得た。この固体に30mlの脱水ジエチルエーテルを加え、ドライアイス/メタノール浴で充分に冷却した後、0.206gの四塩化ジルコニウム(0.882mmol)を添加した。徐々に室温に戻しながら2日間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。反応混合物をグローブボックス中に導入後、脱水ヘキサンでリスラリーし、珪藻土を充填したガラスフィルターでろ過した。ろ液を濃縮することで得られた固体を少量の脱水トルエンで洗浄し、減圧乾燥することにより、140mg(0.189mmol)の桃色固体として目的化合物を得た(収率:22%)。同定は、1H−NMRスペクトルおよびFD−質量分析スペクトルで行った。以下にその測
定結果を示す。
【0047】
1H−NMRスペクトル(CDCl3,TMS基準):δ/ppm 0.99(s,9H),1.09(s,9H),1.12(s,9H),1.91(s,3H),5.65(d,1H),6.14(d,1H),6.23(m,1H),7.03(m、1H),7.18−7.46(m,6H),7.54−7.69(m,2H),7.80−7.83(m,1H),7.95−8.02(m,5H)
FD−質量分析スペクトル:M/z=738(M+
プロピレン・エチレン・ブテン共重合体(B‐1)の重合
充分に窒素置換した4000mlの重合装置に、1834mlの乾燥ヘキサン、1−ブテン120gとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を65℃に昇温し、プロピレンで系内の圧力を0.55MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を0.75MPaに調整した。次いで、合成例1にて合成したジフェニルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニルジルコニウムジクロライド0.001mmolとアルミニウム換算で0.3mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温65℃、系内圧力を0.75MPaにエチレンで保ちながら20分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、4Lのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたポリマーは、197.3gであり、MFRが8(g/10min)、エチレン
が12.0wt%、ブテンが18wt%のプロピレン・エチレン・ブテン共重合体であった。
【0048】
エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−2)及び(B−3)については、上記エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の重合において、1−ブテン、エチレン、プロピレンの添加量を変更し、製造を行った。
【0049】
実施例等で使用した原料の物性値は以下のとおりである。
プロピレン単独重合体(A1−1)
メルトフローレート:15g/10分、メソペンタッド分率:0.983。
プロピレン単独重合体(A1−2)
メルトフローレート:30g/10分、メソペンタッド分率:0.983。
プロピレン単独重合体(A2−1)
メルトフローレート:30g/10分、メソペンタッド分率:0.970。
プロピレン単独重合体(A2−2)
メルトフローレート:45g/10分、メソペンタッド分率:0.970。
プロピレン単独重合体(A1−3)
メルトフローレート: 8g/10分、メソペンタッド分率:0.980。
プロピレン単独重合体(A2−3)
メルトフローレート:30g/10分、メソペンタッド分率:0.958。
プロピレン単独重合体(A2−4)
メルトフローレート: 8g/10分、メソペンタッド分率:0.970。
エチレン−プロピレンランダム共重合体(A3−1)
メルトフローレート:25g/10分、エチレン含有量:1.7wt%。
エチレン−プロピレンランダム共重合体(A3−2)
メルトフローレート:50g/10分、エチレン含有量:1.7wt%。
エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)
メルトフローレート:8g/10分、エチレン含有量:12wt%、ブテン含有量18wt%。
エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−2)
メルトフローレート:8g/10分、エチレン含有量:25wt%、ブテン含有量13wt%。
エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−3)
メルトフローレート:8g/10分、エチレン含有量:5wt%、ブテン含有量16wt%。
造核剤(C−1)
ナトリウム-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート。商品名アデカスタブNA−11UY。
リン系酸化防止剤(D−1)
トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト。
アミン系酸化防止剤(E−1)
コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物。
塩酸吸収剤(F−1)
Mg4Al2(OH)12CO3・3H2Oで表されるハイドロタルサイトを使用。
【実施例1】
【0050】
プロピレン単独重合体(A1−1)97重量部、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)3重量部をヘンシェルミキサー中に供給し、さらに、前記造核剤(C−1)0、10重量部、リン系酸化防止剤(D−1)0.10重量部、アミン系酸化防止剤(E−1)0.04重量部、塩酸吸収剤(F−1)0.03重量部を添加し、攪拌混合した。
【0051】
次いで、得られた混合物を、単軸押出機(直径100mm)を用いて、樹脂温度220℃で溶融混練し、その混練物を押出してポリプロピレン樹脂組成物のペレットを得た。次いで、そのペレットを用いて、射出成形により200℃、金型温度40℃にて厚み2mmのシート状試験片、曲げ強度試験用の試験片(ASTM D 790、厚み3.2mm、長さ127mm、幅12.7mm)、および加熱変形温度試験用の試験片(ASTM D 648、厚み4.0mm、長さ127mm、幅12.7mm)を作製した。
【0052】
これら試験片を用いて、前述の方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【実施例2】
【0053】
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)とエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の配合量をそれぞれ85重量部、15重量部に変更した以外は実施例1と同様に行った。物性測定結果を表1に示す。
【実施例3】
【0054】
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)のかわりにプロピレン単独重合体(A1−2)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表1に示す。
【実施例4】
【0055】
実施例3において、プロピレン単独重合体(A1−2)とエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の配合量をそれぞれ85重量部、15重量部に変更した以外は実施例3と同様に行なった。物性測定結果を表1に示す。
【実施例5】
【0056】
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)のかわりにプロピレン単独重合体(A2−1)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表1に示す。
【実施例6】
【0057】
実施例5において、プロピレン単独重合体(A2−1)とエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の配合量をそれぞれ85重量部、15重量部に変更した以外は実施例5と同様に行った。物性測定結果を表1に示す。
【実施例7】
【0058】
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)のかわりにプロピレン単独重合体(A2−2)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表1に示す。
【実施例8】
【0059】
実施例7において、プロピレン単独重合体(A2−2)とエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の配合量をそれぞれ85重量部、15重量部に変更した以外は実施例7と同様に行った。物性測定結果を表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)の代わりにプロピレン単独重合体(A1−3)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例2〕
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)の代わりにプロピレン単独重合体(A2−3)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例3〕
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)の代わりにプロピレン単独重合体(A2−4)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例4〕
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)およびエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)の代わりにエチレン−プロピレンランダム共重合体(A3−1)100重量部を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例5〕
比較例4において、エチレン−プロピレンランダム共重合体(A3−1)の代わりにエチレン−プロピレンランダム共重合体(A3−2)を用いた以外は、比較例4と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例6〕
実施例1において、プロピレン単独重合体(A1−1)100重量部を用い、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)を用いない以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例7〕
比較例6において、造核剤(C−1)を添加しない以外は、比較例6と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例8〕
実施例5において、プロピレン単独重合体(A2−1)100重量部を用い、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)を用いない以外は、実施例5と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例9〕
比較例8において、造核剤(C−1)を添加しない以外は、比較例8と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例10〕
実施例1において、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)のかわりにエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−2)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
〔比較例11〕
実施例1において、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−1)のかわりにエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B−3)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。物性測定結果を表2に併せて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1,2に記載した物性測定結果から、本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物から得られた成形品が、従来の高い剛性、耐熱性を有し、且つ従来得られなかったレベルの透明性と耐衝撃性を有し、更に生産速度である1生産サイクル6秒未満で生産できるという高生産性に優れたポリプロピレン樹脂組成物であることが分かる。また、本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物を用いて生産されたプレフィルドシリンジは従来の特性を損なうことなく、滅菌によるシリンジの変形もなく、且つ抽出物も見られず、耐衝撃性に非常に優れたシリンジ特性を保持しており、高い安全性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が10〜45g/10分であり、メソペンタッド分率mmmmが0.970以上であるプロピレン単独重合体(A)80〜99重量%と、
メルトフローレート(ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が5〜15g/10分であり、かつエチレン含有量が8.0〜15.0wt%、ブテン含有量が12.0〜20.0wt%であるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体(B)1〜20重量%と
からなるプロピレン系樹脂100重量部に対し、
ナトリウム-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを80重量%以上の割合で含有する造核剤(C)を0.05〜0.3重量部配合してなることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなることを特徴とする医療用器具。
【請求項3】
請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項4】
請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなり、薬液充填後に水蒸気による滅菌を施されることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項5】
請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物から成形されてなり、シリンジ成形から薬液充填までを無菌条件にて行って製造されることを特徴とするプレフィルドシリンジ。

【公開番号】特開2006−307038(P2006−307038A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132176(P2005−132176)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】