説明

ポリプロピレン樹脂組成物製パイプ

【課題】従来のポリプロピレンパイプの欠点を改良した機械物性バランス、パイプ内面の平滑性に優れ、低線膨張係数を有するポリプロピレン樹脂組成物パイプを提供する。
【解決手段】(a)ポリプロピレン樹脂60〜90重量部%、(b)ビニル芳香族炭化水素が10〜50重量%で、共役ジエンの30〜70%がビニル結合である非水添エラストマーを水素添加した水添エラストマー2〜20重量部%および(c)平均粒径が0.5μm〜10μmの板状フィラー5〜30重量部%からなり、線膨張係数が5×10−5〜12×10−5/℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂組成物製パイプ。(但し、成分(a)+成分(b)+成分(c)=100重量%。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物製パイプに関する。さらに詳しくは、ポリプロピレン樹脂、特定の水添エラストマー、特定の無機フィラーとからなるポリプロピレン樹脂組成物パイプに関する。本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、機械物性バランスに優れ、耐熱性、耐薬品性を有し且つ低線膨張係数である為、該樹脂組成物からなるパイプは化学プラント、空調、給湯用途等のパイプとして好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
現在、塩化ビニルパイプが広範囲の用途に使用されている。塩化ビニル樹脂は可塑剤等の調整により軟質〜硬質までの広い範囲のパイプ製品が調整出来、パイプ同士の接合が接着剤で容易に出来る等の利便性が高く評価されているが、分子中に多量な塩素を含んでおり環境への負荷が懸念されており最近その代替材料が求められている。
近年、ポリエチレン樹脂を中心に非塩化ビニル樹脂系パイプ材料の検討が進められている(例えば、特許文献1参照。)。一方、ポリプロピレンパイプに関しては、耐熱性、耐薬品性に優れており各種用途への展開が期待されているが、ポリプロピレンパイプの一つの問題として温度変化に対する線膨張係数が高く、パイプの長手方向に弛みやすいことが指摘されている。
【0003】
ポリプロピレン樹脂はバンパー等の自動車用途に使用されているが、自動車分野においてもポリプロピレン成形品の高線膨張が問題となっており、種々の検討が行われている。例えば自動車のバンパー用途を目的にポリプロピレン、エチレン−1−ブテン共重合、エチレンープロピレン共重合体、タルクからなる組成物が開示されている(例えば、特許文献2〜8参照。)。上記技術は、タルク添加による物性低下をカバーする為に多量のオレフィン系エラストマーを添加する必要があり、ポリプロピレン樹脂の表面性、剛性等を犠牲にしている。又塗装性改良を目的に、ポリプロピレン及びタルク組成物に高流動性のスチレンエラストマーを添加する試みが開示されている(特許文献9)。特許文献2〜9は射出成形用途用のポリプロピレン樹脂組成物に関するものであり、比較的高流動性のポリプロピレン樹脂組成物に関するものである。本発明の対象であるパイプ用途においては、使用されるエラストマー及び無機フィラーが最適でなければ各種物性バランスに優れたパイプは提供できない。
【0004】
【特許文献1】特許3497284号公報
【特許文献2】特開平50−51498号公報
【特許文献3】特開平5−86256号公報
【特許文献4】特開平5−98094号
【特許文献5】特開平6−32951号公報
【特許文献6】特開平6−256596号公報
【特許文献7】特開平10−176084号公報
【特許文献8】特開2002−97337号公報
【特許文献9】特開平5−105788号公報 以上のように、機械物性に優れ、パイプの内面平滑性、及び低線膨張係数を有するポリプロピレンパイプは未だ完成していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のポリプロピレンパイプの欠点を改良した機械物性バランス、パイプ内面の平滑性に優れ、低線膨張係数を有するポリプロピレン樹脂組成物製パイプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々の研究を重ねた結果、ポリプロピレン樹脂に、特定の水添エラストマー、特定の無機フィラーからなるポリプロピレン樹脂組成物パイプが種々の特性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち,本発明は、
[1](a)ポリプロピレン樹脂60〜90重量%、(b)ビニル芳香族炭化水素が10〜50重量%で、共役ジエンの30〜70%がビニル結合である非水添エラストマーを水素添加した水添エラストマー2〜20重量%および(c)平均粒径が0.5μm〜10μmの板状フィラー5〜30重量%からなり、線膨張係数が5×10−5〜12×10−5/℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂組成物製パイプ。(但し、成分(a)+成分(b)+成分(c)=100重量%。)
[2]230℃、2.16kg荷重でのメルトフローレートが0.1〜20g/10分で、動的粘弾性スペクトルにおいて損失正接(tanδ)のピークが−32℃以下にある水添エラストマーであることを特徴とする[1]に記載のポリプロピレン樹脂組成物製パイプ。
[3]板状フィラーが、タルクおよび/又はマイカであることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリプロピレン樹脂組成物製パイプ
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物製パイプは、機械物性バランス、パイプ内面の平滑性、低線膨張係数を有し、ポリプロピレン樹脂の特徴である耐薬品性、耐熱性等が要求される化学プラントパイプ、給湯用パイプ、空調パイプ等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明での成分(a)はポリプロピレン樹脂である。本発明での成分(a)ポリプロピレン樹脂は結晶性を有するポリプロピレン樹脂であり、例えば、結晶性プロピレン単独重合体、結晶性エチレン−プロピレン共重合体、結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用しても良い。結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体に用いられるα−オレフィンとしては、炭素数が4以上のα−オレフィンであり、好ましくは炭素数が4〜20のα−オレフィンであり、より好ましくは炭素数が4〜12のα−オレフィンである。例えば、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられる。結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、結晶性プロピレン−ブテン−1共重合体、結晶性プロピレン−ヘキセン−1共重合体等が挙げられる。本発明での成分(a)ポリプロピレン樹脂としては、好ましくは結晶性プロピレン単独重合体、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体、又はそれらの混合物である。本発明での結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体部分とエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とからなる結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体である。
【0009】
本発明での成分(a)ポリプロピレン樹脂の製造方法としては、公知の立体規則性オレフィン重合触媒を用いて公知の重合方法によって製造する方法が挙げられる。公知の触媒としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒系、メタロセン触媒系、それらを組合わせた触媒系等が挙げられ、公知の重合方法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法又は気相重合法、あるいはこれらの重合法を任意に組み合わせた重合方法が挙げられ、好ましくは、連続式の気相重合法である。
本発明での成分(a)ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂組成物100重量%中、60〜90重量%、好ましくは70〜87重量%、更に好ましくは75〜85重量%である。60重量%未満の場合には、ポリプロピレン樹脂の割合が過小であり、ポリプロピレン樹脂組成物パイプの機械強度が不十分となり、パイプ間の熱溶融融着性等が不良となる。又、90重量%を越える場合には、パイプの線膨張係数が高いため長期間使用中にパイプが捻るという問題が発生する。又本発明での成分(a)ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートは特に限定されないが、230℃、2.16kg荷重下でのメルトフローレートが、0.1〜2.0g/10分の範囲にあることが、パイプ成形時のパリソン安定性の面から好ましい。
【0010】
次に本発明での成分(b)水添エラストマーについて説明する。本発明での成分(b)である水添エラストマーは、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなる非水添エラストマーを水素添加し得られる水添エラストマーであり、ビニル芳香族炭化水素が10〜50重量%で共役ジエンの30〜70%がビニル結合である非水添エラストマーを水素添加した水添エラストマーである。
非水添エラストマーの製造方法としては、例えば特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭46−32415号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭48−4106号公報、特公昭56−28925号公報、特公昭51−49567号公報、特開昭59−166518号公報、特開昭60−186577号公報などに記載された方法が挙げられる。例えば下記一般式で表されるような構造を有する。
(A−B)、 A−(B−A)、 B−(A−B)
(上式において、Aはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bは共役ジエンを主体とする重合体である。AブロックとBブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。又、nは1以上の整数、好ましくは1〜5の整数である。)
【0011】
尚、上記において、ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAとはビニル芳香族炭化水素を好ましくは50wt%以上、より好ましくは70wt%以上含有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体ブロック及び/又はビニル芳香族炭化水素単独重合体ブロックを示し、共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとは共役ジエンを好ましくは50wt%を超える量で、より好ましくは60wt%以上含有する共役ジエンとビニル芳香族炭化水素との共重合体ブロック及び/又は共役ジエン単独重合体ブロックを示す。共重合体ブロック中のビニル芳香族炭化水素は均一に分布していても、又テーパー状に分布していてもよい。又、該共重合体部分には、ビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。本発明で使用する成分(b)水添エラストマーは、上記一般式で表されるブロック共重合体の任意の混合物でもよい。本発明において非水添エラストマー中の共役ジエン部分のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、後述する極性化合物等の使用により任意に変えることができるが、本発明でのビニル結合とは、共役ジエンとして1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合、イソプレンを使用した場合又は3,4−ビニル結合を示す。
【0012】
本発明での成分(b)水添エラストマーにおいてのビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、などがあるが、特に一般的なものとしてはスチレンが挙げられる。これらは一つの水添エラストマーの製造において一種のみならず二種以上を使用してもよい。又共役ジエンとしては、共役ジエンとは1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどであるが、特に一般的なものとしては1,3−ブタジエン、イソプレンが挙げられる。これらは一つの水添系エラストマーの製造において一種のみならず二種以上を使用してもよい。
【0013】
本発明の非水添エラストマーのビニル芳香族炭化水素含有量は10〜50重量%、好ましくは11〜40重量%、更に好ましくは12〜35重量%である。10重量%未満の場合、又は50重量%を越える場合、ポリプロピレン樹脂組成物製パイプの線膨張係数が高くなり、且つタルク添加によるポリプロピレン樹脂組成物製パイプの物性低下が大きい。又本発明での非水添エラストマーの共役ジエンのビニル結合は、30〜70%である。好ましくは30〜60、更に好ましくは30〜50%の範囲にある。30%未満の場合には、水添エラストマー中に、エチレン連鎖が生成しその結果エラストマー中のゴム成分が結晶化し、ポリプロピレン樹脂組成物製パイプの物性が低下し、且つ線膨張係数の改良効果が少ない。又70%を越える場合には、水添エラストマー中に多量のエチル側鎖が挿入され、その結果成分(a)ポリプロピレン樹脂との相溶性が向上しすぎて、ポリプロピレン樹脂の結晶化度を低下させポリプロピレン樹脂組成物製パイプの物性を低下させるだけではなく、線膨張係数も高いものとなる。
【0014】
本発明での非水添エラストマーは、一般的にアニオン重合により製造される。アニオン重合においては、有機リチウム化合物が触媒として好適に使用される。有機リチウム化合物とは、分子中に1個以上のリチウム原子を結合した化合物であり、例えばエチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウムなどが挙げられる。これらは一種のみならず二種以上を混合して使用してもよい。又、有機リチウム化合物は、非水添エラストマーの製造において重合途中で1回以上分割添加してもよい。非水添エラストマーの製造に用いられる溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、或いはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素系溶媒が使用できる。これらは一種のみならず二種以上を混合して使用してもよい。
【0015】
非水添エラストマーの製造時重合速度の調整、重合した共役ジエン部分のミクロ構造の変更、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素との反応性比の調整などの目的で極性化合物やランダム化剤を使用することができる。極性化合物やランダム化剤としては、エーテル類、アミン類、チオエーテル類、ホスホルアミド、アルキルベンゼンスルホン酸のカリウム塩又はナトリウム塩、カリウムまたはナトリウムのアルコキシドなどが挙げられる。適当なエーテル類の例はジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルである。アミン類としては第三級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、その他環状第三級アミンなども使用できる。ホスフィン及びホスホルアミドとしては、トリフェニルホスフィン、ヘキサメチルホスホルアミドなどがある。
【0016】
本発明においては、非水添エラストマーは、共役ジエン部の2重結合を飽和させるために、水素添加が行われ、成分(b)水添エラストマーに変換する必要がある。水添触媒としては、特に制限されず、従来から公知である(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩などの遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒が用いられる。具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒としてはチタノセン化合物および/または還元性有機金属化合物との混合物があげられる。
【0017】
チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用できるが、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物があげられる。また、還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物あるいは有機亜鉛化合物等があげられる。
水添反応は好ましくは0〜200℃、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施される。水添反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.1〜15MPa、より好ましくは0.2〜10MPa、更に好ましくは0.3〜5MPaが推奨される。また、水添反応時間は好ましくは3分〜10時間、より好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、或いはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
【0018】
本発明に使用される成分(b)水添エラストマーにおいては、共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合のトータル水素添加率は目的に合わせて任意に選択でき、特に限定されない。水添エラストマー中の共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合の70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上が水添されていても良いし、一部のみが水添されていても良い。一部のみを水添する場合には、水添率が10%以上、70%未満、或いは15%以上、65%未満、所望によっては20%以上、60%未満にすることが好ましい。
更に、本発明での成分(b)水添エラストマーおいて、非水添エラストマーの共役ジエンにもとづくビニル結合の水素添加率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上であることが熱安定性に優れたポリプロピレン樹脂組成物を得る上で推奨される。ここで、ビニル結合の水素添加率とは、水添エラストマー中に組み込まれている非水添エラストマーの共役ジエンにもとづくビニル結合のうち、水素添加されたビニル結合の割合をいう。
【0019】
なお、成分(b)水添エラストマー中のビニル芳香族炭化水素に基づく芳香族二重結合の水添率については特に制限はないが、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下が推奨される。水添率は、核磁気共鳴装置(NMR)により知ることができる。
本発明で使用する成分(b)水添エラストマーは、230℃、2.16kg荷重でのメルトフローレートが0.1〜20g/10分であることが線膨張係数、流動性、及び機械物性バランスの面より好ましい。又水添エラストマーは、動的粘弾性スペクトルにおいて損失正接(tanδ)のピークが−32℃以下にあることが、ポリプロピレン樹脂組成物製パイプの耐衝撃特性の面から好ましい。動的粘弾性スペクトルにおける損失正接(tanδ)のピークは、粘弾性測定解析装置を用い、周波数を10Hzとして測定される。
【0020】
本発明での成分(b)水添エラストマーは、既に公知の押出グラフト法、又はリビング末端を利用した末端変性体として使用してもよいが、多量の変性基を付与した場合には、ポリプロピレン樹脂組成物の線膨張係数が低下する傾向がある。
本発明での成分(c)は、平均粒径が0.5μm〜10μmの板状フィラーである。板状フィラーは、成形品の流動方向に配向し、本発明でのポリプロピレン樹脂組成物製パイプの線膨張係数を低下させ、又剛性を向上させる効果がある。板状フィラーとしては、タルク、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、合成マイカ、モンモリナイト、黒鉛、板状炭酸カルシウム、板状アルミナ、ベーナイトがあげられ、特にタルク、マイカが安価であり、ポリプロピレンの結晶核剤としても作用し、ポリプロピレンの結晶化度を高める作用があるため、本発明の板状フィラーとして好ましい。又本発明での板状フィラーは、無処理のまま使用しても良く、または、成分(a)ポリプロピレン樹脂との界面接着性を向上させ、また分散性を向上させる目的で公知の各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類あるいは他の界面活性剤で表面を処理したものを使用しても良い。
【0021】
本発明での成分(c)板状フィラーの平均粒径は0.5μm〜10μm、好ましくは1μm〜8μm、更に好ましくは2μm〜6μmが好ましい。0.5μm未満の場合には、板状フィラーの粉砕が困難であり、ハンドリング時に凝集し、ポリプロピレン樹脂組成物中での分散が不良となり線膨張係数を低下させる効果が少なくなり、又凝集物が応力集中点としても働く為に機械物性が低下する。10μmを越える板状フィラーを用いる場合、十分にポリプロピレン樹脂組成物の線膨張係数を低下させるために、多量の板状フィラーを添加する必要がある。その結果として機械物性が低下し、パイプ表面の荒れが悪化し、パイプの溶融融着性も低下する。平均粒子径とはレーザー解析法で測定し、積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことを意味する。
本発明で用いられる成分(c)板状フィラーは、ポリプロレン樹脂組成物100重量%に対し、5〜30重量%、好ましくは8〜25重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。5重量%未満の場合ポリプロピレン樹脂組成物パイプの線膨張係数が高く、30重量%を越える場合には、ポリプロピレン樹脂組成物パイプの表面荒れ、及び機械物性の低下が大きく、パイプの熱溶融融着性が低下する。
【0022】
本発明でのポリプロピレン樹脂組成物は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロールなどの混練機を用いて製造することができる。各成分の混合は同時に行なってもよく、また分割して行なってもよい。分割添加の方法として、(a)ポリプロピレン樹脂と(c)板状フィラーを混練した後、(b)水添エラストマーを添加する方法や、予め(a)ポリプロピレン樹脂に(c)板状フィラーを高濃度に混練してマスターバッチとし、それを別途(a)ポリプロピレンや(b)水添エラストマーで希釈しながら混練する方法がある。さらに分割添加の第2の方法として、(a)ポリプロピレン樹脂と(b)水添エラストマーを混練した後、(c)板状フィラー等を添加し混練する方法や、予め(a)ポリプロピレン樹脂に(b)水添エラストマーを高濃度に混練してマスターバッチとし、それに(a)ポリプロピレン、(c)板状フィラーを添加し混練する方法がある。分割添加の第3の方法として、(a)ポリプロピレン樹脂と(c)板状フィラー、(a)ポリプロピレン樹脂と(b)水添エラストマーをそれぞれ混練しておき、最後にそれらを合わせて他の成分とともに混練する方法である。混練に必要な温度は160〜250℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0023】
本発明においては基本成分以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤等の添加剤を配合することができる。屋外における耐候性、耐熱性、耐酸化安定性を向上せしめるために、酸化防止剤や紫外線吸収剤を配合することが好ましい。酸化防止剤として、2,6−ジ第三ブチルフェノール、2,6−ジ第三ブチル−4−エチルフエノール、2,6−ジ第三ブチル−α−ジメチルアミノ−バラ−クレゾール、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ第三ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチル−チオ−1,3,5−トリアジン、2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフエノール、トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ第三ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ジテウリルチオジプロピオネート等、紫外線吸収剤として、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、ビス−(2,6−ジメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
【0024】
又本発明で使用するポリプロピレン樹脂組成物に、本発明の目的を損なわない範囲で、既に公知の樹脂、及びゴム・エラストマーを添加しても構わない。例えばゴム変性スチレン系樹脂(HIPS)、ポリエチレン、エチレンを50wt%以上含有するエチレンと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、塩素化ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、ポリブテン−1、ブテン−1を50wt%以上含有するブテン−1と、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であるポリブテン系樹脂、鎖状炭化水素高分子化合物の水素の一部又は全部をフッ素で置換した構造を有する重合体が用いられる。
【0025】
具体的にはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライドなどのフッ素系樹脂、1,2−ポリブタジエン、トランスポリブタジエンなどのポリブタジエン系樹脂、ゴム状重合体としては、ブタジエンゴム及びその水素添加物(但し本発明の水添重合体とは異なる)、イソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水素添加物、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−ブテンゴム、エチエン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β−不飽和ニトリル−アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、天然ゴムなどが挙げられる。これらのゴム状重合体は、官能基を付与した変性体であっても良い。またこれらのゴム状重合体は2種以上を併用しても良い。
【実施例】
【0026】
次に実施例によって、本発明を更に詳細に説明するが本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例、比較例において、物性等の測定は下記によった。
水添エラストマーは以下の項目を測定した。
(1)スチレン含有量
紫外線分光光度計(日立UV200)を用いて、262nmの吸収強度より算出した。
(2)ビニル結合量
核磁気共鳴装置(BRUKER社製、DPX−400)を用いて測定した。
(3)メルトフローレートMFR
JISK−7210に準拠し、2.16kg荷重にて 230℃の温度で測定した。
(4)損失正接(tanδ)のピーク温度
粘弾性測定解析装置(型式DVE−V4;(株)レオロジ社製)を用い、粘弾性スペクトルを測定することにより求めた。測定周波数は、10Hzである。
ポリプロピレン樹脂組成に関しては、ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形を行い以下の項目を評価した。
【0027】
(5)ノッチ付きIzod衝撃強度(J/m)
JIS−K−7110に準拠して測定した。
【0028】
(6)引張り強度、引張り破断伸び
JIS K6251に準拠して、2mm厚みの射出成形平板から試験片を切削して引張強度と破断伸びを測定した。引張速度は500mm/min、測定温度は23℃であった。
ポリプロピレン樹脂組成物パイプは、成形温度200℃、内径50mm、厚み4.5mmのパイプを成形した。ポリプロピレン樹脂組成物パイプに関しては以下の項目を評価した。
【0029】
(7)パイプの表面荒れ
パイプの内側面を目視で評価し表面の荒れを評価した。評価基準を以下のように設定した。
パイプの表面の荒れがない: ○
パイプの表面が荒れている: ×
(8)パイプの線膨張係数
パイプの長手方向に平行に、長さ10mm、幅5mm、厚み3mmにサンプルを切削し、成形流動方向(パイプの長手方向)の線膨張係数を測定した。測定は、JIS K7197に準拠し熱機械分析(TMA)を用いて23℃〜100℃の範囲を測定し、線膨張係数を求めた。
【0030】
評価材料として以下のものを用いた。
<ポリプロピレン樹脂>
・ランダムタイププロピレン樹脂;サンアロマ−PS201A(MFR0.5g/10分、密度0.9g/cm)にカーボンブラツク2%添加した着色ポリプロピレン樹脂
<水添エラストマー>
・タフテックH1062(旭化成ケミカルズ(株)製)
スチレン含有量17.5wt%、ビニル結合49%、MFR3g/10分、損失正接(tanδ)のピークが−45℃
・タフテックH1221(旭化成ケミカルズ(株)製)
スチレン含有量13wt%、ビニル結合77.5%、MFR4g/10分、損失正接(tanδ)のピークが−31℃
・オレフィン系エラストマー:エチレンーブテン共重合体(タフマーTX610、三井化学(株)製)
MFR3g/10分、損失正接(tanδ)のピークが−50℃
<板状フィラー>
・平均粒径4.0μmタルク(商標名:ミクロエースP−4、日本タルク製)
・平均粒径13μmタルク(商標名:日本タルク製MS、日本タルク製)
【0031】
[実施例1〜3]
ポリプロピレン樹脂、水添エラストマー、板状フィラーを表1の割合で混合し、二軸押出機(装置名;PCM30<池貝鉄工社製>)で混練し,ペレット化することにより各種ポリプロピレン樹脂組成物を得た。押出条件は,シリンダ−温度が230℃,回転数が250rpmであった。得られたポリプロピレン樹脂組成物、及びそのパイプに関して評価をおこなった。
【0032】
[比較例1]
配合を表1に示す以外は、実施例1と同様に行なった。結果を表1に示す。ビニル結合が多い水添エラストマーを用いた場合、各種物性が低めであり、線膨張係数も高いものであった。これはポリプロピレン樹脂と水添エラストマーとの相溶性が高すぎるためと推定される。
【0033】
[比較例2]
配合を表1に示す以外は、実施例1と同様に行なった。結果を表1に示す。オレフィン系エラストマーの場合、本発明での水添エラストマーを用いた場合と比較した場合、機械物性が低く、線膨張係数も高いポリプロピレン樹脂組成物パイプとなった。
【0034】
[比較例3]
配合を表1に示す以外は、実施例1と同様に行なった。結果を表1に示す。平均粒径が大きいタルクの場合には、機械物性及び線膨張係数ともに満足できるものではなかった。又パイプの表面がざらざらで激しく荒れている。
【0035】
[比較例4]
配合を表1に示す以外は、実施例1と同様に行なった。結果を表1に示す。タルクの添加量が過少の場合には、線膨張係数の改良効果が少ない。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物製パイプは、機械物性バランス、パイプ内面の平滑性、低線膨張係数を有し、ポリプロピレン樹脂の特徴である耐薬品性、耐熱性等が要求される化学プラントパイプ、給湯用パイプ、空調パイプ等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン樹脂60〜90重量%、(b)ビニル芳香族炭化水素が10〜50重量%で、共役ジエンの30〜70%がビニル結合である非水添エラストマーを水素添加した水添エラストマー2〜20重量%および(c)平均粒径が0.5μm〜10μmの板状フィラー5〜30重量%からなり、線膨張係数が5×10−5〜12×10−5/℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂組成物製パイプ。(但し、成分(a)+成分(b)+成分(c)=100重量%。)
【請求項2】
230℃、2.16kg荷重でのメルトフローレートが0.1〜20g/10分、動的粘弾性スペクトルにおいて損失正接(tanδ)のピークが−32℃以下にある水添エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物製パイプ。
【請求項3】
板状フィラーが、タルクおよび/又はマイカであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂組成物製パイプ

【公開番号】特開2006−194318(P2006−194318A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5286(P2005−5286)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】