説明

ポリプロピレン繊維

【課題】高度な耐候性を有するポリプロピレン系繊維(以下PP繊維)を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)20〜50質量部と、アルキル基の炭素数が4〜13であるアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体(b)50〜80質量部と単量体(a)、(b)以外の単量体(c)を0〜5質量部からなる不飽和単量体混合物(ただし、単量体(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)を重合することで得られる共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなるPP繊維。(R、YはH又はアルキル基等、XはH又はイミノ基、ZはH又はシアノ基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐候性に優れた合成繊維に関するものであり、より詳しくは従来のポリプロピレン系繊維に比べ飛躍的に耐候性能を高めたポリプロピレン系繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリプロピレン系繊維は、比重が軽く、耐薬品性に優れるなどの理由から、産業資材用や衣料用途に使用されている。しかしながら、ポリプロピレン系繊維は、本質的に熱や光に対して劣化を受け易い問題点がある。特に洗濯や乾燥、さらには有機溶剤を使用したドライクリーニングなどの処理が繰り返される衣料用途においては、耐候性が著しく低下し、場合によっては酸化発熱による発火事故に至るケースもあった。このため、ポリプロピレン系繊維の耐候性能を向上させるための検討は古くからなされており、各種安定剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料、ヒンダードアミン型光安定剤(HALS)及び酸化防止剤を添加したポリプロピレン系繊維の表面にリン系化合物を付着させて耐熱耐光安定性を向上させたカーペット用ポリプロピレン系繊維が提案されているが、衣料用として使用される場合には、洗濯等の処理により表面付着安定成分が剥離するため、長期に亘る耐候性能を保持できない問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、特定の構造を有する安定剤を添加したポリプロピレン系繊維は高い安定性を有することが提案されているが、自動車天井材に使用されるものであり、特にドライクリーニング等による安定成分の溶出により、耐候性能が保持できない問題があった。さらに、特許文献3では、プロピレン/エチレンランダムコポリマーにHALSを添加したポリプロピレン系繊維は非常に高い耐候性能を有することが提案されているが、この技術においても光安定剤成分の溶出は抑えられず、長期に亘る耐候性能には問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平3−14672号公報
【特許文献2】特開平10−183453号公報
【特許文献3】特開2002−61020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、高度な耐候性を有するポリプロピレン系繊維(以下PP繊維)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を持つ単量体を特定の比率の範囲内で混合した単量体混合物を重合して得られる共重合体をPP繊維原料に添加して樹脂組成物を調製し、これを紡糸したPP繊維は極めて高い耐候性を発現することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明のPP繊維は、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)10〜50質量部と、アルキル基の炭素数が4〜13であるアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体(b)50〜90質量部と単量体(a)、(b)以外の単量体(c)を0〜20質量部からなる不飽和単量体混合物(ただし、単量体(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなるPP繊維である。
【0009】
【化1】

【0010】
(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来にない高い耐候性を有するPP繊維を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のPP繊維は、上記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)20〜50質量部と、アルキル基の炭素数が4〜13であるアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体(b)50〜80質量部と、前記単量体(a)及び(b)以外の単量体(c)0〜5質量部(但し、単量体(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなるPP繊維である。
【0013】
本発明のPP繊維は、PP繊維の耐候性と糸物性保持の点から、共重合体(A)の重合時の全単量体量(単量体(a)、(b)、(c)の合計量、以下同じ)を100質量部としたとき、一般式(I)で表される単量体(a)の量が10〜50質量部である共重合体(A)を添加する必要がある。単量体(a)の含有量が10質量部以上であれば、十分な耐候性能を付与する為の添加量を少量に抑えることができ、糸物性低下の度合いが低く抑制できる。また、単量体(a)の含有量が50質量部を超えると、共重合体(A)を所定量添加しても十分な耐候性が得られない場合がある。好ましい含有量は20〜50質量部、更に好ましくは30〜50質量部でである。
【0014】
単量体(a)としては、紫外線安定化機能(ラジカル捕捉機能)を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
また、本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)は、PP繊維の耐候性及び糸物性低下抑制の点から、アルキル基の炭素数が4〜13であるアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体(b)を選択し、その含有量を50〜90質量部の範囲とする必要がある。単量体(b)として上記単量体を選択した場合、PP繊維基材との相溶性が確保でき、十分な耐候性能が得られる。単量体(b)の含有量が上記範囲から外れると、結果として単量体(a)の含有量が好適な範囲から外れることになり好ましくない。単量体(b)の溶解度パラメーター(Sp値)は特に規定しないが、FedorsのSp値で20.10((J/cm1/2)以下であることが好ましい。この値より低ければ、上記含有量の範囲内であれば、PP繊維基材との良好な相溶性が得られ、PP繊維の高耐候性が保持できる。
【0016】
単量体(b)としては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタアクリレート)、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロロスチレン等が挙げられる。これらの単量体の中でもPP繊維基材樹脂との相溶性の点からp−t−ブチルシクロヘキシルアクリレートが最も好ましい。上記単量体(b)は単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
また、本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)は、必要に応じて単量体(a)、(b)以外の単量体(c)を含有しても良いが、その含有量は20質量部以下であることが必要である。単量体(c)の含有量が20質量部以下であれば、PP繊維基材樹脂との相溶性の低下レベルは軽微である。単量体(c)の含有量としては5質量部以下であることが好ましく、更には3質量部以下がより好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0018】
単量体(c)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、メチル(エタ)アクリレート、エチル(エタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、酢酸ビニル、ビニルエーテル、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチルなどが挙げられる。
【0019】
また、本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)の重量平均分子量(以下、Mw)は特に規定されないが、PP繊維の耐候性及び糸物性保持の点から、Mwが5,000〜50,000の範囲であることが好ましい。Mwが5,000以上であれば、共重合体(A)の糸からの経時的な溶出を抑えることができ、長期に亘る耐候性能を発現できる。また、Mwが50,000以下であれば各種糸物性を低下させない。Mwとして、5,000〜40,000がより好ましい。
【0020】
Mwを調整する方法は特に規定しないが、開始剤量の調整による方法のほか、連鎖移動剤を用いるのも有効な手段である。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いればよい。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させれば良い。上記連鎖移動剤は、単独、若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合法にて重合できる。共重合体(A)を溶液重合法にて重合する際の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、その他の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等、公知の有機溶剤を使用すれば良い。これらは1種のみを使用しても2種以上を混合して使用しても良い。また、共重合体(A)を乳化重合にて重合する際の乳化剤としては、従来より知られる各種のアニオン性、又はノニオン性の乳化剤、高分子乳化剤さらに分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤等が挙げられる。乳化剤としては、日本乳化剤社製商品名「ニューコール560SF」、「同562SF」、「同707SF」、「同707SN」、「同714SF」、「同723SF」、「同740SF」、「同2308SF」、「同2320SN」、「同1305SN」、「同271A」、「同271NH」、「同210」、「同220」、「同RA331」、「同RA332」、花王社製商品名「ラテムルB−118E」、「レベノールWZ」、「ネオペレックスG15」、第一工業製薬社製商品名「ハイテノールN08」などの如きアニオン性乳化剤、例えば三洋化成工業社製商品名「ノニポール200」、「ニューポールPE−68」などの如きノニオン性乳化剤等が挙げられる。
【0022】
高分子乳化剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。反応性乳化剤としては、例えば日本乳化剤社製商品名「Antox MS−60」、「同MS−2N」、三洋化成工業社製商品名「エレミノールJS−2」、花王社製「ラテムルS−120」、「同S−180」、「同S−180A」、「同PD−104」、(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」等の反応性アニオン性乳化剤、例えば(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。尚、本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)を構成する不飽和単量体には、反応性乳化剤は含まないものとする。
【0023】
各種重合法によって重合された共重合体(A)は、各々の重合法に適した方法で回収すれば良い。例えば、乳化重合にて重合せしめた場合は、スプレードライ法、塩析凝固法、遠心分離法、凍結乾燥法等の方法で樹脂分を回収すれば良い。スプレードライ法による固形分回収法としては、乳化重合した水性樹脂組成物をスプレードライヤーにて、入り口温度:120〜220℃、出口温度:40〜90℃にて噴霧乾燥し、粉末回収することができる。出口温度として40〜80℃が回収2次粒子の1次粒子への解砕性の点で好ましく、40〜70℃が特に好ましい。また、凝固法による回収法としては、水性樹脂組成物を30〜60℃で凝固剤に接触させ、攪拌しながら凝析させてスラリーとし、脱水乾燥して粉末回収できる。凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸類、蟻酸、酢酸等の有機酸類、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム等の有機塩類等を挙げることができる。また、溶液重合にて重合せしめた場合においては、再沈殿法、溶媒揮発除去法等の方法で回収すればよい。これらの重合法のうち、樹脂分の回収法の簡便性、回収樹脂分のハンドリング性などの点から乳化重合法が最も好ましい。
【0024】
本発明のPP繊維に含まれる共重合体(A)は、単量体(a)、(b)、(c)を用い、ラジカル性重合開始剤を用いて重合することができる。重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。また、乳化重合法にて重合を行う場合には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0025】
共重合体(A)は、同一組成の樹脂を単独で使用しても、組成の異なる樹脂を2つ以上組み合わせて使用しても良い。
【0026】
また、本発明のPP繊維は高度な機能を付与する為に、顔料等を添加できる。配合できる有機顔料としては、例えば、β−ナフトール系化合物等のアゾレーキ顔料、フタロシアニン系顔料、塩基性染料レーキ及び酸性染料レーキ等のレーキ顔料、又は蛍光顔料、金属塩系顔料等が挙げられ、無機系顔料としてはクロム酸塩、硫化物、酸化物、珪酸塩、燐酸塩、シアン化物、金属酸化物、水酸化物及びカーボンブラック等が挙げられる。これらの顔料は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。また、繊維の風合いや後工程を改善するために、酸化チタン、シリカ、又はカオリン等の粒子を製糸性が阻害されない範囲で添加しても良い。
【0027】
本発明のPP繊維を得るための工程は特に規定されないが、共重合体(A)とPP繊維基材用樹脂の混合物を、以下に示すような一般的な溶融紡糸工程及び延伸工程を用いればよい。溶融紡糸工程では、まず、紡糸口金から溶融紡糸した未延伸糸を一旦巻き取ったのち延伸を行うか、巻き取ることなく連続的に延伸する。延伸工程は1段又は2段以上の多段であってもよく、また、接触型、非接触型のいずれの熱源を用いても良い。延伸倍率についても、溶融紡糸されたフィラメントの破断伸度の範囲内で任意に設定すればよい。さらに、繊度及びフィラメント数についても、任意に設定してよい。繊維の断面形状についても円形、楕円形、三角形、四角形、トリローバル形等、任意に設定すれば良い。尚、PP繊維を紡糸後、共重合体(A)を含む溶液や乳化分散体を繊維表面にコーティングするような方法では、十分な耐候性が付与できないため、好ましくない。
【0028】
PP繊維中の共重合体(A)の含有量は、所望の特性が得られる量とすればよいが、好ましくは、共重合体(A)が0.1〜5質量%含まれるように共重合体(A)とPP繊維基材用樹脂との混合物(樹脂組成物)を調製し、PP繊維を紡糸すればよい。特に良好な耐候性を得るために、共重合体(A)中のHALS成分である単量体(a)のPP繊維中の含有量が0.05〜1質量%、より好ましくは0.1〜1質量%となるように樹脂組成物を調製するのが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。尚、以下の記載において「部」は質量基準である。
【0030】
<マスターバッチの作成>
ベース樹脂としてPP樹脂「Y2000GV」(商品名、プライムポリマー(株)製)を用い、表−1記載の安定剤をHALS成分濃度が2.0質量%となるよう添加し、二軸押出機にて混練し、マスターバッチを得た。押出温度としては220℃である。
【0031】
<耐候性試験>
表−1記載の割合にて配合・紡糸した試験糸を、評価装置「紫外線ロングライフフェードメーター FAL5B」(商品名、スガ試験機(株)製)を用い、ブラックパネル温度:63℃、湿度:50%RHの条件にて1000時間経過後の強度保持率および伸度保持率を耐候性の指標とした。
【0032】
<強伸度保持率測定>
表−1記載の試験糸について、耐候試験前後の強度を「テンシロン UCT1T」(商品名、(株)エー・アンド・ディ製)を用いて、20℃・65%RHの環境下で、引張速度50%/minの条件にて測定し、以下の基準にて判定した。
【0033】
(強度保持率)
○:63%以上
×:63%未満
【0034】
(伸度保持率測定)
○:18%以上
×:18%未満
【0035】
<実施例>
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプおよび窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部、続いて28質量%アンモニア水溶液0.2部と表−1に示す割合で配合された乳化物のうちの5質量%を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を5部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物の残り95質量%を内温75℃で4時間かけて滴下し、さらに内温75℃のまま2時間熟成することで乳化重合を行い、共重合体乳化分散体を形成した。
【0036】
室温に冷却した共重合体乳化分散体を、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入り口温度170℃、出口温度60℃、アトマイザー回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、樹脂改質材(α)として固体回収した。共重合体(A)をベースPP樹脂「Y2000GV」(商品名、プライムポリマー(株)製)に対し、HALS成分(単量体(a))の濃度が2.0質量%となるよう添加し、二軸押出機にて220℃の押出温度で混練し、マスターバッチを得た。上記マスターバッチを上記と同じベースPP樹脂に添加し、HALS成分(単量体(a))の濃度が0.5質量%となるように紡糸原液を調製した後、溶融紡糸機の30φ一軸押出機に投入した。押出機温度は220℃、紡糸ノズル温度を220℃とし、ホール径が0.5mmφ、ホール数30である紡糸ノズルより吐出量17.4g/minでポリマーを吐出し、巻取速度400m/minで巻取り未延伸糸を得た。上記未延伸糸をローラー温度80℃で最終延伸速度400m/minにて3.2倍に延伸を行い、繊度:136dtex、強度:4.58cN/dtex、伸度:72%のポリプロピレン繊維を得た。
【0037】
(実施例2〜4、比較例2)
実施例1と同様な方法で、表−1記載の組成にて乳化重合・スプレードライ回収し、共重合体(A)を得た。マスターバッチ作成、紡糸についても実施例1同様に、表−1記載の比率にて実施した。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様な方法で、表−1記載の組成にて乳化重合・スプレードライ回収し、樹脂組成物(A)を得た。マスターバッチ作成後、実施例1同様の方法で紡糸を実施したところ、他の試験糸に比べて著しく強度及び伸度が低位であり、繊維として十分な機能を果たせないと判断されたため試験を中止した。
【0039】
(比較例3)
実施例1と同様な方法で、表−1記載の組成にて乳化重合・スプレードライ回収し、樹脂組成物(A)を得た。マスターバッチ作成後、実施例1同様の方法で紡糸を実施したところ、他の試験糸に比べて強度及び伸度が低位であった。本試験糸を耐候性試験に供したところ、試験時間500時間にて糸切れが発生したため、試験を中止し、強度、伸度共に「×」の判定とした。
【0040】
(比較例4)
実施例1にて重合した乳化分散体中に安定剤成分を含有しないPP繊維を3分間浸漬後、105℃で10分間加熱処理した。このような処理により繊維表面に安定化機能を有する共重合体(A)をコーティングできたものと判断し、耐候性試験に供した。
【0041】
(比較例5)
安定剤として「キマソーブ119FL」(商品名:チバスペシャリティーケミカルズ社製)を用い、実施例1同様の方法でマスターバッチの作成及び紡糸を実施した。
【0042】
【表1】

【0043】
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−1,2>,2>,6,6−ペンタメチルピペリジン
HALS2:4−メタクリロイルオキシ−2,2>,6>,6−テトラメチルピペリジン
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
St:スチレン
t−BCHA:ターシャリーブチルシクロヘキシルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
MA:メチルアクリレート
nDM:ノルマルドデシルメルカプタン
乳化剤1:「アデカリアソープSR−10」(商品名、(株)ADEKA製)
HALS3:「キマソーブ119」(商品名、チバスペシャリティーケミカルズ社製)
【0044】
表−1から分かるように、本実施例のPP繊維は優れた耐候性を示した。一方、比較例1〜3記載のPP繊維は、ベースPP樹脂に添加する共重合体(A)が、本発明に規定する特定の組成範囲に入っていないものであり、十分な耐候性が得られなかった。比較例4では、PP繊維表面に共重合体(A)をコーティングしただけであり、十分な耐候性が得られなかった。公知の光安定剤を配合した比較例5も、十分な耐候性が得られなかった。したがって、本発明のPP繊維は長期に亘る性能保持可能なPP繊維として極めて有用であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のPP繊維は、自動車内装用、カーペット用、衣料用等に使用することができ、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)10〜50質量部と、アルキル基の炭素数が4〜13であるアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体(b)50〜90質量部と単量体(a)、(b)以外の単量体(c)を0〜20質量部からなる不飽和単量体混合物(ただし、単量体(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)を重合することで得られる共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなるポリプロピレン系繊維。
【化1】

(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【請求項2】
前記樹脂組成物中の共重合体(A)の含有量が、0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン系繊維。

【公開番号】特開2008−127728(P2008−127728A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317036(P2006−317036)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】